説明

硬化触媒含有中空シリコーン微粒子系被膜付基材

【課題】 本発明は、生産性が良い中空シリコーン系微粒子と加水分解可能な珪素化合物および硬化触媒を含有することにより、低温での硬化で、反射率が低く透明性と膜強度の高い被膜付基材を提供する。
【解決手段】 中空シリコーン系微粒子(A)、加水分解可能な珪素化合物(B)および、シラノール基の縮合を促進する硬化触媒(C)を含有し、室温または室温から基材が損なわれない温度(熱可塑性樹脂では変形温度、熱硬化性樹脂では分解温度以下)で反応硬化させて得られることを特徴とする、被膜が単独または他の被膜とともに基材表面上に形成された中空シリコーン系被膜付基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリコーン系微粒子、加水分解可能な珪素化合物およびシラノール基の縮合を促進する硬化触媒を含有する中空シリコーン粒子系被膜付基材に関する。
【背景技術】
【0002】
透明基材の最外層に基材より低屈折率の物質からなる低屈折率層(減反射層)を可視光波長の1/4の膜厚み(約100nm)で形成すると表面反射率が低減することが知られている。この原理を応用したフィルムやガラスの反射防止透明基材は電気製品、光学製品、建材等の分野で広く使用されている。
【0003】
減反射層の形成方法としては、フッ化マグネシウム等を蒸着またはスパッタリングするドライコーティング法と低屈折率材料の溶液を基材に塗布するウエットコーティング法が知られている。近年、適用できる基材の制約が少なく、連続生産性やコスト面でも優位なウエットコーティング法が注目されている。
【0004】
ウエットコーティング法の低屈折率材料としては、フッ素系樹脂や多孔質あるいは中空シリカと被膜形成用マトリックスとからなる材料が知られている(特許文献1)。特に、多孔質あるいは中空シリカは、フッ素樹脂よりも強度に優れるため、近年様々な製法が行われている。
【0005】
粒子径が0.1〜300μm程度の中空シリカとその製造法はすでに公知である(特許文献2および3参照)。特許文献1に開示された技術では、先ず珪酸塩等の無機物に有機溶剤を添加混合して水中油滴型(O/W型)乳化液を作り、これに親油性界面活性剤を含む有機溶剤を添加混合して油中水中油滴型(O/W/O型)乳濁液を作り、最後に無機酸や無機酸のアンモニウム塩等により無機化合物を水不溶性沈殿物に変え無機中空微粒子を得ている。その後も中空シリカ粒子の様々な製造法が開示されている(特許文献4乃至7参照)。特許文献4では、アルカリ金属等の珪酸塩等とアルカリ可溶な無機化合物をpH10以上のアルカリ水溶液でコロイド粒子にし、この粒子の珪素と酸素以外の元素の一部を除去した後、この粒子を加水分解性有機珪素化合物等で被覆する方法が開示されている。特許文献6では、水を可溶化したテトラアルコキシシランを界面活性剤で有機溶剤中にエマルジョン化すると、加水分解・縮合反応が起こり、含水率が高い場合にはミクロンサイズの中空シリカ粒子が合成できることが開示されている。また、特許文献7では、珪酸アルカリ金属から活性シリカをシリカ以外の材料のコア上に沈殿させ、コアを除去することにより中空シリカを得る製法が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの技術では、シリカ層中の多数の細孔や薄いシリカ層の厚みのために加工時に壊れ易いとか空洞内に核粒子のかなりの部分が残り空隙率が上がらないという課題、粒子径分布の広いミクロンサイズのものしか製造できないため用途が限定されるという課題、あるいは反応時間が長く工程が多いため生産性が悪いという課題など、多くの問題を残していた。
【0007】
シリカは、シリコーンやフッ素樹脂より屈折率が高いため、より低屈折率を得るためには、細孔容積を増やし空隙率を高めるしかない。しかし、細孔を大きくすればマトリクスが細孔内に浸漬して、逆に空隙率が下がるという問題があった。そこで、ナノサイズの細孔を有する多孔質シリカの表面を被覆してマトリクスの浸入を防ぐ、表面処理した多孔質シリカゾルが開示されている(特許文献8)。しかし、多孔質シリカゾルを得た後に被覆する必要があるため、工程が多くなり生産性が悪いという課題、内部は多孔質であるため空隙率が低いという問題があった。
【0008】
また一般的に、低温加熱では被膜の硬化重合反応が進みにくく、十分な耐磨耗性、耐擦傷性が得られない。そのため、200℃以上の高温で焼成することにより、バインダーと微粒子が2〜3次元重合し、膜強度、微粒子の固定能を上げる方法が開示されている(特許文献9)。しかし、200℃以上の高温で焼成すると、変形温度または分解温度が低い基材では、高温焼成により熱収縮等が起きる問題があった。
【特許文献1】特開昭63−85701号公報
【特許文献2】特開昭63−258642号公報
【特許文献3】特開平6−330606号公報
【特許文献4】特開平7−133105号公報
【特許文献5】特開2001−233611号公報
【特許文献6】特開平11−29318号公報
【特許文献7】特表2000−500113号公報
【特許文献8】特開2006−342023号公報
【特許文献9】特開2001−278637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生産性が良い中空シリコーン系微粒子と加水分解可能な珪素化合物および硬化触媒を含有することにより、低温での硬化で、反射率が低く透明性と膜強度の高い被膜付基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、中空シリコーン系微粒子(A)、加水分解可能な珪素化合物(B)および、シラノール基の縮合を促進する硬化触媒(C)を含有し、室温または室温から基材が損なわれない温度(熱可塑性樹脂では変形温度、熱硬化性樹脂では分解温度以下)で反応硬化させて得られることを特徴とする中空シリコーン粒子系被膜付基材が、低反射率で高い透明性と膜強度に優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、中空シリコーン系微粒子(A)、加水分解可能な珪素化合物(B)および、シラノール基の縮合を促進する硬化触媒(C)を含有し、室温または室温から基材が損なわれない温度(熱可塑性樹脂では変形温度、熱硬化性樹脂では分解温度以下)で反応硬化させて得られることを特徴とする、被膜が単独または他の被膜とともに基材表面上に形成された中空シリコーン系被膜付基材に関する。
【0012】
好ましい実施態様は、中空シリコーン系微粒子(A)と加水分解可能な珪素化合物(B)の固形分重量比率が、1/99〜90/10であることを特徴とする、前記の被膜付基材に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、中空シリコーン系微粒子の外周部が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(D)からなることを特徴とする、前記の被膜付基材に関する。
【0014】
好ましい実施態様は、前記中空シリコーン系微粒子が下記工程(a)〜工程(b)により製造されたものであることを特徴とする、前記の被膜付基材に関する。
【0015】
(a)有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を、シリコーン系化合物(D)により被覆して、コアシェル粒子(G)を製造する工程。
【0016】
(b)コアシェル粒子(G)中の有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を除去する工程。
【0017】
好ましい実施態様は、加水分解可能な珪素化合物(B)が、一般式
Si(OX’)4−n
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、アリール基、ビニル基またはフルオロアルキル基を示し、X’は水素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、アリール基またはビニル基を示し、nは0乃至3の整数である)で表され、n=0とn=1が主成分のアルコキシシラン(H)であることを特徴とする、前記の被膜付基材に関する。
【0018】
好ましい実施態様は、シラノール基の縮合を促進する硬化触媒(C)が、キレート化合物、脂肪酸塩、第1級〜第3級アミン、ポリアルキレンアミン、スルフォン酸塩、過塩素酸マグネシウムおよび過塩素酸アンモニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種である前記の被膜付基材に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の中空シリコーン系微粒子は、生産性が良く、壊れ難く、この中空シリコーン系微粒子、加水分解可能な珪素化合物および硬化触媒を用いることにより、低温での硬化で反射率が低く、透明性と膜強度に優れる被膜付基材を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、中空シリコーン系微粒子、加水分解可能な珪素化合物および硬化触媒により、被膜が基材表面上に形成された被膜付基材を提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
<中空シリコーン系微粒子(A)>
本発明に用いる中空シリコーン系微粒子(A)は、外周部がシリコーン系化合物(D)からなる中空構造の粒子である。このような中空シリコーン系微粒子(A)は、例えば、有機又は無機のコア粒子をシリコーン系化合物(D)で被覆した後、コア粒子を除去することによって得られる。簡便な方法で空隙率を高くできるという点からは、有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびRSiO2/2単位からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(D)で被覆した後、有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)を除去することにより得られる中空シリコーン系微粒子(A)であることが好ましい。
【0022】
本発明の有機高分子粒子(E)の組成については限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸ブチル、ポリブタジエン、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体等に代表される軟質重合体でもよく、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等の硬質重合体でも問題なく使用できる。後の凝固工程での除去性という点から、これらのうち軟質重合体が好ましく、ポリアクリル酸ブチルがより好ましい。
【0023】
本発明の有機高分子粒子(E)の製造法は、特に限定されず、乳化重合法、マイクロサスペンジョン重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法など公知の方法が使用できる。なかでも、粒子径の制御が容易であり、工業生産にも適する点から、乳化重合法により製造することが特に好ましい。通常、乳化重合法で製造された有機高分子粒子(E)は球状になるため、これをコアとして用いると、球状の空洞を一つ有する中空シリコーン粒子を製造することができる。有機高分子粒子(E)のラテックスに無機塩などを加えて一部凝集させたものをコアに用いると、連球状など不定形の空洞を有する中空シリコーン粒子や、複数の空洞を有する中空シリコーン粒子を製造することもできる。空隙率を高くしやすいという点からは、中心部に球状の空洞を一つ有する構造にすることが好ましい。
【0024】
前記有機高分子粒子(E)の重合にはラジカル重合開始剤が用いられうる。ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。上記重合を、例えば、硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどのレドックス系で行うと、低い重合温度でも効率的に重合を完了することができる。
【0025】
本発明の有機高分子粒子(E)は、後の段階で行なわれる有機高分子の除去を有機溶媒により行う場合を考慮すると非架橋高分子であることが好ましく、有機高分子粒子(E)の分子量は低い方が好ましい。具体的には、重量平均分子量が30000未満であることが好ましく、さらには10000未満であることがより好ましい。有機高分子粒子(E)の重量平均分子量を低くするためには、例えば、連鎖移動剤の使用、高い重合温度に設定、多量の開始剤を使用するなど種々の手段を適宜組み合わせて選択することができる。連鎖移動剤の具体例としてはt−ドデシルメルカプタンやn−ドデシルメルカプタンなどが挙げられる。有機溶剤に溶解しやすい有機高分子粒子(E)が得られるという点からは、連鎖移動剤の使用量は原料モノマー100重量部あたり0.1〜40重量部が好ましく、5〜35重量部がより好ましく、15〜30重量部が特に好ましい。有機高分子粒子(E)の重量平均分子量の下限値は特に制限されるものではないが、合成の難易度の点から、概ね2000程度である。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析(ポリスチレン換算)によって測定できる。
【0026】
本発明においては、有機高分子粒子(E)の粒子径分布を狭くするためにシード重合法を利用することもできる。中空シリコーン系微粒子が均一な屈折率を有するという点からは、有機高分子粒子(E)の粒子径分布は狭い方が好ましい。なお、ラテックス状態の有機高分子粒子(E)やコアシェル粒子(G)の体積平均粒子径は、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められうる。体積平均粒子径および粒子径分布は、例えば、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いることにより測定することができる。
【0027】
本発明における有機溶剤(F)は、水に溶けず、乳化剤により微粒子を形成できるものであればよく、具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明においては、有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子がコアシェル粒子(G)の製造におけるコアとして用いられうる。本発明では最終的に有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)を除去する。有機高分子粒子(E)および有機溶剤(F)を併用しても良く、有機高分子粒子(E)または有機溶剤(F)の単独使用でも良い。前記粒子において、有機高分子粒子(E)および有機溶剤(F)を併用する場合の使用割合については、重量比で有機高分子粒子(E)/有機溶剤(F)が100/0〜1/99の範囲が好ましい。
【0029】
本発明の中空シリコーン系微粒子において外周部となるシリコーン系化合物(D)は、SiO4/2単位、RSiO3/2単位およびRSiO2/2単位からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であることが好ましい。複数のRは各々同じであっても良く、異なっていても良い。
【0030】
前記SiO4/2単位の原料としては、例えば、四塩化ケイ素、テトラアルコキシシラン、水ガラスおよび金属ケイ酸塩からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、およびそれらの縮合物などが挙げられる。
【0031】
前記RSiO3/2単位の原料としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等などを挙げることができ、これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0032】
前記RSiO2/2単位の原料としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなど、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサンなどの環状化合物のほかに、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0033】
本発明のシリコーン系化合物(D)100モル%中のRSiO3/2単位の割合は、コアシェル粒子(G)の粒子径分布の安定性の観点から、50〜100モル%であることが好ましく、更には75〜100モル%であることがより好ましい。RSiO3/2単位の割合が50モル%未満になると、コアシェル粒子(G)の外に小粒子径の新粒子が生成することがある。
【0034】
本発明では、中空シリコーン系微粒子(A)に柔軟性を持たせたい場合にRSiO2/2単位を少量混入することができる。シリコーン系化合物(D)100モル%中のRSiO2/2単位の割合は20モル%以下であることが好ましく、さらには10モル%以下であることがより好ましい。RSiO2/2単位の割合が20モル%を越えると最終の中空シリコーン系微粒子(A)が柔軟になり過ぎて形状保持性に問題が起こる場合がある。なお、シリコーン系化合物(D)中のRSiO2/2単位の割合の下限値は0モル%である。
【0035】
本発明において、シリコーン系化合物(D)100モル%中のSiO4/2単位の割合は、中空シリコーン系微粒子(A)の形状保持性の観点から、0〜50モル%であることが好ましく、更には0〜10モル%であることがより好ましい。SiO4/2単位の割合が50モル%を越えると、バインダーとなる加水分解可能な珪素化合物との相溶性が低下して、被膜付基材内で微粒子が凝集したりする。その結果、得られる被膜付基材の透明性が大きく低下する場合がある。
【0036】
本発明では、有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)との合計量と、シリコーン系化合物(D)との重量比率は必ずしも制限されるものではないが、2/98〜95/5であることが好ましく、さらには10/90〜50/50がより好ましい。当該比率が2/98より小さいと最終の中空シリコーン系微粒子(A)の空隙率が低くなり過ぎる場合がある。また、逆に比率が95/5より大きいと中空シリコーン系微粒子(A)の強度が不足して加工中に壊れる場合がある。
【0037】
本発明のコアシェル粒子(G)の体積平均粒子径は0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子を合成することは可能であるが、安定的に合成することは難しい傾向がある。
【0038】
本発明のコアシェル粒子(G)の粒子径分布は特に制限されるものではないが、中空シリコーン系微粒子(A)が均一な屈折率を有するという点からは、コアシェル粒子(G)の粒子径分布は狭い方が好ましい。
【0039】
本発明では、例えば、有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)と、酸触媒を含む5〜120℃の水に対し、乳化剤、SiO4/2単位の原料、SiO3/2単位の原料、およびRSiO2/2単位の原料と水の混合物をラインミキサーやホモジナイザーで乳化した乳化液を一括あるいは連続的に追加することにより、シリコーン系化合物(D)で被覆されたコアシェル粒子(G)を得ることができる。乳化液の追加は一括でも連続でも構わない。時間的には長くなるが、ラテックス状粒子の安定性や粒子径分布を重視するなら連続追加を採用することが好ましい。乳化液の追加前に酸触媒を添加して、直ちに加水分解と縮合反応が進む条件で連続追加を行うと、コアシェル粒子(G)は時間とともに大きく成長し、通常のシード重合のように、狭い粒子径分布を示すものを得ることができる。30分乃至1時間の比較的短い時間の連続追加を行うと、比較的良い生産性と狭い粒子径分布を両立することもできる。
【0040】
本発明に使用できる乳化剤としては、アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤が好適に使用されうる。アニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどが挙げられるが、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。ノニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
本発明に用いることのできる酸触媒は、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類、および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの中では、オルガノシロキサンの乳化安定性に優れる観点から、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0042】
コアシェル粒子(G)を製造する際の反応のための加熱は、適度な重合速度が得られるという点で5〜120℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。
【0043】
本発明の中空シリコーン系微粒子(A)を水系で合成したコアシェル粒子(G)から得る場合、ラテックス中からコアシェル粒子(G)を抽出して脱水するために、金属塩や有機溶剤を加えてろ過する処理を加えても良い。得られる中空シリコーン系微粒子(A)の残存金属イオン成分量が少なく、分散性が良いという観点からは、本発明の中空シリコーン系微粒子(A)は、水系で乳化剤を用いて合成された体積平均粒子径が0.001〜1μmの粒子を有機溶剤によりラテックス中から抽出し脱水したものであることが好ましい。抽出に使用する有機溶剤としてはアセトンやメチルエチルケトン等の弱親水性溶剤が好ましく挙げられる。有機溶剤の種類や使用量を適切に選択すれば、抽出と同時にコアの除去を行うこともできる。
【0044】
本発明において、コアシェル粒子(G)中から有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を除去する方法としては、例えば、有機溶剤を用いる方法、燃焼による方法などがあげられる。コアシェル粒子(G)中の有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を除去するのに使用される有機溶剤としては、コアになる有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を溶解し、シェルになるシリコーン系化合物(D)を溶解しないものが好ましい。具体例としては、アセトン、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0045】
また、本発明では、コアを除去したのちさらにシリコーン系微粒子を有機溶剤で洗浄することもできる。洗浄に用いることのできる有機溶剤の具体例としては、メタノール、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0046】
有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を除去して得られる、本発明の中空シリコーン系微粒子(A)の体積平均粒子径は0.001〜1μmの範囲であることが好ましく、更には0.002〜0.5μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や1μmより大きな粒子は被膜付基材の透明性を低下させる傾向がある。
【0047】
<加水分解可能な珪素化合物(B)>
本発明の加水分解可能な珪素化合物(B)は、被膜付基材のバインダー成分となる。バインダー成分となる加水分解可能な珪素化合物(B)は、加水分解によりXSi(OH)4−nの反応生成物が得られれば限定されず、例えば、珪素のハロゲン化物、イソシアネート基、アシルオキシ基、アミノキシル基などを有する珪素化合物が例示される。
【0048】
本発明の加水分解可能な珪素化合物(B)は、取り扱い易さ等の観点から、XSi(OX’)4−n(式中、Xは水素原子、フッ素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、アリール基、ビニル基またはフルオロアルキル基を示し、X’は水素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、アリール基またはビニル基を示し、nは0乃至3の整数である。複数のXとX’は各々同じであっても良く、異なっていても良い。)で表され、n=0とn=1が主成分のアルコキシシラン(H)を用いることが好ましい。
【0049】
前記アルコキシシラン(H)は、触媒により加水分解されて、基材上に被膜を形成する際の強固なバインダーとなる。透光性絶縁基体の1つであるガラス基板に中空シリコーン系微粒子を付着させる場合、同じシリコンを主成分とするシリコン酸化物を接着層に使用すると、シリサイド結合の形成により付着力が強固であり、透明性も良く、屈折率も基板や微粒子に近いため好ましい。また、フッ素基含有のアルコキシランを用いることにより、撥水性、防汚性等を付与することができる。
【0050】
また、前記アルコキシシラン(H)は、n=0とn=1が主成分つまり、nは0乃至3の整数であるXSi(OX’)4−nで表されるアルコキシシラン100%中にn=0とn=1のXSi(OX’)4−nで表されるアルコキシシラン(H)が計50重量%以上含有されていることが好ましい。強い架橋構造を持つn=0とn=1のXSi(OX’)4−nで表されるアルコキシシラン(H)を50重量%以上含有していることにより、形成される被膜上で強固なバインダーとなりうる。逆に、n=0とn=1のXSi(OX’)4−nで表されるアルコキシシラン(H)が50重量%以下の場合は、得られる被膜付基材の膜強度が弱くなる傾向にある。
【0051】
Xとしては、水素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などが好ましい。X’としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが好ましい。
【0052】
本発明のXSi(OX’)4−nで表されるアルコキシシラン(H)としては、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
トリアルコキシシランとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリ−iso−プロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリ−iso−ブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリ−iso−プロポキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリ−iso−ブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、n−プロピルトリ−iso−ブトキシシラン、n−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、iso−プロピルトリ−iso−プロポキシシラン、iso−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、iso−プロピルトリ−iso−ブトキシシラン、iso−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、n−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、n−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、n−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルトリエトキシシラン、sec−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、sec−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、sec−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、sec−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、t−ブチルトリ−iso−プロポキシシラン、t−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、t−ブチルトリ−iso−ブトキシシラン、t−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリ−iso−プロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−iso−ブトキシシラン、フェニルトリ−tert−ブトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0055】
ジオルガノジアルコキシシランとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジ−iso−プロポキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジメチルジ−sec−ブトキシシラン、ジメチルジ−tert−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジ−iso−プロポキシシラン、ジエチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジ−sec−ブトキシシラン、ジエチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−n−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジメトキシシラン、ジ−iso−プロピルジエトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−n−プロポキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−n−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−iso−プロピルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−n−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−n−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジメトキシシシラン、ジ−sec−ブチルジエトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−sec−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジメトキシシラン、ジ−tert−ブチルジエトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−iso−プロポキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−n−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−sec−ブトキシシラン、ジ−tert−ブチルジ−tert−ブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジ−iso−プロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−sec−ブトキシシラン、ジフェニルジ−tert−ブトキシシラン、ビス(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン等が挙げられる。
【0056】
これらのアルコキシシランは、1種単独または2種以上を併用することができる。本発明では、特に基材表面に形成した被膜強度および取り扱いやすさの観点から、全アルコキシシラン100%中にテトラアルコキシシランとトリアルコキシシランを計50%以上用いることが好ましく、全アルコキシシラン100%中にテトラアルコキシシランを50%以上用いることがより好ましく、テトラアルコキシシランを100%用いることが特に好ましい。
【0057】
<硬化触媒(C)>
本発明により得られる被膜は、バインダー成分である加水分解可能な珪素化合物(B)の硬化時の反応によるものであり、部分的に加水分解したシラン化合物のシラノール基同士の縮合反応が主であり、縮合反応することで硬化し、被膜としても緻密性が上がり、外部からの応力に対して強度が上がる。この反応を低温で、効率的に促進させるのが硬化触媒(C)である。
【0058】
本発明の硬化触媒(C)としては、例えば、キレート化合物、脂肪酸塩、第1級〜第3級アミン、ポリアルキレンアミン、スルフォン酸塩、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アンモニウム等を挙げることができる。また、これらの化合物と有機メルカプタンやメルカプトアルキレンシランを併用することもできる。
【0059】
キレート化合物としては、中心金属が例えば、Al、Zr、Co、Zn、Mn、V、Cu、Ce、Cr、Ru、Ga、Cd、Feであり、配位化合物が例えば、アセチルアセトン、ジ−n−ブトキシド−モノ−エチルアセテート、ジ−n−ブトキシド−モノ−メチルアセテート、メチルエチルケトオキシム、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、アセトオキシム等を挙げることができる。
【0060】
また、脂肪酸塩としては、例えば、2−エチル−ヘキシル酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、酢酸、セバシン酸、ドデカン二酸、プロピオン酸、ブラシル酸、イソブチル酸、シトラコン酸、ジエチレンアミン四酢酸等の脂肪酸の金属塩を挙げることができる。
【0061】
これらのキレート化合物および脂肪酸塩のより具体的化合物としては、例えば、酢酸ナトリウムのようなカルボン酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、アルミニウムアセチルアセトンのようなアセチルアセトンの金属塩およびアンモニウム塩、エチルアセトアセテートの金属塩、およびアセチルアセトンとエチルアセトアセテートが配位した金属塩を挙げることができる。
【0062】
第1級〜第3級アミンとしては、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノシラン等が好ましい。その例としては、ポリメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビスヘキサメチレントリアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジメチルアミノプロピルアミン、アミノエチルエタノールアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、N−アミノメチルピペラジン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メタキシレンジアミン、テトラクロロパラキシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−メチレンジアニリン、ジアミノジフェニルスルフォン、ベンジジン、トルイジン、ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−チオジアニリン、4,4’−ビス(o−トルイジン)ジアニシジン、o−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、メチレンビス(o−クロロアニリン)、ビス(3,4−ジアミノフェニル)スルフォン、2,6−ジアミノピリジン、4−クロロ−o−フェニレンジアミン、4−メトキシ−6−メチル−m−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン、テトラメチルグアニジン、トリエタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシプロパン、N,N’−ジメチルピペラジン、N,N’−ビス[(2−ヒドロキシ)プロピル]ピペラジン、N−メチルモルホリン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン、ピラジン、キノリン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチロール)フェノール、N−メチルピペラジン、ピロリジン、モルホリン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランおよび、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。
【0063】
硬化触媒(C)の添加量は、硬化後に残る重量の0.001〜10重量%が好ましく、0.01〜10重量%がより好ましい。硬化触媒(C)の添加量が、0.001重量%より少ないと、シラノール基の縮合が十分に進行せず、被膜の硬度が低下する場合がある。逆に、添加量が10重量%より多いと、被膜の透明性が低下する場合がある。
【0064】
<被膜付基材>
本発明の被膜付基材を得るための塗布液は、中空シリコーン系微粒子(A)、加水分解可能な珪素化合物(B)、硬化触媒(C)、加水分解のための触媒、水および溶剤を混合して加水分解させる。加水分解は、例えば、室温で1〜24時間撹拌して反応させる、室温よりも高い温度、例えば40〜80℃で10〜60分間撹拌して反応させることができる。加水分解して得られた塗布液は、その後適当な溶媒で希釈しても構わない。
【0065】
前記加水分解のための触媒としては、酸触媒が最も有効であり、塩酸や硝酸などの鉱酸や酢酸などが挙げられる。酸触媒は、加水分解可能な珪素化合物の加水分解反応の速度に対して、縮重合反応速度が小さく、加水分解反応生成物であるM(OH)を多量に生成させて、この生成物がバインダーとして有効に作用するので好ましい。塩基性触媒では、加水分解反応の速度に対して、縮重合反応速度が大きいため、微粒子状の反応生成物となり、バインダーとしての作用が小さくなる。触媒の添加量は、バインダーとなる加水分解可能な珪素化合物に対して、モル比で0.001〜4であることが好ましい。添加量がモル比で0.001より少ないと、十分な加水分解が行われないため、バインダー成分となりうる反応生成物が十分に得られない。
【0066】
前記加水分解に必要な水の添加量は、加水分解可能な珪素化合物(B)に対して、モル比で0.1〜100であることが好ましい。水添加量がモル比で0.1より少ないと、珪素化合物の加水分解の促進が十分でなく、またモル比で100より多いと、液の安定性が低下する傾向にある。
【0067】
前記溶媒は、珪素化合物を溶解すれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピルセロソルブ等のセロソルブ類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類が好ましい。
【0068】
被膜中の中空シリコーン系微粒子(A)と加水分解可能な珪素化合物(B)の比率は、1/99〜90/10の範囲であることが好ましく、更には20/80〜85/15の範囲であることがより好ましい。この比率が1/99より小さくなり、中空シリコーン系微粒子(A)が少なくなると被膜の屈折率が下がらず、反射防止効果が小さくなる傾向を示す。この比率が90/10より大きくなり、中空シリコーン系微粒子(A)が多くなると被膜強度が低下する傾向がある。
【0069】
本発明の被膜付基材を形成するために、塗布液を塗布する方法としては、ディッピング法、スピンコート法、バーコート法、スプレー法、ダイコート法、ロールコート法、フローコート法等が挙げられるが、微粒子が緻密な反射防止膜を均一性よく形成するにはフレキソ板を使用するロールコート法(印刷法とも呼ぶ)が好適に用いられる。
【0070】
塗布後の加熱処理は、室温以上で樹脂基材が損なわれない温度、例えば、室温〜160℃、加熱時間は数秒から数時間が好ましく、60〜120℃で2〜60分がより好ましい。室温以下では、バインダーの硬化が十分に進行せず、160℃以上では基材が収縮するなど基材が損なわれる場合がある。
【0071】
本発明において、基材上に被膜を形成する前に基材の表面処理を行い、基材の表面改質をすることができる。基材の表面改質の方法としては、例えば、アルコール、アセトン、ヘキサンなどの有機溶剤による脱脂洗浄、アルカリや酸による洗浄、研磨剤により表面を研磨する方法、超音波洗浄、紫外線照射処理、紫外線オゾン処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0072】
本発明の被膜は、基材上に単独で形成しても良く、他の被膜とともに形成しても良い。他の被膜としては、例えば保護膜、ハードコート膜、平坦化膜、高屈折率膜、絶縁膜、導電性樹脂膜、導電性金属微粒子膜、導電性金属酸化物微粒子膜、プライマー膜等が挙げられる。
【0073】
本発明においては、基材としてガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート、アクリル等のプラスチックフィルムなどを使用できる。
【0074】
本発明の被膜付基材は、ディスプレイ(ノート型パソコン、モニター、PDP、PDA)の最表面、タッチパネルモニターの最表面、携帯電話画面、ピックアップレンズ、光学レンズ、眼鏡レンズ、光学フィルター、光学部品の端面、車両用透明部品(窓、ヘッドライトカバー)、車両用不透明部品(インスツルメントパネル表面)、太陽電池パネルの前面樹脂基板、ショーウインドウ、建築用窓などに使用できる。
【実施例】
【0075】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0076】
[体積平均粒子径]
有機高分子粒子、コアシェル粒子をラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社社製のMICROTRAC UPA150を用いて、光散乱法により体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0077】
[有機高分子の重量平均分子量]
有機高分子の重量平均分子量は、GPC測定データよりポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて換算して求めた。
【0078】
[反射率の測定]
塗布面と反対側の基材をサンドペーパーで荒らした後、黒色艶消しスプレーにて処理して、分光光度計(日本分光株式会社製 紫外可視分光光度計V−560型、積分球装置ISV−469型)により反射率を測定し、可視光域での極小値を読み取った。
【0079】
[Haze測定]
濁度計(日本電色工業株式会社製、濁度計NDH−300A)により、Hazeを測定した。
【0080】
[耐擦傷性]
往復磨耗試験機(HEIDON−TYPE30、新東科学株式会社製)を用いて、60往復/minの条件下で、スチールウール#0000により50g/cm2の荷重をかけながら10往復の摩擦をした後、傷の発生の程度を以下基準により評価した。
【0081】
良(○)・・・・傷が10本以下しか見られない。
【0082】
不良(×)・・・無数の傷が見られた。
【0083】
(製造例)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)8重量部(固形分)を混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)0.002重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、ラテックス状の有機高分子粒子を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.06μm、重量平均分子量は4000であった。
【0084】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)3重量部、上記有機高分子粒子のラテックス25重量部(固形分)を混合した。この時のpHは1.8であった。80℃に昇温し、窒素置換を行った。その後、別途純水100重量部、SDBS(固形分)0.5重量部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)75重量部の混合液を30分かけて一定速度で全量を追加した。追加終了後、5時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して20時間放置し、ラテックス状のコアシェル粒子を得た。このコアシェル粒子の体積平均粒子径は0.07μmであった。
【0085】
つづいて、室温で、ラテックス状のコアシェル粒子100重量部に対し、アセトンをまず50重量部を加えて5分間撹拌し、その後アセトン150重量部を加えて25分間撹拌して凝固粒子を得た。その後、この凝固液を50℃に加温して1時間撹拌を行って、3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。上澄液を除いた後、濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。それをメタノール70重量%、n−ヘキサン30重量%の混合溶剤300重量部に分散させ、50℃に加温した後1時間撹拌を行った。この分散液を3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。濾紙を用いて凝固粒子層を単離して、中空シリコーン系微粒子を得た。この中空シリコーン系微粒子をイソプロピルアルコール(IPA)に分散させ、粒子含有量が6.58重量%の中空シリコーン系微粒子のイソプロピルアルコール(IPA)分散液を得た。
【0086】
(実施例1)
製造例で得られた中空シリコーン系微粒子のIPA分散液57.8g(固形分3.8g)を撹拌しながら、水6g、エチルセロソルブ(和光純薬工業株式会社製)10g、濃塩酸(和光純薬工業株式会社製)0.5gおよび高純度正珪酸エチル(多摩化学工業株式会社製)4.4gを添加し、2時間撹拌させた後、24時間静置して反応させた。その後、エチルセロソルブ82gを添加し、更に硬化触媒として酢酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5gを添加して、被膜形成用塗布液を得た。得られた被膜形成用塗布液を、バーコーター法によりPETフィルムに塗布して、被膜の厚さが約0.1〜0.2μmの被膜付基材を得た。得られた被膜付基材を、オーブンにて90℃×30分間乾燥して、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0087】
(実施例2)
製造例で得られた中空シリコーン系微粒子のIPA分散液53.2g(固形分3.5g)を撹拌しながら、水3gおよびエチルシリケート40(多摩化学工業株式会社製)7.7gを添加し、1時間撹拌させた後、24時間静置して反応させた。その後、イソプロピルアルコール420gを添加し、更に硬化触媒としてアルミニウムアセチルアセトン(和光純薬工業株式会社製)0.56gを添加して、被膜形成用塗布液を得た。得られた被膜形成用塗布液を、バーコーター法によりPETフィルムに塗布して、被膜の厚さが約0.1〜0.2μmの被膜付基材を得た。得られた被膜付基材を、オーブンにて90℃×30分間乾燥して、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0088】
(比較例1)
実施例1記載の方法において、硬化触媒を添加しない以外は、実施例1と同様に被膜付基材を作成し、オーブンにて90℃×30分間乾燥して、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0089】
(比較例2)
実施例2記載の方法において、硬化触媒を添加しない以外は、実施例2と同様に被膜付基材を作成し、オーブンにて90℃×30分間乾燥して、各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0090】
(比較例3)
何も塗布していないPETフィルムの各特性を評価した。評価結果を、表1に示す。
【0091】
【表1】

実施例1〜2と比較例3の対比から明らかなように、中空シリコーン系微粒子を添加することにより、被膜付基材の反射率を低下させることが可能であった。実施例1〜2と比較例1〜2の対比から明らかなように、硬化触媒を添加することにより、被膜付基材の透明性を維持したまま被膜強度を高めることが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空シリコーン系微粒子(A)、加水分解可能な珪素化合物(B)および、シラノール基の縮合を促進する硬化触媒(C)を含有し、室温または室温から基材が損なわれない温度(熱可塑性樹脂では変形温度、熱硬化性樹脂では分解温度以下)で反応硬化させて得られることを特徴とする、被膜が単独または他の被膜とともに基材表面上に形成された中空シリコーン系被膜付基材。
【請求項2】
中空シリコーン系微粒子(A)と加水分解可能な珪素化合物(B)の固形分重量比率が、1/99〜90/10であることを特徴とする、請求項1記載の被膜付基材。
【請求項3】
中空シリコーン系微粒子の外周部が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基を持つ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物(D)からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の被膜付基材。
【請求項4】
前記中空シリコーン系微粒子が下記工程(a)〜工程(b)により製造されたものであることを特徴とする、請求項1乃至3に記載の被膜付基材。
(a)有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を、シリコーン系化合物(D)により被覆して、コアシェル粒子(G)を製造する工程。
(b)コアシェル粒子(G)中の有機高分子粒子(E)および/または有機溶剤(F)からなる粒子を除去する工程。
【請求項5】
加水分解可能な珪素化合物(B)が、一般式
Si(OX’)4−n
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、アリール基、ビニル基またはフルオロアルキル基を示し、X’は水素原子、炭素数1乃至8のアルキル基、アリール基またはビニル基を示し、nは0乃至3の整数である)で表され、n=0とn=1が主成分のアルコキシシラン(H)であることを特徴とする、請求項1乃至4に記載の被膜付基材。
【請求項6】
シラノール基の縮合を促進する硬化触媒(C)が、キレート化合物、脂肪酸塩、第1級〜第3級アミン、ポリアルキレンアミン、スルフォン酸塩、過塩素酸マグネシウムおよび過塩素酸アンモニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1乃至5に記載の被膜付基材。

【公開番号】特開2009−57450(P2009−57450A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225397(P2007−225397)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】