説明

磁性体を含む材料の検査方法及び装置

【課題】 事故や災害等で破壊された、磁性体を含む材料からなる機械や建築物において、破壊形態の推定や亀裂開始点の位置、亀裂進展方向、応力分布等を、試料の大きさによらず、簡便かつ詳細に知ることのできる測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】磁束密度センサーを用い、かつ少なくとも磁性体を含む材料の破断面を用いて、磁束密度を測定する。又、該磁束密度センサーと、該材料の破断面との距離を概一定に保ち、破断面の磁束密度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体を含む材料の破面における破断時の破面進展方向や亀裂起点、延性・脆性破壊、破壊進行時の応力等の分布を測定する検査方法及び検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼材料等の強磁性体を含む材料は、磁歪効果の逆に相当する「逆磁歪効果」が存在し、弾性変形等、外部応力の負荷に比例して透磁率や磁化などの磁性の性質が変化するため、それを使った非破壊検査や塑性変形状態の解析が、広く試みられてきた。例えば、非特許文献1では、磁気センサーとしてホール素子(磁束密度センサー)を用いた走査ホール素子顕微鏡によって、材料の内部応力と磁場強度を測定し、それを非破壊検査に使うことが示された。
【0003】
一方、事故調査や製品の品質管理、製造プロセスなどにおいて、破壊形態を解析する必要性がある場合、その多くは、破面形態の単なる観察(光学又は電子顕微鏡を使用)から得られる情報を元にしたフラクトグラフィーにより、脆性破壊、延性破壊、疲労破壊、亀裂開始点などの判定を行ってきた。例えば、特許文献1が公知である。
【0004】
【非特許文献1】太田昭男他、電気学会論文誌A, 123巻7号(2003)p.611-617.
【0005】
【特許文献1】特開2000−266613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、破壊時の破面にかかる応力や亀裂の進展方向等の情報については、通常の破壊が高速に推移すること、破面が付着物に覆われて詳細が観察しにくいこと、破壊が事故の発生後に生ずること、などの理由から容易に評価することが難しかった。また従来の評価方法では、試料を電子顕微鏡などの真空装置に入れる必要があるなど、測定条件に制約があり、大気中で大きさによらず簡便に評価することは難しかった。さらに、3次元の磁束密度ベクトルの変化を積極的に破壊現象の解明に応用する技術は存在しなかった。
【0007】
そこで、本発明の強磁性体を含む材料の検査方法は、そのような従来の方法が有する問題点を解決するために考えられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、磁性体を含む材料の検査方法において、磁束密度センサーとしてホール素子を用い、該材料の破断表面を、3次元的に移動走査させて磁場強度と磁場ベクトルを検出することを特徴とする。又、その検査方法において、ホール素子と、該材料の破断表面との距離を概一定に保持して移動走査させることを特徴とする。さらに、ホール素子と、該材料の破断表面との距離を概一定に保持して移動走査させることを特徴とする検査装置である。
測定対象の磁性体とは、例えば鉄のα相を含む鉄合金や鉄鋼材料がある。又、ホール素子とは、半導体中を流れる電流に対して垂直に掛かる磁界強度に比例して、電流と磁界方向に垂直にローレンツ力が働き電圧が発生するという原理に基づき、三つの異なる方向の磁場強度を測るセンサーを用いることにより、磁場強度と磁場ベクトルを検出することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明の磁性体を含む材料の検査方法によれば、破壊時に破面近傍に負荷された応力により逆磁歪現象として発生した漏れ磁束ベクトルの分布の変化から、破壊された試料の破壊亀裂進展方向、亀裂開始点、破壊時の応力分布を明らかにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に示すように、試料をXYZステージに乗せ、3次元またはそれ以下の磁束密度測定が可能な磁気センサーを計りたい破面近傍に配置する。破面からの距離が一定になるようにステージのz方向の高さを調整後、破面近傍の3次元方向の磁束密度を測定する。測定した残留磁束ベクトルを磁気測定装置により定量化し、コンピューターに記録する。コンピューターによりセンサーの分解能以下で破面上をXY方向にステージを走査させ、破面上の3次元磁束密度ベクトルの分布を得る。
【実施例】
【0011】
本発明の磁性体を含む材料の検査方法を以下に記す。試料として、20×10×20mmの耐熱合金鋼に、シャルピー衝撃試験によって破断せしめた。破断後の試料破面の磁性を、図1に示す装置を用いて、3次元磁束密度センサーを走査(走査線間隔0.2mm、速度1秒/ステップ)した。その際、破面からの距離が一定になるようにステージのz方向の高さを調整することにより破断面にセンサーをほぼ接した状態に置き、x、y、z各方向の磁束密度を磁束密度測定装置により電気信号に変換後、AD変換器によりデジタル化し、PCにより各位置での3次元磁束密度ベクトルデータを記録した。その後、次の位置へXYステージにより移動させ、これをXY平面上に繰り返すことにより、3次元磁束密度ベクトルの破面上の分布図を得た。すなわち、逆磁歪現象として現れる磁化の漏れ磁束密度の分布の変化から、試料の破壊亀裂進展方向、亀裂開始点、破壊時の応力分布を明らかにすることができる。
【0012】
破壊後の強磁性体を含む材料の破面には、破壊時に破面近傍に負荷された応力により、逆磁歪現象として磁化が発生し、残留磁化が破面表面に観測される。そのため亀裂開始点など破壊時に高い応力状態が存在していた場合、高い残留磁化の変化が破壊時の応力状態の軌跡として残る。
【0013】
また破面亀裂境界線に垂直に残留磁化の変化が残ることから、破面の進展方向を推定することが出来る。さらに破面全体の破壊時に掛かった応力の分布が評価できる。
【0014】
鉄鋼などの材料では、破壊時に破面に掛かった応力と垂直方向に、破面境界線に垂
直に磁化が向くため、破面全体として亀裂開始点をN極(またはS極)とし、破面終点領域を反対の極となるように、漏れ磁束密度が変化する。得られた漏れ磁束分布図を図2に示す。
【0015】
内部亀裂開始点が存在した場合、図2に示すように破面中に磁化の極のピークとして表れ、別に電子顕微鏡のミクロな凹凸画像から破壊形態に特徴的な形態を観察する破面形態解析(フラクトグラフィー)を行い、この位置に内部亀裂開始点に典型的に見られる魚の目のような形をした破面形態であるフィッシュ・アイ状の破面電子顕微鏡写真が観察された。
【0016】
得られた漏れ磁束ベクトルの変化方向から破面亀裂進展の様子が得られる。亀裂進展の様子を図3に示す。
【0017】
また漏れ磁束ベクトルの変化量から、各破面位置での破壊時の応力が得られる。図4に破壊時のシャルピー衝撃エネルギーと最大磁束密度との関係を示す。破壊時の衝撃エネルギーの大きさに対応して、応力が増加することから、破壊時の応力が大きいほど、磁束密度が高くなる傾向にあることが分かる。
【0018】
さらに、延性破面では破壊に要するエネルギーが増大する傾向から、破断面に掛かる応力は増大するため磁束密度は大きく増加し、逆に脆性破面では破断面に掛かる応力は小さく、磁束密度は減少する。このことから検査材破断面の脆性破面・延性破面の区別が簡便に付く。
【0019】
磁歪係数の符号により、応力と発生する磁化ベクトルの向きは異なるため、素材により漏れ磁束の分布と応力との関係を考慮する必要がある。
【0020】
図1に示す、本発明の磁性体を含む材料の検査装置では、少なくとも該材料の破断面を、3次元またはそれ以下の磁束密度測定が可能なホール素子等の磁性センサーを非磁性探針(0.5mm長さ以下)を用いて、破面から一定距離で走査させることにより、破面表面近傍の漏れ磁束ベクトルの分布を測定できる。この際、試料と針との間の電気抵抗を測定することにより、破面からの距離が一定になるようにステージのz方向の高さを調整する。また試料破面の高さが大きく違わない場合には、磁気プローブを支える支柱やセンサー部にバネ等で弾性をもたせることにより、接触を保つこともできる。この場合、探針の長さ(磁性センサーと試料との距離)が2mm以上となると、測定感度が著しく低下した。最適値は、0.5mm長さ以下であった。
【0021】
図5に示す、本発明の磁性体を含む材料の検査装置のセンサー部では、一次元のホール素子等の磁気センサーの先端に透磁率の高い材料からなる針である鉄針等(1mm長さ)を介して、磁気センサーを計りたい破面に接触させることにより、計りたい破面位置から一定距離で、より精度の高い空間分解能をもつ漏れ磁束分布図を得ることが出来る。この際、試料と針との間の電気抵抗を測定することにより、破面からの距離が一定になるようにステージのz方向の高さを調整する。また試料破面の高さが大きく違わない場合には、磁気プローブを支える支柱やセンサー部にバネ等で弾性をもたせることにより、接触を保つこともできる。この場合、鉄針等の長さ(磁性センサーと試料との距離)が2mm以上となると、測定感度が著しく低下した。最適値は、1mm以下であった。
【0022】
本実施例では、接触型の針を用いて、磁束密度センサーと破断表面との距離を概一定に保ったが、ここに非接触型のセンサーを用いても良い。例えば、渦電流方式や電気容量方式の距離センサーを用いることもできる。針を使うと、破断表面や針が僅かに削られてしまうという欠点があるが、非接触型のセンサーではそのようなことがない。また他の接触式距離センサー(差動トランス等)を磁気ブロー部の走査前方に配置することにより、計測する位置の高さを予め測定して、磁束密度センサーの位置を制御することができる。
【0023】
さらに、破断表面で反射した赤外線の入射角度から距離を測定する、レンズによる破断表面の像の位相差検知、及びCCDカメラの像を電気信号に変換した後その波形解析によって距離を測定する等光学的なセンサーを用いても、磁束密度センサーと破断表面との距離を概一定に保つことができる。
【0024】
センサーをSQUID等の超伝導量子干渉計による磁束密度センサーにすることによ
り、より微弱な漏れ磁束密度の評価が可能となり、わずかな応力の変化が評価できる。
【0025】
さらにセンサーを巨大磁気抵抗素子や磁気原子間力顕微鏡にすることにより、より
空間分解能の高い漏れ磁束密度の評価が可能となり、より精密な測定が出来る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の残留漏れ磁束ベクトルによる破面の評価法を用いると、事故や災害等で破壊された機械や建築物の材料の破面を大気中で測定することで、破壊形態の推定や亀裂開始点の位置、亀裂進展方向等の評価が、試料の大きさによらず可能となる。又破壊形態の制御された材料を開発する目的で、材料試験をすることに利用可能である。さらに破壊を利用した加工プロセスにおける加工パラメーターの条件を調整する目的で使用することもできる。したがって、材料の破壊挙動の制御・応用に資すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の一形態を示した図である。
【図2】本発明により測定された磁性体を含む材料の破面の磁束密度ベクトル分布を示した図である。
【図3】磁性体を含む材料の破面の磁束密度ベクトル分布とそこから推定された亀裂進展の様子を示した図である。
【図4】磁性体を含む材料の破面に現れた最大磁束密度と破壊の際のシャルピー衝撃吸収エネルギーの関係を示した図である。
【図5】本発明の実施の一形態におけるセンサー部を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1 3次元磁束密度センサー
2 センサー素子部
3 磁気測定装置
4 制御用コンピューター
5 試料破面
6 自動XYZステージ
7 破壊進展方向
8 磁束密度のバー
9 3次元磁束密度センサー
10 探針
11 試料
12 試料破面




【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含む材料の破断原因等を調べる検査方法において、該材料の破断表面を、磁束密度センサーを用いて、3次元的に移動走査させて磁場強度と磁場ベクトルを検出することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記磁束密度センサーと、該材料の破断表面との距離を概一定に保持して移動走査させることを特徴とする特許請求範囲第1項記載の検査方法。
【請求項3】
特許請求範囲第2項記載の、磁束密度センサーと、該材料の破断表面との距離を概一定に保持して移動走査させることを特徴とする検査装置。













【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−242701(P2006−242701A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57442(P2005−57442)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】