説明

真円度測定装置及びその心ずれ量補正方法

【課題】測定物の母線と検出点とのずれ量である心ずれ量を算出して補正することにより、基準となる測定物の直径値とは異なる直径値を有する測定物であっても正確な直径値を算出する。
【解決手段】測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させ、測定物の真円度を測定する真円度測定装置において、基準測定物に対する前記検出器の検出方向と直交する方向に前記基準測定物を移動させる手段と、前記基準測定物を基準位置から前記検出器の検出方向と直交する方向に移動させたときの各位置における検出値の変化量に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器の前記基準測定物に対する検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する手段と、前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真円度測定装置及びその心ずれ量補正方法に係り、特に、真円度測定装置の検出器の測定子を測定物に当接させる検出点と測定物の母線とのずれを示す心ずれ量を算出して心ずれ量の補正をする機能を備えた真円度測定装置及びその心ずれ量補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、円筒物などの円形の物体の真円度を測定する真円度測定装置(真円度測定機)が知られている。この真円度測定装置は、例えば、円筒物などの円形の断面を有する測定物(ワーク)を回転可能な載置台の上に載置して、ワークの表面に先端子(測定子)を接触させ、ワークの回転に伴う先端子の変位を測定して検出することにより円形断面の外形形状を測定する。
【0003】
例えば、特許文献1には、真円度測定機において、円柱状ワークに対して第1の検出器の接触子を水平に、かつ直径方向に案内する水平腕と、この腕の先端に設けられて第1の検出器の接触子を直径の位置の2点に向かって接触可能とした第1の検出器の支持枠と、水平腕の水平移動量を検出する径読取りの第2の検出器とから構成される真円度測定機の直径測定装置が記載されている。この装置は、まずマスターピースを回転台の上にセットし、第1の検出器の接触子をマスターピースの右側面に当て、第2の検出器の読みを求め、次いで接触子をマスターピースの左側面に当てて、第2の検出器の読みを求め、これら第2の検出器の2つの読みからマスターの既知寸法によりこの装置の誤差値を算出しておく。そして、マスターの代わりにワークをセットし、同様にして直径寸法を測定して、誤差補正を行っている。
【0004】
また、特許文献2には、真円度測定機の原点情報取得及び測定物の表面形状を測定する検出器の校正を行う真円度測定機用基準治具であって、この基準治具は、回転テーブル上のXYテーブルの上面に取り外し可能に載置され、段付きの円板状に形成されたた台座と、台座の上段部にプローブ(検出器)の感度校正を可能とする校正マスターが設けられ、校正マスターの上方に、その最下面、最上面のX軸方向及び右側面、左側面のZ軸方向の測定可が可能なように配置された原点ボール(基準球)を備え、プローブの各姿勢におけるプローブに設けられたスタイラス(センサー)の位置ずれを求めて補正値とするものが記載されている。これは、真円度測定機用基準治具を測定物回転機構の上に載せ、真円度測定機の検出器のセンサーを基準球に接触させることで真円度測定機の原点情報を得るとともに、検出器のセンサーを校正マスターに関与させることで検出器の感度校正を行うようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−259211号公報
【特許文献2】特許第4163545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、真円度測定装置のテーブル上に測定物を載置して検出器の測定子を測定物に当接させて検出を行う際、測定物の母線と測定子を測定物に当接させる検出点とを一致させることが非常に難しく、従来基準となる測定物の直径値と異なる直径値の測定物については、正確な直径値を測定することができないという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みて成されたものであり、測定物の母線と検出点とのずれ量である心ずれ量を算出して補正することにより、基準となる測定物の直径値とは異なる直径値を有する測定物であっても正確な直径値を算出することのできる真円度測定装置及びその心ずれ量補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の真円度測定装置は、測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させ、測定物の真円度を測定する真円度測定装置において、基準測定物に対する前記検出器の検出方向と直交する方向に前記基準測定物を移動させる手段と、前記基準測定物を基準位置から前記検出器の検出方向と直交する方向に移動させたときの各位置における検出値の変化量に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器の前記基準測定物に対する検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する手段と、前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
これにより、測定物の母線と検出点とのずれ量である心ずれ量を算出して補正することにより、基準となる測定物の直径値とは異なる直径値を有する測定物であっても正確な直径値を算出することが可能となる。
【0010】
また、一つの実施態様として、前記心ずれ量を算出する手段は、前記検出値の変化量が最大となるときの、前記基準測定物の基準位置からの移動量を前記心ずれ量として算出することを特徴とすることが好ましい。
【0011】
また、同様に前記目的を達成するために、本発明の真円度測定装置は、測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させ、測定物の真円度を測定する真円度測定装置において、前記検出器を基準位置に置かれた基準測定物に対して接触させながら、検出方向と直交する方向に前記検出器を移動させたときの各位置における検出値に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器が現在接触している検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する手段と、前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
これにより、測定物の母線と検出点とのずれ量である心ずれ量を算出して補正することにより、基準となる測定物の直径値とは異なる直径値を有する測定物であっても正確な直径値を算出することが可能となる。
【0013】
また、一つの実施態様として、前記心ずれ量を算出する手段は、前記検出値が最大となるときの前記検出器の位置と、前記検出器が現在接触している位置との差分を前記心ずれ量として算出することを特徴とすることが好ましい。
【0014】
また、一つの実施態様として、前記測定物の中心とは、測定の際、前記検出器が接触する前記測定物の外周の点が形成する図形の最小二乗円の中心であることが好ましい。
【0015】
また、同様に前記目的を達成するために、本発明の真円度測定装置における心ずれ量補正方法は、測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させるようにして、基準測定物に対する前記検出器の検出方向と直交する方向に前記基準測定物を移動させて、前記基準測定物の各位置における検出値を検出する検出工程と、前記検出した検出値の変化量を算出する工程と、前記算出した変化量に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器の前記基準測定物に対する検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する工程と、前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
これにより、測定物の母線と検出点とのずれ量である心ずれ量を算出して補正することにより、基準となる測定物の直径値とは異なる直径値を有する測定物であっても正確な直径値を算出することが可能となる。
【0017】
また、一つの実施態様として、前記心ずれ量を算出する工程は、前記検出値の変化量が最大となるときの、前記基準測定物の基準位置からの移動量を前記心ずれ量として算出することが好ましい。
【0018】
また、同様に前記目的を達成するために、本発明の真円度測定装置における心ずれ量補正方法は、測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させるようにして、前記検出器を基準位置に置かれた基準測定物に対して接触させながら、検出方向と直交する方向に前記検出器を移動させたときの各位置における検出値を検出する検出工程と、前記検出した検出値に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器が現在接触している検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する工程と、前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する工程とを備えたことを特徴とする。
【0019】
これにより、測定物の母線と検出点とのずれ量である心ずれ量を算出して補正することにより、基準となる測定物の直径値とは異なる直径値を有する測定物であっても正確な直径値を算出することが可能となる。
【0020】
また、一つの実施態様として、前記心ずれ量を算出する工程は、前記検出値が最大となるときの前記検出器の位置と、前記検出器が現在接触している位置との差分を前記心ずれ量として算出することが好ましい。
【0021】
また、一つの実施態様として、前記測定物の中心とは、測定の際、前記検出器が接触する前記測定物の外周の点が形成する図形の最小二乗円の中心であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、測定物の母線と検出点とのずれ量である心ずれ量を算出して補正することにより、基準となる測定物の直径値とは異なる直径値を有する測定物であっても正確な直径値を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る真円度測定装置の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の真円度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】検出器回転形真円度測定装置の測定機本体の外観を示す斜視図である。
【図4】真円度測定装置で測定物の測定を行う際心ずれのない理想的な場合を示す平面図である。
【図5】真円度測定装置で測定物の測定を行う際心ずれがある場合を示す平面図である。
【図6】測定子に対して測定物を移動させて心ずれ量Yを測定する様子を示す平面図である。
【図7】測定物の移動量を横軸、先端球の変化量δを縦軸にとって示したグラフである。
【図8】測定物に対して測定子を移動させて心ずれ量Yを測定する様子を示す平面図である。
【図9】先端球の移動距離を横軸、各位置における測定値ξを縦軸にとったグラフである。
【図10】測定した半径の値を算出した心ずれ量Yを用いて補正する方法を示す平面図である。
【図11】測定物の外径あるいは内径を測定した値を心ずれ量で補正する場合を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る真円度測定装置及びその心ずれ量補正方法について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る真円度測定装置の外観を示す斜視図である。
【0026】
この真円度測定装置は、測定機本体と演算処理装置とから構成されており、図1には、真円度測定装置10の測定機本体11を示す。
【0027】
測定機本体11は、ベース(基台)14上に測定物(ここでは図示省略)を載置する載物台(XY/傾斜テーブル)12が設けられている。載物台(XY/傾斜テーブル)12は、X方向微動つまみ22及びY方向微動つまみ24を備えている。X方向微動つまみ22及びY方向微動つまみ24はそれぞれ載物台移動軸に連結しており、これらの微動つまみ22、24によって載物台12をX方向及びY方向に微動送りすることができ、載物台12の水平位置を微調整することができるようになっている。
【0028】
また、載物台12には、X方向傾斜つまみ25及びY方向傾斜つまみ23が設けられておりX方向及びY方向に傾斜調整がされるようになっている。
【0029】
また、載物台12の下部には回転機構15が設けられている。回転機構15は、載物台12を回転駆動することにより載物台12の上に載置された測定物を回転させるものである。
【0030】
またベース14上には上方に略垂直に延びるコラム(支柱)27が立設されており、コラム27にはスライダ28が上下動可能に装着されている。スライダ28には水平アーム(径方向移動軸)29が水平方向に駆動可能に装着されている。
【0031】
水平アーム29の先端には、検出器30が設けられ、検出器30は測定子31を備えている。真円度測定装置10は、この測定子31を載物台12上に載置された測定物に接触させて測定物を測定し、測定で得られる検出信号を検出器30を介して演算処理装置に送り演算処理装置で処理するようになっている。なお、水平アーム29の先端には心ずれ調整機構32が設置されている。
【0032】
図2は、真円度測定装置10の構成を示すブロック図である。
【0033】
図2に示すように、真円度測定装置10は、測定機本体11と演算処理装置13で構成される。測定機本体11については、図1の説明と重複する点もあるが再度説明することとする。
【0034】
測定機本体11は、ベース14上に回転機構15によって回転する載物台12が設けられている。載物台12には、水平方向の微調整及び垂直方向に対する傾斜調整を行うための、X方向微動つまみ22、Y方向微動つまみ24及びX方向傾斜つまみ25、Y方向傾斜つまみ23が設けられている。
【0035】
載物台12は、軸受16、エンコーダ18、モータ20等を備えた回転機構15によって回転される。載物台12は、軸受16を介してモータ20によって回転可能に支持されている。モータ20の回転軸にはエンコーダ18が取り付けられ、回転角が高精度に読み込まれるようになっている。軸受16は、例えば、超高精度の静圧エアーベアリングが用いられ、載物台12は非常に高い回転精度(例えば、0.005μm)で回転される。
【0036】
また図2には表示されていないが図1に示すようにベース14上に立設されたコラム(支柱)27にはスライダ28が上下動可能に装着され、スライダ28には水平アーム(径方向移動軸)29が水平方向に駆動可能に装着されている。そして、水平アーム29の先端には、検出器30が設けられ、検出器30には測定子31が設置されている。また、検出器30には差動変圧器を用いた電気マイクロメータが使用されており、測定物26に接触する測定子31の変位量を検出するようになっている。
【0037】
測定時には、図2に示すように、測定物26を載物台12上に載せ、測定子31を測定物に接触させて測定を行う。測定で得られる検出信号は、検出器30を介して演算処理装置13に送られる。
【0038】
演算処理装置13は、増幅器33、A/D変換器34、演算/処理手段36及びこれらの制御を行うためにメモリに記憶されたプログラム38からなり、さらに処理結果を表示する表示手段を備えている。
【0039】
測定子31を測定物26に接触させて得られた検出信号は検出器30を介して演算処理装置13に送られる。演算処理装置13では、まず増幅器33で増幅された後、A/D変換器34によってデジタル信号に変換されて、演算/処理手段36に入力される。
【0040】
この真円度測定装置10で測定物26の真円度等を測定する場合には、測定物26を載物台12上に載置した後、最初に載物台12の回転中心と測定物26の中心との偏心補正と、載物台12の回転軸に対する測定物26の傾斜補正を行う。これにより、載物台12の回転中心と測定物26の中心とは一致しているものとする。
【0041】
次に、検出器30の測定子31を測定物26の側面に接触させた状態で、載物台12がモータ20によって1回転され、測定物26の側面1周分のデータがアナログ電圧値として採取される。アナログ電圧値として得られた検出信号は、上述したように増幅器33で増幅され、A/D変換器34でデジタル信号に変換されて、演算/処理手段36に入力される。演算/処理手段36は、エンコーダ18から入力される回転角度データと、検出器30で検出された変位データとから測定物26の真円度を演算し、演算結果を表示手段40に表示する。
【0042】
なお、以上説明してきた真円度測定装置10は、測定物26を載せた載物台12が回転し、測定子31は前後方向(水平アーム29の移動方向)及び上下方向(スライダ28の移動方向)に移動するだけで、測定子31は回転しない載物台回転形の真円度測定装置であったが、本発明は、このような載物台回転形真円度測定装置だけに限定されるものではない。載物台は回転せず、測定子が前後方向及び上下方向に移動するとともに、測定子が測定物の回りを回転して測定する、検出器回転形の真円度測定装置にも適用可能である。
【0043】
図3は、検出器回転形真円度測定装置の測定機本体の外観を示す斜視図である。
【0044】
図3に示すように、この真円度測定装置100の測定機本体111は、ベース114上に測定物を載せる載物台112が設けられている。載物台112は、X方向微動つまみ122及びY方向微動つまみ124を有している。なお、ここでは省略したが、前の例と同様にX方向傾斜つまみ及びY方向傾斜つまみを備えていてもよい。
【0045】
またベース114上には上方に略垂直に延びるコラム(支柱)127が立設されており、コラム127にはスライダ128が上下動可能に装着されている。スライダ128は、コラム127に設けられた送り装置150によって上下に移動されるようになっている。またスライダ128の下側には水平アーム(径方向移動軸)129が取り付けられており、水平アーム129には検出器130及び測定子131が設置されている。
【0046】
真円度測定装置100は、測定子131を載物台112上に載置された測定物に接触させながら、測定子131を測定物の回りに回転させて測定物を測定する。測定で得られる検出信号は、検出器130を介して図示を省略した演算処理装置に送られ、演算処理装置で処理されるようになっている。なお、水平アーム129と検出器130との間には心ずれ調整機構132が設置されている。
【0047】
以下、本実施形態の真円度測定装置10(あるいは100)による心ずれ量の算出と、これを用いた心ずれ量補正方法について説明する。
【0048】
真円度測定時には、図4に示すように、測定子31の先端球31aを載物台12(ここでは図示省略)上に載せた測定物26に接触させる。
【0049】
そして、載物台回転形の真円度測定装置10の場合には、図4に矢印Aで示すように載物台12を回転することによって測定物26を回転する。また、検出器回転形の真円度測定装置100の場合には、測定子131を、図4に矢印Bで示すように、測定物26の外周に沿って回転させる。なお、測定物26の中心と載物台12の回転中心とは一致しているものと仮定する。
【0050】
また、ここで測定物26の中心とは、測定物26の外周を形成する図形(正確に言うと、先端球31aを接触させて測定する点(検出点)を含み載物台12の表面に平行な断面の外周の図形)の最小二乗円の中心であるとする。
【0051】
このとき、いずれの場合も測定子31(あるいは測定子131)の先端球31aが測定物26と接触しているようにする。例えば、載物台回転形の真円度測定装置10の場合には、図4に矢印Dで示す検出方向に、先端球31aを測定物26の外表面に常に押し当てながら、測定物26を矢印A方向に回転する。このとき、測定物26が真円でなく、測定物26の回転につれて半径が変化すると、先端球31aは回転中心側に寄って行ったりあるいは離れたり、矢印Dが示す検出方向内でその位置が変化する。
【0052】
この先端球31aの位置の変化を検出器30を介して検出し、演算処理装置13で処理することにより測定物26の真円度が検出される。
【0053】
図4に示すように、測定子31の先端球31aを、矢印Dが示す検出方向に移動して測定物26と接触させて測定を行う検出点Pが、測定物26の中心を通る母線Mと一致している場合には、正確に測定物26の真円度を測定することができる。
【0054】
しかし、実際の測定においては、測定子31の先端球31aの測定物26に対する検出点Pが測定物26の母線Mと一致しているとは限らない。
【0055】
装置によっては、例えば図5に示すように、測定子31の先端球31aが測定物26と接触する検出点Qが、測定物26の母線Mと一致しない場合がある。この場合には、測定物26の母線Mと一致する検出点Pと、実際の測定での検出点Qとにおける、先端球31aの検出方向Dに関する先端球31aの中心間の距離εだけ測定誤差が生じる。
【0056】
また、検出点Pと検出点Qにおける、検出方向Dと垂直な方向に関する先端球31aの中心間の距離Yが、このときの検出点Qの母線Mからのずれを表しており、この値Yが心ずれ量である。
【0057】
次に、この心ずれ量Yを求める方法について説明する。
【0058】
まず、図1に示した載物台回転形の真円度測定装置10を用いて、測定子31に対して測定物26を検出方向と直交する方向に移動させて心ずれ量Yを測定する方法について説明する。
【0059】
図6に、測定子31に対して基準となる測定物26を検出方向と直交する方向に移動させて心ずれ量Yを測定する様子を平面図で示す。
【0060】
図6に示すように、まず測定物26は、その中心を載物台12の回転中心と略一致させて置かれているものとする(基準位置)。この測定物26に対して、測定子31の先端球31aを接触させる。
【0061】
このとき、測定物26の中心(載物台12の回転中心)を通る直線(母線)Oと、測定子31の先端球31aの中心との距離が心ずれ量Yである。
【0062】
ここで図6に矢印Cで示すように、測定物26を検出方向と直交する方向(母線Oに垂直な方向)に移動して行く。
【0063】
測定物26の移動に伴い、測定子31の先端球31aが測定物26に当たる位置が変化するため、測定物26に押されて先端球31aの位置が母線Oと平行な方向に変化する。この変化量をδとする。この変化量δは、測定物26の各位置における先端球31aによる検出値の差分(変化量)として得られる。
【0064】
図7は、このとき測定物26の移動量を横軸にとり、先端球31aの変化量δを縦軸にとって示したものである。
【0065】
上述したように、先端球31aは測定物26の移動に伴って移動するが、図6からわかるように、測定物26の中心を通り母線Oに平行な直線が先端球31aの中心を通るときに、先端球31aの変化量δが最も大きくなる。
【0066】
従って、図7において、変化量δが最も大きくなるときの、測定物26の基準位置からの移動量が心ずれ量Yを表すこととなる。
【0067】
このように、測定子に対して測定物を移動させることによって心ずれ量Yを求めることができる。
【0068】
次に、図3に示した検出器回転形の真円度測定装置100を用いて、測定物26は固定して測定子131を検出方向と直交する方向に移動させて心ずれ量Yを測定する方法を説明する。
【0069】
図8に、基準となる測定物26に対して測定子131を検出方向と直交する方向に移動させて心ずれ量Yを測定する様子を平面図で示す。
【0070】
図8に示すように、測定物26は、前と同様にその中心を載物台12の回転中心と略一致させて置かれているものとする。この測定物26に対して、測定子131の先端球131aを接触させる。先端球131aを測定物26に接触させたときの先端球131aの中心と母線Oとの距離Yがこのときの心ずれ量であり、これを以下のようにして求める。
【0071】
図8に示すように、最初に先端球131aを測定物26に接触させた現在位置から、先端球131aを測定物26に接触させながら、矢印Eに示すように先端球131aを検出方向と直交する方向(母線Oと垂直な方向)に移動させて行く。そして、先端球131aの各位置における測定値として、先端球131aの中心から、測定物26の母線Oに垂直な直径までの距離ξを得て行く。
【0072】
図9に、図8における先端球131aの矢印E方向への移動距離を横軸にとり、各位置における測定値ξを縦軸にとったグラフを示す。
【0073】
図9のグラフ上の点Sが、図8における先端球131aの現在位置に対応する。
【0074】
先端球131aを現在位置から図8の矢印E方向に移動させて行くと、測定値ξはしだいに増加し、先端球131aの中心が母線O上に来たときに測定値ξは最大となる。そして、先端球131aが母線Oを通過してさらに移動していくと、測定値ξは今度は減少して行く。
【0075】
従って、図9のグラフにおいて、測定値ξが最大となる位置が母線Oの位置であり、それと現在位置に対応する点Sとの距離Yが心ずれ量となる。
【0076】
このように、検出器回転形の真円度測定装置100を用いても心ずれ量Yを求めることができる。
【0077】
次に、測定した半径の値等を、算出した心ずれ量Yを用いて補正する方法について説明する。
【0078】
まず、半径を測定して補正する場合について、図10を参照して説明する。
【0079】
図10において、基準測定物26−0の既知のマスター直径をDとし、これを直径dの先端球31a(あるいは131a)を用いて測定する場合を考える。
【0080】
図10において、測定半径をR’、上記のようにして既に求められている心ずれ量をYとする。
【0081】
この測定によって得られた測定半径R’を心ずれ量Yを用いて補正した校正半径をRとすると、校正半径Rは次の式(1)のようにして求めることができる。
【0082】
R=√[{(D+d)/2} − Y] …(1)
次に、図11を参照して、測定物の外径あるいは内径を測定する場合について説明する。
【0083】
まず、測定物26−3の外径を測定する場合を考えると、図11において、測定物26−3の中心から先端球31a(131a)の中心までの距離は、三平方の定理によって、√[R+Y]と求めることができる。従って、外径は、これの2倍から先端球31aの直径dを引けばよいので、外径Dは、次の式(2)のようにして求められる。
【0084】
D=2×√[R+Y]−d …(2)
次に、測定物26−4の内径を測定する場合は、先端球31aを測定物26−4に対して内接させるので、√[R+Y]で表される測定物26−4の中心から先端球31aの中心までの距離に対して先端球31aの直径dを足せばよいので、次の式(3)のようにして求められる。
【0085】
D=2×√[R+Y]+d …(3)
以上のように、本実施形態によれば、測定子の先端球が測定物と接触する検出点が測定物の中心を通る母線と一致しておらず、母線からずれている場合であっても、この心ずれ量を算出することにより、半径の測定値を心ずれ量を用いて補正することができる。
【0086】
このように、測定物の母線と検出点のずれ(心ずれ量)を算出して補正することにより、基準測定物の直径値と異なる直径値を有する測定物であっても、その正確な直径値を算出することが可能となる。
【0087】
また、このように算出した心ずれ量を用いて測定値の補正を行う他、算出した心ずれ量に基づいて、心ずれ調整機構32(132)によって測定子31(131)及び先端球31a(131a)の位置(基準位置)を調整するようにしても良い。
【0088】
以上、本発明の真円度測定装置及びその心ずれ量補正方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0089】
10…(載物台回転形)真円度測定装置、11…測定機本体、12…載物台(XY/傾斜テーブル)、13…演算処理装置、14…ベース(基台)、15…回転機構、16…軸受、18…エンコーダ、20…モータ、22…X方向微動つまみ、23…Y方向傾斜つまみ、24…Y方向微動つまみ、25…X方向傾斜つまみ、26…測定物、27…コラム(支柱)、28…スライダ、29…水平アーム(径方向移動軸)、30…検出器、31…測定子、31a…先端球、32…心ずれ調整機構、33…増幅器、34…A/D変換器、36…演算/処理手段、38…プログラム、40…表示手段、100…(検出器回転形)真円度測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させ、測定物の真円度を測定する真円度測定装置において、
基準測定物に対する前記検出器の検出方向と直交する方向に前記基準測定物を移動させる手段と、
前記基準測定物を基準位置から前記検出器の検出方向と直交する方向に移動させたときの各位置における検出値の変化量に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器の前記基準測定物に対する検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する手段と、
前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する手段と、
を備えたことを特徴とする真円度測定装置。
【請求項2】
前記心ずれ量を算出する手段は、前記検出値の変化量が最大となるときの、前記基準測定物の基準位置からの移動量を前記心ずれ量として算出することを特徴とする請求項1に記載の真円度測定装置。
【請求項3】
測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させ、測定物の真円度を測定する真円度測定装置において、
前記検出器を基準位置に置かれた基準測定物に対して接触させながら、検出方向と直交する方向に前記検出器を移動させたときの各位置における検出値に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器が現在接触している検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する手段と、
前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する手段と、
を備えたことを特徴とする真円度測定装置。
【請求項4】
前記心ずれ量を算出する手段は、前記検出値が最大となるときの前記検出器の位置と、前記検出器が現在接触している位置との差分を前記心ずれ量として算出することを特徴とする請求項3に記載の真円度測定装置。
【請求項5】
前記測定物の中心とは、測定の際、前記検出器が接触する前記測定物の外周の点が形成する図形の最小二乗円の中心であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の真円度測定装置。
【請求項6】
測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させるようにして、基準測定物に対する前記検出器の検出方向と直交する方向に前記基準測定物を移動させて、前記基準測定物の各位置における検出値を検出する検出工程と、
前記検出した検出値の変化量を算出する工程と、
前記算出した変化量に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器の前記基準測定物に対する検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する工程と、
前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する工程と、
を備えたことを特徴とする真円度測定装置における心ずれ量補正方法。
【請求項7】
前記心ずれ量を算出する工程は、前記検出値の変化量が最大となるときの、前記基準測定物の基準位置からの移動量を前記心ずれ量として算出することを特徴とする請求項6に記載の真円度測定装置における心ずれ量補正方法。
【請求項8】
測定物の中心と回転の中心を一致させて、測定物を検出器に対して相対的に回転させるようにして、前記検出器を基準位置に置かれた基準測定物に対して接触させながら、検出方向と直交する方向に前記検出器を移動させたときの各位置における検出値を検出する検出工程と、
前記検出した検出値に基づいて、前記基準測定物の母線と前記検出器が現在接触している検出点とのずれ量である心ずれ量を算出する工程と、
前記算出した心ずれ量に基づいて、任意の測定物の測定値を補正する工程と、
を備えたことを特徴とする真円度測定装置における心ずれ量補正方法。
【請求項9】
前記心ずれ量を算出する工程は、前記検出値が最大となるときの前記検出器の位置と、前記検出器が現在接触している位置との差分を前記心ずれ量として算出することを特徴とする請求項8に記載の真円度測定装置における心ずれ量補正方法。
【請求項10】
前記測定物の中心とは、測定の際、前記検出器が接触する前記測定物の外周の点が形成する図形の最小二乗円の中心であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の真円度測定装置における心ずれ量補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−163366(P2012−163366A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21973(P2011−21973)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】