説明

磁気ディスク用ガラス基板の製造方法

【課題】酸化セリウムの粒子径を大粒径化することなく研磨レートの向上、ひいては生産性の向上を実現する、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】研磨スラリーを研磨布と円形ガラス板の間に供給し、研磨布により円形ガラス板の主表面を研磨する研磨工程と、該研磨スラリーが当該研磨工程で使用された研磨スラリーを含むようにするスラリー循環工程とを有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、該研磨スラリーが、メディアン径が0.3〜3μmである酸化セリウム粒子とアセチレン系界面活性剤とを含有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法および磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ等の情報処理機器に搭載される磁気ディスクに対する高記録密度化の要請は近年強くなっており、このような状況の下、従来のアルミニウム基板に替わってガラス基板が広く用いられるようになってきている(特許文献1)。
【0003】
磁気ディスク用ガラス基板は、例えば、円形ガラス板の中央に円孔を開け、面取り、主表面ラッピング、端面鏡面研磨を順次行い、酸化セリウム系の研磨スラリーによる1段階目の研磨、コロイダルシリカ系の研磨スラリーによる2段階目の研磨により円形ガラス板の主表面を研磨して製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−105168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化セリウム系の研磨スラリーによる1段階目の研磨においては、ラッピング工程で発生した円形ガラス板の主表面のキズを除去する必要性から、長時間の酸化セリウム研磨をおこなっており、生産性の低下の原因となっている。しかしながら、従来のように大粒径の酸化セリウム粒子を用いることで研磨レートを向上させるのは、新たなキズの発生や形状品質の悪化といった問題を引き起こす可能性がある。
【0006】
また、酸化セリウム系の研磨スラリーは、通常繰り返し循環させて利用することが多く、大粒径の酸化セリウム粒子を用いても使用中に粒子が粉砕されてしまい、所望の研磨レートが得られないおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、かかる課題を鑑みてなされたものであり、その目的は酸化セリウムの粒子径を大粒径化することなく研磨レートの向上、ひいては生産性の向上を実現する、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々の添加剤を研磨スラリーに加え、研磨レートを向上させることができないか鋭意検討を重ねた。その結果、研磨レートを向上させることが可能な添加剤としてパーフルオロアルキルカルボン酸塩を見出したが、スラリー循環工程において研磨スラリーに泡立ちが生じてしまい、研磨レートを低下させる、または研磨スラリー循環配管からスラリーが漏出するなどして研磨工程に支障を与えることが判明した。
【0009】
本発明者らは、以下の構成を採用することにより、上記泡立ちの問題も含めて本発明の課題を解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.研磨スラリーを研磨布と円形ガラス板の間に供給し、研磨布により円形ガラス板の主表面を研磨する研磨工程と、該研磨スラリーが当該研磨工程で使用された研磨スラリーを含むようにするスラリー循環工程とを有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
該研磨スラリーが、メディアン径が0.3〜3μmである酸化セリウム粒子とアセチレン系界面活性剤とを含有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
2.アセチレン系界面活性剤が、アセチレンジオール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の少なくともいずれか1種である前項1に記載の製造方法。
3.研磨布が、ショアA硬度が70°以上である前項1または2に記載の製造方法。
4.前項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板。
5.前項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板の上に、記録層となるべき磁性層を含む複数の層が積層されている磁気ディスク。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、大粒子径の酸化セリウムを用いることなく、研磨スラリーを循環させて繰り返し使用した場合において、研磨スラリーの泡立ちを抑制しつつガラスの研磨レートを向上することができる。
【0011】
また、本発明の製造方法によれば、研磨スラリーにイオン性添加剤を添加したときに起こりやすい酸化セリウム砥粒の凝集沈降を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法では、本発明の研磨スラリーを用いる円形ガラス板の主表面の研磨工程以外の製造工程は特に限定されず適切に選択されればよく、典型的には従来公知の工程により処理する。例えば、通常次のような各工程を経て磁気ディスク用ガラス基板を製造する。円形ガラス板の中央に円孔を開け、面取り、主表面ラッピング、端面鏡面研磨を順次行う。その後、このような加工を施した円形ガラス板を積層して内周端面をエッチング処理し、そのエッチング処理された内周端面にたとえばポリシラザン化合物含有液をスプレー法等によって塗布し、焼成して内周端面に被膜(保護被膜)を形成する。次に、内周端面に被膜が形成された円形ガラス板の主表面を研磨して平坦かつ平滑な面とし、磁気ディスク用ガラス基板とする。
【0014】
前記各工程に限らず、例えば、内周端面に対する保護被膜形成に替えて内周端面のブラシ研磨を行ってもよいし、主表面ラッピング工程を粗ラッピング工程と精ラッピング工程に分け、これらの工程の間に形状加工工程(円形ガラス板中央の孔開け、面取り、端面研磨)を設けてもよいし、主表面研磨工程の後に化学強化工程を設けてもよい。なお、中央に円孔を有さないガラス基板を製造する場合には、当然円形ガラス板中央の孔開けは不要である。主表面ラッピングは通常、平均粒径が6〜8μmである酸化アルミニウム砥粒または酸化アルミニウム質の砥粒を用いて行う。
【0015】
本発明の製造方法は、本発明の研磨スラリー(以下、単に研磨スラリーということがある。)を用いて円形ガラス板の主表面を研磨する研磨工程と、該研磨工程で使用された研磨スラリーを循環させるスラリー循環工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0016】
[研磨工程]
この工程は、研磨スラリーを研磨布と円形ガラス板の間に供給し、研磨布により円形ガラス板の主表面を研磨する工程である。研磨スラリーは、酸化セリウム粒子とアセチレン系界面活性剤とを含有する。
【0017】
研磨スラリー中の酸化セリウム粒子のメディアン径は0.3〜3μmが好ましく、0.3〜2.5μmがより好ましく、0.5〜2μmが特に好ましい。メディアン径が0.3μmより小さいと研磨レートが十分でなく、3μmより大きいとキズの原因となる恐れがある。
【0018】
研磨スラリー中の酸化セリウム粒子の濃度は1〜40質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、3〜20質量%が特に好ましい。酸化セリウム粒子の濃度が1質量%より少ないと十分な研磨が進行せず、40質量%より多いと流動性が悪化する。
【0019】
酸化セリウム粒子のTREO(Total Rare Earth Oxides)は、研磨レート向上の観点から、50%以上であることが好ましい。
【0020】
研磨スラリーは研磨レートを高くするためにアセチレン系界面活性剤を含有する。なお、アセチレン系界面活性剤は研磨スラリーの泡立ちを生じさせない、または泡立ちが生じても軽微である。アセチレン系界面活性剤はアセチレンジオール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0021】
研磨スラリー中のアセチレン系界面活性剤の濃度は0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。アセチレン系界面活性剤の濃度が0.01質量%より少ないと研磨レートを高める効果が得られず、10質量%より多いとガラスへの吸着が起こり、研磨レートの低下あるいは有機汚れが発生する恐れがある。
【0022】
アセチレンジオール系界面活性剤は、典型的には、疎水基としてアルキル基を有し、親水基として水酸基を有する構造を有するこのの親水性の領域により、被研磨物との親和性が向上し、良好な研磨レートが得られる。
【0023】
アセチレンジオール系界面活性剤としては、下記式(1)で表される化合物が好ましい。式(1)中のR〜Rは水素原子または低級アルキル基である。
【0024】
【化1】

【0025】
アセチレンジオール系界面活性剤の具体例としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチルー5−デシン4,7−ジオールおよび2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール並びにそれらのポリエトキシレート等を挙げることができる。
【0026】
アセチレンアルコール系界面活性剤は、アセチレンジオール系界面活性剤と同様に、典型的には、疎水基としてアルキル基を有し、親水基として水酸基を有する構造を有することから、良好な研磨レートが得られる。
【0027】
アセチレンアルコール系界面活性剤としては、下記式(2)で表される化合物が好ましい。下記式(2)中のR〜Rは水素原子または低級アルキル基である。
【0028】
【化2】

【0029】
アセチレンアルコール系界面活性剤の具体例としては、例えば、1−ヘプチン−3−オール、1−エチニル−1-シクロヘキサノール、3−ブチン−2−オール、3−ブチン−2−オール、5−ヘキシン−1−オール、5−メチル−1−ヘキシン−3−オールおよび5−フェニル−4−ペンチン−1−オール等を挙げることができる。
【0030】
アセチレンジオール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値は、典型的には8以下である。
【0031】
アセチレンジオール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤は混合して用いてもよい。
【0032】
研磨スラリーのpHは7〜14が好ましく、7〜12がより好ましく、9〜12が特に好ましい。pHが7未満では酸化セリウム粒子が凝集するおそれがあり、14超ではハンドリングに問題が生じるおそれがある。
【0033】
研磨スラリーにはpHを調整する目的で、例えば、リン酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、クエン酸、エチレンジアミン、ピリジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、キサントシン、トルイジン、ピコリン酸、ヒスチジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、2−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、尿酸、硝酸、塩酸、過塩素酸、シュウ酸およびアンモニアからなる群から選ばれる1種以上のpH安定剤およびその塩を含有してもよい。
【0034】
同じ目的で、研磨スラリーにアルカリ金属水酸化物を含有してもよい。
【0035】
また、研磨スラリーには、pH緩衝剤として、例えば、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドおよびテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選ばれる1種以上の4級アンモニウムヒドロキシドを含有してもよい。
【0036】
研磨スラリーの溶媒には水を用い、その水に特に制限はないが、他の剤に対する影響、不純物の混入、pH等への影響の観点から、例えば、純水、超純水、イオン交換水を好ましく使用することができる。その他、研磨スラリーには必要に応じて各種成分を添加してもよい。
【0037】
研磨布としては、ショアA硬度が好ましくは70°以上、より好ましくは80°以上であり、典型的には独立気泡を有するものを使用する。研磨布のショアA硬度が70°未満では、研磨レートを高くできない恐れがある。また、独立気泡を有する研磨布を用いることにより、研磨布に十分な研磨スラリーが保持され、研磨効率の向上が期待できる。このような研磨布としては、例えば、発泡ポリウレタン、多孔質樹脂等からなるものが挙げられる。また、研磨スラリーの供給を促進させたり、研磨スラリーが一定量溜まるようにするために、研磨パッドの表面に、格子状、同心円状、らせん状などの溝加工がなされていてもよい。
【0038】
研磨圧力は、4kPa以上であることが好ましい。研磨圧力が4kPa未満では研磨時のガラス基板の安定性が低下してばたつきやすくなり、その結果主表面のうねりが大きくなるおそれがある。
【0039】
主表面の研磨量は、10〜40μmが適当であり、研磨液の供給量や研磨時間、研磨液中の酸化セリウム粒子濃度、研磨圧力、回転数等を調整する。
【0040】
上記の円形ガラス板の主表面研磨の後、洗浄、乾燥して磁気ディスク用ガラス基板が得られる。洗浄および乾燥は限定されないが通常は従来公知の方法で行う。例えば、酸性洗剤溶液への浸漬、アルカリ性洗剤溶液への浸漬、ベルクリンおよびアルカリ洗剤によるスクラブ洗浄、アルカリ性洗剤溶液への浸漬した状態での超音波洗浄、および純水浸漬状態での超音波洗浄を順次行った後、スピンドライ乾燥またはイソプロピルアルコール蒸気乾燥等の方法で乾燥する。
【0041】
[スラリー循環工程]
この工程は、研磨工程で使用した研磨スラリーを、循環させて研磨工程に供する工程である。研磨スラリーの循環は限定されないが通常は、従来公知の方法によることができ、例えば、特開2001−64039号公報に記載の方法が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。例1−5が実施例、その他が比較例である。
【0043】
[被験体の作製]
フロート法で成形されたシリケートガラス板を、外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmのガラス基板が得られるようなドーナツ状円形ガラス板(中央に円孔を有する円形ガラス板)に加工した。尚、内周面及び外周面の研削加工はダイヤモンド砥石を用いて行い、ガラス板上下面のラッピングは酸化アルミニウム砥粒を用いて行った。
【0044】
次に、内外周の端面を、面取り幅0.15mm、面取り角度45°となるように面取り加工を行った。内外周加工の後、研磨材として酸化セリウムスラリーを用い、研磨具としてブラシを用い、ブラシ研磨により端面の鏡面加工を行った。加工量は半径方向の除去量で30μmであった。
【0045】
[研磨スラリーの調製]
(例1)
酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)20g、アセチレンジオール系界面活性剤(サーフィノール104PA、エアープロダクツジャパン社製、有効成分50質量%、HLB4)0.2g、純水179.8gを混合し、砥粒濃度10質量%、界面活性剤濃度0.05質量%の研磨スラリーA1を得た。
また、例1の研磨レート向上を界面活性剤無添加の研磨スラリーに対する比で評価するべく、比較のための研磨スラリーA1’を作製した。すなわち、酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)20g、純水180gを混合し、界面活性剤を含有しない砥粒濃度10質量%の研磨スラリーA1’を作製した。
【0046】
(例2および3)
界面活性剤濃度を表1に示すように変化させた以外は、例1と同様に研磨スラリーA2(例2)、A3(例3)を調製した。また、比較のために、例1と同様に研磨スラリーA2、A3に対応する界面活性剤無添加研磨スラリーA2’、A3’を作製した。
【0047】
(例4および5)
酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)2.5kg、アセチレンジオール系界面活性剤(サーフィノール104PA、エアープロダクツジャパン社製、有効成分50質量%、HLB4)0.25kg、純水22.475kgを混合し、砥粒濃度10質量%、界面活性剤濃度0.05質量%の研磨スラリーA4(例4)、A5(例5)を得た。
また、研磨スラリーA4、A5で界面活性剤濃度を0とした比較のための研磨スラリーA4’、A5’を作製した。
【0048】
(例6)
酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)20g、パーフルオロアルキルカルボン酸塩系界面活性剤(サーフロン、AGCセイミケミカル社製、有効成分100質量%)0.1g、純水179.9gを混合し、砥粒濃度10質量%、界面活性剤濃度0.05質量%の研磨スラリーB1を得た。
また、研磨スラリーB1で界面活性剤濃度を0とした比較のための研磨スラリーB1’を作製した。
【0049】
(例7)
界面活性剤濃度を0.5質量%とした以外は、例6と同様に研磨スラリーB2を調製した。
また、研磨スラリーB2で界面活性剤濃度を0とした比較のための研磨スラリーB2’を作製した。
【0050】
(例8)
酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)20g、ポリエーテルアミン系界面活性剤(ED600、ハンツマン社製、有効成分100質量%)2g、純水178gを混合し、砥粒濃度10質量%、界面活性剤濃度1質量%の研磨スラリーC1を得た。
また、研磨スラリーC1で界面活性剤濃度を0とした比較のための研磨スラリーC1’を作製した。
【0051】
(例9)
酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)2.5kg、ポリエーテルアミン系界面活性剤(ED600、ハンツマン社製、有効成分100質量%)0.25kg、純水22.25kgを混合し、砥粒濃度10質量%、界面活性剤濃度1質量%の研磨スラリーC2を得た。
また、研磨スラリーC2で界面活性剤濃度を0とした比較のための研磨スラリーC2’を作製した。
【0052】
(例10)
酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)20g、アセチレンアルコール系界面活性剤(試薬:1−オクチン−3−オール、有効成分100質量%)1g、純水179gを混合し、砥粒濃度10質量%、界面活性剤濃度0.5質量%の研磨スラリーD1を得た。
また、研磨スラリーD1で界面活性剤濃度を0とした比較のための研磨スラリーD1’を作製した。
【0053】
(例11)
酸化セリウム(E30、三井金属社製、平均粒径:1.2〜1.6μm)20g、アセチレンアルコール系界面活性剤(試薬:3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、有効成分100質量%)1g、純水179gを混合し、砥粒濃度10質量%、界面活性剤濃度0.5質量%の研磨スラリーD2を得た。
また、研磨スラリーD2で界面活性剤濃度を0とした比較のための研磨スラリーD2’を作製した。
【0054】
上記の方法で得られた例1〜9の研磨スラリーの特性を下記の方法により評価した。その結果を表1に示すが、例1〜5、10および11が実施例、その他が比較例である。
【0055】
(1)pH
研磨スラリーのpHは、D−54(HORIBA社製)で測定した。
【0056】
(2)泡立ち評価
研磨スラリーの泡立ちは、250mlの蓋付き容器に100gの研磨スラリーを投入し、30秒間振とうした後、発生した泡がなくなるまでの時間を測定した。発生した泡がなくなるまでの時間が短いほど、研磨スラリーの泡立ちが抑制されていることになる。表中に「直後」と記載したものは振とう後直ちに泡がなくなったことを示す。
【0057】
(3)分散性評価
研磨スラリー中の酸化セリウム粒子の分散性を評価するためには、HORIBA社製のLA−950V2により、研磨スラリーの粒度分布測定をおこない、メディアン径を算出した。メディアン径が小さいほど、酸化セリウム粒子の凝集が抑制されていることになる。メディアン径は2μm以下であることが好ましい。
【0058】
[主表面の研磨]
上記の被験体の主表面を、上記の研磨スラリーを循環させながら下記条件により50分間研磨した。次いで、研磨後の被験体を、酸性洗剤溶液への浸漬、アルカリ性洗剤溶液への浸漬、ベルクリン及びアルカリ洗剤によるスクラブ洗浄、アルカリ性洗剤溶液への浸漬、純水浸漬状態での超音波洗浄を順次行い、スピンドライ乾燥した。尚、研磨液を交換する度に、研磨パッドを、純水を供給しながら3分間ブラシ洗浄を行った。その後、研磨レートを測定した。また、各例の研磨レートを比較評価するために、各例の研磨スラリーで界面活性剤を無添加とした研磨スラリーを用いて同様にして研磨レートを測定した。
【0059】
研磨機:

片面研磨機(FAM12B、スピードファム社製)(例1−3、6−8、10、11)
研磨スラリー供給速度:100ml/分
定盤周速:40rpm
研磨パッド:FX8H(ショアA硬度93、フジボウ社製)(独立気泡タイプ)
研磨圧:12kPa(例1−3、6−8、10、11)

両面研磨機(DSM9B、スピードファム社製)(例4、5、9)
研磨スラリー供給速度:3L/分
下定盤周速:35rpm
研磨パッド:FX8H(ショアA硬度93、フジボウ社製)(独立気泡タイプ)
研磨圧:6kPa(例4)、8.5kPa(例5、9)
【0060】
[研磨レート]
研磨レートは、研磨前後の重量変化と研磨面積、被研磨物密度により求めた。表1に、界面活性剤を無添加とした研磨スラリーを用いた場合の研磨レートを1とした相対値(研磨レート比)で研磨レートを示す。たとえば、例1の研磨レートは研磨スラリーA1での研磨レートを比較のための研磨スラリーA1’での研磨レートで除したものを例1の研磨レート比とする。なお、研磨レート比は1.03以上であることが好ましい。1.03未満では実質的に研磨レートが向上したとは言いにくい。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示したように、本発明に従い、アセチレンジオール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤を研磨スラリーに添加した例1〜5、10および11では研磨レートが向上した。また、アセチレンジオール系界面活性剤またはアセチレンアルコール系界面活性剤を添加した例1〜5、10および11の研磨スラリーは、泡切れが良好であり、酸化セリウム砥粒の分散性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の方法は、磁気ディスク用ガラス基板の製造に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨スラリーを研磨布と円形ガラス板の間に供給し、研磨布により円形ガラス板の主表面を研磨する研磨工程と、該研磨スラリーが当該研磨工程で使用された研磨スラリーを含むようにするスラリー循環工程とを有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
該研磨スラリーが、メディアン径が0.3〜3μmである酸化セリウム粒子とアセチレン系界面活性剤とを含有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
アセチレン系界面活性剤が、アセチレンジオール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の少なくともいずれか1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
研磨布が、ショアA硬度が70°以上である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって製造された磁気ディスク用ガラス基板の上に、記録層となるべき磁性層を含む複数の層が積層されている磁気ディスク。

【公開番号】特開2011−110637(P2011−110637A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267684(P2009−267684)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】