説明

石炭ガス化システムのガス精製方法

【課題】 石炭などの炭化水素を含む原料をガス化するシステムにおいて、低コスト化するとともに、消費エネルギー量を低減してシステムの高効率化を計ることである。
【解決手段】 炭化水素を含む原料をガス化した生成ガス中に含まれる塩化水素、シアン化水素、アンモニアを水洗塔で吸収した洗浄水を、ストリッパで減圧するとともに、蒸気で加熱してシアン化水素、アンモニアを気体として排水から分離する。分離したシアン化水素、アンモニアは燃焼炉で燃焼処理する。排水の一部は塩化水素除去装置へ供給し、残りの排水は水洗塔にリサイクルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭、バイオマス、重質油などのような石炭ガス化システムのガス精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、バイオマス、重質油などのような炭化水素を主成分とする原料は、ガス化することにより一酸化炭素と水素を主成分とするガスに変換することができる。一酸化炭素や水素は、ガスタービンや燃料電池の燃料、肥料などの化学製品合成の原料、メタノール、ジメチルエーテル、合成軽油の原料とすることができる。
【0003】
しかし、炭化水素をガス化した生成ガス中には、主成分である一酸化炭素と水素の他に、微量成分として硫化水素、硫化カルボニル、塩化水素、シアン化水素、アンモニアなどが含まれる。これらの微量成分は、大気への放出が規制されているとともに、下流の機器や触媒を損傷する原因となるので、除去する必要がある。硫化水素と硫化カルボニルは、生成ガスを水洗するだけでは除去できないため、アミンなどの吸収液を用いる湿式脱硫装置や、酸化亜鉛などの触媒を用いる乾式脱硫装置へ導き、除去する。
【0004】
塩化水素、シアン化水素、アンモニアは、生成ガスを水洗して除去することが可能である。しかし、生成ガスを水洗した水は、そのまま廃棄することはできないので、塩化水素、シアン化水素、アンモニアをこれら排水から分離する排水処理が必要となる。
【0005】
特許文献1(特開2001−354975号公報)、特許文献2(特開2004−67849号公報)、特許文献3(特開2003−39036号公報)に示すように、従来の処理システムにおいては、水洗塔の排水は、一旦排水ピット、あるいは、フラッシング槽に溜められる。石炭ガス化プラントは、2MPa以上の高圧で運転するので、水洗塔の排水もほぼ同じ圧力である。一方、排水ピット、および、フラッシング槽は、大気圧であるので、排水ピット、およびフラッシング槽で排水中に含まれる気体成分が揮発する。
【0006】
これらの揮発分は、燃焼炉に供給して焼却処理する。排水ピットおよび、フラッシング槽に溜まった排水は、ポンプで反応槽へ送出する。反応槽においては、凝集沈降剤と混合し、凝集沈降槽で微粒子を除去する。その後、ポンプを経て、pH調整槽へ送られる。pH調整槽では、pH調整剤と混合してストリッパに供給し、シアン化水素とアンモニアを分離するのである。
【0007】
分離されたシアン化水素とアンモニアは、燃焼炉で焼却処理する。なお、排水の一部は、排水中に含まれる塩化ナトリウムを除去するために、濃縮結晶化装置に供給する。残りの排水は、水洗塔にリサイクルする。
【0008】
【特許文献1】特開2001−354975号公報
【特許文献2】特開2004−67849号公報
【特許文献3】特開2003−39036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、石炭などの炭化水素を主成分とする原料をガス化するシステムにおいて、生成ガス中の塩化水素、シアン化水素、アンモニアなどの微量成分を水洗除去し、この洗浄水から塩化水素、シアン化水素、アンモニアなどを分離する排水処理を簡素化して低コスト化するとともに、排水処理に必要なエネルギー量を低減してシステムの高効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
炭化水素をガス化した生成ガス中に含まれる塩化水素、シアン化水素、アンモニアを水洗塔で吸収した洗浄水を、ストリッパで減圧するとともに、蒸気で加熱してシアン化水素、アンモニアを気体として排水から分離する。ここで、水洗塔の排水には、石炭ガス化のシステム構成や、運転条件によっては微粒子の混入することがあるので、ストリッパに供給する前に、フィルタを通すことにより、微粒子を除去することが望ましい。また、排水はシアン化水素とアンモニアが揮発しやすい条件となるようにpHを調整することが望ましい。分離したシアン化水素、アンモニアは燃焼炉で燃焼処理する。排水の一部は塩化水素除去装置へ供給し、残りの排水は水洗塔にリサイクルする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機器構成では、排水を一旦、排水ピットやフラッシング槽に貯留することなく、連続的に処理するため、排水ピットやフラッシング槽が不要である。また、水洗塔が高圧であるのに対し、排水ピットは大気圧であり、従来は排水を排水ピットに供給した際に、一部のガスが分離するため、この時に発生する気体の処理ラインが必要であったが、本発明では不要である。このように、機器構成が簡単となることから、従来技術に比べ、プラント建設費の低減が可能である。
【0012】
また、本発明のエネルギー消費量は、従来のように排水の圧力を完全に大気圧まで落とすことなく、処理して水洗塔に戻すため、エネルギー消費量を低減することができ、システムの高効率化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の炭化水素を主成分とする原料をガス化するシステムの実施形態を図1を用いて説明する。原料10である炭化水素と酸化剤は、ガス化設備12に供給され、部分酸化反応により、一酸化炭素と水素を主成分とする高温ガスに変換する。炭化水素としては、石炭、バイオマス、重質油、アスファルト、ペットコーク、廃プラスチックなどがある。
【0014】
酸化剤としては、空気や空気を分離して得た酸素を用いることができる。ガス化設備12で得られた生成ガスは、1000℃以上の高温であり、その熱は、熱回収設備14へ送られ、蒸気として回収される。生成ガスは、微粒子を含むので、脱塵設備16により除去する。脱塵設備16としては、サイクロンやフィルタが使用可能である。
【0015】
炭化水素をガス化した生成ガス18は、水洗塔20へ供給され、生成ガス18中に含まれる塩化水素、シアン化水素、アンモニアは、水洗塔20で除去される。生成ガス22は、硫黄化合物として硫化水素と硫化カルボニルを含むので、脱硫設備24でこれらを除去する。脱硫設備としては、アミンを硫化水素の吸収液として用いる湿式脱硫方式や、酸化亜鉛、酸化鉄などを硫化水素の吸収剤として用いる乾式脱硫方式が採用可能である。
【0016】
硫化カルボニルは、上述した方法では十分に除去されないので、図示しないが、脱硫設備24で処理する前に、生成ガス22を触媒を用いて水蒸気と反応させ、硫化水素に変換すると良い。脱硫設備24を出た生成ガスは、消費部26へ送られ、例えば、ガスタービンや、燃料電池による発電に用いたり、水素製造、ジメチルエーテル(DME)、メタノールなどの化学製品の原料として用いられる。
【0017】
水洗塔20の排水28は、脱塵装置16で除去されなかった微粒子を含む可能性があるので、2系統設置されたフィルタ30、32を通し、微粒子を除去することが望ましい。フィルタ30,32の前後の差圧は、累積通水量の増加に伴って増大する。したがって、最初は一方を運転し、差圧を監視し、既定値に達したときもう一方のフィルタに切替える。
【0018】
差圧の上昇したフィルタ30,32は逆洗し、微粒子を抜き出す。フィルタ30、32を通過した排水は、pH調整槽34でpH調整剤36と混合され、シアン化水素、アンモニアが揮発しやすいpH値に設定される。pH調整された排水38は、従来のような排水ピット、フラッシング槽を経由することなく、そのままストリッパ40に供給される。pHの設定値は8から10の間に設定することが望ましい。この実施形態では、排水を排水ピットやフラッシング槽に一旦貯留することなく、連続的に処理する、したがって、排水ピットやフラッシング槽が不要である。
【0019】
さらに、水洗塔20が高圧であるのに対し、排水ピットは大気圧である。従来は排水を排水ピットに供給した際に、一部のガスが分離するため、この時に発生する気体の処理ラインが必要であったが、本発明の実施形態では不要である。このように、機器構成が簡単となるので、従来技術に比べ、プラント建設費の低減が可能である。
【0020】
さらに、この実施形態では、エネルギー消費量は、従来のように排水の圧力を完全に大気圧まで落とすことなく、処理して水洗塔40に戻すため、エネルギー消費量を低減することができ、システムの高効率化に寄与する。
【0021】
ストリッパ40の底部に設けられたストリッパリボイラ42は、補助蒸気44を加熱源としてストリッパ40の底部に貯まった液を蒸発させ、ガス相としてストリッパ40に供給する。この実施形態では、水洗塔20の排水をストリッパ40へ直接導いて減圧・加熱することにより、シアン化水素、アンモニアを分離している。特に、補助蒸気44を用いる蒸気加熱は、温度を均一にできる、プラントにもともと蒸気がある、電気ヒータより効率が良い点で利点を備えている。
【0022】
ストリッパ排ガス冷却器48は、ストリッパ40の頂部から排出される排ガスを冷却水46によって冷却し、ガス中の水分の一部を凝縮し、ストリッパリフラックスドラム50へ供給する。ストリッパリフラックスドラム50は、ストリッパ排ガス冷却器48で生成された凝縮水と未凝縮分(ガス相)を分離する。凝縮水は、リフラックス水(還流水)として、ストリッパリフラックスポンプ56によりストリッパ40の頂部へ戻される。
【0023】
未凝縮分は、生成ガス燃焼炉54に送られ焼却される。排水38は、ストリッパ40で減圧するとともに、蒸気で加熱してシアン化水素、アンモニアを気体として分離する。ストリッパ40では、ストリッパリボイラ42からストリッパ40の底部に供給されたガス相(蒸気)と、ストリッパ40の頂部に供給されるストリッパ40への供給水38およびリフラックス水とを向流接触させて、ストリッパ40への供給水38及びリフラックス水を加温するとともに、液中の揮発成分をガス相に移行させる。
【0024】
ストリッパ40内を流れ落ちる排水は、加熱されその一部は蒸気(蒸気相)になって底部に送られる。底部へ送られた蒸気相は、各段で気液平衡状態となるように液相からアンモニア、シアン化水素を上方へ移行させながらストリッパ40の頂部へ至るのである。分離したシアン化水素、アンモニアなどのガス56は、燃焼炉54で燃焼処理する。ストリッパ40の圧力は、ストリッパ40の排ガスラインに設置された流量調整弁58によって、水洗塔20の圧力と、大気圧の間の値に設定する。
【0025】
排水60の一部は排水60に含まれる塩化ナトリウムなどを除去するための濃縮結晶化装置62に供給し、残りの排水はポンプ64を介して水洗塔20にリサイクルする。水洗塔20には、処理した排水60に加え、メイクアップ水66を供給する。濃縮結晶化装置62の排ガスは、燃焼炉54に供給して焼却処理する。水洗塔20の水位は水洗塔水位計68で計測し、レベルが一定になるように、メイクアップ水66を流量調整弁70で調整して供給する。
【0026】
pH調整槽34のpH設定値と、ストリッパ40の圧力及び下部温度の設定値は、流量計72で求めたストリッパ40への排水供給量、流量計74で求めたストリッパ40の排ガス流量、排ガス組成分析計76で求めたガス組成、濃縮結晶化装置62の手前の流量計78と、リサイクル水送出ポンプ64の出口側に設置した流量計80により求めた流量を合計したストリッパ排水流量、排水組成分析計82で求めた排水組成、圧力計84で求めたストリッパ圧力、温度計86で求めたストリッパ下部温度から算出して設定する。
【0027】
pH調整槽34のpHは、PH計87で検出され、上記で求めた設定になるように、流量調整弁88でpH調整剤36の流量を調整して供給する。また、ストリッパ40の圧力は、上記で求めた設定になるように、流量調整弁58で排ガス流量を調整して制御する。ストリッパ下部の温度は流量調整弁90でストリッパリボイラ42へ供給する補助蒸気44の流量を調整して制御する。ストリッパ40の水位は、ストリッパ水位計92で計測し、レベルが一定になるように、流量調整弁94で調整する。
【0028】
濃縮結晶化装置62へ供給する排水量は、流量調整弁96で設定値となるように送出する。なお、ストリッパ排水60の組成を排水組成分析計82で監視し、排水中の塩化物イオン濃度が設定値よりも高くなった場合には、濃縮結晶化装置62への送水量を増量する。塩化物イオンの管理値としては、配管の材質にもよるが、2500〜3000ppmとすることが望ましい。
【0029】
以上述べたように、石炭などの炭化水素のガス化ガス中に含まれる塩化水素、シアン化水素、アンモニアなどの微量成分を水洗除去した洗浄水から、吸収した塩化水素、シアン化水素、アンモニアなどを分離し、リサイクルするシステムを、建設費を低減し、かつエネルギー消費量を低減しながら実現した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
ガス化することによって用途の広がる炭化水素を主成分とする原料としては、石炭、バイオマス、重質油、アスファルト、ペットコーク、廃プラスチックなど、多数ある。原料によって、生成ガス中の塩化水素、シアン化水素、アンモニアなどの微量成分含有量は変化するが、本発明システムは、ストリッパの運用条件、あるいは、ストリッパ排水のうち、塩化水素除去装置に送り出す排水量を最適に設定することによって、多種、多様な原料のガス化システムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態を示すガス化システムを示したブロック線図である。
【符号の説明】
【0032】
10…原料、12…ガス化設備、14…熱回収設備、16…脱塵設備、20…水洗塔、24…脱硫設備、26…消費部、28…水洗塔排水、36…pH調整剤、30、32…フィルタ、34…pH調整槽、40…ストリッパ、44…補助蒸気、52…ポンプ、56…ストリッパ排ガス、60…ストリッパ排水、62…濃縮結晶化装置、64、66…メイクアップ水、68…水洗塔水位計、70、88…流量調節弁、72…流量計、76…排ガス組成分析計、82…排水組成分析計、84…圧力計、86…温度計、87…pH計、92…ストリッパ水位計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素をガス化するガス化設備と、前記ガス化設備によって生成された生成ガスから塩化水素、シアン化水素、アンモニアを除去する水洗塔と、前記水洗塔の排水を減圧し、シアン化水素、アンモニアを気体として分離するストリッパとを備えることを特徴とする石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項2】
炭化水素をガス化するガス化設備と、前記ガス化設備によって生成された生成ガス中から塩化水素、シアン化水素、アンモニアを除去する水洗塔と、前記水洗塔の排水を減圧するとともに、蒸気で加熱してシアン化水素、アンモニアを気体として分離するストリッパと、シアン化水素、アンモニアを燃焼処理する燃焼炉とを備え、前記ストリッパの排水の一部は、塩化水素除去装置へ供給され、残りの排水は、前記水洗塔へリサイクルされることを特徴とする石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項3】
請求項2において、前記ストリッパの圧力設定を、前記水洗塔の圧力と大気圧の間に設定した石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項4】
請求項1において、ストリッパ排水中にアンモニアが残存する場合には、前記水洗塔からストリッパまでの間の排水のpHをアルカリ側に調整し、ストリッパ排水中にシアン化水素が残存する場合には、前記水洗塔からストリッパまでの間の排水のpHを酸性側に調整する石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項5】
請求項1において、ストリッパ排水中にアンモニアが残存する場合には、前記水洗塔からストリッパまでの間の排水のpHを8から10の間に調整し、ストリッパ排水中にシアン化水素が残存する場合には、前記水洗塔からストリッパまでの間の排水のpHを4から6に調整する石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項6】
請求項1において、前記水洗塔からストリッパまでの間に、微粒子を除去するフィルタが設置された石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項7】
請求項1において、前記水洗塔からストリッパまでの配管に、シアン化水素、アンモニアを揮発させるのに適したpHに調整するpH調整槽を設置した石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項8】
請求項1において、前記ストリッパの圧力設定値を、前記ストリッパへの排水の供給量、ストリッパ排ガス流量と組成、ストリッパ排水流量と組成、及び現在のストリッパ圧力、ストリッパ下部温度から算出して設定し、ストリッパ圧力をストリッパ出口の圧力調整弁で制御する石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項9】
請求項1において、前記ストリッパ下部の温度設定値を、前記ストリッパへの排水の供給量、ストリッパ排ガス流量と組成、ストリッパ排水流量と組成、及び現在のストリッパ圧力、ストリッパ下部温度から算出して設定し、ストリッパ下部温度をストリッパリボイラへの蒸気供給量で制御する石炭ガス化システムのガス精製装置。
【請求項10】
炭化水素をガス化し、水洗塔へ供給して生成ガス中から塩化水素、シアン化水素、アンモニアを除去し、前記水洗塔の排水をストリッパによって減圧するとともに、蒸気で加熱してシアン化水素、アンモニアを気体として分離し、シアン化水素、アンモニアを燃焼処理し、前記ストリッパの排水の一部は、塩化水素除去装置へ供給され、残りの排水は、前記水洗塔へリサイクルされることを特徴とする石炭ガス化システムのガス精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−232904(P2006−232904A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46659(P2005−46659)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】