説明

磁場射出成形装置

【課題】磁気特性を向上させた湾曲型成形体を製造し得る成形装置を提供する。
【解決手段】
凸型湾曲面を有し、強磁性体から成る第1金型と、前記凸型湾曲面に対して間隔を空けて向き合う凹型湾曲面を有し、強磁性体から成る第2金型と、前記凸型湾曲面と前記凹型湾曲面の間に挟まれる突起部を有し、非磁性体から成る第3金型と、前記第1金型、前記第2金型および前記第3金型によって囲まれるキャビティに磁場を発生させる磁場発生手段と、前記キャビティに磁性材料を供給する磁性材料供給手段と、を有する磁場射出成形装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気異方性を有する成形体を射出成形する磁場射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乾式または湿式の成形装置を用いて、磁気異方性を有する成形体を製造する技術が知られている。成形装置による成形体の形状および当該成形体の配向の形状としては様々なものが存在するが、例えば、C型等に代表される湾曲形状を有する成形体であって、放射状の磁気異方性を有する成形体がある。このような成形体を製造する成形装置としては、たとえば特許文献1に示すように、湾曲した断面形状を有するキャビティを備えるものが知られている。
【0003】
しかし、従来技術に係る成形装置では、湾曲した断面形状を有するキャビティの端部付近において、磁力線を放射状に形成することが難しく、成形体の端部付近の配向が乱れるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−160752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、磁気特性を向上させた湾曲型成形体を製造し得る成形装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁場射出成形装置は、
凸型湾曲面を有し、強磁性体から成る第1金型と、
前記凸型湾曲面に対して間隔を空けて向き合う凹型湾曲面を有し、強磁性体から成る第2金型と、
前記凸型湾曲面と前記凹型湾曲面の間に挟まれる突起部を有し、非磁性体から成る第3金型と、
前記第1金型、前記第2金型および前記第3金型によって囲まれるキャビティに磁場を発生させる磁場発生手段と、を有する。
【0007】
本発明に係る磁場射出成形装置によれば、キャビティ端部に、乱れの少ない磁力線を発生させることができるため、配向の乱れが抑制されており磁気特性を向上させた成形体を製造することができる。また、前記突起部は、前記第3金型に形成された貫通穴を縁取りして取り囲んでいてもよい。これにより、キャビティ全域に乱れの少ない磁力線を発生させることができるため、より配向の乱れが少なく磁気特性を向上させた成形体を製造することができる。
【0008】
また、前記第1金型は、前記第3金型と一体に開閉できてもよい。第1金型と第3金型とを一体に開閉できる構造とすることによって、キャビティで成形された成形体を、容易に金型から取り出すことができる。
【0009】
また、本発明に係る磁場射出成形装置において、前記凹型湾曲面と前記凸型湾曲面とは、互いに略平行であってもよい。凹型湾曲面と凸型湾曲面とを互いに平行にすることによって、キャビティ全域に均一な密度で磁力線を分布させることができる。
【0010】
また、本発明に係る磁場射出成形装置は、前記凸型湾曲面および前記凹型湾曲面の少なくとも一部を覆うように形成されており、前記第1金型および第2金型より耐摩耗性の高い被膜部を有してもよい。当該被膜部によって、第1金型および第2金型の摩耗が抑制されるため、当該被膜部を有する磁場射出成形装置は、より高い耐久性を有する。
【0011】
また、本発明に係る磁場射出成形装置は、前記キャビティの側壁の一部であって前記第1金型側の側壁である内周側壁は、前記第1金型の前記凸型湾曲面の一部によって構成され、
前記キャビティの側壁の一部であって前記第2金型側の側壁である外周側壁は、前記第2金型の前記凹型湾曲面の一部によって構成され、
前記キャビティの側壁の一部であって前記内周側壁と前記外周側壁とを接続する接続側壁は、前記第3金型の前記突起部が有する第1突起表面によって構成されてもよい。
【0012】
キャビティの外周側壁および内周側壁が強磁性体から成る第1および第2金型によって構成されているため、当該磁場射出成形装置は、キャビティ内の磁束が強い。また、キャビティの接続側壁が、非磁性体から成る第3金型によって構成されるため、キャビティ全域に乱れの少ない磁力線を発生させることができる。
【0013】
また、例えば、前記突起部は、前記凸型湾曲面に接触する第2突起表面と、前記凹型湾曲面に接触する第3突起表面とを有し、前記第2突起表面は、前記凸型湾曲面の前記内周側壁と略同一の曲率を有しており、前記第3突起表面は、前記凹型湾曲面の前記外周側壁と略同一の曲率を有していてもよい。
【0014】
また、例えば、前記突起部は、前記凸型湾曲面に接触する第2突起表面と、前記凹型湾曲面に接触する第3突起表面とを有し、前記第2突起表面は、前記内周側壁の外周端部である内壁外周端部における前記凸型湾曲面の接線方向に沿って形成されており、前記第3突起表面は、前記外周側壁の外周端部である外壁外周端部における前記凹型湾曲面の接線方向に沿って形成されていてもよい。
【0015】
また、例えば、前記内周側壁の外周端部である内壁外周端部は、前記凸型湾曲面の外周端部である凸面外周端部から3.5mm以上離れており、前記外周側壁の外周端部である外壁外周端部は、前記凹型湾曲面の外周端部である凹面外周端部から3.5mm以上離れていてもよい。
【0016】
突起部の形状や、凸型湾曲面や、凹型湾曲面を、上述のような形状とすることによって、キャビティ端部までより乱れの少ない磁力性を発生させることができるため、当該磁場射出成形装置は、配向の乱れが少なく磁気特性を向上させた成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る磁場射出成型装置の概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示す磁場射出成型装置の金型部の斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す金型部および成形体の分解斜視図である。
【図4】図4は、図2に示す金型部のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図5は、図2に示す金型部のV-V線に沿う断面図である。
【図6】図6は、図2に示す金型部の磁場の向きを表した断面図である。
【図7】図7は、図2に示す金型部におけるキャビティ内部の磁場の向きを表した斜視図である。
【図8】図8は、本発明の参考例に係る磁場射出成形装置の金型部の断面図である。
【図9】図9は、図8に示す金型部の磁場の向きを表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1実施形態
図1は、本発明の一実施形態に係る磁場射出成形装置2の概略断面図である。磁場射出成形装置2は、ペレット10が投入されるホッパ4を有する押出機6と、押出機6から押し出されたペレット10の溶融物をキャビティ内で成形するための金型部14とを有する。図1に示す磁場射出成形装置2は、CIM(ceramic injection molding)成形を利用した成形装置である。
【0019】
ポッパ4から投入されるペレット10は、磁性粉末を、バインダ樹脂、ワックス類、滑剤、可塑剤、昇華性化合物などと共に混練し、ペレタイザなどを用いてペレットに成形されたものを用いることができる。ペレタイザとしては、特に限定されないが、たとえば2軸1軸押出機を用いることができる。
【0020】
ペレット10の原材料の一つである磁性粉末は、原料粉末を必要に応じて湿式、乾式粉砕することによって得ることができる。磁性粉末の原料粉末としては、特に限定されないが、フェライトを用いることが好ましく、マグネトプランバイト型のM相、W相等の六方晶系のフェライトを用いることがさらに好ましい。
【0021】
フェライトの原料粉末は、例えば、フェライト組成物の原料の酸化物、または焼成により酸化物となる化合物を仮焼前に混合し、その後仮焼を行うことによって得られる。仮焼は、大気中で、例えば1000〜1350°Cで、1秒間〜10時間、特にM型のSrフェライトの微細仮焼粉を得るときには、1000〜1200°Cで、1秒間〜3時間程度行えばよい。
【0022】
このような仮焼粉は、例えば実質的にマグネトプランバイト型のフェライト構造をもつ顆粒状粒子から構成される。仮焼粉の一次粒子の平均粒径は0.1〜1μm、特に0.1〜0.5μmであることが好ましい。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定すればよく、その変動係数CVは80%以下、一般に10〜70%であることが好ましい。また、飽和磁化σsは65〜80emu/g、特にM型Srフェライトでは65〜71.5emu/g、保磁力HcJは2000〜8000Oe、特にM型Srフェライトでは4000〜8000Oeであることが好ましい。
【0023】
磁性粉末は、このようにして製造された仮焼粉を、必要に応じて乾式・湿式粉砕により粉砕することによって得られる。
【0024】
乾式粗粉砕工程では、例えば、BET比表面積が2〜10倍程度となるまで仮焼粉を粉砕する。粉砕手段は特に限定されず、例えば乾式振動ミル、乾式アトライター(媒体撹拌型ミル)、乾式ボールミル等が使用できるが、特に乾式振動ミルを用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。
【0025】
乾式粗粉砕には、仮焼体粒子に結晶歪を導入して保磁力HcBを小さくする効果がある。保磁力の低下により粒子の凝集が抑制され、分散性が向上する。また、配向度も向上する。粒子に導入された結晶歪は、後の焼結工程において解放され、これによって本来の硬磁性に戻って永久磁石となる。
【0026】
乾式粗粉砕の後、必要に応じて、湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、仮焼体粒子と水とを含む粉砕用スラリーを調製して行う。粉砕用スラリー中の仮焼体粒子の含有量は、10〜70重量%程度であることが好ましい。湿式粉砕に用いる粉砕手段は特に限定されないが、通常、ボールミル、アトライター、振動ミル等を用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。
【0027】
湿式粉砕に際して、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、好ましくは、一般式C(OH)n+2 で表される多価アルコールが用いられる。多価アルコールは、炭素数nが4以上、好ましくは4〜100、より好ましくは4〜30、さらに好ましくは4〜20、最も好ましくは4〜12である。
【0028】
界面活性材を添加することによって、後に磁性粉末をペレット化する工程において、磁性粉末の粒子とバインダ樹脂との間に界面活性剤が介在する。このため、磁性粉末をペレット化する工程において、磁性粉末の粒子間にバインダ樹脂が確実に入り込むことができる。これにより、ペレット内部における磁性粉末の分散状態が良好に保たれる。さらに、このようなペレットを用いて射出成形をおこなうことによって、金型内で磁性粉末が磁場に対応して均一に分散して流動し、成形体の磁場配向が良好に行われる。したがって、最終的に得られる成形体の配向度が向上する。
【0029】
湿式粉砕をおこなった場合は、湿式粉砕後に磁性粉末を乾燥させることによって、磁性粉末を得ることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば80〜150°Cとすることができる。また、乾燥時間についても特に限定されないが、例えば60〜600分とすることができる。乾燥後における磁性粉末粒子の平均粒径は、例えば0.03〜0.7μmの範囲内とすることができる。
【0030】
この乾燥後の磁性粉末を、バインダ樹脂、ワックス類、滑剤、可塑剤、昇華性化合物などと共に混練し、ペレタイザなどで、ペレットに成形する。混練は、たとえばニーダーなどで行う。ペレタイザとしては、たとえば2軸1軸押出機が用いられる。
【0031】
ワックス類としては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックス以外に、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、ポリエチレングリコールなどの合成ワックスが用いられる。
【0032】
滑剤としては、たとえば脂肪酸エステルなどが用いられ、可塑剤としては、フタル酸エステルが用いられる。
【0033】
バインダ樹脂の添加量は、磁性粉体100重量部に対して、好ましくは5〜20重量部、ワックス類の添加量は、好ましくは5〜20重量部、滑剤の添加量は、好ましくは0.1〜5重量部とすることができる。可塑剤の添加量は、バインダ樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部とすることができる。
【0034】
本実施形態では、図1に示す磁場射出成形装置2を用いて、このようなペレット10を、金型部14に射出成形する。金型部14への射出前に、金型部14は閉じられ、内部にキャビティが形成される。また、コイル等によって構成される磁場発生手段12によって、金型部14の内部に形成されたキャビティに、磁場が印加される。なお、ペレット10は、押出機6の内部で、たとえば160〜230°Cに加熱溶融され、スクリューにより金型部14の内部に形成されるキャビティに射出される。金型部14の温度は、例えば20〜80°Cとすることができる。金型部14への印加磁場は、特に限定されないが、5〜15kOe程度とすればよい。
【0035】
このようにして得られた磁場射出成形工程後の成形体は、例えば大気中または窒素中において300〜600°Cの温度で熱処理して、脱バインダ処理される。またさらに、脱バインダ処理された成形体を、大気中で好ましくは1100〜1250℃の温度で0.2〜3時間程度焼結することによって、異方性フェライト磁石を得ることができる。
【0036】
なお、成形体から異方性フェライト磁石を得る方法はこれに限定されない。たとえば、脱バインダ後の成形体をクラッシャー等によって解砕し、ふるい等により平均粒径が100〜700μm程度となるように分級して磁場配向顆粒を得て、これを乾式磁場成形した後、焼結することにより焼結磁石を得てもよい。
【0037】
図2は、図1に示す磁場射出成形装置2に備えられる金型部14の斜視図である。金型部14は、強磁性体からなる第1金型20と、第1金型20と同じく強磁性体からなる第2金型30と、非磁性体からなる第3金型40とを有する。第1金型20および第2金型30を構成する強磁性体としては、特に限定されないが、例えばSKH51(JIS G 4403:2006)、SK3(JIS G 4401:2006)、SKD11(JIS G 4404:2006)等の鋼材を用いることができる。また、第3金型40を構成する非磁性体としては、特に限定されないが、例えばSUS304(JIS G 4305:2005)等の鋼材を用いることができる。
【0038】
第1金型20、第2金型30および第3金型40は、図3に示すように、互いに分離可能である。また、第1金型20、第2金型30および第3金型40は、図2に示すように互いに組み合わせられることによって、第1金型20、第2金型30および第3金型40によって囲まれるキャビティ50を形成する。第1金型20、第2金型30および第3金型40は、互いに組み合わされ、キャビティ50を形成した図2に示す状態において、略直方体形状を有している。
【0039】
第1金型20は、図3に示すように、凸型の湾曲面である凸型湾曲面22を有する。凸型湾曲面22は、第1金型20の面のうち、第2金型30側の面を構成している。第1金型20と第3金型40とは、第1金型20の凸型湾曲面22が、第3金型40に形成されている貫通穴43の一方の開口を塞ぐように、互いに組み合わせられる。また、第1金型20は、金型部14を開閉する際に、第3金型40と一体に開閉できる。第1金型20が第3金型40と一体に開閉できる構造であるため、本実施形態に係る磁場射出成形装置2では、キャビティ50で成形された成形体60を、金型部14から容易に取り出すことが可能である。
【0040】
第2金型30は、図3に示すように凹型の湾曲面である凹型湾曲面32を有する。凹型湾曲面32は、第2金型30の面のうち、第1金型20および第3金型40側の面を構成している。第2金型30と第3金型40とは、第2金型30の凹型湾曲面32が、第3金型40に形成されている貫通穴43の他方の開口を塞ぐように、互いに組み合わせられる。したがって、第2金型30の凹型湾曲面32は、第1〜第3金型20,30,40が組み合わされた図2に示す状態において、第1金型20の凸型湾曲面22に対して、間隔を空けて向き合う。
【0041】
第3金型40には、図3に示すように、貫通穴43が形成されている。第3金型40の貫通穴43は、第1〜第3金型が組み合わされた図2に示す状態において、一方の開口を第1金型20の凸型湾曲面22により塞がれ、他方の開口を第2金型30の凹型湾曲面32によって塞がれる。また、第3金型40は、図3に示すように、第1〜第3金型20,30,40が組み合わされた状態において、凸型湾曲面22と凹型湾曲面32に挟まれる突起部42を有する。第3金型40の突起部42は、図3〜図5に示すように、貫通穴43を縁取りして取り囲むように形成されている。
【0042】
図4は、図2に示す金型部14のIV−IV線に沿う断面図である。第1金型20の凸型湾曲面22と、第2金型30の凹型湾曲面32とは、第3金型40の突起部42および貫通穴43を挟んで、互いに間隔を空けて向き合うように配置されている。第3金型40の貫通穴43は、凸型湾曲面22と凹型湾曲面32によって開口を塞がれており、成形体60を射出成形するためのキャビティ50となっている。
【0043】
本実施形態において、第1金型20の凸型湾曲面22と、第2金型30の凹型湾曲面32とは、図4および図5に示すように、互いに略平行である。少なくとも、凸型湾曲面22および凹型湾曲面32におけるキャビティ50内部に露出する領域である内周側壁22aと外周側壁32aとは、互いに略平行である。従って、金型部14の内部に形成されるキャビティ50および当該キャビティ50から成形される成形体60は、図3に示すように、中空円筒の一部に相当する形状を有している。
【0044】
図5に示すように、第3金型40の突起部42は、キャビティ50を周方向B1(図4)に挟む両側だけでなく、キャビティ50を軸方向A1(図5)に平行な方向に挟む両側にも形成されている。なお、キャビティ50の軸Aとは、図3に示すように、キャビティ50を規定する中空円筒の中心軸を意味し、軸方向A1とは、軸Aと平行であってキャビティ50を通る方向を意味する。また、キャビティ50の周方向B1とは、軸Aを中心とする円と平行であってキャビティ50を通る方向を意味する。
【0045】
図4および図5に示すように、キャビティ50の側壁は、第1金型20側の側壁である内周側壁22aと、第2金型30側の側壁である外周側壁32aと、内周側壁22aと外周側壁32aとを接続する接続側壁42aとからなる。キャビティ50の内周側壁22aは、第1金型20の凸型湾曲面22の一部によって構成されている。また、キャビティ50の外周側壁32aは、第2金型30の凹型湾曲面32の一部によって構成されている。さらに、キャビティ50の接続側壁は、第3金型40の突起部42が有する第1突起表面42aによって構成されている。
【0046】
凸型湾曲面22および凹型湾曲面32の表面には、第1金型20および第2金型30を構成する強磁性体の鋼材より、耐摩耗性の高い被膜部が形成されていてもよい。被膜部は、少なくとも内周側壁22aおよび外周側壁32aを覆うように形成されていることが好ましく、これによって、射出成形によって金型が摩耗することを抑制することができる。また、射出成形によって金型が変形することによって、磁力線が乱れることを防止できる。被膜部としては、特に限定されないが、例えばステライト(登録商標)、Co−Cr系合金、窒化チタン等のTi系合金、Ni系合金等を用いることができる。被膜部の厚さは、特に限定されないが、例えばステライトの被膜であれば1mm〜10mm程度、PVD(物理気相成長)法によって形成した窒化チタン被膜の場合は、2〜5μm程度とすることができる。
【0047】
第3金型40の突起部42は、第1突起表面42aの他に、凸型湾曲面22に接触する第2突起表面42bと、凹型湾曲面32に接触する第3突起表面42cとを有する。したがって、第1金型20の凸型湾曲面22は、キャビティ50の内周側壁22aを構成する部分と、第3金型40の第2突起表面42bと接触する部分とを有する。これに対して、第2金型30の凹型湾曲面32は、キャビティ50の外周側壁32aを構成する部分と、第3金型40の第3突起表面42cと接触する部分とを有する。
【0048】
本実施形態では、突起部42の第2突起表面42bは、凸型湾曲面22の内周側壁22aと略同一の曲率を有しており、突起部42の第3突起表面42cは、凹型湾曲面32の外周側壁32aと略同一の曲率を有している。ただし、凸型湾曲面20、凹型湾曲面30、第2突起表面42bおよび第3突起表面42cの形状としてはこれに限定されない。たとえば、突起部42の第2突起表面42bは、内周側壁22aの内壁外周端部22bにおける凸型湾曲面22の接線方向に沿って形成されていてもよく、突起部42の第3突起表面42cは、外周側壁32aの外周端部32bにおける凹型湾曲面32の接線方向に沿って形成されていてもよい。
【0049】
本実施形態に係る磁場射出成形装置2の金型部14は、図4に示すように、突起部42を有する第3金型40を有する。突起部42は、凸型湾曲面22と凹型湾曲面32の間に突出しており、凸型湾曲面22と凹型湾曲面32に挟まれている。これにより、突起部42は、キャビティ50の周方向B1の両端部(図4では内壁外周端部22bおよび外壁外周端部32b)を規定している。したがって、キャビティ50の内壁外周端部22bが、凸型湾曲面22の外周端部である凸面外周端部22cから、突起部42が突出している長さに相当する距離をおいて配置される。また、キャビティ50の外壁外周端部32bについても、内壁外周端部22bと同様に、凹型湾曲面32の外周端部である凹面外周端部32cから、突起部42が突出している長さに相当する距離をおいて配置される。
【0050】
一般的に、磁場射出成形装置の金型部では、強磁性体から成る第1および第2金型20,30の角部(表面の曲率が急激に変化する部分)において、磁力線が乱れる傾向にある。したがって、図4等に示す金型部14においても、第1金型20の凸面外周端部22cや、第2金型30の凹面外周端部32cの周辺において、磁力線が乱れる傾向にある。しかしながら、本実施形態に係る磁場射出成形装置2においては、キャビティ50の外周端部(内壁外周端部22bおよび外壁外周端部32b)が、凸面外周端部22cや凹面外周端部32cから、突起部42が突出している長さに相当する距離をおいて配置されている。そのため、キャビティ50の内部は、第1および第2金型20,30の角部周辺に発生する磁力線の乱れの影響を受けにくい。したがって、本実施形態に係る磁場射出成形装置2によれば、キャビティ50内に乱れの少ない磁力線を発生させることができ、配向の乱れが少なく磁気特性を向上させた成形体60を製造することができる。
【0051】
キャビティ50の内壁外周端部22bおよび外壁外周端部32bを、凸面外周端部22cや凹面外周端部32cから、どの程度の長さ離すかは、成形体60のサイズや、成形体60に要求される配向度等に応じて適宜設定される。例えば、成形体60の大きさが10mm〜200mm程度の場合は、内壁外周端部22bおよび外壁外周端部32bを、凸面外周端部22cや凹面外周端部32cから2.0mm以上離すことが好ましく、3.5mm以上離すことが更に好ましい。これによって、キャビティ50全体を、強磁性体の角部周辺で発生する磁力線の乱れをほとんど被らない位置に、配置することができる。
【0052】
また、本実施形態では、第3金型40の突起部42が、キャビティ50を構成する貫通穴43を縁取りして取り囲むように形成されている。したがって、本実施形態に係る磁場射出成形装置2によれば、キャビティ50内の全域に乱れの少ない磁力線を発生させることができ、配向の乱れが少なく磁気特性をより向上させた成形体60を製造することができる。
【0053】
本実施形態に係る磁場射出成形装置2では、キャビティ50の内部に、図3に示すように、軸Aに対する放射方向である方向C1に沿って、放射状の磁力線を発生させる。この場合、図4等に示す第1金型20の凸型湾曲面22と、第2金型30の凹型湾曲面32とは、互いに略平行であることが好ましい。凸型湾曲面22と凹型湾曲面32とを略平行とすることによって、磁場射出成形装置2は、凸型および凹型湾曲面22,32に直交する方向(周方向B1に直交する方向)に沿って、キャビティ50内部に乱れが少なく均一な磁力線を発生させることができる。
【0054】
また、本実施形態では、キャビティ50の内周側壁22aが、第1金型20の凸型湾曲面22の一部によって構成されており、キャビティ50の外周側壁32aが、第2金型30の凹型湾曲面32の一部によって構成されている。すなわち、キャビティ50の側壁のうち、磁力線に略直交する方向に配置されており互いに向き合う内周側壁22aおよび外周側壁32aが、強磁性体から成る第1および第2金型20,30によって構成されている。これによって、本実施形態に係る磁場射出成形装置2は、キャビティ50内部の磁力線の乱れが少なく、かつ、キャビティ50の内部により強い磁場を発生させることができる。
【0055】
凸型湾曲面22と凹型湾曲面32に挟まれる突起部42の形状としては、特に限定されないが、凸型湾曲面22,凹型湾曲面32に接触する第2突起表面42b,第3突起表面42cが、内周側壁22a,外周側壁32aと略同一の曲率を有していてもよい。これにより、凸型湾曲面22および凹型湾曲面32は、急激に曲率が変化する部分を有しないため、キャビティ50内部に乱れの少ない磁力線を発生させることができる。また、第2突起表面42b,第3突起表面42cが、内壁外周端部22b,外壁外周端部32bにおける凸型湾曲面22,凹型湾曲面32の接線方向に沿って形成されていてもよい、この場合も、凸型湾曲面22および凹型湾曲面32は、急激に曲率が変化する部分を有しないため、キャビティ50内部に乱れの少ない磁力線を発生させることができる。
【0056】
実施例
図6および図7は、図1に示す磁場射出成形装置2において、キャビティ50に磁場を印加した場合に、キャビティ50の周辺に形成される磁場の向きを、電磁場解析ソフトウェアにより解析した結果を表したものである。図6は、金型部14の断面(実施形態の図4に示す断面に相当)における磁場の向きを測定したものであり、図中の二等辺三角形の頂角の向きが、磁場(磁力線)の向きを表している。
【0057】
図6に示すように、キャビティ50の内部全体に、乱れの少ない放射状の磁場が発生していることが確認された。なお、第1金型20の凸面外周端部22cや、第2金型30の凹面外周端部32cの周辺では磁場の乱れが見られるが、キャビティ50の内部は、第1および第2金型20,30の角部である凸面外周端部22cおよび凹面外周端部32cで発生する磁場の乱れの影響を受けていないことが確認された。
【0058】
図7は、キャビティ50の内部における磁場の向きを表した斜視図であり、図中の二等辺三角形の頂角の向きが、磁場の向きを表している。図7に示すように、キャビティ50の内部には、軸Aに対する放射方向である方向C1に沿って、放射状の磁力線が発生しており、キャビティ50の端部においても、磁力線の乱れが発生していないことが確認された。
【0059】
図8は、参考例に係る磁場射出成形装置に備えられる金型部114の断面図を示している。また、図9は、参考例に係る磁場射出成形装置のキャビティ150周辺に発生する磁場を、実施例(図6)と同様に電磁場解析ソフトウェアにより解析した結果を表したものである。図8に示すように、参考例に係る磁場射出成形装置に備えられる金型部114では、キャビティ150の形状は第1実施形態に係るキャビティ50と同様であるが、キャビティ150の側壁を構成する金型の形状が異なる。なお、参考例に係る磁場射出成形装置は、金型部114の構成が第1実施形態に係る金型部14と異なる他は、第1実施形態に係る磁場射出成形装置2と同様である。
【0060】
参考例に係る金型部114は、強磁性体からなる第1金型120と、第1金型120と同じく強磁性体からなる第2金型130と、非磁性体からなる第3金型140とを有する。第3金型140は、SUS304によって構成される第1部分140aと、ステライトによって構成される第2部分140bとを有する。
【0061】
非磁性体からなる第3金型140には、第1実施形態に係る第3金型40とは異なり、貫通穴が形成されていない。第3金型140は、第1金型120の凸型湾曲面122と第2金型130の凹型湾曲面132に挟まれる突起部を有しない。
【0062】
キャビティ150の周方向B1の両端部は、図8に示すように、第2金型130および第3金型140によって規定されている。すなわち、凹型湾曲面132の凹面外周端部132cは、キャビティ150の側壁に含まれる。また、略直角の端部である第2金型角部132dは、キャビティ150の周方向B1の端部を規定している。
【0063】
図9に示すように、参考例に係る金型部114では、円Eで囲んだキャビティ150の周方向B1の端部において、磁力線が乱れている。すなわち、キャビティの内部には、図6に示す実施例に係る金型部14のように、磁力線が略均一な放射状に形成されることが理想的である。しかし、参考例に係る金型部114では、キャビティ150の周方向B1の端部における磁力線の形成状態が、キャビティ150の他の部分とは異なる。
【0064】
キャビティ150の周方向B1の端部において見られる磁力線の乱れは、強磁性体から成る第2金型20の角部(表面の曲率が急激に変化する部分)である凹面外周端部132cや第2金型角部132dが、キャビティ150に近接しているためであると考えられる。したがって、キャビティ150によって成形される成形体は、周方向B1の端部付近における配向が乱れるために、磁気特性が劣ると考えられる。
【符号の説明】
【0065】
2… 磁場射出成形装置
14… 金型部
20… 第1金型
22… 凸型湾曲面
22a… 内周側壁
22b… 内壁外周端部
22c… 凸面外周端部
30… 第2金型
32… 凹型湾曲面
32a… 外周側壁
32b… 外壁外周端部
32c… 凹面外周端部
40… 第3金型
42… 突起部
42a… 第1突起表面
42b… 第2突起表面
42c… 第3突起表面
43… 貫通穴
50… キャビティ
60… 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸型湾曲面を有し、強磁性体から成る第1金型と、
前記凸型湾曲面に対して間隔を空けて向き合う凹型湾曲面を有し、強磁性体から成る第2金型と、
前記凸型湾曲面と前記凹型湾曲面の間に挟まれる突起部を有し、非磁性体から成る第3金型と、
前記第1金型、前記第2金型および前記第3金型によって囲まれるキャビティに磁場を発生させる磁場発生手段と、
前記キャビティに磁性材料を供給する磁性材料供給手段と、
を有する磁場射出成形装置。
【請求項2】
前記第1金型は、前記第3金型と一体に開閉できることを特徴とする請求項1に記載の磁場射出成形装置。
【請求項3】
前記凹型湾曲面と前記凸型湾曲面とは、互いに略平行であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁場射出成形装置。
【請求項4】
前記突起部は、前記第3金型に形成された貫通穴を縁取りして取り囲んでいることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の磁場射出成形装置。
【請求項5】
前記凸型湾曲面および前記凹型湾曲面の少なくとも一部を覆うように形成されており、前記第1金型および第2金型より耐摩耗性の高い被膜部を有する請求項1から請求項4までのいずれかに記載の磁場射出成形装置。
【請求項6】
前記キャビティの側壁の一部であって前記第1金型側の側壁である内周側壁は、前記第1金型の前記凸型湾曲面の一部によって構成され、
前記キャビティの側壁の一部であって前記第2金型側の側壁である外周側壁は、前記第2金型の前記凹型湾曲面の一部によって構成され、
前記キャビティの側壁の一部であって前記内周側壁と前記外周側壁とを接続する接続側壁は、前記第3金型の前記突起部が有する第1突起表面によって構成されることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の磁場射出成形装置。
【請求項7】
前記突起部は、前記凸型湾曲面に接触する第2突起表面と、前記凹型湾曲面に接触する第3突起表面とを有し、
前記第2突起表面は、前記凸型湾曲面の前記内周側壁と略同一の曲率を有しており、
前記第3突起表面は、前記凹型湾曲面の前記外周側壁と略同一の曲率を有していることを特徴とする請求項6に記載の磁場射出成形装置。
【請求項8】
前記突起部は、前記凸型湾曲面に接触する第2突起表面と、前記凹型湾曲面に接触する第3突起表面とを有し、
前記第2突起表面は、前記内周側壁の外周端部である内壁外周端部における前記凸型湾曲面の接線方向に沿って形成されており、
前記第3突起表面は、前記外周側壁の外周端部である外壁外周端部における前記凹型湾曲面の接線方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項6に記載の磁場射出成形装置。
【請求項9】
前記内周側壁の外周端部である内壁外周端部は、前記凸型湾曲面の外周端部である凸面外周端部から3.5mm以上離れており、
前記外周側壁の外周端部である外壁外周端部は、前記凹型湾曲面の外周端部である凹面外周端部から3.5mm以上離れていることを特徴とする請求項6から請求項8までのいずれかに記載の磁場射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−240956(P2010−240956A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91295(P2009−91295)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】