説明

硬化剤の製造法,及びこれを用いた熱硬化性樹脂組成物

【課題】硬化剤を、安価で安全に製造する方法、及び銅箔接着性、耐熱性、難燃性、低誘電特性、低誘電正接性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の製造法であって、(a)1分子中に少なくとも2個のベンゼン環に結合した1級アミノ基を有する化合物と、(b)無水マレイン酸と、を(c)有機溶剤中で反応させ、マレイミド樹脂を製造する工程、前記マレイミド樹脂と(d)下記一般式(I)に示す酸性置換基を有するアミン化合物を反応させる工程、を含む硬化剤の製造法。


(式中、Rは水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、Rは水素原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、x及びyは1〜4の整数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化剤の製造法、及びこれを用いた熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂に特有な架橋構造が高い耐熱性や寸法安定性を発現するため、電子部品等の高い信頼性を要求される分野において広く使われ、特に銅張積層板や層間絶縁材料においては、近年の高密度化への要求から、より高い耐熱性や難燃性が必要とされている。
【0003】
熱硬化性樹脂である(ビス)マレイミド樹脂は、接着性、難燃性、耐熱性に優れる樹脂であり、電子部品等の分野において広く使われているが、電子部品等に好適に使用できる純度が高いマレイミド樹脂の製造法は、USP−2444536号、特開昭62−138468号公報、特開平4−295462号公報、特開昭61−229863号公報等に記載されるように酢酸ナトリウムやアルカリ土類金属、金属錫のような金属含有触媒を使用したり、p−トルエンスルホン酸のような強い酸性物質を使用するため、再結晶等により精製した後に合成釜からビスマレイミド化合物を取り出す工程が必要となり、製造コストが高いことが現状である。また、特公昭63−34899号公報等にビスマレイミド化合物とアミノフェノールとの付加物を用いた熱硬化性樹脂が開示され、耐熱性や強度に優れることが報告されているが、このビスマレイミド化合物とアミノフェノールとの付加物の製造は、再結晶等により精製したビスマレイミド化合物を出発原料としなければ副反応や反応阻害によりアミノフェノールの付加反応が進行せず、したがって上記の製造コストが高いビスマレイミド化合物を出発原料としなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2444536号
【特許文献2】特開昭62−138468号公報
【特許文献3】特開平4−295462号公報
【特許文献4】特開昭61−229863号公報
【特許文献5】特公昭63−34899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低コストで高純度な酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤が得られる製造法、及び接着性、耐熱性、難燃性、低誘電特性に優れる、前記硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に関する。
1.酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の製造法であって、(a)1分子中に少なくとも2個のベンゼン環に結合した1級アミノ基を有する化合物と、(b)無水マレイン酸と、を(c)有機溶剤中で反応させ、マレイミド樹脂を製造する工程、前記マレイミド樹脂と(d)下記一般式(I)に示す酸性置換基を有するアミン化合物を反応させる工程、を含む硬化剤の製造法。
【0007】
【化1】

(式中、Rは水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、Rは水素原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、x及びyは1〜4の整数である)
【0008】
2.(A)項1記載の硬化剤の製造法により製造された硬化剤、(B)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(C)1分子中に少なくとも2個のアミノ基を有する化合物、を含有する熱硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、低コストで高純度な酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤が得られる製造法、及び接着性、耐熱性、難燃性、低誘電特性に優れる熱硬化性樹脂組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の製造法であって、(a)1分子中に少なくとも2個のベンゼン環に結合した1級アミノ基を有する化合物と、(b)無水マレイン酸と、を(c)有機溶剤中で反応させ、マレイミド樹脂を製造する工程、前記マレイミド樹脂と(d)下記一般式(I)に示す酸性置換基を有するアミン化合物を反応させる工程、を含む硬化剤の製造法である。
【0011】
【化2】

(式中、Rは水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、Rは水素原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、x及びyは1〜4の整数である)
【0012】
ここで、(a)1分子中に少なくとも2個のベンゼン環に結合した1級アミノ基を有する化合物と、(b)無水マレイン酸の使用量は、その当量比が、−NH基換算の1級アミノ基を有する化合物の当量に対し、無水マレイン酸の当量が次式:0.80≦(1級アミノ基を有する化合物の当量)/(無水マレイン酸の当量)≦1.20に示す範囲であることが望ましい。1.20を超えると溶剤への溶解性が不足したりゲル化を起こす場合があり、0.80未満であると熱硬化性樹脂の耐熱性が低下する。また、(c)有機溶剤の使用量は、(a)成分と(b)成分の総和100重量部に対し、10〜1000重量部とすることが好ましく、30〜500重量部とすることがより好ましく、50〜500重量部とすることが特に好ましい。有機溶剤の配合量が少ないと溶解性が不足し、また1000重量部を超えると合成に長時間を要する。
【0013】
(d)一般式(I)に示す酸性置換基を有するアミン化合物の使用量は、無水マレイン酸の当量に対し、−NH基換算の酸性置換基を有するアミン化合物の当量が次式:2.0≦(無水マレイン酸の当量)/(酸性置換基を有するアミン化合物の当量)≦10.0に示す範囲であることが望ましい。10.0を超えると溶剤への溶解性が不足したり、熱硬化性樹脂の耐熱性が低下し、2.0未満であると熱硬化性樹脂の耐熱性が低下する。
【0014】
(a)の1分子中に少なくとも2個のベンゼン環に結合した1級アミノ基を有する化合物は、例えばm−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノフェノール、3,5−ジアミノ安息香酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3−ジメチル−5,5−ジエチル−4,4−ジフェニルメタンジアミン、4−メチル−1,3−フェニレンジアミン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン等が挙げられ、これらの中で、反応の反応率が高く、より高耐熱性化できるm−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノフェノール、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3−ジメチル−5,5−ジエチル−4,4−ジフェニルメタンジアミン、4−メチル−1,3−フェニレンジアミン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが好ましく、溶剤への溶解性の点からm−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3−ジメチル−5,5−ジエチル−4,4−ジフェニルメタンジアミン、4−メチル−1,3−フェニレンジアミン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが好ましく、安価である点からm−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3−ジメチル−5,5−ジエチル−4,4−ジフェニルメタンジアミン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが特に好ましい。
【0015】
(c)成分である有機溶剤は、例えばエタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶剤、ジメチルスルホキシド等のS原子含有溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のN原子含有溶剤等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用できる。これらの中で、溶解性の点からシクロヘキサノン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドが好ましく、低毒性である点からシクロヘキサノン、メチルエチルケトンがより好ましい。
【0016】
(d)成分である一般式(I)に示す酸性置換基を有するアミン化合物は、例えばm−アミノフェノール、p−アミノフェノール、o−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、o−アミノ安息香酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、3,5−ジヒドロキシアニリン、3,5−ジカルボキシアニリン等が挙げられ、これらの中で、溶解性や合成の収率の点からm−アミノフェノール、p−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、3,5−ジヒドロキシアニリンが好ましく、耐熱性の点からm−アミノフェノール、p−アミノフェノールがより好ましく、低毒性である点からm−アミノフェノールが特に好ましい。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に使用する(A)硬化剤としては、(a)1分子中に少なくとも2個のベンゼン環に結合した1級アミノ基を有する化合物と(b)無水マレイン酸とを(c)有機溶剤中で反応させて製造したマレイミド樹脂に、(d)一般式(I)に示す酸性置換基を有するアミン化合物を反応させることによって得られる酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤であり、例えば、上記化合物(a)、(b)及び(c)の混合物に、(d)成分を添加し反応させて製造される。具体的には、(a)、(b)及び(c)の混合物を70℃以上で0.5時間から10時間反応させることによってマレイミド樹脂を製造し、更に(d)を少量づつ添加し70℃以上で0.5時間から10時間、連続して反応させることによって本発明の酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤が得られる。
【0018】
また、この反応には、必要により任意に反応触媒を使用することができ、特に限定されない。反応触媒の例としては、無水酢酸、酢酸等の酸性化合物類、トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等のアミン類、メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン等のリン系触媒等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0019】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に使用する(B)エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビフェニル系、ノボラック系、多官能フェノール系、ナフタレン系、脂環式系及びアルコール系等のグリシジルエーテル、グリシジルアミン系並びにグリシジルエステル系等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、誘電特性、耐熱性、耐湿性及び銅箔接着性の点からビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が好ましく、難燃性や成形加工性の点からビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましく、安価であることからフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に使用する(C)アミン化合物は、1分子中に2個以上のアミノ基を有するアミン化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレンジアミン、n−ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノフェノール、3,5−ジアミノ安息香酸、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3−ジメチル−5,5−ジエチル−4,4−ジフェニルメタンジアミン、4−メチル−1,3−フェニレンジアミン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、またベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ジシアノジアミド、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン等のグアナミン化合物が挙げられ、これらの中で、反応の反応率が高く、より高耐熱性化できるm−フェニレンジアミン、3,5−ジアミノフェノール、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ベンゾグアナミン、ジシアノジアミドが好ましく、溶剤への溶解性の点からm−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ベンゾグアナミン、ジシアノジアミドが好ましく、安価であり、高接着性、低誘電特性である点からベンゾグアナミン、ジシアノジアミドが特に好ましい。
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、エポキシ樹脂の硬化剤を併用してもよく、例としては、無水マレイン酸、無水マレイン酸共重合体等の酸無水物、ジシアノジアミド等のアミン化合物、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール化合物等が挙げられる。これらの中で、耐熱性が良好となるフェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール化合物が好ましく、難燃性や接着性が向上することからクレゾールノボラック型フェノール樹脂が特に好ましい。エポキシ樹脂の硬化促進剤の例としては、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類及び第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、該成分(A)酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤、(B)エポキシ樹脂、及び(C)アミン化合物の総和100重量部当たり、該成分(A)を1〜90重量部とすることが好ましく、20〜70重量部とすることがより好ましく、30〜60重量部とすることが特に好ましい。成分(A)の配合量が少ないと難燃性や接着性、可とう性が不足し、また90重量部を超えると耐熱性が低下する。また、該成分(B)を1〜90重量部とすることが好ましく、20〜70重量部とすることがより好ましく、30〜60重量部とすることが特に好ましい。成分(B)の配合量が少ないと耐熱性、硬化反応性が低下し、また90重量部を超えると難燃性や接着性、可とう性が不足する。また、該成分(C)を1〜30重量部とすることが好ましく、1〜20重量部とすることがより好ましく、5〜20重量部とすることが特に好ましい。
【0023】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、任意に公知の熱可塑性樹脂、エラストマー、難燃剤及び充填剤等の併用ができる。熱可塑性樹脂の例としては、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0024】
エラストマーの例としては、ポリブタジエン、アクリロニトリル、エポキシ変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、フェノール変性ポリブタジエン及びカルボキシ変性アクリロニトリル等が挙げられる。
【0025】
難燃剤の例としては、臭素や塩素を含有する含ハロゲン系難燃剤、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、ホスファゼン、赤リン等のリン系難燃剤、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム等の無機物の難燃剤等が挙げられる。これらの難燃剤の中で、本発明の熱硬化性樹脂組成物は難燃効果が高いという利点も有するため、非ハロゲン系難燃剤であるリン系難燃剤や無機物の難燃剤等が環境上の問題から好ましく、リン系難燃剤と水酸化アルミニウム等の無機物の難燃剤を併用することが、安価であり、難燃性と耐熱性等の他特性との両立の点から特に好ましい。
【0026】
充填剤の例としては、シリカ、マイカ、タルク、ガラス短繊維又は微粉末及び中空ガラス等の無機物粉末、シリコーンパウダー、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、並びにポリフェニレンエーテル等の有機物粉末等が挙げられる。
【0027】
本発明において、任意に有機溶剤を使用することができ、特に限定されない。有機溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メチルセロソルブ等のアルコール系溶剤、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のN原子含有溶剤等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0028】
本発明において、任意に該樹脂組成物に対して、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤及び密着性向上剤等の添加も可能であり、特に限定されない。これらの例としては、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系やスチレン化フェノール等の酸化防止剤、ベンゾフェノン類、ベンジルケタール類、チオキサントン系等の光重合開始剤、スチルベン誘導体等の蛍光増白剤、尿素シラン等の尿素化合物やシランカップリング剤等の密着性向上剤等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
製造例1:酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤(1−1)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積1リットルの反応容器に、ジアミノジフェニルメタン:99.00gと無水マレイン酸:98.00g、及びシクロヘキサノン:417.67g、トルエン:41.77gを入れ、90℃に昇温して均一に溶解した。次いで還流温度まで昇温し、発生する縮合水を除去しながら5時間反応させた。次いでp−アミノフェノール:27.25gを添加し、120℃で5時間反応させて酸性置換基(フェノール性水酸基)と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の溶液(1−1)を得た。
【0030】
製造例2:酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤(1−2)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積1リットルの反応容器に、ジアミノジフェニルメタン:99.00gと無水マレイン酸:98.00g、及びN,N−ジメチルホルムアミド:417.67g、トルエン:41.77gを入れ、90℃に昇温して均一に溶解した。次いで還流温度まで昇温し、発生する縮合水を除去しながら5時間反応させた。次いでp−アミノ安息香酸:34.25gを添加し、120℃で5時間反応させて酸性置換基(カルボキシル基)と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の溶液(1−2)を得た。
【0031】
製造例3:酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤(1−3)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積1リットルの反応容器に、ジアミノジフェニルメタン:99.00gと無水マレイン酸:98.00g、及びシクロヘキサノン:197.00g、無水酢酸:112.20gを入れ、90℃に昇温して均一に溶解した。次いで、還流温度まで昇温し5時間反応させた後、減圧下で溶媒を除去した。次いで常圧に戻した後、プロピレングリコールモノメチルエーテル:112.20gとp−アミノフェノール:27.25gを添加し、120℃で5時間反応させて酸性置換基(フェノール性水酸基)と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の溶液(1−3)を得た。
【0032】
製造例4:酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤(1−4)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積2リットルの反応容器に、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン:205.00gと無水マレイン酸:98.00g、及びシクロヘキサノン:600.00g、トルエン:60.00gを入れ、90℃に昇温して均一に溶解した。次いで還流温度まで昇温し、発生する縮合水を除去しながら5時間反応させた。次いでm−アミノフェノール:27.25gを添加し、120℃で5時間反応させて酸性置換基(フェノール性水酸基)と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の溶液(1−4)を得た。
【0033】
比較製造例1:
温度計、攪拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積1リットルの反応容器に、ジアミノジフェニルメタン:99.00gと無水マレイン酸:98.00g、及びシクロヘキサノン:417.67g、トルエン:41.77gを入れ、90℃に昇温して均一に溶解した。次いでp−トルエンスルホン酸:14.00gを添加してから還流温度まで昇温し、発生する縮合水を除去しながら5時間反応させた。次いでp−アミノフェノール:27.25gを添加し、120℃で15時間反応させたが、p−アミノフェノールの付加反応が進行せず、酸性置換基(フェノール性水酸基)と不飽和マレイミド基を有する硬化剤が得られなかった。
【0034】
比較製造例2:
温度計、攪拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積1リットルの反応容器に、ジアミノジフェニルメタン:99.00gと無水マレイン酸:98.00g、及びN、N−ジメチルホルムアミド:417.67g、酢酸:60.00g、酢酸ナトリウム:82.00gを入れ、60℃に昇温して均一に溶解した。次いで還流温度まで昇温し5時間反応させた。次いでp−アミノフェノール:27.25gを添加し、120℃で15時間反応させたが、p−アミノフェノールの付加反応が進行せず、酸性置換基(フェノール性水酸基)と不飽和マレイミド基を有する硬化剤が得られなかった。
【0035】
(実施例1〜6、比較例1〜6)
製造例1〜4で得られた成分(A)である酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤、成分(B)であるエポキシ樹脂、成分(C)であるアミン化合物、またエポキシ硬化剤としてフェノールノボラック樹脂、無機充填剤(難燃剤)として水酸化アルミニウム、溶剤にメチルエチルケトンを使用して表1と表2に示した配合割合(重量部)で混合して樹脂分70mass%の均一なワニスを得た。次に、上記ワニスをペットフィルム上に塗布し、160℃で5分加熱乾燥してキャスティング法によりBステージ化した後、粉砕し粉体とした。次に、このBステージ化した粉体を内容積200×100×1mmの金型内に充填し、油圧プレス装置で180℃−1時間−1.5MPaの条件で加熱加圧し、板状の成形品を得た。これを適宣切断し、特性試験に供した。また、18μmの電解銅箔を上下に配置し、同様に加熱加圧し銅張りの成形品を作製し、銅箔接着性(ピール強度)の評価試験に用いた。
【0036】
このようにして得られた試験片を用いて、銅箔接着性(銅箔ピール強度)、ガラス転移温度、難燃性、比誘電率(1GHz)、誘電正接(1GHz)について以下の方法で測定・評価し、表3と表4に評価結果を示した。
(1)銅箔接着性(銅箔ピール強度)の評価
銅張りの成形品を銅エッチング液に浸漬することにより、1cm幅の銅箔を形成して試験片を作製し、レオメータを用いてピール強度を測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)の測定
5mm角の試験片を作製し、TMA試験装置(デュポン社製、TMA2940)を用い、試験片の熱膨張特性を観察することにより評価した。
(3)難燃性の評価
長さ127mm、幅12.7mmに切り出した試験片を作製し、UL94の試験法(V法)に準じて評価した。
(4)比誘電率及び誘電正接の測定
25mm角の試験片を作製し、Hewllet・Packerd社製比誘電率測定装置(製品名:HP4291B)を用いて、周波数1GHzでの比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1,2中の数字は、固形分の重量部により示されている。注書きは、それぞれ、*1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:エピクロンN−673)、*2:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:エピクロンN−770)、*3:ベンゾグアナミン、*4:ジシアンジアミド、*5:クレゾールノボラック型フェノール樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:KA−1165)、*6:水酸化アルミニウムを意味する。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表3,4から明らかなように、本発明の実施例は、銅箔ピール強度、耐熱性、難燃性、低誘電特性、低誘電正接性の全てに優れている。一方、比較例は、銅箔ピール強度、耐熱性、難燃性、低誘電特性、低誘電正接性の全てを満たすものは無く、いずれかの特性に劣っている。
【0043】
本発明の製造法により製造した酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤は、安価で安全に製造され、またこれを用いた熱硬化性樹脂組成物は銅箔接着性、耐熱性、難燃性、低誘電特性、低誘電正接性に優れ、電子部品等に使用する熱硬化性樹脂として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する硬化剤の製造法であって、(a)1分子中に少なくとも2個のベンゼン環に結合した1級アミノ基を有する化合物と、(b)無水マレイン酸と、を(c)有機溶剤中で反応させ、マレイミド樹脂を製造する工程、前記マレイミド樹脂と(d)下記一般式(I)に示す酸性置換基を有するアミン化合物を反応させる工程、を含む硬化剤の製造法。
【化1】

(式中、Rは水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、Rは水素原子、又は炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基を示し、x及びyは1〜4の整数である)
【請求項2】
(A)請求項1記載の硬化剤の製造法により製造された硬化剤、(B)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(C)1分子中に少なくとも2個のアミノ基を有する化合物、を含有する熱硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−105945(P2011−105945A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256(P2011−256)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【分割の表示】特願2006−135035(P2006−135035)の分割
【原出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】