説明

石英ガラスルツボ、その製造装置およびその製造方法

【課題】単結晶引き上げクリーンルーム内での清浄度低下の防止を図る。
【解決手段】原料粉末をルツボ成形用のモールド10内に成形し、その成形体11をアーク溶融により加熱溶融して石英ガラスルツボを製造する方法であって、
アーク溶融をおこなう炭素電極13として、石英ガラスの結晶化促進剤を含有する電極を用いて前記石英ガラスルツボ内側表面に結晶化促進剤含有層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスルツボ、その製造装置およびその製造方法に係り、特に、半導体単結晶引き上げに使用される石英ガラスルツボ製造時にアーク放電をおこなう炭素電極およびその製造方法に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハなどの半導体材料として使用されるシリコン単結晶は、石英ガラスルツボに入れた多結晶シリコンを加熱溶融してシリコン融液とし、高温下、この液面に浸した種結晶を中心にして単結晶を成長させ、これを除々に引き上げて棒状の単結晶に成長させる方法( C Z 法) によって主に製造されている。
【0003】
上記シリコン単結晶の引き上げに使用される石英ガラスルツボは、引き上げ時に1400℃以上の高温に曝される。この1400℃以上の高温下においては、ルツボ壁部の沈み込みや内倒れが度々発生し、単結晶歩留まりの低下やシリコン融液の漏れなどの問題を引き起こす。その対策として、Ba,Alなどの結晶化促進剤となる元素をルツボ表面に塗布し、あるいはルツボを形成している石英ガラスにドープし、高温下で石英ガラスを結晶化させることによってルツボの強度を高める技術が知られている(特許文献1、2)。
【0004】
また、引き上げ単結晶の有転位化を防止するためにもルツボ内表面に結晶化促進剤(失透促進剤)を塗布することが知られている。(特許文献3)
このようなルツボには、石英ガラスルツボ内表面に結晶化促進剤含有塗布膜または固溶層が形成されている。
【0005】
また、石英ガラスルツボの製造方法として、シリカ粉末の層を成形させ、その成形体に対して型(モールド)を回転させながら内部に設けたカーボン電極を用いてアーク溶融させること、および、この際に用いられるシリカ粉末を成形する前に、そのシリカ粉末に前記石英ガラス用の結晶化促進剤を添加することが特許文献4に記載されている。
【0006】
また、アーク放電により石英ガラスを溶融するのに用いられる石英ガラス溶融用カーボン電極が特許文献5に記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3054362号公報
【特許文献2】特許第3100836号公報
【特許文献3】特開20003−160393号公報
【特許文献4】特許第3667515号公報
【特許文献5】特開2001−097775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、結晶化促進剤含有塗布膜の形成されたルツボでは、この結晶化促進剤が粉状にルツボ内面に付着している状態であるので、ルツボの移動、あるいは、引き上げ前の単結晶材料充填工程において、ルツボ表面に付着した粉状の結晶化促進剤の剥離によって発塵する可能性があり、これにより、引き上げ用クリーンルーム内の清浄度が低下、汚染されるためにこれを解決したいという要望があった。
【0009】
上記の結晶化促進剤含有塗布膜を形成したルツボに、単結晶引き上げとは別工程としての熱処理をルツボ製造工程として施し結晶化促進剤固溶層を形成する方法もあるが、製造工程が増えて製造時間が増大し製造コストが上昇するので好ましくない。
【0010】
また、結晶化促進剤固溶層が形成されたルツボでは、その製造工程において、結晶化促進剤をドープしたシリカ粉をルツボ内に供給し、それをルツボ内表面上に溶融・飛散させて結晶化促進剤固溶層を形成しているが、このシリカ粉(シリカ粉末)製造において、所望の濃度の結晶化促進剤ドープシリカ粉末を製造するためには、結晶化促進剤をシリカ粒子内部まで均一に拡散させる必要があり、シリカ粒子表面への付着結晶化促進剤の量を制御し、高温で長時間保持しなければならず、結晶化促進剤濃度を制御して一定濃度で形成することが難しいという問題があった。特に、ルツボ厚さ方向における結晶化促進剤濃度分布の制御は供給する原料粉の組成制御でおこなうため、所望のルツボを製造することは困難であった。さらに、この場合、必要に応じて組成の異なるシリカ粉を製造するためのコストがかかり、石英ガラスルツボの製造コストが上昇してしまうという問題があった。
さらに、結晶化促進剤をドープしたシリカ粉をルツボ内に供給し、それをルツボ内表面上に溶融・飛散させて結晶化促進剤固溶層を形成した場合には、結晶化促進剤含有塗布膜を形成したルツボに比べて、ルツボ内表面における結晶化促進剤固溶層が厚くなる傾向があり、その固溶層中に、微気泡を残し易く、引き上げ成績を悪化させる可能性があり、これを改善したいという要求があった。
【0011】
あるいは、結晶化促進剤固溶層が形成されたルツボでは、芯となるシリカ表面に結晶化促進剤の層が形成されたシリカ粉を使用した場合には、粒径が100〜200μmであり、濃度が異なる芯の部分と表面部分とに対応して結晶化促進剤濃度が不均一な部分が形成され石英ルツボ表面状態が不均一になり、単結晶引き上げ歩留まりに影響を及ぼすという問題があった。
【0012】
さらに、ルツボ製造時において、結晶化促進剤を含むシリカ粉を使用した後に結晶化促進剤を含まないシリカ粉を使用する際には、結晶化促進剤そのものが汚染物となるので、供給装置の洗浄、交換、または、別装置の用意が必要となり、作業効率の低下あるいは製造コストの増大という問題があった。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.製造時間の短縮と製造コストの削減とを図ること。
2.結晶化促進剤濃度分布が均一な石英ガラスルツボの製造を可能とすること。
3.ルツボ厚さ方向での結晶化促進剤濃度分布制御の容易化を図ること。
4.単結晶引き上げクリーンルーム内での清浄度低下の防止を図ること。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の石英ガラスルツボ製造方法は、原料粉末をルツボ成形用のモールド内に成形し、その成形体をアーク溶融により加熱溶融して石英ガラスルツボを製造する方法であって、
アーク溶融をおこなう炭素電極として、石英ガラスの結晶化促進剤を含有する電極を用いて前記石英ガラスルツボ内側表面に結晶化促進剤含有層を形成することにより上記課題を解決した。
本発明において、前記炭素電極における結晶化促進剤濃度は、前記石英ガラスルツボ製造時にアーク放電により消耗する前記炭素電極の部分に含有される結晶化促進剤が、前記結晶化促進剤含有層が含有する結晶化促進剤の合計値の1.2倍から2.5倍の範囲となるよう設定されることがより好ましい。
本発明の前記結晶化促進剤が2a族元素、3b族元素から選択される1以上とされてなることが可能である。
また、本発明の石英ガラスルツボ製造装置は、アーク放電によって原料粉を加熱溶融する炭素電極を備えた石英ガラスルツボ製造装置において、
前記炭素電極が石英ガラスの結晶化促進剤を含有することができる。
また、前記炭素電極における結晶化促進剤濃度は、前記石英ガラスルツボ製造時にアーク放電により消耗する前記炭素電極の部分に含有される結晶化促進剤が、製造する前記石英ガラスルツボ内表面に添加する結晶化促進剤の総量の1.2以上、2.5倍以下の範囲となるよう設定される手段を採用することもできる。
本発明においては、前記結晶化促進剤が2a族元素、3a、3b族元素から選択される1以上とされてなることが望ましい。
さらに、前記のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造装置の製造方法であって、
前記炭素電極の製造工程が、炭素棒を準備する工程と、
前記炭素棒を結晶化促進剤含有液に浸漬して前記炭素棒内部に結晶化促進剤を含浸させる工程と、
前記結晶化促進剤を含浸させた炭素棒を熱処理する工程と、
を有する手段か、または、前記炭素電極の製造工程が、結晶化促進剤を含有する原料スラリーを調整する工程と、
前記原料スラリーから炭素棒を成形する工程と、
前記炭素棒を熱処理する工程と、
を有する手段を採用することが可能である。
また、本発明の石英ガラスルツボは、前記のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造方法により製造されるか、前記のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造装置により製造されることができる。
【0015】
本発明の石英ガラスルツボ製造方法は、原料粉末をルツボ成形用のモールド内に成形し、その成形体をアーク溶融により加熱溶融して石英ガラスルツボを製造する方法であって、
アーク溶融をおこなう炭素電極として、石英ガラスの結晶化促進剤を含有する電極を用いて前記石英ガラスルツボ内側表面に結晶化促進剤含有層を形成することにより、粉末状の結晶化促進剤がルツボ内表面に付着していない状態のルツボを製造することができるため、発塵を防止して、半導体引き上げのクリーンルーム内での汚染源となることを防止することができる。また、上記の方法により、ルツボの内表面に均一な濃度の結晶化促進剤含有層を所望の厚さに形成し、かつ、結晶化促進剤分布以外のルツボ特性に影響を与えないことが可能となる。また、ルツボ作成時に不純物となる結晶化促進剤を含有する原料粉を使うことを回避できるので、このような原料による次回以降のルツボ製造時における汚染を防止することが可能となるとともに、結晶化促進剤含有原料粉を用意する工程を省略でき、製造時間の短縮、製造コストの低減を図ることが可能となる。これにより、半導体単結晶引き上げに用いて好適な石英ガラスルツボを提供することが可能となる。
ここで、ルツボ特性とは、ルツボ内表面におけるガラス化状態、および、厚さ方向における気泡分布及び気泡の大きさ、OH基の含有量、結晶化促進剤以外の不純物含有量、透明層の厚さ、透明層中の微気泡量など、石英ガラスルツボで引き上げた半導体単結晶の特性に影響を与える要因を意味するものである。
【0016】
本発明において、前記炭素電極における結晶化促進剤濃度は、前記石英ガラスルツボ製造時にアーク放電により消耗する前記炭素電極の部分に含有される結晶化促進剤が、前記結晶化促進剤含有層が含有する結晶化促進剤の合計値の1.2倍から2.5倍の範囲となるよう設定されることにより、使用する炭素電極を従来のものから交換するだけで、予め設定する石英ガラスルツボ内表面における結晶化促進剤濃度を制御することが可能となる。また、上記の範囲に設定することにより、結晶化促進剤による引き上げ時の結晶形成が少なくなることを防止でき、また、同様に結晶形成が多くなってルツボとの熱膨張率の差による剥離発生に起因する半導体単結晶の結晶化率低下を防止できる。また、引き上げ時にルツボに形成された結晶層の耐熱性によりルツボ内壁の平滑さが維持され長時間の引上げによっても溶損することを少なくすることができる。また、ルツボに充填した半導体原料を高温度で溶解している間、ルツボにおいて結晶化促進剤を核とする周囲で石英ガラスが速やかに結晶成長し、そこで結晶化した結晶層によりルツボ内部に存在する気泡の膨張を阻止することができる。
【0017】
本発明の前記結晶化促進剤が2a族元素、3a、3b族元素から選択される1以上とされてなることが可能であり、具体的には、マグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、バリウムなどの2a族元素、あるいは、アルミニウムなどの3b族元素を用いることができる。また、これらは、Ca、Mg、Sr、Ba、Al、Y等の金属イオンとして電極に含有されることが好ましい。
【0018】
また、本発明の石英ガラスルツボ製造装置は、アーク放電によって原料粉を加熱溶融する炭素電極を備えた石英ガラスルツボ製造装置において、
前記炭素電極が石英ガラスの結晶化促進剤を含有することにより、粉末状の結晶化促進剤がルツボ内表面に付着した状態でないルツボを製造することができるため、発塵を防止して、半導体引き上げのクリーンルーム内での汚染源となることを防止することができる。また、上記の装置により、ルツボの内表面に均一な濃度の結晶化促進剤含有層を所望の厚さに形成し、かつ、結晶化促進剤分布以外のルツボ特性に影響を与えないことが可能となる。また、ルツボ作成時に不純物となる結晶化促進剤を含有する原料粉を使うことを回避できるので、このような原料による次回以降のルツボ製造時における汚染を防止することが可能となるとともに、結晶化促進剤含有原料粉を用意する工程を省略でき、製造時間の短縮、ランニングコストおよび装置製造コストの低減を図ることが可能となる。これにより、半導体単結晶引き上げに用いて好適な石英ガラスルツボを製造可能な製造装置を提供することができる。
【0019】
また、前記炭素電極における結晶化促進剤濃度は、前記石英ガラスルツボ製造時にアーク放電により消耗する前記炭素電極の部分に含有される結晶化促進剤が、製造する前記石英ガラスルツボ内表面に添加する結晶化促進剤の総量の1.2以上、2.5倍以下の範囲となるよう設定される手段を採用することにより、予め設定する結晶化促進剤含有層における結晶化促進剤濃度とその厚さ方向分布を、石英ガラスルツボ製造装置の炭素電極を結晶化促進剤を含有しないものから交換するだけで制御することが可能となる。また、上記の範囲に設定することにより、結晶化促進剤による引き上げ時の結晶形成が少なくなることを防止でき、また、同様に結晶形成が多くなってルツボとの熱膨張率の差による剥離発生に起因する半導体単結晶の結晶化率低下を防止できる。また、単結晶引き上げ時にルツボに形成された結晶層の耐熱性によりルツボ内壁の平滑さが維持され長時間の引上げによっても溶損する割合を減少させることができる。また、単結晶引き上げの前工程においてルツボに充填した半導体原料を高温度で溶解している間、ルツボにおいて結晶化促進剤を核とする周囲で石英ガラスが速やかに結晶成長し、そこで結晶化した結晶層によりルツボ内部に存在する気泡の膨張を阻止することで半導体単結晶の収率低下を防止することも可能となる。
【0020】
さらに、前記のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造装置の製造方法であって、
前記炭素電極の製造工程が、炭素棒を準備する工程と、
前記炭素棒を結晶化促進剤含有液に浸漬して前記炭素棒内部に結晶化促進剤を含浸させる工程と、
前記結晶化促進剤を含浸させた炭素棒を熱処理する工程と、
を有することで、従来から使用されている炭素電極を結晶化促進剤含有液に浸漬して結晶化促進剤をその内部に含浸させ、これを焼結等により固定化することで、所望の結晶化促進剤濃度を有する炭素電極を容易に製造することが可能となる。この場合、結晶化促進剤含有液としては、結晶化促進剤となる金属イオン化合物の溶液として、これらの金属イオンの添加材の一部あるいは全てにたとえば炭酸塩や水酸化物、塩化物、炭化物、窒化物等のアーク放電時(ルツボ溶融時)に分解あるいはガス化し、ガス成分を発生させる化合物を使用するものとすることができる。化合物の添加量を調整すれば、単結晶引き上げ時における結晶化の状態に影響する結晶化促進剤含有層における濃度を自在に調整できるといった利点があるためである。
【0021】
また、上記結晶化促進剤が2a族元素の場合には、上記2a族元素化合物としては水に溶ける水酸化物か硝酸塩または炭酸塩がよく、これを水、好ましくはアルコールを20重量%以上含む水に溶解した塗布液が好適である。前記アルコールとしては、メチルアルコールまたはエチルアルコールを挙げることができる。
【0022】
製造したルツボ内表面における結晶化促進剤濃度を制御するために、炭素電極中の濃度を所望の範囲となるように溶液中の化合物濃度を設定する。この際、予め設定するルツボ内表面における2a族元素濃度がルツボ内表面1cm 当り1〜200μg、好ましくは1〜50μgの範囲となるように0.1〜1mmの厚さの透明な結晶化促進剤含有層を形成するよう設定することが好ましい。これにより単結晶引上げの加熱時に前記結晶化促進がルツボ内部に拡散浸透し深さ0.1〜1mmの範囲に結晶層を形成することができる。
【0023】
また、結晶化促進剤が3a、3b族元素の場合には、結晶化促進剤含有層に0.1〜2重量%の範囲で3a、3b族元素が存在するように炭素電極中の結晶化促進剤濃度を設定することが好ましい。
これにより、塗布液で塗布しても加熱によるルツボ内側への拡散浸透が起こらない3a、3b元素を結晶化促進剤として使用する場合にも、その製造が難しく製造コストの高い結晶化促進剤含有原料粉を形成することなく、電極を交換するだけで固溶状態でルツボ内表面層中に結晶化促進剤を容易に存在させることが可能となる。
【0024】
なお、炭素電極中の結晶化促進剤濃度は、アーク溶融による炭素電極の消耗量に依存するが、この電極消耗量は、製造するルツボの口径、厚さ、供給電力、処理時間、原料粉種類、用いる電極の径、電極数、アーク時間などの製造条件等によって異なるため、これらを勘案して、電極消耗量を設定し、この体積の中に、上記の結晶化促進剤量が含まれるように設定することが重要である。
【0025】
また、本発明においては、前記炭素電極の製造工程が、結晶化促進剤を含有する原料スラリーを調整する工程と、
前記原料スラリーから炭素棒を成形する工程と、
前記炭素棒を熱処理する工程と、
を有することにより、原料スラリーにおいて添加する結晶化促進剤濃度を調整することだけで、上述した特性を有する炭素電極を容易に製造することが可能となる。
【0026】
また、本発明の石英ガラスルツボは、前記のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造方法により製造されるか、前記のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造装置により製造されることで、ブラウンリングの発生を防止して単結晶引き上げ時に高歩留まりを実現できる石英ガラスルツボとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、容易かつ低コストに高歩留まりの引き上げをおこなうことの可能な石英ルツボを製造可能とすることができるという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る石英ガラスルツボ製造装置の一実施形態を示す模式正面図である。
【図2】本発明に係る実施形態におけるアーク放電装置の炭素電極位置を示す模式図である。
【図3】本発明に係る石英ガラスルツボの一実施形態を示す正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る石英ガラスルツボの製造装置の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における石英ガラスルツボの製造装置を示す模式正面図であり、図2は、本実施形態における石英ガラスルツボを示す模式断面図であり、図において、符号1は、石英ガラスルツボの製造装置、Cは石英ガラスルツボである。
【0030】
本実施形態の石英ガラスルツボの製造装置1は、図示しないモーター等の回転手段によって回転可能とされ石英ガラスルツボの外形を規定する回転モールド10を有し、モールド10の内部に原料粉(石英粉)が所定厚さに充填されて石英粉成形体11とされる。このモールド10内部には、その内表面に貫通するとともに図示しない減圧手段に接続された通気口12が複数設けられ、石英粉成形体11内部を減圧可能となっている。モールド上側位置にはアーク加熱用の炭素電極13が設けられ、石英粉成形体11を加熱可能とされている。炭素電極13,13,13は、電極位置設定手段20により、図中矢印Tおよび矢印Dで示すように上下動可能および電極間距離Dを設定可能とされている。
【0031】
石英ガラスルツボの製造装置1は、300kVA〜12,000kVAの出力範囲で、複数の炭素電極13,13,13によりアーク放電によって非導電性対象物(石英粉)を加熱溶融する高出力の装置とされる。
図2は、本実施形態におけるアーク放電装置の炭素電極位置を示す模式側面図である。
炭素電極13,13,13は、例えば、交流3相(R相、S相、T相)のアーク放電をおこなうよう同形状の電極棒とされ、図1,図2に示すように、下方に頂点を有するような逆三角錐状となるように、それぞれの軸線13Lが角度θをなすようにそれぞれが設けられている。
【0032】
電極位置設定手段20は、図1に示すように、炭素電極13,13,13を、その電極間距離Dを設定可能として支持する支持部21と、この支持部21を水平方向に移動可能とする水平移動手段と、複数の支持部21およびその水平移動手段を一体として上下方向に移動可能とする上下移動手段とを有するものとされ、支持部21においては、炭素電極13が角度設定軸22周りに回動可能に支持され、角度設定軸22の回転角度を制御する回転手段を有している。炭素電極13,13の電極間距離Dを調節するには、図1に矢印で示すように回転手段により炭素電極13の角度を制御するとともに、水平移動手段により支持部21の水平位置を制御する。また、上下移動手段によって支持部21の高さ位置を制御して電極先端部13aの石英粉成形体11底部位置に対する高さ位置を制御することが可能となる。
なお、図には左端の炭素電極13のみに支持部21等を示しているが、他の電極も同様の構成によって支持されており、個々の炭素電極13の高さも個別に制御可能とすることができる。
【0033】
炭素電極13は、柱状で、少なくともルツボ製造時のアーク放電により消耗する部分に結晶化促進剤を含有するものとされており、その濃度は、アーク放電により炭素電極13が消耗する際に同時に放出される結晶化促進剤が、石英粉成形体11に到達して製造された石英ガラスルツボC内側表面に添加される結晶化促進剤の合計より多くなるように設定される。これは、石英ガラスルツボCに到達しない結晶化促進剤を考慮して、炭素電極13中の結晶化促進剤濃度を設定するためである。
【0034】
具体的には、炭素電極13における結晶化促進剤濃度は、石英ガラスルツボ製造時にアーク放電により消耗する消耗部分に含有される結晶化促進剤が、製造する前記石英ガラスルツボ内表面に添加する結晶化促進剤の総量の1.2以上、2.5倍以下の範囲となるよう設定される。
上記の範囲に設定することにより、好ましい濃度を有する結晶化促進剤含有層C1を石英ガラスルツボCに形成することが可能となる。
【0035】
炭素電極13が複数本設けられている場合には、これらの合計を上記の電極消耗量(消耗部分の体積)として、この部分の結晶化促進剤濃度を設定することになる。
また、炭素電極が複数本設けられている場合には、全ての炭素電極13における結晶化促進剤濃度を均等にすることや、空間的に対称位置に濃度の異なる電極を配置することも可能である。具体的には、結晶化促進剤濃度の異なる電極位置関係によってアーク放電中に雰囲気状態として形成される濃度分布が、石英ガラスルツボCの中心線に対して対称となるように複数の炭素電極13を配置することができる。
【0036】
高純度の炭素電極13は、例えば、交流3相(R相、S相、T相)のアーク放電電極として用いられる。炭素電極13は、粒子径0.3mm以下、好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは粒子径0.05mm以下の高純度炭素粒子によって形成されて、その密度が1.30g/cm 〜1.80g/cm 、あるいは1.30g/cm 〜1.70g/cm のとき、電極各相に配置した炭素電極相互の密度差が0.2g/cm 以下とされることができ、このように高い均質性を有していることによって、発生したアークが安定であり、炭素電極13の局部的な欠落を防止できる。
【0037】
炭素電極13は冷間等方圧加圧法(CIP法)によって製造することができる。この成形法によれば炭素微粉を用いて高密度の均質性に優れた炭素電極を得ることができる。なお、炭素粒子と共に配合するバインダーは結晶化促進剤を含有することが可能である。
【0038】
また、炭素電極13は、冷間等方圧加圧法(CIP法)によって形成した炭素棒を結晶化促進剤に浸漬することで、その内部に結晶化促進剤を含浸したものとして製造することも可能である。
【0039】
結晶化促進剤が2a族元素、3b族元素から選択される1以上とされてなることが可能であり、具体的には、マグネシウム、ストロンチウム、カルシウム、バリウムなどの2a族元素、あるいは、イットリウムなどの3a族、あるいは、アルミニウムなどの3b族元素を用いることができる。また、これらは、Ca、Mg、Sr、Ba、Al、Y等の金属イオンとして用いることが好ましい。
【0040】
一例として、純水かエチルアルコールと純水3:7の溶液1リットル中に水酸化バリウムを16g溶解した液体に炭素棒を浸漬し、その後、300℃3時間大気中で熱処理して、炭酸バリウムとして結晶化促進剤を含浸した炭素電極13を形成することができる。
【0041】
炭素棒としては、最大粒径が150μm以下で、かつカーボン質原料の90重量%以上が粒径75μm以下である粒子がコークスなどの原料、例えば石炭系ピッチコークス、およびコールタールピッチなどの結合材、例えば石炭系コールタールピッチとを炭化した混練物を用いて、これらカーボン質原料と残炭率が50%以上である結合材とを加熱混練し、得られる混練物を粉砕し、これを最大粒径が500μm以下であり50重量%以上が粒径38〜500μmとなるように篩分し、得られた2次粒子をCIP成形し、これを焼成後、2900〜3100℃で黒鉛化した等方性黒鉛材料をこれを成形加工、純化処理することができる。純化処理は、気孔率が10%である黒鉛材料の気孔に熱硬化性樹脂、例えばフェノール系またはフラン系のものを含浸させた後、上述の焼成と同様に重油バーナを熱源とする炉で焼成し、加工して成形し、高純度処理を行い、灰分を5ppm以下にして、炭素棒とすることができる。
なお、上記のように、あらかじめ混練物に結晶化促進剤を含めておくことも可能である。
【0042】
本実施形態の石英ガラスルツボ製造方法によれば、石英ガラスルツボ製造装置1において、モールド10に石英粉(原料粉)を充填し、石英粉成形体11を所望の状態に成形した後、図示しない電力供給手段から炭素電極13に通電してアーク放電を発生させる。この際、通気口12に接続した減圧手段によって石英粉成形体11付近の圧力を制御する。このアーク溶融によって、石英粉を溶融して石英ガラス溶融体とし、開口部の上端部分をリムカット工程によって除去して、清浄等の表面処理をおこない石英ガラスルツボCを製造する。
【0043】
石英粉のアーク溶融時に、アーク放電によって消耗した炭素電極13に含まれた結晶化促進剤が石英粉成形体11付近に到達して、図2に示すように、結晶化促進剤含有層C1が石英ガラスルツボCの内側表面に形成されるとともに、アーク溶融により外側層C2を形成する。結晶化促進剤含有層C1および外側層C2は、通気口12を介して減圧処理およびその制御をおこなうことで、含有気泡の量及び大きさを制御することができる。
【0044】
これにより、石英ガラスルツボCの内表面全体に均一な濃度の結晶化促進剤含有層C1を0.1mm〜3mm程度とされる所望の厚さに形成するとともに、結晶化促進剤分布以外のルツボ内表面におけるガラス化状態、および、厚さ方向における気泡分布及び気泡の大きさ、OH基の含有量、結晶化促進剤以外の不純物成分含有量、透明層厚さ、透明層中の微気泡量など、引き上げる半導体単結晶の特性に影響を与えない状態で石英ガラスルツボCを製造することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態によれば、石英ガラスルツボC作成時に不純物となる結晶化促進剤を含有する石英粉(シリカ粉)を使うことを回避できるので、このような原料によって発生する次回以降のルツボ製造時における汚染を防止することが可能となるとともに、結晶化促進剤含有原料粉を用意する工程を省略でき、製造時間の短縮、製造コストの低減を図ることが可能となる。これにより、半導体単結晶引き上げに用いて好適な石英ガラスルツボCを提供することが可能となる。
【0046】
本実施形態によれば、同時に、粉末状の結晶化促進剤が表面に付着し発塵源となる状態ではないため、半導体引き上げのクリーンルーム内での汚染源となることを防止することができる。また、予め設定する結晶化促進剤含有層C1における結晶化促進剤濃度を、使用する炭素電極13を従来のものから交換するだけで制御することが可能となる。また、上記の範囲に設定することにより、結晶化促進剤による引き上げ時のルツボ内における結晶形成が少なくなってルツボ強度が低下することを防止でき、また、同様に結晶形成が多くなってルツボとの熱膨張率の差による剥離発生に起因する半導体単結晶の転位発生率を低下して歩留まり低下を防止できる。また、引き上げ時にルツボに形成された結晶層の耐熱性によりルツボ内壁の平滑さが維持され長時間の引上げによっても溶損することを少なくすることができる。また、引き上げ前にルツボに充填した半導体原料を高温度で溶解している間、ルツボにおいて結晶化促進剤を核とする周囲で石英ガラスが速やかに結晶成長し、そこで固体化した結晶によりルツボ内部に存在する気泡の膨張を阻止することができる。同時に、本実施形態によれば、石英ガラスルツボにおける製造時間の短縮、製造コストの低減を図ることが可能となる。これにより、半導体単結晶引き上げに用いて好適な石英ガラスルツボを製造可能な製造装置を提供することができる。
【0047】
なお本実施形態においては、石英ガラスルツボCの内側表面に均一な結晶化促進剤含有層C1を形成したが、図1に矢印Tで示すように、炭素電極13を上下方向(ルツボ中心軸方向)に移動する際に、その高さ位置に維持する時間およびその際の供給電力を変化させるように制御することなどによって、高さ方向に結晶化促進剤濃度あるいは厚さの異なる結晶化促進剤含有層を形成することもできる。
【0048】
また、本実施形態における石英ガラスルツボ製造方法によれば、石英ガラスルツボ製造装置1において、結晶化促進剤を含む複数の炭素電極の組と、結晶化促進剤を含まない炭素電極の複数の組とを用意して、これらの組を切り替えて電力を供給することで、結晶化促進剤雰囲気でアーク溶融をおこなう工程と、結晶化促進剤を含まない雰囲気でアーク溶融をおこなう工程とによって石英ガラスルツボを製造することも可能である。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
各種濃度の水酸化Ba水溶液をつくり、その溶液に直径φ60mm、長さ500mmの市販のアーク用炭素電極材を浸漬、5時間保持することで、Ba水溶液含浸炭素電極を作成した。この電極を大気中300℃で3時間処理することで、結晶化促進剤としてBaを含むBa含有炭素電極をつくった。このBa含浸電極中のBa含有量は、含浸電極を粉状化して硝酸中に抽出する方法で分析し、炭素材1gあたりのBa含有量を求めた。
上記方法で製造した各種Ba含有量の炭素電極と、比較例としてBaを含浸しない市販の炭素電極を用い、電極を上下させながらアーク溶融し外径24インチ(61cm)の石英ルツボを製造した。アーク溶融の際、電極消耗量が約500gとなるよう、あらかじめアーク条件決めた。
アーク溶融により酸化消耗した炭素電極中の総Ba含有量と、アーク中にルツボ内面にドープされたBa総量の比(各部位からルツボ片サンプルを切り出し、そのBa含有量と各部位の面積から算出)を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
<実施例2>
実施例1と同様に水酸化Ca水溶液を用いて製造した各種Ca濃度のCa含浸電極を用いて、アーク溶解により24インチ石英ルツボを製造したときの、ルツボ内表面目標ドープ総量を得るため、各種濃度のCa含浸炭素電極を用いたときの消耗炭素電極中の総Ca量の関係を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
<実施例3>
用いる炭素電極に、結晶化促進剤としてAlを含浸する際、コークスを150μm以下の粉末に粉砕したカーボン粉末と、コールタールピッチを重量比で2:1になるよう混合・捏合し混錬物を製造する際、結晶化促進剤として、粒径10μm以下の酸化アルミニウム粉末を目標量入れて混錬物を製造した。さらに、この混錬物を押出成型してφ80mmの丸棒状に加工し、1000℃で焼成後、3000℃で黒鉛化処理をして炭素電極材とした。この炭素電極材からφ60mm、長さ500mmの電極を削りだし、純化処理しアーク用炭素電極とした。
上記方法で製造した各種濃度のAl含浸炭素電極を用い、実施例1および2と同様、24インチルツボを製造し、電極消耗部の総Al量とルツボ中の総Al量の関係を求めた。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
上記実施例、1,2,3の結果は、異なる結晶化促進剤においても、ルツボ内に目標量の結晶化促進剤をドープするためには、電極消耗量から算出される理論総含浸量に対し、1.2倍〜2.5倍の結晶化促進剤を含浸すれば達成されることを実証している。
【符号の説明】
【0056】
1…石英ガラスルツボ製造装置、13…炭素電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末をルツボ成形用の回転モールド内に成形し、その成形体をアーク溶融により加熱溶融して石英ガラスルツボを製造する方法であって、
アーク溶融をおこなう炭素電極として、石英ガラスの結晶化促進剤を含有する電極を用いて前記石英ガラスルツボ内側表面に結晶化促進剤含有層を形成することを特徴とする石英ガラスルツボ製造方法。
【請求項2】
前記炭素電極における結晶化促進剤濃度は、前記石英ガラスルツボ製造時にアーク放電により消耗する前記炭素電極の部分に含有される結晶化促進剤が、前記結晶化促進剤含有層が含有する結晶化促進剤の合計値の1.2倍から2.5倍の範囲となるよう設定されることを特徴とする請求項1記載の石英ガラスルツボ製造方法。
【請求項3】
前記結晶化促進剤が2a族元素、3a、3b族元素から選択される1以上とされてなることを特徴とする請求項1または2記載の石英ガラスルツボ製造方法。
【請求項4】
アーク放電によって原料粉を加熱溶融する炭素電極を備えた石英ガラスルツボ製造装置において、
前記炭素電極が石英ガラスの結晶化促進剤を含有することを特徴とする石英ガラスルツボ製造装置。
【請求項5】
前記炭素電極における結晶化促進剤濃度は、前記石英ガラスルツボ製造時にアーク放電により消耗する前記炭素電極の部分に含有される結晶化促進剤が、製造する前記石英ガラスルツボ内表面に添加する結晶化促進剤の総量の1.2以上、2.5倍以下の範囲となるよう設定されることを特徴とする請求項4記載の石英ガラスルツボ製造装置。
【請求項6】
前記結晶化促進剤が2a族元素、3a、3b族元素から選択される1以上とされてなることを特徴とする請求項4または5記載の石英ガラスルツボ製造装置。
【請求項7】
請求項4から6のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造装置の製造方法であって、
前記炭素電極の製造工程が、炭素棒を準備する工程と、
前記炭素棒を結晶化促進剤含有液に浸漬して前記炭素棒内部に結晶化促進剤を含浸させる工程と、
前記結晶化促進剤を含浸させた炭素棒を熱処理する工程と、
を有することを特徴とする石英ガラスルツボ製造装置の製造方法。
【請求項8】
請求項4から6のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造装置の製造方法であって、
前記炭素電極の製造工程が、結晶化促進剤を含有する原料スラリーを調整する工程と、
前記原料スラリーから炭素棒を成形する工程と、
前記炭素棒を熱処理する工程と、
を有することを特徴とする石英ガラスルツボ製造装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造方法により製造されるか、請求項4から6のいずれかに記載された石英ガラスルツボ製造装置により製造されたことを特徴とする石英ガラスルツボ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−79681(P2011−79681A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230696(P2009−230696)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(592176044)ジャパンスーパークォーツ株式会社 (90)
【Fターム(参考)】