説明

磁気センサ、磁気エンコーダ、磁気エンコーダモジュール、レンズ鏡筒

【課題】より高精度の磁界検出を可能とする磁気エンコーダを提供する。
【解決手段】この磁気エンコーダは、長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアと、その磁気メディアの表面上を長手方向に沿って摺動しつつ、磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサ1と、磁気センサ1を支持し、磁気センサ1を磁気メディアの表面に付勢するサスペンションとを備える。磁気メディアは、例えば円筒状の回転体の外面に、その長手方向が回転体の回転方向と一致するように取り付けられている。磁気センサ1は、基体21上に設けられた磁気抵抗効果素子22と、それを覆う第2および第3の絶縁層Z2,Z3とを有する。磁気メディアと対向する対向面1Sは、磁気メディアの長手方向に沿った断面において、磁気抵抗効果素子22の配置された中央領域WR1が最も突出した形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メディアからの磁界の変化を検出する磁気センサ、ならびにそれを備えた磁気エンコーダ、磁気エンコーダモジュールおよびレンズ鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えばカメラのレンズ鏡筒などの回転体の変位(回転角)検出を行うものとして、磁気センサを備えた磁気エンコーダモジュールが使用されている。この種の磁気エンコーダモジュールでは、磁気抵抗効果素子などのセンサ素子を含む磁気センサにより、回転体に固定され、例えば正反対の磁化方向を有する2種の着磁領域が回転方向に沿って交互に配置された磁気メディアからの磁界の変化を検出する。
【0003】
近年、より高精度の回転角制御の要求から、この種の磁気エンコーダモジュールの高分解能化が進んでいる。高分解能化に伴い、磁気メディアと磁気センサとの間隔(ギャップ)の影響が大きくなることから、そのギャップを一定に維持することが要求される。高分解能化に対応するには、磁気センサを磁気メディアに接触させつつ摺動させる構造が有利であり、既にそのような接触式の磁気エンコーダモジュールに関する提案がなされている(特許文献1〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−205808号明細書
【特許文献2】特開2002−250638号明細書
【特許文献3】特開2003−139567号明細書
【特許文献4】特開2003−240603号明細書
【特許文献5】特開2003−315659号明細書
【特許文献6】特開2003−344105号明細書
【特許文献7】特開2006−64381号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1〜6はいずれも磁気センサを取り付ける支持部材の構造に関するものであり、磁気センサ自体のローリングに基づくギャップ変動について考慮されたものではない。ここでいうローリングとは、回転体の回転軸と並行な回転軸を中心とする磁気センサの回転変位である。通常、磁気センサは、平面基板上にセンサ素子が設けられた構造を有している。このため、磁気センサのローリングが生じると、曲面である回転体の表面に沿って設けられた磁気メディアからセンサ素子が離れることとなり、上記のギャップ変動が生じる。このようなギャップ変動は分解能の向上の妨げとなり、好ましくない。また、上記特許文献7は、回転体の直径に対し、回転体の回転方向における磁気センサの幅を極めて狭小なものとすることで磁気センサのローリングに起因するギャップ変動を低減している。しかしながら、今後のさらなる高分解能化により、例えば10μm程度の分解能を実現するにあたり、磁気センサの幅の狭小化のみでは十分に対応できない場合も想定される。
【0006】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その目的は、より高精度の磁界検出を可能とする磁気センサ、ならびにそれを備えた磁気エンコーダ、磁気エンコーダモジュールおよびレンズ鏡筒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気センサは、長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアの表面上を前記長手方向に沿って摺動しつつ、磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサであって、基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、その磁気抵抗効果素子を覆う保護膜とを備えるものである。ここで磁気メディアと対向する対向面は、長手方向に沿った断面において、磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する。
【0008】
本発明の磁気エンコーダは、長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアと、その磁気メディアの表面上を長手方向に沿って摺動しつつ、磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサと、その磁気センサを支持し、磁気センサを磁気メディアの表面に付勢するサスペンションとを備える。ここで磁気センサは、基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、その磁気抵抗効果素子を覆う保護膜とを有する。磁気センサにおける磁気メディアと対向する対向面は、長手方向に沿った断面において、磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する。
【0009】
本発明の磁気エンコーダモジュールは、円筒状または円柱状をなすと共に、その外面が周回する方向に沿って回転する回転体と、その回転体の外面に取り付けられ、かつ、回転体の周回方向と一致する長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアと、その磁気メディアの表面上を長手方向に沿って摺動しつつ、磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサと、その磁気センサを支持し、磁気センサを磁気メディアの表面に付勢するサスペンションとを備える。ここで磁気センサは、基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、その磁気抵抗効果素子を覆う保護膜とを有する。磁気センサにおける磁気メディアと対向する対向面は、長手方向に沿った断面において、磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する。
【0010】
本発明のレンズ鏡筒は、レンズを保持すると共に前記レンズの光軸を中心として回転する円筒状の回転体と、その回転体の外面に取り付けられ、かつ、回転体の回転方向と一致する長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアと、その磁気メディアの表面上を長手方向に沿って摺動しつつ、磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサと、その磁気センサを支持し、磁気センサを磁気メディアの表面に付勢するサスペンションとを備える。ここで磁気センサは、基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、その磁気抵抗効果素子を覆う保護膜とを有する。磁気センサにおける磁気メディアと対向する対向面は、長手方向に沿った断面において、磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する。
【0011】
本発明の磁気センサ、磁気エンコーダ、磁気エンコーダモジュールおよびレンズ鏡筒では、磁気メディアとの対向面のうち磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出している。このため、磁気メディアの表面上を摺動した際に磁気センサがローリングしたとしても、その対向面が平坦である場合と比較して、磁気抵抗効果素子と磁気メディアの表面との距離(ギャップ)の広がりが低減される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁気センサ、磁気エンコーダ、磁気エンコーダモジュールおよびレンズ鏡筒によれば、磁気メディアとの対向面において磁気抵抗効果素子の配置された部分を最も突出させるようにした。このため、使用時において、ギャップの変動が抑制され、かつ、微小なギャップの維持がなされる。よって、高分解能化を図ることができ、より高精度の磁界検出を安定して実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態としての磁気センサを備えたカメラの全体構成を表す斜視図である。
【図2】図1に示したカメラに搭載された磁気エンコーダの要部構成を表す正面図および側面図である。
【図3】図1に示したカメラに搭載された磁気エンコーダの要部構成を表す斜視図および分解斜視図である。
【図4】図2および図3に示した磁気エンコーダにおける磁気センサの構成を表す斜視図である。
【図5】図4に示した磁気エンコーダにおける磁気センサの要部構成を表す正面図である。
【図6】図2に示した磁気エンコーダが磁気メディアの表面に対して傾いた状態を表す正面図である。
【図7】図2に示した磁気エンコーダが磁気メディアの表面に対して傾いた状態を拡大して表す正面図である。
【図8】従来の磁気エンコーダが磁気メディアの表面に対して傾いた状態を拡大して表す正面図である。
【図9】本発明の磁気センサにおける傾斜角とギャップとの関係を表す特性図である(実施例1)。
【図10】本発明の磁気センサにおけるギャップと出力との関係を表す特性図である(実施例1)。
【図11】本発明の磁気センサにおける、磁気メディア上の基準位置からの誤差とギャップとの関係を表す特性図である(実施例2)。
【図12】本発明の第1の変形例としての磁気センサの要部構成を表す正面図である。
【図13】本発明の第2の変形例としての磁気センサの要部構成を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1(A)は本発明の一実施の形態としての磁気センサを備えた撮像装置の全体構成を表す斜視図である。この撮像装置は例えば一眼レフレックスタイプのデジタルスチルカメラであり、外装部材としての本体10の被写体側の面(前面)に、着脱可能なレンズ鏡筒11が取り付けられたものである。
【0016】
図1(B)は、この撮像装置におけるレンズ鏡筒11の構成を表す分解斜視図である。レンズ鏡筒11は、フォーカスリング12と、フォーカスレンズ群を有する前部レンズ鏡筒13と、ズームレンズ群を有する後部レンズ鏡筒14と、ズームリング15と、マウントリング16とを備えている。後部レンズ鏡筒14には、磁気エンコーダ17が取り付けられている。
【0017】
後部レンズ鏡筒14は、ズーミングの際に回転する回転筒14Aと、ズーミングの際に回転しない固定筒14Bとを有する。回転筒14Aにはズームレンズ群が保持されており、回転筒14Aの回転動作により、固定筒14Bに対してズームレンズ群が光軸方向へ移動するように構成されている。なお、このレンズ鏡筒11では、例えば物体側からみて回転筒14Aは左回転したときに繰り出し、右回転したときに沈胴するようになっている。磁気エンコーダ17は、回転筒14Aの外周面に固定され、光軸と直交する回転方向に沿って延在する磁気メディア17Aと、固定筒14Bに保持された磁気センサアセンブリ17Bとを有する。磁気メディア17Aは、回転筒14Aの回転方向と一致する長手方向において、例えば正反対の磁化方向を有する2種の着磁領域が交互に配置された帯状の磁性部材である。なお、表面17ASを覆うように保護膜(図示せず)を設けるようにしてもよい。磁気センサアセンブリ17Bは、後述するように、磁気センサ1を備えている。
【0018】
図2(A),2(B)に、磁気エンコーダ17の要部構成を拡大して表す。図2(A)は、光軸方向(Z方向)に沿って被写体から眺めた磁気エンコーダ17の正面図であり、図2(B)は、光軸と直交する側方から眺めた磁気エンコーダ17の側面図である。また、図3(A)は、磁気エンコーダ17の斜視構成を拡大して表した斜視図であり、図3(B)は、磁気エンコーダ17の要部を分解して表した分解斜視図である。
【0019】
図2および図3に示したように、磁気センサアセンブリ17Bは、磁気センサ1と、この磁気センサ1が立設するように固定された平板状の台座2と、この台座2が固定されたサスペンション3と、先端部にサスペンション3が固定されたフレキシブルプリント回路基板4(以下、単にFPC基板4という。)とを備える。サスペンション3の後方の他端(磁気センサ1が保持された一端と反対側の端部)は、台座5を介してFPC基板4に固定されている。
【0020】
磁気センサ1は、図2(B)に示したように、その対向面1Sを磁気メディア17Aの表面17ASと接触させ、その状態のまま磁気メディア17Aの長手方向に沿って摺動しつつ、磁気メディア17Aからの磁界を検出するものである。サスペンション3は、例えば弾性を有するステンレス薄板からなり、台座2を介して磁気センサ1を支持し、磁気センサ1を磁気メディア17Aの表面17ASに付勢するものである。
【0021】
図4は、磁気センサ1を拡大して表す分解斜視図である。また、図5は、光軸方向に沿って被写体から眺めた磁気センサ1の正面図である。よって、図5においては、紙面と直交する方向が光軸方向(Z方向)であり、紙面左右方向が回転筒14Aの回転方向Rである。磁気センサ1は、レンズ鏡筒11の光軸に沿って延在する細長い直方体状の基体21の一表面に、第1の絶縁層Z1と、第2の絶縁層Z2と、第3の絶縁層Z3とが順に積層されたものである。第1の絶縁層Z1の平坦な表面Z1S(基体21と反対側の面)には、光軸に沿って延在する4つの磁気抵抗効果素子22が、回転筒14Aの回転方向R(回転筒14Aの表面の接線方向)において並ぶように形成されている。第1の絶縁層Z1には、それらの磁気抵抗効果素子22と接続された複数のリード線23(図4では省略)が埋設されている。磁気抵抗効果素子22としては、例えばGMR素子やTMR素子を用いることができる。4つの磁気抵抗効果素子22は、第2の絶縁層Z2によって覆われている。リード線23は、第1の絶縁層Z1の表面Z1Sに露出した接続部24と接続されている。接続部24は、第2の絶縁層Z2および第3の絶縁層Z3を貫く接続部25(図4参照)によって、第3の絶縁層Z3の表面に設けられたパッド26(図4参照)と接続されている。これにより、磁気抵抗効果素子22の抵抗変化を検出することができるようになっている。
【0022】
磁気センサ1における磁気メディア17Aと対向する対向面のうち、磁気抵抗効果素子22が設けられた光軸方向における先端領域が接触領域ZRとなる。すなわち、レンズ鏡筒11の動作時において、接触領域ZRでは、第3の絶縁層の表面Z3S(基体21と反対側の面)と磁気メディア17Aの表面17ASとが相互に接しつつ、回転筒14Aの回転方向Rに沿って相対位置が変化することとなる。
【0023】
図5に示したように、磁気センサ1における磁気メディア17Aと対向する対向面1Sは、磁気メディア17Aの長手方向に沿った断面(光軸と直交する断面)において、磁気抵抗効果素子22の配置された中央部分が最も突出した形状を有している。具体的には、4つの磁気抵抗効果素子22は、回転筒14Aの回転方向R、すなわち磁気センサ1の幅方向における中央領域WR1に設けられている。第3の絶縁層Z3は、4つの磁気抵抗効果素子22と重複する中央領域WR1を覆うように設けられている。第3の絶縁層Z3の幅W3は例えば50μmである。第2の絶縁層Z2の幅W2は、第3の絶縁層Z3の幅W3よりも広く、例えば114μmである。また第1の絶縁層Z1の幅W1は、基体21と同じく例えば150μmである。なお、第1の絶縁層Z1の幅方向における端部は面取りがなされており、斜面26が形成されているとよい。このような構成により、対向面1Sは、その幅方向(回転方向R)において中央領域WR1に位置する部分が端部領域WR2,WR3に位置する部分よりも突出した状態となっている。なお、第2の絶縁層Z2の厚さは例えば0.25μmであり、第3の絶縁層Z3の厚さは例えば0.35μmである。また、図5では、対向面1Sが幅方向において左右対称な形状を有する場合を例示している。
【0024】
また、対向面1Sの最大傾斜角度θは0.2°以上2.0°以下であることが望ましい。ここでいう最大傾斜角度とは、光軸と直交する断面において、対向面1Sのうちの最も突出した箇所を含む2以上の箇所と接する仮想面が、磁気抵抗効果素子22の配列方向(すなわち第1の絶縁層Z1の表面と平行な方向)に対してなす角度のうち最大の値をいう。例えば図5に示した構成例では、対向面1Sのうちの最も突出した部分である第3の絶縁層Z3の端縁P1と、第2の絶縁層Z2の端縁P2との双方と接する平面Lが面方向Sに対してなす角度である。最大傾斜角度θが0.2°以上であれば、磁気センサ1のローリングに伴うギャップG(後出)の変動が十分に小さく抑えられる。また、最大傾斜角度θが2.0°以下であれば、磁気メディア17の表面17ASと磁気抵抗効果素子22との微小な距離が確保され、磁気メディア17の形成する磁界を磁気抵抗効果素子22によって高い感度で検出することができる。その上、例えば磁気抵抗効果素子22を覆う第3の絶縁層Z3の厚さを抑えることができるので、生産効率の面で有利となる。
【0025】
基体21は、例えばアルティック(Al23−TiC)によって形成されている。リード線23、接続部24,25およびパッド26は、例えば銅(Cu)等の導電体材料から形成されている。第1〜第3の絶縁層Z1〜Z3は、例えば酸化アルミニウム(Al2 3 )などの非磁性絶縁材料からなり、例えばスパッタリング法や蒸着法などの気相成長法により形成されるものである。また、第1の絶縁層Z1の上に形成される第2および第3の絶縁層Z2,Z3については、例えばリフトオフ法によりパターニングを行うことで、図5に示したように幅W2を幅W1よりも小さくし、幅W3を幅W2よりも小さくすることができる。但し、最上層となる第3の絶縁層Z3は、保護膜としての機能を十分に発揮するようにするため、多層膜であってもよい。第3の絶縁層Z3は、例えば、第2の絶縁層Z2の上に、Al2 3 膜とダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜とが積層されてなる2層構造であり、より好ましくは、Al2 3 膜とシリコン(Si)膜とDLC膜とが積層されてなる3層構造である。このような多層膜構造とすることにより、摩擦抵抗を低減化および摩耗量の減少化を図ることができる。
【0026】
なお、センサなどの電子部品の一部が他の部材と接触して動作する場合、その接触面積を低減する等の目的のために、研磨法あるいはキャスト法によって接触部分の一部を突出した形状とすることは広く知られている。これに対し、本実施の形態では、最大傾斜角度θが2.0°以下という精密に規定された突出形状を実現するために、スパッタリング法、蒸着法などの気相成長法を用いて段階的に複数の絶縁層を積層することで、多段の(階段状の)積層構造からなる保護膜を形成し、その内部に磁気抵抗効果素子22を埋設するようにした。
【0027】
このように構成されたレンズ鏡筒11では、磁気センサ1によって回転筒14Aの回転量を検出することにより、ズームレンズ群の光軸方向での移動量を求めるようになっている。具体的には、図2(A),2(B)などに示したように磁気センサ1を表面17ASと接触させた状態とし、回転筒14Aと一体化された磁気メディア17Aの回転による磁界変化を磁気センサ1によって読み取ることにより、回転筒14Aの回転角を検出する。回転筒14Aの回転角とズームレンズ群の光軸方向の移動量との関係は一定であることから、ズームレンズ群の光軸方向の移動量が求まる。
【0028】
ここで、磁気センサ1における第1の絶縁層Z1の表面は、図2(B)に示した理想状態において、磁気メディア17Aの表面17ASの接線方向と平行である。このとき、磁気抵抗効果素子22と磁気メディア17Aの表面17ASとのギャップGは、表面17ASを覆う保護膜の厚さを考慮しない場合、磁気抵抗効果素子22を覆う第2および第3の絶縁層Z2,Z3の合計の厚さ(例えば0.60μm)とほぼ同等である(図5参照)。ところが、実際には、サスペンション3による付勢力の左右バランスや対向面1Sと表面17ASとの摩擦力により、磁気センサ1は傾きを生じる。例えば図6(A)に示したように、回転筒14Aが紙面右方向へ回転した場合、表面17ASの接線方向に対し、磁気抵抗効果素子22が形成された第1の絶縁層Z1の表面は右上がりの傾斜(このときの傾斜角をαとする)を有することとなる。一方、回転筒14Aが紙面左方向へ回転した場合には、図6(B)に示したように、表面17ASの接線方向に対し第1の絶縁層Z1の表面は左上がりの傾斜を有することとなる。本実施の形態では、磁気センサ1が磁気メディア17Aの表面17ASに対して傾いた場合であっても、図7に示したように、表面Z3Sの幅方向の中心位置と表面17ASとのギャップΔ1が生じるが、その大きさは微小である。対向面1Sが中央領域WR1において最も突出し、その両側の端部領域WR2,WR3では中央領域WR1よりも後退した形状を有するからである。具体的には、磁気センサ1が傾くことにより、最も表面17ASから離れた位置となる磁気抵抗効果素子22と、表面17ASとのギャップG1は、図2(B)に示した理想状態におけるギャップGよりも僅かに大きくなるにすぎない。
【0029】
これに対し、例えば図8に示した従来の磁気センサ101においては、基体21の上に順に積層された第1〜第3の絶縁層Z1〜Z3は全て同じ幅W1を有しており、第3の絶縁層Z3の表面が平坦な対向面101Sを形成している。このため、磁気センサ101のローリングが生じると磁気抵抗効果素子22と磁気メディア17Aの表面17ASとの距離が大幅に増大してしまう。具体的には、磁気センサ101が傾くことにより、図8において、表面Z3Sの幅方向の中心位置と表面17ASとのギャップΔ2(>Δ1)が生じる。その結果、最も表面17ASから離れた位置となる磁気抵抗効果素子22と表面17ASとのギャップG2が、図7におけるギャップG1よりも大きくなる。このため、磁気センサ101の出力が不安定となり、磁気メディア17Aによる磁界変化を確実に検出することが困難となる。
【0030】
このように、本実施の形態では、磁気センサ1の、磁気メディア17Aとの対向面1Sにおいて、磁気抵抗効果素子22の配置された部分を他の部分よりも突出させるようにした。これにより、磁気センサ1のローリングに伴うギャップGの変動を低減することができるので、着磁領域の配置ピッチが例えば10μm程度まで狭小化した磁気メディア17Aであっても、その磁界変化を高い精度で確実に安定して検出することができる。
【0031】
なお、図8に示した磁気センサ101においても、幅W1を極めて小さく(例えば図7の幅W3と同程度と)すれば、理論上は磁気センサ1と同様の効果が得られる。しかしながら、現実には、磁気センサ1を製造するにあたり、基体21の強度、磁気抵抗効果素子22のパターニング精度(平面形状の加工精度)、リード線23やパッド26の幅寸法の確保などを考慮すると、幅W1を50μm以下とすることは極めて困難である。また、基体21のうち、磁気抵抗効果素子22が形成される中央領域WR1のみを残して他の部分(両端領域WR2,WR3に対応する部分)を機械加工により切削することで、中央領域WR1のみを突出させる方法も考えられる。しかしながら、これについても加工精度や生産性の観点からみて現実的な方法とは言い難い。したがって、本願発明における幅W1の好適な範囲は50μm〜500μmであり、より好ましくは100μm〜250μmである。また、通常、カメラのレンズ鏡筒の半径は25〜30mm程度であるので、磁気メディア17の表面17ASの曲率半径Aと磁気センサ基体の幅Bとの比A/Bは50〜600程度であり、好ましくは100〜300程度となる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例について以下に説明する。
【0033】
(実施例1)
図9における曲線C91は、上記実施の形態の磁気センサ1において、磁気センサ1の傾斜角αとギャップΔ1との関係を表したものである。ここで、幅W1は150μm、幅W2は114μm、幅W3は50μm、第2の絶縁層Z2の厚さを0.25μm、第3の絶縁層Z3の厚さを0.35μmとした。このとき、磁気センサの対向面における最大傾斜角度は0.74°となる。また、磁気メディア表面の曲率半径については30.0mmとした。図9において、横軸が傾斜角α(第1〜第3の絶縁層Z1〜Z3の各表面と、磁気メディア17Aの表面17ASとのなす角)を表し、縦軸がギャップΔ1を表す。ここでギャップΔ1は、第3の絶縁層Z3の表面における磁気メディア17の移動方向(長手方向)に沿った中心位置と、表面17ASとの間隔を意味する(図7参照)。また図10は、磁気センサ1におけるギャップΔ1と出力との関係を表す特性図である。ここでの磁気センサ1は、上記図9で用いたものと同じものである。図10において、横軸はギャップG(μm)を表し、縦軸は規格化された磁気センサ1の出力を表す。図10における曲線C11〜C13は、それぞれ、磁気メディア17における着磁領域の配置ピッチ(周期)が5μm,10μm,20μmの場合のシミュレーションによる計算値を表し、曲線C14は配置ピッチが10μmの場合の実測値を表す。ここで、磁気メディア17の表面17ASは、1.4μmの厚さを有する保護膜によって覆われているとする。すなわち、図10におけるギャップGは、表面17ASを覆う保護膜の厚さ1.4μmと、第2の絶縁層Z2の厚さ0.25μmと、第3の絶縁層Z3の厚さ0.35μmとを全て含めた値を示している。したがって、図10では、ギャップG=2.0μmが傾斜角α=0°(すなわち、ギャップΔ1=0)に相当しており、ギャップGが2.0μmを超える領域において磁気センサ1の傾きが生じていることを表している。なお、図10では、ギャップGが0のときの出力を1として規格化している。図10に示したように、相対出力が半分(0.5)となるのはギャップG=3.2μm(ギャップΔ1=1.2μm)のときである。このとき傾斜角αは±1.5°程度まで許容される(図9参照)。
【0034】
(比較例1)
図9における曲線C92は、比較例としての磁気センサ101(図8参照)における傾斜角αとギャップΔ2との関係を表したものである。この比較例において、0.5以上の相対出力が得られるギャップΔ2≦1.2μmに対応する傾斜角αの範囲は±1.0°程度である(図9参照)。
【0035】
現在の技術水準において、サスペンション3および台座2における、磁気センサ1を搭載する搭載面は、±1.5°程度以内の傾斜面を含んでいる。よって、従来の磁気センサ101のように傾斜角αの許容範囲が±1.0°であるとするならば、製造時の歩留まりが例えば65%に低下することになる。本願発明の磁気センサ1を採用することで、サスペンション3および台座2における搭載面の傾斜を許容することができるので、製品の歩留まりを65%から99%に改善することが可能である。
【0036】
(実施例2)
図11(A)は、磁気センサ1の傾斜角αが0°〜4°の範囲で変化した場合の、磁気メディア17上の基準位置からの接線方向の誤差(mm)とギャップΔ1との関係を表す特性図である。但し、幅W3を90μmとし、磁気メディア表面の曲率半径を25.0mmとした点を除き、他は実施例1と同様の条件である。
【0037】
(比較例2)
図11(B)は、磁気センサ101の傾斜角αが0°〜4°の範囲で変化した場合の、磁気メディア17上の基準位置からの誤差(mm)とギャップΔ2との関係を表す特性図である。但し、幅W3を90μmとし、磁気メディア表面の曲率半径を25.0mmとした点が比較例1と異なる。
【0038】
図11(A)と図11(B)との比較により、磁気センサ1では、基準位置に対する配置位置の誤差が生じた場合であっても、磁気センサ101よりもギャップΔを低減可能であることがわかった。
【0039】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態等では、磁気センサの対向面を、高さ位置の異なる複数の平面部分を含む階段状のものとしたが本発明はこれに限定されるものではない。例えば図12に示した本発明の第1の変形例のように、対向面1Sが曲面を含むものとしてもよい。
【0040】
また、上記実施の形態等では、磁気センサが、光軸方向を長手方向とする矩形状の平面パターンを有する4つの磁気抵抗効果素子を含むものとしたが、その形状や配置位置、および設置数は特に限定されない。上記実施の形態等では、例えば磁気抵抗効果素子を幅方向(磁気メディアの回転方向)における中央領域WR1(図5参照)に設けるようにした。しかしながら、本発明では、例えば磁気メディア17Aの回転方向が一方向である場合には、図13に示したように幅方向の中心位置からいずれかの端部に近い領域に設けるようにしてもよい。但し、上記実施の形態の図5に示したように、中央領域WR1に磁気抵抗効果素子を配置することにより、磁気メディアの回転方向の相違に伴う検出誤差を低減できるのでより好ましい。
【0041】
また、上記実施の形態等では、磁気センサが撮像装置におけるレンズ鏡筒に搭載され、レンズを保持する回転筒の回転角を検出する場合について例示して説明したが、本発明の磁気センサはこれに限定されず、他の用途にも適用可能である。例えば電動モーターのシャフトの回転角(回転数)の検出にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…磁気センサ、1S…対向面、2…台座、3…サスペンション、4…FPC基板、5…台座、10…本体、11…レンズ鏡筒、12…フォーカスリング、13…前部レンズ鏡筒、14…後部レンズ鏡筒、14A…回転筒、14B…固定筒、15…ズームリング、16…マウントリング、17…磁気エンコーダ、17A…磁気メディア、17AS…表面、17B…磁気センサアセンブリ、21…基体、22…磁気抵抗効果素子、23…リード線、24,25…接続部、26…パッド、Z1〜Z3…第1〜第3の絶縁層Z3。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアの表面上を前記長手方向に沿って摺動しつつ、前記磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサであって、
基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子を覆う保護膜と
を備え、
前記磁気メディアと対向する対向面は、前記長手方向に沿った断面において、前記磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する
磁気センサ。
【請求項2】
円筒状または円柱状の回転体の回転角を検出する磁気センサであって、
前記磁気メディアは、前記回転体の外周面に、その回転方向が前記長手方向と一致するように取り付けられている
請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁気メディアと対向する対向面は、前記長手方向において中央部分が両端部分よりも突出した形状を有している
請求項1または請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記保護膜は、前記磁気抵抗効果素子の周囲の領域をも覆っており、前記磁気抵抗効果素子を覆う領域において最大の厚さを有している
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記保護膜は、互いに異なる平面形状を有すると共に気相成長により形成された複数の薄膜が積層されたものである
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記保護膜は、階段状に形成された複数の絶縁層からなる
請求項5に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記磁気抵抗効果素子の周囲の領域には、前記磁気抵抗効果素子と接続された端子が設けられている
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記磁気抵抗効果素子は、前記長手方向において並ぶように複数設けられている
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項9】
長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアと、
前記磁気メディアの表面上を前記長手方向に沿って摺動しつつ、前記磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサと、
前記磁気センサを支持し、前記磁気センサを前記磁気メディアの表面に付勢するサスペンションと
を備え、
前記磁気センサは
基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子を覆う保護膜とを有し、
前記磁気メディアと対向する対向面は、前記長手方向に沿った断面において、前記磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する
磁気エンコーダ。
【請求項10】
円筒状または円柱状をなすと共に、その外面が周回する方向に沿って回転する回転体と、
前記回転体の外面に取り付けられ、かつ、前記回転体の回転方向と一致する長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアと、
前記磁気メディアの表面上を前記長手方向に沿って摺動しつつ、前記磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサと、
前記磁気センサを支持し、前記磁気センサを前記磁気メディアの表面に付勢するサスペンションと
を備え、
前記磁気センサは
基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子を覆う保護膜とを有し、
前記磁気メディアと対向する対向面は、前記長手方向に沿った断面において、前記磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する
磁気エンコーダモジュール。
【請求項11】
前記磁気メディアの表面の曲率半径Aと前記磁気センサの基体の幅Bとの比A/Bは50以上600以下であり、
前記長手方向に沿った断面における、前記対向面の最大傾斜角度は0.2°以上2.0°以下である
請求項10記載の磁気エンコーダモジュール。
【請求項12】
レンズを保持すると共に前記レンズの光軸を中心として回転する円筒状の回転体と、
前記回転体の外面に取り付けられ、かつ、前記回転体の回転方向と一致する長手方向において所定のピッチで着磁された帯状の磁気メディアと、
前記磁気メディアの表面上を前記長手方向に沿って摺動しつつ、前記磁気メディアからの磁界を検出する磁気センサと、
前記磁気センサを支持し、前記磁気センサを前記磁気メディアの表面に付勢するサスペンションと
を備え、
前記磁気センサは
基体上に設けられた1以上の磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子を覆う保護膜とを有し、
前記磁気メディアと対向する対向面は、前記長手方向に沿った断面において、前記磁気抵抗効果素子の配置された部分が最も突出した形状を有する
レンズ鏡筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−68543(P2013−68543A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207861(P2011−207861)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】