説明

真空バルブ用接点材料の製造方法

【課題】 優れた遮断性能と耐電圧特性を兼備した真空バルブ用接点材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 真空バルブ用接点材料の製造方法を、平均粒径が20〜200μmのCu粉末、平均粒径が40〜200μmのCr粉末、および粉末全体の0.1〜2vol%の範囲で平均粒径が0.3〜10μmで融点がCuの融点より高いWなどの補助成分の粉末を混合する第1の工程と、この第1の工程で得られた混合粉末をCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温して混合粉末の中のCu粉末およびCr粉末の一部または全てを耐熱容器中で溶解して溶解体を形成した後、溶解体を耐熱容器中で冷却するかまたは鋳型に一括充填して冷却する第2の工程と、この第2の工程を終えた溶解体を加工することにより複数の接点材料を取り出す第3の工程とから成るものとする。これにより、優れた遮断性能と耐電圧特性を兼備した真空バルブ用接点材料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空バルブ用接点材料の製造方法に関わり、より具体的には、優れた大電流遮断特性と耐電圧特性を兼備した接点材料の製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
真空バルブ用接点は、大別すると、以下の4種類が存在する。
【0003】
1) CuBi、CuTeSeに代表される大電流遮断用接点
2) Cu−W等の高電圧用途に用いられる接点
3) Ag−WC等の低サージ性を有する接点
4)Cu−Cr等の、ある程度の耐圧と大電流遮断特性を有する接点
このうちCuCr接点の製造方法としては、一般に下記の3通りの方法が良く知られている。
【0004】
1) 固相焼結法
通常、40〜200μm程度の平均粒径のCr粒子とCu粒子とを混合して成形したのち、Cuの融点以下の温度にて焼結する方法で、場合によっては成形と焼結を複数回繰り返して製造する。Cu/Cr組成比を自由に選択できる利点がある。一方、ガス含有量は2)の溶浸法に比べ、多くなる可能性が高い。
【0005】
2) 溶浸法
通常、40〜200μm程度の平均粒径のCr粒子を容器に入れCuをCr粒子の空隙に溶浸し、場合によってはCr粒子を成形したのち、CuをCr成形体の空隙に溶浸する製造方法である。1)の固相焼結法より高密度な素材を得やすく、従って、ガス含有量も低減しやすいといった特徴を有する。
【0006】
3) アーク溶解法
CuとCrの原料をアーク加熱により急熱急冷し、微細組織を形成させる。機械的強度の大きい組織形態となり、耐電圧特性は優れる。
【0007】
なお、このアーク溶解法の例としては、特許文献1に示されているものがある。
【特許文献1】特許第3382000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CuCr接点を構成するCuとCrは密度差が大きいため、溶解法での製造は急冷凝固が条件となり、アーク溶解法のような方法のみ可能であった。しかしながら、この方法では、製造コストの増大は不可避であり、工業的には困難である。また、Cuのみを溶解する溶浸法では、予めCr粒子が流動しないように、Cr含有量を十分高める必要があり、Cu/Cr組成比は、Cuが25〜60%程度に限定されていた。一方、固相焼結では、この組成比を自由に選択できるが、組織中のCr粒子の粒度は原料の粒度をそのまま反映したものとなり、一般的には粗いCr粒子が分散された組織となるため、耐圧特性を向上する成分であるCr量が少なくなると、耐圧上不十分であった。また、耐圧向上のため、微細なCr粒子を原料とした場合には、ガス含有量が高まるため遮断特性が低下するため、固相焼結法においては、優れた遮断性能と耐電圧特性を兼備することには限界があった。
【0009】
本発明は、従来のこのような点に鑑みて為されたもので、優れた遮断性能と耐電圧特性を兼備した真空バルブ用接点材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る真空バルブ用接点材料の製造方法は、平均粒径が20〜200μmのCu粉末、平均粒径が40〜200μmのCr粉末、および粉末全体の0.1〜2vol%の範囲で平均粒径が0.3〜10μmで融点がCuの融点より高い補助成分の粉末を混合する第1の工程と、この第1の工程で得られた混合粉末をCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温して混合粉末の中のCu粉末およびCr粉末の一部または全てを耐熱容器中で溶解して溶解体を形成した後、溶解体を耐熱容器中で冷却するかまたは鋳型に一括充填して冷却する第2の工程と、この第2の工程を終えた溶解体を加工することにより複数の接点材料を取り出す第3の工程とから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた遮断性能と耐電圧特性を兼備した真空バルブ用接点材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
発明が解決しようとする課題の項で述べたようなCuCr接点の各製造方法の現状を鑑み、発明者らはまず、急冷凝固を伴なわず、かつ、Cu/Cr比を選ばずに固相焼結法で製造したCuCr接点と同等の遮断特性を有するCuCr系接点材料を製造することを目的として研究を重ねた結果、本発明の方法を見出すに至った。
【0014】
また、この発明によって得られる接点材料の良品率を高めることを目的とした製造方法の改良を加え、その条件を見出した。
【0015】
さらに発明者らは、この方法を用い、優れた遮断特性を有するCr25wt%付近のCu/Cr組成比において、固相法CuCr接点では到底達成し得ない耐電圧特性を兼備したCuCr系接点材料を製造することに成功した。
【0016】
本発明の第1の実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法は、平均粒径が20〜200μmのCu粉末、平均粒径が40〜200μmのCr粉末、および粉末全体の0.1〜2vol%の範囲で平均粒径が0.3〜10μmで融点がCuの融点より高い補助成分の粉末を混合する第1の工程と、この第1の工程で得られた混合粉末をCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温して混合粉末の中のCu粉末およびCr粉末の一部または全てを耐熱容器中で溶解して溶解体を形成した後、溶解体を耐熱容器中で冷却するかまたは鋳型に一括充填して冷却する第2の工程と、この第2の工程を終えた溶解体を切削加工、または切断加工することにより複数の接点材料を取り出す第3の工程とから成ることを特徴とする。
【0017】
この第1の実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法においては、混合粉末中の補助成分の微粒子は、混合粉末をCuの溶融温度以上に保持した際に、Cu液相とCr固相の密度差に起因する両者の分離を抑制し、Cr粒子をCu液相中に微細分散させる効果を有する。この効果は、Cu液相中に溶解したCrが補助成分粒子上に晶出することによるものである。
【0018】
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、補助成分は、純Cuに1原子%添加した時の固有抵抗の純Cuに対する増分が3μΩcm/原子%以下となる成分を選択していることを特徴とする。
【0019】
本発明では、Cu粒子を溶融させるため、このCu液相に溶解することによってCu相の固有抵抗を増大させる成分は補助成分として不適切である。すなわち、補助成分を、純Cuに1原子%添加した時の固有抵抗の純Cuに対する増分が3μΩcm/原子%を越えると、導電性が著しく損なわれるために、遮断特性が低下する。
【0020】
本発明の第3の実施形態は、第1または第2の実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、補助成分の密度が融点直上(1083℃)におけるCuの液相の密度(8.00g/cm)より大きいことを特徴とする。
【0021】
本発明では、Cu液相に対して密度の小さいCrを補助成分上に晶出させるが、補助成分の密度が小さい場合、Crの晶出前に補助成分自体がCu相と分離してしまう。これを防ぐには、Cu相に対して密度の大きい補助成分上に密度の小さいCrを晶出させる方法が有効である。
【0022】
本発明の第4の実施形態は、第1乃至第3のいずれかの実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、前記補助成分がW,Mo,Taまたはこれらの炭化物の少なくとも1種類から選択されることを特徴とする。第2または第3の実施形態の条件を満たす補助成分の具体例としては、これらの物質があげられる。
【0023】
本発明の第5の実施形態は、第1乃至第4のいずれかの実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、第1の工程において配合すべきCuと補助成分とを計量し、補助成分微粒子全量とその0.2〜5.0倍の体積のCu粒子とを混合して第1の混合粉末とし、第1の混合粉末に残りのCuを適宜加え、混合して、第2の混合粉末とし、第2の混合粉末にCr粒子を適宜加え、混合して第3の混合粉末を得ることを特徴とする。
【0024】
Cu粉末が溶融するまでの昇温過程において、補助成分がCr粒子と接触している場合、補助成分はCr表面に固着されてしまう。従って、溶融後、微細分散された状態の補助成分粒子上にCrを晶出させるには、この固着を可能な限り回避する必要がある。これには、混合時におけるCrと補助成分の接触を少なくすることが有効であり、上記手順による混合で、補助成分粒子をまずCu粒子中に均質に分散することが肝要である。
【0025】
本発明の第6の実施形態は、第1乃至第5のいずれかの実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、第1の工程におけるCu粉末の混合粉末全体に占める割合が、60〜83vol%であることを特徴とする。
【0026】
本実施形態によれば、遮断性能には優れるものの耐電圧特性が不十分であった固相焼結法によるCr含有量25wt%(22vol%)付近の材料において、組織微細化の効果により、優れた耐電圧特性をも兼備させることが可能となる。
【0027】
本発明の第7の実施形態は、第1乃至第6のいずれかの実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、第2の工程と第3の工程との間に、溶解体に対して圧縮、圧延、または鍛造の少なくとも1つの加工を行う工程を有することを特徴とする。
【0028】
この加工により、溶解体に含まれる微細な欠陥がつぶされ、導電率が高められるため、優れた通電特性も兼備させることが可能となる。
【0029】
本発明の第8の実施形態は、第1乃至第7のいずれかの実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、第2の工程と前記第3の工程との間に、前記溶解体を700〜900℃の範囲の温度で保持する工程を有することを特徴とする。
【0030】
通電特性の改善は、このような熱処理によっても得ることができる。
【0031】
本発明の第9の実施形態は、第1乃至第8のいずれかの実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、第1の工程と第2の工程との間に、混合粉末を5〜8ton/cmの範囲の圧力で成形する工程を有することを特徴とする。
【0032】
第1乃至第8のいずれかの実施形態の方法では、良好な電気特性が期待できる良品部が、溶解体全体の限られた部分にのみ形成される。しかしながらこの第9の実施形態のように、混合粉末をCuの溶融温度以上の温度まで上げる前に予め加圧しておくことによって、この良品部を大幅に拡大することが可能である。ただし、この加圧力を過大にした場合、成形体中に閉じ込められたガスがCuの溶解時に放出されるのを阻害するため遮断性能の低下につながる。
【0033】
本発明の第10の実施形態は、第9の実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法において、第2の工程において、昇温して溶解体を形成するとき、前記圧力で成形された圧粉成形体の中心線に垂直な2つの平行面で挟まれた領域の全体または一部をCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温し、前記領域を成形体の一端から他端に向かって移動させ、成形体中のCu粉末の一部または全てが溶融した溶解体とすることを特徴とする。
【0034】
このように、圧粉成形体を部分的に溶解凝固させることによっても広範囲なCuとCrの組成変動を抑制できるため、良品部の拡大は達成できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0036】
<供試真空バルブの構成>
まず、本発明により製造される真空バルブ用接点材料が適用される供試真空バルブの構成について説明する。
【0037】
図1は、供試真空バルブの構成例を説明するための断面図、図2は図1の電極部分の拡大断面図である。
【0038】
図1において、遮断室1は、絶縁材料によりほぼ円筒状に形成された絶縁容器2と、この両端に封止金具3a,3bを介して設けた金属製の蓋体4a,4bとで真空気密に構成されている。
【0039】
遮断室1内には、導電棒5,6の対向する端部に取付けられた一対の電極7,8が配設され、上部の電極7を固定電極、下部の電極8を可動電極としている。またこの電極8の導電棒6には、ベローズ9が取付けられ遮断室1内を真空気密に保持しながら電極8の軸方向の移動を可能にしている。また、このベローズ9上部には金属製のアークシールド10が設けられ、ベローズ9がアーク蒸気で覆われることを防止している。また、電極7,8を覆うように、遮断室1内に金属製のアークシールド11が設けられ、これにより絶縁容器2がアーク蒸気で覆われることを防止している。
【0040】
さらに、電極8は、図2に拡大して示す如く、導電棒6にろう付け部12によって固定されるか、又はかしめによって圧着接続されている。接点13aは電極8にろう付け14によってろう付けで取付けられる。なお、接点13bは、電極7にろう付けにより取付けられる。
【0041】
<接点材料の製造方法>
本発明に係る真空バルブ用接点材料の製造方法における、接点材料の製造工程について説明する。
【0042】
まず 、実施例1〜実施例21と比較例1〜比較例18の接点の製造工程について説明する。
【0043】
[第1の工程]
はじめに所定粒径のCr粉末、Cu粉末および補助成分粉末を下記のいずれかの手順で混合する。
【0044】
A:全ての粉末を一度に混ぜ、混合する。
【0045】
B:Cr粉末および補助成分粉末を混合し、この混合粉末にCu粉末を混合する。
【0046】
C:補助成分粉末全量とこれと同量のCu粉末とをまず混合し、この混合粉末と残りの Cu粉末とを混合した後、さらにCr粉末を混合する。
【0047】
D:補助成分粉末全量とこれと同量のCu粉末とをまず混合し、この混合粉末と同量の Cu粉末をさらに加えて混合する。この動作を繰り返し、新たなCu粉末を加えたそれぞれの時点において、残りのCu粉末が混合粉末の量より少なくなった場合、この残りのCu粉末もさらに加えて混合し、その後Cr粉末を混合して、混合工程を終了する。
【0048】
E:Cu粉末とCr粉末のみを混合する。
【0049】
[第2の工程]
次いで、この混合粉末をφ60mmの溶解ルツボに入れ、真空中にて高周波誘導加熱によりCuの融点以上の温度にて溶解する(溶解方法A)。そして溶解体をルツボ内で冷却する。
【0050】
[第3の工程]
さらにルツボから溶解体を取りだし、φ40mmの接点を加工して取り出す。これらの実施例および比較例は以下に示す条件を標準の製造条件とし、これらの条件のいずれかをパラメータとして変化させた場合について調べたものである。
【0051】
・原料粉末平均粒径:
Cu…100μm
Cr…100μm
補助成分…1μm
・ 補助成分…W
・原料粉末体積比:
Cu:Cr:補助成分=71.2:28.3:0.5
実施例22では、円柱状の溶解体をルツボから取り出した後、鍛造して角柱状にし、さらにこれを圧延することにより板状とした。
【0052】
実施例23〜24および比較例19〜20では、溶解体をルツボから取り出した後、溶解体を真空中において600〜1000℃の範囲の温度で保持した。
【0053】
実施例25〜26および比較例21〜22では、混合粉末をルツボに入れる前に、3〜10ton/cmの範囲の圧力で成形し、この成形体をルツボにセットした。
【0054】
実施例27では、第2の工程において、粉末全体を一度に溶解せず、図3のように、圧粉成形体の中心線に垂直な2つの平行面で挟まれた領域を誘導加熱してCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温してCu粉末のみを溶融させ、この領域を成形体の一端から他端に向かって移動させることにより成形体中のCu粉末を順次溶融させ溶解体とした(溶解方法B)。すなわち、図3に示すように、圧粉成形された成形体15をルツボ(耐熱容器)20に入れ、成形体15の中心線21に垂直な2つの平行面18で挟まれた領域を誘導溶解コイル17により誘導加熱してCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温してCu粉末のみを溶融させて溶融層16とし、この平行面18で挟まれ、誘導溶解コイル17により誘導加熱する領域を成形体の一端から他端に向かって移動させることにより成形体中のCu粉末を順次溶融させ溶解体とした。なお、平行面18で挟まれ、誘導溶解コイル17により誘導加熱する領域を移動させるには、誘導溶解コイル17を移動させてもよいし、成形体15を収容したルツボ(耐熱容器)20を移動させてもよい。
【0055】
<評価方法および評価条件>
次に、本発明の実施例および比較例を説明するデータを得た評価方法、および評価条件について説明する。
【0056】
(材料特性評価)
(1)相対密度
アルキメデス法により密度を測定して組成比から真密度を求めて相対密度に換算した。結果は、比較例1の値を1.00として相対比較し、0.95以上を合格とした。
【0057】
(2)硬さのばらつき
ロックウエル硬さを測定し、実施例1の値を1.00として相対比較し、2.00未満を合格とした。
【0058】
(電気特性評価)
(1)遮断特性
遮断試験をJEC規格の5号試験により行い、これにより遮断特性を評価した。
【0059】
(2)耐電圧特性
進み小電流試験における再点弧発生確率にて評価した。電流は500Aであり、回復電圧は12.5kVである。試験回数は2000回である。実施例17の再点弧発生確率を1.0とした場合の相対値を示し、この相対値が1.2以下のものを合格とした。
【0060】
(3)通電特性
渦電流測定により導電率を評価し、実施例1の測定との相対値で表示し、大電流通電領域で使用される開閉機器への適用を考慮して、この値が1.1以上を合格とした。
【0061】
(量産性評価)
(1) 良品率
溶解体のうち、材料特性評価項目(1),(2)および電気特性評価項目(1)の全てを満足できる領域の割合を調べた。評価する接点径rを一定とし、溶解体の径を変化させて作成し、上記条件を満足できる溶解体径の下限値Rを求め、(r/R)により算出した。量産性という観点から、良品率として0.9以上を合格とした。
【0062】
<実施例および比較例>
次に、各接点の製造条件とその問題点およびこれらに対応する材料的特性および電気的特性データを、図4〜図7を参照しながら考察する。
【0063】
まず、実施例1〜19および比較例1〜15では、製造した材料の健全性の評価項目である、材料の相対密度および硬さのばらつきについて調べ、これと併せて、CuCr接点の具備すべき基本的特性である遮断性能について評価した。
【0064】
(実施例1〜2および比較例1〜2)
前記標準製造条件のCr:補助成分の比を28.8:0〜24.8:4.0まで変化させ特性評価を行った。補助成分量が0.1〜2vol%の範囲にある実施例1および実施例2は比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、補助成分を含まない比較例1では、CrがCuと分離した状態となってしまっているため、硬さのばらつき(特に異なる接点の間のばらつき)が大きく、遮断性能も不合格となっている。また、補助成分量が4vol%と多い比較例2では、補助成分の局部加熱による遮断性能の低下により、遮断特性は不合格となっている。
【0065】
(実施例3〜5および比較例3〜4)
前記標準製造条件のCu粉末の平均粒径を10〜400μmの範囲で変化させ特性評価を行った。Cu粉末の平均粒径が20〜200μmの範囲にある実施例3〜5はいずれも比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、Cuの平均粒径が10μmの比較例3では、接点材料の含有ガス量が高すぎるため、遮断特性が不合格となっている。また、Cuの平均粒径が400μmと大きい比較例4は、接点材料中に欠陥が分散した状態となっているため導電率が低く、遮断特性が不十分である。
【0066】
(実施例6〜8および比較例5〜6)
前記標準製造条件のCr粉末の平均粒径を20〜400μmの範囲で変化させ特性評価を行った。Cr粉末の平均粒径が40〜200μmの範囲にある実施例6〜8はいずれも比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、Crの平均粒径が20μmの比較例5では、接点材料の含有ガス量が高すぎるため、遮断特性が不合格となっている。また、Crの平均粒径が400μmと大きい比較例6は、接点材料中に欠陥が分散した状態となっているため導電率が低く、遮断特性が不十分である。
【0067】
(実施例9〜11および比較例7〜8)
前記標準製造条件の補助成分粉末の平均粒径を0.1〜10μmの範囲で変化させ特性評価を行った。補助成分粉末の平均粒径が0.3〜3μmの範囲にある実施例9〜11はいずれも比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、補助成分の平均粒径が0.1μmの比較例7では、補助成分粒子が凝集し、かえって大きな複合粒子となってしまうため、Crの分散が不十分となり、かつガス含有量も多くなるため、遮断特性が不合格となっている。また、補助成分の平均粒径が10μmと大きい比較例8は、CrとCuの分離が顕著であるため、接点材料組織が不均質となり遮断特性が不十分である。
【0068】
(実施例12および比較例9)
前記標準製造条件の補助成分としてAgおよびWを用いて接点を製造し、特性評価を行った。補助成分がWである実施例12は比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、補助成分としてAgを使用した比較例9では、AgがCu中に完全に溶解してしまうためCrの微細分散が起こらず、CrとCuの分離が顕著となるため材料組織が不均質となり、遮断特性が不合格となっている。
【0069】
(実施例13〜14および比較例10)
前記標準製造条件の補助成分としてNb,MoおよびWCを用いて接点を製造し、特性評価を行った。補助成分がそれぞれMo、WCである実施例13〜14はいずれも比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、補助成分としてNbを使用した比較例10では、CuへのNbの固溶による導電率の低下の影響により、遮断特性が不合格となっている。
【0070】
(実施例15および比較例11)
前記標準製造条件の補助成分としてTiCおよびTaを用いて接点を製造し、特性評価を行った。補助成分がTaである実施例15は比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、補助成分としてTiCを使用した比較例11では、密度の小さいTiCがCu液相上に浮上してしまうため、Crの微細分散が起こらず、CrとCuの分離が顕著となるため材料組織が不均質となり、遮断特性が不合格となっている。
【0071】
(実施例16〜17および比較例12〜13)
前記標準製造条件と粉末の混合手順をA〜Dで変えて、特性評価を行った。手順CおよびDを用いた実施例16および実施例17は比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、手順AおよびBを用いた比較例12および比較例13では、補助成分のWがCr粒子表面に固着してしまうため、Crの微細分散が起こらず、CrとCuの分離が顕著となるため材料組織が不均質となり、遮断特性が不合格となっている。
【0072】
(実施例18〜19および比較例14〜15)
粉末混合手順DのCu粉末とW粉末の初回混合におけるW粉末体積に対するCu粉末体積の比を0.1から10の範囲で変えて、特性評価を行った。W粉末体積に対するCu粉末体積の比が0.2〜5の範囲にある実施例18および実施例19は比較的硬度のばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性も合格しているが、この体積比が0.1の比較例14および10の比較例15では、補助成分のWとCuとの分散が不十分なため一部のW粒子がCr粒子に固着してしまうため、Crの微細分散が不十分となり、遮断特性が不合格となっている。
【0073】
以上の実施例では、遮断特性で特性の良否を判断しているが、CuCr接点は、高電圧領域で使用される開閉機器にもしばしば適用される。そこで以下の実施例では、耐電圧特性も同時に満足するための条件について評価した。
【0074】
(実施例20〜21および比較例16〜17)
前記標準製造条件のCu:Cr比を49.9:49.6〜88.5:11.0まで変化させ特性評価を行った。Cu量が60〜83vol%の範囲にある実施例20および実施例21は比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性、耐電圧特性がともに合格しているが、Cu量が49.6vol%と少ない比較例16では、Cr量が多く熱伝導率が低いため遮断性能が不合格となっている。また、Cu量が88.5vol%と多い比較例17では、Cr分散粒子が少なく、また、補助成分粒子のWの表面の一部が晶出したCrに覆われていない状態となるため、耐電圧特性が不合格となっている。
【0075】
また、CuCr接点は、大電流通電領域で使用される開閉機器にも適用されるので、以下の実施例では、遮断特性に加えて通電特性も同時に満足するための諸条件について評価した。
【0076】
(実施例22および比較例18)
前記標準製造条件の第2の工程と第3の工程の間に溶解体の鍛造、圧延工程を入れた場合と入れない場合の両者の特性評価を行った。鍛造圧延工程が追加された実施例22ではいずれも比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性、通電特性がともに合格しているが、この工程を追加しない比較例18では、内蔵する欠陥が熱伝導を低減するため、通電特性が不合格となっている。
【0077】
(実施例23〜24および比較例19〜20)
前記標準製造条件の第2の工程と第3の工程の間に溶解体の熱処理工程を入れ、熱処理温度を変化させて特性評価を行った。熱処理温度が700〜900℃の範囲にある実施例23および実施例24ではいずれも比較的ばらつきの少ない接点が得られ、遮断特性、通電特性がともに合格しているが、熱処理温度が600℃と低い比較例19では、Cu相中に固溶しているCrの析出が不十分であるため、通電特性が不合格となっている。また、熱処理温度が1000℃と高い比較例20では、熱処理中にCu相中のCrの固溶量が増大してしまうため、通電特性が不合格となっている。
【0078】
以上の実施例では、φ60mmの溶解体からφ40mmの接点を取りだして評価したが、量産性を考慮するには、この使用していない部分についても評価する必要がある。そこで溶解体のうち、材料特性評価項目(1),(2)および電気特性評価項目(1)の全てを満足できる領域の割合を調べた。評価する接点径rを一定とし、溶解体の径を変化させて作成し、上記条件を満足できる溶解体径の下限値Rを求め、良品率を(r/R)により算出した。
【0079】
(実施例25〜26および比較例21〜22)
前記標準製造条件の第1の工程と第2の工程の間に混合粉末の成形工程を入れ、成形圧力を変化させて特性評価を行った。成形圧力が5〜8ton/cmの範囲にある実施例25および実施例26では、良品率が90%以上と合格しているが、成形圧力が3ton/cmと低い比較例21では、Cu粉末粒子初期にCr粒子の移動が発生するため、通電特性が不合格となっている。また、成形圧力が10ton/cmと高い比較例22では、Cu粉末の溶融時に粉末中のガスが完全に抜けきらないため、遮断特性が不合格となっている。
【0080】
(実施例27および比較例23)
第2の工程において粉末全体を一度に溶解する比較例23と、粉末全体を一度に溶解せず、圧粉成形体の中心線に垂直な2つの平行面で挟まれた領域を誘導加熱してCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温してCu粉末のみを溶融させ、この領域を成形体の一端から他端に向かって移動させることにより成形体中のCu粉末を順次溶融させ溶解体とした実施例27とを比較評価した。粉末を順次溶解した実施例27では、良品率が90%以上と合格しているが、粉末を一度に溶解した比較例23では、Cu粉末の溶融時に粉末中のガスが完全に抜けきらない部分があるため、良品率が低下している。
【0081】
(他の実施例)
上記の実施例で示した補助成分の他、補助成分としてMoC,TaCを用いた場合でも、同様の効果が得られている。
【0082】
(実施例の効果)
以上のように、本発明の実施例では補助成分の作用により溶融CuとCr粒子が分離することなく存在し、かつ、微細なCr粒子を原料から導入されたCr粒子間に微細に分散した接点材料の製造方法の提供を可能とした。また本発明の実施例によって、Cr量を適切な範囲とすることにより、従来の固相焼結法で製造された接点材料では実現不可能であった、優れた遮断性能と耐電圧性能を兼備した接点材料の提供を可能とした。また、この基本的な製造方法に鍛造・圧延等の工程や熱処理工程を付与することにより、通電特性も兼備することができた。さらに、溶解前の粉末を成形することや溶解を部分的かつ連続的に実施することにより、量産に適した良品率の高い製造方法が提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明により製造される真空バルブ用接点材料が適用される真空バルブの一例を示す断面図。
【図2】図1の要部拡大断面図。
【図3】本発明の実施例27を説明するための、成形体を収容したルツボの断面図。
【図4】実施例1〜15、および比較例1〜11の製造条件(一部)を示す表図。
【図5】実施例1〜15、および比較例1〜11の製造条件(残部)および評価結果を示す表図。
【図6】実施例16〜27、および比較例12〜23の製造条件(一部)を示す表図。
【図7】実施例16〜27、および比較例12〜23の製造条件(残部)および評価結果を示す表図。
【符号の説明】
【0084】
1…遮断室
2…絶縁容器
3a,3b…封止金具
4a,4b…蓋体
5,6…導電棒
7,8…電極
9…ベローズ
12…ろう付け部
10,11…アークシールド
13a,13b…接点
14…ろう付け層
15…成形体
16…溶融層
17…誘導溶解コイル
18…成形体中心線に平行な2面
20…ルツボ(耐熱容器)
21…成形体中心線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が20〜200μmのCu粉末、平均粒径が40〜200μmのCr粉末、および粉末全体の0.1〜2vol%の範囲で平均粒径が0.3〜10μmで融点がCuの融点より高い補助成分の粉末を混合する第1の工程と、この第1の工程で得られた混合粉末をCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温して混合粉末の中のCu粉末およびCr粉末の一部または全てを耐熱容器中で溶解して溶解体を形成した後、前記溶解体を耐熱容器中で冷却するかまたは鋳型に一括充填して冷却する第2の工程と、この第2の工程を終えた前記溶解体を加工することにより複数の接点材料を取り出す第3の工程とから成ることを特徴とする真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項2】
前記補助成分は、純Cuに1原子%添加した時の固有抵抗の純Cuに対する増分が3μΩcm/原子%以下となる成分を選択していることを特徴とする請求項1に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項3】
前記補助成分の密度が融点直上におけるCuの液相の密度より大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項4】
前記補助成分がW,Mo,Taまたはこれらの炭化物の少なくとも1種類から選択されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程において配合すべきCuと補助成分とを計量し、補助成分微粒子全量とその0.2〜5.0倍の体積のCu粒子とを混合して第1の混合粉末とし、前記第1の混合粉末に残りのCuを適宜加え、混合して、第2の混合粉末とし、前記第2の混合粉末にCr粒子を適宜加え、混合して第3の混合粉末を得ることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程におけるCu粉末の混合粉末全体に占める割合が、60〜83vol%であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程と前記第3の工程との間に、前記溶解体に対して圧縮、圧延、鍛造の少なくとも1つの加工を行う工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項8】
前記第2の工程と前記第3の工程との間に、前記溶解体を700〜900℃の範囲の温度で保持する工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項9】
前記第1の工程と前記第2の工程との間に、前記混合粉末を5〜8ton/cmの範囲の圧力で成形する工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項10】
前記第2の工程において、昇温して溶解体を形成するとき、前記圧力で成形された圧粉成形体の中心線に垂直な2つの平行面で挟まれた領域の全体または一部をCuの溶融温度以上でかつ補助成分の融点以下の温度まで昇温し、前記領域を成形体の一端から他端に向かって移動させ、成形体中のCu粉末の一部または全てが溶融した溶解体とすることを特徴とする請求項9に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−24476(P2006−24476A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202284(P2004−202284)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(595019599)芝府エンジニアリング株式会社 (40)
【Fターム(参考)】