説明

真空成膜装置及び真空成膜方法並びに導電性フィルム

【課題】長尺の基材フィルムを一度に投入でき、かつ連続成膜した導電性薄膜の抵抗値分布を保証し制御することができるとともに均一な膜質の導電性薄膜を連続して形成できる真空成膜装置を提供する。
【解決手段】ロール・トゥ・ロール方式真空成膜装置50において、導電性フィルム58の表面抵抗値を測定する非接触式の抵抗測定手段56に加えて、成膜手段55bと巻取り手段54との間に導電性フィルム58の光線透過率及び/または光線反射率を連続して計測する光線測定手段60と、抵抗測定手段56で測定された表面抵抗値及び光線測定手段60で計測された光線透過率及び/または光線反射率に基づいて導電性薄膜の膜特性が均一になるように成膜手段55a,55bの成膜条件を調整する制御手段65を備える構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気下でプラスチックフィルムに導電性薄膜を連続的に形成して導電性フィルムを製造するための真空成膜装置及び導電性フィルムの製造方法並びに導電性フィルムに関する。
特に接触式抵抗測定器をはじめとする機器を備え、プラスチックフィルム基材上に真空中で導電性薄膜を連続的に成膜するための製造装置、および、該製造装置を用いて、成膜流れ方向に均一な特性の薄膜を作製するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の導電性薄膜を形成する真空成膜装置について説明する。
図1は一般的なオンライン式導電性薄膜表面抵抗測定器の概略図である。
この図1において、接触式抵抗測定器は、プラスチックフィルム12が巻き掛けられる一対のフィルム搬送ロール11a、11bを電極として用い、プラスチックフィルム12に成膜された導電性薄膜の面をフィルム搬送ロール11a、11bに接触させ、この状態でフィルム搬送ロール11aと11bとの間の導電性薄膜の抵抗値を直接測定するものである。
【0003】
図2は従来における渦電流方式の非接触式導電性薄膜表面抵抗測定器の概略図である。
導電性薄膜が成膜されたプラスチックフィルム22が磁気ヘッド21aと21bとの間にあり、磁気ヘッド21aと21b間に交流磁場をかけることにより、プラスチックフィルム22上に磁場変化を打ち消す向きの渦電流24が発生する。この渦電流と導電性薄膜の抵抗値との間に相関があることから、渦電流により消費されたエネルギーを計測することにより、導電性薄膜の表面抵抗値が導き出せる。また、磁気ヘッドを複数、プラスチックフィルムの幅方向に設置することで、幅方向の抵抗値分布が測定できる。
【0004】
以下にロール・トゥ・ロール方式の真空成膜装置に渦電流方式の抵抗測定器を用いた先行技術の特許文献1,2を示す。
【特許文献1】特開2001−3167号公報
【特許文献2】特許第3922109号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
代表的な導電性薄膜であるITO(酸化インジウムスズ)薄膜の場合、ITO成膜時の酸素分圧と表面抵抗値との間に図3に示すような相関がある。
通常、表面抵抗値が最も低い抵抗値となるように、マスフローコントローラーで酸素流量を設定し、図1、2に示すオンライン式導電性薄膜表面抵抗測定器により、抵抗値を保証する。この場合、図4に示すように、概ね500Ω/□の表面抵抗値を有する導電性薄膜を1000m程度成膜する場合、この方法で保証が可能である。
しかるに、成膜長が1000m以上の長さになる場合は、フィルムの種類、履歴、季節変動などからロットごとに真空槽中のガス分圧が変動して抵抗値の最適条件から外れ、抵抗値が増大してしまう。
また、酸素流量が適正量から多くても、少なくても図3に示す関係になる傾向があることから、オンラインの導電性薄膜表面抵抗をモニタだけの機能を有する装置では、酸素流量を適正量に制御することはできなかった。また、酸素分圧の増減により、ITO膜の結晶化温度が変化することにも対処することができなかった。
なお、導電性薄膜を形成するための成膜源の数が多ければ、同じ1000mを成膜する場合の実際の成膜時間は短くなるが、プラスチックフィルムの搬送速度が速くなり、プラスチックフィルムからのガス放出の影響が顕著になるため、同様に長尺の導電性薄膜の抵抗値保証に支障があった。
【0006】
図1のような接触式のオンライン式導電性薄膜表面抵抗測定器を既設の真空装置に導入しようとした場合、プラスチックフィルムの導電性薄膜成膜面側に触れるフィルム搬送ロールが近接して2本必要であること、接触抵抗の影響を低減するために、プラスチックフィルムのロールへの巻き掛け角度が大きくなくてはならない、など、制限が多い問題があった。
一方、真空成膜装置での量産を考慮した場合、コスト面で、成膜装置の掃除、排気、リークなどの間接時間が問題となるため、可能な限り長尺のフィルム基材を導入し、成膜時間に対する間接時間の割合を低減する必要があった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決するためになされたもので、長尺の基材フィルムを一度に投入でき、かつ連続成膜した導電性薄膜の抵抗値分布を保証し制御することができるとともに均一な膜質の導電性薄膜を連続して形成できる真空成膜装置及び真空成膜方法並びに導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、基材フィルムが巻回された基材フィルムロールから基材フィルムを巻き出す巻出し手段と、前記基材フィルムロールから巻き出される前記基材フィルムの少なくとも一方の面に少なくとも1層の導電性薄膜を連続して成膜する成膜手段と、前記導電性薄膜が成膜された導電性フィルムをロール状に巻き取る巻取り手段とを有する真空成膜装置において、前記成膜手段と前記巻取り手段との間に前記導電性フィルムの表面抵抗値を連続して測定する非接触式の抵抗測定手段と、前記成膜手段と前記巻取り手段との間に前記導電性フィルムの光線透過率及び/または光線反射率を連続して計測する光線測定手段と、前記抵抗測定手段で測定された表面抵抗値及び前記光線測定手段で計測された光線透過率及び/または光線反射率に基づいて前記導電性薄膜の膜特性が均一になるように前記成膜手段の成膜条件を調整する制御手段を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載の真空成膜装置において、前記基材フィルムロールの直径または前記巻取り手段でロール状に巻き取られた導電性フィルムロールの直径が600mmφ以上700mmφ以下であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1記載の真空成膜装置において、前記成膜手段にスパッタリング法が用いられ、前記成膜手段は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電に使用されるガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するガス分圧測定手段を備え、前記ガス分圧測定手段で測定された測定値に基づいて前記制御手段により前記成膜手段の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1記載の真空成膜装置において、前記成膜手段にスパッタリング法が用いられ、前記成膜手段は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電に使用されるガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するガス分圧測定手段と、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電をモニタする放電確認手段を備え、前記ガス分圧測定手段で測定された測定値及び前記放電確認手段で確認されたプラズマ放電の結果に基づいて前記制御手段により前記成膜手段の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、導電性フィルムであって、請求項1乃至4の何れか1項に記載の真空成膜装置を用いて形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、基材フィルムが巻回された基材フィルムロールから基材フィルムを巻き出す巻出し工程と、前記基材フィルムロールから巻き出される前記基材フィルムを巻き出す巻出し工程と、前記巻き出された前記基材フィルムの少なくとも一方の面に少なくとも1層の導電性薄膜を連続して成膜する成膜工程と、前記導電性薄膜が成膜された導電性フィルムをロール状に巻き取る巻取り工程とを有する真空成膜方法において、前記成膜工程と前記巻取り工程との間に前記導電性フィルムの表面抵抗値を連続して測定する抵抗測定工程と、前記成膜工程と前記巻取り工程との間に前記導電性フィルムの光線透過率及び/または光線反射率を連続して計測する光線測定工程と、前記抵抗測定工程で測定された表面抵抗値及び前記光線測定工程で計測された光線透過率及び/または光線反射率に基づいて前記導電性薄膜の膜特性が均一になるように成膜条件を調整する工程を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項6記載の真空成膜方法において、前記基材フィルムロールの直径または前記巻取り手段でロール状に巻き取られた導電性フィルムロールの直径が600mmφ以上700mmφ以下であることを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項6記載の真空成膜方法において、前記成膜工程にスパッタリング法が用いられ、前記成膜工程は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電に使用されるガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するガス分圧測定工程を備え、前記ガス分圧測定手段で測定された測定値に基づいて前記成膜工程の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項1記載の真空成膜方法において、前記成膜工程にスパッタリング法が用いられ、前記成膜工程は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電に使用されるガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するガス分圧測定工程と、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電をモニタする放電確認工程を備え、前記ガス分圧測定工程で測定された測定値及び前記放電確認工程で確認されたプラズマ放電の結果に基づいて前記成膜工程の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項10の発明は、導電性フィルムであって、請求項6乃至9のいずれかに記載の真空成膜方法を用いて形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の真空成膜装置及び真空成膜方法並びに導電性フィルムによれば、長尺の基材フィルムを一度に投入でき、かつ連続成膜した導電性薄膜の抵抗値分布を保証し制御することができるとともに均一な膜質の導電性薄膜を連続して形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図5は本発明の実施の形態によるロール・トゥ・ロール方式の真空成膜装置の一例を示す概略構成図である。
図5に示すように、本例のロール・トゥ・ロール方式真空成膜装置50は、巻出し・巻取り室51及び成膜室52a,52bを有し、それぞれ図示されない真空ポンプと圧力調整弁によって、巻出し・巻取り室51及び成膜室52a,52bをそれぞれ所望の圧力に減圧調整できる構成になっている。
巻出し・巻取り室51には、所定の幅を有する帯状の基材フィルム57aがロール状に巻回された基材フィルムロール57から基材フィルム57aを巻き出す巻出し手段53と、導電性薄膜が成膜された導電性フィルム58をロール状に巻き取る巻取り手段54が配設されている。
巻取り手段54は、トルク量と巻取り搬送速度を独立に制御できるサーボモータ等からなる巻取り駆動軸54aを備える。また、巻出し手段53は、一定の張力をかけつつ、基材フィルム57aの巻出しを可能にするブレーキ機構付きの巻出し従動軸53aを備えている。
【0016】
巻出し・巻取り室51には、この巻出し・巻取り室51と成膜室52a,52bの両方に周面が臨むように配置された成膜ドラム52が回転可能に設けられている。この成膜ドラム52には、基材フィルムロール57から巻出される基材フィルム57aは複数のアイドルロール59aを介して成膜ドラム52へ導かれるように構成されている。また、成膜ドラム52は、成膜時の基材フィルム57aの温度を調整するための温調機構(図示せず)を具備している。温調機構としては、冷却水を循環させてなる冷水手段や不凍液かなる冷媒等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
成膜室52a,52bには、成膜ドラム52に巻き掛けられた基材フィルム57aの一方の面に2層に導電性薄膜を連続して成膜する成膜手段55a,55bがそれぞれ配設されている。この成膜手段55a,55bはスパッタリング法が用いられる。また、導電性薄膜が2層に形成された後の導電性フィルム58は複数のアイドルロール59bを介して巻取り手段54の巻取り駆動軸54aへ導かれるように構成されている。
【0017】
巻出し・巻取り室51の成膜手段55bと巻取り手段54との間には、導電性フィルム58の表面抵抗値を非接触で連続して測定する渦電流方式の抵抗測定手段56が設けられている。
抵抗測定手段56は、少なくとも成膜源である成膜手段55bと巻取り手段54との間にあればよく、近傍に金属ロールおよび金属治具がない位置ならば、いかなる位置に取り付けても良い。
また、破線で示す抵抗測定手段56aを巻出し手段53と成膜源である成膜手段55aとの間に設置し、基材フィルム57aの走行を逆転させ、2層以上の複数の導電薄膜を形成できるように対応させることも可能である。
【0018】
さらに、巻出し・巻取り室51の成膜手段55bと巻取り手段54との間には、導電性フィルム58の光線透過率及び/または光線反射率を連続して計測する光線測定手段60が設けられている。
この光線測定手段60は、図6に示すように、導電性フィルム58の一方の面(導電性薄膜が形成された面)に対向して配置され、導電性フィルム58の一方の面に向けて光を照射するとともに導電性フィルム58の一方の面で反射された光を受ける発光兼受光素子61と、導電性フィルム58の他方の面に対向して配置され、導電性フィルム58を透過した光を受ける受光素子62とから構成されている。
ここで、発光兼受光素子61及び受光素子62が受光する光の情報には、バンドパスフィルタを用いて、特定波長だけの光を検出したもの、または一定波長領域の光をモニタしたものが使用される。
【0019】
スパッタリング法による成膜手段55a,55bは、図8に示すように、ITO等のターゲット81、及び酸素、スチーム(HO)、アルゴン、窒素などの原料導入パイプ82等を備えて構成される。さらに、成膜手段55a,55bは、ガス分圧測定手段83、放電確認手段84、モニタ付き制御部85(図5の制御手段に相当する)を備える。
ガス分圧測定手段83は、スパッタリング法により導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電に使用される上記ガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するものである。また、放電確認手段84は、スパッタリング法により導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電をモニタするものである。
【0020】
図5に示す制御手段65は、抵抗測定手段56で測定された表面抵抗値及び光線測定手段60で測定された光線透過率及び/または光線反射率に基づいて導電性薄膜の膜特性が均一になるように成膜手段55a,55bの成膜条件を調整するものである。
さらに、制御手段65は、ガス分圧測定手段83で測定された測定値及び放電確認手段84で確認されたプラズマ放電結果の一方もしくは両方に基づいて成膜手段55a,55bの成膜条件を調整する機能を有している。
【0021】
次に、真空成膜装置50を用いた導電性フィルムの製造方法について説明する。
まず、巻出し従動軸53aに装着された基材フィルムロール57は、巻出されてシート状の基材フィルム57aとして成膜ドラム52の周面に沿い成膜手段55a,55bへ移送される。その後、基材フィルム57aは任意の温度に設定された成膜ドラム52に巻き掛けられた状態で、巻出し・巻取り室51から成膜室52a及び52bへと移送される。そして、成膜室52a,52bの成膜手段55a,55bで成膜された後のシート状の基材フィルム57aはアイドルロール59bを介して巻取り駆動軸54aに導電性フィルム58として巻き取られる。この間、シート状の基材フィルム57aは図示省略のテンションロールにより一定の張力が保たれる。
【0022】
シート状の基材フィルム57aが移送されている間、成膜室52a,52bは図示省略の真空ポンプにより減圧され手所定の真空状態に保たれる。その後、原料導入パイプ82から成膜用の原料ガスを成膜室52a,52bへ導入する。続いて、例えば放電ガスとしてのアルゴンガス中に原料ガスである酸素やスチーム(HO)のような酸化反応ガスを混入して、プラズマ放電を起こし、生成した混合ガスによるITO等のターゲットのスパッタリングにより、ITO等の導電性薄膜を基材フィルム57aの一方の面に2層に連続して形成する。そして、導電性薄膜が形成された基材フィルム57aは導電性フィルム58として巻取り手段54の巻取り駆動軸54aにロール上に巻き取られる。
この場合、導電性フィルムの製造に使用される基材フィルムロール57の直径または巻取り手段54の巻取り駆動軸54aにロール状に巻き取られた導電性フィルム58のロールの直径は600mmφ以上700mmφ以下である。
【0023】
一方、導電性フィルム58の表面抵抗値は抵抗測定手段56により連続して測定され、その表面抵抗値は成膜手段55a,55bの成膜条件を調整する情報として制御手段65に取り込まれる。さらに、導電性フィルム58の光線透過率及び/または光線反射率は光線測定手段60により連続して計測され、その計測値は成膜手段55a,55bの成膜条件を調整する情報として制御手段65に取り込まれる。
また、ガス分圧測定手段83で測定された測定値及び放電確認手段84で確認されたプラズマ放電の結果は、成膜手段55a,55bの成膜条件を調整する情報として制御手段65に取り込まれる。
【0024】
図7は、本実施の形態における酸素分圧と光線透過率の一般的な関係を示したグラフである。
この図7において、酸素適量から酸素が少ないと、薄膜の吸収が大きく、透過率が低下、反対に、酸素が多いと、透過率が増大する。逆に光線反射率をモニタリングしていた場合、酸素が少ないと反射率が高く、酸素が多くなるに従い、反射率が低下する傾向がある。したがって、抵抗測定手段56において、表面抵抗値が増大した場合、光線測定手段60により計測された光線透過率及び/または光線反射率のモニタ結果と組み合わせることにより、酸素分圧の過少が判断でき、そして、これらの測定情報を制御手段65にフィードバックすることにより、成膜手段55a,55bの成膜条件を適正化する。
また、ガス分圧測定手段83で測定されたガス分圧、放電確認手段84で測定されたプラズマ放電の発光強度をモニタリングすることにより、表面抵抗値のデータおよび分圧、プラズマ発光強度変化に基づいて、自動的に(あるいは手動により)成膜手段55a,55bの成膜条件を調整する。
【0025】
図9は、本実施の形態における成膜時の酸素分圧とITOの結晶化温度の関係を示したグラフである。
この図9において、HO分圧が低いと、大気中でアニールすることにより、容易に結晶化する特性をもち、反対にHO分圧が高いと、アモルファスを維持する傾向がある。したがって、HOを導入、増減させ、常にHO分圧を一定に保つように制御することにより、結晶化度においても均一な薄膜を形成することが可能となる。
【0026】
プラズマ放電の発光を放電確認手段84でモニタするに際しては、例えば、酸素イオンの発光強度をモニタリングすることにより、酸素分圧を定量することができる。この時、シート状基材フィルム57aの幅方向の複数箇所を複数の放電確認手段84でモニタすることにより、フィルム幅方向の酸素分圧の分布を確認することができ、酸素ガスの導入口を分けておくことにより、フィルム幅方向の酸素分圧の分布の調整も可能である。
また、導電性薄膜の抵抗値および酸素分圧を定量できれば、図3に示す関係より、抵抗値を最適な値にするための条件に再設定することが可能である。
【0027】
導電性薄膜の成膜方法に関しては、特に限定されるものではなく、スパッタリング法、イオンプレーティング法、等が挙げられるが、再現性、大面積化等の観点から、スパッタリング法が広く用いられる。
また、インラインで複数の薄膜を形成させるため、あるいは生産性を向上させるために複数の成膜源を有していてもかまわない。
【0028】
本発明に用いるプラスチック製の基材フィルムとしては、成膜工程および後工程において十分な強度があれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリイミド等が挙げられる。また、基材フィルムの厚さは部材の薄型化と基材の可撓性とを考慮し、10〜200μm程度のものが用いられる。これら基材フィルムの表面に周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤、オリゴマー防止層などが使用されてもよい。また密着性を改善するため、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理などを施してもよい。
また、適用させるデバイスの要求仕様に応じて、少なくとも一方の面にハードコート処理、防汚/撥水処理等の処理を施してもかまわない。
【0029】
上述のような本実施の形態によれば、ロール・トゥ・ロール方式の真空成膜装置及び真空成膜方法を用いて基材フィルム上に導電性薄膜を形成することにより、導電性フィルムを連続的に大量に生産することが可能となる。そして、巻出し従動軸に装着された基材フィルムロールの直径または巻取り駆動軸にロール状に巻回される導電性フィルムの直径が600mmφ以上700mmφ以下であることにより、6インチのコアに200μm厚の基材フィルムが1000m以上、100μm厚の基材フィルムでは2500m以上の導電性フィルムを装着または巻き取ることができ、真空成膜装置の稼働に対する間接時間の割合を短縮でき、生産性が向上する。
【0030】
また、本実施の形態においては、表面抵抗値を測定する手段に非接触式のオンライン導電性薄膜表面抵抗測定手段を用いることにより、本発明の真空成膜方法を既存の装置に、基材フィルムの表裏、基材フィルム搬送ロールに対するフィルムの巻き付け角度などを考慮することなく、導入することが可能である。
また、本実施の形態においては、導電性薄膜を形成するための成膜源である成膜手段から巻取り手段との間のフィルムパス上に成膜後のフィルムの光線透過率及び/あるいは光線反射率を計測できる光線測定手段を設置し、光線透過率、光線反射率、およびそれらから算出される薄膜の屈折率をモニタリングすることにより、成膜する際のフィルム走行方向の膜質の均一性を確認することができ、かつ膜質が変動した場合、この数値を元に成膜条件を再調整することが可能となる。また、フィルムの幅方向に複数の抵抗測定手段及び光線測定手段を設置することにより、幅方向の均一性を確認することも可能となる。
【0031】
また、本実施の形態においては、導電性薄膜を形成するための成膜源付近のガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するガス分圧測定手段を設置することにより、随時、成膜雰囲気の状態を確認することができ、成膜雰囲気の状態が変動した場合、この数値を元に成膜条件を再調整することが可能となる。
また、本実施の形態においては、導電性薄膜を形成するための成膜源付近に、プラズマ発光スペクトルをモニタする放電確認手段を設置することにより、随時放電状態を確認することができ、放電状態が変動した場合、この数値を元に放電状態を再調整することが可能となる。
また、本実施の形態においては、非接触式オンライン導電性薄膜表面抵抗測定手段および上述した光線測定手段、ガス分圧測定手段、放電確認手段の1種類以上を設置した成膜方法を採用することにより、1000mを超えた成膜に対しても成膜条件のフィードバック制御により、均一な膜質の導電性薄膜を形成することが可能になる。
【0032】
なお、本発明の真空製膜装置により得られる導電性薄膜を形成したプラスチック製の導電性フィルムは、導電性能等の機能を有する機能性フィルム基材として、液晶ディスプレイ、電子ペーパー、タッチパネル等の電極として好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来のオンライン式導電性薄膜表面抵抗測定器の測定原理の一例を示す概略図である。
【図2】非接触式導電性薄膜表面抵抗測定器の測定原理の一例を示す概略図である。
【図3】ITO成膜時の酸素分圧と表面抵抗値の関係を示すグラフである。
【図4】ロール・トゥ・ロールの成膜長と製造された導電性薄膜の表面抵抗値の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態にかかるロール・トゥ・ロール方式真空成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【図6】本実施の形態における光線測定手段の一例を示す概略構成図である。
【図7】本実施の形態における導電性薄膜成膜時の酸素分圧と導電性薄膜の透過率の関係を示すグラフである。
【図8】本実施の形態におけるスパッタリングカソード近傍に設置されたガス分圧測定手段及び放電確認手段の概略構成図である。
【図9】本実施の形態におけるITO薄膜成膜時のHO分圧と結晶化温度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
50……真空成膜装置、51……巻出し・巻取り室、52……成膜ドラム、52a,52b……成膜室、53……巻出し手段、53a……巻出し従動軸、54……巻取り手段、54a……巻取り駆動軸、55a,55b……成膜手段、56……抵抗測定手段、57……基材フィルムロール、57a……基材フィルム、58……導電性フィルム、60……光線測定手段、61……発光兼受光素子、62……受光素子、65……制御手段、81……ターゲット、82……原料ガス導入パイプ、83……ガス分圧測定手段、84……放電確認手段、85……モニタ付き制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムが巻回された基材フィルムロールから基材フィルムを巻き出す巻出し手段と、
前記基材フィルムロールから巻き出される前記基材フィルムの少なくとも一方の面に少なくとも1層の導電性薄膜を連続して成膜する成膜手段と、
前記導電性薄膜が成膜された導電性フィルムをロール状に巻き取る巻取り手段とを有する真空成膜装置において、
前記成膜手段と前記巻取り手段との間に前記導電性フィルムの表面抵抗値を連続して測定する非接触式の抵抗測定手段と、
前記抵抗測定手段で測定された表面抵抗値に基づいて前記導電性薄膜の膜特性が均一になるように前記成膜手段の成膜条件を調整する制御手段を備え、
前記巻出し手段は、600mmφ以上700mmφ以下の直径の前記基材フィルムロールが装着可能に構成され、
前記巻取り手段は、前記導電性フィルムが600mmφ以上700mmφ以下の直径に巻き取られるように構成されている、
ことを特徴とする真空成膜装置。
【請求項2】
前記成膜手段と前記巻取り手段との間に前記導電性フィルムの光線透過率及び/または光線反射率を連続して計測する光線測定手段を設け、前記光線測定手段で計測された光線透過率及び/または光線反射率に基づいて前記制御手段により前記成膜手段の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の真空成膜装置。
【請求項3】
前記成膜手段にスパッタリング法が用いられ、前記成膜手段は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電に使用されるガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するガス分圧測定手段を備え、前記ガス分圧測定手段で測定された測定値に基づいて前記制御手段により前記成膜手段の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の真空成膜装置。
【請求項4】
前記成膜手段にスパッタリング法が用いられ、前記成膜手段は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電をモニタする放電確認手段を備え、前記放電確認手段で確認されたプラズマ放電の結果に基づいて前記制御手段により前記成膜手段の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の真空成膜装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の真空成膜装置を用いて形成したことを特徴とする導電性フィルム。
【請求項6】
基材フィルムが巻回された基材フィルムロールから基材フィルムを巻き出す巻出し工程と、
前記基材フィルムロールから巻き出される前記基材フィルムを巻き出す巻出し工程と、
前記巻き出された前記基材フィルムの少なくとも一方の面に少なくとも1層の導電性薄膜を連続して成膜する成膜工程と、
前記導電性薄膜が成膜された導電性フィルムをロール状に巻き取る巻取り工程とを有する真空成膜方法において、
前記成膜手段と前記巻取り手段との間に前記導電性フィルムの表面抵抗値を連続して測定する抵抗測定工程と、
前記抵抗測定工程で測定された表面抵抗値に基づいて前記導電性薄膜の膜特性が均一になるように成膜条件を調整する制御工程を備え、
前記成膜工程で成膜される前記基材フィルムの長さは1000m以上である、
ことを特徴とする真空成膜方法。
【請求項7】
前記成膜工程と前記巻取り工程との間に前記導電性フィルムの光線透過率及び/または光線反射率を連続して計測する光線測定工程を有し、前記光線測定工程で計測された光線透過率及び/または光線反射率に基づいて前記制御工程で前記成膜手段の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする請求項6記載の真空成膜方法。
【請求項8】
前記成膜工程にスパッタリング法が用いられ、前記成膜工程は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電に使用されるガス種ごとのガス分圧を定量分析し測定するガス分圧測定工程を備え、前記ガス分圧測定手段で測定された測定値に基づいて前記制御工程で前記成膜工程の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする請求項6または7記載の真空成膜方法。
【請求項9】
前記成膜工程にスパッタリング法が用いられ、前記成膜工程は、前記スパッタリング法により前記導電性薄膜を形成する時のプラズマ放電をモニタする放電確認工程を備え、前記ガス分圧測定工程で測定された測定値及び前記放電確認工程で確認されたプラズマ放電の結果に基づいて前記制御工程で前記成膜工程の成膜条件を調整するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の真空成膜方法。
【請求項10】
請求項6乃至9の何れか1項に記載の真空成膜方法を用いて形成したことを特徴とする導電性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−235488(P2009−235488A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82983(P2008−82983)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】