説明

硬質表面の洗浄方法

【課題】容器内での水性液体洗浄剤組成物の充填率が変動するような使用態様において、安定に当該組成物を使用できる技術を提供する。
【解決手段】(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)特定のヒドロキシカルボン酸又はその特定の塩、並びに、(D)ホスホン酸又はその特定の塩を含有する水性液体洗浄剤組成物を、容量が200mL以上の前記組成物の収容部を備えた容器に充填してなる容器入り水性液体洗浄剤を用いた硬質表面の洗浄方法であって、洗浄機会ごとに、洗浄液を得るために前記容器内の水性液体洗浄剤組成物を排出し、且つ最初の洗浄機会から最後の洗浄機会の間、前記容器中の前記組成物の量を充填率15%(体積比)以上且つ充填量200mL〜50Lに維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品加工機器、食品・飲料充填設備等の諸設備や壁、床等の環境などの硬質表面、特に部分的にアルミニウム材質を含む硬質表面を、所定の容器入り水性液体洗浄剤を用いて洗浄する洗浄方法に関する。また、そのような方法に用いられる容器入り水性液体洗浄剤やその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品加工機器等の諸設備など、硬質表面に付着した食品・飲料に由来する変質した重度の汚れを除去するため、アルカリ成分を含む洗浄剤が一般的に広く使用されている。更に微生物学的により高い衛生度を必要とされる諸設備等には、次亜塩素酸塩やカチオン界面活性剤等の殺菌剤を併用した洗浄剤が提案され、一般的に使用されている。一方、これらの諸設備等には、アルミニウムやアルミニウム合金の材質で製造されたパーツが多々使用されており、アルカリ成分の接触はこれら、アルミニウムやアルミニウム合金の腐食を引起すため、腐食防止剤として珪酸塩を併用した洗浄剤が古くから提案されている。しかし、珪酸塩を含む洗浄剤を使用すると、珪酸塩に由来する難溶性スケールが対象物に付着・蓄積して白化現象を引起し、外観が大きく損なわれるばかりでなく、対象物表面に汚れが付着しやすくなり菌の温床を形成して非常に不衛生な状態となる。
【0003】
このような背景に対して、種々の提案がなされている。特許文献1では、珪酸塩を含有せずにアルミニウムを含む材質の腐食を低減させる洗浄剤が提案されている。
【特許文献1】特開2004−123979号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水性液体洗浄剤組成物、特に業務用の水性液体洗浄剤組成物は、実際に洗浄に用いるにあたり、所定濃度の原液から希釈液を調製してこれを洗浄液として用いることが多い。そのように使用された場合、容器中の組成物量は徐々に減少していく、すなわち充填率が低減していくことになるが、それに伴い容器内に残存した組成物の安定性が損なわれることがあった。
【0005】
本発明の目的は、容器内での水性液体洗浄剤組成物の充填率が変動するような使用態様において、安定に当該組成物を使用できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物を含有する水性液体洗浄剤組成物を、容量が200mL以上の前記組成物の収容部を備えた容器に充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤を用いた硬質表面の洗浄方法であって、
洗浄機会ごとに、洗浄液を得るために前記容器内の水性液体洗浄剤組成物を排出し、
最初の洗浄機会から最後の洗浄機会の間、前記容器中の前記組成物の量を、充填率15%(体積比)以上且つ充填量200mL〜50Lに維持する、
硬質表面の洗浄方法に関する。
【0007】
また、本発明は、(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物を含有する水性液体洗浄剤組成物を、容量が200ml以上の前記組成物の収容部を備えた容器に充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤を用いた硬質表面の洗浄方法であって、
洗浄機会ごとに、洗浄液を得るために前記容器内の水性液体洗浄剤組成物を排出し、且つ
前記容器内の前記組成物の量が、充填率15%(体積比)未満及び充填量200mL未満の少なくとも一方となった時点から60日以内に、容器内の組成物を使い切る、
硬質表面の洗浄方法に関する。
【0008】
また、本発明は、(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物を含有する水性液体洗浄剤組成物を、容量が200mL以上の前記組成物の収容部を備えた容器に充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤の使用方法であって、
洗浄液を得るために、洗浄機会ごとに前記容器から前記組成物を排出し、
前記容器内の前記組成物の量が、充填率15%(体積比)未満及び充填量200mL未満の少なくとも一方となった時点から60日以内に、容器内の組成物を使い切るための最後の洗浄機会を設ける、
使用方法に関する。
【0009】
また、本発明は、(A)アルカリ剤〔以下、(A)成分という〕、(B)カルシウム化合物〔以下、(B)成分という〕、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩〔以下、(C)成分という〕、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物〔以下、(D)成分という〕を含有する水性液体洗浄剤組成物を、当該組成物の収容部の容量が200mL〜50Lで且つプラスチックにより構成されている容器に、充填率15%以上且つ充填量200mL〜50Lで充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定の水性液体洗浄剤組成物を用いて、使用の開始から終了までを通じて組成物の安定性を維持できる硬質表面の洗浄方法が提供される。本発明に係る水性液体洗浄剤組成物は、洗浄性、アルミニウムの腐食防止性、難溶性スケールの付着防止性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔水性液体洗浄剤組成物〕
<(A)成分>
(A)成分は、洗浄力に寄与する成分である。具体的な例として、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられ、中でもアルカリ金属水酸化物が好ましい。また、場合によっては、アルカリ金属水酸化物や炭酸アルカリ金属塩とアルカノールアミン類を併用してより相乗的に洗浄力を高めることも有効である。(A)成分の配合量は、組成物中、好ましくは0.01重量%以上で、より好ましくは0.1〜30重量%、更になお好ましくは0.5〜20重量%で、更により好ましいのが1〜10重量%であり、これらの範囲で調整することによって洗浄性のさらなる向上が図れる。
【0012】
<(B)成分>
(B)成分のカルシウム化合物は、(C)成分との相互作用により、金属腐食、特にアルミニウム材質の表面腐食を低減する役割を担っている。(B)成分は、本発明の水性液体洗浄剤組成物中、或いは使用に供する該組成物の希釈水溶液中に、カルシウムイオンを放出する化合物が好適である。具体的には、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等の水溶性カルシウム塩が好適である。中でも酢酸カルシウム、塩化カルシウムが好ましい。(B)成分の配合量は、組成物中、0.003〜10重量%、更に0.1〜5重量%が好ましい。また、本発明では、(B)に由来するカルシウム原子濃度が10ppm以上の洗浄媒体として用いられるように(B)成分を水性液体洗浄剤組成物中に配合することが、アルミニウム防食性の観点からより好ましい。
【0013】
<(C)成分>
(C)成分は、(B)成分との相互作用により、金属腐食、特にアルミニウム材質の表面腐食を低減する役割を担っている。(C)成分は、有機酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩であり、分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又は又はそのアルカリ金属塩(なかでもナトリウム塩、カリウム塩)、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩が好ましく、全炭素数が3〜10であるものが好ましい。なかでも酒石酸、クエン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩アルカリ金属塩が好ましい。より好ましいのは、酒石酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩である。(C)成分の好ましい配合量としては、組成物中、0.01重量%以上で、更に好ましくは0.1〜30重量%、更になお好ましくは0.5〜20重量%で、より更に好ましくは1〜10重量%であり、これらの範囲で調整することによって、よりアルミニウム防食性が高まる。
【0014】
<(D)成分>
(D)成分は、炭酸カルシウムに代表される炭酸スケール付着・蓄積を防止する役割を担っている。スケール成分粒子の分散性に優れることから、本発明では、ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物が、(D)成分として用いられる。
【0015】
具体的なホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩としては、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸《CH3C(OH)〔PO(OH)22》(略:HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)《N〔CH2PO(OH)23》(略:ATMP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)《N2(CH22〔CH2PO(OH)24》、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)《N3(CH22〔CH2PO(OH)25》、2−ホスホノ−1,2,4−ブタントリカルボン酸《PO(OH)2CH2CCH2CH2(COOH)3》(略:PBTC)等、及びこれらのナトリウム塩もしくはカリウム塩、アンモニウム塩、又はアルカノールアミン塩が挙げられ、中でもHEDP、ATMP、PBTC、及びこれらのナトリウム塩もしくはカリウム塩、アンモニウム塩、又はアルカノールアミン塩が好ましく、HEDP、PBTC、及びこれらのナトリウム塩またはカリウム塩がより好ましい。
【0016】
具体的な高分子カルボン酸としては、アクリル酸系ポリマー、マレイン酸系ポリマーが好ましく、なかでもポリアクリル酸、ポリマレイン酸及びアクリル酸−マレイン酸コポリマーから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。これらは一部又は全部がアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩となっていてもよく、塩としてはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。ポリアクリル酸の重量平均分子量は2,000〜20,000が好ましく、より好ましくは2,000〜15,000である。また、マレイン酸系ポリマーは、マレイン酸のホモポリマー、若しくは無水マレイン酸と共重合可能な他のモノマーとのコポリマー、これらの水溶性塩であり、下記の一般式(I)で表される構造を有するものが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
〔式中、R1、R2、R3、R4は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、アルコキシ基、又はカルボキシル基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属又は有機アミンであり、x/y(モル比)=1/10〜10/1で、平均分子量は2,000〜100,000である。〕
【0019】
上記一般式(I)において、x/y(モル比)は1/10〜10/1であり、好ましくは3/7〜7/3である。また、上記一般式(I)で表されるマレイン酸系ポリマーの重量平均分子量は2,000〜100,000であり、好ましくは2,000〜80,000で、更に5,000〜80,000が好ましい。上記一般式(I)で表される構造を有するポリマーのうち、マレイン酸系コポリマーとしては、アクリル酸−マレイン酸コポリマーが好ましい。(D)成分の好ましい配合量としては、組成物中、0.01〜10重量%で、更に好ましくは0.05〜5重量%、更になお好ましくは0.1〜3重量%で、より更に好ましくは0.2〜2重量%であり、これらの範囲で調整することによって、アルミニウム防食性とスケール防止性を両立することができる。
【0020】
<(E)成分>
本発明に係る水性液体洗浄剤組成物には、更に、殺菌性を向上させるために、(E)成分として、亜塩素酸塩を配合することが出来る。具体的には、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩等が挙げられるが、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸リチウムが好ましい。(E)成分の好ましい配合量としては、組成物中、0.01〜10重量%であり、より好ましくは0.03〜5重量%、更に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0021】
<(F)成分>
本発明に係る水性液体洗浄剤組成物には、更に、起泡性、油汚れの乳化洗浄性の付与及び保存安定性等をより高めるために、(F)成分として、界面活性剤、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤を配合することが出来る。起泡性の付与は、食品工場での様々な機器や設備等を洗浄する際には、洗浄液を撒布する手段として好適である。この場合、高発泡性を有する界面活性剤が好ましく、洗浄液が泡沫となって被洗物に付着し、一定時間保持されることにより、垂直面やネット状コンベア等での洗浄効果や殺菌効果がより向上するといったメリットが期待できる。界面活性剤の塩はナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン等のアミン塩が好ましい。
【0022】
具体的には、アニオン界面活性剤としては、高級脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、高級アルコールエーテルのスルホン酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。ノニオン界面活性剤としては、アルキルポリグリコシド、ポリアルキレンアルキルエーテルが好ましい。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイドが好ましい。中でも、アルキルポリグリコシド、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが好ましい。これらの界面活性剤は、炭素数6〜22のアルキル基を有するものが好ましく、より好ましくは炭素数8〜20、更に好ましくは炭素数10〜18のアルキル基を有するものである。
【0023】
(F)成分は、本発明に係る水性液体洗浄剤組成物中に、好ましくは0.05〜30重量%の範囲で配合され、より好ましくは0.5〜20重量%、更に好ましくは1〜15重量%である。
【0024】
また、高い起泡性付与と同時に、泡持続性と油汚れの乳化洗浄性等を向上させるために、これらを2種以上併用することは有効で、アルキルアミンオキサイドとアルキルポリグリコシドの組み合わせ、及び上記アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインとアルキルポリグリコシドの組み合わせが好適である。アルキルポリグリコシドを併用することにより、油汚れの洗浄性と泡持続性の向上が図れる。この場合、アルキルアミンオキサイド/アルキルポリグリコシドの重量比率は1/2を超えることが好ましく、また、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン/アルキルポリグリコシドの重量比率は1/2を超えることが好ましい。
【0025】
また、(B)成分との共存下において、より優れた安定性を付与する効果をもたらす成分として、マグネシウム化合物〔以下、(G)成分という〕を配合することができる。(G)成分としては、具体的には、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム等の水溶性マグネシウム塩が好適である。中でも酢酸マグネシウム、塩化マグネシウムが好ましい。(G)成分の配合量は、組成物中、0.001〜1.8重量%、更に0.005〜0.9重量%、より更に0.01〜0.2重量%が好ましい。
【0026】
(B)成分は酢酸塩及び塩化物から選ばれる一種以上の化合物であることが好ましい。また、(B)成分及び(G)成分が共存する場合は、その少なくとも一方が、酢酸塩及び塩化物から選ばれる一種以上の化合物であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る水性液体洗浄剤組成物では、保存安定性及びアルミニウム防食性の観点から、(G)/(B)のモル比は、0.02〜0.2が好ましく、より好ましくは0.03〜0.2、更に好ましくは0.03〜0.1である。
【0028】
<その他任意成分>
本発明に係る水性液体洗浄剤組成物は、上記(A)〜(D)成分、必要に応じて更に(E)〜(G)を配合してなるものであり、また、更に、任意成分として、溶剤、香料、着色剤、防腐剤、粘度調整剤等を含有してもよい。
【0029】
〔容器入り水性液体洗浄剤〕
本発明の容器入り水性液体洗浄剤は、上記のような本発明に係る水性液体洗浄剤組成物を、所定容器に充填してなるものである。
【0030】
容器としては、材質、収容容積、形状、肉厚等の様々なポイントが考慮されるが、本発明に於いては、本組成物の長期保存に於ける品質安定性面から、組成物の収容部、すなわち収容接液部の材質、収容容積が非常に重要に関わってくる。収容接液部の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂に代表されるプラスチック類、ステンレスやチタン等の金属類、ガラス類等が挙げられる。何れに制限されることはないが、プラスチック類の材質が好ましく、中でもポリエチレン、ポリプロピレンが好適である。収容部の容積としては、使用者が手で持ち運ぶ容器の場合は、200mL〜50Lが好ましく、さらに2L〜30Lが好適で、最適なのは3〜25Lである。また、大量使用する工場・施設へは、100Lを超える容器で供給されるケースもある。その場合は、ドラム缶(100〜200L程度)、コンテナ(300L〜2m3)等の形態が好まれる。さらに大型になると、バルク供給されタンク(3〜50m3)にて貯蔵されることもある。本発明の洗浄方法では、容器における組成物の収容部の容量が200mL〜50L、更に200mL〜30Lであるものが好適である。
【0031】
組成物によっては光の影響を敏感に受け品質低下を招く恐れのある場合もあり、その場合には、遮光性を付与する目的で、不透明容器や紫外線吸収剤を煉りこんだ容器が好ましい。色素や香料等を含んだ組成物では、十分に考慮する必要がある。また、(E)成分の亜塩素酸塩も同様に光に対する感受性が高いため、遮光性容器が好ましい。
【0032】
充填量としては、本組成物の長期保存に於ける品質安定性面から、200mL以上を容器に収容することが好ましい。それ未満の少量の本組成物を充填した場合では、長期の保存段階で組成物に顕濁や沈殿等の品質低下を招くことがある。より好ましくは200mLで、さらに好ましくは2L以上で、3L以上が最適である。したがって、先述したように容器の収容容積も200mL以上となる。また、最初に容器に充填する組成物の充填率については、容器の収容容積に対して15%(体積比)以上が好ましく、20%(体積比)、さらに50%(体積比)以上が、長期保存における品質安定性面から、より好ましい。なお、この充填率とは、容器の収容部において、組成物を収容するために設けられた空間の体積(S1)に対して、組成物の体積(S2)が占める割合である。従って、充填率は、(S2/S1)×100で求まる値(体積%)である。
【0033】
本発明の容器入り液体洗浄剤は、本発明に係る水性液体洗浄剤組成物を1〜100重量%に希釈して被洗物に適用することが好ましい。更に好ましい希釈濃度は2〜20重量%、更になお2〜10重量%が好ましい。具体的には、本発明に係る組成物は、使用時には、(A)成分を0.01〜10重量%、更に0.05〜2重量%、(B)成分を0.003〜5重量%、更に0.01〜1重量%、(C)成分を0.01〜10重量%、更に0.03〜2重量%、(D)成分を0.003〜3重量%、更に0.01〜1重量%含有する洗浄液として用いられることが好ましい。組成物が当初から各成分をこれらの濃度で含有するものは、希釈せずにそのまま使用することができる。
【0034】
本発明の洗浄剤組成物は、アルミニウムの防食性の観点から、(B−1)成分に由来するカルシウム原子濃度10ppm以上で洗浄、特に硬質表面の洗浄に使用されることが好ましく、必要に応じてこのような濃度となるように希釈して用いられる。
【0035】
〔洗浄方法〕
本発明は、上記のような本発明の水性液体洗浄剤組成物の適切な使用方法に関するものである。本発明の洗浄方法は、所定容器に上記本発明に係る水性液体洗浄剤組成物を収容し、洗浄機会ごとに、洗浄液を得るため、例えば組成物の希釈液を調製するために前記容器内の前記組成物を排出することを行う硬質表面の洗浄方法である。
【0036】
この洗浄方法では、洗浄機会のたびに容器から所定量の組成物(原液)が排出され、そのままあるいは希釈液の調製に供されるが、その分だけ容器内の組成物の量が減少する。本発明では、最初の洗浄機会から最後の洗浄機会の間、容器中の組成物の量を容器における組成物の収容部の容量の15%(体積比)以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは50〜95%の充填率に維持する。これにより、容器中の組成物が安定に保たれ、沈殿、懸濁等が発生しない。上記範囲に維持するには、容器中の組成物の量を監視し、組成物を適宜補給すればよい。容器中の組成物の量を監視するために、容器の所定部位〔例えば、充填率が15%(体積比)以上となる部位〕に目印をつけておくことができる。併せて、本発明では、かかる充填率を維持した上で、更に、容器中の組成物の量を、充填量200mL〜50Lに維持するが、その際の具体的な充填量は収容部の容量や充填率に連動して変化する。本発明の洗浄方法では、容器内の組成物の量が、前記容器における前記組成物の収容部の容量の15%(体積比)未満及び充填量200mL未満の少なくとも一方となった時点で、新たに前記組成物を容器内に補充することができる。また、前記容器内の前記組成物の量が、充填率15%(体積比)未満及び充填量200mL未満の少なくとも一方となった時点から60日以内、更には30日以内に、容器内の組成物を使い切ることが好ましい。すなわち、容器内の組成物の量が、充填率15%(体積比)未満及び充填量200mL未満の少なくとも一方になった時点から60日以内、更には30日以内に、容器内の組成物を使い切るための最後の洗浄機会を設けることが好ましい使用方法である。
【0037】
また、最初の洗浄機会(容器に収容された組成物が最初に洗浄に用いられる時点)から最後の洗浄機会(容器に収容された組成物が最後に洗浄に用いられる時点)までの間隔が1〜120日、更に1〜60日、より更に1〜30日であることが好ましい。
【0038】
希釈された組成物は、洗浄液として硬質表面の洗浄に用いられる。希釈濃度は前記の通りである。
【0039】
食品加工工場内の製造ライン等の処理面積が大きい場合は、硬質表面の洗浄には、泡洗浄機が好適に用いられる。フリーザーや飲料充填機等の大型設備では、備え付けの泡洗浄機による自動運転泡洗浄システムが採用されている。この自動運転泡洗浄システムでは、泡洗浄機で任意濃度の希釈液や発泡液を調整して被洗浄物へ配管によって供給され、既設のノズルから泡沫で撒布される仕組みとなっている。本発明の洗浄方法は、こうしたシステムに組み込むことができる。
【0040】
泡沫撒布した後、一定時間保持しすすぎ工程が行われるが、すすぎ水は必ずしも洗浄剤組成物の希釈液或いは発泡液と同じ経路を通るとは限らない。つまり、配管内や泡洗浄機内に、洗浄剤組成物の希釈液や発泡液が残っており、次の運転まで押し出されることはないという状況となる。従って、洗浄運転頻度を1日1回とすると、配管内や発泡機内に約1日間、撒布に供した洗浄剤組成物の希釈液が残っていることになる。この場合、少なくとも1日、好ましくは3日程度安定な洗浄剤組成物の希釈液が必要となる。安定性が不足して(B)由来の沈殿物等を生じると、配管や泡洗浄機の内壁に付着ししばしば問題となる。
【0041】
また、可動式の泡洗浄機(例えば「SCU−HF」スプレーイング社製、「KF−100」花王(株)製等)を用いた洗浄手法に於いても、自動運転泡洗浄システムと同様の問題が起こり得る。被洗浄物がまな板等の調理器具や備品等、処理面積が小さい場合は、トリガースプレーヤーやフォーマースプレーヤー等の泡を発生させることのできるハンドスプレーヤーが好適に用いられるが、この場合も同様の問題が起こり得る。ハンドスプレーヤーは、混合する気体の圧力が、泡洗浄機ほど高く確保できないので、(B)成分由来の沈殿物が生じるとノズル詰まりの原因にもなる。
【0042】
洗浄剤組成物では(B)成分に由来する沈殿物を、洗浄剤組成物1〜100重量%に希釈した溶液についても、1〜3日間の安定性が得られる。
【0043】
本発明の洗浄剤組成物に(F)成分を加え、泡沫状で被洗物に適用するため、上記の泡洗浄機を用いる場合、発泡倍率〔泡の体積(mL)/泡の重量(g)の比〕が3〜50倍、更に5〜40倍、特に7〜30倍であることが好ましい。トリガースプレーヤーやフォーマースプレーヤー等のハンドスプレーヤーを用いる場合、発泡倍率が2〜30倍、更に2〜20倍、特に3〜10倍であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
表1に示す水性液体洗浄剤組成物を調製し、以下の保存安定性試験及び性能評価を行った。結果を表2、3及び表4に示す。
【0045】
(保存安定性試験)
表1の組成物を高密度ポリエチレン製容器(NIKKO社製、標準規格瓶ナチュラル)に、公表容量の100%(体積比)及び20%(体積比)となるように充填、キャップで密閉して50℃に温度調節した電気乾燥器内に保存し、組成物の外観変化を観察した。その時の収容容積に対する組成物充填率は、それぞれ、91%(体積比)、18%(体積比)であった。すなわち、本試験では、各容器の公表容量よりも大きい空間を収容部(容積は表2、3の通り)として想定し充填率を算出した。外観の判定基準は以下にて評価した。
*外観判定基準
◎:8週間以上顕濁や沈殿等の異常が認められなかった
○:4週間から8週間までに顕濁や沈殿等の異常が認められた
△:4週間未満で極僅かな顕濁や微量の沈殿等の異常が認められた
×:4週間未満で明らかな顕濁や沈殿等の異常が認められた
【0046】
<性能評価>
上記保存安定性試験で使用した、実施例5、9、比較例2、4の組成物を8週間の保存後、それぞれに以下に示す、洗浄性試験、アルミニウム腐食試験、スケール付着試験を行い、性能評価を行なった。沈殿等が生じている組成物については、攪拌等の均一化操作をせずになるべく沈殿物を含まぬようサンプリングして試験に供した。同じ組成物について、保存試験前にも同様の性能評価を実施し比較評価した。
【0047】
(洗浄性試験)
表面を240番サンドペーパーで研磨し洗浄、乾燥した鉄板(15cm×30cm)の表面にナタネ油1.5gを均一に塗布し、180℃のオーブン中で1時間熱処理を行い、変性油汚れテストピースを作成した。この変性油汚れテストピース上に脱脂綿(1cm×2cm)を置き、脱脂綿に表4の洗浄剤組成物の10重量%水溶液1gを滴下し、25℃で15分間放置した。その後、脱脂綿を除去して流水にてすすぎを行い、鉄板表面の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
*判定基準
◎;油の層が完全に除去されている
△;油の層が一部除去されているか、膨潤が認められ変色している。
×;油の層にほとんど変化が認められない
【0048】
(アルミニウム腐食試験)
アルミニウムテストピース(JIS A1050 硫酸アルマイト処理、3cm×8cm×0.1cm、日本テストパネル(株))を約45度の角度をつけて設置する。これに、予め滅菌水で5重量%となるように希釈した表4に示す洗浄剤組成物の希釈溶液13mLを1秒間でノズルから撒布する〔操作(1)〕。10分放置〔操作(2)〕した後、水道水40mLを同様の別ノズルから3秒間で撒布してすすぎ工程〔操作(3)〕とする。すすぎ工程後、ドライヤーを用いて30秒間の冷風を当てて乾燥工程〔操作(4)〕とする。この操作(1)〜(4)を100回繰り返して、アルミニウムテストピースの状態変化を目視にて確認し、以下の基準にてアルミニウム防食性を判定した。
*判定基準
◎;変化が殆ど認められない
○;部分的に若干白い腐食が観察されるが実用上問題ない
△;全体的に薄白い腐食が観察されるが実用上注意すれば使用可能
×;全体に真白に変色した腐食が観察される
【0049】
(スケール付着試験)
ステンレステストピース(SUS304、3cm×8cm×0.1cm、日本テストパネル(株))を用いて、上記のアルミニウム腐食試験と同様の操作を行い、ステンレステストピース表面のスケール付着状態(スケール防止性)を以下の基準にて判定した。
*判定基準
◎;変化が認められない
△;虹色様の変化が認められる
×;部分的或いは全体的に白化が認められる
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物を含有する水性液体洗浄剤組成物を、容量が200mL以上の前記組成物の収容部を備えた容器に充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤を用いた硬質表面の洗浄方法であって、
洗浄機会ごとに、洗浄液を得るために前記容器内の水性液体洗浄剤組成物を排出し、
最初の洗浄機会から最後の洗浄機会の間、前記容器中の前記組成物の量を、充填率15%(体積比)以上且つ充填量200mL〜50Lに維持する、
硬質表面の洗浄方法。
【請求項2】
(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物を含有する水性液体洗浄剤組成物を、容量が200ml以上の前記組成物の収容部を備えた容器に充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤を用いた硬質表面の洗浄方法であって、
洗浄機会ごとに、洗浄液を得るために前記容器内の水性液体洗浄剤組成物を排出し、且つ
前記容器内の前記組成物の量が、充填率15%(体積比)未満及び充填量200mL未満の少なくとも一方となった時点から60日以内に、容器内の組成物を使い切る、
硬質表面の洗浄方法。
【請求項3】
前記容器の前記組成物の収容部が、プラスチックにより構成されている、請求項1又は2記載の洗浄方法。
【請求項4】
(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物を含有する水性液体洗浄剤組成物を、容量が200mL以上の前記組成物の収容部を備えた容器に充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤の使用方法であって、
洗浄液を得るために、洗浄機会ごとに前記容器から前記組成物を排出し、
前記容器内の前記組成物の量が、充填率15%(体積比)未満及び充填量200mL未満の少なくとも一方となった時点から60日以内に、容器内の組成物を使い切るための最後の洗浄機会を設ける、
使用方法。
【請求項5】
(A)アルカリ剤、(B)カルシウム化合物、(C)分子中に1〜4個のヒドロキシル基と2〜4個のカルボキシル基を有するヒドロキシカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、並びに、(D)ホスホン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩、及び高分子カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩もしくはアルカノールアミン塩から選ばれる一種以上の化合物を含有する水性液体洗浄剤組成物を、当該組成物の収容部の容量が200mL〜50Lで且つプラスチックにより構成されている容器に、充填率15%以上且つ充填量200mL〜50Lで充填してなる、容器入り水性液体洗浄剤。

【公開番号】特開2009−35599(P2009−35599A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199523(P2007−199523)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】