研削装置
【課題】 力センサなどのセンサを使用することなく、しかも、精度よく砥石とワークとの接触を検知することができる研削装置を提供する。
【解決手段】 接触前からインプロセスゲージを使用して(S1)、インプロセスゲージ値を収集する(S2)。このインプロセスゲージ信号は、LPF処理され(S3)、インプロセスゲージ信号の振幅量が閾値と比較される(S4)。インプロセスゲージ信号の振幅は、最初は大きくて徐々に小さくなっていくので、ある時点で閾値よりも小さくなり、これによって、砥石がワークに接触したと判定される(S5)。
【解決手段】 接触前からインプロセスゲージを使用して(S1)、インプロセスゲージ値を収集する(S2)。このインプロセスゲージ信号は、LPF処理され(S3)、インプロセスゲージ信号の振幅量が閾値と比較される(S4)。インプロセスゲージ信号の振幅は、最初は大きくて徐々に小さくなっていくので、ある時点で閾値よりも小さくなり、これによって、砥石がワークに接触したと判定される(S5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受外輪内周や内輪外周に軌道溝を研削する際などに使用される研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受の内輪の軌道溝を研削する研削装置として、内面が被研削面であるワークを保持して回転させるワーク保持手段と、研削砥石が装着されて回転する砥石軸を有するスピンドルと、ワーク保持手段およびスピンドルを相対的に移動させて砥石にワークに対する切込み動作を行わせる切込み付与手段と、切込み付与手段の切込み動作を制御する切込み動作制御手段とを備えているものが知られている(特許文献1)。
【0003】
研削装置では、効率のよい研削を行うために、砥石とワークとが接触するまでは高速で、接触後は低速で砥石を移動させることが必要であり、そのために、砥石とワークとの接触を検知する接触検知手段が設けられている。接触検知手段としては、力センサなどのセンサを使用して接触を判定するものと、スピンドルの駆動用モータの電力をモニタし、モータの電力が上昇した場合に砥石が接触したと判定するものとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−190638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
力センサを使用した場合、コストがかかり、また、段取り替えの障害になるという問題があるので、センサレスとすることが好ましいが、モータの電力が上昇した場合に砥石が接触したと判定するものでは、応答性が劣り、また、外乱により誤動作することがあるという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、力センサなどのセンサを使用することなく、しかも、精度よく砥石とワークとの接触を検知することができる研削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による研削装置は、ワークを保持して回転させるワーク保持手段と、研削砥石が装着されて回転する砥石軸を有するスピンドルと、ワーク保持手段およびスピンドルを相対的に移動させて砥石にワークに対する切込み動作を行わせる切込み付与手段と、切込み付与手段の切込み動作を制御する切込み動作制御手段とを備えている研削装置において、研削中のワークの径を計測するインプロセスゲージと、インプロセスゲージの信号を処理するゲージ信号処理手段とをさらに備えており、ゲージ信号処理手段は、砥石がワークに接触する前後のインプロセスゲージの信号を収集するインプロセスゲージ値収集手段と、インプロセスゲージの信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段とを有していることを特徴とするものである。
【0008】
この研削装置は、転がり軸受外輪内周や内輪外周に軌道溝を研削する際などに使用されるが、特に、軌道溝が円筒面の円筒ころ軸受の研削に有利なものとなっている。
【0009】
切込み付与手段は、ワーク保持手段を固定してこれに対してスピンドルをワークの径方向にスライドさせるものであってもよく、スピンドルを固定してこれに対してワーク保持手段をワークの径方向にスライドさせるものであってもよい。切込み付与手段は、例えば、ワーク保持台を切込みモータによってワークの径方向(切込み方向)にスライドさせることにより、砥石にワークに対する切込み動作を行わせるものとされる。研削は、切込み付与手段の切込み速度(例えば、ワーク保持手段のスライド速度)が切込み動作制御手段によって制御されることで行われる。
【0010】
研削工程は、例えば、割出、黒皮、粗、仕上およびスパークアウトからなるものとされる。黒皮は、ワーク表面の凹凸ををなくす段階で、これ以降の粗、仕上およびスパークアウトが「加工」工程であり、割出と黒皮との間が「砥石接触時」となる。加工は、例えば、モータ電力をモニタリングしながら一定の研削負荷で研削する適応制御とされる。
【0011】
インプロセスゲージは、ワークの被研削面にそのアーム先端部を接触させて被研削面の径(内径または外径)を計測することで、実切込み量を検出し、切込み動作を制御するのに必要なワークの径(切込み残量)の信号を切込み動作制御手段に出力する。研削中のワークの径(研削残量)は、インプロセスゲージによって計測され、インプロセスゲージの出力信号がオフからオンに切り替わることで研削加工完了のタイミングが判定される。
【0012】
インプロセスゲージ信号は、従来、加工完了タイミングを測る用途に使用されており、それ以外の用途には使用されていなかったが、本発明においては、加工前のインプロセスゲージの信号が砥石とワークとの接触検知のために使用される。したがって、従来のインプロセスゲージは、接触後からの使用となっていたが、本発明のインプロセスゲージは、接触前からの使用となる。このため、測定レンジが0〜500μm程度(従来は、0〜60μm程度)のインプロセスゲージが使用される。
【0013】
砥石接触前後のインプロセスゲージ信号は、ワーク加工表面の凹凸によって大きく変動しており、その振幅量を求めても接触検知を行うことはできないが、砥石がワークと接触して砥石に押し付け力が生じると、信号処理(フィルタリング)を施すことで、インプロセスゲージ信号の振幅量が収束するので、これを利用して接触検知を行うことができる。信号処理は、具体的には、ワーク回転数の周波数よりも低い周波数をカットするローパスフィルタ(LPF)を使用して回転同期信号を除去することで行われる。こうして得られた振幅量を使用して、振幅変動が収束した時点を砥石接触時と判定することで、精度のよい接触検知が可能となる。
【0014】
インプロセスゲージの信号およびスピンドルのモータ電力信号などは、好ましくは、全て研削盤内のコントローラ(PLC(プログラマブルロジックコントロール)、モーション・コントローラなど)に入力され、コントローラからの指示によってワーク保持手段が移動させられる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の研削装置によると、研削中のワークの径を計測するインプロセスゲージと、インプロセスゲージの信号を処理するゲージ信号処理手段とを備えており、ゲージ信号処理手段は、砥石がワークに接触する前後のインプロセスゲージの信号を収集するインプロセスゲージ値収集手段と、インプロセスゲージの信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段とを有しているので、仕上工程の寸法計測および加工完了位置の監視のために設置されているインプロセスゲージの信号を利用して、力センサなどのセンサを使用することなく、しかも、精度よく、砥石とワークとの接触を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明による研削装置の全体構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は、この発明による研削装置のゲージ信号処理手段による接触検知において利用されるインプロセスゲージ信号を示すグラフであり、(a)は、LPF処理前のもの(研削力のデータを合わせて表示)、(b)は、LPF処理後のものである。
【図3】図3は、この発明による研削装置の接触検知のステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、この発明による研削装置(1)の1実施形態を示している。
【0019】
研削装置(1)は、内面が被研削面(軌道溝)であるワーク(W)を保持して回転させるワーク保持台(ワーク保持手段)(2)と、研削砥石(3)が装着されて回転する砥石軸(4)を有するスピンドル(5)と、スピンドル(5)の砥石軸(4)をベルト(7)を介して回転させるスピンドル駆動モータ(スピンドル駆動手段)(6)と、ワーク保持台(2)およびスピンドル(5)を相対的に移動させて研削砥石(3)にワーク(W)に対する切込み動作を行わせる切込みモータ(切込み付与手段)(8)と、加工中のワーク(W)内径を測定するインプロセスゲージ(11)と、切込みモータ(8)による切込み動作を制御するコントローラ(切込み動作制御手段)(12)と、インプロセスゲージ(11)の信号を処理するゲージ信号処理手段(13)とを備えている。
【0020】
ゲージ信号処理手段(13)は、砥石(3)がワーク(W)に接触する前からインプロセスゲージ(11)の信号(ゲージ値)を収集するインプロセスゲージ値収集手段(14)と、インプロセスゲージ(11)の信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段(15)と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段(16)と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段(17)と、インプロセスゲージによって計測される研削残量がゼロになることで研削加工完了のタイミングを判定する研削完了判定手段(18)とを有している。
【0021】
研削完了を判定する研削完了判定手段(18)は、従来からあるもので、従来のインプロセスゲージ値収集手段(14)は、砥石(3)がワーク(W)に接触した後にインプロセスゲージ(11)の信号(ゲージ値)を収集するようになっている。この発明による研削装置(1)のゲージ信号処理手段(13)は、インプロセスゲージ値収集手段(14)によって砥石(3)がワーク(W)に接触する前からインプロセスゲージ(11)の信号(ゲージ値)を収集するとともに、フィルタリング手段(15)、振幅量演算手段(16)および接触判定手段(17)が付加されることで、接触検知を合わせて行うことが可能となっている。
【0022】
砥石(3)は、ハウジング内にある砥石軸(4)の部分よりも小径のクイル(4a)に取り付けられている。
【0023】
インプロセスゲージ(11)は、処理回路などが収められたケーシング(11a)と、先端部がワーク(W)の内面に接触させられる1対のアーム(11b)とを備えている。
【0024】
コントローラ(12)には、モータ(6)の電力、インプロセスゲージ(11)で得られる寸法データなどが入力されており、インプロセスゲージ(11)の寸法データ、スピンドル(5)のモータ電力などに応じた通常の適応制御により、ワーク保持台(2)のスライド速度が求められている。この際、インプロセスゲージ(11)によって、加工中にリアルタイムでワーク(W)寸法をモニタすることができるので、精度の高い研削が可能となる。
【0025】
図2(a)は、研削加工中におけるインプロセスゲージ(11)が示す研削残量(加工完了位置において0となる)および力センサによって検出された研削力の変化の様子を示している。研削加工は、割出、黒皮、粗、仕上およびスパークアウト(SO)の工程を含んでおり、図2(a)には、割出および黒皮工程におけるものだけを示している。割出工程では、砥石(3)はワーク(W)に非接触であり、割出工程と黒皮工程との間で砥石(3)とワーク(W)とが接触し、黒皮工程の途中において、全面接触となる。力センサによって検出される研削力は、図2(a)に示すように、この接触時に大きくなるので、力センサを使用することによって接触の検知が可能であり、これに基づいて、切込みモータ(8)による切込みのための速度を変更することによって、適正な研削を行うことができる。
【0026】
図2(a)に示されている砥石(3)接触前後のインプロセスゲージ信号は、ワーク(W)加工表面の凹凸によって大きく変動しており、その振幅量を求めても接触検知を行うことはできない。図2(a)のインプロセスゲージ信号をLPF(ローパスフィルタ)を使用してフィルタリング処理したものが図2(b)に示されている。ここで、ワーク(W)の回転数は、1400rpmで周波数に換算すると23Hzであり、LPFの設定値は、この周波数よりも低い20Hzとされている。これにより、図2(b)は、回転同期信号が除去されたものとなっており、この回転同期除去信号によると、インプロセスゲージ信号の振幅量が収束することが分かる。すなわち、回転同期除去信号の振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定することで、接触検知を行うことができる。
【0027】
図3は、ゲージ信号処理手段(13)による接触検知ステップを示している。
【0028】
ゲージ信号処理手段(13)による接触検知は、まず、接触前からインプロセスゲージ(11)を使用して(S1)、インプロセスゲージ値を収集する(S2)。このインプロセスゲージ信号は、LPF処理され(S3)、インプロセスゲージ信号の振幅量が閾値と比較される(S4)。インプロセスゲージ信号の振幅は、図2(b)に示すように、最初は大きくて徐々に小さくなっていくので、ある時点で閾値よりも小さくなり、これによって、砥石(3)がワーク(W)に接触したと判定される(S5)。この判定結果は、コントローラ(12)に送られ、切込み動作制御が適切に行われる。
【0029】
インプロセスゲージ(11)は、仕上工程の寸法計測および加工完了位置の監視を実施するために設置されているものであるが、この発明の研削装置によると、上記のようにして、インプロセスゲージ(11)の信号を砥石(3)とワーク(W)との接触検知に使用することができる。これにより、接触検知を力センサなどを使用しないセンサレスとすることができ、また、インプロセスゲージ(11)は、ワーク(W)に接触しているものであるので、間接的なスピンドル駆動モータ(6)の電力上昇による接触検知に比べると、誤動作がなく、また、高速で安定した砥石接触検知が可能となる。この結果、砥石(3)のダメージが軽減され、ワーク(W)の加工品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
(1) 研削装置
(2) ワーク保持台(ワーク保持手段)
(3) 研削砥石
(4) 砥石軸
(5) スピンドル
(8) 切込みモータ(切込み付与手段)
(11) インプロセスゲージ
(12) コントローラ(切込み動作制御手段)
(13) ゲージ信号処理手段
(14) インプロセスゲージ値収集手段
(15) フィルタリング手段
(16) 振幅量演算手段
(17) 接触判定手段
(W) ワーク
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受外輪内周や内輪外周に軌道溝を研削する際などに使用される研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受の内輪の軌道溝を研削する研削装置として、内面が被研削面であるワークを保持して回転させるワーク保持手段と、研削砥石が装着されて回転する砥石軸を有するスピンドルと、ワーク保持手段およびスピンドルを相対的に移動させて砥石にワークに対する切込み動作を行わせる切込み付与手段と、切込み付与手段の切込み動作を制御する切込み動作制御手段とを備えているものが知られている(特許文献1)。
【0003】
研削装置では、効率のよい研削を行うために、砥石とワークとが接触するまでは高速で、接触後は低速で砥石を移動させることが必要であり、そのために、砥石とワークとの接触を検知する接触検知手段が設けられている。接触検知手段としては、力センサなどのセンサを使用して接触を判定するものと、スピンドルの駆動用モータの電力をモニタし、モータの電力が上昇した場合に砥石が接触したと判定するものとがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−190638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
力センサを使用した場合、コストがかかり、また、段取り替えの障害になるという問題があるので、センサレスとすることが好ましいが、モータの電力が上昇した場合に砥石が接触したと判定するものでは、応答性が劣り、また、外乱により誤動作することがあるという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、力センサなどのセンサを使用することなく、しかも、精度よく砥石とワークとの接触を検知することができる研削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による研削装置は、ワークを保持して回転させるワーク保持手段と、研削砥石が装着されて回転する砥石軸を有するスピンドルと、ワーク保持手段およびスピンドルを相対的に移動させて砥石にワークに対する切込み動作を行わせる切込み付与手段と、切込み付与手段の切込み動作を制御する切込み動作制御手段とを備えている研削装置において、研削中のワークの径を計測するインプロセスゲージと、インプロセスゲージの信号を処理するゲージ信号処理手段とをさらに備えており、ゲージ信号処理手段は、砥石がワークに接触する前後のインプロセスゲージの信号を収集するインプロセスゲージ値収集手段と、インプロセスゲージの信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段とを有していることを特徴とするものである。
【0008】
この研削装置は、転がり軸受外輪内周や内輪外周に軌道溝を研削する際などに使用されるが、特に、軌道溝が円筒面の円筒ころ軸受の研削に有利なものとなっている。
【0009】
切込み付与手段は、ワーク保持手段を固定してこれに対してスピンドルをワークの径方向にスライドさせるものであってもよく、スピンドルを固定してこれに対してワーク保持手段をワークの径方向にスライドさせるものであってもよい。切込み付与手段は、例えば、ワーク保持台を切込みモータによってワークの径方向(切込み方向)にスライドさせることにより、砥石にワークに対する切込み動作を行わせるものとされる。研削は、切込み付与手段の切込み速度(例えば、ワーク保持手段のスライド速度)が切込み動作制御手段によって制御されることで行われる。
【0010】
研削工程は、例えば、割出、黒皮、粗、仕上およびスパークアウトからなるものとされる。黒皮は、ワーク表面の凹凸ををなくす段階で、これ以降の粗、仕上およびスパークアウトが「加工」工程であり、割出と黒皮との間が「砥石接触時」となる。加工は、例えば、モータ電力をモニタリングしながら一定の研削負荷で研削する適応制御とされる。
【0011】
インプロセスゲージは、ワークの被研削面にそのアーム先端部を接触させて被研削面の径(内径または外径)を計測することで、実切込み量を検出し、切込み動作を制御するのに必要なワークの径(切込み残量)の信号を切込み動作制御手段に出力する。研削中のワークの径(研削残量)は、インプロセスゲージによって計測され、インプロセスゲージの出力信号がオフからオンに切り替わることで研削加工完了のタイミングが判定される。
【0012】
インプロセスゲージ信号は、従来、加工完了タイミングを測る用途に使用されており、それ以外の用途には使用されていなかったが、本発明においては、加工前のインプロセスゲージの信号が砥石とワークとの接触検知のために使用される。したがって、従来のインプロセスゲージは、接触後からの使用となっていたが、本発明のインプロセスゲージは、接触前からの使用となる。このため、測定レンジが0〜500μm程度(従来は、0〜60μm程度)のインプロセスゲージが使用される。
【0013】
砥石接触前後のインプロセスゲージ信号は、ワーク加工表面の凹凸によって大きく変動しており、その振幅量を求めても接触検知を行うことはできないが、砥石がワークと接触して砥石に押し付け力が生じると、信号処理(フィルタリング)を施すことで、インプロセスゲージ信号の振幅量が収束するので、これを利用して接触検知を行うことができる。信号処理は、具体的には、ワーク回転数の周波数よりも低い周波数をカットするローパスフィルタ(LPF)を使用して回転同期信号を除去することで行われる。こうして得られた振幅量を使用して、振幅変動が収束した時点を砥石接触時と判定することで、精度のよい接触検知が可能となる。
【0014】
インプロセスゲージの信号およびスピンドルのモータ電力信号などは、好ましくは、全て研削盤内のコントローラ(PLC(プログラマブルロジックコントロール)、モーション・コントローラなど)に入力され、コントローラからの指示によってワーク保持手段が移動させられる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の研削装置によると、研削中のワークの径を計測するインプロセスゲージと、インプロセスゲージの信号を処理するゲージ信号処理手段とを備えており、ゲージ信号処理手段は、砥石がワークに接触する前後のインプロセスゲージの信号を収集するインプロセスゲージ値収集手段と、インプロセスゲージの信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段とを有しているので、仕上工程の寸法計測および加工完了位置の監視のために設置されているインプロセスゲージの信号を利用して、力センサなどのセンサを使用することなく、しかも、精度よく、砥石とワークとの接触を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明による研削装置の全体構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は、この発明による研削装置のゲージ信号処理手段による接触検知において利用されるインプロセスゲージ信号を示すグラフであり、(a)は、LPF処理前のもの(研削力のデータを合わせて表示)、(b)は、LPF処理後のものである。
【図3】図3は、この発明による研削装置の接触検知のステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、この発明による研削装置(1)の1実施形態を示している。
【0019】
研削装置(1)は、内面が被研削面(軌道溝)であるワーク(W)を保持して回転させるワーク保持台(ワーク保持手段)(2)と、研削砥石(3)が装着されて回転する砥石軸(4)を有するスピンドル(5)と、スピンドル(5)の砥石軸(4)をベルト(7)を介して回転させるスピンドル駆動モータ(スピンドル駆動手段)(6)と、ワーク保持台(2)およびスピンドル(5)を相対的に移動させて研削砥石(3)にワーク(W)に対する切込み動作を行わせる切込みモータ(切込み付与手段)(8)と、加工中のワーク(W)内径を測定するインプロセスゲージ(11)と、切込みモータ(8)による切込み動作を制御するコントローラ(切込み動作制御手段)(12)と、インプロセスゲージ(11)の信号を処理するゲージ信号処理手段(13)とを備えている。
【0020】
ゲージ信号処理手段(13)は、砥石(3)がワーク(W)に接触する前からインプロセスゲージ(11)の信号(ゲージ値)を収集するインプロセスゲージ値収集手段(14)と、インプロセスゲージ(11)の信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段(15)と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段(16)と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段(17)と、インプロセスゲージによって計測される研削残量がゼロになることで研削加工完了のタイミングを判定する研削完了判定手段(18)とを有している。
【0021】
研削完了を判定する研削完了判定手段(18)は、従来からあるもので、従来のインプロセスゲージ値収集手段(14)は、砥石(3)がワーク(W)に接触した後にインプロセスゲージ(11)の信号(ゲージ値)を収集するようになっている。この発明による研削装置(1)のゲージ信号処理手段(13)は、インプロセスゲージ値収集手段(14)によって砥石(3)がワーク(W)に接触する前からインプロセスゲージ(11)の信号(ゲージ値)を収集するとともに、フィルタリング手段(15)、振幅量演算手段(16)および接触判定手段(17)が付加されることで、接触検知を合わせて行うことが可能となっている。
【0022】
砥石(3)は、ハウジング内にある砥石軸(4)の部分よりも小径のクイル(4a)に取り付けられている。
【0023】
インプロセスゲージ(11)は、処理回路などが収められたケーシング(11a)と、先端部がワーク(W)の内面に接触させられる1対のアーム(11b)とを備えている。
【0024】
コントローラ(12)には、モータ(6)の電力、インプロセスゲージ(11)で得られる寸法データなどが入力されており、インプロセスゲージ(11)の寸法データ、スピンドル(5)のモータ電力などに応じた通常の適応制御により、ワーク保持台(2)のスライド速度が求められている。この際、インプロセスゲージ(11)によって、加工中にリアルタイムでワーク(W)寸法をモニタすることができるので、精度の高い研削が可能となる。
【0025】
図2(a)は、研削加工中におけるインプロセスゲージ(11)が示す研削残量(加工完了位置において0となる)および力センサによって検出された研削力の変化の様子を示している。研削加工は、割出、黒皮、粗、仕上およびスパークアウト(SO)の工程を含んでおり、図2(a)には、割出および黒皮工程におけるものだけを示している。割出工程では、砥石(3)はワーク(W)に非接触であり、割出工程と黒皮工程との間で砥石(3)とワーク(W)とが接触し、黒皮工程の途中において、全面接触となる。力センサによって検出される研削力は、図2(a)に示すように、この接触時に大きくなるので、力センサを使用することによって接触の検知が可能であり、これに基づいて、切込みモータ(8)による切込みのための速度を変更することによって、適正な研削を行うことができる。
【0026】
図2(a)に示されている砥石(3)接触前後のインプロセスゲージ信号は、ワーク(W)加工表面の凹凸によって大きく変動しており、その振幅量を求めても接触検知を行うことはできない。図2(a)のインプロセスゲージ信号をLPF(ローパスフィルタ)を使用してフィルタリング処理したものが図2(b)に示されている。ここで、ワーク(W)の回転数は、1400rpmで周波数に換算すると23Hzであり、LPFの設定値は、この周波数よりも低い20Hzとされている。これにより、図2(b)は、回転同期信号が除去されたものとなっており、この回転同期除去信号によると、インプロセスゲージ信号の振幅量が収束することが分かる。すなわち、回転同期除去信号の振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定することで、接触検知を行うことができる。
【0027】
図3は、ゲージ信号処理手段(13)による接触検知ステップを示している。
【0028】
ゲージ信号処理手段(13)による接触検知は、まず、接触前からインプロセスゲージ(11)を使用して(S1)、インプロセスゲージ値を収集する(S2)。このインプロセスゲージ信号は、LPF処理され(S3)、インプロセスゲージ信号の振幅量が閾値と比較される(S4)。インプロセスゲージ信号の振幅は、図2(b)に示すように、最初は大きくて徐々に小さくなっていくので、ある時点で閾値よりも小さくなり、これによって、砥石(3)がワーク(W)に接触したと判定される(S5)。この判定結果は、コントローラ(12)に送られ、切込み動作制御が適切に行われる。
【0029】
インプロセスゲージ(11)は、仕上工程の寸法計測および加工完了位置の監視を実施するために設置されているものであるが、この発明の研削装置によると、上記のようにして、インプロセスゲージ(11)の信号を砥石(3)とワーク(W)との接触検知に使用することができる。これにより、接触検知を力センサなどを使用しないセンサレスとすることができ、また、インプロセスゲージ(11)は、ワーク(W)に接触しているものであるので、間接的なスピンドル駆動モータ(6)の電力上昇による接触検知に比べると、誤動作がなく、また、高速で安定した砥石接触検知が可能となる。この結果、砥石(3)のダメージが軽減され、ワーク(W)の加工品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
(1) 研削装置
(2) ワーク保持台(ワーク保持手段)
(3) 研削砥石
(4) 砥石軸
(5) スピンドル
(8) 切込みモータ(切込み付与手段)
(11) インプロセスゲージ
(12) コントローラ(切込み動作制御手段)
(13) ゲージ信号処理手段
(14) インプロセスゲージ値収集手段
(15) フィルタリング手段
(16) 振幅量演算手段
(17) 接触判定手段
(W) ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持して回転させるワーク保持手段と、研削砥石が装着されて回転する砥石軸を有するスピンドルと、ワーク保持手段およびスピンドルを相対的に移動させて砥石にワークに対する切込み動作を行わせる切込み付与手段と、切込み付与手段の切込み動作を制御する切込み動作制御手段とを備えている研削装置において、
研削中のワークの径を計測するインプロセスゲージと、インプロセスゲージの信号を処理するゲージ信号処理手段とをさらに備えており、ゲージ信号処理手段は、砥石がワークに接触する前後のインプロセスゲージの信号を収集するインプロセスゲージ値収集手段と、インプロセスゲージの信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段とを有していることを特徴とする研削装置。
【請求項1】
ワークを保持して回転させるワーク保持手段と、研削砥石が装着されて回転する砥石軸を有するスピンドルと、ワーク保持手段およびスピンドルを相対的に移動させて砥石にワークに対する切込み動作を行わせる切込み付与手段と、切込み付与手段の切込み動作を制御する切込み動作制御手段とを備えている研削装置において、
研削中のワークの径を計測するインプロセスゲージと、インプロセスゲージの信号を処理するゲージ信号処理手段とをさらに備えており、ゲージ信号処理手段は、砥石がワークに接触する前後のインプロセスゲージの信号を収集するインプロセスゲージ値収集手段と、インプロセスゲージの信号から回転同期信号を除去するフィルタリング手段と、回転同期除去信号の振幅量を求める振幅量演算手段と、振幅量と所定の閾値とを比較して振幅量が閾値よりも小さくなった場合に接触したと判定する接触判定手段とを有していることを特徴とする研削装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2010−173050(P2010−173050A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21441(P2009−21441)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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