説明

睡眠導入剤、並びに、これを含有する医薬組成物及び食品

【課題】睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を短時間で誘導する効果に優れ、かつ安全性の高い睡眠導入剤、並びに、前記睡眠導入剤を含有する医薬組成物及び食品を提供すること。
【解決手段】以下の構造式(1)で表されるハイパフォリン、及びその医薬的に許容され得る塩の少なくともいずれかを含有することを特徴とする睡眠導入剤、並びに、前記睡眠導入剤を含有する医薬組成物及び食品である。
【化4】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不眠状態や睡眠が必要な状態の患者に適用され得る、睡眠導入剤、並びに、前記睡眠導入剤を含有する医薬組成物及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
不眠状態や睡眠が必要な状態の患者に適用される睡眠導入剤としては、従来から様々なものが知られており、例えば、トリアゾラム、ロルメタゼパム、フルニトラゼパム等のベンゾジアゼピン系の薬剤;エチゾラム等のチエノジアゼピン系の薬剤;ペントバルビタール等のバルビツール酸系の薬剤;抗ヒスタミン薬などが知られている。以前は、これらの中でもバルビツール酸系の薬剤がよく用いられていたものの、副作用が強いことなどから、現在では比較的安全なベンゾジアゼピン系の薬剤が多く用いられる傾向にある。
しかし、程度に差はあるものの、前記従来の睡眠導入剤はいずれも、依存形成、一過性の健忘、覚醒後の眠気、悪夢などの副作用の可能性があり、このため、より副作用の心配の少ない睡眠導入剤が求められていた。
【0003】
そこで、より副作用の少ない睡眠導入剤を開発する目的で、従来から、植物由来成分をはじめとした種々の天然由来成分の、睡眠導入剤としての使用が提案されている。
例えば、アキノワスレグサ(Hemerocallis fulva var.sempervirens)の発酵処理物は、総睡眠時間を延長させる等の睡眠改善作用を有することが報告されている(特許文献1参照)。また、バレリアーナ(Valerianaceae)属植物又はその抽出物は、主観的な睡眠感を改善させる等の睡眠改善作用を有することが報告されている(特許文献2参照)。また、例えばヒノキやヒバ等の針葉樹に含まれる香気成分の1種であるセドロール等のセスキテルペンアルコール類は、交感神経を抑制し副交感神経活動を優位にさせることができ、睡眠深度を深める等の睡眠改善作用を有することが報告されている(特許文献3参照)。
【0004】
前記したような天然由来成分を利用した睡眠導入剤は、一般に安全性が高く、副作用の少ない睡眠導入剤としての使用が有望である。しかし一方で、前記天然由来成分を利用した睡眠導入剤では、効果が弱く、所望の睡眠改善効果が得られない場合も多い。
したがって、安全性の高さ、及び睡眠改善効果の高さのいずれをも兼ね備えた、優れた睡眠導入剤の開発は、未だ望まれているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特許公開第2006−62998号公報
【特許文献2】特許公開第2003−183174号公報
【特許文献3】国際公開第01/058435号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を短時間で誘導する効果に優れ、かつ安全性の高い睡眠導入剤、並びに、前記睡眠導入剤を含有する医薬組成物及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、マメ科エリスリナ(Erythrina)属に属する植物から得られる生理活性物質、ハイパフォリンが、優れた睡眠導入作用を有するという知見である。
前記ハイパフォリン(Hypaphorine:N,N,N−Trimethyl−1−carboxylato−2−(1H−indole−3−yl)ethanaminium)は、後述する構造式(1)で表される、インド−ルアルカロイド化合物の1種であり、植物においては、例えばコツブタケ等の外生菌根菌に含まれ、共生する植物の根毛の伸長を阻害する働きがあることなどが知られている(例えば、Planta.2000 Oct;211(5):722−8参照)。
しかしながら、前記ハイパフォリンが、優れた睡眠導入作用を有しており、安全性の高い睡眠導入剤として使用可能であることは従来全く知られておらず、本発明者らの新たな知見である。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 以下の構造式(1)で表されるハイパフォリン、及びその医薬的に許容され得る塩の少なくともいずれかを含有することを特徴とする睡眠導入剤である。
【化2】

<2> ハイパフォリンが(+)−ハイパフォリンである前記<1>に記載の睡眠導入剤である。
<3> ハイパフォリンが植物由来である前記<1>から<2>のいずれかに記載の睡眠導入剤である。
<4> ハイパフォリンがマメ科エリスリナ(Erythrina)属に属する植物由来である前記<1>から<3>のいずれかに記載の睡眠導入剤である。
<5> マメ科エリスリナ属に属する植物が、エリスリナ ベルチナ(Erythrina velutina)、デイゴ(Erythrina variegata)、及び、アメリカデイゴ(Erythrina crista−galli)からなる群より選択される少なくとも1種である前記<4>に記載の睡眠導入剤である。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の睡眠導入剤を含有することを特徴とする医薬組成物である。
<7> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の睡眠導入剤を含有することを特徴とする食品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を短時間で誘導する効果に優れ、かつ安全性の高い睡眠導入剤、並びに、前記睡眠導入剤を含有する医薬組成物及び食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(睡眠導入剤)
本発明の睡眠導入剤は、ハイパフォリン、及びその医薬的に許容され得る塩の少なくともいずれかを含有してなり、必要に応じて更にその他の成分を含有してなる。
【0011】
<ハイパフォリン>
前記ハイパフォリン(Hypaphorine:N,N,N−Trimethyl−1−carboxylato−2−(1H−indole−3−yl)ethanaminium)は、後述する構造式(1)で表される、インド−ルアルカロイド化合物の1種である。
【化3】

【0012】
なお、前記ハイパフォリンとしては、(+)体である(+)−ハイパフォリンを使用することが、特に好ましい。
また、前記医薬的に許容され得る塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機塩及び有機塩のいずれかが挙げられ、より具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩などが挙げられる。
前記ハイパフォリン、及びその医薬的に許容され得る塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
前記ハイパフォリンは、その入手方法に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化学的に合成されたものを使用してもよいし、天然物由来のものを使用してもよい。これらの中でも、より副作用の心配が低減されるという点で、天然物由来のものが好ましい。
前記ハイパフォリンが天然物由来のものである場合、その由来としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、植物由来であることが好ましく、中でも、マメ科エリスリナ(Erythrina)属に属する植物由来であることがより好ましい。前記マメ科エリスリナ属に属する植物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エリスリナ ベルチナ(Erythrina velutina)、デイゴ(Erythrina variegata)、アメリカデイゴ(Erythrina crista−galli)、エリスリナ リシステモン(Erythrina lysistemon)、エリスリナ コラロデンドロン(Erythrina corallodendron)、エリスリナ セネガレンシス(Erythrina senegalensis)、エリスリナ ブレビフロラ(Erythrina breviflora)、エリスリナ アビシニカ(Erythrina abyssinica)などが挙げられる。
【0014】
前記ハイパフォリンは、例えば、前記マメ科エリスリナ属に属する植物の植物体から分離することができ、前記植物体としては、例えば、樹皮、葉、枝、実、種子などが挙げられる。
【0015】
前記マメ科エリスリナ属に属する植物の植物体からの前記ハイパフォリンの分離方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する実施例に示すような方法で行うことができる。
【0016】
前記睡眠導入剤中の前記ハイパフォリンの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、また、前記睡眠導入剤は前記ハイパフォリンそのものであってもよい。
【0017】
<その他の成分>
前記その他の成分としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ハイパフォリンを溶解、希釈等するための、生理食塩液などが挙げられる。また、前記睡眠導入剤中の前記その他の成分の含有量も、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
前記睡眠導入剤は、睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を投与から短時間で誘導する効果に優れる。ここで、前記短時間とは、特に制限はないが、通常、前記睡眠導入剤を投与してから1〜2時間程度のことをいう。前記睡眠導入剤がノンレム睡眠を短時間で誘導可能であることは、例えば、当該技術分野における通常の方法を用い、確認することができる。例えば、マウス等の実験動物に前記睡眠導入剤を投与し、脳波や筋電図測定を利用して睡眠状態を観察することにより、確認することができる。また、後述する実施例に示すように、マウスの脳に直接電極を装着し、マウスを無拘束状態としたまま、脳波や筋電図を測定して睡眠状態を観察する方法を使用すれば、本発明の睡眠導入剤が睡眠状態に及ぼす影響を、より厳密に確認することが可能であり、好ましい。
前記睡眠導入剤は、例えば、後述する本発明の医薬組成物、食品などに好適に使用可能である。
【0019】
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、本発明の前記睡眠導入剤を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0020】
前記医薬組成物中の、前記睡眠導入剤の含有量としては、特に制限はなく、例えば、後述する前記医薬組成物の剤型や、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができる。
【0021】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、医薬的に許容され得る担体などが挙げられる。前記担体としても、特に制限はなく、例えば、後述する前記医薬組成物の剤型等に応じて適宜選択することができる。また、前記医薬組成物中の前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0022】
−剤型−
前記医薬組成物の剤型としては、特に制限はなく、例えば、後述するような所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、坐剤、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤などが挙げられる。
【0023】
前記経口固形剤としては、例えば、前記睡眠導入剤に、賦形剤、更には必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0024】
前記経口液剤としては、例えば、前記睡眠導入剤に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0025】
前記注射剤としては、例えば、前記睡眠導入剤に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0026】
前記坐剤としては、例えば、前記睡眠導入剤に、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセリド等の公知の坐剤製剤用担体と、必要に応じてツイーン(TWEEN:登録商標)等の界面活性剤などを加えた後、常法により製造することができる。
【0027】
前記軟膏剤としては、例えば、前記睡眠導入剤に、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等を配合し、常法により混合し、製造することができる。
前記基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどが挙げられる。前記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが挙げられる。
【0028】
前記貼付剤としては、例えば、公知の支持体に前記軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤等を、常法により塗布し、製造することができる。前記支持体としては、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルム、発泡体シートなどが挙げられる。
【0029】
前記医薬組成物は、本発明の前記睡眠導入剤を少なくとも含むので、睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を短時間で誘導する効果に優れる。そのため、前記医薬組成物は、不眠状態や睡眠が必要な状態の患者への適用に好適である。
【0030】
(食品)
本発明の食品は、本発明の前記睡眠導入剤を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0031】
前記食品中の、前記睡眠導入剤の含有量としては、特に制限はなく、例えば、後述する前記食品の種類や、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができる。
【0032】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、各種食品原料などが挙げられる。前記食品原料としても、特に制限はなく、例えば、後述する前記食品の種類等に応じて適宜選択することができる。また、前記食品中の前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
−食品の種類−
前記食品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼリー、キャンディー、チョコレート、ビスケット等の菓子類;緑茶、紅茶、コーヒー、清涼飲料等の嗜好飲料;原料乳、ヨーグルト、アイスクリーム等の乳製品;野菜飲料、果実飲料、ジャム類等の野菜・果実加工品;スープ等の液体食品;パン類、麺類等の穀物加工品;などが挙げられる。これらの食品の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、通常の各種食品の製造方法に応じて、適宜製造することができる。
また、前記食品は、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口固形剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口液剤として製造されたものであってもよい。前記経口固形剤、経口液剤の製造方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記した医薬組成物の経口固形剤、経口液剤の製造方法にならい、製造することができる。
【0034】
前記食品は、本発明の前記睡眠導入剤を少なくとも含むので、睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を短時間で誘導する効果に優れる。そのため、前記食品は、例えば、不眠状態や睡眠が必要な状態を改善する目的で摂取される、機能性食品として特に有用であると考えられる。
【0035】
(投与)
前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品は、例えば、不眠状態や睡眠が必要な状態の患者への適用に好適であり、例えば、これらの患者に投与することにより使用することができる。
前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品の投与対象動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サルなどが挙げられる。
また、前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記医薬組成物の剤型等に応じ、適宜選択することができ、経口投与、腹腔内投与などが挙げられる。
また、前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1回の投与あたり、有効成分である前記ハイパフォリンの量として、100〜500mg/kg体重が好ましく、100〜300mg/kg体重がより好ましい。
【0036】
また、前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品の投与時期としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品は投与から短時間(例えば、1〜2時間)でのノンレム睡眠導入効果に優れるため、例えば、ノンレム睡眠を誘導したい時間帯の0.5〜1時間前に投与されることが望ましいと考えられる。
【0037】
(効果)
前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品は、睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を短時間で誘導する効果に優れるので、例えば、不眠状態や睡眠が必要な状態の患者への適用に好適であり、中でも、投与から短時間でのノンレム睡眠の増加が望まれる患者への適用に特に好適である。また、前記睡眠導入剤、前記医薬組成物、及び前記食品は、その有効成分が天然物から得ることのできる前記ハイパフォリンであることから、副作用の可能性が低く、安全性の高い点でも、有利である。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(製造例1:ハイパフォリンの調製)
以下のようにしてハイパフォリンを調製し、後述する実施例1において本発明の睡眠導入剤として使用した。
【0040】
−ハイパフォリンの分離−
エリスリナ ベルチナ(Erythrina velutina)の種子、303gを用い、図5に記載した分離スキームに従い、前記種子からハイパフォリンを分離した。
まず、エリスリナ ベルチナの種子を粉砕後、メタノールで抽出し、得られたメタノール抽出液を濃縮後、水と石油エーテルを加え、酒石酸にて酸性(PH3)とし、その後、酢酸エチルにて抽出し、中性画分を得た。次に水層に、炭酸ナトリウムを加え、アルカリ性とした後、クロロホルム、ブタノールにて、順次抽出し、各々アルカロイド画分として得た(図5)。
【0041】
−ハイパフォリンの同定−
前記分離により得られたハイパフォリンの構造は、質量分析法(FABMASS)、及び、核磁気共鳴法(NMR)により決定した(図6参照)。得られたハイパフォリンのMASS、NMRスペクトルデータをそれぞれ以下に示す。なお、旋光度から、得られたハイパフォリンの絶対構造をSと決定した。[α] +89.6(c=0.125,water,25℃,HO)。
HNMR(500MHz,CDOD)7.18(1H,s,H−2),7.32(1H,brd,J=8.64,H−4),7.04(1H,dt,J=1.25,8.64,H−5),7.10(1H,dt,J=1.25,8.64,H−6),7.62(1H,brd,J=8.64,H−7),3.4(2H,m,H−8),3.88(1H,dd,J=8.65,6.15,H−9),3.26,−3.27(9H,s,NMe),13CNMR(125MHz,CDOD)125.13(C−2),109.01(C−3),128.32(C−3a),112.46(C−4),119.05(C−5),122.62(C−6),119.05(C−7),138.12(C−7a),52.70,52.73,52.76(N−Me),171.68(C−10).FAB−MS(M+H)247.
【0042】
(実施例1:ハイパフォリンの睡眠導入効果)
前記製造例1で得られたハイパフォリンの睡眠導入効果を、以下のようにして検証した。
【0043】
−マウスへの脳波・筋電図記録用電極の装着−
実験動物として、C57BLマウス(♂;16〜21週齢、日本クレア株式会社)を用いた。飼育環境は、明期を07:00〜19:00、暗期を19:00〜07:00、室温を24±1℃、湿度を56±6%とした。
マウス頭部に装着する脳波(EEG)・筋電図(EMG)記録用電極を、以下のようにして作成した。雌型ソケット(SMQ、ヒロセ電機株式会社)の端子5本を利用して、端子1にはEEG測定用電極(金ビス電極;直径0.9mm、長さ3.0mm)接着用のコードを、端子2、3には銀線(直径0.2mm)の先端を球状にしたEEG測定用の銀ボール電極をそれぞれ半田付けした。更に、EMG測定用の2本の銀線(直径0.2mm)を接続した(図1参照)。
図1に、前記脳波・筋電図記録用電極をマウスへ装着する様子を示した。ネンブタール(10mg/kg;腹腔内投与)で麻酔したマウスを脳定位固定装置に固定し、頭蓋骨を露出した。EEG測定用電極を植込むために頭蓋骨に歯科用ドリルで穴を開けた。前記したように電極には金ビス電極及び銀ボール電極を使用し、不関電極1本と皮質電極2本の計3本とした。続いて、EMG測定用の銀線電極をマウスの後部頸筋に刺入した。なお、EEG用電極、EMG用電極は歯科用アクリル樹脂のリペアジン(株式会社GC)にて頭蓋骨と完全に固定した。電極植え込み手術からの回復のため、1週間の期間をおいた後、マウスを脳波・筋電図記録用ケージに移し、レコーディングシステムに接続し、以下の投与実験に供した。
なお、前記のような手法で、マウスに脳波・筋電図記録用電極を装着して、睡眠データ記録を行うことにより、無拘束状態のマウスにおける、脳波及び筋電図の時系列変化を連続的に測定することが可能となる。したがって、マウスの自然な睡眠覚醒リズムが脳波及び筋電図測定の影響により乱れることがなく、そのため、評価したい生理活性物質、ここではハイパフォリンの睡眠覚醒に対する作用を、より厳密に評価することが可能となる。
【0044】
−ハイパフォリン投与−
試料には、前記製造例1で得られたハイパフォリン(Hypaphorine)300mg/kgを使用し、前記脳波・筋電図記録用電極を装着したマウスに腹腔内投与した。前記腹腔内投与は、飼育環境の暗期の始まる約30分前の18:20〜18:30の間に全て行った。比較対照として、ビヒクル(Vehicle)の生理食塩液(Saline)のみを、同様に腹腔内投与した。脳波・筋電図による睡眠データ記録を、夜行性マウスの活動期を対象とした19:00から翌朝07:00までの暗期連続記録として行った(図2参照)。これらのうち、19:00〜23:00の4時間における睡眠データについて、ハイパフォリン投与群(Hypaphorine)と、対照である生理食塩液投与群(Saline)とを比較した。結果を図3に示す。
なお、実験は2回に分け、1回目の実験には4匹のマウス(マウス番号1〜4)を、また4ヶ月後に行った2回目の実験には別のマウス4匹(マウス番号5〜8)を用い、合計8匹を用いて行った。ハイパフォリン投与(Hypaphorine)と生理食塩液のみの投与(Saline)とを、合計8匹のマウスによるクロスオーバー実験とした(表1参照)。
【0045】
【表1】

【0046】
−結果−
ハイパフォリン300mg/kgの腹腔内投与後1時間に、ハイパフォリン投与群(Hypaphorine)では、対照の生理食塩液投与群(Saline)と比較し、ノンレム睡眠時間を約40%増加させる、統計的有意な睡眠効果が観察された(図3)。この結果に応じ、ハイパフォリン投与群の覚醒時間は、対照群と比較して減少した。更に、ハイパフォリン投与群のノンレム睡眠とレム睡眠を合計した総睡眠時間も同様に、対照群と比較して増加した。なお、レム睡眠についてはハイパフォリン投与群と対照群との間に差はなかった。また、続く腹腔内投与後2、3、4時間では、ハイパフォリン投与群と対照群との間に統計的に有意となるような睡眠データの差は検出されなかった。
また、前記同様の実験を再度行うことによりデータの再現性について確認したところ、同様な結果が得られた。
以上の結果から、ハイパフォリンは、優れた睡眠導入効果、特に投与後の比較的短時間に、ノンレム睡眠を誘導できる効果を有しており、安全性にも問題が無いことが示された。
【0047】
なお、夜行性の行動を示すマウス等の小動物は多相性睡眠で、数分間隔で睡眠と覚醒を繰り返すことが判明している。暗期には覚醒時間が多く出現し、睡眠量は少ないが、暗期でも睡眠量はゼロにはならない。一方、明期における睡眠量は、暗期と比較するとほぼ2倍となる。例えば、マウスのノンレム睡眠量、レム睡眠量、及び覚醒時間を時系列上に1時間ごとに集計すると、図4に示すような明瞭な24時間の睡眠覚醒日周リズムを示す。
図4に示すように、マウス等の小動物では、通常は、明期の睡眠状態から目覚めるにつれ、徐々に睡眠量が減少していくが、本発明の睡眠導入剤を投与すると、睡眠量、特にノンレム睡眠量を効果的に増加することができる(図3参照)。したがって、本発明の睡眠導入剤は、効果的に睡眠を「導入」できる剤であるということができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の睡眠導入剤、医薬組成物、及び食品は、睡眠導入効果、特にノンレム睡眠を短時間で誘導する効果に優れるので、例えば、不眠状態や睡眠が必要な状態の患者への適用に好適であり、中でも、投与から短時間でのノンレム睡眠の増加が望まれる患者への適用に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、マウスへの脳波・筋電図記録用電極の装着の様子を示した図である。(左図は、マウスに各電極を装着する手術の様子を示す写真像であり、右図は、マウス頭部における各電極の装着部位を示す図である。)
【図2】図2は、マウスへの各試料(ハイパフォリン(Hypaphorine)又は生理食塩液(Saline))の腹腔内(ip)投与を行った時間、及び、投与後の脳波記録を行った時間を示した図である。
【図3】図3は、各試料(ハイパフォリン(Hypaphorine)又は生理食塩液(Saline))の腹腔内(ip)投与がマウスのノンレム(NREM)睡眠時間に及ぼす影響を経時的に示したグラフ図である。
【図4】図4は、マウスの、24時間の睡眠覚醒日周リズムを示した図である。
【図5】図5は、ハイパフォリンの分離スキームを示した図である。
【図6】図6は、NMRデータによるハイパフォリンの構造決定を示した図である。
【符号の説明】
【0050】
1 EEG(脳波)測定用電極
2 EMG(筋電図)測定用電極
3 不関電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式(1)で表されるハイパフォリン、及びその医薬的に許容され得る塩の少なくともいずれかを含有することを特徴とする睡眠導入剤。
【化1】

【請求項2】
ハイパフォリンが(+)−ハイパフォリンである請求項1に記載の睡眠導入剤。
【請求項3】
ハイパフォリンが植物由来である請求項1から2のいずれかに記載の睡眠導入剤。
【請求項4】
ハイパフォリンがマメ科エリスリナ(Erythrina)属に属する植物由来である請求項1から3のいずれかに記載の睡眠導入剤。
【請求項5】
マメ科エリスリナ属に属する植物が、エリスリナ ベルチナ(Erythrina velutina)、デイゴ(Erythrina variegata)、及び、アメリカデイゴ(Erythrina crista−galli)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項4に記載の睡眠導入剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の睡眠導入剤を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の睡眠導入剤を含有することを特徴とする食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−24649(P2008−24649A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199274(P2006−199274)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】