説明

直線運動装置

【課題】ガイド軸部とナット部材との摺動部分に負荷転動体を介在させてこれらの相対移動をスムーズに行うことができるとともに、ナット部材の成形を簡単に行うことができる直線運動装置を提供する。
【解決手段】軸線に沿って延びるガイド軸部11と、このガイド軸部11に沿って相対移動可能なナット部材14と、を備えた直線運動装置10であって、ガイド軸部11の外周面には、転動体転走溝12が形成され、ナット部材14には、ナット本体15と、ナット本体15に収容される回転摺動部材17とが設けられ、回転摺動部材17は、ナット本体15に固定される固定部と表面に環状溝が形成された回転部とを備え、これら固定部及び回転部とが相対的に回動可能に構成されており、環状溝の一部が転動体転走溝12に対向するように配置され、環状溝と転動体転走溝12との間に負荷転動体が配設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばボールねじ、ボールスプライン等のガイド軸部に沿って相対移動するナット部材を備えた直線運動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械、半導体製造装置及び射出成形機等の機械設備においては、ワークやツールを精度よく送り移動させるために、ボールねじやボールスプライン等の直線運動装置が用いられている。
このような直線運動装置は、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように、外周面に転動体転走溝が形成されたガイド軸と、内周面に前記転動体転走溝に対向するように転走溝が形成されたナット部材と、前記転動体転走溝及び前記転走溝の間に配設された負荷転動体とを備えており、負荷転動体が前記転動体転走溝と前記転走溝との間で転動しながら移動することで、ナット部材がガイド軸部に沿って相対移動する構成とされている。このような構成の直線運動装置においては、ナット部材がガイド軸部に対して相対移動する際の摺動抵抗が負荷転動体の転がり抵抗となり、ナット部材及びガイド部材との相対移動をスムーズに行うことができるものである。
【0003】
ここで、負荷転動体は、ナット部材の移動に伴って前記転動体転走溝と前記転走溝との間で転動しながら移動することになり、ナット部材に対する相対位置が変化していくことになる。よって、従来の直線運動装置においては、ナット部材またはガイド軸部に負荷転動体を循環させるための循環機構が設けられている。
【特許文献1】特開2005−201347号公報
【特許文献2】特開2002−021968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているようにナット部材内部に循環経路を形成するためには、内周側に設けられた転走溝に連通するとともにナット部材の外周側に抜ける連絡孔を形成する必要があり、加工が非常に複雑であった。
また、特許文献2に記載されているようにガイド軸部内部に循環経路を形成するためには、ガイド軸部の外周面に転動体転走溝を形成するとともにこの転動体転走溝に連通する連絡孔を形成する必要があり、ガイド軸部の加工が非常に複雑であった。
さらに、従来の直線運動装置では、ナット部材の内周面にも転動体転走溝に対向する転走溝を形成するために、ナット部材に内径加工を施す必要があった。
このように、従来の直線運動装置においては、ナット部材の加工コストが高くなってしまうといった問題があった。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、ガイド軸部とナット部材との摺動部分に負荷転動体を介在させてこれらの相対移動をスムーズに行うことができるとともに、ナット部材の成形を簡単に行うことが可能な直線運動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明に係る直線運動装置は、軸線に沿って延びるガイド軸部と、このガイド軸部に沿って相対移動可能なナット部材と、を備えた直線運動装置であって、前記ガイド軸部の外周面には、転動体転走溝が形成され、前記ナット部材には、ナット本体と、このナット本体に収容される回転摺動部材とが設けられ、該回転摺動部材は、前記ナット本体に固定される固定部と表面に環状溝が形成された回転部とを備え、これら固定部及び回転部とが相対的に回動可能な構成とされており、前記環状溝の一部が前記転動体転走溝に対向するように配置され、前記環状溝と前記転動体転走溝との間に負荷転動体が配設されていることを特徴としている。
【0007】
この構成の直線運動装置においては、ナット本体に環状溝を有する回転摺動部材が収容されており、この環状溝の一部がガイド軸部の外周面に形成された転動体転走溝に対向配置され、これら転動体転走溝と環状溝との間に負荷転動体が配設されているので、ナット部材がガイド軸部に沿って移動する際には、転動体転走溝に沿って負荷転動体が転動するとともに、この負荷転動体の転動に伴って環状溝が設けられた回転摺動部材の回転部が回転することになる。よって、負荷転動体はナット部材に対する相対位置が変化することなく転動することになり、ナット部材やガイド軸部の内部に負荷転動体の循環経路を設ける必要がない。また、回転摺動部材に環状溝が形成され、この環状溝の一部がガイド軸部の転動体転走溝に対向配置されているので、ナット部材の内周面に内径加工を行う必要がない。よって、ナット部材を簡単な加工で成形することが可能となる。
【0008】
ここで、前記回転摺動部材を、前記固定部と前記回転部との間に複数の摺動ボールが介在され、該摺動ボールの転動により前記固定部と前記回転部とが相対的に回動可能とされたボールベアリングとすることが好ましい。
この場合、環状溝が形成された回転部とナット本体に固定された固定部との摺動抵抗が摺動ボールのころがり抵抗となり、ナット部材を相対移動する際の抵抗を小さくすることが可能となる。
【0009】
さらに、ボールベアリングとしてスラストベアリングを使用してもよい。
この場合、汎用のスラストベアリングを利用できるので、直線運動装置の加工コストを大幅に低減することができる。
【0010】
また、回転摺動部材としてボールベアリングを用いた場合には、前記環状溝を、前記ボールベアリングの前記摺動ボールの環状軌道よりも径方向内方に位置させることが好ましい。
このような構成とすることにより、負荷転動体に負荷が作用した場合でも、環状溝が形成された回転部をボールベアリングの摺動ボールによって径方向内側に向けて支持することができる。
【0011】
さらに、前記ナット部材を前記軸線方向に複数連結させてもよい。
この場合、連結されたナット部材にそれぞれ負荷転動体が配設されているので、負荷転動体の数が増加し、比較的大きな負荷を作用させてもナット部材をスムーズに移動させることが可能となる。なお、このナット部材の個数は、ナット部材に作用する負荷量を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0012】
そして、前記ガイド軸部の外周面に形成された前記転動体転走溝を、前記ガイド軸部の前記軸線に対してらせん状にねじれるらせん溝としてもよい。
この場合、ナット部材がガイド軸部の軸線を中心として回動するとともに軸線に沿って移動する、いわゆるボールねじを構成することができる。
【0013】
また、前記ガイド軸部の外周面に形成された前記転動体転走溝を、前記ガイド軸部の前記軸線に沿って延びる直線溝としてもよい。
この場合、ナット部材がガイド軸部の軸線の軸線に沿って直線的に移動するとともに、ナット部材に作用する回転トルクを負荷転動体と転動体転走溝とで受ける、いわゆるボールスプラインを構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガイド軸部とナット部材との摺動部分に負荷転動体を介在させてこれらの相対移動をスムーズに行うことができるとともに、ナット部材の成形を簡単に行うことが可能な直線運動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の第1の実施形態である直線運動装置としてのボールねじについて添付した図面を参照して説明する。
図1から図4に、本発明の第1の実施形態であるボールねじ10を示す。このボールねじ10は、軸線Lに沿って延びるガイド軸部11と、このガイド軸部11が嵌入される内周孔を備えたナット部材14と、を備えている。
【0016】
ガイド軸部11は、図1及び図2に示すように概略円柱状をなしており、その外周面にボール転走溝12が形成されている。本実施形態においては、ボール転走溝12は軸線Lに対してらせん状にねじれる1条のらせん溝とされている。
【0017】
ナット部材14は、前記ガイド軸部11を嵌入可能な内周面を有する円筒状をなしている。本実施形態においては、3つのナット部材14が軸線L方向に配設され、両端部に設けられた一対の固定リング13により連結されている。これにより、3つのナット部材14が一体となって移動するように構成されている。なお、この固定リング13は、後述する負荷ボール23を回転自在に保持するケージをナット部材14に対して固定するためのものである。
【0018】
また、ナット部材14は、ナット本体15と、このナット本体15に収容される回転摺動部材17とを備えている。ナット本体15は、図6に示すように概略円筒状をなし、径方向に延びる少なくとも2以上の貫通孔16が形成されている。この貫通孔16は、径方向外方部分は断面円形をなし、径方向内方部分はナット本体15の厚さ方向に延びる概略矩形状に開口させられている。なお、本実施形態では、図6に示すように、3つの貫通孔16が周方向に120°間隔に形成されている。
【0019】
回転摺動部材17は、図7及び図8に示すように、前記貫通孔16に挿入可能な円板状をなす固定部18と、固定部18と略同一形状とされた回転部19とを備え、これら固定部18と回転部19との間に複数の摺動ボール20が介在されており、これらの摺動ボール20が環状軌道21を転動することによって固定部18と回転部19とが相対的に回動する構成とされている。つまり、本実施形態においては、回転摺動部材17としていわゆるスラストベアリングが用いられているのである。
円板状をなす回転部19の前記固定部18とは反対側を向く表面には、環状溝22が形成されている。この環状溝22は、回転部19の回転中心を中心として形成されている。なお、この環状溝22は、前記摺動ボール20の環状軌道21よりも径方向内方に位置させられている。
【0020】
このような回転摺動部材17は、ナット本体15の貫通孔16にそれぞれ挿入され、ナット本体15の内周面に回転部19の環状溝22の開口部が向けられるように配置される。ここで、前記環状溝22の一部が、ナット本体15の内周孔に嵌入されたガイド軸部11のボール転走溝12に対して対向するように配置される。なお、本実施形態では、このように配置された回転摺動部材17は、固定部18がナット本体15と螺合等することにより、ナット本体15に対して着脱可能に固定されている。このようにして回転摺動部材17が、図3に示すように、周方向に120°間隔に配置されることになる。
【0021】
そして、回転摺動部材17の環状溝22の一部とガイド軸部11のボール転走溝12とが対向配置された部分に、回転摺動部材17の摺動ボール20よりも一段大径とされた負荷ボール23が配設されている。一つの回転摺動部材17に対して一つの負荷ボール23が配設されており、一つのナット部材14においては、3つの負荷ボール23が周方向に120°で等間隔に配設されている。
さらに、3つのナット部材14が連結されているので、連結されて一体に移動する3つのナット部材14とガイド軸部11との間に、9つの負荷ボール23が配設されることになる。
【0022】
このような構成とされたボールねじ10は、連結された3つのナット部材14がガイド軸部11の軸線Lを中心として回転すると、負荷ボール23が転動してボール転走溝12に沿って移動し、ナット部材14自体がガイド軸部11の軸線L方向に移動することになる。このとき、負荷ボール23の転動に伴って環状溝22が設けられた回転摺動部材17の回転部19が回転する。こうして、負荷ボール23は、ナット部材14に対する相対位置が変化することなくガイド軸部11のボール転走溝12に沿って転動することになる。
【0023】
ここで、環状溝22の一部とボール転走溝12とが対向配置された部分においては、ボール転走溝12の延びる方向と環状溝22が延びる方向とが一致していないため、負荷ボール23は環状溝22及びボール転走溝12に対して僅かにすべりながら転動することになる。つまり、このボールねじ10においては、負荷ボール23はボール転走溝12および環状溝22に対して、半転がり半すべりしながら移動することになる。
これに対して、図5に示すように回転摺動部材17の位置を軸線Lからオフセットさせると、ボール転走溝12の延びる方向(負荷ボール23が転がる方向)と環状溝22の接線方向とが一致するため、負荷ボール23が転がりやすくなる。なお、回転摺動部材17の位置を軸線Lからオフセットさせる場合には、ナット部材14の外径を大きくする必要があるので、回転摺動部材17の大きさやボール転走溝12のリード角等を考慮して設計することが望ましい。
【0024】
本実施形態であるボールねじ10によれば、負荷ボール23はナット部材14に対する相対位置が変化することなくガイド軸部11のボール転走溝12に沿って転動することでナット部材14をガイド軸部11に沿って移動可能とされているので、ガイド軸部11やナット部材14に負荷ボール23の循環経路を形成する必要がない。よって、ガイド軸部11には、その外周面に軸線Lに対してらせん状にねじれるボール転走溝12を形成するのみであり、加工が非常に簡単である。また、回転摺動部材17の回転部19の表面に環状溝22を形成しておき、これを前記ボール転走溝12に対して対向するように配置することで負荷ボール23をボール転走溝12と環状溝22との間に配設することが可能となる。さらに、ナット本体15の加工についても貫通孔16を形成するのみであり、加工が簡単である。このように、ガイド軸部11及びナット部材14に対して簡単な加工を行うことで、ボールねじ10を低コストで製作することが可能となる。
【0025】
また、前記回転摺動部材17が、複数の摺動ボール20を備えたいわゆるスラストベアリングとされているので、環状溝22が形成された回転部19とナット本体15に固定された固定部18との摺動抵抗が、摺動ボール20の転がり抵抗となって小さく抑えられて回転部19の摺動をスムーズに行うことができる。よって、ボールねじ10においてナット部材14を移動させる際の抵抗を小さくすることができる。
【0026】
さらに、回転部19に形成された環状溝22が、摺動ボール20の環状軌道21よりも径方向内方に位置させられているので、負荷ボール23が負荷によって押圧された場合でも、環状溝22が形成された回転部19を摺動ボール20によって径方向内方に向けて支持することが可能となり、負荷ボール23と環状溝22との摺動をスムーズに行うことができる。
また、ナット部材14が軸線L方向に複数(本実施形態では3つ)連結されているので、ガイド軸部11との間に介在される負荷ボール23の数が9つになり、ナット部材14に比較的大きな負荷を作用させてもスムーズに移動させることが可能となる。
【0027】
さらに、本実施形態においては、ナット部材14において3つの負荷ボール23が周方向に120°等間隔に配設されているので、ナット部材14に軸線Lに交差する方向に負荷が作用した場合でも、ナット部材14とガイド軸部11とを同心状に配置した状態で維持することができ、ナット部材14の移動をよりスムーズに行うことができる。
【0028】
また、回転摺動部材17がナット本体15に対して着脱可能に固定されているので、使用によって負荷ボール23が摩耗した場合には、回転摺動部材17を取り出して負荷ボール23のみを交換することが可能となる。また、使用により環状溝22が摩耗した場合には、回転摺動部材17であるスラストベアリングを交換することでボールねじ10を継続して使用することができる。
【0029】
また、負荷ボール23がそれぞれ回転摺動部材17によって支持されているので、ナット部材14の厚さ方向(軸線L方向)における負荷ボール23の位置をそれぞれの回転摺動部材17によって調整することができる。よって、ガイド軸部11のボール転走溝12のリード角を変更した場合でも、それぞれ負荷ボール23をボール転走溝12と環状溝22との間に確実に配置することができる。
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態である直線運動装置としてのボールスプラインについて説明する。図9に、第2の実施形態であるボールスプライン30を示す。このボールスプライン30においては、軸線Lに沿って延びるガイド軸部31とこのガイド軸部31が嵌入される内周孔を備えたナット部材34とを備えている。ガイド軸部31は、概略円柱状とされ、ガイド軸部31外周面にボール転走溝32が形成されている。本実施形態においては、ボール転走溝32は、軸線Lに沿って延びる直線溝とされており、周方向に120°間隔に3条のボール転走溝32が形成されている。
【0031】
ナット部材34は、ガイド軸部31を嵌入可能な内周面を有する円筒状をなすナット本体35と、このナット本体35に収容される回転摺動部材37とを備えている。本実施形態においては、一つのナット本体35に、径方向に延びる貫通孔36が一つ形成されており、この貫通孔36に回転摺動部材37が挿入されて固定されている。このようなナット部材34が、軸線L方向に3つ配設され、両端部に設けられた一対の固定リング33により連結されている。これにより、3つのナット部材34が一体となって移動するように構成されている。ここで、3つのナット部材34は、それぞれに備えられた回転摺動部材37が周方向に120°間隔となるようにナット部材34同士の相対角度が調整されて配置されている。
【0032】
また、回転摺動部材37として、第1の実施形態と同様にスラストベアリングが用いられており、回転摺動部材37の回転部に環状溝が形成され、環状溝の一部がボール転走溝32に対向するように配置され、環状溝とボール転走溝32との間に負荷ボールが配設されている。
【0033】
このような構成とされたボールスプライン30においては、連結された3つのナット部材34は、負荷ボールが転動してボール転走溝32に沿って移動するとともに、ナット部材34がガイド軸部31の軸線L方向に移動することになる。このとき、負荷ボールの転動に伴って環状溝が設けられた回転摺動部材37の回転部が回転する。こうして、負荷ボールはナット部材34に対する相対位置が変化することなくガイド軸部31のボール転走溝32に沿って転動することになる。また、このナット部材34に回転トルクが作用した場合には、負荷ボールとボール転走溝32及び環状溝との係合により、ナット部材34の回転が防止される。
【0034】
本実施形態であるボールスプライン30によれば、第1の実施形態と同様に、負荷ボールがナット部材34に対する相対位置が変化することなくガイド軸部31のボール転走溝32に沿って転動することでナット部材34がガイド軸部31に沿って移動可能とされているので、ガイド軸部31やナット部材34に負荷ボールの循環経路を形成する必要がなく、ボールスプライン30を低コストで製造することができる。
【0035】
また、本実施形態では、一つのナット部材34に一つの回転摺動部材37が備えられているので、回転摺動部材37の径を大きくして、回転部の環状溝の半径を比較的大きくすることが可能となる。よって、環状溝の延びる方向とボール転走溝32の延びる方向との差が小さくなり、負荷ボールのすべりを少なく抑えることができ、ナット部材34の移動をスムーズに行うことができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態である直線運動装置であるボールねじ及びボールスプラインについて説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
3つのナット部材を軸線L方向に連結したもので説明したが、これに限定されることはなく、例えば、図10に示すように一つのナット部材のみを備えたものとしてもよい。ナット部材の連結数を増やすことにより負荷ボール(負荷転動体)の数を調整できるので、ナット部材に作用する負荷量を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0037】
また、3つの負荷転動体をガイド軸部に対して周方向に120°間隔に配置したものとして説明したが、これに限定されることはなく、一体として移動するナット部材とガイド軸部との間に少なくとも2以上の負荷転動体が配設されていればよい。ただし、ボールねじの場合、ガイド軸部に対して回転しながら移動するため、周方向に3つの負荷転動体が配設されていることが好ましい。
さらに、第1の実施形態において、軸線に対してねじれる1条のボール転走溝(転動体転走溝)を形成したもので説明したが、転動体転走溝を複数条設けてもよい。
【0038】
また、直線運動装置として、ボールねじ及びボールスプラインを実施形態として説明したが、ガイドを構成することも可能である。
さらに、回転摺動部材として、スラストベアリングを用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、すべり軸受等を用いても良い。ただし、スラストベアリングを用いることにより、固定部と回転部との摺動が転がり抵抗となってナット部材をスムーズに移動させることができるので、本実施形態のような構成とすることが好ましい。
【0039】
また、回転摺動部材をナット本体に対して着脱可能に固定したものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばナット部材と回転摺動部材の回転部とをメタルボンドや樹脂等によって固定してもよい。ただし、回転摺動部材をナット本体に対して着脱可能に固定することにより、ボール材や環状溝が摩耗した際に、ボール材又は回転摺動部材を交換することで継続して使用することが可能となるため、本実施形態のような構成とすることが好ましい。
【0040】
また、図1では図示していないが、3つのナット部材を軸線方向に連結させ、円筒状のハウジングを被せてもよい。3つのナット部材を1つのナット部材として形成してもよい。
【実施例】
【0041】
さらに具体的な実施例を説明する。前述した第1の実施形態であるボールねじ10において、ガイド軸部11の外径を10mmとし、ガイド軸部11の外周面にリード角5°でねじれるボール転走溝12を形成した。ナット部材14の外径を20mmとし、一体となって移動する3つのナット部14材及び固定リング13の軸線L方向長さを43.9mmとした。ボール転走溝12と環状溝22との間に介在される負荷ボール23の径を2mmとした。
このような構成とされたボールねじ10の定格荷重を求めた。基本静定格荷重Cは、C=330N、基本動定格荷重Cは、C=975Nであった。荷重の大きさを考慮することで、ボールねじとして実用可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態であるボールねじの斜視図である。
【図2】図1に示すボールねじの側面図である。
【図3】図2におけるX−X断面図である。
【図4】図1のボールねじにおいて、ガイド軸部の転動体転走溝と負荷転動体と回転摺動部材の環状溝との位置関係を示す説明図である。
【図5】ガイド軸部の転動体転走溝と負荷転動体と回転摺動部材の環状溝との位置関係の他の例を示す説明図である。
【図6】ナット本体の斜視図である。
【図7】回転摺動部材を回転部から見た正面図である。
【図8】図7におけるY−Y断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるボールスプラインの斜視図である。
【図10】本発明の他の例であるボールねじの斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
10 ボールねじ(直線運動装置)
11、31 ガイド軸部
12、32 ボール転走溝(転動体転走溝)
14、34 ナット部材
15、35 ナット本体
16、36 貫通孔
17、37 回転摺動部材
18 固定部
19 回転部
20 摺動ボール
21 環状軌道(摺動ボールの軌道)
22 環状溝
23 負荷ボール(負荷転動体)
30 ボールスプライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びるガイド軸部と、このガイド軸部に沿って相対移動可能なナット部材と、を備えた直線運動装置であって、
前記ガイド軸部の外周面には、転動体転走溝が形成され、
前記ナット部材には、ナット本体と、このナット本体に収容される回転摺動部材とが設けられ、
該回転摺動部材は、前記ナット本体に固定される固定部と表面に環状溝が形成された回転部とを備え、これら固定部及び回転部とが相対的に回動可能な構成とされており、
前記環状溝の一部が前記転動体転走溝に対向するように配置され、前記環状溝と前記転動体転走溝との間に負荷転動体が配設されていることを特徴とする直線運動装置。
【請求項2】
前記回転摺動部材は、前記固定部と前記回転部との間に複数の摺動ボールが介在され、該摺動ボールの転動により前記固定部と前記回転部とが相対的に回動可能とされたボールベアリングであることを特徴とする請求項1に記載の直線運動装置。
【請求項3】
前記ボールベアリングが、スラストベアリングであることを特徴とする請求項2に記載の直線運動装置。
【請求項4】
前記環状溝は、前記ボールベアリングの前記摺動ボールの環状軌道よりも径方向内方に位置させられていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の直線運動装置。
【請求項5】
前記ナット部材が前記軸線方向に複数連結されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の直線運動装置。
【請求項6】
前記ガイド軸部の外周面に形成された前記転動体転走溝は、前記ガイド軸部の前記軸線に対してらせん状にねじれるらせん溝であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の直線運動装置。
【請求項7】
前記ガイド軸部の外周面に形成された前記転動体転走溝は、前記ガイド軸部の前記軸線に沿って延びる直線溝であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の直線運動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−232396(P2008−232396A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77048(P2007−77048)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】