説明

磁性体と誘電体との複合焼結体およびLC複合電子部品

【課題】 本発明は、1000℃以下でも焼成可能であるとともに、100MHzにおける比透磁率および比誘電率を高くできる磁性体と誘電体との複合焼結体およびそれを用いたLC複合電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】 Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶を含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、前記複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、前記複合焼結体にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれている磁性体と誘電体との複合焼結体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の高周波ノイズ対策用EMIフィルタ等に用いられる、磁性体の性質と誘電体の性質とを合わせ持つ磁性体と誘電体との複合焼結体およびLC複合電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の高周波ノイズ対策用としては、EMI(Electro Magnetic Interference)フィルタが多く用いられている。近年では、携帯電話、無線LAN等の移動体通信機器の高周波化に伴い、EMIフィルタにも数百MHz〜数GHzの高周波数帯域でも使用可能なフィルタ特性が求められている。
【0003】
一般的に、このような電子機器のノイズ対策用として使用されているEMIフィルタは、コンデンサとインダクタとを個々に組み合わせて構成されているものが多い。しかし、近年では電子機器の小型化に伴い、磁性体により形成されるインダクタ層と、誘電体により形成されるコンデンサ層とを積層して両者を一体化した複合積層体の中に、銀電極などでコイルを形成したものが提案されてきている。しかし、このようなフィルタの場合、その積層構造の制約により、大きな面積が必要になり、電子機器の小型化への要求を十分に満足できなかった。
【0004】
この問題点を解決するために、磁性体と誘電体とが混合焼成された複合焼結体の内部に、銀あるいは銀−パラジウム電極などでコイルを形成したノイズフィルタが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
このような複合焼結体に用いられる磁性体材料としては、数MHz〜数百MHz帯領域で比透磁率が高いMn−Zn系、Ni−Zn系、Ni−Cu−Zn系等のスピネル型フェライトが多く用いられてきた。しかし、このスピネル型フェライトは、磁気異方性が低いために数百MHzの周波数で自然共鳴を起こしてしまい、透磁率の周波数限界(スネークの限界)を超えることができず、数百MHz〜数GHz帯領域では十分な透磁率が得られないため、高い周波数帯域でのフィルタ材料には適用することができなかった。
【0006】
そこで、最近では、スピネル型フェライトの周波数限界を超えた高い周波数領域まで比透磁率を維持する六方晶フェライトが、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として提案されている。
【0007】
この六方晶フェライトは、c軸に対して垂直な面内に磁化容易軸を持ち、フェロックスプレーナ型フェライトとも呼ばれる磁性体材料である。フェロックスプレーナ型の代表的なフェライトとしては、Co置換系Z型六方晶Baフェライト(3BaO・2CoO・12Fe)、Co置換系Y型六方晶Baフェライト(2BaO・2CoO・6Fe)、Co置換系W型六方晶Baフェライト(BaO・2CoO・8Fe)等が知られている。
【0008】
これらのフェロックスプレーナ型フェライトの中でも、Y型六方晶Baフェライト単相の合成温度(約1050℃)は、Z型六方晶Baフェライト単相(1300℃)およびW型六方晶Baフェライト単相(1200℃)それぞれの合成温度に比べて低く、また、Y型六方晶Baフェライトは、比透磁率の周波数限界が3GHz以上と高くなっているため、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として有望視されている。
【0009】
例えば、Y型またはM型六方晶フェライトを主相とする磁性体材料からなる高周波用磁性体材料が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。この高周波用磁性体材料は、数百MHz〜数GHz帯域で使用でき、1000℃以下の温度で焼成可能で、焼結体密度が90%以上のものである。1000℃以下の温度で焼成できる材料であれば、同時焼成する内部電極として、銀を用いることができ、パラジウムを含む電極に対して、低抵抗であることによる特性向上と低コスト化が見込める。
【0010】
一方、複合焼結体に用いられる誘電体材料としては、CaTiO、SrTiOやガラス等の常誘電体、BaTiO等の強誘電体が挙げられ、例えば、誘電体材料として比誘電率が高いBaTiOを用い、高い比透磁率および比誘電率を両立した材料が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0011】
この特許文献3には、磁性体材料としてNi―Zn系フェライトまたはNi−Zn―Cu系フェライトから選択された1種を用い、誘電体材料として少なくともBaTiO、TiO、または、リラクサー系材料から選択される1種を用い、ガラス材料としてSiOとAlとROまたはRO(ただし、RはCa、Ba、Pb、Zn、Tiの群から選択された少なくとも1種)の3種の組成比が合計で100重量%とされることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−249294号公報
【特許文献2】特開2003−146739号公報
【特許文献3】特開2003−226573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3に記載された複合焼結体では、磁性体材料としてNi―Zn系フェライトまたはNi−Zn―Cu系フェライト、すなわち、スピネル型フェライトを用いているため、数百MHz以上の高周波での比透磁率が低くなるという課題があった。
【0014】
これに対して、Ni―Zn系フェライトまたはNi−Zn―Cu系フェライトの替わりに、磁性体材料として六方晶Baフェライトを用いることが考えられる。その場合、焼成時に六方晶Baフェライトとガラスとが反応し、100MHzにおける比透磁率が低くなってしまうという課題があった。
【0015】
したがって、本発明は、1000℃以下でも焼成可能な磁性体材料と誘電体材料との複合焼結体であって、100MHzにおける比透磁率および100MHzにおける比誘電率を高くできる磁性体と誘電体との複合焼結体およびそれを用いたLC複合電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体は、Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶を含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、前記複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、前記複合焼結体にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれていることを特徴とする。
【0017】
また、前記複合焼結体に含まれるAlがAl換算で0.05質量%以下であることが好ましい。
【0018】
さらに、前記複合焼結体は、100MHzにおける比透磁率が4.7以上であるとともに、100MHzにおける比誘電率が40以上であることが好ましい。
【0019】
またさらに、前記複合焼結体の結晶中のBi−Fe−O結晶の割合が8.6質量%以下であることが好ましい。
【0020】
さらにまた、吸水率が0.2%以下であるとともに、断面におけるBi−Fe−O結晶の平均粒子径が0.6μm以上であることが好ましい。
【0021】
本発明のLC複合電子部品は、上述の磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶を含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、前記複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、前記複合焼結体にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれていることにより、1000℃以下の低温で焼成が可能であるとともに、100MHzにおける比透磁率および100MHzにおける比誘電率を高くできる。
【0023】
また、前記複合焼結体に含まれるAlがAl換算で0.05質量%以下である場合、100MHzにおける比透磁率をより高くできる。
【0024】
さらに、前記複合焼結体は、100MHzにおける比透磁率が4.7以上であるとともに、100MHzにおける比誘電率が40以上である場合、例えば、LC複合電子部品の絶縁材料に用いることにより、LC複合電子部品を小型化することができる。
【0025】
またさらに、前記複合焼結体は、前記複合焼結体の結晶中のBi−Fe−O結晶の割合が8.6質量%以下である場合、100MHzにおける誘電損失を小さくできる。
【0026】
さらにまた、吸水率が0.2%以下であるとともに、断面におけるBi−Fe−O結晶の平均粒子径が0.6μm以上であることにより、体積固有抵抗を高くすることができる。
【0027】
また、上述の磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されているLC複合電子部品によれば、数百MHz〜数GHzの高周波帯域でも使用可能なLCフィルタ特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のLC複合電子部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の誘電体と磁性体との複合焼結体(以下、単に複合焼結体と呼ぶことがある)は、Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶を含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3〜26.2質量%であり、複合焼結体にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれているものである。
【0030】
なお、結晶の割合は、X線回折の結果をリートベルト解析したものである。リートベルト解析については後述する。
【0031】
このような複合焼結体では、BiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれていることにより、1000℃以下の焼成温度でも焼成可能となり、複合焼結体の吸水率を0.1%以下と低くできる。また、焼成による磁性体材料および誘電体材料の分解や副生成物の生成が少なくでき、複合焼結体の100MHzにおける比透磁率および100MHzにおける比誘電率を高くできる。すなわち、BiがBi換算で5.7質量%未満では、複合焼結体の吸水率が大きくなってしまい、LC複合電子部品の絶縁材料などに用いる際に、絶縁信頼性が低くなるおそれがある。BiがBi換算で12.0質量%より多いと、複合焼結体の100MHzにおける比透磁率または100MHzにおける比誘電率が低くなってしまう。より好ましい含有量は、Bi換算のBi量で9.4〜10.7質量%である。
【0032】
本発明の複合焼結体は、例えば、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末およびBi粉末を混合し、焼成したものであり、上述のようにBiが含まれていることにより、焼成の過程でBiが融解し、Y型六方晶Baフェライト粉末およびSrTiO粉末の焼結を促進するので、1000℃以下の低温でも焼成可能になる。そして、その過程でM型六方晶Baフェライト、BaTiO結晶およびBa−Fe−O結晶が生成される。
【0033】
ここでいうBi−Fe−O結晶とは、X線回折で2θ=31.5°および31.6°にメインピークのあるBi−Fe−O結晶1と28.0°にメインピークのあるBi−Fe−O結晶2とを合わせたもののことである。Bi−Fe−O結晶1はBiFeOである。Bi−Fe−O結晶2は他のBi、Fe、Oを含む結晶であると考えられる。BiFeOは比誘電率約80で、比透磁率は約1.3(100MHz)、約2.0(1GHz)の結晶であり、Bi−Fe−O結晶2も比誘電率が高いものと推定される。これらの結晶は、焼成過程で、BiによりY型六方晶Baフェライトが分解されて生成されるものである。また、これらの結晶は、透過型電子顕微鏡を用いて100倍〜1000倍で観察すると、Y型六方晶Baフェライト、M型六方晶BaフェライトおよびSrTiO結晶の結晶粒子の間の粒界に、BiおよびFeを含む結晶として観察され、X線回折に上述のメインピークを含むそれぞれの結晶のピークがあることで存在が確認できる。
【0034】
複合焼結体の断面におけるBi−Fe−O結晶の平均粒子径は、0.6μm以上であることが好ましい。Bi−Fe−O結晶は、焼成過程でBiが融解し、Y型六方晶Baフェライト粉末と反応し生成されるものである。なお、Biは、1000℃以下の低温においても焼成を可能にするために必須なものであり、混合されるBi粉末は、平均粒子径が0.3〜0.7μm程度と小さいものを使用し、混合する際に良く分散させることが好ましい。
【0035】
一方、生成されるBi−Fe−O結晶の平均粒子径は、混合されるBi粉末の分散状態と、焼成過程でのBiの反応状態により大きく変わる。そして、体積固有抵抗1.0×10Ω・m以上のM型六方晶Baフェライトや、体積固有抵抗1.0×1012Ω・m以上のSrTiOと比較し、Bi−Fe−O結晶の体積固有抵抗は1.0×10Ω・m以下と低い。このため、複合焼結体中で主結晶であるY型六方晶Baフェライト結晶の間に細かいBi−Fe−O結晶が連結された状態で分布してしまうと、体積固有抵抗を決める因子の中で、その部分の影響が大きくなり、高い体積固有抵抗が得られにくい。これに対して、複合焼結体の断面におけるBi−Fe−O結晶の平均粒子径が0.6μm以上であれば、連結された部分が少なくなり、より高い体積固有抵抗が得られる。
【0036】
Y型六方晶Baフェライトが主結晶であるとは、焼成後の複合焼結体の結晶中のY型六方晶Baフェライトの割合が50質量%以上であることを指し、100MHzにおける比透磁率の高いY型六方晶Baフェライトの割合が多いことにより、複合焼結体の100MHzにおける比透磁率が高くなる。複合焼結体の100MHzにおける比透磁率を高くするためには、Y型六方晶Baフェライトの割合は、55質量%以上であることが好ましい。
【0037】
複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4質量%以上であることにより、複合焼結体の100MHzにおける比透磁率を4.7以上とすることができる。ただし、Y型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が76.8質量%より多くなると、誘電体材料の割合が少ないため、複合焼結体の100MHzにおける比誘電率が低くなってしまう。
【0038】
複合焼結体の結晶中のSrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3質量%以上であることにより、複合焼結体の100MHzにおける比誘電率を40以上とすることができる。ただし、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が26.2質量%より多くなると、磁性体材料の割合が少ないため、複合焼結体の100MHzにおける比透磁率が低くなってしまう。
【0039】
また、複合焼結体の結晶中のBi−Fe−O結晶の割合が、8.6質量%以下であることにより、100MHzにおける誘電損失の大きいBi−Fe−O結晶が少ないため、複合焼結体の100MHzにおける誘電損失を100×10−4以下にすることができる。
【0040】
なお、六方晶フェライトとは、六方晶系結晶構造を有しているとともに磁化容易軸を持っているもののことである。具体的には、六方晶フェライトは結晶方向により異なる異方性磁界を持つために回転磁化共鳴周波数(fr)が高くなるとともに、c軸に垂直な結晶面(c面)内のa軸が磁界の方向に容易に磁化され、かつ外部磁界の方向の変化に容易に追従して磁化の向きが変化する。このため、高い周波数領域(数百M〜数GHz)においても、比透磁率が高い状態を維持することが可能である。一方、スピネル型フェライトなどは、数MHz程度では、数百といった高い比透磁率が得られるが、前記のような磁化容易軸を持たないため、1GHz程度で比透磁率が急激に低下してしまう。
【0041】
六方晶フェライトには、M型、W型、Y型およびZ型などがあるが、Y型六方晶フェライトは数百M〜数GHzにおける比透磁率が高くできるために磁性体材料として好ましい。また、Baを含む六方晶Baフェライトは、酸化鉄や炭酸バリウム等の原料から仮焼合成する際の温度を低くすることができるので好ましい。
【0042】
リートベルト解析とは、X線回折の結果から評価対象の試料中に含まれている結晶の種類およびその量を解析するものである。リートベルト法は、J.Am.Ceram.Soc.,81[11]2978-82(1998)に記載されている方法を用いる。具体的には、解析対象の試料をディフラクトメーター法で測定した2θ=10°以上80°以下の範囲のX線回折パターンに対して、RIETAN-2000プログラムを使用することにより、評価対象の試料中に含まれている結晶の種類、および結晶の合計量に対するそれぞれの結晶の量(質量%)を評価した。
【0043】
複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3〜26.2質量%であり、複合焼結体にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれている誘電体と磁性体との複合焼結体は、例えば、あらかじめ仮焼などによりそれぞれ合成しておいた磁性体材料および誘電体材料と、Biとを混合した後、焼成することで作製することができる。
【0044】
そして、本発明の誘電体と磁性体との複合焼結体を作製するには、磁性体材料としてY型六方晶Baフェライトを、誘電体材料としてSrTiOを用いるのが好ましい。
【0045】
上述のように、Y型六方晶Baフェライトは数百MHz以上の高周波でも高い比透磁率を維持することができる。それに加えて、低温焼成化のためにBiと焼成した際に生じる主な副生成物がM型六方晶Baフェライトであるため、この副生成物も数百MHz以上の高周波における比透磁率を高くすることに寄与できる。
【0046】
複合焼結体の原料となる磁性体材料のY型六方晶Baフェライトの典型的な組成比はBaFe1222(ただし、MはCo、CuおよびZnから選ばれる1種以上の元素)であるが、磁性体材料としては、主な結晶としてY型六方晶Baフェライトが生じる範囲でこの組成からずれたものでもよい。例えば、Ba2.05Zn1.4Cu0.5Co0.05Fe1222は100MHzにおける比透磁率が高く、かつ合成温度を低くすることができるため、Y型六方晶Baフェライトの好ましい組成である。複合焼結体の原料作製時の仮焼合成などで生じるY型六方晶Baフェライト以外の結晶としては、数百MHz以上の高周波でも比透磁率を高く維持できるM型六方晶Baフェライトが好ましい。
【0047】
Y型六方晶Baフェライト粉末を作製するには、原料の主成分として、それぞれ酸化物換算でFeを57〜63モル%、MOを18〜22モル%(ただし、MはCo、CuおよびZnから選ばれる1種以上の金属元素)、BaOを残部となるように調合する。この際、各原料はこれに限定されず、焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いても良い。なお、Mは単独の元素でも、2種以上の元素が混在した形態であってもよい。Mとして2種以上を混合して用いる場合には、混合した総計モル%を18〜22モル%とすればよい。
【0048】
このような配合比率で混合した粉末を、大気中で900〜1050℃の温度範囲で、1〜10時間仮焼した後、粉砕することによってY型六方晶Baフェライト粉末を得ることができる。
【0049】
Y型六方晶Baフェライトは、850℃付近からBaFe1219結晶およびBaFe結晶の分解が始まり、生成されてくる。この分解、生成を十分に行なうためには、900〜1050℃の温度範囲で、1〜5時間仮焼することが好ましい。そうすることにより、仮焼合成時にY型六方晶Baフェライトを80質量%以上生成することが可能となる。なお、仮焼温度が1025℃以下であれば、合成と同時に進行する粉と粉との焼結が抑制されるため、粉砕が容易となって細かい粉砕粉を得やすく、誘電体材料などと組み合わせて焼成する際の焼結性を向上させることができる。
【0050】
粉砕に際しては振動ミル、回転ミル、バレルミル等を用いて、磁性体材料を鋼鉄ボール、セラミックボール等のメディアと、水またはイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール等の有機溶剤を用いて湿式で行なうことができる。
【0051】
その際、Y型六方晶Baフェライトの素原料となる粉末は、平均粒子径が0.1〜5μm、より好ましくは0.1〜1μmであることが仮焼時の焼結性を高める点で望ましい。なお、「平均粒子径」とは、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径d50を意味する。粉体の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱法によるマイクロトラック粒度分布測定装置X−100(日機装株式会社製)を用いて測定できる。
【0052】
かくして得られるY型六方晶Baフェライトは、単独で焼結させれば、数MHz〜数百MHzにおける比透磁率が6〜17、数百MHz〜2GHzにおける比透磁率が2〜10と、高周波数帯域まで比透磁率が高い磁性体材料となる。
【0053】
誘電体材料としては、100MHzにおける比誘電率が比較的高く、100MHzにおける誘電損失の小さいSrTiOを用いるのが好ましい。SrTiOはBaTiOより、100MHzにおける誘電損失が小さいために好ましい。また、SrTiOは、CaTiOおよびMgTiOより、100MHzにおける比誘電率が大きいために好ましい。
【0054】
そして、誘電体材料としてはSrTiOを主成分とするものが好ましく、BaTiO、CaTiOおよびMgTiOが混合したものであってもよい。混合は、それぞれの粉末を混ぜたものでも、所望の組成比の素原料を仮焼などで合成して固溶体にしたものでもよい。誘電体材料中のSrTiOの比率は、90質量%以上、好ましくは95質量%以上であり、特に99質量%以上(残部は不純物)が好ましい。
【0055】
SrTiO粉末とY型六方晶Baフェライト粉末とBi粉末とを混合して焼成すると、副生成物としてBiとFeを含む結晶、Bi−Fe−O結晶が生じる。Bi−Fe−O結晶は、主にはBiFeO結晶であり、条件によっては少量の他のBi、Feを含む結晶が生じる。副生成物として生じたBi−Fe−O結晶は、比誘電率を高くするが、誘電損失も大きくするため、Bi−Fe−O結晶の量は、複合焼結体の結晶中の8.6質量%以下であることが好ましい。
【0056】
SrTiO粉末の平均粒子径は、誘電体と磁性体との複合焼結体の透磁率、誘電率を高くするために、0.1〜3.0μm、さらには1.2〜2.2μmであることが好ましい。
【0057】
SrTiO粉末の平均粒子径が細かすぎると、Y型六方晶Baフェライト粉末間の至るところにSrTiO粉末が分散配置され、Y型六方晶Baフェライトの焼結を阻害し、所望の透磁率を得られないことになる。また、高い比透磁率を得るためには誘電体材料の量をそれほど多くできず、後述するように焼結性を向上させるためには添加するBi粉末の量もそれほど多くできないことから、焼結時にSrTiO粉末を大幅に粒成長させることはあまり期待できない。そのような状態でも比誘電率を高くするため、SrTiO粉末は、ある程度平均粒子径が大きい方が好ましい。すなわち、原料の混合時のSrTiO粉末の平均粒子径は1.2〜2.2μmが好ましい。
【0058】
Biは、比較的低温で融解する酸化物であり、上述した磁性体材料および誘電体材料の焼結を助ける。複合焼結体と同時焼成する導体として、パラジウムなどをほぼ含有しない銀を主体とする導体を用いる場合には、1000℃以下でも焼結することが必要であり、そのためには、調合時のBi粉末の量は5.75質量%以上であることが好ましい。4.5質量%以下では、複合焼結体の吸水率が1%以上と焼結不足となる。
【0059】
調合時のBi粉末の量が増えると焼結性は向上するが、磁性体材料および誘電体材料の一部が分解するか、もしくは原料同士が反応して副生成物を生じる。調合時のBi粉末の量が12質量%程度までであれば、上述のように、磁性体材料であるY型六方晶Baフェライトからは主にM型六方晶Baフェライトが生じ、Biは、Y型六方晶Baフェライトの一部と反応し、Bi−Fe−O結晶を生じる。これらの副生成物により、わずかに比透磁率あるいは比誘電率が低下するものの、100MHzにおける高い比透磁率および比誘電率を維持できる。調合時のBi粉末の量が13.75質量%以上では、磁性体材料および誘電体材料の分解が進むため、100MHzにおける比透磁率あるいは比誘電率が低くなるとともに、M型六方晶BaフェライトおよびBi−Fe−O結晶以外の副生成物の量も増えていく。調合時のBi量が14.5質量%以上では、100MHzにおける比透磁率および比誘電率が低くなるだけでなく、M型六方晶BaフェライトおよびBi−Fe−O結晶以外の副生成物が多くなり、100MHzにおける誘電損失が増大する。
【0060】
また、調合時のBi粉末の量が増えると傾向としては生成されるBi−Fe−O結晶が増えると考えられるが、他の要因の影響が大きく、調合時のBi粉末の量が12質量%程度までであれば、体積固有抵抗が特に低くなることはない。
【0061】
Bi粉末の平均粒子径は、焼結性を向上させるために、0.1〜5.0μm、さらには0.3〜1.0μm、特に0.3〜0.7μmであることが好ましい。Bi粉末の平均粒子径を0.1μm以上、さらには0.3μm以上にすることにより、粉末の凝集が起こりにくくなり、Bi粉末の分散が不均一となって、焼結状態にムラが生じることが抑制できる。Bi粉末の平均粒子径が5.0μm以下であることにより、Bi粉末の融解が遅くなって反応が進まなくなることが抑制できる。Bi粉末の平均粒子径が0.7μm以下であることにより複合焼結体の吸水率を0.2%以下にできる。
【0062】
そして、複合焼結体の吸水率を0.2%以下にするため平均粒子径が0.7μm以下のBi粉末を使用した場合、後述のように、複合焼結体が緻密化する焼成温度および焼成時間より焼成温度を高くするか、あるいは焼成時間を長くすることで、Bi粉末のBiから生成されるBi−Fe−O結晶の複合焼結体の断面における平均粒子径が0.6μm以上となり、体積固有抵抗を高くできる。
【0063】
調合時の磁性体材料であるY型六方晶Baフェライト粉末の量としては、75.5〜78.0質量%であることが好ましい。75.5質量%以上であることにより、複合焼結体の100MHzにおける比透磁率を高くすることができる。78.0質量%以下であることにより、原料組成に、焼結助剤のBi粉末および誘電体材料を十分に含めることができる。
【0064】
調合時の誘電体材料であるSrTiO粉末の量としては、12.5〜18.75質量%であることが好ましい。12.5質量%以上であることにより、複合焼結体の100MHzにおける比誘電率を高くすることができる。18.75質量%以下であることにより、原料組成に、焼結助剤のBi粉末および磁性体材料を十分に含めることができる。
【0065】
原料組成中にはAlを実質的に含まないことが好ましい。Alは、磁性体材料や誘電体材料を作る際の仮焼合成後の粉砕などに、アルミナのメディアを用いることなどで、不純物として混じることがある。また、Y型六方晶Baフェライトの原料となる鉄の中に微量含まれていることもある。Alが含まれると、複合焼結体の焼成時にAlを含む複合酸化物結晶(例えば、ZnAl結晶など)が生成され、その際にY型六方晶BaフェライトまたはSrTiOが分解されることがある。Al量を少なくすることにより、この分解を抑制できるので、100MHzにおける比透磁率あるいは100MHzにおける比誘電率を高くすることができる。そのため、原料組成中あるいは複合焼結体中のAlの量はAl換算で0.05質量%以下、特に0.03質量%以下であることが好ましい。また、Al量を少なくすることにより、ZnAl結晶などの誘電損失の大きい結晶の生成を抑制できるので、誘電損失を低くすることができる。
【0066】
また、複合焼結体をX線回折で測定した際に、複合焼結体に含まれているAlを含む結晶のピーク強度が、複合焼結体に含まれている結晶のうち最も高いピーク強度を有する結晶のピーク強度に対して100分の1以下であるようにするのが好ましい。ZnAl結晶以外のAlを含む結晶としては、不純物などとして含まれることがあるSiと反応して生じるBaAlSi結晶が挙げられる。
【0067】
所定の比率で混合した磁性体材料、誘電体材料およびBi粉末は、所望の形状に成形した後に900〜1000℃で焼成することにより、100MHzにおける比透磁率および100MHzにおける比誘電率の高い磁性体と誘電体との複合焼結体を得ることができる。
【0068】
この際、Bi−Fe−O結晶の平均粒子径を0.6μm以上とするためには、900〜1000℃の範囲において焼成温度を高めに、焼成時間(焼成温度でのキープ時間)を長めに設定する必要がある。焼成温度を高くすることにより、焼成過程におけるBi粉末の溶解性を向上し、軟化流動をし易くなり、焼成時間を長く設定することにより、主結晶であるY型六方晶Baフェライトが粒成長する。いずれにしても、Bi-Fe-O結晶が移動し、0.6μm以下の粒径の結晶が均一に細かく全体的に存在する状態から、粒成長し、0.6μm以上の大きな粒径の結晶が偏在して存在する状態となり、複合焼結体内部でBi-Fe-O結晶が連なることを抑制することができる。
【0069】
具体的な焼成温度および焼成時間は、原料の組成比により変わるが、吸水率を0.2%以下にできる焼成温度および焼成時間に対して、焼成時間はそのままで焼成温度を40℃以上、好ましくは60℃以上高くするか、焼成温度はそのままで焼成時間を2倍以上に長くすることが好ましい。これは、後述の実施例でいえば、910℃、2時間で焼成している試料No.20に対して、試料No.21のように950℃、2時間で焼成するということである。なお、焼成温度を高くするとともに、焼成時間を長くしてもよく、その場合、焼成温度と焼成時間を変える量は、それぞれ前述したものより少なくできる。
【0070】
また、焼成温度および焼成時間は、それ以上焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くしたりしても複合焼結体の嵩密度があまり向上しなくなるという意味で十分焼結したといえる焼成温度および焼成時間に対して、焼成時間はそのままで焼成温度を10℃以上、好ましくは20℃以上高くするか、焼成温度はそのままで焼成時間を1.5倍以上、好ましくは2倍以上に長くすることが好ましい。これは、後述の実施例でいえば、嵩密度が5.44g/cmと上限近くまで高くなる930℃、2時間で焼成している試料No.4に対して、試料No.21のように950℃、2時間で焼成したり、930℃、3時間で焼成するということである。前述の場合同様、焼成温度を高くするとともに、焼成時間を長くしてもよい。
【0071】
なお、使用するBi粉末の平均粒子径が0.3〜0.7μmの場合、焼成温度を高くし、焼成時間を長くしても、複合焼結体の断面におけるBi−Fe−O結晶の平均粒子径の上限は3μm程度である。
【0072】
次に、本実施形態の磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路を形成したLC複合電子部品について説明する。
【0073】
そのLC複合電子部品の例であるEMIフィルタ部品を、図1をもとに説明する。複数の絶縁層1が積層され、この絶縁層1の表面に配線層2が形成されている。また、絶縁層1によって隔てられた配線層2同士を電気的に接続するビアホール導体3が絶縁層1を貫通して形成されている。
【0074】
さらに、これらの配線層2およびビアホール導体3により複数の絶縁層1からなる絶縁基体の内部には、回路的にインダクタ部4およびコンデンサ部5が形成され、フィルタ回路をなしている。
【0075】
このインダクタ部4は、配線層2およびビアホール導体3により多層のコイル状に形成されているが、通常、回路のインダクタンスを増加させるためには、このコイルの巻き数を増加させる必要がある。しかし、本実施形態の複合磁性材料のような透磁率の高い磁性材料を用いた場合、コイルの巻き数を増やさずとも必要なインダクタンスを得ることが可能となる。これより、配線層2の積層数を減らすことができるため、電子部品の小型、低背化が可能になる。
【0076】
そして、このLC複合電子部品において、絶縁層1は、実施形態の誘電体と磁性体との複合焼結体により形成されている。
【0077】
また、配線層2およびビアホール導体3を形成する低抵抗金属は、金、銀、銅のいずれかを含む金属であることが望ましい。配線層2として金、銀、銅のいずれかの低抵抗金属を主成分として含有する場合には、配線層2を低抵抗化でき、特に高周波信号の信号損失、遅延を小さくできる。内部の配線層2およびビアホール導体3を、純度の高い金、銀、銅にする場合は、LC複合電子部品の焼成温度は1000℃以下とする。
【0078】
また、このようなLC複合電子部品を製造するには、75.5〜78.0質量%のY型六方晶Baフェライト粉末、12.5〜18.75質量%のSrTiO粉末および5.75〜12.0質量%のBi粉末を混合した原料に対して、適当な有機バインダ、分散剤、溶媒を添加、混合してスラリーを調製し、これを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法、あるいは圧延法、プレス成形法により、シート状に成形する。
【0079】
そして、このシート状成形体に所望によりスルーホールを形成した後、スルーホール内に、低抵抗金属を含有する導体ペーストを充填する。
【0080】
そして、シート状成形体表面には、金属ペーストを用いてスクリーン印刷法、グラビア印刷法などの公知の印刷手法を用いて配線層の厚みが5〜30μmとなるように、配線パターンを印刷塗布するか、または金属箔を貼りつけ、パターン状に加工したものを貼りつける。
【0081】
そして、複数のシート状成形体を位置合わせして積層圧着した後、電子部品の大きさに合わせて切断した後、酸化性雰囲気中、または低酸化性雰囲気中、200〜500℃で脱バインダ処理した後、酸化性雰囲気または非酸化性雰囲気で900〜1000℃の温度で焼成することにより、本実施形態の磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されたLC複合電子部品を作製することができる。
【0082】
なお、焼成雰囲気については、用いる低抵抗金属の種類に応じて適宜決定され、例えば、銅等の酸化性雰囲気中での焼成によって酸化する金属を用いる場合には非酸化性雰囲気中で焼成を行なう必要があるが、金、銀に関しては酸化雰囲気中での焼成を行なうことも可能である。
【0083】
上述したような工程を経ることによって、前述したように高い透磁率、および誘電率を有するとともに、数百MHz〜数GHzの高周波数帯域でもノイズの減衰特性が高い、LCフィルタを再現性よく得ることができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0085】
まず、Fe粉末、CoO粉末、CuO粉末、ZnO粉末およびBaCO粉末を出発原料とし、組成比がBa2.05Zn1.4Cu0.5Co0.05Fe1222となるように調合をした。調合した粉末に、有機溶媒としてIPA、メディアとして鋼鉄ボールを加えて湿式混合し、乾燥した後、大気中、950℃で仮焼し、さらに湿式で72時間粉砕し、平均粒子径1μmのY型六方晶Baフェライトを主結晶とする磁性体材料(100MHzにおける比誘電率:25、100MHzにおける比透磁率:15)を得た。
【0086】
次に、誘電体材料として、市販の3種類のSrTiO粉末(平均粒子径0.9μm、100MHzにおける比誘電率:180、100MHzにおける比透磁率:1.0)を準備した。3種類のSrTiO粉末A、BおよびCは、仮焼後の粉砕に使用したメディアが異なり、Aはアルミナボール、Bは添加物等がAとは異なるアルミナボール、Cはジルコニアボールであった。SrTiO粉末中のAl量は、A>B>Cであった。
【0087】
市販の平均粒子径3.0μmのBi粉末、およびそれを粉砕して平均粒子径を0.5μmとしたBi粉末のうちいずれかと上述の磁性体材料および誘電体材料を表1に示す混合比となるように、有機溶媒にIPA、メディアに鋼鉄ボールを用いて湿式混合し、乾燥した後、比透磁率、比誘電率、誘電損失、嵩密度および吸水率を評価できるようにプレス成形し、大気中、表1に示した焼成温度および焼成時間(焼成温度でのキープ時間)で焼成し、誘電体と磁性体との複合焼結体を得た。
【0088】
かくして得られた誘電体と磁性体との複合焼結体について、比透磁率、比誘電率、誘電損失、嵩密度および吸水率を評価した。嵩密度および吸水率は、JIS C2141に準拠して測定を行なった。比透磁率、比誘電率、誘電損失については、100MHzでの値を測定し評価した。
【0089】
比透磁率は、同軸管を用いたSパラメータ法により測定し、比誘電率はインピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社製 HP4291A)を用いた平行平板法により測定することができる。なお、LC複合電子部品において、絶縁層の比誘電率、比誘電率および誘電損失を直接測定できない場合は、LC複合電子部品のフィルタ特性などの電気特性と、絶縁層や電極などの寸法を測定して、電磁界シミュレーションを行なった結果を比較して比誘電率、比誘電率および誘電損失を求めることができる。
【0090】
また、X線回折を行ない、その結果をリートベルト解析し、複合焼結体に含まれている結晶の種類と含まれている結晶全体に対するそれらの割合を求めた。解析結果から、Y型六方晶Baフェライト、M型六方晶BaフェライトおよびBi−Fe−O結晶の割合を表1に示した。なお、これらの合計が100質量%になっていない試料は、これら以外の結晶が観測されたものである。
【0091】
さらに、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析を行ない、複合焼結体に含まれているBiおよびAlの量を測定し、BiおよびAlの量に換算し表1に示した。
【0092】
複合焼結体の断面におけるBi−Fe−O結晶の平均粒子径は、複合焼結体の断面を鏡面研磨(研磨は#6000のダイヤモンドペーストを用いて行ない、5000倍の反射電子顕微鏡観察を行った際に明確な傷が確認されない状態にした)し、その断面を反射電子顕微鏡を用いて反射電子組成像を撮影し、画像処理することにより測定した。反射電子組成像において、原子番号の大きい元素は、より反射電子を多く放出するため白いコントラストに撮影されることを利用し、Bi−Fe−O結晶の特定を行なった。反射電子組成像の撮影においては、加速電圧を15kVに設定し、5000倍の拡大像を20μm×20μmの視野で任意の10視野撮影し、撮影した各像において像中の多数の白い結晶部分を画像処理ソフトを用いて大きさを判定し、反射電子組成像の撮影時における基準長さと対比させることにより、各結晶の粒子径を判別した後、統計処理を実施し、平均粒子径を算出した。
【0093】
【表1】

【0094】
複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、複合焼結体中のBiのBi換算量が5.7〜12.0質量%である本発明の範囲内の試料No.3〜7、12、13および17〜26の複合焼結体は、100MHzにおける比透磁率が4.7以上、100MHzにおける比誘電率が40以上と、比透磁率および比誘電率が高いものとなった。
【0095】
特に、複合焼結体の結晶中のBi−Fe−O結晶の割合が8.6質量%以下である試料No.4〜7、12、13、17〜19、23、24および26の複合焼結体は、100MHzにおける誘電損失が100×10−4以下と低いものとなった。
【0096】
また、試料No.12、17、18を比較すると、Al量が少なくなるにしたがって100MHzにおける比透磁率は高くなった。
【0097】
さらに、複合焼結体の断面におけるBi-Fe-O結晶の平均粒子径が0.6μm以上である試料No.20〜22、24および25では、体積固有抵抗が8.1×10Ω・m以上と高くなった。
【0098】
これに対して、本発明の範囲外の試料No.1、2および9〜11の複合焼結体では複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4質量%未満と少ないため、100MHzにおける比透磁率が4.4以下となった。
【0099】
また、本発明の範囲外の試料No.1、15および16の複合焼結体では複合焼結体の結晶中のSrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3質量%未満と少ないため、100MHzにおける比誘電率が38以下となった。
【0100】
また、本発明の範囲外の試料No.8および14の複合焼結体では複合焼結体中のBi量が5.7質量%未満であり、100MHzにおける比誘電率が38以下となった。また、焼結不足で吸水率が0.1%より大きくなった。
【0101】
また、本発明の範囲外の試料No.1および2の複合焼結体では複合焼結体中のBi量が12.0質量%より多く、100MHzにおける比透磁率が4.4以下となった。
【0102】
また、得られた本実施形態のLC複合電子部品でLC複合EMIフィルタチップ部品の周波数特性をネットワークアナライザーにより測定した結果、従来の誘電体を用いた場合と同等のコイルターン数で、減衰極の低周波化が実現しており、従来品の誘電体を用いたローパスフィルタと同等のサイズで、より低周波からの減衰特性を得ることが可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0103】
1・・・絶縁層(磁性体と誘電体との複合焼結体)
2・・・配線層
3・・・ビアホール導体
4・・・インダクタ部
5・・・コンデンサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶を含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、前記複合焼結体の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiO結晶およびBi−Fe−O結晶の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、前記複合焼結体にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれていることを特徴とする磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項2】
前記複合焼結体に含まれるAlがAl換算で0.05質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項3】
100MHzにおける比透磁率が4.7以上であるとともに、100MHzにおける比誘電率が40以上であることを特徴とする請求項1または2記載の磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項4】
前記複合焼結体の結晶中のBi−Fe−O結晶の割合が8.6質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項5】
吸水率が0.2%以下であるとともに、断面におけるBi−Fe−O結晶の平均粒子径が0.6μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されていることを特徴とするLC複合電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−100511(P2010−100511A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69356(P2009−69356)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】