説明

真空蒸着装置、及び真空蒸着方法

【課題】筒状の基材の内周面に蒸着源を均一に蒸着させる。
【解決手段】真空蒸着装置10は、真空チャンバーを備え、真空チャンバー内部に円筒形の基材20を配置する。基材20の内周側にはさらに真空ボート11を配置する。真空ボート11の上面12には凹陥部13を設ける。凹陥部13内部には蒸着源14を充填する。基材20は軸Xを中心に回転すると共に、真空ボート11は軸X方向に沿って往復移動する。この状態で、蒸着ボート11を加熱し蒸着源14を気化させ、基材20の内周面21に蒸着源14を蒸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の基材の内周面に有機発光材料等を成膜するために用いられる真空蒸着装置、及び真空蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)の発光層や電極を、真空蒸着装置を用いて形成することが知られている。真空蒸着装置では、真空チャンバー内に蒸着源と基板とが対向して配置され、真空チャンバー内が減圧された状態で、蒸着源が加熱され、蒸着源が蒸発または昇華することにより、気化し、気化した蒸着源が基板の表面に堆積し、発光層や電極が成膜される。
【0003】
特許文献1には、蒸着源と基板が対向する空間を囲む壁として筒体が用いられ、蒸着源が堆積されない温度に加熱された上記筒体が真空チャンバー内に複数配置されると共に、基板が各筒体の開口部間を移動する真空蒸着装置が開示されている。この真空蒸着装置においては、同一基板上に複数の蒸着源が容易に堆積され、これにより異なる材料から成る有機層が多層に積層して構成される有機EL層を容易に成膜することができる。
【0004】
また、特許文献1に開示された別の真空蒸着装置には、真空チャンバーに接続された減圧可能な予備チャンバーが複数付設され、蒸着源が真空チャンバーと予備チャンバーの間で移動可能であることが開示されている。この真空蒸着装置では、真空チャンバーと予備チャンバーとの間にゲートバルブが設けられ、両チャンバー間が遮断可能であるので、蒸着源が消費されても、真空チャンバー内が大気に曝露されることなく、新たな蒸着源が予備チャンバーから真空チャンバー内に補充可能である。
【特許文献1】特許第3742567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内視鏡やトラカール等、体内に挿入されて使用される医療器具は、体内を観察するために照明装置が必要とされ、近年その照明装置が検討されつつある。上記医療器具は、患者に対する侵襲を小さくするため径が小さい中で、より発光面積を広く均一に発光させることが求められている。そこで、発明者らは、円筒内面を発光させることを考え、それを達成させるのに容易な有機EL素子により上記照明装置を構成することを考えた。また、デザインとして曲率を有する部材(例えば、洗濯機、車の方向指示器など)の内周面に、面発光体として有機EL素子を適用することが考えられている。筒体等の内周面に有機EL素子を配設するためには、有機EL素子を構成する有機発光材料や電極材料を、筒体の内周面に成膜させる必要がある。
【0006】
特許文献1等に記載の真空蒸着装置では、蒸着源や基板が移動する構成が開示されている。しかし、この真空蒸着装置は、有機発光材料や電極材料が平面基板上に蒸着されることを前提とした構成を有している。したがって、この真空蒸着装置を用いて、筒体等の内周面に有機発光材料等を蒸着させようとしても、膜厚が一定にできない等の不具合が生じるおそれがある。特に、筒体の半径が小さいほど、膜厚を均一にすることは困難である。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、筒体の内周面に有機発光層や電極を均一に成膜することができる真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る真空蒸着装置は、減圧雰囲気下において、内周面が凹曲面を有する基材の内周側に、蒸着源を配置させる支持部材と、基材を軸中心に回転させる回転手段と、回転する基材の内周面に、蒸着源を加熱して蒸着させる加熱手段とを備えることを特徴とする。なお、上記軸とは、凹曲面の曲率中心を通る軸のことをいう。
【0009】
支持部材は蒸着ボートであって、蒸着源は、蒸着ボート上に配置されて基材の内周側に配置されることが好ましく、蒸着ボートが例えば通電されることにより、蒸着源が加熱される。
【0010】
蒸着源は基材に対して相対的に基材の軸方向に往復移動されつつ加熱されたほうが良く、これにより蒸着源は軸X方向に沿う方向にも均一に蒸着させられやすくなる。蒸着源は、例えば上記蒸着ボートと共に軸方向に移動させられても良いし、例えば蒸着源が静止する一方、基材が軸方向に移動させられても良い。
【0011】
基材は、内周面が凹曲面であれば、その形状は特に限定されず、例えば半円筒形状であっても良いし、円筒形状であっても良い。ただし、基材は筒形状を呈し、特に円筒形状のように内周面が円周面であったほうが良く、これにより蒸着源は内周面上に均一に蒸着されやすくなる。
【0012】
蒸着源は有機EL材料を含み、有機EL層の少なくとも一部を成膜するために使用されることが好ましい。なお、有機EL層は、陽極、陰極の間に挟みこまれて配置されると共に、有機発光材料を含む有機発光層を少なくとも有し、陽極と陰極の間に電圧が印加されると、発光する構成を有する。有機EL層は、任意に電子輸送層、正孔輸送層、電子注入層、正孔注入層等を含んでいても良い。そして、有機EL材料とは、上記有機EL層の各層を構成する有機発光材料、有機電子輸送材料、正孔輸送材料、電子注入材料、正孔注入材料等をいう。
【0013】
本発明に係る真空蒸着方法は、減圧雰囲気下において内周面が凹曲面を有する基材の内周側に蒸着源を配置し、基材を軸中心に回転させるとともに、蒸着源を加熱し、基材の内周面に蒸着源を蒸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明では、蒸着源が内周面が凹曲面を有する基材の内周側に配置されると共に、基材が軸を中心に回転させられた状態で、基材の内周面に蒸着源が蒸着されるので、基材の周方向において蒸着源を均一に蒸着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1、2は本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置を示す図である。真空蒸着装置10は、不図示の真空チャンバーを有し、真空チャンバー内には蒸着ボート11及び基材20が配置される。
【0016】
基材20は有機EL素子の基板となるものであって、円筒形状を呈する。基材20はガラス、プラスチック等の絶縁材料から形成される。基材20の内周面には、予め不図示の陽極(第1電極)が所定の形状にパターニングして形成されると共に、その陽極の上にはシャドーマスクが被せられている。基材20及び陽極は、内周面21に形成される有機EL素子からの光が透過できるように、光透過性を有することが好ましい。基材20は不図示の回転機構に取り付けられるとともに、不図示の支持機構に回転可能に支持される。このような構成により、基材20は、真空チャンバー内において軸Xを中心に回転可能であって、その回転速度は自由に調整可能である。
【0017】
蒸着ボート11は、薄厚の略矩形の板形状を呈し、上面12から凹陥する凹陥部13が設けられる。蒸着ボート11は、その長手方向が軸X方向に一致し、軸Xの延長線上に配設される。蒸着ポート11は、不図示の支持機構に移動可能に支持されていると共に、不図示の移動機構に取り付けられている。これにより蒸着ボート11は軸X方向に沿って移動可能であって、その移動量及び移動速度は自由に調整可能である。
【0018】
蒸着ボート11の長さは、基材20の軸X方向の長さより長く、かつ凹陥部13の軸X方向の長さは基材20の軸X方向の長さに略等しい。蒸着ボート11は、タングステン、モリブデン等の高融点金属から成り、電流が流されると蒸着ボート11を抵抗体として、凹陥部13内部に載置された蒸着源14が加熱される。
【0019】
真空蒸着装置10を用いて、蒸着源14が基材20の内周面21に蒸着されるとき、まず、図1に示すように蒸着ボート11が基材20の外部に配置され、蒸着ボート11の凹陥部13内に蒸着源14が充填される。次いで、蒸着ボート11は蒸着源14と共に軸X方向に移動させられ、基材20の径方向内側(すなわち、内周側)に移動させられる。このとき、好ましくは蒸着源14は略軸X上に配置されられると共に、好ましくは軸X方向において凹陥部13の中心位置が基材20の中心位置に一致し、凹陥部13(すなわち、蒸着源14)が基材21の内部に配置させられる。このときの蒸着ボート11の位置は以下初期位置という。基材20の内周側に配置された蒸着ボート11には電源部30が接続され、電流が通電可能となっている。
【0020】
次いで、蒸着ボート11が上記初期位置を中心に軸X方向に沿って往復移動させられると共に、基材20が軸Xを中心に一定速度で回転させられる。蒸着ボート11及び基材20の往復移動及び回転が継続した状態で、真空チャンバー内は不図示の真空ポンプによって、真空状態(例えば、0.01Pa以下)に減圧されると共に、蒸着ボート11に電流が流され、蒸着ボート11と共に蒸着源14が加熱される。
【0021】
このように真空チャンバー内が減圧された状態で蒸着源14が加熱されると、蒸着源14は溶融・蒸発し又は昇華することにより、気化し、蒸着源14は凹陥部13内部から上方に向けて飛散し、基材20の内周面21に到達し、これにより、内周面21に蒸着源14から成る被膜物が成膜される。本実施形態では、蒸着源14が加熱されているとき、基材20は軸Xを中心に一定速度で回転させられているため、基材20の内周面21には被膜物が周方向において均一な厚さに成膜される。また、蒸着ボート11は軸X方向に往復移動させられているので、被膜物は軸X方向においても均一な厚さに成膜される。
【0022】
本実施形態における真空蒸着装置10は、有機EL素子の製造のために使用される。したがって、蒸着源14としてはまず有機発光材料が用いられ、上述したようにシャドーマスクが被せられた基材20の内周面21には有機発光材料が蒸着され、陽極上に有機発光層が形成される。有機発光層が形成された後、蒸着ボード11には蒸着源14として金属材料が充填され、陰極(第2の電極)が有機発光層上に形成される。このように陽極上に有機発光層及び陰極が被膜された基材20は、真空チャンバーから取り出され、シャドーマスクが外された後、基材20内部に吸湿材が充填される。そして、基材20の内周面21にシール材が被せられて有機発光層が封止され、これにより有機EL素子が形成される。
【0023】
本実施形態では、有機発光層が成膜されるとき、基材20の内周側に2つの蒸着ボート11が配置されても良い。この場合、一方の蒸着ボート11内に蒸着源14として有機材料のホスト材料が載置されると共に、他方の蒸着ボート11内に蒸着源14として蛍光発光材料が載置され、これらが陽極上に共蒸着されて、蛍光発光材料がドープされた有機発光層が形成されても良い。勿論、基材20の内周側には3つ以上の蒸着ボート11が配置され、3以上の有機材料等が共蒸着されても良い。
【0024】
また、上述した製造方法では、陽極と陰極の間に有機発光層のみしか成膜されなかったが、有機電子輸送材料、正孔輸送材料、電子注入材料、正孔注入材料等が蒸着源14として使用され、電子輸送層、正孔輸送層、電子注入層、正孔注入層等がさらに成膜されても良い。勿論、有機発光層が2層以上積層されても良い。
【0025】
さらに、本実施形態では、蒸着源14は、蒸着ボート11が通電されて加熱されるいわゆる抵抗加熱法により加熱されたが、他の方法で加熱されても良く、例えば蒸着源14に電子が加速されて照射され、蒸着源が加熱される電子ビーム法や、誘電加熱により蒸着源が加熱される誘電加熱法等によって加熱されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる真空蒸着装置であって、蒸着源が基材内部に配置される前の状態を示す模式的な斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる真空蒸着装置であって、蒸着源が加熱されるときの状態を示す模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
10 真空蒸着装置
11 蒸着ボート(支持部材)
13 凹陥部
14 蒸着源
20 基材
21 内周面
X 軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下において、内周面が凹曲面を有する基材の内周側に、蒸着源を配置させる支持部材と、
前記基材を軸中心に回転させる回転手段と、
前記回転する基材の内周面に、前記蒸着源を加熱して蒸着させる加熱手段と、
を備える真空蒸着装置。
【請求項2】
前記支持部材は蒸着ボートであって、前記蒸着源は、前記蒸着ボート上に配置されて前記基材の内周側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸着ボートが通電されることにより、前記蒸着源が加熱されることを特徴とする請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸着源は前記基材に対して相対的に前記軸方向に往復移動されつつ加熱されることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記基材は筒形状を呈することを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記蒸着源は有機EL材料を含み、有機EL層の少なくとも一部を成膜するために使用されることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
減圧雰囲気下において内周面が凹曲面を有する基材の内周側に蒸着源を配置し、前記基材を軸中心に回転させるとともに、前記蒸着源を加熱し、前記基材の内周面に蒸着源を蒸着させることを特徴とする真空蒸着方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−63618(P2008−63618A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242551(P2006−242551)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】