説明

硫化水素の処理方法、水素の製造方法および光触媒反応装置

【課題】光触媒を用いて高効率で、硫化水素の分解、および水素の生成を可能にする技術を提供する。
【解決手段】少なくとも光触媒からなる光触媒電極1を有する液槽と金属電極2を有する液槽とを陽イオン交換膜3で分離し、光触媒電極3を有する液槽には硫化水素または有機物を含む液を収容し、光触媒電極3と金属電極2とを電気的に接続し、該光触媒を光に曝す硫化水素の処理方法および水素の製造方法であり、金属電極2を有する液槽に収容する液を酸性溶液とすることが好ましく、該光触媒が金属硫化物を含むことが好ましく、該光触媒が層状ナノカプセル構造を有する微粒子であることが好ましい。反応装置は電気分解セル11中に光電気化学セルを収容したものでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素や硫黄などを必要とする化学工業分野、脱硫工程などで発生した硫化水素などを処理する化学工業分野、及び悪臭物質や大気汚染物質を除去する環境保全分野などで利用可能な光触媒の利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒技術の応用は、環境汚染物質や悪臭成分・雑菌などの分解など、様々な化学反応を促進する特性を利用した実用化が始まっている。その例としては、病院の手術室などで利用される抗菌タイル、空気清浄機やエア・コンディショナーのフィルタ、高速道路などの照明等のガラスなどが挙げられる。これら光触媒の酸化促進能力を利用した実用化の一方で、水などに光触媒を作用させて水素を得ることや、炭酸ガスに作用させて炭素を固定還元することを目的とした研究も行われている。
【0003】
一方、化石エネルギー資源の枯渇や地球温暖化による大気汚染など環境問題の観点から、クリーンで安全なエネルギーの獲得技術および環境汚染物質の浄化技術の確立が求められている。中でも光触媒の利用は有望であり、例えば、光触媒を原油や金属精練の脱硫工程に応用することが考えられる。
【0004】
現在、一般的に行われている原油の脱硫工程は、原油を蒸留する際に、重質ナフサを水素化生成して原油に含まれるイオウ成分を全て硫化水素にして回収する。この硫化水素はクラウス法と呼ばれるプロセスを経て、イオウを酸化して回収する。クラウス法は、硫化水素の3分の1を酸化して亜硫酸ガスとし、これと残りの硫化水素とを反応させて元素イオンとするプロセスである。
【0005】
このプロセスでは、亜硫酸ガスと硫化水素の触媒反応だけではなく、加熱や凝縮を繰り返すために、膨大なエネルギーを要している。また、亜硫酸ガスの管理にコストがかかるなどの問題を有している。硫化水素が溶解したアルカリ水に光触媒を加え、光を照射し、その照射光の光エネルギーを吸収して光触媒が発生する自由電子及び自由ホールにより、硫化水素が溶解したアルカリ水を酸化還元し、水素とイオウを得る方法、すなわち、光触媒により硫化水素を分解し、水素及びイオウを生成する方法が実用化できれば、より少ないエネルギーで有害物質である硫化水素を分解し、有用物質である水素及びイオウを生産することが可能になる。すなわち、環境問題の解決に寄与し、かつ、有用物質を生産できることに成る。
【0006】
一方、水素を電気分解で生成する方法に関しては、太陽電池の起電力により水の電気分解を行う方法が行われている。しかしながら、このプロセスでは、太陽電池の性能次第で電気分解の効率が決まっている。そして、高性能の太陽電池を構成する素子は、高純度・高品質の素子であるため、高価であるという問題点があった。
この点に関しても、光触媒により水を分解し、水素を生成する方法が実用化できれば、より少ないエネルギーとコストで水素を生産することが可能になる。
【0007】
しかしながら、従来の光触媒は、以下に述べる解決すべき課題があった。第1に、触媒活性が低い。第2に、光触媒に毒性がある。光触媒に光照射すると、自由電子と自由正孔(ホール)が生じるが、再結合してしまう確立が高く、また、酸化還元反応により分解された化学物質が再び再結合して元の化合物に戻ってしまう確率も高く、触媒活性が低くなってしまう。第3に、触媒の寿命が短い。光触媒に光照射すると、自由電子と自由正孔が生じるが、その強い酸化還元反応により、目的とする化学物質以外に触媒それ自身が酸化還元され、溶解してしまい、触媒作用を失うといった光溶解の問題がある。
【0008】
これに対して、特許文献1は、触媒活性が高く、毒性がなく、寿命が長い光触媒を開示し上記3つの問題を解消したことを記述している。
また、光触媒に金属を賦活したストラティファイド構造電極を用いる硫化水素の処理方法または水素の製造方法等が知られている。
【特許文献1】特開2001−190964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ストラティファイド構造電極は、金属側が硫化水素によって腐食されたり、金属表面にポリ硫化物イオン(S2−)が吸着して硫化物が形成され、水素イオン(H)から水素ガスを生成するための金属表面部分が無くなり、水素ガスを生成できなくなるという問題があり、依然、効率的に満足できるものではなかった。
従って、本発明の目的は、上記従来技術の欠点を克服し、光触媒を用いて高効率で、硫化水素の分解、および水素の生成を可能にする技術、並びにこの技術に使用する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、下記構成を採ることにより上記課題を解決することができた。即ち本発明は、以下の通りである。
(1) 少なくとも光触媒からなる光触媒電極を有する液槽と金属電極を有する液槽とを陽イオン交換膜で分離し、該光触媒電極を有する液槽には硫化水素を含む液を収容し、該光触媒電極と該金属電極とを電気的に接続し、該光触媒を光に曝す硫化水素の処理方法。
(2) 前記金属電極を有する液槽に収容する液を酸性溶液とする前記(1)記載の硫化水素の処理方法。
(3) 前記光触媒が金属硫化物を含む請求項1記載の硫化水素の処理方法。
(4) 前記光触媒が層状ナノカプセル構造を有する微粒子である前記(1)記載の硫化水素の処理方法。
【0011】
(5) 前記硫化水素を含む液が、硫化水素ガスをアルカリ性液に吹き込んで溶解させたものである前記(1)記載の硫化水素の処理方法。
(6) 前記硫化水素ガスが、硫化水素と二酸化炭素を含むガスをメチルジエタノールアミン溶液に吹き込み、次いで該メチルジエタノールアミン溶液を常温より高い温度に加温して空気を吹き込み排出されたものである前記(5)記載の硫化水素の処理方法。
【0012】
(7) 少なくとも光触媒からなる光触媒電極を有する液槽と金属電極を有する液槽とを陽イオン交換膜で分離し、該光触媒電極を有する液槽には硫化水素または有機物を含む液を収容し、該光触媒電極と該金属電極とを電気的に接続し、該光触媒を光に曝す水素の製造方法。
(8) 前記金属電極を有する液槽に収容する液を酸性溶液とする前記(7)記載の水素の製造方法。
(9) 前記光触媒が金属硫化物を含む請求項7記載の水素の製造方法。
(10) 前記光触媒が層状ナノカプセル構造を有する微粒子である前記(7)記載の水素の製造方法。
【0013】
(11) 前記硫化水素を含む液が、硫化水素ガスをアルカリ性液に吹き込んで溶解させたものである前記(7)記載の水素の製造方法。
(12) 前記硫化水素ガスが、硫化水素と二酸化炭素を含むガスをメチルジエタノールアミン溶液に吹き込み、次いで該メチルジエタノールアミン溶液を常温より高い温度に加温して空気を吹き込み排出されたものである前記(11)記載の水素の製造方法。
【0014】
(13) 少なくとも光触媒からなる光触媒電極を有しかつ硫化水素を含む液を収容する第1の液槽と、金属電極を有する第2の液槽とを有し、該第1の液槽と第2の液槽との間は陽イオン交換膜で分離され、該光触媒電極と該金属電極は電気的に接続され、該光触媒電極への光照射が可能になるように構成されている光触媒反応装置。
(14) 硫化水素を含む液を収容する第1の液槽と、該第1の液槽の中に設けられた第2の液槽とを有し、該第2の液槽の隔壁材の1部は、導電性の板の1つの面には光触媒層が、その反対面には金属層がそれぞれ形成された部材からなり、かつ光触媒層を有する側が外側に、金属層を有する側が内側になるようにそれぞれ構成され、該第2の液槽の隔壁材の他の1部は、陽イオン交換膜で構成され、該光触媒層への光照射が可能になるように構成されている光触媒反応装置。
(15) 前記第2の液槽に酸性溶液を供給または循環させる手段を有する前記(13)または(14)記載の光触媒反応装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可視光等の光エネルギーにより、効率よく、光触媒電極で直接硫化水素を分解し、金属電極で水素を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
なお、実施の形態を説明する2つの図面において、同一の機能を有する構成要素は同一符号を用いて示し、その繰返しの説明は省略する。
図1は、本発明の硫化水素の処理と水素の製造を実施する装置の一実施形態を概略的に示す図である。
図1の装置は、半導体光触媒電極と金属電極の間の光起電力によって被処理液の電気分解を行うことを基本原理とするものである。先ず装置の構成を説明し、続いて作用を説明する。
【0017】
図1において、電気分解用セル11は、陽イオン交換膜3により分離されており、陽極側(図1の左側)には光触媒電極1が、陰極側(図1の右側)には金属電極2が設けられ、光触媒電極1と金属電極2は導電性部材である導線4より電気的に接続されるように構成されている。
【0018】
上記のように構成された電解槽(セル)11を使用して、硫化水素の処理と水素の製造を行うために、光触媒電極1と金属電極2間の光起電力により、硫化水素等を含む液の電気分解を行う。
光エネルギーにて、光触媒電極1で硫化水素水中の硫化水素イオン(HS)を水素イオン(H)とポリ硫化物イオン(S2−)に分解する。分解時に発生する電子と水素イオンは、導電性部材(電子)、陽イオン交換膜(水素イオン)を通って金属電極に移動し、金属電極2で水素イオンを還元し、水素ガスを発生させる。
上記の2工程の反応式は次式で示される。
【0019】
2HS → 2H+S2−(光触媒電極)
2H+2e → H (金属電極)
【0020】
図6は、本発明の硫化水素の処理と水素の製造を実施する装置の別の実施形態を概略的に示す図である。
図1は、電気分解用セル11を、陽イオン交換膜3により光触媒電極1を有する第1の液槽と、金属電極2を有する第2の液槽とに2分するように構成した光触媒反応装置の概略説明図であるが、図6は、硫化水素を含む液を収容する液槽の中に第2の液槽を有する光触媒反応装置の概略構成断面図である。
【0021】
図6において、光触媒反応装置は、電気分解セル11(第1の液槽)の中に、隔壁材の一方としてチタン板のような導電性の板33の外側が光触媒層31(光触媒電極1)で、内側が金属層32(金属電極2)で形成され、隔壁材の他の1方として陽イオン交換膜3で構成された光電気化学セル34(第2の液槽)が設けられて構成されている。
【0022】
上記のように構成された電解槽(セル)11を使用して、硫化水素の処理と水素の製造を行うために、光触媒電極1(光触媒層31)と金属電極2(金属層32)間の光起電力により、硫化水素等を含む液の電気分解を行う。
光エネルギーにて、光触媒電極1で第1の液槽内の硫化水素水中の硫化水素イオン(HS)を水素イオン(H)とポリ硫化物イオン(S2−)に分解する。分解時に発生する電子と水素イオンは、導電性部材(電子)、陽イオン交換膜(水素イオン)を通って第2の液槽内の金属電極2に移動し、金属電極2で水素イオンを還元し、水素ガスを発生させる。
上記の2工程の反応式は上記の式で示したとおりである。
【0023】
本発明に係る光触媒反応装置は、図1に示す陽イオン交換膜分離方式であっても、また図6に示す光電気化学セル収容方式のいずれであっても、光触媒電極1へ光照射が可能になるように構成することが必須の要件である。
そのためには、例えば、装置の外側から太陽光やランプ等の光源に曝すように、装置(電気分解用セル11または第1の液槽)の天井部分を光透過性(透明な)材料(例えばアクリル樹脂)で構成したり、あるいは光触媒電極1(光触媒層31)に対向する第1の液槽の壁材を光透過性(透明な)材料で構成する必要がある。
しかしながら、防水性等のある光源(ランプ等)を第1の液槽の液中に入れる場合は、この限りではなく、むしろ電気分解用セル11または第1の液槽の光触媒電極1(光触媒層31)に対向する壁内面を光反射面(鏡面等)に構成することが好ましい。
【0024】
なお、第1の液槽の中に第2の液槽を設ける光触媒反応装置においては、第2の液槽(光電気化学セル34)は、必ずしも図6に示すように垂直に設ける必要はなく、酸性溶液を供給または循環させる手段が上方に来るように斜めに設置してもよい。但し、この場合は、光触媒層31(光触媒電極1)が上面になるように設置することが、光触媒層31への光照射を容易にするために好都合であることは言うまでもない。酸性溶液の循環手段の酸性溶液の入口が下側に、出口が上側になるように構成することも、発生した水素の除去の容易さから言うまでもないことである。
【0025】
また、本発明に係る光触媒反応装置においては、第2の液槽に酸性溶液を供給または循環させる手段を有することが好ましい。このような手段を設けることにより、第2の液槽中の液の水素イオン濃度が高まり、初期反応効率が更に良くなり、硫化水素の除去効率、水素発生効率の向上に有効である。また、金属電極上で発生した水素気泡の脱離性を良くし、安定した水素発生が可能となる(理由:気泡が付着したままだと反応面を気泡が覆ってしまい水素の還元反応が起こりにくくなる。)。さらに、水素気泡を酸性溶液の流れと共にセル外へ出し、容易に水素回収を行うことができる(理由:循環させないと気泡がセル内部に溜まってしまう。)。
【0026】
以下に、本発明に係る装置を形成する各構成部材について詳細に説明する。
本発明で用いる少なくとも光触媒からなる光触媒電極の構成要素である光触媒としては、特に限定されないが、金属硫化物を含むものが好ましい。金属硫化物を含むものが好ましい理由は、硫化水素イオン(HS)が金属硫化物の表面に吸着すると水素発生電位が押し下げられるほか、金属元素の溶出に対してHSによる還元及び自己修復作用が生じ、その結果腐食せず、安定で長寿命の電極が実現するためである。
ここで金属硫化物としては、太陽光などの可視光をそのまま光触媒反応に利用することができる硫化カドミウムまたは硫化亜鉛が挙げられる。
【0027】
光触媒の形態としては、粒子状、薄膜状等任意の形状のものを何等の制限なく使用することができる。
粒子としては、特開2003−265962号公報及び特開2004−25032号公報に開示されている層状ナノカプセル構造を持つ微粒子が、触媒活性が高く好ましいものである。
また薄膜状光触媒としては、特開2003−181297号公報に開示されている、シリコン、ガラス、ニッケル、亜鉛、白金、樹脂などからなる基材上に析出させて、薄膜状に形成したものが取り扱いに便利であるばかりでなく、少量の触媒によって広い面積を持つ光触媒が生成でき、また粒子状のように溶液中に分散せず基材上に固定されているため、照射角を最適な角度にすることで照射光のエネルギーの変換効率を向上させることができるという利点を有するために、好ましい形状の触媒といえる。
また、層状ナノカプセル構造を持つ微粒子を固定化し、電極化することで反応表面積の拡大により更に高い活性が得られる。
【0028】
陽極となる上記した光触媒電極1に対して陰極となる金属電極2としては、特に限定されないが、白金、ニッケル等、水素化反応に活性を持つ金属が好ましく、特に白金が最も好ましい。
【0029】
図6の第2の液槽(光電気化学セル34)において、光触媒層31と金属層32を形成する導電性の板33としては、チタン、ジルコニウム、ニッケル、亜鉛、白金などからなる導電性の板状基材であることが必要であるが、中でもチタン板が化学的に安定で強く軽く、プラント用配管材や航空機部分などに使用されており、容易に入手でき特に好ましい材料である。
【0030】
陽イオン交換膜は、水素イオン選択透過性を持つものであれば、特に限定されない。この陽イオン交換膜により、光触媒電極1を有する液槽中のOH、SHなどの陰イオンやO、Sなどの溶存物や析出物が、金属電極2を有する液槽中へ移動することがなく、Hイオンのみが選択的に移動することになり、金属電極浸漬槽中のHの濃度が高められ、ひいては水素ガスの発生量が増加することになる。
【0031】
本発明の硫化水素の処理方法および水素の製造方法に用いられる被処理液である硫化水素を含む液は、硫酸や硫黄系殺虫剤の製造工場の硫化水素含有廃液、石油の脱硫工程で発生した硫化水素含有廃水、または温泉の廃液などの初めから硫化水素が含まれている被処理液と、水素や硫黄などを必要とする化学工業分野の一方の原料としての硫化水素ガスを処理するために、水などの液体に硫化水素ガスを吹き込んで溶解させた被処理液の両方を包含する。後者の場合は、硫化水素ガスの溶存性を高めるために、水酸化ナトリウムのようなアルカリ剤を添加して硫化水素含有液をアルカリ性にすることは、当業界においては周知のことである。光触媒電極1槽中の液をアルカリ性にすることにより、硫化水素イオン(HS)濃度を上げ、水素発生電位を下げることができる。
【0032】
また、本発明の硫化水素の処理方法および水素の製造方法では、下水処理場等で発生する硫化水素ガスを処理することもできる。この場合、下水処理場等で発生する硫化水素を含むガスは二酸化炭素も多く含んでいる。このような硫化水素と二酸化炭素を含むガスを前記の通りアルカリ性液に吹き込んでも、二酸化炭素の影響で硫化水素のアルカリ性液への吸収・溶解効率が低下する。
【0033】
そこで、上記のような硫化水素と二酸化炭素を含むガスを、例えば常温(室温)下で、メチルジエタノールアミン水溶液等に吹き込み、これにより、硫化水素を該メチルジエタノールアミン溶液に吸収・溶解させ、一方、二酸化炭素は該該メチルジエタノールアミン溶液に吸収・溶解されずに排出させることができる。次いで、硫化水素を吸収・溶解させたメチルジエタノールアミン溶液を常温よりも高い温度(例えば約70℃)に加温し、空気を吹き込むことにより、該メチルジエタノールアミン溶液から吸収・溶解されていた硫化水素を脱離し、二酸化炭素を(ほとんど)含まない、純度(濃度)の高い硫化水素ガスを得ることができる。また、得られた高純度硫化水素ガスを再度または複数回同処理を繰り返して行うことにより、僅かに残った二酸化炭素をさらに除去し、より高純度の硫化水素ガスを得ることができる。
この得られた二酸化炭素を含まない、純度の高い硫化水素ガスを、アルカリ性液に吹き込むことにより、本発明の「硫化水素を含む液」とすることができる。
【0034】
上記の、下水処理場等で発生する硫化水素と二酸化炭素を含むガスより、二酸化炭素を除去して高純度の硫化水素ガスを得る処理工程を図面を用いてさらに詳細に説明する。
硫化水素と二酸化炭素を含むガスを、メチルジエタノールアミン溶液に吹き込むのみは、例えば、図3に示す概略構成の装置・器具を使用して行うことができる。図3に示す概略構成の装置・器具は、少なくとも洗浄瓶21とエアポンプ22と送気管からなり、洗浄瓶21にメチルジエタノールアミン溶液を収容し、エアポンプ22にて硫化水素と二酸化炭素を含むガスを供給・送気する。
【0035】
硫化水素を吸収・溶解させたメチルジエタノールアミン溶液からの該硫化水素の脱離は、例えば、図4に示す概略構成の装置・器具を使用して行うことができる。図4に示す概略構成の装置・器具は、図3に少なくともさらにウォーターバス等の加熱手段23と水蒸気等を除去するためのミストセパレータ等の冷却手段24を具備してなる。加熱手段23で硫化水素を吸収・溶解させたメチルジエタノールアミン溶液を加熱し、エアポンプ22にて空気を供給・送気する。加熱したメチルジエタノールアミン溶液に吹き込ませて排出された空気には、硫化水素と水蒸気が含まれる。この水蒸気を冷却手段24により除去・分離する。
【0036】
このようにして得られた二酸化炭素を含まない、純度の高い硫化水素ガスを、アルカリ性液に吹き込む際には、例えば、図3に示す概略構成の装置・器具を使用することができる。洗浄瓶21にアルカリ性液を収容し、エアポンプ22にて純度の高い硫化水素ガスを供給・送気する。これにより、本発明の「硫化水素を含む液」とすることができる。
【0037】
一方、陰極としての金属電極2を含浸する液槽に収容する液は、必ずしも酸性である必要はないが、酸性である方が初期反応効率が良く、硫化水素の除去効率、水素発生率が向上する。なお、金属電極2を含浸する液槽に収容する液を酸性にしなくとも、反応が進むうちに該槽の液の水素イオン濃度が徐々に高くなり、次第に反応効率が向上する。
【0038】
以上に説明した装置、被処理液を使用することによって、太陽光等の光エネルギーにより光触媒電極で直接硫化水素を分解し、金属電極で水素を製造する本発明の方法を、高い効率で実施することが可能となる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例に基き説明するが、本発明は、この実施例により何等制限を受けるものではない。
〔実施例1〕
先ず実施例に使用する装置を図2について説明し、次いでその操作手順について説明する。
図2に示すように、光触媒によって硫化水素の処理を行うことにより水素発生の実験を行う装置は、陽極である光触媒電極1を浸漬し0.1mol/リットルの硫化ナトリウム溶液を満たすアクリル樹脂製円筒管5と、陰極である金属電極2を浸漬し0.1mol/リットルの硫酸溶液を満たす透明塩化ビニル樹脂製円筒管6を連結する、H型でブリッジの中央部分が陽イオン交換膜3で分離された、前記両電極槽の連結管である硬質塩化ビニル製管7により、それぞれの底部が連結されて一体に構成されている。8は光線照射用のXe照射灯であり、4は光触媒電極1と金属電極2とを電気的に接続する導線である。
【0040】
光触媒電極は、特開2003−181297号公報に開示されている方法に従って、硫化カドミウムを導電性を有するITOガラス上に固定化し、電極面積80mm×15mmの寸法に製作して使用した。
一方、金属電極は、白金棒を使用したが、その電極サイズは4mmφ×80mmであった。
光触媒電極1と金属電極2を接続する導線4は銅線を使用し、ワニ口クリップにて前記の両電極1と2を電気的に連結した。
【0041】
光触媒電極1の受光部の材質は透明アクリル樹脂、それ以外の槽容器部分は透明塩化ビニル樹脂及び硬質塩化ビニル樹脂を使用して作製した。
光触媒電極1槽と金属電極2槽の各容量は60ミリリットルである。
【0042】
上記に説明した構成の装置を使用し、両電極間に通電し、Xe照射灯からXe光を照射したところ、照射時間にほぼ比例して水素発生量が増加することを、気泡の発生状況の目視観察により確認した。
なお、光源にXe照射灯を使用したのは、実験を定量的に行うためであって、実用的には光源に太陽光を使用できることは言うまでもない。
【0043】
〔実施例2〕
下水処理場等より発生する硫化水素と二酸化炭素を含有するガス処理を想定して実施した。
はじめに硫化水素ガス分離工程により、多量の二酸化炭素を含有するガス中から硫化水素ガスを分離し、得られた硫化水素ガスを硫化水素ガス溶解工程にてアルカリ液中に吸収させ硫化水素溶液を得た。この硫化水素溶液を光触媒反応工程で光触媒によって硫化水素の分解を行い水素を発生させた。
【0044】
硫化水素200ppm、二酸化炭素32%を含む混合ガス200リットルを、図3に示すように、エアポンプ22で1リットル/minの流速でガス洗浄瓶に供給し、ガス洗浄瓶21中の45wt%メチルジエタノールアミン溶液200ミリリットル中に硫化水素を吸収させた。二酸化炭素はメチルジエタノールアミン溶液にはほとんど吸収されずに洗浄瓶から排出される。
【0045】
図4に示すように、硫化水素を吸収させた液を含んだ洗浄瓶21を70℃の温水(ウォータバス:加熱手段23)にて加温し、エアポンプ22で空気を3.7リットル/minの流速でガス洗浄瓶に供給し曝気を行い、吸収液中に吸収されたガスを脱離させ、ガスを回収した。
回収されたガス量は170リットルで、硫化水素濃度は176ppm、二酸化炭素濃度は0.9%であった。
【0046】
回収されたガスを再度、図3に示すように、エアポンプで1リットル/minの流速でガス洗浄瓶21に供給し、ガス洗浄瓶21中の45wt%メチルジエタノールアミン溶液200ミリリットル中に硫化水素を吸収させた後、図4に示すように、硫化水素を吸収させた液を含んだ洗浄瓶21を70℃の温水にて加温し、エアポンプ22で空気を3.7リットル/minの流速でガス洗浄瓶21に供給し曝気を行い、吸収液中に吸収されたガスを脱離させた。
この操作により回収されたガス量は170リットルで、硫化水素濃度は155ppm、二酸化炭素濃度は0.07%であった。
【0047】
硫化水素ガス分離工程で得られたガスを、図3に示すように、エアポンプ22で洗浄瓶21に送り、洗浄瓶中の0.1mol/リットルの水酸化ナトリウム溶液200ミリリットル中に溶解させた。
合計18回分の硫化水素ガス分離工程で得られたガスを水酸化ナトリウム溶液に吸収させ、0.09mol/リットルの硫化水素溶液を200ミリリットル得た。
【0048】
光触媒によって硫化水素の処理を行うことにより水素発生の実験を行う装置は、図5に示すような、密閉系の電気分解用セル11aを用いた。この装置は、陽極側、陰極側を陽イオン交換膜3で分離し、陽極側には光触媒電極1を浸漬し硫化水素溶解工程で作成した0.09mol/リットルの硫化水素溶液を満たし、陰極側には金属電極2を浸漬し0.10mol/リットルの硫酸溶液を満たした。
8は光線照射用のXe照射灯であり、4は光触媒電極1と金属電極2とを電気的に接続する導線である。
光触媒電極1は、特開2003−181297号公報に開示されている方法に従って、硫化カドミウムをチタン板上に固定化し、電極面積100mm×100mmの寸法に製作して使用した。
一方、金属電極2は、チタン網に白金を被覆した電極を使用したが、その電極サイズは80mm×120mmであった。
【0049】
光触媒電極1と金属電極2を接続する導線4は銅線を使用し、電気的に連結した。
電気分解用セル(光触媒反応セル)11a容器部分はアクリル樹脂を使用して作製した。
光触媒電極1槽と金属電極2槽の各容量は200ミリリットルである。
上記に説明した構成の装置を使用し、キセノン照射灯からキセノン光を照射したところ、照射時間にほぼ比例して水素発生量が増加した。光照射開始10分後から水素発生量の測定を行い、測定開始から1時間後までの水素発生量は10.7ミリリットルであった。
なお、光源にキセノン照射灯8を使用したのは、実験を定量的に行うためであって、実用的には光源に太陽光を使用できることは言うまでもない。
【0050】
〔実施例3〕
図6に示すように、光触媒によって硫化水素の処理を行うことにより水素発生の実験を行う第2の実施形態の装置は、HS濃度が0.1M、OH濃度が1Mとなるように硫化水素を水酸化ナトリウム水溶液に溶解した処理液を収容した、第1の液槽である電気分解用セル11の中に、第2の液槽である光電気化学セル34を浸漬するように設置したものである。
【0051】
この光電気化学セル34は、その隔壁材の一方は導電性基板33としてのチタン板の外側の面に、光触媒31としての硫化カドミウムが、特開2003−181297号公報に開示されている方法に従って固定化されて、電極サイズ100mm×100mmの光触媒電極1が形成され、内側の面には金属層32としての白金が、上記光触媒層と反対面のチタン基板上に電気メッキ法で被覆されて金属電極2が形成された。
そして隔壁材のもう一方の反対面は陽イオン交換膜3で構成されて密閉系の光電気化学セル34を構成し、該セル34の上部には酸性溶液としての濃度0.5Mの硫酸を供給・循環させるアクリル樹脂製パイプを付設した。
【0052】
第1の液槽である電気分解用セル11を透明アクリル樹脂材で構成した。また、電気分解用セル11の外部より光線照射用Xe照射灯(図示省略)により、光触媒層31の光照射面積が15.9cm、光照射面強度が15.1Wになるように光照射した。
なお、電気分解用セル11の容量は1750ミリリットルで、光電気化学セル34の容量は175ミリリットルである。
【0053】
上記に説明した構成の装置を使用し、キセノン照射灯からキセノン光を照射したところ、図7に示すように照射時間にほぼ比例して水素発生量が増加した。光照射開始30分後から水素発生量の測定を行い、測定開始から6時間後までの水素発生量は53.1ミリリットルであった。
また、光触媒反応(光照射)中の光触媒(CdS)層31(光触媒電極1)と金属(Pt)層32(金属電極2)間の光電流値がほぼ23mAと一定で、安定した光触媒反応、硫化水素の処理、および水素の製造が行われたことがわかる。
なお、光源にキセノン照射灯(図示省略)を使用したのは、実験を定量的に行うためであって、実用的には光源に太陽光を使用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の硫化水素の処理方法、水素の製造方法および光触媒反応装置は、水素を必要とするアンモニアやメタノールの製造工程や、硫黄を必要とする硫酸や殺虫剤の製造工業などの化学工業、及び脱硫工程などで発生した硫化水素などを処理する天然ガス、各種工業ガスや石油を生産したり、あるいは処理する化学工業分野に極めて有望な用途を有する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態の硫化水素の処理と水素の製造に用いる装置の原理的概略説明図である。
【図2】本発明の実施例1に用いた装置の構成を説明する概略図である。
【図3】硫化水素と二酸化炭素を含むガスを、メチルジエタノールアミン溶液に吹き込む際等に使用する装置・器具の概略図である。
【図4】硫化水素を吸収・溶解させたメチルジエタノールアミン溶液からの該硫化水素の脱離に使用する装置・器具の概略図である。
【図5】本発明の実施例2の光触媒反応に用いた装置の構成を説明する概略図である。
【図6】本発明の光触媒反応装置の別の実施形態および実施例3の光触媒反応に用いた装置の構成を説明する概略図である。
【図7】実施例3の光触媒反応における水素発生量および電極間光電流値の反応時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 光触媒電極
2 白金電極
3 陽イオン交換膜
4 導線
5 アクリル樹脂製管
6 透明塩化ビニル樹脂製管
7 硬質塩化ビニル樹脂製管
8 Xe照射灯
11 電気分解用セル
21 洗浄瓶
22 エアポンプ
23 加熱手段
24 冷却手段
31 光触媒層
32 金属層
33 導電性の板
34 光電気化学セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも光触媒からなる光触媒電極を有する液槽と金属電極を有する液槽とを陽イオン交換膜で分離し、該光触媒電極を有する液槽には硫化水素を含む液を収容し、該光触媒電極と該金属電極とを電気的に接続し、該光触媒を光に曝す硫化水素の処理方法。
【請求項2】
前記金属電極を有する液槽に収容する液を酸性溶液とする請求項1記載の硫化水素の処理方法。
【請求項3】
前記光触媒が金属硫化物を含む請求項1記載の硫化水素の処理方法。
【請求項4】
前記光触媒が層状ナノカプセル構造を有する微粒子である請求項1記載の硫化水素の処理方法。
【請求項5】
前記硫化水素を含む液が、硫化水素ガスをアルカリ性液に吹き込んで溶解させたものである請求項1記載の硫化水素の処理方法。
【請求項6】
前記硫化水素ガスが、硫化水素と二酸化炭素を含むガスをメチルジエタノールアミン溶液に吹き込み、次いで該メチルジエタノールアミン溶液を常温より高い温度に加温して空気を吹き込み排出されたものである請求項5記載の硫化水素の処理方法。
【請求項7】
少なくとも光触媒からなる光触媒電極を有する液槽と金属電極を有する液槽とを陽イオン交換膜で分離し、該光触媒電極を有する液槽には硫化水素または有機物を含む液を収容し、該光触媒電極と該金属電極とを電気的に接続し、該光触媒を光に曝す水素の製造方法。
【請求項8】
前記金属電極を有する液槽に収容する液を酸性溶液とする請求項7記載の水素の製造方法。
【請求項9】
前記光触媒が金属硫化物を含む請求項7記載の水素の製造方法。
【請求項10】
前記光触媒が層状ナノカプセル構造を有する微粒子である請求項7記載の水素の製造方法。
【請求項11】
前記硫化水素を含む液が、硫化水素ガスをアルカリ性液に吹き込んで溶解させたものである請求項7記載の水素の製造方法。
【請求項12】
前記硫化水素ガスが、硫化水素と二酸化炭素を含むガスをメチルジエタノールアミン溶液に吹き込み、次いで該メチルジエタノールアミン溶液を常温より高い温度に加温して空気を吹き込み排出されたものである請求項11記載の水素の製造方法。
【請求項13】
少なくとも光触媒からなる光触媒電極を有しかつ硫化水素を含む液を収容する第1の液槽と、
金属電極を有する第2の液槽とを有し、
該第1の液槽と第2の液槽との間は陽イオン交換膜で分離され、
該光触媒電極と該金属電極は電気的に接続され、
該光触媒電極への光照射が可能になるように構成されていることを特徴とする光触媒反応装置。
【請求項14】
硫化水素を含む液を収容する第1の液槽と、
該第1の液槽の中に設けられた第2の液槽とを有し、
該第2の液槽の隔壁材の1部は、導電性の板の1つの面には光触媒層が、その反対面には金属層がそれぞれ形成された部材からなり、かつ光触媒層を有する側が外側に、金属層を有する側が内側になるようにそれぞれ構成され、
該第2の液槽の隔壁材の他の1部は、陽イオン交換膜で構成され、
該光触媒層への光照射が可能になるように構成されていることを特徴とする光触媒反応装置。
【請求項15】
前記第2の液槽に酸性溶液を供給または循環させる手段を有することを特徴とする請求項13または14記載の光触媒反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−307333(P2006−307333A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88477(P2006−88477)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】