説明

真空成膜装置、薄膜素子の製造方法及び電子機器

【課題】 成膜室の容積を小さくして同成膜室の雰囲気を速く減圧にすることのできるコンパクトな真空成膜装置、薄膜素子の製造方法及び電子機器を提供する。
【解決手段】 各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cに基板搬送室2と独立させるためのゲートバルブGBを備えた。また、各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cに吸排気口12及び吸排気口12から配管を介して各第1〜第3蒸発源室3A〜3C内の雰囲気を個別に減圧または大気圧に制御する真空ポンプに接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成膜装置、薄膜素子の製造方法及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置として、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス表示装置が注目されている。この種の表示装置に使用される液晶素子や有機エレクトロルミネッセンス素子、及びこれら各素子を駆動制御する各種電子素子は薄膜素子である。各種薄膜素子は、一般には、ガラス基板上に形成され、真空成膜装置により形成される。
【0003】
ところで、各種薄膜素子を構成する薄膜材料は、外気(水分、酸素等)に対して変質しやすく、特に、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下、「有機ELディスプレイ」という)においては、その有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という)を構成する有機発光材料に対しては顕著である。
【0004】
そこで、真空成膜装置において、その一つの成膜室に、それぞれ異なった薄膜材料を備えた複数の蒸発源を格納し、その複数の蒸発源を切り換えて使用することで、複数種の薄膜材料を蒸着可能としたマルチチャンバー方式の蒸着装置が提案されている。このマルチチャンバー方式の蒸着装置を使用することで、薄膜材料を外気に晒さずに薄膜素子を形成することができるので、信頼性の高い表示装置を作製することが可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−317129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記文献1に記載の蒸着装置は、前記したように、一つの成膜室内に複数の蒸発源を格納しており、さらに、成膜時には、ガラス基板が成膜室内に搬入されるようになっている。従って、成膜室は、蒸発源やガラス基板を格納できるように、その容積が大きく構成されている。このため、成膜室内を薄膜成長に適した雰囲気に減圧するに至るまで相当な時間が掛かってしまい、生産性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
また、成膜室の容積が大きくなることに伴い、成膜装置全体が大型化してしまい、装置を置くスペースを確保する必要が生じるという問題があった。この問題は、特に、例えば、300mmを越えるような大型基板を用いる場合においては顕著であった。
【0007】
さらに、上記文献1に記載の蒸着装置は、複数種のうち特定種の薄膜材料が無くなった場合においても、一旦、成膜室を大気開放し、蒸発源に薄膜材料を充填しなければならない。このとき、他の薄膜材料が残留している蒸発源も同時に大気開放されるので大気に晒されてしまい、残留している他の薄膜材料が酸化したり、水と吸着したりして変質し、形成された薄膜素子の特性に影響を及ぼすという問題があった。また、不純物が薄膜材料に混入し、薄膜素子の特性が変化することで、表示装置の表示品位が劣化してしまうという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に着目してなされたものであって、その目的は、成膜室の容積を小さくして同成膜室の雰囲気を速く減圧にすることのできるコンパクトな真空成膜装置、薄膜素子の製造方法及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の真空成膜装置は、基板を搬送する基板搬送室と、前記基板搬送室に接続され、前記基板搬送室との間にゲートバルブを備えた複数の蒸発源室とを備えた。
これによれば、例えば、蒸発源室の大気開放を行う開放機構と蒸発源室を個別に排気する排気機構とを備えることで、複数の蒸発源室から基板搬送室を独立させた構成にすることができる。これにより、基板搬送室の内容積を、基板搬送室と蒸発源室とが一体になった従来の真空成膜装置に比べて小さくなる。この結果、大気雰囲気から成膜に必要な真空度に至るまでの到達時間を低減させることが可能となり、稼働率の向上が図れる。また、大型基板の真空成膜装置において、基板搬送室の容積を小さくすることが可能なので、特に効果的である。
【0010】
この真空成膜装置において、前記蒸発源室の大気開放を行う開放機構と、前記蒸発源室を個別に排気する排気機構とを備えていてもよい。
これによれば、ゲートバルブを閉じることで、基板搬送室を大気開放することなく蒸着材料の交換・補充が可能となる。
【0011】
この真空成膜装置において、前記複数の蒸発源室は、それぞれ前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向に沿って備えられていてもよい。
これによれば、蒸発源室は基板の搬送方向以外の方向には備えられないので、装置の基板の搬送方向以外の方向へのスペースを小さくすることができる。また、一台の真空成膜装置に多数の蒸発源室を設けることが可能となる。
【0012】
この真空成膜装置において、前記複数の蒸発源室は、それぞれ前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向に対して長手方向を有していてもよい。
これによれば、蒸発源室が基板の搬送方向以外の方向に長手方向を有しているものに比べて、装置の基板の搬送方向以外の方向へのスペースを小さくすることができる。
【0013】
この真空成膜装置において、前記ゲートバルブは、前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向に沿って移動することで開閉を行うようにしてもよい。
これによれば、ゲートバルブの移動する方向は、前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向であるので、蒸発源室が前記基板の搬送方向以外の方向のスペースを小さくするが可能となる。従って、蒸発源室の構成がコンパクトになり、装置全体の小型化が図れる。
【0014】
この真空成膜装置において、前記蒸発源室内にシャッターを有し、そのシャッターが前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向に沿って移動することで開閉を行うようにしてもよい。
【0015】
これによれば、シャッターの移動する方向は、前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向であるので、蒸発源室が前記基板の搬送方向以外の方向のスペースを小さくするが可能となる。従って、蒸発源室の構成がコンパクトになり、装置全体の小型化が図れる。
【0016】
この真空成膜装置において、前記蒸発源室は、その一部が前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と垂直方向に移動することで大気開放を行うようにしてもよい。
これによれば、蒸発源室は、基板の搬送方向と垂直方向に移動することにより開放されるので、基板の搬送方向と同じ方向に移動して開放される場合に比べて、隣接する蒸発源室との間のスペースを小さくすることができる。この結果、真空成膜装置の前記搬送方向への大きさをコンパクトにすることができる。
【0017】
また、蒸発源室は、基板の搬送方向と垂直方向に移動することにより開放されるので、
蒸着材料の補充・蒸発源室のメンテナンス等作業性が良好となる。
この真空成膜装置において、前記蒸発源室は、前記垂直方向と垂直方向な方向にスライドして引き出される引き出し機構を備えていてもよい。
【0018】
これによれば、蒸着材料を補充する際に蒸発源室が垂直方向な方向にスライドされることにより、蒸着材料の補充・蒸発源室のメンテナンス等作業性が良好となる。
本発明の薄膜素子の製造方法は、基板を複数の蒸発源室と対向する位置に至るまで基板搬送路室内を搬送する工程と、前記蒸発源室のゲートバルブを開放する工程と、前記ゲートバルブを開放した状態で、前記基板搬送路室内を前記基板が移動しながら同基板に蒸着材料を蒸着させる工程とを備えた。
【0019】
これによれば、複数の蒸発源室上を基板が移動しながら順次所定の蒸発源室のゲートバルブを開放してその蒸発源室に設けられた蒸着材料を基板に蒸着させるようにした。これにより、所定の蒸発源室以外の蒸発源室は、ゲートバルブを閉じた状態であるので、その分、成膜に必要な真空度に至るまでの到達時間を低減させることが可能となり、稼働率の向上が図れる。また、所定の蒸発源室のバルブを開閉することで、複数の層を積層した薄膜素子を製造することができる。
【0020】
この薄膜素子の製造方法において、前記薄膜素子が有機エレクトロルミネッセンス素子であってもよい。
これによれば、有機材料で構成された層を有する、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する場合においても、基板搬送路室内を基板が移動しながら同基板に蒸着を行うことができる。
【0021】
本発明の電子機器は、上記記載の薄膜素子の製造方法を用いて製造された表示装置を備えた。
これによれば、薄膜素子製造時に、外気に晒すことはないので、製造された薄膜素子に外気からの不純物等が混入せず、薄膜素子の特性が劣化しない。これにより、信頼性のある表示装置を備えた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、本発明の真空成膜装置の第1実施形態を図1〜図5に従って説明する。尚、以下に示す各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材ごとにその縮尺を異ならせてある。
【0023】
図1は、本発明の真空成膜装置の全体を説明するための図である。図1(a)は、真空成膜装置の要部縦断面図であり、図1(b)は、その真空成膜装置の一部切欠上面図である。
【0024】
図1(a)に示すように、真空成膜装置1は、所定の一方向(図1(a)中X矢印方向)に長手方向を有する基板搬送室2と、該基板搬送室2の長手方向に沿って設けられた第1〜第3蒸発源室3A〜3Cとを備えている。基板搬送室2は、図示しない基台上に載置され、各蒸発源室3A〜3Cは基板搬送室2の図1(a)中Y矢印方向側の下側壁2aに架設されている。
【0025】
基板搬送室2内には、その長手方向(図1中X矢印方向)に沿ってガイドレールGRが設けられている。ガイドレールGRには、基板Sを保持するための基板ホルダー4が取り付けられている。
【0026】
基板ホルダー4は、図示しない搬送機構によって駆動制御されることで、ガイドレールGRに沿って図1(a)中X矢印方向に移動可能となっている。これにより、基板Sは、基板搬送室2の長手方向(図1(a),(b)中X矢印方向)に搬送される。
【0027】
また、基板搬送室2は、図示しない真空ポンプに接続され、その内部が減圧されるとともにその減圧状態を保持可能となるように密閉可能である。
図1(b)は、基板搬送室2内のガイドレールGRの上方から図1(a)中Y矢印方向に見たときの図である。図1(b)に示すように、基板搬送室2の下側壁2aには、基板Sの搬送方向に沿って略四角形状を成した第1〜第3開口部5A〜5Cが形成されている。各第1〜第3開口部5A〜5Cは、その幅方向(図1(b)中Z矢印方向)の長さが基板Sの幅方向(図1(b)中Z矢印方向)と略同一かそれ以上になるように形成されている。また、各第1〜第3開口部5A〜5Cのうち、第1開口部5Aと第2開口部5Bは隣接して形成され、第2開口部5Bと第3開口部5Cは離間して形成されている。そして、基板ホルダー4が、例えば、図1(b)中X矢印方向に移動すると、基板ホルダー4に保持された基板Sは第1開口部5A→第2開口部5B→第3開口部5Cの順に各開口部上を通過する。
【0028】
各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cは、開口部5A〜5Cに対応して備えられている。各蒸発源室3A〜3Cは、その一端側が下側壁2aに固設された4つの側壁6aで構成される直方体形状の固定部6と、四角形状のトレイ部7とから構成されている。
【0029】
固定部6の各側壁6aの他端側とトレイ部7の外枠とには、それぞれフランジ部F1,F2が形成され、例えば、Oリングといった封止部材Pを介して、固定部6とトレイ部7とが連結・分離可能になっている。尚、固定部6とトレイ部7とを連結する際は、フランジ部F1,F2を封止部材Pを介して連結した状態で、図示しない固定部材で固定することで固定部6とトレイ部7とが密着して連結されるようになっている。
【0030】
各蒸発源室3A〜3Cは、ゲートバルブGB、シャッター9,蒸発セル10、アクチュエータ11、吸排気口12及びトレイ移動部材Tを備えている。図1(a)に示すように、ゲートバルブGB、シャッター9、アクチュエータ11及び吸排気口12は、固定部6に設けられている。蒸発セル10は、トレイ部7上であって、対応する開口部5A〜5Cに対向する位置に載置されている。
【0031】
また、ゲートバルブGB及びシャッター9は、各蒸発源室3A〜3Cの内部に設けられ、アクチュエータ11は、固定部6を構成する側壁6aの外壁に設けられている。ゲートバルブGB及びシャッター9は、基板搬送室2側から図1(a)中Y矢印方向に、ゲートバルブGB→シャッター9の順に備えられている。ゲートバルブGBは、その対応する各開口部5A〜5C側に、例えば、Oリングといった封止部材Qを備えている。また、図1(b)に示すように、ゲートバルブGBは、対応する各開口部5A〜5Cの開口面積より大きな略四角形状を成している。同様に、シャッター9は、対応する各開口部5A〜5Cの開口面積より大きな略四角形状を成している。
【0032】
図1(b)に示すように、第1蒸発源室3Aについては、そのアクチュエータ11は、4つの側壁6aのうちの図1(b)中左側の側壁13Aの外壁に設けられている。第2蒸発源室3Bについては、そのアクチュエータ11は、4つの側壁6aのうちの図1(b)中右側の側壁13Bの外壁に設けられている。第3蒸発源室3Cについては、そのアクチュエータ11は、4つの側壁6aのうちの図1(b)中左側の側壁13Cの外壁に設けられている。即ち、第1蒸発源室3Aのアクチュエータ11と第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11とは、互いに隣接しないように離間した側の側壁に設けられている。また、第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11と第3蒸発源室3Cのアクチュエータ11とは、互
いに隣接した側の側壁に設けられている。
【0033】
各アクチュエータ11は、基板Sが搬送される方向(図1(a)中X矢印方向)に沿って配設されたゲートバルブ操作アーム14aを介してゲートバルブGBに接続されている。また、アクチュエータ11は、基板Sが搬送される方向(図1(a)中X矢印方向)に沿って配設されたシャッター操作アーム14bを介してシャッター9に接続されている。
【0034】
そして、第1及び第3蒸発源室3A,3Cについては、その各アクチュエータ11が駆動して各ゲートバルブ操作アーム14aを図1(b)中X矢印方向に移動させると、各ゲートバルブGBは基板搬送室2内を搬送される基板Sの搬送方向と同じ方向に沿って移動し、第1開口部5A及び第3開口部5Cに対向する位置に至る。また、同各アクチュエータ11が駆動してその各ゲートバルブ操作アーム14aを図1(b)中反X矢印方向に移動させると、各ゲートバルブGBは第1開口部5A及び第3開口部5Cから離間して図1(b)中反X矢印方向に移動する(図3参照)。
【0035】
また、第1及び第3蒸発源室3A,3Cについては、その各アクチュエータ11が駆動し、各シャッター操作アーム14bを図1(a)中X矢印方向に移動させると、各シャッター9は基板搬送室2内を搬送される基板Sの搬送方向と同じ方向に沿って移動し、第1開口部5A及び第3開口部5Cに対向する位置に至る。また、同各アクチュエータ11が駆動し、その各シャッター操作アーム14bを図1(a)中反X矢印方向に移動させると、各シャッター9は第1開口部5A及び第3開口部5Cから離間して図1(a)中反X矢印方向に移動する(図3参照)。
【0036】
第2蒸発源室3Bについては、そのアクチュエータ11が駆動して、ゲートバルブ操作アーム14aを図1(b)中反X矢印方向に移動させると、そのゲートバルブGBは第2開口部5Bに対向する位置に至る。また、同アクチュエータ11が駆動して、そのゲートバルブ操作アーム14aを図1(b)中X矢印方向に移動させると、基板搬送室2内を搬送される基板Sの搬送方向と同じ方向に沿って移動し、ゲートバルブGBは、第2開口部5Bから離間して図1(b)中X矢印方向に移動する(図2参照)。また、第2蒸発源室3Bについては、そのアクチュエータ11が駆動し、シャッター操作アーム14bが図1(a)中反X矢印方向に移動することで、そのゲートバルブGBは、第2開口部5Bに対向する位置に至る。また、同アクチュエータ11が駆動し、そのシャッター操作アーム14bが図1(a)中X矢印方向に移動すると、基板搬送室2内を搬送される基板Sの搬送方向と同じ方向に沿って移動し、シャッター9は、第2開口部5Bから離間してシャッター操作アーム14bとともに図1(a)中X矢印方向に移動する(図2参照)。
【0037】
このようにすることで、各ゲートバルブGB及び各シャッター9は、基板Sが搬送される方向(図1(b)中X矢印方向)に対して垂直方向(図1(b)中、Z矢印方向)に移動することはない。従って、基板搬送室2は、その基板Sが搬送される方向に対する垂直方向(図1(b)中、Z矢印方向)への長さがコンパクトになる。
【0038】
図2は、ゲートバルブGB及びシャッター9の構成を説明するための図である。以下、図2に示すように、第2蒸発源室3BのゲートバルブGB及びシャッター9に代表して説明する。尚、この図2では、説明の便宜上、ガイドレールGRは省略して描かれている。
【0039】
図2に示すように、ゲートバルブGB及びシャッター9は、図2中、X矢印方向に移動している。このとき、ゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bは、その一部がアクチュエータ11を介して側壁13Bより図2中、X矢印方向に外側に突き出る。このとき、前記したように、その図2中、左隣に設けられた第1蒸発源室3Aのアクチュエータ11(図1参照)と第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11とは、互いに
隣接しないように離間した側の側壁6aに設けられている。従って、第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11から突き出したゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bが第1蒸発源室3Aの側壁6aに衝突することはない。これにより、第1開口部5Aと第2開口部5Bとを隣接して形成することが可能となるので、基板搬送室2の長手方向の長さがコンパクトになる。
【0040】
また、前記したように、第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11とその図2中、右隣に設けられた第3蒸発源室3Cのアクチュエータ11(図1参照)とは、互いに隣接した側の側壁6aに設けられている。そして、第2開口部5Bと第3開口部5Cとの間の距離を各アクチュエータ11から突き出たゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bのうちの一方の開口部側から突き出たゲートバルブ操作アーム及びシャッター操作アームの長さ分より長くなるようにした。従って、ゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bが第3蒸発源室3Cの側壁13Cに衝突することはない。
【0041】
また、第2蒸発源室3B及び第3蒸発源室3Cの各アクチュエータ11から突き出た各ゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bが同一直線状ではなくなるように横方向にずらして設けるようにしてもよい。このようにすることによっても、ゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bが第3蒸発源室3Cの側壁13Cに衝突するのを回避することができる。この場合、さらに第2蒸発源室3Bと第3蒸発源室3Cとの間隔を狭くすることが可能となるので、基板搬送室2の長手方向の長さがさらにコンパクトになる。
【0042】
また、図1(a)、(b)に示すように、第1蒸発源室3Aの蒸発セル10には第1薄膜材料W1が、第2蒸発源室3Bの蒸発セル10には第2薄膜材料W2が、第3蒸発源室3Cの蒸発セル10には第3薄膜材料W3が、それぞれ格納されている。各第1薄膜材料W1、第2薄膜材料W2及び第3薄膜材料W3は、互いに同じ材料であってもまたは異なった材料であってもよい。
【0043】
図3は、蒸発セル10の構成を説明するための図である。以下、図3に示すように、第1蒸発源室3Aの蒸発セル10に代表して説明する。
図3に示すように、ゲートバルブGB及びシャッター9は第1開口部5Aから離間している。尚、図3では、説明の便宜上、ガイドレールGRは省略して描かれている。図3に示すように、蒸発セル10は、第1開口部5Aの幅方向(図3中Z矢印方向)に沿って長いボートBを備えている。ボートB上には、開口部5Aの幅方向(図3中、Z矢印方向)に沿って第1薄膜材料W1が複数箇所(図3では3箇所)載置されている。また、蒸発セル10は、図示しない電源供給回路に接続され、該電源供給回路から供給される電流量に応じてボートB全体が加熱されるようになっている。
【0044】
そして、第1蒸発源室3Aの内部が減圧状態にある場合、ボートBが所定温度に達すると第1薄膜材料W1が蒸発する。このとき、第1薄膜材料W1が開口部5Aの幅方向に複数箇所載置されているので、開口部5Aから基板搬送室2の方向へ噴出される第1薄膜材料W1の蒸発量は開口部5Aの幅方向(図3中Z矢印方向)に対して均一になる。
【0045】
尚、他の第2及び第3蒸発源室3B,3Cの各蒸発セル10についても同様にして、その開口部5Bから第2薄膜材料W2が、開口部5Cから第3薄膜材料W3が、それぞれ噴出される。
【0046】
図1(b)に示すように、吸排気口12は、本実施形態では、アクチュエータ11が取り付けられた各側壁13A,13B,13Cに備えられている。この各吸排気口12は、各第1〜第3蒸発源室3A〜3C内の雰囲気を個別に排気または大気開放する機構を構成
する。即ち、各吸排気口12は、図示しない配管を介して真空ポンプに接続されている。そして、その真空ポンプが作動することで各蒸発源室3A〜3C内の雰囲気が吸排気口12から排気され同蒸発源室3A〜3Cの内部が減圧される。また、真空ポンプによる排気を停止し、図示しないリークバルブが作動することで各吸排気口12を介して各蒸発源室3A〜3C内に大気が吸入され同各蒸発源室3A〜3C内が大気開放される。そして、この真空ポンプは、各吸排気口12に対して独立に作動するようになっているので、各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cは互いに個別にその内部の雰囲気が減圧・大気開放状態に制御可能となる。
【0047】
図1(a),(b)に示すように、トレイ移動部材Tは、第1のスライドレールSR1、第2のスライドレールSR2、中間レールSRa、及び支持レールSRbとから構成されている。
【0048】
図4は、第1蒸発源室3Aに設けられたトレイ移動部材Tを説明するための図である。図4(a)は、図1(a)中の第1蒸発源室3A付近の真空成膜装置1の断面図であり、図4(b)は、その第1蒸発源室3A付近の真空成膜装置1の上面図である。
【0049】
第1のスライドレールSR1は、図4(a)中Y矢印方向に延びている。第1のスライドレールSR1の一端は、基板搬送室2の下側壁2aに取り付けられ、その他端側は第2のスライドレールSR2の外周壁に沿って摺接されている。
【0050】
第2のスライドレールSR2は、図4(a)中Y矢印方向及び図4(b)中Z矢印方向に沿ったL字状を成している。第2のスライドレールSR2は、その図4(b)中Z矢印方向に沿った部分が中間レールSRaの内周に摺接している。
【0051】
中間レールSRaは、図4(b)中Z矢印方向に沿った部分の外周に摺接され、図4(b)中Z矢印方向に摺動可能になっている。さらに、中間レールSRaは、トレイ部7を支持する支持レールSRbの内周に摺接している。支持レールSRbは、中間レールSRaの外周に摺接され、図4(b)中Z矢印方向に摺動可能になっている。
【0052】
従って、トレイ移動部材Tは図4(a)中Y矢印方向に沿って延びることで、基板搬送室2内を搬送される前記基板Sの搬送方向と垂直方向、即ち、図4(a)中Y矢印方向に沿って移動する。この結果、トレイ部7は、固定部6から離間する。
【0053】
この状態で、トレイ移動部材Tが図4(b)中、Z矢印方向に沿って延びることで、第1蒸発源室3Aのトレイ部7は基板搬送室2の長手方向と垂直方向、即ち、図4(b)中、Z矢印方向に沿って移動する。この結果、トレイ部7は、基板搬送室2の長手方向と垂直方向にスライドして引き出される。
【0054】
このように、第1蒸発源室3Aは、そのトレイ部7が基板Sの搬送方向と垂直方向に移動することにより隣接する他の蒸発源室3B,3Cとそのトレイ部7が衝突することなく、開放される。従って、他の隣接する第2蒸発源室3Bとの間のスペースを小さくすることが可能となる。また、トレイ部7は、基板搬送室2の長手方向と垂直な方向、即ち、図4(b)中、Z矢印方向にスライドされることにより、例えば、第1薄膜材料W1の補充やゲートバルブGBといった第1蒸発源室3Aのメンテナンスの作業性が向上する。同様に、他の第2及び第3蒸発源室3B,3Cの各トレイ部7についても同様である。
【0055】
次に、前記のように構成された真空成膜装置1を使用した場合の薄膜素子の製造方法について図5に従って説明する。
図5は、真空成膜装置1を使用して基板S上に異なった3種類の薄膜が積層された薄膜
素子の製造方法を説明するための図である。
【0056】
まず、図5(a)に示すように、搬送機構(図示略)を駆動して基板ホルダー4を駆動制御し、同基板ホルダー4を第1開口部5Aと対向する位置に搬送する。このとき、基板ホルダー4に保持された基板Sの被成膜部Saが第1開口部5Aと対向する側になるようにセットする。
【0057】
各第1〜第3蒸発源室3A〜3CのゲートバルブGBは、全て対応する開口部5A〜5Cに対向する位置に至っており、各ゲートバルブGBは閉じた状態である。即ち、各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cから基板搬送室2が独立した構成になっている。
【0058】
また、このとき、各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cの吸排気口12に接続された真空ポンプが駆動し各第1〜第3蒸発源室3A〜3C内は減圧されている。
さらに、このとき、基板搬送室2の内部は、同基板搬送室2に接続された真空ポンプが作動することで減圧されている。基板搬送室2に接続された真空ポンプは、基板搬送室2内の容積、即ち、基板Sが搬送される部分のみを排気することとなるので、従来のように、ゲートバルブGBがなく各蒸発源室と基板搬送室とが一体となった構造を有したものに比べて、大気雰囲気から成膜に必要な真空度に至るまでの到達時間が低減される。
【0059】
次に、第1蒸発源室3Aのアクチュエータ11を駆動させゲートバルブGBを図5(a)中、反X矢印方向に移動させる。そして、ボートB(図3参照)を加熱し第1薄膜材料W1を蒸発させる。その後、基板搬送室2内が所定のレベルに至るまで減圧されると、第1蒸発源室3Aのアクチュエータ11を駆動させシャッター9を図5(a)中、反X矢印方向に移動させる。すると、その蒸発した第1薄膜材料W1が開口部5Aから噴出され、基板Sの被成膜部Sa上に第1薄膜材料W1が蒸着される。そして、搬送機構(図示略)を駆動させ基板ホルダー4が所定の範囲内でX矢印方向及び反X矢印方向に交互に所定時間内往復運動させる。このようにすることで、基板Sの被成膜部Sa上に均一な膜厚を有した第1薄膜材料W1で構成された第1薄膜層A1が形成される。
【0060】
そして、その所定時間経過後、第1蒸発源室3Aのアクチュエータ11を駆動させシャッター9を図5(a)中X矢印方向に移動させる。すると、基板Sの被成膜部Sa上に第1薄膜材料W1が到達不可能となり第1薄膜材料W1の蒸着が終了する。その後、第1蒸発源室3Aのアクチュエータ11を駆動させゲートバルブGBを図5(a)中X矢印方向に移動させて再びゲートバルブGBを閉じる。
【0061】
続いて、基板ホルダー4を第2開口部5Bと対向する位置に搬送する。図5(b)に示すように、第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11を駆動させゲートバルブGBを図5中、X矢印方向に移動させる。そして、ボートを加熱し第2薄膜材料W2を蒸発させる。そして、基板搬送室2内が所定のレベルに至るまで減圧されると、第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11を駆動させシャッター9を図5(b)中、X矢印方向に移動させる。
【0062】
すると、その蒸発した第2薄膜材料W2が開口部5Aから噴出され、基板Sの被成膜部Sa上に第2薄膜材料W2が蒸着される。そして、搬送機構(図示略)を駆動させ基板ホルダー4が所定の範囲内でX矢印方向及び反X矢印方向に交互に所定時間内往復運動させる。このようにすることで、基板Sの被成膜部Sa上に均一な膜厚を有した第2薄膜材料W2で構成された第2薄膜層A2が形成される。
【0063】
そして、その所定時間経過後、第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11を駆動させシャッター9を図5(b)中、反X矢印方向に移動させる。すると、基板Sの被成膜部Sa上に第2薄膜材料W2が到達不可能となり第2薄膜材料W2の蒸着が終了する。その後、第
2蒸発源室3Bのアクチュエータ11を駆動させゲートバルブGBを図5(b)中、反X矢印方向に移動させて再びゲートバルブGBを閉じる。
【0064】
続いて、基板ホルダー4を第3開口部5Cと対向する位置に搬送する。図5(c)に示すように、第3蒸発源室3Cのアクチュエータ11を駆動させゲートバルブGBを図5(c)中、反X矢印方向に移動させる。そして、ボートを加熱し第3薄膜材料W3を蒸発させる。そして、基板搬送室2内が所定のレベルに至るまで減圧されると、第3蒸発源室3Cのアクチュエータ11を駆動させシャッター9を図5(c)中、反X矢印方向に移動させる。
【0065】
すると、その蒸発した第3薄膜材料W3が開口部5Cから噴出され、基板Sの被成膜部Sa上に第3薄膜材料W3が到着可能となり蒸着が開始する。そして、搬送機構(図示略)を駆動させ基板ホルダー4が所定の範囲内でX矢印方向及び反X矢印方向に交互に所定時間内往復運動させる。このようにすることで、基板Sの被成膜部Sa上に均一な膜厚を有した第3薄膜材料W3で構成された第3薄膜層A3が形成される。
【0066】
そして、その所定時間経過後、第3蒸発源室3Cのアクチュエータ11を駆動させシャッター9を図5中、X矢印方向に移動させる。すると、基板Sの被成膜部Sa上に第3薄膜材料W3が到達不可能となり第3薄膜材料W3の蒸着が終了する。その後、第3蒸発源室3Cのアクチュエータ11を駆動させゲートバルブGBを図5(c)中、X矢印方向に移動させて再びゲートバルブGBを閉じる。
【0067】
以上により、基板Sの被成膜部Sa上に各第1薄膜層A1、第2薄膜層A2、第3薄膜層A3を、外気に晒すことなく順次積層させて形成することができる。
尚、特許請求の範囲に記載の引き出し機構は、本実施形態においては、例えばトレイ移動部材Tに対応している。特許請求の範囲に記載の蒸発源室は、本実施形態においては、例えば第1蒸発源室3A、第2蒸発源室3B、第3蒸発源室3Cに対応している。特許請求の範囲に記載の蒸着材料は、本実施形態においては、例えば第1〜第3薄膜材料W1,W2,W3に対応している。特許請求の範囲に記載の開放機構及び排気機構は、本実施形態においては、例えば吸排気口12に対応している。
【0068】
上記したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cに基板搬送室2と独立させるためのゲートバルブGBを備えた。また、各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cに吸排気口12及び吸排気口12から配管を介して各第1〜第3蒸発源室3A〜3C内の雰囲気を個別に減圧または大気圧に制御する真空ポンプに接続した。
【0069】
従って、ゲートバルブGBを閉じることで、基板搬送室2の内容積が、基板搬送室2と蒸発源室3A〜3Cとが一体になった従来の真空成膜装置に比べて実質的に小さくなるので、大気雰囲気から成膜に必要な真空度に至るまでの到達時間を低減させることが可能となる。この結果、稼働率の向上が図れる。これは、基板Sが大型の場合において、基板搬送室2の容積を小さくすることが可能なので、特に効果的である。
【0070】
また、ゲートバルブGBを閉じた状態で真空ポンプによる排気を停止させ吸排気口12を介して大気圧にすることで所定の蒸発源室3A〜3Bを個別に開放することで可能である。この結果、基板搬送室2を大気開放することなく第1〜第3薄膜材料W1〜W3の交換・補充が可能となる。
(2)本実施形態によれば、基板Sの搬送方向と同じ方向である基板搬送室2の長手方向に沿って第1〜第3蒸発源室3A〜3Cを備えた。従って、真空成膜装置1は、その基板Sの搬送方向以外の方向へのスペースを小さくすることができる。また、一台の真空成膜
装置1に多数の蒸発源を設けることが可能となる。
(3)本実施形態によれば、第1蒸発源室3Aのアクチュエータ11と第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11とを互いに隣接しないように離間した側の側壁に設けた。また、また、第2蒸発源室3Bのアクチュエータ11と第3蒸発源室3Cのアクチュエータ11とを、互いに隣接した側の側壁に設けるとともに、第2開口部5Bと第3開口部5Cを離間して形成した。従って、各アクチュエータ11から突き出すゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bが隣接する蒸発源室の側壁に衝突するのを回避させることができる。
(3)本実施形態によれば、ゲートバルブ操作アーム14a及びシャッター操作アーム14bをそれぞれ基板Sの搬送方向と同じ方向に配設し、ゲートバルブGB及びシャッター9が基板Sの搬送方向と同じ方向に移動するようにした。従って、蒸発源室3A,3B,3Cの基板Sの搬送方向以外の方向のスペースを小さくするが可能となる。この結果、蒸発源室3A,3B,3Cの搬送方向以外の方向がコンパクトになり、装置1全体の小型化が図れる。
(6)本実施形態によれば、蒸発源室3A〜3Cは、その各トレイ部7を基板搬送室2内を搬送される前記基板Sの搬送方向と垂直方向に沿って移動して固定部6から離間させ、さらに、そのトレイ部7を基板搬送室2の長手方向と垂直な方向にスライドして引き出すトレイ移動部材Tを設けた。
【0071】
従って、基板Sの搬送方向と同じ方向に移動して開放されるようにした構造を有した蒸発源に比べて、隣接する他の蒸発源室3B,3Cとそのトレイ部7が衝突することはない。この結果、他の隣接する第2蒸発源室3Bとの間のスペースを小さくすることができる。
【0072】
さらに、引き出されたトレイ部7が他の隣接する第2及び第3蒸発源室3B,3Cに衝突することないので、第1薄膜材料W1の補充やゲートバルブGBのメンテナンス等を行う際の作業性を向上させることができる。
(第2実施形態)
次に、第1実施形態の真空成膜装置1を使用して製造された有機ELディスプレイを図6及び図7に従って説明する。
【0073】
図6は、真空成膜装置1を使用して製造された有機ELディスプレイの上面図である。
図6に示すように、有機ELディスプレイ20は、ディスプレイ部DSと、該ディスプレイ部DSの下側(図6中反Y矢印方向側)に接続されたフレキシブル回路基板FCとから構成されている。ディスプレイ部DSは、その略中央に表示領域Rを、また、表示領域Rを囲む表示領域R以外の領域に非表示領域Qoをそれぞれ備えている。
【0074】
表示領域Rには、隔壁BKによって1個の赤、緑または青色画素21R,21G,21Bが設けられている。そして、図6中X矢印方向に隣接して並んだ各色画素21R,21G,21Bで1組の画素21を形成している。
【0075】
非表示領域Qoには、表示領域Rを挟むようにして一対の走査線駆動回路22が形成されている。各走査線駆動回路22は、図示しない走査線を介して一行の各色画素21R,21G,21B群毎に接続されている。そして、各走査線駆動回路22は、n行ある各色画素21R,21G,21B群を1行毎に順次選択する走査信号を出力する回路である。また、非表示領域Qo上であって、表示領域Rの上側(図1中Y矢印方向側)には検査回路23が形成されている。
【0076】
一方、フレキシブル回路基板FC上にはデータ線駆動回路24と制御回路25とが形成されている。データ線駆動回路24は、図示しないデータ線を介して1列の各色画素21
R,21G,21B毎に接続されており、前記走査線駆動回路22によって選択された行の各色画素21R,21G,21Bに対応するデータ信号を出力する。
【0077】
制御回路25は、走査線駆動回路22、検査回路23及びデータ線駆動回路24と図示しない制御線を介して接続されており、各回路を制御するための制御信号を生成する。
前記制御回路25から出力される制御信号によって、前記走査信号のタイミングに応じたデータ信号がデータ線駆動回路24から出力され、赤、緑及び青色画素21R,21G,21Bは、データ信号に応じた輝度で各色の光を出射し、その結果、表示領域R上に所望の画像が表示される。
【0078】
図7は、ディスプレイ部DSの図6中a−a線での断面図である。ディスプレイ部DSは、ガラスや高分子フィルムで構成された基板Sを備えている。基板S上には、回路形成層Sbが形成されている。回路形成層Sbには、薄膜トランジスタTFTといった各種回路素子が形成されている。この薄膜トランジスタTFTは、前記データ線駆動回路24(図6参照)からのデータ信号に応じた駆動電流を制御するためのトランジスタである。また、回路形成層Sbには、前記走査線駆動回路22や検査回路23を構成する回路素子の一部または全部が形成されている。
【0079】
回路形成層Sb上の略中央には前記表示領域Rが形成されている。表示領域R内の回路形成層Sb上には、それぞれが略矩形状を成した複数個の画素電極26が配置されている。各画素電極26は、透明導電材料で構成されている。透明導電材料としては、インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−ガリウム酸化物(IGO)、インジウム−酸化亜鉛(IZO)、インジウム−セリウム酸化物(ICO)、酸化錫(ネサ)、酸化亜鉛等を用いることができる。本実施形態の陽極14は、インジウム−スズ酸化物(ITO)で構成されている。
【0080】
各画素電極26は、回路形成層Sbに形成されたコンタクトホールHを介して対応する薄膜トランジスタTFTのドレインまたはソースに電気的に接続されている。画素電極26には、薄膜トランジスタTFTから供給される前記駆動電流の電流密度に応じたキャリア(正孔)が供給される。
【0081】
また、前記表示領域R内の回路形成層Sb上には、図7中Z矢印方向にその断面形状が略台形状である前記隔壁BKが配置されている。
隔壁BKは、アクリルやポリイミドといった撥液性を備えた有機物絶縁材料で構成されている。そして、この隔壁BKによって、図7中、その断面が凹状を成した画素形成領域27が複数個区画形成される。画素形成領域27内の各画素電極26上には、本実施形態においては、正孔注入層28が形成されている。各正孔注入層28上には赤、緑または青色用有機発光層ELR,ELG,ELBが形成されている。
【0082】
正孔注入層28は、対応する画素電極26から供給されるキャリア(正孔)を赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELBへ効率良く注入させるための層である。
赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELBは、それぞれ有機材料で構成されている。詳しくは、赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELBは、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の有機物発光材料で構成されている。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリジアルキルフルオレン(PDAF)、ポリフルイオレンベンゾチアジアゾール(PFBT)、ポリアルキルチオフェン(PAT)や、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適である。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの
高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いてもよい。
【0083】
各赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELB上には、画素電極26に対向する対向電極としての陰極29が形成されている。陰極29は、隔壁BK上を渡って非表示領域Qoの回路形成層Sb上に至るまで形成されている。陰極29は、光反射性を有する導電性材料で構成されている。
【0084】
詳しくは、陰極29は、第1陰極層29a、第2陰極層29b及び第3陰極層29cの3層の陰極層が、図7中Z矢印方向に第1陰極層29a→第2陰極層29b→第3陰極層29cの順に積層された構成である。
【0085】
第1陰極層29aは、例えば、フッ化リチウム(LiF)で構成されている。第2陰極層29bは、例えば、カルシウム(Ca)で構成されている。第3陰極層29cは、例えば、アルミニウム(Al)で構成されている。
【0086】
そして、この陰極29を構成する各陰極層29a,29b,29cは、上記第1実施形態の真空成膜装置1を用いて形成された層である。従って、各赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELB及び隔壁BK上に各第1陰極層29a、第2陰極層29b、第3陰極層29cを、外気に晒すことなく順次積層させて形成することができる。
【0087】
そして、このようにして、画素電極26と、陰極29と、その各画素電極26及び陰極29間に挟持されてなる正孔注入層28、赤色用有機発光層ELRで赤色画素21Rに形成される赤色の光を発する有機EL素子30Rが構成される。また、画素電極26と、陰極29と、その各画素電極26及び陰極29間に挟持されてなる正孔注入層28、緑色用有機発光層ELGで前記緑色画素21Gに形成される緑色の光を発する有機EL素子30Gが構成される。同様に、画素電極26と、陰極29と、その各画素電極26及び陰極29間に挟持されてなる正孔注入層28、青色用有機発光層ELBで前記青色画素21Bに形成される青色の光を発する有機EL素子30Bが構成される。
【0088】
陰極29の全面上には、パッシベーション膜31が形成されている。パッシベーション膜31により、外界からの水分や酸素が各色画素21R,21G,21Bを構成する有機材料で構成された各色用有機発光層ELR,ELG,ELBを劣化するのを抑制される。
【0089】
パッシベーション膜31の上層には、乾燥した空間Fを介して、封止部材32が形成されている。封止部材32は、パッシベーション膜31全面を覆うように、その前記回路形成層Sbの外周縁部を接着部として接着されている。
【0090】
そして、このような構成を有したディスプレイ部DSは、その各赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELBに、正孔注入層28から画素電極26に供給されたキャリア(正孔)と、陰極29からのキャリア(電子)とがそれぞれ注入され、再結合する。これにより、各赤色用有機発光層ELRから赤色の光が、各緑色用有機発光層ELGから緑色の光が、青色用有機発光層ELBから青色の光が、それぞれキャリア(正孔)の密度に応じた輝度で、即ち、前記駆動電流の電流密度に応じた輝度で発する。そして、その各赤、緑または青色の光は、図7中反Z矢印方向に正孔注入層28→画素電極26→回路形成層Sb→基板Sの順に各部材を透過して外部へ出射する。
【0091】
また、このとき、各赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELBから封止部材32側(図7中Z矢印方向側)へ発せられた各色の光は、陰極29によって基板S側(図
7中反Z矢印方向側)へ反射され、基板Sから外部へ出射する。即ち、本実施形態の有機ELディスプレイ20は、封止部材32側に対向する基板S側に所望の画像が表示されるディスプレイを構成している。
【0092】
そして、この有機ELディスプレイ20は、その陰極29が、上記第1実施形態の真空成膜装置1により形成されるため、短時間で製造することができる。これは、特大型の有機ELディスプレイを製造する場合において、より効果的である。
【0093】
また、陰極29(図7参照)は、外気に晒すことないので、陰極29に不純物等が混入せず、各有機EL素子30R,30G,30Bの特性が変化することがない。従って、表示装置の表示品位が劣化することはない。
【0094】
尚、特許請求の範囲に記載の薄膜素子は、本実施形態においては、例えば有機EL素子30R,30G,30Bに対応している。
(第3実施形態)
次に、第2実施形態で説明した有機ELディスプレイ20の電子機器の適用について図8に従って説明する。
【0095】
図8は、電子機器の一例たる携帯電話の表示部に適用した例を示す携帯電話の斜視構成図である。図8において、この携帯電話40は、上記第1実施形態の真空成膜装置1を用いて製造された有機ELディスプレイ20を用いた表示ユニット41と、複数の操作ボタン42とを備えている。この場合でも、表示ユニット41は、その陰極29(図7参照)は外気に晒すことないので、表示品位が劣化せず、信頼性のある携帯電話を提供することができる。
【0096】
尚、発明の実施形態は、上記各実施形態に限定されるものではなく、以下のように実施してもよい。
・上記実施形態では、真空成膜装置1は、有機ELディスプレイ20の陰極29を構成する第1陰極層29a、第2陰極層29b及び第3陰極層29cの各層のみを形成するようにしたが、陰極29以外の、例えば、各赤、緑及び青色用有機発光層ELR,ELG,ELBや正孔注入層28を形成する際に真空成膜装置1を使用してもよい。
【0097】
・上記実施形態では、蒸発源は3個であったが、特にこれに限定されるものではなく、2個であっても、また、4個以上であってもよい。
・上記実施形態では、各第1〜第3蒸発源室3A〜3Cは、ボートBを備え、その各ボートB上に第1〜第3薄膜材料W1〜W3を載置した構成であった。これをボート以外の他の形状を成した容器に第1〜第3薄膜材料W1〜W3を載置した構成にしてもよい。例えば、クヌーセンセルであってもよい。
【0098】
・上記実施形態では、表示装置として、有機ELディスプレイ20に適応させたが、そうではなく、要は、薄膜素子が形成されている構造を成すものであればどんな表示装置に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】(a)は、本発明の真空成膜装置の断面図、(b)はその真空成膜装置の上面図である。
【図2】ゲートバルブ及びシャッターの構成を説明するための図である。
【図3】蒸発セルの構成を説明するための図である。
【図4】スライドレールを説明するための図であり、(a)は、第1蒸発源付近の真空成膜装置の断面図であり、(b)は、第1蒸発源付近の真空成膜装置の上面図である。
【図5】(a),(b),(c)は、それぞれ、本発明の真空成膜装置を使用して薄膜素子を製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の真空成膜装置を用いて製造された有機ELディスプレイの上面図である。
【図7】有機ELディスプレイの断面図である。
【図8】電子機器の一例としての携帯電話の斜視図である。
【符号の説明】
【0100】
GB…ゲートバルブ、S…基板、T…引き出し機構としてのトレイ移動部材、W1,W2,W3…蒸着材料としての第1〜第3薄膜材料、1…真空成膜装置、2…基板搬送室、3A,3B,3C…蒸発源室としての第1蒸発源室、第2蒸発源室、第3蒸発源室、9…シャッター、12…開放機構及び排気機構としての吸排気口、30R,30G,30B…薄膜素子としての有機EL素子、50…電子機器としての携帯電話。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を搬送する基板搬送室と、
前記基板搬送室に接続され、前記基板搬送室との間にゲートバルブを備えた複数の蒸発源室と
を備えたことを特徴する真空成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空成膜装置において、
前記蒸発源室の大気開放を行う開放機構と、
前記蒸発源室を個別に排気する排気機構と
を備えたことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項3】
請求項1に記載の真空成膜装置において、
前記複数の蒸発源室は、それぞれ前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向に沿って備えられていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項4】
請求項1に記載の真空成膜装置において、
前記複数の蒸発源室は、それぞれ前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向に対して長手方向を有していることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項5】
請求項1に記載の真空成膜装置において、
前記ゲートバルブは、前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向に沿って移動することで開閉を行うことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項6】
請求項1に記載の真空成膜装置において、
前記蒸発源室内にシャッターを有し、そのシャッターが前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と同じ方向に沿って移動することで開閉を行うことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項7】
請求項2に記載の真空成膜装置において、
前記蒸発源室は、その一部が前記基板搬送室内を搬送される前記基板の搬送方向と垂直方向に移動することで大気開放を行うことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項8】
請求項7に記載の真空成膜装置において、
前記蒸発源室は、前記垂直方向と垂直方向な方向にスライドして引き出される引き出し機構を備えていることを特徴とする真空成膜装置。
【請求項9】
基板を複数の蒸発源室と対向する位置に至るまで基板搬送路室内を搬送する工程と、
前記蒸発源室のゲートバルブを開放する工程と、
前記ゲートバルブを開放した状態で、前記基板搬送路室内を前記基板が移動しながら同基板に蒸着材料を蒸着させる工程と
を備えたことを特徴とする薄膜素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の薄膜素子の製造方法において、
前記薄膜素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする薄膜素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか一つに記載の真空成膜装置を用いて製造された表示装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−4706(P2006−4706A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178379(P2004−178379)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】