説明

石材定盤を備える装置及び座標測定機

【課題】 石材定盤を備え、かつ石材定盤の少なくとも一面を可動部材のガイド面として使用する装置において、周囲温度の変化に伴って定盤のガイド面の真直度低下を防止する。
【解決手段】 石材定盤24を備える座標測定機1において、可動部材12A、12Bのガイド面として使用される側面24A、24Bと直交する異なる側面24C、24Dに、これらをそれぞれ覆う断熱部材60A、60Bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石材定盤を備え、かつ該石材定盤の表面のうち少なくとも一面を可動部材のガイド面として使用する装置に関し、特にX、Y、Z軸の3軸方向にプローブを移動して被測定物の形状を測定する座標測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
高精度でワークの輪郭形状を測定する3次元座標測定機や、高精度でワークを加工する加工装置などにおいては、ワークを載置する定盤の変形による真直度低下や振動などによる測定誤差を避けるため、従来からワークの素材として硬度の高く比重の大きい御影石や大理石などの石材が使用されている。
このような石材定盤を備える装置の例として、本発明の出願人により下記特許文献1に提案された座標測定機がある。このような座標測定機の腰部拡大図を図1に示し、そのA−A斜視図を図2に示す。
なお、以下の説明では、高精度でワークの3次元輪郭形状を測定する座標測定機を例として説明する。しかし本発明はこれに限定されるものではなく、様々な測定機や加工装置などに適用可能である。
【0003】
座標測定機1はYキャリッジ12及び支持部材14等を備えていて、Yキャリッジ12は右側Yコラム12A及び左側Yコラム12Bを有している。
Yキャリッジ12には、これにガイドされてX方向に移動可能なX方向可動部50が設けられ、さらにX方向可動部50にはZ方向に移動可能なZ方向可動部51が設けられる。このZ方向可動部51の先端にはワークに接触させるプローブ52が設けられる。このプローブ52をワーク表面に沿わせて移動させ、その移動に伴うYキャリッジ12、X方向可動部50及びZ方向可動部51の移動量をトレースすることによって、ワーク表面各位置の三次元座標を測定する。
【0004】
支持部材14は右側脚部14Aと左側脚部14Cを有していて、右左の脚部14A、14Cの下端部はそれぞれアーム14Bで連結されている。アーム14Bは測定テーブルである石材定盤24の底面に沿って延長されていて、右左の脚部14A、14Cはそれぞれ定盤24の右左の側面に沿って立設されている。
右側Yコラム12Aの下端部には右側脚部14Aの上端部が固定されていて、右側脚部14Aの上端部にはボルト16Aが螺合されている。ボルト16Aの先端部にはボール18Aが溶着されている。図3に示すように、ボール18Aは溝20A内に回動自在に嵌入されていて、溝20Aは垂直方向エアパッド20の背面に形成されている。垂直方向エアパッド20の摺動面20Bは定盤24の右端部表面に沿って移動自在に支持されている。
【0005】
また、右側脚部14Aの略中央部にはボルト16Bが螺合されていてボルト16Bの先端部にはボール18Bが固着されている。ボール18Bは基準エアパッド26の背面に形成されている溝26A内に回動自在に嵌入されていて、基準エアパッド26の摺動面26Bは定盤24のY軸方向に沿う側面であるガイド面24B(右側面)に沿って移動自在に支持されている。
【0006】
さらに、図4に示すように左側脚部14Cにはシャフト28が摺動自在に支持されていて、シャフト28の先端部にはフランジ28Aが形成されている。左側脚部14Cとフランジ28Aとの間のシャフト28には皿ばね29が配設されていて、皿ばね29はフランジ28Aを右方向に付勢している。フランジ28Aにはボール18Dが固着されていて、ボール18Dは反力用エアパッド30の背面に形成されている溝30A内に回動自在に嵌入されている。反力用エアパッド30の摺動面の30Bは定盤24のY方向に沿う左側面24Aに沿って移動自在に支持されている。
【0007】
このように、反力用エアパッド30が定盤24の左側面24Aに設けられたので、定盤24の左側面24Aに設けられている基準エアパッド26に反力が付与される。また、反力用エアパッド30を皿ばね29で定盤24の左側面24A方向に付勢したので、皿ばね29はアーム14B等の支持部材14の熱変形を吸収する。従って、基準エアパッド26に付与される反力を略一定に保つことができる。この場合、皿ばね29のばね定数は基準エアパッド26のばね定数より小さく設定されている。
【0008】
左側Yコラム12Bの下端部にはボルト16Cが螺合されていてボルト16Cの先端部にはボール18Cが固着されている。ボール18Cは垂直方向エアパッド34の背面に形成されている溝34A内に回動自在に嵌入されていて、垂直方向エアパッド34の摺動面34Bは定盤24の左端部に沿って移動自在に支持されている。
また、左側Yコラム12Bの下端部には板ばね36の上端部が取り付けられていて、板ばね36の下端部は左側脚部14Cに連結されている。従って、左側脚部14Cは板ばね36を介して左側Yコラム12Bに吊られた状態に保持される。これにより、アーム14B等の支持部材14の熱変形は板ばね36で吸収されるので、支持部材14の熱変形は左側Yコラム12Bに影響を与えない。従って、例えば、支持部材14のアーム14Bが熱変形しても左側Yコラム12Bには熱変形による反力が発生しない。
【0009】
さらに、右側脚部14Aには読取りヘッド38が設けられていて、読取りヘッド38は定盤24の右側面24Bに設けられたY軸スケール40を読み取り、これにより、Yキャリッジ12のY軸方向の移動量が検出される。Y軸スケール40は読取りヘッド38に対向して定盤24に設けられている。尚、定盤24はボルト42を介して架台44に載置されている。
【0010】
【特許文献1】特開平5−312556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の通り、座標測定機1では、変形による真直度低下や振動などによる測定誤差を避けるため、硬度の高く比重の大きい御影石や大理石などの石材が、定盤24の材料として使用されている。しかしながら、これら御影石や大理石は熱伝導率が低いため内部に熱が伝わりにくく、周囲の気温変化により内部に発生する温度傾斜によって表面の真直度に影響を及ぼすという問題があった。この様子を図5に示す。
【0012】
図5の(A)は、周囲の温度が低下するときに定盤24が収縮する様子を示す。周囲温度が低下する場合には定盤24は、その内部に先立って周辺部から温度が低下するために、周囲温度が低下した後から安定するまでの間、中心部が周辺部よりも高い温度分布状態が発生する。この間、定盤24のY軸方向に沿う側面24A及び24B並びにX軸方向に沿う側面24C及び24Dは、その中間部が端部よりも外側に膨らんだ状態となる。
逆に、図5の(B)に示す周囲の温度が上昇する場合には、周囲温度が上昇した後から安定するまでの間に、各側面24A〜24Dはその中間部が端部よりも内側にへこんだ状態となる。
【0013】
このような定盤24の変形は、どのようなものであれ測定結果に測定誤差を及ぼすが、特にY軸方向に沿う側面24A及び24Bの真直度の低下は、図6に示すように、これら側面24A及び24BがYキャリッジ12のガイドとして使用されるため、Yキャリッジ12の取り付け角度に誤差を生じ、主にY軸方向座標及びヨー角度等の測定結果に大きな影響を及ぼす。
【0014】
このような問題点を鑑み、本発明では、石材定盤を備え、かつ石材定盤の少なくとも一面を可動部材のガイド面として使用する装置において、周囲温度の変化に伴って定盤のガイド面の真直度低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明では、石材定盤を備えかつ石材定盤の表面のうち少なくとも一面を可動部材のガイド面として使用する装置において、石材定盤の表面のうちガイド面と異なる表面に、この表面を覆う断熱部材を設ける。
石材定盤の表面のうちガイド面として使用される部分には断熱部材を設けることはできない。しかし2次元又は3次元移動可能な可動部を有する装置であっても、通常は1つの石材定盤に2次元方向以上のガイド面を設けることはない。特にガイド面と略直交する表面には、このガイド面にガイドされる可動部の移動を妨げることなく、断熱部材を設けることは容易である。
【0016】
ガイド面と略直交する表面に断熱部材を設けることにより、この側面から出入りする熱量がなくなるため、測定テーブル内の温度分布がガイド面に沿って無限に延在する棒状体の温度分布と等価となる。このために測定テーブル内ではガイド面に沿う方向に温度変化が生じなくなるため、ガイド面には上記凹凸が生じなくなり真直度低下を低減することが可能となる。
【0017】
また、本発明ではこのような石材定盤を備える装置の一形態として、測定テーブルの両端部に立脚された一対のコラムを備えたYキャリッジを、測定テーブルの表面に沿って測定テーブルのY軸方向に移動する座標測定機を提供する。この座標測定機はYコラムのガイド面として使用される測定テーブルのY軸方向に沿う側面に直交する、X軸方向に沿う側面に、側面を覆う断熱部材を設ける。
X軸方向に沿う側面に断熱部材を設けることにより、この側面から出入りする熱量がなくなるため、測定テーブル内の温度分布がY軸方向に無限に延在する棒状体の温度分布と等価となる。このために測定テーブル内ではY軸方向に温度変化が生じなくなるため、Yコラムのガイド面として使用される測定テーブルのY軸方向に沿う側面には上記凹凸が生じなくなりY軸方向に沿う側面の真直度低下を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、石材定盤を備える装置においてガイド面として使用される面に生じる周囲の温度変化に伴う真直度低下を低減することができる。
特に、このような石材装置を座標測定機に応用した場合、Yコラムのガイド面として使用される測定テーブルのY軸方向に沿う側面に生じる、周囲の温度変化に伴う真直度低下を低減することができ、これにより測定誤差の低減に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付する図面を参照して本発明の実施例を説明する。図7は、本発明の実施例による座標測定機の斜視図である。座標測定機1は、図1を参照して説明した従来の座標測定機に類似する構成を有しており、したがって同一の構成要素には同じ参照符号を付して示し、説明を省略する。
上述の通り、座標測定機1は、測定テーブルである石材定盤24の両端部に立脚された一対のYコラム12A及び12Bを有するYキャリッジ12を備え、このYキャリッジ12は、定盤24の表面に沿ってそのY軸方向へ移動可能に設けられる。そして定盤24のY軸方向に沿う側面24A及び24Bは、Y軸方向へ移動可能なYコラム12A及び12Bのガイド面として使用される。
【0020】
さらに、座標測定機1では、定盤24のX軸方向に沿う側面24C及び24Dに、これらの側面をそれぞれ覆う断熱部材60A及び60Bが設けられる。これら断熱部材60A及び60Bを設けることにより、座標測定機1は、温度変化に伴う定盤24のY軸方向に沿う側面24A及び24Bの変形を低減することを可能とする。以下にその理由を述べる。
周囲の温度が変化するとこれに伴って定盤24の温度も変化し、そのため熱膨張、熱収縮が生じる。このとき定盤24の材料に御影石や大理石が使用されていると、これらの材料は熱伝導率が小さいために中心部分の温度変化が周辺部分の温度変化よりも遅れて生じる。そのため、定盤24の内部から外側に向けて温度傾斜が生じて、例えば周囲温度が低下する場合には、定盤24の各側面はその中間部が端部よりも外側に膨らんだ状態となり、逆に例えば周囲温度が上昇する場合には、定盤24の各側面はその中間部が端部よりも内側にへこんだ状態となる。
【0021】
ここで、X軸方向に沿う側面24C及び24Dに断熱部材60A及び60Bを設けることにより、これら側面24C及び24Dから出入りする熱量が低減される。ここで理想的に側面24C及び24Dから出入りする熱量が0となるとすると、定盤24内の温度分布はY軸方向に無限に延在する棒状体の温度分布と等しくなり、そのXZ平面における定盤24内部の温度分布は、いずれのY軸方向位置で観察しても同じになる(すなわち、定盤24内ではY軸方向に温度傾斜が生じなくなる)。
このため、温度変化に伴い定盤24の各部分に生じる熱膨張量(熱収縮量)には、Y軸方向に沿った相違がなくなるので、図8に示すようにY軸方向に沿う側面24A及び24Bには凹凸が発生しなくなる。図8の(A)は周囲の温度が低下して定盤24が収縮する様子を示し、図8の(B)は周囲の温度が上昇して定盤24が膨張する様子を示す。
【0022】
このように、本発明による座標測定機1によれば、Yコラム12A及び12Bのガイド面として使用される側面24A及び24Bの温度変化に伴う真直度低下が低減されるため、Yキャリッジ12の運動誤差(ヨーイング)が低減される。
なお、測定物(ワーク)が載置される定盤24の上面にも温度変化に伴う変形が発生するが、定盤24の厚さ(Z軸方向寸法)は、X軸方向寸法やY軸方向寸法に比して小さく(薄く)形成されるために、膨張量(収縮量)が小さいため測定結果に大きな影響を及ぼさない。
【0023】
上記、断熱部材60A及び60Bを設けない場合には、定盤24のY軸方向寸法を長くすればするほど、定盤24の中央部とY軸方向端(すなわちX軸方向に沿う側面24C及び24D)との間の温度差が大きくなり、Y軸方向に沿う側面24A及び24Bの凹凸が大きくなる。したがって、定盤24のY軸方向寸法を長く設ける必要がある場合(例えば定盤24の長手方向をY軸方向に設ける等)ほど、断熱部材60A及び60Bを側面24C及び24Dに設ける。
【0024】
また、上記説明及び図8からも分かるとおり、定盤24のX軸方向に沿う側面24C及び24Dには、温度変化により凹凸が生じる。この凹凸に追従するために、断熱部材60A及び60Bは弾力性や可撓性を有する材質で形成されることが好適である。
例えば、断熱部材60A及び60Bの材質には、発泡ウレタン、発泡スチロール、ガラスウール及びコルク等の材料を用いることとしてよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、石材定盤を備えかつ該石材定盤の表面のうち少なくとも一面を可動部材のガイド面として使用する装置に利用可能であり、特にX、Y、Z軸の3軸方向にプローブを移動して被測定物の形状を測定する座標測定機に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の座標測定機の断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の座標測定機の腰部拡大図である。
【図4】図1の座標測定機の腰部拡大図である。
【図5】温度変化に伴い生じる従来の座標測定機の定盤の変形の模式図である。
【図6】座標測定機におけるガイド面の変形に伴う影響を説明する図である。
【図7】本発明による座標測定機の斜視図である。
【図8】温度変化に伴い生じる図7の座標測定機の定盤の変形の模式図である。
【符号の説明】
【0027】
1 座標測定機
12 Yキャリッジ
12A 右側Yコラム
12B 左側Yコラム
24 定盤
60A、60B 断熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石材定盤を備え、かつ該石材定盤の表面のうち少なくとも一面を可動部材のガイド面として使用する装置において、
前記石材定盤の表面のうち前記ガイド面と異なる表面に、該表面を覆う断熱部材を設けることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記断熱部材を、前記石材定盤の表面のうち前記ガイド面と略直交する表面に設けることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記石材定盤の長手方向に沿う側面を前記ガイド面とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記断熱部材の材料として、弾力性を有する材質を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記断熱部材の材料として、可撓性を有する材質を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記断熱部材の材料として、発泡ウレタン、発泡スチロール、ガラスウール及びコルクのいずれかを使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
測定テーブルの両端部に立脚された一対のコラムを備えたYキャリッジを、前記測定テーブルの表面に沿って前記測定テーブルのY軸方向に移動する座標測定機において、
前記測定テーブルのY軸方向に沿う側面を前記コラムのガイド面として使用し、
前記測定テーブルのX軸方向に沿う側面に、該側面を覆う断熱部材を設けることを特徴とする座標測定機。
【請求項8】
前記測定テーブルの長手方向をY軸方向に設けることを特徴とする請求項7に記載の座標測定機。
【請求項9】
前記断熱部材の材料として、弾力性を有する材質を使用することを特徴とする請求項7又は8に記載の座標測定機。
【請求項10】
前記断熱部材の材料として、可撓性を有する材質を使用することを特徴とする請求項7又は8に記載の座標測定機。
【請求項11】
前記断熱部材の材料として、発泡ウレタン、発泡スチロール、ガラスウール及びコルクのいずれかを使用することを特徴とする請求項7又は8に記載の座標測定機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−33052(P2007−33052A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212534(P2005−212534)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】