説明

硬化性樹脂組成物

【課題】良好な電気特性と優れた難燃性を有する回路基板用絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】環状オレフィン重合体および硬化剤を含有してなる硬化性樹脂組成物であって、環状オレフィン重合体が、例えば、水素原子がフッ素原子またはトリフルオロメチル基で置換された単環の含フッ素環状オレフィン1分子に対して、シクロペンタジエン1分子〜3分子をディールスアルダー反応により付加させることで容易に合成できる含フッ素環状オレフィン化合物を少なくとも単量体の一部として用いて開環重合して得られるもの、またはその水素添加物であり、かつ、硬化剤と反応して結合を形成しうる官能基を有するものであることを特徴とする硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性および電気特性に優れ、特に回路基板の絶縁膜用として好適に用いられる硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、多機能化、通信高速化などの追求に伴い、電子機器に用いられる回路基板のより高密度化が要求され、そのため回路基板の多層化が図られている。多層回路基板は、通常、電気絶縁層とその表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、さらにその上に電気絶縁層の積層および導体層の形成を繰り返して形成される。このような多層回路基板の導体層が高密度のパターンである場合、電気絶縁層を形成するために用いられる絶縁膜には、誘電率が低いなどの良好な電気特性と優れた難燃性が求められる。
【0003】
良好な電気特性を有する絶縁膜を与える材料としては、例えば特許文献1に開示されるようなカルボキシル基を有するノルボルネン系開環重合体とエポキシ樹脂とからなる熱硬化性樹脂組成物が知られている。また、特許文献2には、環状オレフィン共重合体にフルオロエーテル基などの官能基を導入し、それをエポキシ樹脂や硬化剤と混合してなる樹脂組成物を硬化させることにより、低い誘電率を有する絶縁膜が得られることが開示されている。しかしながら、近年の多層回路基板に対する高密度化の要求を鑑みると、これらの組成物を用いた場合であっても、その電気特性や難燃性が不足する場合があった。
【0004】
ところで、特許文献3には、特定の含フッ素環状オレフィン化合物を、単独開環重合することにより、または、他の環状オレフィン化合物と開環共重合することにより、透明性や耐光性に優れる含フッ素脂環式構造含有重合体が得られることが開示されている。この含フッ素脂環式構造含有重合体は、熱可塑性樹脂の成形法を適用することにより、種々の成形体とすることが可能であるとされ、得られる成形体は光学材料などとして有用であるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−139776号公報
【特許文献2】特開2002−201338号公報
【特許文献3】特開2005−248081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、良好な電気特性と優れた難燃性を有する回路基板用絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の含フッ素環状オレフィン化合物と官能基を有する環状オレフィン化合物とを開環共重合させて得られる環状オレフィン重合体を得て、その水素添加物に、硬化剤を配合して、硬化させることにより、良好な電気特性と優れた難燃性を有する硬化物が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして、本発明によれば、環状オレフィン重合体および硬化剤を含有してなる硬化性樹脂組成物であって、環状オレフィン重合体が、下記の一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物を少なくとも単量体の一部として用いて重合して得られるものであり、かつ、硬化剤と反応して結合を形成しうる官能基を有するものであることを特徴とする硬化性樹脂組成物が提供される。
【0009】
【化1】

(式中、Xは、それぞれ独立に、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。mは0〜2の整数である。nは1〜6の整数である。)
【0010】
上記の硬化性樹脂組成物は、含有される環状オレフィン重合体が、環状オレフィン化合物の開環重合体またはその水素添加物であることが好ましい。また、上記の硬化性樹脂組成物は、回路基板の絶縁膜用として好適に用いられる。
【0011】
また、本発明によれば、上記の硬化性樹脂組成物を硬化してなる回路基板用絶縁膜が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な電気特性と優れた難燃性を有する回路基板用絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の硬化性樹脂組成物は、特定の環状オレフィン重合体と硬化剤とを含有してなるものであり、これに用いられる環状オレフィン重合体は、下記の一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物を少なくとも単量体の一部として用いて重合して得られるものであり、かつ、硬化剤と反応して結合を形成しうる官能基を有することが必要である。
【0014】
【化2】

(式中、Xは、それぞれ独立に、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。mは0〜2の整数である。nは1〜6の整数である。)
【0015】
本発明で用いられる環状オレフィン重合体は、1分子中に少なくとも4個のフッ素原子を有する含フッ素環状オレフィン化合物を単量体として用いてなるので、電気特性や難燃性に優れる硬化性樹脂組成物を与えることができる。この環状オレフィン重合体を得るために単量体として用いる含フッ素環状オレフィン化合物は、一般式(1)で表わされるものであれば特に限定されないが、硬化性樹脂組成物の電気特性や難燃性をさらに良好とする観点からは、一般式(1)におけるXが全てフッ素原子であるものであることが好ましい。また、一般式(1)における、mは0または1であるものがより好ましく、1であるものが最も好ましい。nは3または4であるものが好ましく、3であるものが最も好ましい。
【0016】
本発明において、単量体として特に好適に用いられる含フッ素環状オレフィン化合物は、下記の式(2)で表わされる化合物(2,3,3,4,4,5,5,6−オクタフルオロトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン)、下記の式(3)で表わされる化合物(2,3,3,4,4,5,5,6,6,7−デカフルオロトリシクロ[6,2,1,02.7]ウンデカ−9−エン)、下記の式(4)で表わされる化合物(4,5,5,6,6,7,7,8−オクタフルオロペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10.04,8]ペンタデカ−12−エン)、または下記の式(5)で表わされる化合物(4,5,5,6,6,7,7,8,8,9−デカフルオロペンタシクロ[10.2.1.13,10.02,11.04,9]ヘキサデカ−13−エン)であり、なかでも、下記の式(2)で表わされる化合物または下記の式(4)で表わされる化合物が特に好適に用いられる。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
本発明で用いられる含フッ素環状オレフィン化合物は、従来公知の方法に従って合成することが可能であり、例えば、水素原子がフッ素原子またはトリフルオロメチル基で置換された単環の含フッ素環状オレフィン1分子に対して、シクロペンタジエン1分子〜3分子をディールスアルダー反応により付加させることで容易に合成することができる。
【0022】
本発明で用いられる環状オレフィン重合体は、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物を単量体として用いたものであれば、その重合様式は特に限定されず、例えば、環状オレフィン化合物の開環重合体であっても良いし、付加重合体であっても良い。また、環状オレフィン重合体として、環状オレフィン化合物の開環重合体を用いる場合には、開環重合体をそのまま用いても良いし、開環重合体の不飽和結合の少なくとも一部に水素添加した水素添加物を用いても良い。これらのなかでも、本発明で用いる環状オレフィン重合体としては、環状オレフィン化合物の開環重合体またはその水素添加物であることが好ましく、環状オレフィン化合物の開環重合体の水素添加物であることが特に好ましい。
【0023】
また、本発明で用いられる環状オレフィン重合体は、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物のみを単量体として用いてなる単独重合体であっても良いし、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物とその他の単量体との共重合体であっても良いが、得られる硬化性樹脂組成物をワニスにする場合の溶媒に対する溶解性や硬化剤に対する親和性を良好とする観点からは、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物とその他の単量体との共重合体であることが好ましい。
【0024】
環状オレフィン重合体として、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物とその他の単量体との共重合体を用いる場合において、共重合体の全構造単位中、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物に由来する単量体単位の割合は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物の難燃性、電気特性、密着性、加工性などを良好とする観点からは、通常10〜90モル%、好ましくは20〜80モル%、より好ましくは30〜70モル%である。
【0025】
環状オレフィン重合体として、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物とその他の単量体との共重合体を用いる場合において、その他の単量体として用いられる単量体は、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物と開環重合または付加重合により共重合させられるものであれば特に限定されない。但し、本発明で用いる環状オレフィン重合体は、後述する硬化剤と反応して結合を形成しうる官能基を有することが必要であるから、そのような官能基を有する単量体を用いることが好ましい。その官能基の具体例としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基などが挙げられ、特に、カルボキシル基またはカルボン酸無水物基が好適である。なお、官能基を有する単量体は、2種以上の官能基を有するものであっても良い。
【0026】
官能基を有する単量体として用いられ得る、官能基を有する環状オレフィン化合物の具体例としては、9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−メチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−カルボキシメチル−9−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、9−エキソ−10−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのカルボキシル基を有する環状オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン−9,10−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[10.2.1.13,10.15,8.02,11.04,9]ヘプタデカ−6−エン−13,14−ジカルボン酸無水物などのカルボン酸無水物基を有する環状オレフィン;9−メチル−9−メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどのカルボン酸エステル基を有する環状オレフィン;などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0027】
官能基を有する単量体として用いられ得る、環状オレフィン以外の、官能基を有する化合物としては、官能基を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられ、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0028】
環状オレフィン重合体として、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物と官能基を有する単量体との共重合体を用いる場合において、共重合体の全構造単位中、官能基を有する単量体単位の割合は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物の難燃性、電気特性、密着性、加工性などを良好とする観点からは、通常60モル%以下、好ましくは10〜50モル%、より好ましくは20〜40モル%である。
【0029】
本発明で用いる環状オレフィン重合体は、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物および官能基を有する単量体以外の単量体を共重合したものであっても良い。その具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、9−メチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−ビニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−プロペニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン、9−フェニル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、7,10−メタノ−6b,7,10,10a−テトラヒドロフルオランセンなどの環状オレフィン;スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族オレフィン;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のエチレンまたはα−オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0030】
本発明で用いる環状オレフィン重合体の分子量は、特に限定されないが、テトロヒドロフランを溶媒として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量が、500〜1,000,000の範囲であることが好ましく、1,000〜500,000の範囲であることがより好ましい。
【0031】
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、後述するように、通常、有機溶剤に溶解させてワニスの形態とした上で、支持フィルム等に塗布して用いられる。したがって、本発明で用いる環状オレフィン重合体は、後述するような有機溶剤に常温で溶解するものであることが好ましい。
【0032】
本発明で用いる環状オレフィン重合体を、開環重合法により得る場合の重合触媒としては、従来公知のメタセシス重合触媒を用いることができる。メタセシス重合触媒としては、Mo,W,Nb,Ta,Ruなどの原子を含有してなる遷移金属化合物が例示され、なかでも、Mo,WまたはRuを含有する化合物は重合活性が高くて好ましい。特に好ましいメタセシス重合触媒の具体的な例としては、(1)ハロゲン基、イミド基、アルコキシ基、アリロキシ基またはカルボニル基を配位子として有する、モリブデンあるいはタングステン化合物を主触媒とし、有機金属化合物を第二成分とする触媒や、(2)Ruを中心金属とする金属カルベン錯体触媒を挙げることができる。前記(1)の触媒で主触媒として用いられる化合物の例としては、MoCl、MoBrなどのハロゲン化モリブデン化合物やWCl、WOCl、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテルなどのハロゲン化タングステン化合物が挙げられる。また、前記(1)の触媒で、第二成分として用いられる有機金属化合物としては、周期表第1族、2族、12族、13族または14族の有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が特に好ましい。有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウムなどを挙げることができる。有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリドなどを挙げることができる。有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛などを挙げることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシドなどを挙げることができ、さらに、これらの有機アルミニウム化合物と水との反応によって得られるアルミノキサン化合物も用いることができる。有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズなどを挙げることができる。これらの有機金属化合物を添加する量は、用いる有機金属化合物によって異なるが、主触媒の中心金属に対して、0.1〜10,000倍が好ましく、0.2〜5,000倍がより好ましく、0.5〜2,000倍が特に好ましい。また、前記(2)のRuを中心金属とする金属カルベン錯体触媒としては、(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、トリシクロヘキシルホスフィン−〔1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジブロモイミダゾール−2−イリデン〕−〔ベンジリデン〕ルテニウムジクロリド、4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムなどをあげることができる。
【0033】
単量体に対するメタセシス重合触媒の割合は、(メタセシス重合触媒中の遷移金属:単量体)のモル比が、通常1:100〜1:2,000,000の範囲であり、好ましくは1:200〜1:1,000,000の範囲である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0034】
重合反応は、通常、有機溶媒中で行なう。用いられる有機溶媒は、重合体が所定の条件で溶解または分散し、重合に影響しないものであれば、特に限定されないが、工業的に汎用されるものが好ましい。有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒;アニソール、フェネトールなどの芳香族エーテル系溶媒などを挙げることができる。これらの中でも、工業的に汎用な芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0035】
溶媒の使用量は、溶液中の単量体の濃度が、1〜50重量%となる量であることが好ましく、2〜45重量%となる量であることがより好ましく、3〜40重量%となる量であることが特に好ましい。単量体の濃度が1重量%以下の場合は生産性が悪く、50重量%以上の場合は重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素添加反応が困難となる。
【0036】
重合反応は、単量体とメタセシス重合触媒とを混合することにより開始される。混合する方法は、単量体溶液にメタセシス重合触媒溶液を加えても良いし、その逆でも良い。メタセシス重合触媒が主触媒である遷移金属化合物と第二成分である有機金属化合物とからなる混合触媒である場合には、単量体溶液に混合触媒の反応液を加えても良いし、その逆でも良い。また、単量体と有機金属化合物の混合溶液に遷移金属化合物溶液を加えても良いし、その逆でも良い。さらに、単量体と遷移金属化合物の混合溶液に有機金属化合物を加えても良いし、その逆でも良い。
【0037】
重合温度は特に制限はないが、一般には、−30℃〜200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、通常1分間〜100時間であるが、特に制限はない。
【0038】
得られる環状オレフィン重合体の分子量を調整する方法としては、ビニル化合物またはジエン化合物を適当量添加する方法を挙げることができる。分子量調整に用いるビニル化合物は、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル類;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレートなど酸素含有ビニル化合物、アクリルアミドなどの窒素含有ビニル化合物などを挙げることができる。ジエン化合物は、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン、または1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエンを挙げることができる。添加するビニル化合物またはジエン化合物の量は求める分子量により、単量体に対して、0.1〜10モル%の間で任意に選択することができる。
【0039】
本発明で用いる環状オレフィン重合体を、付加重合法により得る場合の重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が好適に用いられる。これらの重合触媒は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合触媒の量は、重合触媒中の金属化合物:単量体のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000の範囲である。
【0040】
本発明で用いる環状オレフィン重合体は、一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物を単量体として用いて得られる重合体を得た後、官能基を有する化合物を変性反応により導入することによって、官能基を導入したものであっても良い。この変性反応の具体例としては、イオン反応性の官能基含有不飽和化合物をグラフト変性させる方法を挙げることができる。グラフト変性に用いられうるイオン反応性の官能基含有不飽和化合物の具体例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、p−スチリルカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、o−アリルフェノールのグリシジルエーテル、m−アリルフェノールのグリシジルエーテル、p−アリルフェノールのグリシジルエーテル等の不飽和エポキシ化合物;アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−3−エン−5,6−ジカルボン酸、2−メチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−3−エン−5,6−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸等の不飽和無水カルボン酸化合物;アリルアルコール、2−アリル−6−メトキシフェノール、4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、3−アリロキシ−1,2−プロパンジオール、2−アリロキシフェノール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール等の不飽和アルコール化合物;等が挙げられる。これらの中でも不飽和エポキシ化合物や不飽和無水カルボン酸化合物が好ましく、不飽和無水カルボン酸化合物が特に好ましい。
【0041】
本発明で用いる環状オレフィン重合体として、開環重合体の水素添加物を用いる場合の、開環重合体に対する水素添加は、通常、水素添加触媒を用いて行われる。水素添加触媒は特に限定されず、オレフィン化合物の水素添加に際して一般的に使用されているものを適宜採用すればよい。水素添加触媒の具体例としては、例えば、酢酸コバルトとトリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナートとトリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリドとn−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリドとsec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネートとジメチルマグネシウムのような遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなるチーグラー系触媒;ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、特開平7−2929、特開平7−149823、特開平11−209460、特開平11−158256、特開平11−193323、特開平11−209460などに記載される、例えばビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリドなどのルテニウム化合物からなる貴金属錯体触媒;などの均一系触媒が挙げられる。また、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウムなどの金属を、カーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させた不均一触媒、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナなどを用いることもできる。また、メタセシス重合触媒をそのまま、水素添加触媒として用いることも可能である。
【0042】
水素添加反応は、通常、有機溶媒中で実施する。有機溶媒は生成する水素添加物の溶解性により適宜選択することができ、前記重合溶媒と同様の有機溶媒を使用することができる。したがって、重合反応後、溶媒を入れ替えることなく、そのまま水素添加触媒を添加して反応させることもできる。さらに、前記重合溶媒の中でも、水素添加反応で反応しない点から、芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶剤、芳香族エーテル系溶媒が好ましく、エーテル系溶剤が特に好ましく、テトラヒドロフランが最も好ましい。
【0043】
水素添加反応条件は、使用する水素添加触媒の種類に応じて適宜選択すればよい。反応温度は、通常−20〜250℃、好ましくは−10〜220℃、より好ましくは0〜200℃である。−20℃未満では反応速度が遅くなり、逆に250℃を超えると副反応が起こりやすくなる。水素の圧力は、通常0.01〜10.0MPa、好ましくは0.05〜8.0MPaである。水素圧力が0.01MPa未満では水素添加速度が遅くなり、10.0MPaを超えると高耐圧反応装置が必要となる。
【0044】
水素添加反応の時間は、水素添加率をコントロールするために適宜選択される。反応時間は、通常0.1〜50時間の範囲であり、重合体中の主鎖の炭素−炭素二重結合のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上を水素添加することができる。
【0045】
反応に用いた触媒は除去しても良い。除去方法は特に制限されず、遠心分離、濾過などの方法が挙げられる。さらに、水やアルコールなどの触媒不活性化剤を添加したり、また活性白土、アルミナ、珪素土などの吸着剤を添加したりして、触媒の除去を促進させることができる。
【0046】
本発明の硬化性樹脂組成物は、以上のようにして得られる環状オレフィン重合体に硬化剤を配合してなるものである。本発明で用いられる硬化剤は、加熱により環状オレフィン重合体が有する官能基と反応する官能基を有し、環状オレフィン重合体に架橋構造を形成させるものであれば特に限定されず、一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される硬化剤を用いることができる。例えば、環状オレフィン重合体として、カルボキシル基やカルボン酸無水物基を有するものを用いる場合に好適に用いられる硬化剤としては、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、多価アミン化合物、多価ヒドラジド化合物、アジリジン化合物、塩基性金属酸化物、有機金属ハロゲン化物などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。また、これらの化合物と過酸化物とを併用して硬化剤として用いても良い。
【0047】
硬化剤として用いられ得る多価エポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物などのグリシジルエーテル型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物、リン含有エポキシ化合物などの多価エポキシ化合物;などの分子内に2以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0048】
硬化剤として用いられ得る多価イソシアナート化合物としては、炭素数6〜24の、ジイソシアナート類およびトリイソシアナート類が好ましい。ジイソシアナート類の例としては、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナートなどが挙げられる。トリイソシアナート類の例としては、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアナート、1,6,11−ウンデカントリイソシアナート、ビシクロヘプタントリイソシアナートなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0049】
硬化剤として用いられ得る多価アミン化合物としては、2個以上のアミノ基を有する炭素数4〜30の脂肪族多価アミン化合物、芳香族多価アミン化合物などが挙げられ、グアニジン化合物のように非共役の窒素−炭素二重結合を有するものは含まれない。脂肪族多価アミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミンなどが挙げられる。芳香族多価アミン化合物としては、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3,5−ベンゼントリアミンなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0050】
硬化剤として用いられ得る多価ヒドラジド化合物の例としては、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、トリメリット酸ジヒドラジド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジドなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0051】
硬化剤として用いられ得るアジリジン化合物としては、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス[1−(2−メチル)アジリジニル]ホスフィノキシド、ヘキサ[1−(2−メチル)アジリジニル]トリホスファトリアジンなどが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
【0052】
環状オレフィン重合体として、カルボキシル基やカルボン酸無水物基を有するものを用いる場合においては、前述の硬化剤の中でも、官能基との反応性が緩やかであり、硬化性樹脂組成物の扱いが容易となる観点から多価エポキシ化合物が好ましく用いられ、グリシジルエーテル型エポキシ化合物や脂環式の多価エポキシ化合物が特に好ましく用いられる。
【0053】
硬化性樹脂組成物における硬化剤の使用量は、環状オレフィン重合体100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、より好ましくは10〜50重量部の範囲である。このような範囲の使用量で硬化剤を用いることにより、硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の機械的強度および電気特性が特に良好となる。
【0054】
硬化性樹脂組成物の硬化を促進させるために、硬化性樹脂組成物には、硬化促進剤や硬化助剤を配合しても良い。硬化促進剤としては、一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される硬化促進剤を用いれば良いが、硬化剤として多価エポキシ化合物を用いる場合には、第3級アミン系化合物や三弗化ホウ素錯化合物などが硬化促進剤として好適に用いられる。なかでも、第3級アミン系化合物を使用すると、得られる多層回路基板用絶縁膜の積層容易性、絶縁抵抗性、耐熱性、耐薬品性が向上する。
【0055】
第3級アミン系化合物の具体例としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミン、ジメチルホルムアミドなどの鎖状3級アミン化合物;ピラゾール類、ピリジン類、ピラジン類、ピリミジン類、インダゾール類、キノリン類、イソキノリン類、イミダゾール類、トリアゾール類などの化合物が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール類、特に置換基を有する置換イミダゾール化合物が好ましい。
【0056】
置換イミダゾール化合物の具体例としては、例えば、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、ビス−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのアルキル置換イミダゾール化合物;2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール,1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−(2’−シアノエチル)イミダゾール、2−エチル−4−メチル−1−[2’−(3”,5”−ジアミノトリアジニル)エチル]イミダゾールなどのアリール基やアラルキル基などの環構造を含有する炭化水素基で置換されたイミダゾール化合物などが挙げられる。これらの中でも、環構造含有の置換基を有するイミダゾールが含フッ素環状オレフィン重合体や硬化剤との相溶性の観点から好ましく、特に、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールが好ましい。
【0057】
これらの硬化促進剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化促進剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択すれば良いが、環状オレフィン重合体100重量部に対して、通常0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部である。
【0058】
硬化助剤としては、一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される硬化助剤を用いれば良いが、その具体例としては、キノンジオキシム、ベンゾキノンジオキシム、p−ニトロソフェノールなどのオキシム・ニトロソ系硬化助剤;N,N−m−フェニレンビスマレイミドなどのマレイミド系硬化助剤;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル系硬化助剤;エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのメタクリレート系硬化助剤;ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼンなどのビニル系硬化助剤などが挙げられる。これらの硬化助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合割合は、用いる硬化剤100重量部に対して、通常1〜1000重量部、好ましくは10〜500重量部の範囲である。
【0059】
硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、ゴム質重合体やその他の熱可塑性樹脂を配合することができる。ゴム質重合体は、常温(25℃)以下のガラス転移温度を持つ重合体であって、通常のゴム状重合体および熱可塑性エラストマーが含まれる。硬化性樹脂組成物にゴム質重合体や熱可塑性樹脂を配合することにより、硬化性樹脂組成物の柔軟性を改良することができる。用いるゴム質重合体のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、適宜選択すれば良いが、通常5〜200である。ゴム状重合体の具体例としては、エチレン−α−オレフィン系ゴム状重合体;エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体ゴム;エチレン−メチルメタクリレート、エテレン−ブチルアクリレートなどのエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン−酢酸ビニルなどのエチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸アルキルエステルの重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンまたはスチレン−イソプレンのランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエン−イソプレン共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸アルキルエステル−アクリロニトリル−スチレン共重合体などのジエン系ゴム;エポキシ化ポリブタジエンなどの変性ジエン系ゴム;ブチレン−イソプレン共重合体などが挙げられる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体などの芳香族ビニル−共役ジエン系ブロック共重合体、低結晶性ポリブタジエン樹脂、エチレン−プロピレンエラストマー、スチレングラフトエチレン−プロピレンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、エチレン系アイオノマー樹脂などを挙げることができる。これらの熱可塑性エラストマーのうち、好ましくは、水素化スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレンブロック共重合体などであり、具体的には、特開平2−133406号公報、特開平2−305814号公報、特開平3−72512号公報、特開平3−74409号公報などに記載されているものを挙げることができる。
【0060】
硬化性樹脂組成物に配合しうるその他の熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、セルローストリアセテートなどが挙げられる。
【0061】
ゴム状重合体やその他の熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、環状オレフィン重合体100重量部に対して、30重量部以下の配合量とすることが好ましい。
【0062】
本発明で用いられる硬化性樹脂組成物には、難燃性をより向上させる目的で、例えば、塩素・臭素系難燃剤やリン酸エステル系難燃剤などの一般の電気絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合される難燃剤を配合しても良い。硬化性樹脂組成物に難燃剤を配合する場合の配合量は、環状オレフィン重合体100重量部に対して、30重量部以下であることが好ましく、15重量部以下であることがより好ましい。
【0063】
本発明で用いられる硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、無機充填剤、難燃助剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、紫外線吸収剤(レーザー加工性向上剤)、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤、靭性剤などの任意成分が配合される。任意成分の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択すれば良い。
【0064】
本発明の硬化性樹脂組成物の用途は、特に限定されるものではないが、回路基板の絶縁膜を形成するための材料として用いられることが好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物を用いて回路基板の絶縁膜を形成するにあたっては、硬化性樹脂組成物を有機溶剤と混合してワニスとして用いることが好ましい。ワニス調製用の有機溶剤は、後に加熱して揮発させる便宜から、沸点が好ましくは30〜250℃、より好ましくは50〜200℃のものである。かかる有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどを挙げることができる。
【0065】
ワニスの調製法に格別な制限はなく、例えば、硬化性樹脂組成物を構成する各成分と有機溶剤とを常法に従って混合すればよい。例えば、マグネチックスターラー、高速ホモジナイザー、ディスパージョン、遊星攪拌機、二軸攪拌機、ボールミル、三本ロールを使用した方法などで行うことができる。混合温度は、硬化剤による反応を起こさない範囲で、有機溶剤の沸点以下が好ましい。有機溶剤の使用量は、電気絶縁層の厚みや表面平坦度の要望に応じて適宜選択されるが、ワニスの固形分濃度が、通常5〜70重量%、好ましくは10〜65重量%、より好ましくは20〜60重量%になる範囲である。
【0066】
次に、調製したワニスを、通常、基材に含浸および/または積層した後、または支持体に積層した後、ワニスを構成する有機溶剤を乾燥により除去することにより、硬化性樹脂組成物の成形体を得る。通常、得られた成形体は、少なくとも表面に導体層を有する基板上(以下、「内層基板と」いうことがある。)に積層し、必要に応じて支持体を剥離し、次いで、当該成形体中の硬化性樹脂を硬化して、内層基板上に絶縁膜を形成し、回路基板を得る。この絶縁膜は、回路基板の電気絶縁層として機能し、この上に更に導体層を形成して回路基板を多層化することができる。このとき内層基板上に形成された絶縁膜は所謂層間絶縁層となる。
【0067】
基材の具体例としては、不織布、織布、樹脂フィルムなどが挙げられる。また、その材料である有機高分子としては、ポリアクリレート、アラミド、含フッ素アラミド、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ナイロンなどが挙げられ、特にアラミド、含フッ素アラミド、液晶ポリマーが難燃性と電気特性の観点から好ましい。また、基材は、上述したワニスを含浸または塗布することができる成形体であり、絶縁膜形成の観点から、膜厚は、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下であり、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上である。
【0068】
不織布としては、アラミド不織布、含フッ素アラミド織布、液晶ポリマー不織布、ポリエチレンテレフタレート不織布、ポリカーボネート不織布、ナイロン不織布などが挙げられる。これらの不織布うち、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布が好ましい。織布としてはアラミド織布、液晶ポリマー織布、ポリエチレンテレフタラート織布、ポリカーボネート織布、ナイロン織布などが挙げられる。これらの織布うち、アラミド織布、含フッ素アラミド織布、液晶ポリマー織布が好ましい。樹脂フィルムとしては、ポリアミドフィルム、アラミドフィルム、含フッ素アラミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリイミドフィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。これら樹脂フィルムのうち、耐熱性や耐薬品性、線膨張係数などの観点からポリアミドフィルム、アラミドフィルム、含フッ素アラミドフィルム、液晶ポリマーフィルムが好ましい。
【0069】
基材に硬化性樹脂組成物のワニスを含浸および/または塗布する方法として、浸漬、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコートなどの方法が挙げられる。
【0070】
有機溶剤除去のための乾燥の条件は、有機溶剤の種類により適宜選択される。加熱温度は、通常20〜300℃、好ましくは30〜200℃であり、加熱時間は、通常30秒〜1時間、好ましくは1分〜30分である。
【0071】
硬化性樹脂組成物からなる成形体を内層基板上に積層する方法に格別な制限はないが、例えば、当該成形体を、内層基板の導体層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)して、内層基板表面の導体層と樹脂成形体層との界面に空隙が実質的に存在しないように結合させる方法が挙げられる。加熱圧着は、配線パターンの埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために真空下で行うのが好ましい。加熱圧着操作の温度は、通常30〜250℃、好ましくは70〜200℃であり、加える圧力は、通常10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaであり、時間は、通常30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。また、雰囲気の気圧を、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paに減圧下で行う。
【0072】
本発明の硬化性樹脂組成物からなる成形体の硬化は、通常、その成形体の層を内層基板ごと加熱することにより行う。硬化条件は硬化剤の種類に応じて適宜選択されるが、温度は、通常30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃であり、時間は、通常0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンを用いて行えばよい。硬化によって生成した絶縁膜は、内層基板の導体層の上に積層されて電気絶縁層を構成することとなる。
【0073】
なお、内層基板の外面の導体層に硬化性樹脂組成物からなる成形体を貼り合わせる前に、密着性を向上させるために導体層に表面粗化のための前処理を施すことが好ましい。前処理の方法としては、公知の技術が特に限定されず使用できる。例えば、導体層が銅からなるものであれば、強アルカリ酸化性溶液を導体層表面に接触させて、導体表面に房状の酸化銅の層を形成して粗化する酸化処理方法、導体層表面を先の方法で酸化した後に水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリンなどで還元する方法、導体層にめっきを析出させて粗化する方法、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、導体層にチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法などが挙げられる。これらの内、微細な配線パターンの形状維持の容易性の観点から、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、およびチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法が好ましい。
【0074】
また、絶縁膜の平坦性を向上させる目的や、絶縁膜の厚みを増す目的で、内層基板の導体層上に、本発明の硬化性樹脂組成物からなる成形体を2以上接して貼り合わせて積層してもよい。
【0075】
以上のような積層体を用いて多層回路基板を製造するに際しては、通常、先ず積層体中の各導体層を連結するために、積層体を貫通するビアホールを設ける。このビアホールは、フォトリソグラフィ法のような化学的処理により、またはドリル、レーザ、プラズマエッチングなどの物理的処理などにより形成することができる。これらの方法の中でもレーザによる方法(炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、UV−YAGレーザなど)が、絶縁膜の特性を低下させずにより微細なビアホールが形成できるので好ましい。
【0076】
次に、導体層との接着性を高めるために、絶縁膜の表面を、過酸化物などの酸化性化合物と接触させて、酸化して粗化し、所望の表面平均粗さに調整する。絶縁膜の表面平均粗さRaは0.05μm以上0.2μm未満であることが好ましく、0.06μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。また、絶縁膜の表面十点平均粗さRzjisは0.3μm以上4μm未満であることが好ましく、0.5μm以上2μm以下であることがより好ましい。ここで、RaはJIS B 0601−2001に示される中心線平均粗さであり、表面十点平均粗さRzjisは、JIS B 0601−2001付属書1に示される十点平均粗さである。
【0077】
本発明の硬化性樹脂組成物から形成された絶縁膜の表面に導体層を形成する方法に格別な制限はないが、めっきにより導体層を形成することが好ましい。導体層を設けるためのめっきとしては、通常用いられる無電解めっきおよび/または電解めっきが挙げられ、無電解めっきによりめっき層を形成したのち、電解めっきによりそのめっき層を成長させる方法が好ましく用いられる。
【0078】
こうして得られる回路基板は、電気特性と難燃性に優れる硬化性樹脂組成物を用いてなるものであるので、優れた難燃性を示し、しかも、信号の劣化が小さく、信号の伝播速度や絶縁信頼性にも優れるものである。
【0079】
本発明の硬化性樹脂組成物を用いて得られる回路基板用絶縁膜の用途は特に限定されないが、例えば、コンピューターや携帯電話などの電子機器における、CPUやメモリなどの半導体素子、その他の実装部品用基板として好適に使用できる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0081】
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
(1)重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn):トルエンまたはテトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
(2)重合体の水素添加率:水素添加率は、水素添加前における重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率をいい、1H−NMRスペクトル測定により求めた。
(3)重合体のカルボン酸無水物基含有率:重合体中の総単量体単位数に対するカルボン酸無水物基のモル数の割合をいい、1H−NMRスペクトル測定により求めた。
(4)電気特性:支持体付きの硬化性樹脂組成物からなるフィルムを、フィルムと圧延銅箔とが接するように、厚さ75μmの圧延銅箔の片面に積層した。次に、その積層物の多層回路基板用フィルムから支持体を剥がし取った後、積層物を160℃で30分間加熱し、さらに170℃で60分間加熱してフィルムの硬化性樹脂組成物により形成された層を硬化させた。そして、この積層体を塩化第二銅/塩酸混合溶液に浸漬させることにより、積層体から圧延銅箔を完全に除去し、硬化性樹脂組成物により形成された層が硬化されたフィルムを得た。得られたフィルムから幅2.0mm、長さ50mmの試験片を切り出し、空洞共振器摂動法誘電率測定装置を用いて10GHzにおける比誘電率および誘電正接の測定を行った。比誘電率および誘電正接の値は小さいほど、電気特性に優れる。
【0082】
〔合成例1〕
含フッ素環状オレフィン化合物として2,3,3,4,4,5,5,6−オクタフルオロトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン(以下、「OFTCD」と略記する)70モル部、官能基を有する単量体としてビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物(以下、「NDCA」と略記する)30モル部、1−ヘキセン0.9モル部、テトラヒドロフラン1360モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.3モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で2時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧6MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。得られた反応液を10倍量のメタノールに再沈凝固、次いでろ過し、80℃、10時間で真空乾燥し、重合体水素添加物(1)を得た。重合体水素添加物(1)100部をシクロペンタノン400部に溶解して、重合体水素添加物(1)の溶液を得た。得られた重合体水素添加物(1)の重量平均分子量は、31,000、数平均分子量は21,000、分子量分布は1.5であった。また、水素添加率は99.9%であり、カルボン酸無水物基含有率は30モル%であった。重合体水素添加物(1)の溶液の固形分濃度は20%であった。
【0083】
〔合成例2〕
含フッ素環状オレフィン化合物として4,5,5,6,6,7,7,8−オクタフルオロペンタシクロ[10.2.1.13,9.02,6.04,8]ペンタデカ−12−エン(以下、「OFPCP」と略記する)70モル部、NDCA30モル部、1−ヘキセン0.9モル部、テトラヒドロフラン1560モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.3モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で2時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧6MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。得られた反応液を10倍量のメタノールに再沈凝固、次いでろ過し、80℃、10時間で真空乾燥し、重合体水素添加物(2)を得た。重合体水素添加物(2)100部をシクロペンタノン400部に溶解して、重合体水素添加物(2)の溶液を得た。得られた重合体水素添加物(2)の重量平均分子量は、52,000、数平均分子量は23,000、分子量分布は2.3であった。また、水素添加率は99.9%であり、カルボン酸無水物基含有率は30モル%であった。重合体水素添加物(2)の溶液の固形分濃度は20%であった。
【0084】
〔合成例3〕
OFTCD35モル部、9−エチリデン−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(以下、「ETCD」と略記する)35モル部、NDCA30モル部、1−ヘキセン0.9モル部、テトラヒドロフラン2330モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.15モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で2時間の重合反応を行って開環メタセシス重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧6MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。得られた反応液を10倍量のメタノールに再沈凝固、次いでろ過し、80℃、10時間で真空乾燥し、重合体水素添加物(3)を得た。重合体水素添加物(3)100部をシクロペンタノン400部に溶解して、重合体水素添加物(3)の溶液を得た。得られた重合体水素添加物(3)の重量平均分子量は、176,000、数平均分子量は32,000、分子量分布は5.5であった。また、水素添加率は99.9%であり、カルボン酸無水物基含有率は30モル%であった。重合体水素添加物(3)の溶液の固形分濃度は20%であった。
【0085】
〔比較合成例〕
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(メタノテトラヒドロフルオレン、以下、「MTF」と略記する。)70モル部、NDCA30モル部、1−ヘキセン0.9モル部、テトラヒドロフラン890モル部およびルテニウム系重合触媒として4−アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5−ジブロモ−1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧6MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。得られた反応液を10倍量のメタノールに再沈凝固、次いでろ過し、80℃、10時間で真空乾燥し、重合体水素添加物(4)を得た。重合体水素添加物(4)100部をシクロペンタノン400部に溶解して、重合体水素添加物(4)の溶液を得た。得られた重合体水素添加物(4)の重量平均分子量は、50,000、数平均分子量は26,000、分子量分布は1.9であった。また、水素添加率は97%であり、カルボン酸無水物基含有率は30モル%であった。重合体水素添加物(4)の溶液の固形分濃度は20%であった。
【0086】
〔実施例1〕
合成例1で得た重合体水素添加物(1)の溶液500部(重合体水素添加物の量として100部)、硬化剤として水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名YX8000、ジャパンエポキシレジン社製)26部、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール1部、老化防止剤として1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン1部、硬化促進剤として1−べンジル−2−フェニルイミダゾール0.5部、および柔軟性改良のための成分として液状ポリブタジエン(商品名Ricon152、サートマージャパン社製)10部を、固形分濃度が23%になるように、遊星攪拌機を用いてキシレンと混合させて硬化性樹脂組成物のワニスを得た。縦300mm×横300mmの大きさで厚さが100μm、表面平均粗さRaが0.08μmのポリエチレンナフタレートフィルム(支持体)上に、ダイコーターを用いて塗工し、次いで、窒素雰囲気下、80℃で10分間乾燥させて、厚みが30μmの支持体付きのフィルムを得た。得られた支持体付きのフィルムについて、電気特性を評価したところ、比誘電率は2.4で、誘電正接は0.019であった。
【0087】
〔実施例2〕
合成例1で得た重合体水素添加物(1)の溶液500部に代えて合成例2で得た重合体水素添加物(2)の溶液500部(重合体水素添加物(2)の量として100部)を用いたこと、および用いた水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテルの量を22部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のフィルムを得た。得られたフィルムについて、電気特性を評価したところ、比誘電率は2.3で、誘電正接は0.018であった。
【0088】
〔実施例3〕
合成例1で得た重合体水素添加物(1)の溶液500部に代えて合成例3で得た重合体水素添加物(3)の溶液500部(重合体水素添加物(3)の量として100部)を用いたこと、および用いた水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテルの量を28部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のフィルムを得た。得られたフィルムについて、電気特性を評価したところ、比誘電率は2.4で、誘電正接は0.015であった。
【0089】
〔比較例〕
合成例1で得た重合体水素添加物(1)の溶液500部に代えて比較合成例で得た重合体水素添加物(4)の溶液500部(重合体水素添加物(4)の量として100部)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のフィルムを得た。得られたフィルムについて、電気特性を評価したところ、比誘電率は2.8で、誘電正接は0.020であった。
【0090】
以上の実施例および比較例から分かるように、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化してなるフィルムは、優れた電気特性を示した(実施例1〜3)。一方、フッ素を含有しない環状オレフィン化合物を単量体として用いてなる開環重合体水素添加物を含有する硬化性樹脂組成物を用いた場合には、得られるフィルムは電気特性に劣るものであった(比較例)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン重合体および硬化剤を含有してなる硬化性樹脂組成物であって、環状オレフィン重合体が、下記の一般式(1)で表わされる含フッ素環状オレフィン化合物を少なくとも単量体の一部として用いて重合して得られるものであり、かつ、硬化剤と反応して結合を形成しうる官能基を有するものであることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Xは、それぞれ独立に、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。mは0〜2の整数である。nは1〜6の整数である。)
【請求項2】
環状オレフィン重合体が、環状オレフィン化合物の開環重合体またはその水素添加物であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
回路基板の絶縁膜用である請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる回路基板用絶縁膜。

【公開番号】特開2010−155934(P2010−155934A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335331(P2008−335331)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】