説明

硫黄および全硫黄の測定方法、測定システムおよび固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)

【課題】固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対する全硫黄のICP法による測定において、測定上の空気による吸収を起因とする感度の問題を避けることができる硫黄及び全硫黄の測定方法等を提供する。
【解決手段】加湿器用水から抽出した抽出液31中の硫黄成分を、内部が不活性ガスで置換された分光・測光部22を用いた誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法で測定し、水質成分評価を行う。硫黄の定量分析線(S=180.734nm)は、185nm以下の発光線波長であり、発光線38が200nm以下の短波長側では、測定時に空気中の酸素による吸収が起こるため、分光・測光部22内を不活性ガスの窒素ガス置換で酸素を追い出すことを適用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell : PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む加湿器用水の水質成分評価を行う硫黄および全硫黄の測定方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物の硫黄由来のイオン性成分とを含む「燃料電池の中空糸加湿器モジュール水(以下、「加湿器用水」と言う。)の溶出成分」の定量分析は、全硫黄化合物の水質性状により材料に対して腐食の問題があるため、分析調査を検討する必要がある。他にも、大気環境の硫黄系ガスの問題、ガスセンサに関する硫黄汚染の調査、水処理水の硫黄系イオン成分の水質分析調査等の分析ニーズが増えているため、硫黄の測定方法の検討が盛んに行なわれている。これらの水質分析調査等では、硫黄および全硫黄分析と有機成分分析とを行い、さらにpH、電導率、陰イオン、陽イオン成分および重金属成分の分析方法で評価を行っている。
【0003】
硫黄の定量方法では、プラズマ発光分析法(誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma : ICP法))によるS=180.734nmが迅速で精度の良い方法である。しかし、発光線波長は真空紫外領域で空気による吸収があるため、感度の問題がある。このため、測定条件の検討を行なことが必要であるが、一般には行われていない。従って、分析方法を確立できれば迅速に精度良く全硫黄の分析評価ができると考えられる。
【0004】
固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜には、フッ素樹脂系のイオン交換膜が使われている。この高分子電解質膜は湿潤状態でのみ高いHイオン導電性を示すため、高分子電解質膜へ水分供給を行うための加湿器用水が必要である。このため、高性能な固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)を実現するためには高分子電解質膜へ供給される加湿器用水の適正な管理手法の確立が重要な課題である。つまり、加湿器用水の水質成分評価は、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の性能に影響を与えるような溶出物の有無を評価することが重要であり、pH、電導率、陰イオン、陽イオン成分および重金属成分の他に特に、硫黄および全硫黄の定量方法が必要である。
【0005】
硫黄のICP法による真空紫外領域における測定では、166nm〜847nmの全発光スペクトルを測定で得ることができるとされている(非特許文献1参照)。しかし、上述したように測定上の空気による吸収があるため、感度の問題がある。従って、非特許文献1記載の内容は、そのまま固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価には適用することができないという問題があった。さらに、非特許文献1には測定方法の詳細まで述べられてはいない。
【0006】
全硫黄の濃度を測定する方法として、一般に(1)フラスコ燃焼−滴定法、(2)フラスコ燃焼−イオンクロマトグラフ法、(3)微量電流滴定法による測定方法等が適用されている(非特許文献2参照)。しかし、これらの測定方法は固形物または粉末を対象とするため、溶液化し、多量の試料を処理する必要がある。このため、数ppmレベルの微量の測定は困難であり、その上、分解および測定の所要時間が長いため、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価にはそのまま適用できないという問題があった。
【0007】
流路の切換操作によって、全硫黄、硫酸ミストおよびSOガス成分を精度よく迅速に測定できる硫黄成分測定装置を提供することを目的とする方法がある(特許文献1参照)。特許文献1では、サンプルラインとリファレンスラインとに設けた流路切換手段を操作することによって、単一の分析計による差量演算により、全硫黄、硫酸ミストおよびSOガス成分を、それぞれ、適宜、迅速に求めることができるように構成している。しかし、特許文献1記載の技術は、ガス成分を対象にして無機系成分をトラップしたものであるため、抽出液とされた加湿器用水を対象とするものではない。つまり特許文献1記載の技術は、無機化合物のイオン種と有機化合物の硫黄由来のイオン性成分とを含み、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ水分供給用に供給される加湿器用水を対象とするものではなく、水質成分の測定評価に関するものではない。従って、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価にはそのまま適用することはできないという問題があった。
【0008】
固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の排出水中の高分子電解質膜材料由来の成分を見出すイオン定量分析方法がある(特許文献2参照)。しかし、特許文献2記載の技術は固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価に関するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、非特許文献1記載の技術では測定上の空気による吸収があるため、感度の問題がある。従って、非特許文献1記載の内容は、そのまま固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価には適用することができないという問題があった。
【0010】
上述したように、非特許文献2記載の測定方法は固形物または粉末を対象とするため、溶液化し、多量の試料を処理する必要がある。このため、数ppmレベルの微量の測定は困難であり、その上、分解および測定の所要時間が長いため、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価にはそのまま適用できないという問題があった。
【0011】
上述したように、特許文献1記載の技術は、ガス成分を対象にして無機系成分をトラップしたものであるため、無機化合物のイオン種と有機化合物の硫黄由来のイオン性成分とを含み、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ水分供給用に供給される加湿器用水を対象とするものではなく、水質成分の測定評価に関するものではない。従って、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価にはそのまま適用することはできないという問題があった。
【0012】
上述したように、特許文献2記載の技術は、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の排出水中の高分子電解質膜材料由来の成分を見出すイオン定量分析方法であるため、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分評価にそのまま適用することはできないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明の第1の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、高性能な固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)を実現するため、高分子電解質膜へ供給される加湿器用水の適正な管理手法を確立することにある。詳しくは、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の性能に影響を与えるような溶出物の有無を評価し、pH、電導率、陰イオン、陽イオン成分および重金属成分の他に特に、硫黄および全硫黄の測定方法を確立することにある。
【0014】
本発明の第2の目的は、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対する全硫黄のICP法による測定において、測定上の空気による吸収を起因とする感度の問題を避けることができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することにある。
【0015】
本発明の第3の目的は、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対するイオンクロマトグラフィー法による測定において、無機化合物の硫黄由来のイオン種を精度よく且つ短時間で測定することができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することにある。
【0016】
本発明の第4の目的は、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対するガスクロマトグラフィー・質量分析法による測定において、硫黄由来の有機化合物質をガスクロマトグラフィー・質量分析法で測定することができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明の硫黄及び全硫黄の測定方法は、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄及び全硫黄の測定方法であって、該加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなり、加湿器用水から抽出した抽出液中の硫黄成分を、内部が不活性ガスで置換された分光器を用いた誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法で測定し、水質成分評価をすることを特徴とする。
【0018】
この発明の硫黄及び全硫黄の測定方法は、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄及び全硫黄の測定方法であって、該加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなり、加湿器用水中の前記構造材料に含まれる無機化合物は水溶性イオン成分を純水で抽出し、硫黄由来のイオン種をイオンクロマトグラフィー法で同時に分析測定し、水質成分評価をすることを特徴とする。
【0019】
この発明の硫黄及び全硫黄の測定方法は、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄及び全硫黄の測定方法であって、該加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなり、加湿器用水中の有機化合物成分を固相マイクロ抽出法で抽出し、硫黄由来の有機化合物質をガスクロマトグラフィー・質量分析法で測定し、水質成分評価をすることを特徴とする。
【0020】
この発明の硫黄及び全硫黄の測定方法は、本発明の硫黄及び全硫黄の測定方法における各水質成分評価を共に行い、これらの結果に基づき全硫黄を分析して水質成分評価をすることを特徴とする。
【0021】
この発明の測定システムは、本発明の硫黄及び全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法の対象となる加湿器、該測定方法に使用する試料採取ポート及び凝集水タンクを備えたことを特徴とする。
【0022】
この発明の固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)は、本発明の硫黄及び全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法により管理された水質の加湿器用水を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の硫黄および全硫黄の測定方法等によれば、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法において、加湿器で用いられている構造材料は有機膜であり、加湿器用水から抽出した抽出液中の硫黄成分を、内部が不活性ガスで置換された分光・測光部を用いた誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法で測定し、水質成分評価を行う。この結果、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対する全硫黄のICP法による測定において、測定上の空気による吸収を起因とする感度の問題を避けることができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することができる。即ち、ICP法による無機系と有機系とからなる「全硫黄化合物の分析」を定量下限1ppm以下(定量下限=50ppb)で行うことができる微量定量法を確立することができたという効果がある。
【0024】
本発明の硫黄および全硫黄の測定方法等によれば、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法において、加湿器で用いられている構造材料は有機膜であり、加湿器用水中の前記構造材料に含まれる無機化合物は水溶性イオン成分を純水で抽出し、硫黄由来のイオン種をイオンクロマトグラフィー法で同時に分析測定し、水質成分評価をする。これは硫黄成分の定量分析を行うことであり、イオン種を分離し定量分析するためのものであり、硫黄由来の多価成分の硫酸イオン、亜硫酸イオンなどの分析方法を提供するという効果が得られる。加えて、検出イオン種の電導度からなるピーク面積と濃度(例:ppm)との関係を検量線化し、これと同様に適用することにより、硫黄由来のイオン種以外の14成分の分析を行うこともできる。この結果、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対するイオンクロマトグラフィー法による測定において、無機化合物の硫黄由来のイオン種を精度よく且つ短時間で測定することができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することができるという効果がある。
【0025】
本発明の硫黄および全硫黄の測定方法等によれば、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法において、加湿器で用いられている構造材料は有機膜であり、加湿器用水中の有機化合物成分を固相マイクロ抽出法で抽出し、硫黄由来の有機化合物質をガスクロマトグラフィー・質量分析法で測定し、水質成分評価をする。例えば、多種類の成分の検出および判別から、硫黄成分としてメルカプトベンゾチアゾール、トリメチルシラノ−ル、ポリフェニルサルフォン等が検出でき、有機化合物成分の分析方法を提供する効果が得られる。この結果、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対するイオンクロマトグラフィー法による測定において、無機化合物の硫黄由来のイオン種を精度よく且つ短時間で測定することができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することができる。このようにして、試料の中空糸加湿器モジュール水を純水で抽出した硫黄由来の有機成分を分析測定して硫黄成分の定量分析を確立できたという効果がある。
【0026】
本発明の硫黄および全硫黄の測定方法等によれば、実施例1ないし3の硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価を共に行い、これらの結果に基づき全硫黄を分析して水質成分評価をする。ICP発光分析法で硫黄を測定し、例えば上記試料液で発光線強度180.734nmによって成分濃度を測定するという効果が得られる。この硫黄(S=180.734nm)の発光線波長は真空紫外領域であり、分光・測光部内を窒素置換する等の測定条件を行なう。分析検査の方法は、発光強度と硫黄の濃度(例:ppm)との関係を検量線化し、これを適用して行う定量分析方法の効果が得られる。さらにICP発光分析法では、硫黄と同時に他の元素についてもpH、電導率、イオン成分、重金属を含む成分の分析条件を検討して求めることもでき、中空糸加湿器モジュール水の水質成分評価ができるという効果も得られる。この結果、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)からの加湿器用水中に溶出する硫黄等の成分を含む水質分析評価方法は、ICP発光分析法による硫黄分析とイオンクロマトグラフィー法による無機化合物の硫黄由来のイオン種とガスクロマトグラフィー・質量分析法による有機化合物の形態別の成分を確立できたという効果がある。
【0027】
本発明の測定システム等によれば、加湿器からPEFCアノードおよびカソート側へ供給されるガスラインにおいて、分岐して試料採取ポートを介し凝集水タンクへ加湿器用水が採取される。通常運転中は試料採取ポートは閉状態とし、定期的に電力使用量が少ない時間帯を選んで開状態として加湿器用水を採取する。凝集水タンクに採取された加湿器用水を対象として、本発明の硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法が実施される。この結果、本測定システムでは高分子電解質膜へ供給される加湿器用水の適正な管理が行われるため、高性能な固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)を実現することができるという効果がある。言い換えれば、加湿器から抽出される加湿器用水を対象として、本発明の硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法が実施されることにより、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高性能運転を維持することができるという効果がある。即ち、本発明の硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法により管理された水質の加湿器用水を用いた高性能な固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)を実現することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】後述する各実施例で共通に用いられる硫黄および全硫黄の測定方法の手順を示す図である。
【図2】ICP発光分析装置30の構成の概略図である。
【図3】図2に示されるICP発光分析装置30の構成図である。
【図4】発明者が上記の測定条件によって検討したICP発光強度(cpc)(縦軸)とS濃度(ppm)(横軸)との検量線関係を示す図である。
【図5】実施例2におけるイオンクロマトグラフィーの流路図である。
【図6】実施例2におけるイオンクロマトグラフィーの概略図である。
【図7】陰イオンクロマトグラムの例を示す図である。
【図8】ガスクロマトグラフィー・質量分析法14(GC/MS)の模式図である。
【図9】GC−MSの分析TIC(トータルイオンクロマトグラム)の例を示す図である。
【図10】試験(1回目)と(2回目)のSO2−の主な成分の関係を示す図である。
【図11】試験(1回目)と(2回目)の全硫黄の主な成分の関係を示す図である。
【図12】実施例5における測定システム90を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、後述する各実施例で共通に用いられる硫黄および全硫黄の測定方法の手順を示す。図1で、符号11は水質成分測定試料(有機質膜抽出液:PEFC加湿器用水の例)、12はICP発光分析法による測定(全硫黄分析の例)、13はイオンクロマトグラフィー法による測定(形態用イオン種による硫黄分析の例)、14はガスクロマトグラフィー・質量分析による測定(有機化合物質による硫黄分析の例)、15はデータ整理(全硫黄分析等)である。水質成分測定試料11(PEFC加湿器用水)は、加湿器モジュールを密閉して採取される。以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0030】
実施例1では、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法について、ICP発光分析法12を用いた例について説明する。ここで、加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなっている。まず、始めにICP発光分析法12について説明する。
【0031】
[ICP発光分析法12について:硫黄測定関係]
元素に高いエネルギーを与えると、ほとんど全ての元素は励起状態となる。励起状態の原子がエネルギー準位の低い基底状態に戻るとき、原子固有の光を放出する。誘導結合プラズマ(ICP)とは高周波誘導によって励起されたアルゴンプラズマである。ネブライザで噴霧された試料は、プラズマ中心部に導入され、励起・発光される。この発光した光を分光器で波長別に分離することにより、原子スペクトル線から元素の種類が特定される。166nm〜847nmの全発光スペクトルを数分の測定で得ることができる。それぞれの波長における発光強度は励起した原子数に比例するため、個々の元素の濃度を求めることができる。分光器内部を真空状態に保つことにより、真空紫外領域に発光スペクトルを持つ硫黄などの元素を高感度に分析することが可能であるが、分析条件の検討が必要である。
【0032】
図2は、ICP発光分析装置30の構成の概略図を示す。図2で、符号31は分析試料溶液、32はArキャリヤーガス、33はAr補助ネブライザ、34はArプラズマガス、35は石英トーチ、36は誘導コイル、37はArプラズマ、38は発光線、39は回折格子、40は光電子増倍管(信号出力)、41は窒素雰囲気である。図2に示されるように、分析試料溶液31(試料導入系)の試料はArキャリヤーガス32およびAr補助ネブライザ33により光源(石英トーチ35およびArプラズマ37)へ導入される。ここで、Arキャリヤーガス32、Ar補助ネブライザ33およびArプラズマガス34はガス供給系を構成している。Arプラズマガス34を励起させるための励起電源部は誘導コイル36等により構成されている。発光線38は集光系(不図示)により集光され、回折格子39により分光されて光電子増倍管(信号出力)40により検出される。図2に示されるように、分光器(回折格子39、光電子増倍管(信号出力)40)は内部が不活性ガスで置換されている(窒素雰囲気41)。このため、測定上の空気による吸収を原因とする感度の問題を避けることができる。上述の不活性ガスとしては窒素が好適であるが、これに限定されるものではない。実施例1におけるICP発光分析装置30では、加湿器用水から抽出した抽出液31中の硫黄成分を、内部が不活性ガスで置換された分光器を用いた誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法で測定し、水質成分評価をするという点に特徴がある。
【0033】
図3は、図2に示されるICP発光分析装置30を構成図で示す。図3で図2と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図3に示されるように、光源部21は、誘導コイル36等から構成される励起電源(部)、分析試料溶液31から構成される試料導入系(試料導入部)、石英トーチ35およびArプラズマ37から構成される光源(発光部)、Arキャリヤーガス32、Ar補助ネブライザ33およびArプラズマガス34から構成されるガス供給系を備えている。続いて図3に示されるように、分光・測光部22は、光源部21から発光された発光線38を集光する集光系42、回折格子39から構成される分光器、光電子増倍管(信号出力)40から構成される検出器を備えている。分光・測光部22内は上述したように窒素置換雰囲気41となっている。図3に示されるように、分光・測光部22により検出された発光スペクトルは制御・演算・記録部23へ出力され、制御系24により適宜制御されながら増幅演算部25により増幅された後、データ記録部26に記録される。
【0034】
上述したICP発光分析装置30は、溶液を対象にしている。特に、硫黄の定量分析線(S=180.734nm)は、185nm以下の発光線波長で真空紫外領域であり、分光器内を窒素置換する等の測定条件を検討した。ICP発光分析装置30の分光・測光部22内を窒素置換にすること以外の条件は、常法による設定で行い、硫黄の定量分析元素について、次の主な検量線を検討して定量分析法を確立した。装置はセイコーインスツルメンツ株式会社(登録商標)SPS 3100型を用いた。
【0035】
真空紫外の分析(185nm以下の波長)を行う場合の測定では、200nm以下の短波長側において、空気中の酸素による吸収が起こる。特に185nm以下で強く吸収される。このため、一般に185nm以下の波長を用いて分析するときは、分光・測光部22内を不活性ガスの窒素置換で酸素を追い出すことが必要であった。その方法は次の通りである。
【0036】
1) 窒素パージガスを分光・測光部22内に導入して、パージする。パージには2時間強かかる。ガス流量は約10L/minである。窒素ガス(99.9vol%以上、露点−70℃以下)。
2)窒素置換による元素の安定を確認する。パージ領域で分析する硫黄元素の検出限界(DL)を測定する。
標準液は、和光純薬工業株式会社(登録商標)製特級試薬の試料量(NHSO:S濃度=1000mg/Lのものを適宜希釈し、液組成のマトリックスマッチングを行い調製した。
【0037】
以上の説明した主な測定条件を纏めると、以下のようになる。
・硫黄の定量分析線:(S=180.734nm)、溶液を対象。
・標準液:和光純薬工業株式会社製特級試薬の試料量(NHSO:S濃度=1000mg/Lのものを適宜希釈し、液組成のマトリックスマッチングを実施。
・分光・測光部22内を窒素置換する。それ以外の条件は、常法による設定で行った。
・装置:セイコーインスツルメンツ株式会社(登録商標)SPS 3100型を用いた。
【0038】
図4は、発明者が上記の測定条件によって検討したICP発光強度(cpc)(縦軸)とS濃度(ppm)(横軸)との検量線関係を示す。図4に示される検量線における実験式は、得られた直線を回帰分析して求めた式であり、S濃度(ppm)=2.627×10−6χ である。ここでχはICP発光強度(cpc)である。図4に示されるように、相関係数R=0.9991、 定量下限=50ppbである。
【0039】
表1は分析精度の検討結果を示す。表1に示されるように、硫黄濃度5.00ppmで、6回繰返しの変動係数は0.91%以下となり良好である。元素分析に関する工業用水試験方法(JIS K 0101法)での分析精度は、一般に変動係数で2%〜10%とされている。これに比べると、本法の分析精度は良好且つ高精度であることが分かり、JIS法での分析精度を十分満足していることが分かる。
【0040】
【表1】

【0041】
以上のように、本発明の実施例1によれば、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法において、加湿器で用いられている構造材料は有機膜であり、加湿器用水から抽出した抽出液31中の硫黄成分を、内部が不活性ガスで置換された分光・測光部22を用いた誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法で測定し、水質成分評価を行うことを特徴とする硫黄および全硫黄の測定方法を実施した。詳しくは、硫黄の定量分析線(S=180.734nm)は、185nm以下の発光線波長であり、発光線38が200nm以下の短波長側では、測定時に空気中の酸素による吸収が起こるため、分光・測光部22内を不活性ガスの窒素ガス置換で酸素を追い出すことを適用した。以上により、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対する全硫黄のICP法による測定において、測定上の空気による吸収を起因とする感度の問題を避けることができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することができた。即ち、ICP法による無機系と有機系とからなる「全硫黄化合物の分析」を定量下限1ppm以下(定量下限=50ppb)で行うことができる微量定量法を確立することができた。
【実施例2】
【0042】
実施例2では、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法について、イオンクロマトグラフィー法13を用いた例について説明する。ここで、加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなっている。まず、始めにイオンクロマトグラフィー法13について説明する。
【0043】
[イオンクロマトグラフィー法13について]
イオンクロマトグラフィーを用いて水溶液中のイオン成分濃度を測定する。使用した測定器は装置条件により、陰イオンおよび陽イオン成分を含む14成分の濃度測定が可能であり、有機酸(カルボン酸:−COOH基の例あり)、その他の有機酸の一部が分析可能である。
【0044】
図5は、実施例2におけるイオンクロマトグラフィーの流路図である。図5において、符号61は送液部、62は分離部、63は検出部、64はデータ処理部・記録部である。図5に示されるように、弱電解質の溶離液52と共にポンプ65により試料導入バルブ51から試料を注入(抽出試料)し、ガードカラム53およびイオン交換樹脂製の分離カラム54を通す。分離カラム54内では水和半径の大小、Van der Waals力の相互作用によってイオン種の相互分離を行ない、さらに除去カラム(サプレッサー)55を通すことによりバックグラウンドの電導度を下げ、検出セル56およびデータ処理装置58を経てイオンクロマトグラム(溶離時間とピーク面積のチャート)を計測する。即ち、目的とするイオン種を高感度でクロマトグラムとして得る。分離カラム54は、一般に目的のイオン成分によって交換可能である。
【0045】
図6は実施例2におけるイオンクロマトグラフィーの概略図である。図6で図5と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図6に示される概略図において、試料導入バルブ51から導入されるイオン成分を含む試料は、予め指定成分の標準試料液により、装置の分離カラム54・溶離液52の濃度・流量・電気伝導度で検出する分離条件を検討する。試料液導入は、指定の有機イオン、SO2−成分等の分離を検討する。
【0046】
実施例2における測定方法は、試料量が数μlを用いて、1回の測定で数種の陰イオン成分を同時に測定することができ、分別定量分析を行うことができる方法である。検出セル(検出器)56にはフローセル型の電導度検出器を用いており、各イオン成分の電導度に基づくイオンクロマトグラムのピーク面積および高さから、目的とする分析試料溶液中のイオン成分濃度を求めることができる。
【0047】
データ処理装置(分析装置)58、分離カラム54、溶離液52はすべてDIONEX(登録商標)社製のものを用いた。詳しくは以下の通りである。
測定装置:イオンクロマトグラフ;DIONEX(登録商標)社製DX−320、グラジェント法適用タイプ。主な陰イオン・陽イオン分析用[分離カラムIon Pac AS17C、Ion Pac CS14溶離液KOH・EG40溶離液ジェネレータ使用]
【0048】
以上のようにして、陰・陽イオンおよび有機酸イオンの分析方法をイオンクロマトグラフィー法による成分分離で確立した。図7は、陰イオンクロマトグラムの例を示す。図7で縦軸はピーク面積、横軸は溶離時間(min)である。
【0049】
定量分析は、検出イオン種の電導度と濃度との関係を検量線化し、これを適用して行う。以上のようにして、陰・陽イオンおよび有機酸イオンの分析方法をイオンクロマトグラフィー法13により14成分の分離を確立することができた。特に、硫黄由来の硫酸イオンなどが分析できる。
【0050】
以上より、本発明の実施例2によれば、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法において、加湿器で用いられている構造材料は有機膜であり、加湿器用水中の前記構造材料に含まれる無機化合物は水溶性イオン成分を純水で抽出し、硫黄由来のイオン種をイオンクロマトグラフィー法13で同時に分析測定し、水質成分評価をすることを特徴とする硫黄および全硫黄の測定方法を実施した。詳しくは、試料は中空糸加湿器モジュール水(加湿器用水)のイオン成分を用い、無機化合物は水溶性イオン成分を純水で抽出し、硫黄由来のイオン種をイオンクロマトグラフィー法13で同時に分析測定し、硫黄成分の定量分析を行った。これは硫黄成分の定量分析を行うことであり、イオン種を分離し定量分析するためのものであり、硫黄由来の多価成分の硫酸イオン、亜硫酸イオンなどの分析方法を提供するという効果が得られる。加えて、検出イオン種の電導度からなるピーク面積と濃度(例:ppm)との関係を検量線化し、これと同様に適用することにより、硫黄由来のイオン種以外の14成分の分析を行うこともできる。以上により、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対するイオンクロマトグラフィー法による測定において、無機化合物の硫黄由来のイオン種を精度よく且つ短時間で測定することができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することができる。
【実施例3】
【0051】
実施例3では、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法について、ガスクロマトグラフィー・質量分析法14を用いた例について説明する。ここで、加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなっている。まず、始めにガスクロマトグラフィー・質量分析法14について説明する。
【0052】
[ガスクロマトグラフィー・質量分析法14について]
図8は、ガスクロマトグラフィー・質量分析法14(GC/MS)の模式図である。図8に示されるように、揮発性の混合試料を分離するガスクロマトグラフィー(GC)80と質量分析計(MS)82とをインターフェース81を介して直結したガスクロマトグラフィー・質量分析計(GC/MS)は、多成分の微量試料の分析法として普及している。分子イオンの質量数から分子量がわかるとともに、フラグメントイオンのパターンから分子の構造に関する重要な情報が得られる。
【0053】
図8に示されるように、ガスクロマトグラフィー(GC)80の注入口83から入った試料はカラム84で分離された試料85となり、高真空(10−6Torr)に保たれたイオン化室(イオン源86)に導入された後、四重極電極87による電子線照射等によって次々とイオン化される。このイオンの流れを分析管(2次電子増倍管)88に導き、磁気的あるいは電場的な方法でm/z(m:質量数、z:電荷)に応じて分離検出される。検出されたものは質量スペクトルといわれ、通常横軸に質量電荷比(m/z)、縦軸にイオン強度(どれだけの量があるか)をとった多くのピーク群からなるグラフとして示される。
【0054】
有機成分を含む全硫黄分析方法に関する水質分析の分析条件は以下の通りである。
(1)固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction : SPME)法;
抽出相を固定したファイバーを試料水中に浸漬し、水中の有機成分を濃縮・抽出する方法。
サンプル量:10mL、 添加剤:NaCl 1g、塩酸:1mol/L 50μL
(2)GC−MS測定;
GC−MS測定を以下の装置にて行った。
装置:島津製作所(登録商標)株式会社製GC−MS QP5050A
カラム84:キャピラリカラムDB−5φ0.25mm×30m、昇温条件:40〜280℃(10℃/min)、スプリット比:1/10 (スプリットレス:1min)、キャリアガス:ヘリウム(1mL/min)
【0055】
図9は、GC−MSの分析TIC(加湿器用水のトータルイオンクロマトグラム)の例を示す。縦軸はイオン強度、横軸は時間(min)である。図9に示されるように、硫黄系化合物としてメルカプトベンゾチアゾール、ベンゾチアゾール等が検出できた。
【0056】
以上より、本発明の実施例3によれば、無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定方法において、加湿器で用いられている構造材料は有機膜であり、加湿器用水中の有機化合物成分を固相マイクロ抽出法で抽出し、硫黄由来の有機化合物質をガスクロマトグラフィー・質量分析法で測定し、水質成分評価をすることを特徴とする硫黄および全硫黄の測定方法を実施した。例えば、多種類の成分の検出および判別から、硫黄成分としてメルカプトベンゾチアゾール、トリメチルシラノ−ル、ポリフェニルサルフォン等が検出でき、有機化合物成分の分析方法を提供する効果が得られる。以上により、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ供給される加湿器用水に対するイオンクロマトグラフィー法による測定において、無機化合物の硫黄由来のイオン種を精度よく且つ短時間で測定することができる硫黄および全硫黄の測定方法等を提供することができる。このようにして、試料の中空糸加湿器モジュール水を純水で抽出した硫黄由来の有機成分を分析測定する硫黄成分の定量分析を確立した。
【実施例4】
【0057】
実施例4は、実施例1ないし3の硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価を共に行い、これらの結果に基づき全硫黄を分析して水質成分評価をすることを特徴とする硫黄および全硫黄の測定方法を実施した。詳しくは、ICP発光分析法12で硫黄を測定し、同時に他の元素についてpH、電導率、硫黄由来のイオン成分、重金属を含む成分の分析条件を検討した。以下、実施例4による固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分につき、実試料の分析について述べる。
【0058】
始めに、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の性能に影響を与えるような溶出物の有無を評価する。目的は以下の通りである。高分子電解質膜のフッ素樹脂系のイオン交換膜が現在用いられている。これらの膜は湿潤状態でのみ高いHイオン導電性を示すため、高分子電解質膜への水分供給が必要である。高性能固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の実現のためには高分子電解質膜の適正な水管理手法の確立が重要な課題である。
【0059】
[溶出試験方法]
実験は、加湿器モジュールの加湿水入口および被加湿ガス入口から純水を注入し、入口・出口部を閉め密閉する。密閉状態で90℃×50h試験(1回目)を行い、注入した水をサンプリングした後、再度内部の純水を入れ替えて再び90℃×50h試験(2回目)を実施する。この場合の構造材膜には、硫黄系材料が用いられているおり、硫黄を含む加湿器用水となる。分析試料は、表2に示すサンプリング量の一部を用いる。(以下で説明するA試験、B試験は膜材料が異なる)。
【0060】
【表2】

【0061】
[分析方法]
溶出成分の全硫黄、電気伝導度、pH、陰・陽イオン14成分、金属8成分について定量分析した。分析方法は下記により、元素毎の測定条件によって行った。
【0062】
以下の1)項は、実施例4における主体であり、3)項、5)項は、関連する重要な項目である。
1)ICP発光分析法12による全硫黄(Total−S:T−S)は、真空紫外の分析(185nm以下の波長)、窒素ガスを分光・測光部22内に導入し測定する。
[装置:セイコーインスルメンツ株式会社(登録商標)製ICP発光分光分析装置SPS 3100]
2)電気伝導度、pHの測定:25℃における2成分同時測定
[装置:東亜ディーケーケー株式会社(登録商標)製MM−60R]
3)イオンクロマトグラフィー法13による陰・陽イオン・有機酸イオンの14成分の分析
[装置:DIONEX(登録商標)社製DX−320、グラジェント法適用タイプ。主な陰イオン・陽イオン分析用[分離カラムIon Pac AS17C、Ion Pac CS14溶離液KOH・EG40溶離液ジェネレータ使用]]
4)ICP発光分析法12による金属成分の8成分同時分析
[装置:セイコーインスルメンツ株式会社(登録商標)製ICP発光分光分析装置SPS 3100]
以上の分析法の定量下限:ppb(0.01>)、Pb=0.05>、T−S=0.05
5)有機成分を含む全硫黄分析方法に関する水質分析
(1)固相マイクロ抽出(SPME)法;
(2)GC−MS測定; GC−MS測定を以下の装置にて行った。
[装置:島津製作所(登録商標)株式会社製GC−MS QP5050A]
【0063】
[結果について]
表3は、溶出成分の無機成分について全硫黄、電気伝導度、pH、陰・陽イオン成分、金属成分の定量分析した結果(試験1回目と2回目)を示す。図10は試験(1回目)と(2回目)のSO2−の主な成分の関係を示す。図11は試験(1回目)と(2回目)の全硫黄の主な成分の関係を示す。図10および11で縦軸は濃度(ppm)、横軸は試験1回目、2回目の区別を示す。
【0064】
【表3】

【0065】
[試験(1回目)と(2回目) の主な成分の関係]
表3および図10、11に示されるように、T−S(全硫黄)は、SO2−とベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾール等の基材由来のものである。ICP発光分析法12によるT−S定量下限ppb:0.05>、金属成分の定量下限ppb:0.01>、Pbの定量下限ppb=0.05>とイオンクロマトグラフィー法13によるイオン分析は、定量下限ppb:1ppbである。
【0066】
硫黄系有機物は、B試験で多く、メルカプトベンゾチアゾールが25.0mg/Lおよび19.0mg/L検出された。メルカプトベンゾチアゾールは加硫促進剤であると考えられる。メルカプトベンゾチアゾールに示される定量下限が0.1mg/Lレベルである。
【0067】
A試験の加湿器溶出成分:
試験の1回目に比べて2回目の溶出成分は、測定項目の電気伝導度、pHおよび主な成分[Si、SO2−、Cl、T−S(全硫黄)、重金属の一部〕は減る傾向にある。Si、SO2−、T−S(全硫黄)は、構造材のSilicon由来、無機系、有機系による成分が多い。特に多いSiは析出に繋がると思われ、他は腐食要因になると考える。
【0068】
B試験の加湿器溶出成分:
試験の1回目に比べて2回目溶出成分は、測定項目の電気伝導度および主な成分Si、[SO2−、T−S(全硫黄)、Si、Cl]は減る傾向にある。特に重金属は含有量が少ない。特に多い全硫黄はメルカプトベンゾチアゾールが19〜25mg/Lレベルで検出されたものである。無機イオンは腐食要因になると思われる。各加湿器で使用している構造材料によって溶出物が異なる。これらの成分は、吸着や腐食が考えられ、電池性能に影響を与えるような溶出物となり、実施例4は、硫黄等の成分を含む水質分析評価に有効である。
【0069】
以上より、本発明の実施例4によれば、実施例1ないし3の硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価を共に行い、これらの結果に基づき全硫黄を分析して水質成分評価をすることを特徴とする硫黄および全硫黄の測定方法を実施した。詳しくは、加湿器用材料は構造材料の有機膜からなり、抽出液中の硫黄成分をICP発光分析法12で測定し、無機化合物の硫黄を含むイオン種と有機化合物質量の硫黄を含む結果も求めて、これを基に全硫黄を分析して水質を評価することを特徴とする硫黄および全硫黄の測定方法である。実施例4では、ICP発光分析法12で硫黄を測定し、例えば上記試料液で発光線強度180.734nmによって成分濃度を測定している効果が得られる。この硫黄(S=180.734nm)の発光線波長は真空紫外領域であり、分光・測光部22内を窒素置換する等の測定条件を行なう。分析検査の方法は、発光強度と硫黄の濃度(例:ppm)との関係を検量線化し、これを適用して行う定量分析方法の効果が得られる。さらにICP発光分析法12では、硫黄と同時に他の元素についてもpH、電導率、イオン成分、重金属を含む成分の分析条件を検討して求めることもでき、中空糸加湿器モジュール水の水質成分評価ができるという効果も得られる。以上により、実施例4における固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)からの加湿器用水中に溶出する硫黄等の成分を含む水質分析評価方法は、ICP発光分析法12による硫黄分析とイオンクロマトグラフィー法13による無機化合物の硫黄由来のイオン種とガスクロマトグラフィー・質量分析法14による有機化合物の形態別の成分を確立した。本発明の加湿器用水は、上述した各実施例に限定されるものではなく、本発明の原理を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもかまわないことは勿論である。
【実施例5】
【0070】
図12は、実施例5における測定システム90を示す。図12では省略しているが、本測定システム90も通常の固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)システムと同様に、改質系機器、電池スタック、熱交換器、回転機等の補機類から構成される。図12に示される高分子電解質膜100にはフッ素系の陽イオン交換膜が用いられ、PEFCアノード98とPEFCカソード99との接合体をセパレーター(不図示)により挟んで単セルが構成される。この固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)では、燃料供給部95から供給される主に水素を含有するガスが純水タンク94から供給される水と共に加湿器92aに送られ、湿度が調整された後にPEFCアノード98に供給される。空気送風用ポンプ101からの空気も同様に加湿器92bを介して湿度が調整された後、PEFCカソード99に供給される。PEFCアノード98では水素がイオン化され、高分子電解質膜100を介してPEFCカソード99側へと移動する。PEFCカソード99側では主に上記水素イオンと電子および酸素とが反応して発電され、同時に水が生成される。生成された生成水は、各々PEFCアノード98側の排出水ドレンタンク96とPEFCカソード99側の排出水ドレンタンク97とに回収される。
【0071】
図12において、符号92aおよび92bは実施例1ないし4で説明した硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法の対象となる加湿器、91aおよび91bは上記測定方法に使用する試料採取ポート、93aおよび93bは上記測定方法に使用する凝集水タンクである。図12に示されるように、加湿器92aからPEFCアノード98側へ供給されるガスラインにおいて、分岐して試料採取ポート91aを介し加湿器用水が凝集水タンク93aへ採取される。同様に、加湿器92bからPEFCカソード99側へ供給されるガスラインにおいて、分岐して試料採取ポート91bを介し加湿器用水が凝集水タンク93bへ採取される。実施例1ないし4では加湿器用水は、加湿器モジュールを密閉して採取されたが、実施例5では上述のように試料採取ポート91a等から採取される。通常運転中は試料採取ポート91aおよび91bは閉状態とし、定期的に電力使用量が少ない時間帯を選んで開状態として加湿器用水を採取することが好適である。その理由は、加湿器92a等から加湿されたガスが排出され、そのガス中の水分を凝集させるため、試料採取には時間を要する。この結果、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)へのガスの供給量が減少することになり、発電効率が下がるためである。
【0072】
凝集水タンク93aおよび93bに採取された加湿器用水を対象として、実施例1ないし4で説明した硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法が実施される。この結果、本測定システム90では高分子電解質膜100へ供給される加湿器用水の適正な管理が行われるため、高性能な固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)を実現することができる。言い換えれば、加湿器92a等から抽出される加湿器用水を対象として、実施例1ないし4で説明した硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法が実施されることにより、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高性能運転を維持することができる。即ち、実施例1ないし4で説明した硫黄および全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法により管理された水質の加湿器用水を用いた高性能な固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の活用例として、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の加湿器用水の水質成分測定における硫黄および全硫黄の測定に適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
11 水質成分測定試料、12 ICP発光分析法、 13 イオンクロマトグラフィー法、 14 ガスクロマトグラフィー・質量分析法、 15
データ整理、 21 光源部、 22 分光・測光部、 23 制御・演算・記録部、 24 制御系、 25 増幅演算部、 26 データ記録部、 30 ICP発光分析装置、 31 分析試料溶液、 32 Arキャリヤーガス、 33 Ar補助ネブライザ、 34 Arプラズマガス、 35 石英トーチ、 36 誘導コイル、 37 Arプラズマ、 38 発光線、 39 回折格子、 40 光電子増倍管(信号出力)、 41 窒素雰囲気、 42 集光系、 51 試料導入バルブ、 52 溶離液、 53 分離カラム(ガードカラム)、 54 分離カラム、 55 除去カラム(サプレッサー)、 56 検出セル、 57 排液、 58 データ処理装置、 61 送液部、 62 分離部、 63 検出部、 64 データ処理部・記録部、 65 ポンプ、 80 GC、 81 インターフェース、 82 MS、 83 注入口、 84 カラム、 85 試料、 86 イオン源、 87 四重極電極、 88 2次電子増倍管、 90 測定システム、 91a、91b 資料採取ポート、 92a、92b 加湿器、 93a、93b 凝集水タンク、 94 純粋タンク、 95 燃料供給部、 96、97 排出水ドレンタンク、 98 PEFCアノード、 99 PEFCカソード、 100 高分子電解質膜、 101 空気送風用ポンプ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】
【特許文献1】特開平9−126999号公報
【特許文献2】特開2006−78226号公報
【非特許文献】
【0076】
【非特許文献1】「ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置」、Tiri News、 2008、vol.027 。
【非特許文献2】「有機化合物中の微量「硫黄/ハロゲン」測定」、Technical News、TN093、2001-4.株式会社住化分析センター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄及び全硫黄の測定方法であって、該加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなり、
加湿器用水から抽出した抽出液中の硫黄成分を、内部が不活性ガスで置換された分光器を用いた誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法で測定し、水質成分評価をすることを特徴とする硫黄及び全硫黄の測定方法。
【請求項2】
無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄及び全硫黄の測定方法であって、該加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなり、
加湿器用水中の前記構造材料に含まれる無機化合物は水溶性イオン成分を純水で抽出し、硫黄由来のイオン種をイオンクロマトグラフィー法で同時に分析測定し、水質成分評価をすることを特徴とする硫黄及び全硫黄の測定方法。
【請求項3】
無機化合物の硫黄系イオン種と有機化合物成分の硫黄とを含む、固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)の高分子電解質膜へ加湿器から供給される加湿器用水の水質成分測定における硫黄及び全硫黄の測定方法であって、該加湿器で用いられている構造材料は有機膜からなり、
加湿器用水中の有機化合物成分を固相マイクロ抽出法で抽出し、硫黄由来の有機化合物質をガスクロマトグラフィー・質量分析法で測定し、水質成分評価をすることを特徴とする硫黄及び全硫黄の測定方法。
【請求項4】
請求項1、2及び3記載の硫黄及び全硫黄の測定方法における各水質成分評価を共に行い、これらの結果に基づき全硫黄を分析して水質成分評価をすることを特徴とする硫黄及び全硫黄の測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の硫黄及び全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法の対象となる加湿器、該測定方法に使用する試料採取ポート及び凝集水タンクを備えたことを特徴とする測定システム。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の硫黄及び全硫黄の測定方法における各水質成分評価の測定方法により管理された水質の加湿器用水を用いたことを特徴とする固体高分子電解質形燃料電池(PEFC)。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−286427(P2010−286427A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141939(P2009−141939)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】