説明

研削加工盤及び研削加工方法

【課題】ワークのセット替え並びに立ち上げに要する時間の短縮化を図ると共に、インプロセスゲージを使用しない場合であっても、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することを可能にする研削加工技術を提供する。
【解決手段】ティーチング(当て込み)を実行し、その当て込み位置SXから所定の「試し研削量A」だけワーク2を研削した後、当該ワークの径を測定し、その測定結果に基づいて、仕上寸法となるまでに研削すべき残余量(残り研削量)を算出し、その「残り研削量R」だけ研削加工を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークのセット替え並びに立ち上げに要する時間の短縮化を図ると共に、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することを可能にする研削加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば軸受の軌道輪(内輪、外輪)などの各種ワークを製造する工程では、あるワーク(例えば、内輪)の内径に対する研削加工や、他のワーク(例えば、外輪)の軌道溝に対する研削加工が行われており、そのための研削加工技術について種々の提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、例えばワークのセット替えに際し、砥石とワーク(内輪、外輪)との位置関係をセットする場合、従来の研削加工技術では、主軸にワークをセットした後、切込軸を手動操作し、その切込軸に設けられている砥石をワークに当て込むティーチング作業が行われている。例えば、内輪に対するティーチング作業では、砥石が内輪の内径面に当たる(接触する)位置まで切込軸を手動操作したり、外輪に対するティーチング作業では、砥石が外輪の軌道溝に当たる(接触する)位置まで切込軸を手動操作している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−76005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したティーチング作業(当て込み作業)は、熟練を要するため、これに従事する作業者には、研削加工に対する高いスキルが要求されている。このため、熟練の程度によっては、ティーチング作業に時間がかかり、ワークのセット替えに要する時間が長期化し、その結果、ワークに対する研削加工の効率化を図ることが困難になってしまう虞がある。
【0006】
特に、インプロセスゲージ(一対の触針をワークの研削加工部位にセットすることで、ワークの研削加工状態を常時検出することを可能にする定寸装置)を使用しない場合、当て込みの程度(加減)によって研削加工部位の寸法精度にバラつきが生じるため、不良品が発生し易くなり、その結果、研削加工の当初(初品)から良品を出すこと、即ち、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することが極めて困難であった。
【0007】
また、機械の立ち上げ時(例えば、毎朝又は週初めの立ち上げ時、或いは、機械が長期間停止していた後の立ち上げ時)においては、温度差(例えば、気温や水温など)による機械構成の寸法変化が生じる場合があるが、その寸法変化の程度(加減)によっては、研削加工の当初(初品)から不良品が発生してしまう虞がある。特に、インプロセスゲージを使用しない機械では、不良品の発生が顕著に現れる。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、ワークのセット替え並びに立ち上げに要する時間の短縮化を図ると共に、インプロセスゲージを使用しない場合であっても、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することを可能にする研削加工技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、ワークに研削加工を施す砥石と、砥石をワークに対して相対的に移動させことで、ワークを所定の仕上寸法に研削加工する砥石制御システムとを有する研削加工盤(研削加工方法)であって、砥石が最初のワークに接触する当て込み位置を予め設定する第1手段(工程)と、予め設定された当て込み位置に基づいて、砥石を、当て込み位置より手前側に位置する初品研削開始位置に位置決めする第2手段(工程)と、砥石を初品研削開始位置から移動させ、仕上寸法よりも小さい寸法値となるように当て込み位置から所定量だけ最初のワークに研削加工を施した後、砥石を初品研削開始位置に送り戻す第3手段(工程)と、研削加工が施された最初のワークの径を測定し、その測定結果に基づいて、仕上寸法となるまでに研削すべき残余量を算出する第4手段(工程)と、砥石を補正量分だけ前進させた位置に位置決めすると共に、その位置を2番目以降のワークに対する研削加工における通常研削開始位置とし、その通常研削開始位置から砥石を移動させ、仕上送り完了位置までワークに研削加工を施す第5手段(工程)とを有する。
本発明では、第1手段(工程)において、当て込み位置は、最初のワークと同一のワークを用いて、砥石をワークに接触した位置とする。
本発明では、第1手段(工程)において、当て込み位置は、砥石の径と最初のワークの径との差分に基づいて算出する。
本発明では、研削加工盤の立ち上げ時、その構成の寸法変化が生じた場合、砥石を、通常研削開始位置から所定の逃がし量だけ後退させた位置に位置決めする第6手段(工程)を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ワークのセット替え並びに立ち上げに要する時間の短縮化を図ると共に、インプロセスゲージを使用しない場合であっても、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することを可能にする研削加工技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る研削加工技術の仕様を模式的に示す図。
【図2】セット替え後の初品研削加工サイクルの具体的構成を模式的に示す図。
【図3】ワーク径と砥石径とから接触位置を算出するプロセスを説明するための図。
【図4】立ち上げ時の初品研削加工サイクルの具体的構成を模式的に示す図。
【図5】(a)は、砥石制御システムの構成を示すブロック図、(b)は、研削加工プロセスを示すフローチャート。
【図6】(a)は、ティーチング有りの場合における当て込み位置設定プロセスを示すフローチャート、(b)は、ティーチング無しの場合における当て込み位置設定プロセスを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る研削加工技術について添付図面を参照して説明する。
図1,3及び図5(a)には、本実施形態の研削加工技術を実現するための研削加工盤の構成が示されており、研削加工盤は、ワーク2に研削加工を施す砥石4と、砥石4をワーク2に対して相対的に移動させる砥石制御システムNCとを有している。この場合、砥石4は、クイルタイプの支持軸6(切込軸、サーボ軸ともいう)に支持されており、支持軸6は、砥石制御システムNCによって制御される研削盤本体8に組み込まれている。
【0013】
砥石制御システムNCは、各種ワーク2の研削加工に必要な緒元が予め登録されたワーク諸元データベース10と、当該ワーク諸元データベース10に登録された各種ワークの諸元に基づいて、所定の演算処理を実行する演算処理部12とを有している。なお、ワーク2としては、例えば軸受の内輪や外輪を想定することができる。
【0014】
ワーク諸元データベース10に登録された各種ワーク2の諸元としては、当該ワーク2の研削加工に必要な情報が該当する。例えば、研削加工前のワーク2の直径(内径)IDや、研削加工において砥石4を移動させる位置(例えば、急速送り完了位置S1,S1′、仕上送り完了位置S3、試し送り完了位置STなどの研削送り位置)などの各種情報を想定することができる。
【0015】
演算処理部12には、上記した諸元に基づいて、研削加工に必要な各種の演算処理を実行するためのコンピュータ(図示しない)が内蔵されており、当該コンピュータは、各種の演算処理プログラムが記憶されたROM(図示しない)と、演算処理プログラムを実行するための作業領域を規定するRAM(図示しない)と、RAM上において演算処理プログラムを実行するCPU(図示しない)とを有している。
【0016】
このような演算処理部12では、ワーク諸元データベース10に登録された各種ワークの諸元に基づいて上記した演算処理が実行され、その演算処理結果に基づいて研削盤本体8を制御(例えば、送り制御、回転制御など)することで、支持軸6に支持された砥石4をワーク2に対して相対的に移動させ、これにより、当該ワーク2に対する研削加工を実行することができる。この場合、支持軸6は、例えばACサーボモータ(図示しない)によって送り制御、回転制御されるようになっており、これにより、研削送り位置S0,S0′,S1,S1′,S3,S3′までの砥石4の移動制御が行われる。
【0017】
具体的に説明すると、ワーク2毎に割り振られている“型番”を、砥石制御システムNCに設けられた入力指示部14から入力すると、その“型番”に一致したワーク2についての諸元データに基づいて、演算処理部12が研削盤本体8を制御する。このとき、演算処理部12は、図示しないエンコーダ(回転検出器)によってACサーボモータの出力軸の回転位置や回転速度を検知しながら、現在位置(座標)信号と目標位置(座標)信号とを比較して、支持軸6に対するフィードバック制御(送り制御、回転制御)行う。
【0018】
ここで、現在位置(座標)信号と目標位置(座標)信号とに差がある場合、演算処理部12は、ACサーボモータを目標位置(座標)信号との差分を減少させる方向に動作(回転)させる。そして、このような手順を、最終的に目標値に到達するか、許容範囲に入るまで繰り返すことで、当該支持軸6が送り制御、回転制御され、これにより、研削送り位置S0,S0′,S1,S1′,S3,S3′までの砥石4の移動制御が行われる。
【0019】
なお、別の方法として、例えばACサーボモータの現在位置情報(座標)をデジタル的に記録しておき、これに目標位置(座標)信号までの差分を与えて、その目標値に一度に到達させるように、研削送り位置S0,S0′,S1,S1′,S3,S3′までの砥石4の移動制御を行ってもよい。そうすることで、ワーク2のセット替えから研削加工に至るルーチンの効率化を図ることができる。
【0020】
ここで、本実施形態の研削加工技術について、その原理を説明する。
図1に示すように、本実施形態の研削加工技術は、ワークのセット替え並びに立ち上げに要する時間の短縮化を実現可能に構成されている。ワークのセット替えでは、あるワーク2に対する研削加工のためのセットと、他のワーク2に対する研削加工のためのセットとの切り替え、即ち“型番”の異なるワーク2への「セット替え後の初品研削加工サイクル」を想定する。また、立ち上げでは、研削加工盤が長期間停止していた後の立ち上げ時において、温度差(例えば、気温や水温など)による機械構成の寸法変化が生じた場合でも、これに影響されない「立ち上げ時の初品研削加工サイクル」を想定する。
【0021】
「セット替え後の初品研削加工サイクル」では、ティーチング作業(当て込み作業)を実行し、その当て込み位置から所定の「試し研削量」だけワーク2を研削した後、アンローディングされたワーク2の直径(内径)を測定し、その測定結果に基づいて、研削すべき残余量(残り研削量)を算出する。そして、その「残り研削量」だけ研削加工を実行する。これにより、当て込み作業のスキルが不要となり、セット替えに要する時間の短縮化を図ることができると共に、インプロセスゲージを使用しない場合であっても、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することができる。
【0022】
「立ち上げ時の初品研削加工サイクル」では、前回(直前)に実行された研削加工における研削開始位置(研削原点位置)から所定の「逃がし量」だけ後退させた位置に砥石4を位置決めし、その位置から、通常の研削加工サイクルと同様のプロセスに従って研削加工を実行することで、アンローディングされたワーク2の直径(内径)を測定し、その測定結果に基づいて、研削すべき残余量(残り研削量)を算出する。そして、その「残り研削量」だけ研削加工を実行する。これにより、立ち上げに要する時間の短縮化を図ることができると共に、インプロセスゲージを使用しない場合であっても、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することができる。
【0023】
次に、本実施形態の研削加工技術において、上記した原理を実現するための具体的な構成に基づく動作フローについて説明する。本動作フローでは、ワーク2として、例えば内輪や外輪を適用することができるが、ここでは一例として、外輪を想定する。また、研削加工を施す部位としては、例えばワーク2の内径面や外径面を適用することができるが、ここでは一例として、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sに対して研削加工を施す場合を想定する。なお、本動作フローでは、一例として「セット替え後の初品研削加工サイクル」を想定して説明する。
【0024】
図1,2及び図5,6に示すように、試し研削量Aを指定した後(図5(b)のP1)、ワーク(外輪)2をローディングする(図5(b)のP2)。
【0025】
この場合、試し研削量Aの指定は、該当する研削寸法(内径寸法)を、砥石制御システムNCの入力指示部14(図5(b)参照)から入力することで行われる。なお、該当する研削寸法(試し研削加工後の内径寸法)は、“型番”毎に予め設定された「仕上寸法」よりも小さい寸法値として指定することができるが、これは「仕上寸法」に応じて決定されるため、ここでは特に数値限定しない。
【0026】
続いて、予め設定された当て込み(ティーチング)位置SXに基づいて(図5(b)のP3)、砥石4を、当て込み位置SXより手前側に位置する初品研削開始位置としての研削原点位置S0′に位置決めする(図5(b)のP4)。なお、当て込み位置SXより手前側とは、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sに砥石4が接触しない範囲を指す。
【0027】
この場合、当て込み位置SXの設定では、実際に研削加工が施される最初の実施品としてのワーク(外輪)2を使用してティーチング作業を行うことにより設定する場合と、ティーチング作業を行うことなく、計算により設定する場合とがある。
【0028】
最初のワーク(外輪)2を研削盤にセットした後(図6(a)のT1)、砥石4を、ワーク(外輪)2の内径面(外輪軌道溝に相当する部位)に向けて微小量ずつ手動送りする(図6(a)のT2)。そして、砥石4がワーク(外輪)2の内径面に接触したとき(図6(a)のT3)、その接触位置の位置を当て込み位置SXのデータとして取得することができる(図6(a)のT4)。
【0029】
なお、当て込み位置SXのデータは、例えばACサーボモータによって座標位置として管理することができる。この場合、砥石制御システムNCの演算処理部12(図5(b)参照)において、座標位置として管理された当て込み位置SXのデータ基づいて、初品研削開始位置としての研削原点位置S0′を算出することができる(図6(a)のT4)。
【0030】
前記のようなティーチング作業を行うことなく、計算により当て込み位置SXの設定を行う場合、砥石4の直径WD、及び、“型番”毎に規定されているワーク(外輪)2の(内径)IDをそれぞれ指定することで(図6(b)のQ1)、砥石制御システムNCの演算処理部12において、当て込み位置SX、及び、研削原点位置S0′が算出される(図6(b)のQ2)。
【0031】
この場合、砥石4の直径WD、及び、ワーク(外輪)2の(内径)IDは、支持軸6のセンター位置CPを基準にし、ACサーボモータによって座標位置として管理することができる(図3参照)。即ち、砥石制御システムNCの演算処理部12において、砥石4の直径WDと、ワーク(外輪)2の(内径)IDとの差分に基づいて、当て込み位置SXを算出し、その算出された当て込み位置SXに基づいて、初品研削開始位置としての研削原点位置S0′を算出することができる。
【0032】
支持軸6のセンター位置CPについては、ワーク(外輪)2を回転自在に保持する図示しないバッキングプレートの回転中心線と砥石4の中心線とが一致する位置を、支持軸6の送り制御用のACサーボモータの制御用情報として、予め演算処理部12に記憶させておく。
【0033】
なお、計算により算出される当て込み位置SX及び研削原点位置S0′と、実際の位置との間には誤差が生じる場合があり、この誤差の程度によっては、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sを高精度に研削加工することができなくなってしまう虞がある。そこで、かかる不具合の発生を防止するため、以下の6つの誤差要因を考慮して、当て込み位置SX及び研削原点位置S0′を算出することが好ましい。
【0034】
(1)ワーク2が外輪の場合、ワーク2を回転可能に支持するバッキングプレート(図示しない)の位置ズレ
(2)ワーク2が外輪の場合、外輪溝の直径の寸法ズレ
(3)砥石4の直径WDの測定誤差によるズレ
(4)クイルタイプの支持軸6の傾斜量(ベンディング量)によるズレ
(5)一対のシューでワーク2を保持する場合、当該シューの磨耗によるズレ
(6)一対のシューでワーク2を保持する場合、当該シューの研磨精度のズレ
【0035】
ここで、研削原点位置S0′は、当て込み位置SXよりも後退した位置であり、その後退量(距離)は、後述する仕上研削を行う際の研削開始位置(即ち、更新研削原点位置S0)よりも小さくなるように設定することが好ましい。即ち、研削原点位置S0′は、更新研削原点位置S0と当て込み位置SXとに基づいて、S0′<S0<SXなる関係を満足させるように設定することが好ましい。
【0036】
このように、当て込み位置SXに基づいて(図5(b)のP3)、初品研削開始位置としての研削原点位置S0′が算出され、砥石4が当該研削原点位置S0′に位置決めされた状態において(図5(b)のP4)、当該砥石4を、試し送り完了位置ST(ST=SX+A)まで移動させることで、上記した「試し研削量A」分だけ、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sに対して(試し)研削加工を施す(図5(b)のP5)。
【0037】
具体的には、研削原点位置S0′から急速送り完了位置S1′まで砥石4を急速送りすると共に、急速送り完了位置S1′から当て込み位置SXまで砥石4を粗送りした後、当て込み位置SXから試し送り完了位置STまで砥石4を試し送りして、研削加工を実行することで、上記した「試し研削量A」分だけ、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sに対して(試し)研削加工を施す。
【0038】
「試し研削量A」分の研削加工が完了したとき、砥石4を再び研削原点位置S0′に送り戻し(図5(b)のP6)、ワーク(外輪)2をアンローディングさせる。この状態で、(試し)研削加工が施されたワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sの内径を測定し、その測定結果に基づいて、仕上寸法となるまでに研削すべき残余量(残り研削量)Rを算出する(図5(b)のP7)。
【0039】
ここで、残余量(残り研削量)Rの算出処理は、砥石制御システムNCの演算処理部12により自動的に行ってもよいし、或いは、手作業やポストプロセス(測定ゲージを用いた加工済み部位の計測)により行ってもよい。
【0040】
次に、算出した「残り研削量R」を、砥石制御システムNCの入力指示部14から入力し、研削加工サイクルを起動(再ローディング)させることで(図5(b)のP8)、砥石4を補正送り量Hだけワーク2に向けて前進(接近)させて、更新研削原点位置S0(S0=S0′−(S3′−ST−R))に位置決めする(図5(b)のP9)。
【0041】
この後、研削加工サイクルは、通常の研削加工ルーチンに従ったものとなり、更新研削原点位置S0に位置決めした砥石4を、仕上送り完了位置S3まで移動させることで、上記した「残り研削量R」分だけ、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sに対して(仕上)研削加工を施す(図5(b)のP10)。
【0042】
具体的には、更新研削原点位置S0から急速送り完了位置S1まで砥石4を急速送りすると共に、当該急速送り完了位置S1から砥石4を粗送りすることで、当該砥石4を、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sに当てた(接触させた)後、その状態から仕上送り完了位置S3まで砥石4を仕上送りして、研削加工を実行することで、上記した「残り研削量R」分だけ、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sに対して(仕上)研削加工を施す。そして、砥石4を、再び更新研削原点位置S0に送り戻すことで、「セット替え後の初品研削加工サイクル」が完了する。
【0043】
このように、セット替え後の最初(初品)のワーク(外輪)2に対する初品研削加工サイクルが完了した後、当該最初のワーク(外輪)2と同一“型番”のワーク2(2番目以降の各ワーク2)に対する研削加工を行う場合、その各ワーク2に対する研削加工では、更新研削原点位置S0が、2番目以降の「通常研削開始位置」としての「研削原点位置S0」となり、当該研削原点位置S0から急速送り完了位置S1、仕上送り完了位置S3を経て再び研削原点位置S0に送り戻す「通常研削加工サイクル」が繰り返される。
【0044】
以上、本実施形態によれば、仕上寸法より小さい寸法値まで、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sを研削加工し、その研削加工済みの内径を測定した後、その測定結果に基づいて、仕上寸法となるまでに研削すべき残余量(残り研削量)を算出し、その「残り研削量」だけ研削加工を実行するようにしたことで、ティーチング作業(当て込み作業)に対する高いスキルが不要となり、比較的ラフにティーチング作業(当て込み作業)を行ったとしても(即ち、真の当て込み位置SXとの差がある程度大きい場合であっても)、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sを狙い寸法通りに仕上げることができる。また、ティーチング作業を行うことなく、計算により当て込み位置SX等を推定する場合、種々の誤差が含まれることになるが、そのような場合であっても同様である。
【0045】
これにより、ワークのセット替えに要する時間の短縮化を図ると共に、インプロセスゲージを使用しない場合であっても、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発でアンローディングさせることができる。その結果、ワークに対する研削加工の効率化を飛躍的に向上させることができる。
【0046】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、その変形例として、例えば研削加工盤の立ち上げ時(例えば、毎朝又は週初めの立ち上げ時、或いは、研削加工盤が長期間停止していた後の立ち上げ時)において、温度差(例えば、気温や水温など)による機械構成の寸法変化が生じ、これにより、例えば砥石4と、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sとの間の位置関係が変化した場合、これに影響されない「立ち上げ時の初品研削加工サイクル」を実現することができる。
【0047】
この場合、「立ち上げ時の初品研削加工サイクル」を実現するための具体的な構成に基づく動作フローでは、図5(b)に示されたフローチャートにおいて、試し研削量Aを指定するプロセス(図5(b)のP1)の直前に、前回(直前)に実行された研削加工における通常研削開始位置(研削原点位置S0)から所定の「逃がし量」だけ後退させた位置(ワーク(外輪)2から離間した位置)に砥石4を位置決めするプロセスが必要となる(図4参照)。
【0048】
なお、「逃がし量」は、温度差(例えば、気温や水温など)による機械構成の寸法変化に応じて設定されるため、ここでは特に数値限定しない。そして、設定した「逃がし量」を、砥石制御システムNCの入力指示部14(図5(b)参照)から入力した後は、上記した「セット替え後の初品研削加工サイクル」と同様のプロセスに従って研削加工が実行されるため、その説明は省略する。
【0049】
以上、本変形例によれば、研削加工盤の立ち上げ時に、温度差(例えば、気温や水温など)による機械構成の寸法変化が生じた場合であっても、これによる影響を受けること無く、ワーク(外輪)2の内径面、即ち、外輪軌道溝2sを狙い寸法通りに仕上げることができる。これにより、立ち上げに要する時間の短縮化を図ると共に、インプロセスゲージを使用しない場合であっても、不良品の発生を無くし、狙い寸法通りの良品を一発で研削加工することができる。その結果、ワークに対する研削加工の効率化を飛躍的に向上させることができる。
【符号の説明】
【0050】
2 ワーク
A 試し研削量
SX 当て込み位置
R 残り研削量(残余量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに研削加工を施す砥石と、砥石をワークに対して相対的に移動させことで、ワークを所定の仕上寸法に研削加工する砥石制御システムとを有する研削加工盤であって、
砥石が最初のワークに接触する当て込み位置を予め設定する第1手段と、
予め設定された当て込み位置に基づいて、砥石を、当て込み位置より手前側に位置する初品研削開始位置に位置決めする第2手段と、
砥石を初品研削開始位置から移動させ、仕上寸法よりも小さい寸法値となるように当て込み位置から所定量だけ最初のワークに研削加工を施した後、砥石を初品研削開始位置に送り戻す第3手段と、
研削加工が施された最初のワークの径を測定し、その測定結果に基づいて、仕上寸法となるまでに研削すべき残余量を算出する第4手段と、
砥石を補正量分だけ前進させた位置に位置決めすると共に、その位置を2番目以降のワークに対する研削加工における通常研削開始位置とし、その通常研削開始位置から砥石を移動させ、仕上送り完了位置までワークに研削加工を施す第5手段とを有することを特徴とする研削加工盤。
【請求項2】
第1手段において、当て込み位置は、最初のワークと同一のワークを用いて、砥石をワークに接触した位置とすることを特徴とする請求項1に記載の研削加工盤。
【請求項3】
第1手段において、当て込み位置は、砥石の径と最初のワークの径との差分に基づいて算出することを特徴とする請求項1に記載の研削加工盤。
【請求項4】
研削加工盤の立ち上げ時、その構成の寸法変化が生じた場合、砥石を、通常研削開始位置から所定の逃がし量だけ後退させた位置に位置決めする第6手段を有することを特徴とする請求項1に記載の研削加工盤。
【請求項5】
ワークに研削加工を施す砥石と、砥石をワークに対して相対的に移動させことで、ワークを所定の仕上寸法に研削加工する砥石制御システムとを有する研削加工盤を用いた研削加工方法であって、
砥石が最初のワークに接触する当て込み位置を予め設定する第1工程と、
予め設定された当て込み位置に基づいて、砥石を、当て込み位置より手前側に位置する初品研削開始位置に位置決めする第2工程と、
砥石を初品研削開始位置から移動させ、仕上寸法よりも小さい寸法値となるように当て込み位置から所定量だけ最初のワークに研削加工を施した後、砥石を初品研削開始位置に送り戻す第3工程と、
研削加工が施された最初のワークの径を測定し、その測定結果に基づいて、仕上寸法となるまでに研削すべき残余量を算出する第4工程と、
砥石を補正量分だけ前進させた位置に位置決めすると共に、その位置を2番目以降のワークに対する研削加工における通常研削開始位置とし、その通常研削開始位置から砥石を移動させ、仕上送り完了位置までワークに研削加工を施す第5工程とを有することを特徴とする研削加工方法。
【請求項6】
第1工程において、当て込み位置は、最初のワークと同一のワークを用いて、砥石をワークに接触した位置とすることを特徴とする請求項5に記載の研削加工方法。
【請求項7】
第1工程において、当て込み位置は、砥石の径と最初のワークの径との差分に基づいて算出することを特徴とする請求項5に記載の研削加工方法。
【請求項8】
研削加工盤の立ち上げ時、その構成の寸法変化が生じた場合、砥石を、通常研削開始位置から所定の逃がし量だけ後退させた位置に位置決めする第6工程を有することを特徴とする請求項5に記載の研削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−18081(P2013−18081A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153217(P2011−153217)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】