説明

磁気光学スペクトル分光装置、磁気光学スペクトル測定方法およびプログラム

【課題】磁気光学効果として観測される信号の絶対値を校正すると共に効率よく測定する。
【解決手段】磁気光学スペクトル分光装置1は、偏光面の角度φ,φが調整可能な回転機構付き直線偏光板4,7と、回転偏光子法を用いた各直線偏光板4,7における偏光面の角度別のそれぞれの測定値41に基づいてカー回転角の絶対値43をそれぞれ算出する第1算出手段51と、カー回転角の絶対値43と第1直線偏光板4における偏光面である入射光偏光面の角度φ1との相関の有無を判別する相関判別手段52と、相関が無いと判定された場合、偏光変調法を用いた測定値42に基づいて試料のカー回転角のスペクトル44を算出する第2算出手段53と、スペクトル44におけるカー回転角の値をカー回転角の絶対値43に適合させる乗算を行い、校正されたスペクトルを当該試料の磁気光学特性のスペクトル45として算出する第3算出手段54とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学分光法に係り、特に磁気光学スペクトル測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光は、電場と磁場が振動する波である。電場と磁場が一方向に揃えられて振動する光を直線偏光といい、電場の振動方向を偏光面という。磁場中に存在する物質に直線偏光を照射すると、光は物質の持つ旋光性により偏光面が回転する。これを磁気光学効果という。磁気光学効果は、光磁気ディスクや光スイッチなどに応用されており、さまざまな材料における研究が進められている。加えて、近年のスピントロニクス研究の急速な進歩により、磁性体材料の磁気光学スペクトルを高速、高精度、そして安価に観測する手法の確立が求められている。
【0003】
磁気光学効果の測定方法としては、例えば、回転偏光子法や偏光変調法が知られている(特許文献1参照)。回転偏光子法と偏光変調法には、以下に示す利点と欠点がある。回転偏光子法は、観測された磁気光学信号(magneto-optical信号:以下、MO信号という)の絶対値が決定できるが、測定に時間がかかる。一方、偏光変調法は、MOスペクトルが効率よく測定できるが、MO信号の絶対値が決定できない。これまで磁気光学効果の波長依存性、いわゆる磁気光学スペクトルは、主に、偏光変調法により観測されてきた。この偏光変調法による測定方法は、既に非特許文献1において詳しく解説されており、測定装置も市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−294293号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤勝昭著、「光と磁気」、朝倉出版、2001年11月20日、p.90−115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、MOスペクトルを測定するために偏光変調法を用いた市販の測定装置は、製品として出荷される前に工場において予め校正されているので、測定現場においてMO信号の絶対値が直接決定できるとされている。つまり、この従来の測定装置は、測定現場で得られた測定結果を、工場で一回校正したパラメータを使って校正して、MO信号の絶対値を得ている。ところが、現場の実験条件や光弾性変調器の特性変化などにより校正条件が変化する可能性がある。したがって、校正条件に合わせて測定毎に現場で校正を毎回行うことが理想的であり、磁気光学分光計を用いる研究分野では、測定のたびに磁気光学分光計を校正し直すことが要望されている。しかしながら、従来の測定装置は、測定のたびに校正し直すことができないため、データの信頼性に疑問が残る。
【0007】
また、試料の反射光で観測されるMO信号は、原理的には、極カー効果、縦カー効果および線二色性の線形和であるが、多くの研究では、反射光から観測される信号が極カー効果により支配されていると仮定している。そのため、偏光変調法を用いた市販の極カー効果測定装置は、磁気光学効果が極カー効果だけに起因するものと仮定して構成されており、入射光が試料表面に対して斜めに照射されるときには必ずしも正しくない。多くの測定装置では、試料に光が斜めに照射されているので、観測されるデータには誤りが含まれる可能性がある。
【0008】
そこで、回転偏光子法と偏光変調法とが、利点と欠点を相互に補完することに着目して双方を組み合わせる手法が考えられる。つまり、偏光変調法でMOスペクトルを観測し、その後に、回転偏光子法でMO信号の校正を行えば、正しいMOスペクトルが得られる。しかしながら、回転偏光子法を用いた測定装置と、偏光変調法を用いた測定装置とは異なるため、測定に手間がかかった。
【0009】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、磁気光学効果として観測される信号の絶対値を校正できる磁気光学スペクトル分光装置、磁気光学スペクトル測定方法およびプログラムを提供することを課題とする。
また、本発明は、磁気光学効果として観測される信号を効率よく測定できる磁気光学スペクトル分光装置、磁気光学スペクトル測定方法およびプログラムを提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本願発明者らは、回転偏光子法と偏光変調法の測定装置および測定方法について種々検討を行った。これらの測定装置の違いは、光学測定系に設置される偏光板の角度と、光弾性変調器の有無なので、自動角度調整機能付き偏光子ホルダで偏光板の角度をコンピュータ制御すると共に、光弾性変調器の変調機能のオン/オフをコンピュータ制御することを1つの測定装置で実現できることを見出した。また、大要、以下の(A1)〜(A3)の手順で回転偏光子法と偏光変調法とを1つの測定装置で実現することで、測定効率を飛躍的に向上させることができることを見出した。
(A1)回転偏光子法を用いて、MO信号の絶対値を決定する。
(A2)回転偏光子法を用いて、MO信号の入射光偏光面に対する変化を観測し、その振る舞いからMO信号の起源を決定する。
(A3)偏光変調法を用いてMOスペクトルを観測する。
【0011】
そこで、本発明のうち請求項1に記載の磁気光学スペクトル分光装置は、試料の磁気光学特性のスペクトルを測定する偏光変調法を用いる測定系として配置された光源と、分光器と、第1直線偏光板と、光弾性変調器と、磁場印加手段と、第2直線偏光板と、光検出手段と、ボルトメータと、ロックインアンプと、前記分光器で分光される所定波長の光における波長の切り替えを含む動作を予め設定されたタイミングで制御する制御手段と、前記ボルトメータおよび前記ロックインアンプでそれぞれ測定された電圧値を記憶する記憶手段と、前記記憶された電圧値に基づいて前記試料の磁気光学特性としてカー回転角を算出する演算手段とを備えた磁気光学スペクトル分光装置において、前記各直線偏光板は、回転により偏光面の角度が所定値になるように調整可能な回転機構付き直線偏光板であり、前記制御手段が、第1測定制御手段と、第2測定制御手段とを備え、前記演算手段が、第1算出手段と、相関判別手段と、第2算出手段と、第3算出手段とを備えることとした。なお、偏光変調法を用いる測定系の配置は公知である。
【0012】
かかる構成によれば、磁気光学スペクトル分光装置において、制御手段は、第1測定制御手段によって、前記光弾性変調器の偏光変調機能をオフの状態にして前記各直線偏光板において偏光面の角度をそれぞれ変化させる回転偏光子法を用いて前記ボルトメータにより検出される電圧値を測定するための制御を行い前記偏光面の角度別のそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する。そして、第2測定制御手段によって、前記光弾性変調器の偏光変調機能をオンの状態、かつ、前記各直線偏光板を所定角度に固定し、前記分光器で分光される光の波長を変化させる偏光変調法を用いて前記ボルトメータおよび前記ロックインアンプによりそれぞれ検出される電圧値を測定するための制御を行いそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する。そして、磁気光学スペクトル分光装置において、演算手段は、第1算出手段によって、前記記憶手段に記憶された前記回転偏光子法を用いた前記各直線偏光板における偏光面の角度別のそれぞれの測定値に基づいて前記所定波長におけるカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する。そして、演算手段は、相関判別手段によって、前記所定波長におけるカー回転角の絶対値と、前記第1直線偏光板における偏光面である入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する。
【0013】
ここで、磁気光学効果の1つである極カー効果は、その原理から、入射光偏光面の角度に依存しないので相関が無いが、縦カー効果と線二色性は共に依存するため相関がある。したがって、磁気光学スペクトル分光装置において、前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関が無いと判定された場合、観測された磁気光学効果は極カー効果に起因するので、演算手段は、第2算出手段によって、前記記憶手段に記憶された前記偏光変調法を用いた測定値に基づいて前記試料のカー回転角のスペクトルを算出する。そして、演算手段は、第3算出手段によって、前記第2算出手段で算出されたスペクトルにおけるカー回転角の値を、前記第1算出手段によって算出されたカー回転角の絶対値に適合させる換算値を求め、前記スペクトルにおけるカー回転角の値に対して前記換算値をそれぞれ乗算することで、校正されたカー回転角のスペクトルを当該試料の磁気光学特性のスペクトルとして算出する。
【0014】
また、請求項2に記載の磁気光学スペクトル分光装置は、請求項1に記載の磁気光学スペクトル分光装置において、前記磁場印加手段が、前記試料の面直方向に磁場を印加する面直磁場印加手段と、前記試料の面内方向に磁場を印加する面内磁場印加手段とを備え、前記演算手段の前記相関判別手段が、前記試料の面直方向に磁場が印加されたときの前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関がある場合には、前記試料の面内方向であって光の入射面に平行に磁場が印加されたときの測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無をさらに判別し、これらの間に相関がある場合、前記試料の磁気光学効果には縦カー効果もしくは線二色性の寄与が含まれていると判定することが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、磁気光学スペクトル分光装置は、試料に対して面直方向に磁場を印加した場合の測定値から算出されたカー回転角の絶対値と、当該測定における入射光偏光面の角度との相関があると判別した場合に、試料に対して面内方向に磁場を印加した場合の測定値に基づいて、同様に相関の有無を調べることができる。ここで、縦カー効果は、試料に照射される光の進行ベクトルが面内方向に対する射影ベクトルと磁化ベクトルとの内積に比例することが知られている。また、試料の面直方向に磁場を印加して試料の磁化の向きを制御しながら測定した偏光の回転角が、当該測定における入射光偏光面の角度に依存する場合、それは極カー効果以外の磁気光学効果に起因すると考えられる。したがって、磁気光学スペクトル分光装置によれば、原理的に縦カー効果が現れるような配置で試料の磁化の向きを制御しながら測定した測定値に基づいて相関の有無を調べるので、相関がある場合には、カー回転角が極カー効果ではなく、縦カー効果もしくは線二色性に起因することを判定できる。よって、試料から観測される磁気光学信号によって、極カー効果に起因したスペクトルが得られない場合でも、対象の試料に観測される磁気光学効果が縦カー効果もしくは線二色性に起因することが分かり、なんらかの手段で縦カー効果もしくは線二色性に起因したスペクトルを求めることが可能となる。
【0016】
また、請求項3に記載の磁気光学スペクトル分光装置は、請求項2に記載の磁気光学スペクトル分光装置において、前記演算手段の前記相関判別手段が、前記試料の面内方向であって光の入射面に平行に磁場が印加されたときの測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関がある場合には、前記試料の面内方向であって光の入射面の法線方向に磁場が印加されたときの測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無をさらに判別し、これらの間に相関がある場合、前記縦カー効果の寄与が含まれているとの判定を覆し前記試料の磁気光学効果には線二色性の寄与が含まれていると判定することが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、磁気光学スペクトル分光装置は、原理的に縦カー効果が現れるような配置で試料の磁化の向きを制御しながら測定した測定値に基づいて相関があると判別した場合に、試料の面内方向であって光の入射面の法線方向に磁場を印加した場合の測定値に基づいて、同様に相関の有無を調べることができる。ここで、線二色性は、磁化の面内磁化の大きさと入射光偏光面の角度との相対的な関係に比例することが知られている。そして、原理的に縦カー効果が現れるような印加磁場の配置において得られた信号が縦カー効果もしくは線二色性に起因すると推定されたときに、さらに、原理的に縦カー効果が現れないような配置で磁場を印加して試料の磁化の向きを制御しながら測定した信号においても、カー回転角の絶対値が入射光偏光面の角度になお依存してしまう場合には、原理的には、このときのカー回転角は縦カー効果に起因するとは言えず、残りの可能性として、カー回転角が線二色性に起因していると考えられる。したがって、磁気光学スペクトル分光装置によれば、カー回転角が線二色性に起因することを判定できる。よって、試料から観測される磁気光学信号によって、極カー効果に起因したスペクトルが得られない場合でも、対象の試料に観測される磁気光学効果が線二色性に起因することが分かり、なんらかの手段で線二色性に起因したスペクトルを求めることが可能となる。
【0018】
また、前記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の磁気光学スペクトル測定方法は、試料の磁気光学特性のスペクトルを測定する偏光変調法を用いる測定系として配置された光源と、分光器と、第1直線偏光板と、光弾性変調器と、磁場印加手段と、第2直線偏光板と、光検出手段と、ボルトメータと、ロックインアンプと、制御手段と、記憶手段と、演算手段とを備えた磁気光学スペクトル分光装置における磁気光学スペクトル測定方法であって、前記各直線偏光板は、回転により偏光面の角度が所定値になるように調整可能な回転機構付き直線偏光板であり、第1測定制御ステップと、第1算出ステップと、相関判別ステップと、第2測定制御ステップと、第2算出ステップと、第3算出ステップと、を含んで実行することとした。
【0019】
かかる手順によれば、磁気光学スペクトル測定方法は、第1測定制御ステップにて、前記制御手段によって、前記光弾性変調器の偏光変調機能をオフの状態にして、前記各直線偏光板において偏光面の角度をそれぞれ変化させる回転偏光子法を用いて前記ボルトメータにより検出される電圧値を測定するための制御を行い前記偏光面の角度別のそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する。この回転偏光子法を用いた測定では、最低1種類の波長を用いればよい。そして、第1算出ステップにて、前記演算手段によって、前記記憶手段に記憶された前記回転偏光子法を用いた前記各直線偏光板における偏光面の角度別のそれぞれの測定値に基づいて前記所定波長におけるカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する。そして、相関判別ステップにて、前記演算手段によって、前記所定波長におけるカー回転角の絶対値と、前記第1直線偏光板における偏光面である入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する。ここで、前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関が無いと判定された場合、第2測定制御ステップにて、前記制御手段によって、前記光弾性変調器の偏光変調機能をオンの状態、かつ、前記各直線偏光板を所定角度に固定し、前記分光器で分光される光の波長を変化させる偏光変調法を用いて前記ボルトメータおよび前記ロックインアンプによりそれぞれ検出される電圧値を測定するための制御を行いそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する。そして、第2算出ステップにて、前記演算手段によって、前記記憶手段に記憶された前記偏光変調法を用いた測定値に基づいて前記試料のカー回転角のスペクトルを算出する。さらに、第3算出ステップにて、前記演算手段によって、前記第2算出ステップで算出されたスペクトルにおけるカー回転角の値を、前記第1算出ステップにて算出されたカー回転角の絶対値に適合させる換算値を求め、前記スペクトルにおけるカー回転角の値に対して前記換算値をそれぞれ乗算することで、校正されたカー回転角のスペクトルを当該試料の磁気光学特性のスペクトルとして算出する。
【0020】
これにより、磁気光学スペクトル測定方法においては、相関判別ステップによって、所定波長におけるカー回転角の絶対値と、入射光偏光面の角度との相関が無いと判別することで、試料から観測されたカー回転角が極カー効果に起因することを判定した上で偏光変調法を用いた測定を行うことができる。したがって、磁気光学スペクトル測定方法によれば、試料の極カー効果に起因するカー回転角のスペクトルとして、校正された磁気光学特性のスペクトルを測定することができる。
また、磁気光学スペクトル測定方法においては、第3算出ステップにて、偏光変調法によって比較的短い時間で測定したカー回転角のスペクトルに対して、回転偏光子法によって正確に測定したカー回転角の絶対値を用いた換算値を一様に掛ける演算を行うだけで、カー回転角のスペクトルを校正するので、校正された磁気光学特性のスペクトルを短時間で測定することができる。
【0021】
また、請求項5に記載の磁気光学スペクトル測定方法は、請求項4に記載の磁気光学スペクトル測定方法において、前記相関判別ステップにて、前記試料の面直方向に磁場が印加されたときの前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関があると判定された場合、第3測定ステップと、第4算出ステップと、第2相関判別ステップと、起源判定ステップと、を含んで実行することが好ましい。ここで、相関判別ステップにて相関があると判定された場合、偏光変調法による第2測定制御ステップは行われないので、このような場合にも磁気光学特性のスペクトルを算出する必要がある場合、磁気光学スペクトル分光装置において予め定めた動作モードとして、回転偏光子法による第1測定制御ステップを繰り返し行う動作モードによって磁気光学特性のスペクトルを求めることができる。また、相関判別ステップにて相関があると判定された場合に行う第3測定ステップ、第4算出ステップ、第2相関判別ステップおよび起源判定ステップは、このような動作モードの1つであって、磁気光学効果の起源を探索するモードとして設定される。
【0022】
かかる手順によれば、磁気光学スペクトル測定方法は、第3測定ステップにて、前記制御手段によって、回転偏光子法を用いた測定において、前記試料に印加する磁場の方向を当該試料の面内であって光の入射面に平行な方向に設定して前記ボルトメータにより電圧値を測定する。そして、第4算出ステップにて、前記演算手段によって、前記第3測定ステップにて測定された測定値からカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する。そして、第2相関判別ステップにて、前記演算手段によって、前記第3測定ステップにて測定された測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する。この第2相関判別ステップにて相関があると判別された場合、起源判定ステップにて、前記演算手段によって、前記試料の磁気光学効果には縦カー効果もしくは線二色性の寄与が含まれていると判定する。これにより、磁気光学スペクトル測定方法によれば、相関判別ステップにて、カー回転角の絶対値と入射光偏光面の角度との相関があると判定されて原理的に極カー効果には起因しないと判定された場合、新たな第3測定ステップにて、原理的に縦カー効果が現れるような配置で試料の磁化の向きを制御しながら測定し、この測定値に基づいて相関の有無を再度調べるので、相関がある場合には、カー回転角が縦カー効果もしくは線二色性に起因することを判定できる。
【0023】
また、請求項6に記載の磁気光学スペクトル測定方法は、請求項5に記載の磁気光学スペクトル測定方法において、前記起源判定ステップに続いて、さらに、第4測定ステップと、第5算出ステップと、第3相関判別ステップと、第2起源判定ステップと、を含んで実行することが好ましい。
【0024】
かかる手順によれば、磁気光学スペクトル測定方法は、第4測定ステップにて、前記制御手段によって、回転偏光子法を用いた測定において、前記試料に印加する磁場の方向を当該試料の面内であって光の入射面の法線方向に設定して前記ボルトメータにより電圧値をそれぞれ測定する。そして、第5算出ステップにて、前記演算手段によって、前記第4測定ステップにて測定された測定値からカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する。そして、第3相関判別ステップにて、前記演算手段によって、前記第4測定ステップにて測定された測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する。この第3相関判別ステップにて相関があると判別された場合、第2起源判定ステップにて、前記演算手段によって、前記試料の磁気光学効果には線二色性の寄与が含まれていると判定する。これにより、磁気光学スペクトル測定方法によれば、起源判定ステップにて、第3測定ステップにて測定された測定値から算出されたカー回転角が縦カー効果もしくは線二色性に起因することが判定された場合、新たな第4測定ステップにて、原理的に縦カー効果が現れないような配置で試料の磁化の向きを制御しながら測定し、この測定値に基づいて相関の有無を再度調べるので、相関がある場合には、カー回転角が線二色性に起因することを判定できる。
【0025】
また、請求項7に記載のプログラムは、請求項4ないし請求項6のいずれか一項に記載の磁気光学スペクトル測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとした。このように構成されることにより、このプログラムをインストールされたコンピュータは、このプログラムに基づいた各機能を実現することができる。
【発明の効果】
【0026】
請求項1、請求項4または請求項7に記載の発明によれば、磁気光学スペクトル分光装置は、試料の極カー効果に起因する磁気光学効果として観測される信号であるカー回転角の絶対値を校正した磁気光学スペクトルを測定することができる。また、磁気光学スペクトル分光装置は、偏光変調法によって比較的短い時間で測定したカー回転角のスペクトルに対して、回転偏光子法によって正確に測定したカー回転角の絶対値を用いた換算値を一様に掛ける演算を行うので、磁気光学効果として観測される信号を効率よく測定できる。したがって、MO信号の起源が決定できると共に、MOスペクトルの測定とMO信号の校正が簡単に実現できる。
【0027】
請求項2または請求項5に記載の発明によれば、磁気光学スペクトル分光装置は、MO信号の起源として、カー回転角が極カー効果に起因するのか、または、極カー効果以外すなわち縦カー効果もしくは線二色性に起因するのか見分けることができる。したがって、試料の磁気光学信号が縦カー効果もしくは線二色性に起因する場合には偏光変調法以外の適した測定方法により、当該試料の磁気光学スペクトルを求めることができる。
【0028】
請求項3または請求項6に記載の発明によれば、磁気光学スペクトル分光装置は、MO信号の起源として、カー回転角が極カー効果、縦カー効果および線二色性のいずれに起因するのか見分けることができる。したがって、試料の磁気光学信号が線二色性に起因する場合には偏光変調法以外の適した測定方法により、当該試料の磁気光学スペクトルを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気光学スペクトル分光装置において面直磁場印加配置とした構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る磁気光学スペクトル分光装置において面内磁場印加配置とした構成を模式的に示す図である。
【図3】図1に示す情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る磁気光学スペクトル分光装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る磁気光学スペクトル分光装置の動作モードの一例を示すフローチャートである。
【図6】試料に印加する磁場の方向と試料に入射する偏光の進行方向との位置関係を模式的に示す図であって、(a)は試料の面直方向に磁場を印加する配置、(b)は試料の面内A方向(偏光の入射面に平行)に磁場を印加する配置、(c)は試料の面内B方向(偏光の入射面の法線方向)に磁場を印加する配置、をそれぞれ示している。
【図7】本発明に係る測定例であって、回転偏光子法を用いた場合の回転機構付き第2直線偏光板の回転角度と、デジタルボルトメータで観測した電圧信号との関係を示すグラフである。
【図8】本発明に係る測定例であって、回転偏光子法を用いた場合の試料に印加した磁場と、観測されたMO信号から得た偏光面の回転角との関係を示すグラフである。
【図9】本発明に係る測定例であって、回転偏光子法を用いた場合の試料に照射した偏光の波長と、観測されたMO信号から得た偏光面の回転角との関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係る測定例であって、回転偏光子法を用いた場合の試料に照射した偏光の波長と、MO信号から計算で求めた磁気的特性による偏光面の回転角との関係を示すグラフである。
【図11】本発明に係る測定例であって、回転偏光子法を用いた場合の回転機構付き第1直線偏光板の回転角度と、MO信号から計算で求めた磁気的特性による偏光面の回転角との関係を示すグラフである。
【図12】本発明に係る測定例であって、偏光変調法を用いた場合に観測されたMO信号から計算で求めた磁気的特性による偏光面の回転角のスペクトルを示すグラフである。
【図13】本発明に係る測定例であって、図12に示す回転角のスペクトルを校正した磁気光学スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
[1.磁気光学スペクトル分光装置の構成の概要]
磁気光学スペクトル分光装置1は、試料の磁気光学特性のスペクトルを測定するものであって、図1に示すように、光源2と、分光器3と、第1直線偏光板4と、光弾性変調器5と、磁場印加手段6と、第2直線偏光板7と、光検出手段8と、デジタルボルトメータ9と、ロックインアンプ10と、情報処理装置20とを備えている。
【0031】
情報処理装置20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、メモリやハードディスク等の記憶装置と、外部との間で各種情報の送受信を行うインタフェース装置とを備えた一般的なパーソナルコンピュータ等から構成され、制御手段30と、記憶手段40と、演算手段50とを備えている。
【0032】
制御手段30は、CPUやメモリから構成され、分光器3で分光される所定波長の光における波長の切り替えを含む動作を予め設定されたタイミングで制御するものである。
記憶手段40は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリやハードディスク等の記憶装置から構成され、デジタルボルトメータ9およびロックインアンプ10でそれぞれ測定された電圧値(回転偏光子法測定値41,偏光変調法測定値42)を記憶するものである。
演算手段50は、CPUやメモリから構成され、記憶手段40に記憶された電圧値に基づいて試料の磁気光学特性としてカー回転角を算出するものである。
【0033】
ここで、光源2、分光器3、第1直線偏光板4、光弾性変調器5、磁場印加手段6、第2直線偏光板7、光検出手段8、デジタルボルトメータ9、およびロックインアンプ10は、従来公知の偏光変調法を用いるときの測定系の配置となるように配置されている。すなわち、この配置によって、光源2から出射されて分光器3によって分光された所定波長の光は、第1直線偏光板4に入射し、この第1直線偏光板4を通過した偏光は、光弾性変調器5に入射する。この光弾性変調器5によって変調された円偏光は、磁場印加手段6によって磁場が印加された試料Fに照射される。試料Fで反射した反射光は、第2直線偏光板7に入射し、第2直線偏光板7を通過した試料の反射光は、光検出手段8によって、電気信号として検出される。光検出手段8が検出する電気信号はデジタルボルトメータ9およびロックインアンプ10に入力して、電圧値として測定される。なお、試料Fを透過した透過光を、別の直線偏光板に入射し、この直線偏光板を通過した試料の透過光を光検出手段によって電気信号として検出するようにしてもよい。
【0034】
本実施形態の磁気光学スペクトル分光装置1は、制御手段30が、従来公知の偏光変調法の測定系と、従来公知の回転偏光子法の測定系とを切り替える点と、演算手段50が、後記するように両測定法の演算機能に加えて、磁気光学効果の起源を判定する機能を備えている点が従来の測定装置とは異なっている。また、偏光変調法の測定系と、回転偏光子法の測定系とを切り替えるために、各直線偏光板4,7が、回転により偏光面の角度が所定値になるように調整可能な回転機構付き直線偏光板である点が従来の測定系とは異なっている。
【0035】
[2.磁気光学スペクトル分光装置の測定系の各部の詳細]
光源2は、各直線偏光板4,7に利用できる範囲の波長の光を放射するものであれば特に限定されないが、例えば、キセノンランプ等のハロゲンランプを用いることができる。
分光器3は、光源2からの光を分光するものであって、特に限定されないが、例えば、回折格子式の分光器を用いることができる。分光器3は、制御手段30からの制御信号に基づいて、分光する光の波長の値を切り替えることができるように構成されている。なお、さらに高次光遮断フィルタ等を用いてもよい。
【0036】
第1直線偏光板4は、分光器3で分光された光を直線偏光とするものであって、試料Fの入射光側に配置される。また、第2直線偏光板7は、試料Fで反射した光を直線偏光とするものであ。各直線偏光板4,7は、例えば、一般的な直線偏光板を、自動角度調整機能付き偏光子ホルダに装着して成る。
自動角度調整機能付き偏光子ホルダは、図示は省略するが、例えば、直線偏光板の外周を保持する枠状の基板と、基板を回転させるピニオンギア等を含む回転軸と、制御手段30からの制御信号に基づいて回転軸を駆動する回転駆動手段と、基板の回転角度を検出するロータリエンコーダとを備える。なお、各直線偏光板4,7は同じものであってもよい。
【0037】
以下では、第1直線偏光板4における偏光面である入射光偏光面の角度をφと表記し、第2直線偏光板7において偏光面の角度をφと表記する。なお、角度φ、φは、光の進行方向を軸とした軸周りの角度を示す。
回転偏光子法を用いた測定においては、角度φ,φは、例えば、0〜180°の範囲で変化させる値を示す。
偏光変調法を用いた測定においては、角度φを45°に固定、角度φを0°に固定する。例えば第1直線偏光板4の偏光面における角度φを45°に固定すると、第1直線偏光板4を通過した光は、後段の光弾性変調器5に対して45°傾いた直線偏光となる。また、角度φを0°に固定すると、第2直線偏光板7を通過した光は、後段の光検出手段8に対して傾いていない直線偏光となる。
なお、本実施形態では、図1に示すように、第1直線偏光板4を通過した光は、集光レンズ11により集光して光弾性変調器5に照射できるように構成した。
【0038】
光弾性変調器5は、試料Fに照射される光のパスの途中に配置され、入射光を予め定められた変調周波数で交互に左回り円偏光と右回り円偏光に切り替えて出力するものである。光弾性変調器5は、等方性の透明光学材料と圧電素子を備え、制御手段30からの制御信号に基づいて、偏光変調機能をオン状態とオフ状態とに切り替えることができるように構成されている。この光弾性変調器5の変調周波数の2倍の値の信号を参照信号としてロックインアンプ10に入力する。なお、光弾性変調器5の変調周波数は、例えば、50kHzとすることができる。
【0039】
磁場印加手段6は、試料Fに所定の磁場を印加するものであり、例えば、電磁石を備え、制御手段30からの制御信号に基づいて、印加磁場のオン/オフの切り替えや印加磁場の大きさの切り替えができるように構成されている。この磁場印加手段6から試料Fに磁場を印加することで、試料Fにおいて磁化の向きを変化させることができる。図1に示す例では、磁場印加手段6Aが、試料Fに対して面直磁場を印加できるように配設されている。また、図2に示す例では、磁場印加手段6Bが、試料Fに対して面内磁場を印加できるように配設されている。本実施形態では、磁場印加手段6は、電磁石の配置を切り替えるための図示しない駆動手段等を備えて、制御手段30からの制御信号が示す動作モードに応じて、磁場印加手段6Aと磁場印加手段6Bとを切り替え可能に構成されているものとして説明する。
【0040】
光検出手段8は、試料Fで反射して第2直線偏光板7を通過した光を検出するものであり、例えば、光電子増倍管や、一般的なフォトダイオードのような半導体光検出器から構成される。光検出手段8が検出した反射光(電気信号)は、デジタルボルトメータ9およびロックインアンプ10に入力される。
【0041】
デジタルボルトメータ(ボルトメータ)9は、インプット(IN)が光検出手段8に接続され、アウトプット(OUT)が情報処理装置20のインプット(IN)に接続されている。デジタルボルトメータ9は、デジタル処理ができる一般的な電圧計である。デジタルボルトメータ9が検出する電圧値を以下ではVと表記する。この電圧値Vは、回転偏光子法を用いる測定系において、各直線偏光板4,7における偏光面の角度別のそれぞれの測定値を示す。
【0042】
ロックインアンプ10は、インプット(IN)が光検出手段8に接続され、リファレンス(REF)が光弾性変調器5に接続され、アウトプット(OUT)が情報処理装置20のインプット(IN2)に接続されている。このロックインアンプ10は、光検出手段8から出力される電気信号から、光弾性変調器5より入力する参照信号(変調周波数の2倍の信号)と等しい周波数成分の電圧値を検出する。ロックインアンプ10が検出する電圧値を以下ではΔVと表記する。偏光変調法を用いる測定系において、ΔV/Vのそれぞれの演算結果が、偏光変調法を用いた測定値を示す。
【0043】
[3.磁気光学スペクトル分光装置の情報処理装置の各部の詳細]
図3は、図1に示す情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
制御手段30は、回転偏光子法を用いた所定波長でのMO信号観測と、偏光変調法によるMOスペクトル測定とを全自動で実現するために、第1測定制御手段31と、第2測定制御手段32とを備えている。
第1測定制御手段31は、光弾性変調器5の偏光変調機能をオフの状態にして各直線偏光板4,7において偏光面の角度φ,φをそれぞれ変化させる回転偏光子法を用いてボルトメータ9により検出される電圧値を測定するための制御を行い、偏光面の角度別のそれぞれの測定値を記憶手段40に記録するものである。
【0044】
回転偏光子法を用いる測定系では、光弾性変調器5の偏光変調機能がオフの状態なので、参照信号がロックインアンプ10に出力されず、ロックインアンプ10は、実質的に機能せず、デジタルボルトメータ9で測定された電圧値Vのみが情報処理装置20にて利用されることとなる。また、光弾性変調器5は、偏光変調機能がオフの状態であるが、入射光を変調することなくそのまま通過させて試料Fに照射する。この回転偏光子法を用いた各直線偏光板4,7における偏光面の角度別のそれぞれの測定値は、記憶手段40において、回転偏光子法測定値41として記憶される。
【0045】
回転偏光子法の測定方法の詳細な手順については後記するが、各直線偏光板4,7において偏光面の角度φ,φを予め定めたピッチ(Δφ)で均等に変化させる。なお、ピッチΔφとその測定回数は、所望の測定精度と測定時間とを考慮して適宜設定すればよい。例えば、細かく測定するときにはピッチΔφを1,2°、粗く測定するときにはピッチΔφを15,30°のようにしてもよい。
【0046】
また、回転偏光子法を用いた測定では、光の波長として1つの所定波長を用いればよいが、波長を変更して複数種類の波長を用いることが好ましい。波長の値として、例えば可視光の範囲から選択する場合、1つならば例えば500nmや700nm、2つならばその両方を選択すればよい。波長の種類を増やすほど測定時間が長くなるので、予め何種類の波長を用いるか適宜設定しておく。
各直線偏光板4,7における偏光面の角度の測定点にもよるが、回転偏光子法において1種類の波長を用いたときに、一例として15〜20分ほどの測定時間が必要である。これに対して、偏光変調法では、各直線偏光板4,7を固定しているので、一例として30分ほどで磁気光学信号のスペクトルを測定できる。したがって、測定時間の短縮を図るためには、測定に用いる波長の種類は5以下であることが好ましい。
【0047】
第2測定制御手段32は、光弾性変調器5の偏光変調機能をオンの状態、かつ、各直線偏光板4,7を所定角度に固定し、分光器3で分光される光の波長を変化させる偏光変調法を用いてボルトメータ9およびロックインアンプ10によりそれぞれ検出される電圧値を測定するための制御を行い、それぞれの測定値を記憶手段40に記録するものである。偏光変調法を用いる測定系では、光弾性変調器5の偏光変調機能がオンの状態なので、参照信号がロックインアンプ10に出力され、ロックインアンプ10で測定された電圧値ΔVと、デジタルボルトメータ9で測定された電圧値Vとが情報処理装置20にて利用されることとなる。また、光弾性変調器5は、偏光変調機能がオンの状態なので、入射光を変調して試料Fに照射する。この偏光変調法を用いて波長別にそれぞれ測定された測定値は、記憶手段40において、偏光変調法測定値42として記憶される。
【0048】
ここで、各直線偏光板4,7の偏光面における角度として、角度φを45°に固定、角度φを0°に固定する。また、偏光変調法を用いた測定では、光の波長として例えば可視光の範囲から選択する場合、青(約450nm)〜赤(約750nm)の範囲で予め定めたピッチで均等に変化させる。ピッチは、所望の測定精度と測定時間とを考慮して適宜設定すればよい。ピッチは、例えば1nmとしてもよい。
【0049】
演算手段50は、第1算出手段51と、相関判別手段52と、第2算出手段53と、第3算出手段54と、を備えている。
第1算出手段51は、記憶手段40において偏光面の角度別のそれぞれの測定値として記憶された回転偏光子法測定値41に基づいて、所定波長におけるカー回転角の絶対値をそれぞれの測定値に対応して算出する。算出方法の詳細については後記するが、この算出値は、記憶手段40において、カー回転角絶対値43として記憶される。
【0050】
相関判別手段52は、記憶手段40に記憶されたカー回転角絶対値43と、記憶手段40に記憶された回転偏光子法測定値41とに基づいて、カー回転角絶対値43と、入射光偏光面の角度φとの相関の有無を判別する。相関判別手段52は、相関が無いと判別した場合、その旨を第2算出手段53に通知する。一方、相関があると判別した場合、情報処理装置20は、後記する予め設定された動作モードに応じた処理を実行する。
【0051】
ここで、カー回転角絶対値43と入射光偏光面の角度φとの相関があるとは、例えば入射光偏光面の角度φが増加するにしたがってカー回転角も増加する場合を指す。また、別の観点からは、横軸が入射光偏光面の角度φ、縦軸がカー回転角を示すように測定値を可視化した場合、相関がある場合には右肩上がりのグラフが得られ、相関が無い場合には横軸に略平行なグラフが得られることになる。
【0052】
第2算出手段53は、相関判別手段52においてカー回転角絶対値43と入射光偏光面の角度φとの相関が無いと判定された場合、記憶手段40に記憶されている波長別にそれぞれ測定された偏光変調法測定値42に基づいて試料のカー回転角のスペクトルを算出するものである。算出方法の詳細については後記するが、この算出値は、記憶手段40において、カー回転角スペクトル44として記憶される。
【0053】
第3算出手段54は、記憶手段40に記憶されたカー回転角スペクトル44におけるカー回転角の値を、記憶手段40に記憶されたカー回転角絶対値43に適合させる換算値を求め、カー回転角スペクトル44におけるカー回転角の値に対して換算値をそれぞれ乗算することで、校正されたカー回転角のスペクトルを当該試料の磁気光学特性のスペクトルとして算出する。算出方法の詳細については後記するが、この算出値は、記憶手段40において、MOスペクトル45として記憶されると共に、図示しない液晶ディスプレイ等の出力装置に表示される。
【0054】
[4.磁気光学スペクトル分光装置の動作の流れ]
次に、磁気光学スペクトル分光装置1の動作の流れについて図4を参照(適宜図1および図3参照)して説明する。一例として、面直磁化膜の試料を想定する。
<ステップS1>
ステップS1にて、磁場印加手段6Aによって、試料Fの面直方向に所定の大きさの磁場を印加する。このステップS1は、後記する予め設定された動作モードの説明のためにステップS2から形式的に分離しただけで、実際にはステップS2の中に含まれている。なお、後記する予め設定された動作モードでは、試料に印加する磁場の方向を変化させるモードとして説明する。
【0055】
<ステップS2>
ステップS2において、磁気光学スペクトル分光装置1は、第1測定制御手段31によって、回転偏光子法を用いる測定系にて、試料の反射光から検出する電圧値Vを測定する。すなわち、試料Fに所定波長の光を照射するときに、デジタルボルトメータ9で測定された電圧値Vを、各直線偏光板4,7における偏光面の角度別に記録する。
【0056】
このステップS2では、より詳細には、次のように動作する。すなわち、ステップS2において、第1測定制御手段31は、まず、光弾性変調器5の偏光変調機能をオフの状態とする。また、各直線偏光板4,7を回転させて所定の角度となるように位置を調整する。そして、光源2から得られる光を分光器3に通すことで、スペクトル幅の狭い単色光を取り出す。そして、分光器3で分光された光を第1直線偏光板4に通して直線偏光とする。そして、第1直線偏光板4の透過光を試料Fに照射し、その反射光を第2直線偏光板7に通して、光検出手段8で観測する。そして、光検出手段8から得られる電圧信号をデジタルボルトメータ9で観測し、得られる電圧値を情報処理装置20で記録する。
【0057】
≪回転偏光子法の測定方法≫
後記する処理でMO信号を決定するために、この回転偏光子法の測定方法は、以下の(B1)〜(B7)の手順で実現することができる。
(B1)第1直線偏光板4における偏光面の角度φを初期設定値φにセットする。
また、第2直線偏光板7における偏光面の角度φを初期設定値φにセットする。
(B2)この状態において、第2直線偏光板7だけを回転させるときの0回目とカウントして、デジタルボルトメータ9が観測する電圧値Vの初期値Vを記録する。
(B3)第1直線偏光板4における角度φを現在値に維持すると共に、第2直線偏光板7における偏光面の角度φを現在値から所定ピッチΔφだけ増加させて、角度(φ+Δφ)にセットする。
(B4)各直線偏光板4,7において角度φかつ角度(φ+Δφ)にそれぞれセットされたB3の状態において、第2直線偏光板7だけを回転させるときの1回目とカウントして、デジタルボルトメータ9が観測する電圧値Vを記録する。
(B5)以下同様に、第2直線偏光板7だけを回転させるときのn回目(nは自然数)とカウントしたときに、第1直線偏光板4における角度φを現在値に維持すると共に、第2直線偏光板7における偏光面の角度φをφ+nΔφにセットした後に、デジタルボルトメータ9が観測する電圧値V(φ,φ)を記録する。なお、測定回数とΔφは、求める測定精度と測定時間を考慮して決める。
(B6)測定を通して、電圧値V(φ,φ)と、第2直線偏光板7における偏光面の角度φとの関係が得られる(n=1,2,…)。
(B7)第1直線偏光板4における偏光面の角度φを、φ+nΔφ(nは自然数)に置き換えて、(B1)〜(B6)を繰り返す。
これにより、第1直線偏光板4における偏光面の角度φ毎に、電圧値V(φ,φ)が記録される。これら記録された多数の電圧値を以下では単にV(φ,φ)と表記する。
【0058】
<ステップS3>
次に、ステップS3において、磁気光学スペクトル分光装置1は、演算手段50の第1算出手段51によって、回転角度別に得られた電圧値に基づいて、MO信号としてカー回転角の絶対値を、それぞれの電圧値に対応して算出する。
第1算出手段51は、ステップS2において電気信号として測定された電圧値V(φ,φ)を解析して、カー回転角を求める。
一例として試料Fが角度φのカー効果を示すと仮定したときには、回転偏光子法の原理によって、理論的には検出電圧値はVcos(φ−φ+φ)となる。測定値は、この理論値と等しくなるはずであるから、次の方程式が成り立つ。
V(φ,φ)=Vcos(φ−φ+φ) … 式(1)
そこで、第1算出手段51は、観測される電圧値V(φ,φ)を式(1)を用いて数値解析する。解析から得られる電圧値Vの位相情報と、測定に用いた角度φおよび角度φの値から、カー効果を示すと仮定した角度φの値が直接決定できる。なお、具体例については後記する。
【0059】
<ステップS4>
次に、ステップS4において、磁気光学スペクトル分光装置1は、演算手段50の相関判別手段52によって、得られたカー回転角と入射光偏光面の角度との相関があるか否かを判別する。ここで、入射光偏光面の角度とは、測定に用いた第1直線偏光板4における角度φであり、相関判別手段52は、算出したカー効果を示すと仮定した角度φが、測定に用いた角度φに依存するか否かを判別する。
【0060】
<ステップS5>
前記ステップS4において、カー回転角が入射光偏光面の角度φに依存しないと判別した場合(ステップS4:No)、磁気光学効果は極カー効果に起因するので、磁気光学スペクトル分光装置1は、第2測定制御手段32によって、偏光変調法を用いる測定系にて、試料の反射光から検出する電圧値V,ΔVを測定する(ステップS5)。すなわち、各直線偏光板4,7の位置を固定した上で試料Fに偏光を照射したときに、デジタルボルトメータ9で測定された電圧値Vと、ロックインアンプ10で測定された電圧値ΔVとを光の波長別に記録する。なお、カー回転角が入射光偏光面の角度φに依存しない場合、磁気光学効果は極カー効果に起因する理由は後記する。
【0061】
このステップS5では、より詳細には、次のように動作する。すなわち、ステップS5において、第2測定制御手段32は、まず、第1直線偏光板4における偏光面の角度φを45°、第2直線偏光板7における偏光面の角度φを0°とし、光弾性変調器5の偏光変調機能をオンの状態とする。そして、光源2から得られる光を分光器3に通すことで、スペクトル幅の狭い単色光を取り出す。そして、分光器3で分光された光を第1直線偏光板4に通して、光弾性変調器5に対して45°傾いた直線偏光とする。そして、第1直線偏光板4の透過光を光弾性変調器5に通すことで、右回り偏光と左回り偏光で高速変調する。このときの変調周波数をfとする。光弾性変調器5の変調周期とロックインアンプ10とを同期させるため、ロックインアンプ10の参照信号として、変調周波数fの2倍の周波数の信号を入力する。なお、ここではカー効果を求めるために、参照信号を変調周波数fの2倍の周波数の信号としたが、円二色性を求める場合には、参照信号を変調周波数fと同じ周波数の信号とすればよい。そして、光弾性変調器5を通過した偏光を試料Fに照射し、その反射光を第2直線偏光板7に通して、光検出手段8で観測する。そして、光検出手段8から得られる電圧信号をデジタルボルトメータ9およびロックインアンプでそれぞれ観測し、得られる電圧値(V、ΔV)を情報処理装置20で記録する。
【0062】
≪偏光変調法の測定方法≫
MOスペクトルを測定するために、偏光変調法の測定方法は、例えば以下の(C1)〜(C7)の手順で実現することができる。なお、この偏光変調法の測定方法は、非特許文献1に詳しく示されている。
(C1)分光器3の設定波長と、光弾性変調器5の設定波長とを、初期波長λにセットする。
(C2)光弾性変調器5において、設定波長をセットされた波長(初期波長λ)、変調モードを1/4波長、変調周波数をfとすると共に、ロックインアンプ10において、参照周波数を2fとする。なお、以下では、光弾性変調器5において設定波長をセットされた波長に順次切り替えるが、変調モードおよび変調周波数は固定し、ロックインアンプ10の参照周波数も固定しておく。
(C3)C2の状態において、設定波長を変化させるときの0回目とカウントして、初期波長λの光が試料Fに照射されたときに、ロックインアンプ10を用いて電圧値ΔVを測定すると共に、デジタルボルトメータ9を用いて電圧値Vを測定する。
(C4)分光器3と光弾性変調器5の設定波長をλ=(λ+Δλ)にセットする。
(C5)C4の状態で、設定波長を変化させるときの1回目とカウントして、ロックインアンプ10とデジタルボルトメータ9を用いて各電圧値ΔV,Vを測定する。
(C6)以下同様に、設定波長を変化させるときのn回目(nは自然数)とカウントしたときに、分光器3と光弾性変調器5の設定波長をλ=(λ+nΔλ)にセットした後に、ロックインアンプ10とデジタルボルトメータ9を用いて、各電圧値ΔV,Vを測定する。
(C7)測定を通して、電圧値(ΔV、V)と波長の関係が得られる。
【0063】
<ステップS6>
次に、ステップS6において、磁気光学スペクトル分光装置1は、演算手段50の第2算出手段53によって、波長別に得られた電圧値からカー回転角のスペクトルを算出する。第2算出手段53は、ステップS5において電気信号としてそれぞれ得られたデータ(ΔV、V)を解析して、カー回転角スペクトル44を求める。ここで、カー回転角は、ΔV/Vに比例する。なお、比例定数は未定で、回転角の絶対値はここでは定まらない。
【0064】
<ステップS7>
そこで、ステップS7において、演算手段50の第3算出手段54は、回転角の絶対値を定めるために、第1算出手段51によって算出されたカー回転角絶対値43を、第2算出手段53で算出されたカー回転角スペクトル44に適合させる換算値を求める。第3算出手段54は、少なくとも1つの波長について得られているカー回転角絶対値43を、カー回転角スペクトル44において同じ波長の回転角で規格化することで換算値を求める。カー回転角絶対値43において複数の波長を用いて複数の換算値を求めたときには、例えばその平均を最終的な換算値とする。そして、第3算出手段54は、算出スペクトル(カー回転角スペクトル44)に換算値を掛けて、校正されたMOスペクトルを算出する(以上、ステップS7)。
【0065】
<ステップS8>
前記ステップS4において、磁気光学スペクトル分光装置1は、演算手段50の相関判別手段52によって、カー回転角が入射光偏光面の角度に依存すると判別した場合(ステップS4:Yes)、予め定めた動作モードに応じた処理を行う(ステップS8)。
【0066】
ここで、予め定めた動作モードは、例えば、情報処理装置20の第1測定制御手段31および第1算出手段51によって、回転偏光子法の測定を繰り返し行うことでMOスペクトルを算出するモードである回転偏光子法測定モードを挙げることができる。
また、磁気光学効果は、極カー効果、縦カー効果、線二色性の線形和なので、例えば、観測された磁気光学効果は極カー効果以外(縦カー効果もしくは線二色性)に起因するのかどうかを判定するモードや、磁気光学効果の起源は線二色性に起因するのかどうかを判定するモード等を設けてもよい。
本実施形態では、動作モードの一例として、極カー効果以外の磁気光学効果を識別する起源探索モード(磁気光学効果の起源探索モード)が予め定められているものとする。この起源探索モードは、例えば、情報処理装置20の第1測定制御手段31、第1算出手段51および相関判別手段52によって行うことができる。
【0067】
[5.起源探索モード]
<起源探索モードの判定原理>
ここで、起源探索モードの一例を図5のフローチャートで示す。また、このフローチャートの各処理を説明する前に、その判定原理について図6を参照して説明する。
図6(a)は、試料に印加する磁場の方向と試料に入射する偏光の進行方向との位置関係を模式的に示す図であって、(a)は試料の面直方向に磁場を印加する配置を示している。図6(a)のように配置すれば、極カー効果が現れることを検出することが可能である。この図6(a)において、試料Fは膜状であってXY平面上に置かれて、斜めから入射する偏光Lが試料Fの表面の点Oで反射する場合を例示した。このとき、磁場印加手段6によって、試料Fの磁化ベクトルM(以下、単に磁化Mという)は、図示するように、磁化Mの向きが、XY平面の法線方向(Z軸方向)に向くように制御された状態で測定が行われる。すなわち、図1に示す磁場印加手段6Aが試料Fに対して面直磁場を印加する。
【0068】
また、図6(a)に示す破線の面は、第1直線偏光板4における偏光面を表している。この例では、第1直線偏光板4における偏光面は、X軸と交差している。この破線で示す状態から、第1直線偏光板4における偏光面の角度を例えば90°変化させると、第1直線偏光板4における偏光面がY軸と交差することとなる。このように、第1直線偏光板4における偏光面の角度を変化させることは、試料Fの磁化Mの向きを軸として第1直線偏光板4における偏光面を回転させることであり、偏光面のどの角度も磁化Mの向きに影響を与えない。つまり、カー効果を示すと仮定した角度φが、測定に用いた第1直線偏光板4における偏光面の角度φに依存しなければ、このときの磁気光学効果とは、極カー効果に起因するものであると考えられる。
【0069】
図6(b)および図6(b)は試料の面内方向に磁場を印加する配置をそれぞれ示している。図6(b)と図6(c)に示す配置では、図2に示す磁場印加手段6Bが試料Fに対して面内磁場を印加する。また、図6(b)のように配置すると、縦カー効果もしくは線二色性が現れることを検出することが可能である。一方、図6(c)のように配置すると、縦カー効果が現れることを検出することはできない。
【0070】
また、図6(b)と図6(a)との違いは、磁場印加手段6Bによって、試料Fの磁化Mの向きが、XY平面の面内方向、かつX軸方向になるように制御された状態で測定が行われる点である。ここで、XY平面の面内方向、かつX軸方向とは、XY平面の面内方向であって光の入射面に平行な方向を示す。以下では、この方向を面内A方向と呼ぶ。
【0071】
また、図6(c)と図6(a)との違いは、磁場印加手段6Bによって、試料Fの磁化Mの向きが、XY平面の面内方向、かつY軸方向(以下、面内B方向と呼ぶ)になるように制御された状態で測定が行われる点である。ここで、XY平面の面内方向、かつY軸方向とは、XY平面の面内方向であって光の入射面の法線方向を示す。以下では、この面内A方向に直交する方向を面内B方向と呼ぶ。
【0072】
図6(b)において、破線で示す偏光面は、X軸と交差し、試料Fの磁化Mの向きと揃っているので、このとき観測される信号は、縦カー効果もしくは線二色性に起因するものである。破線で示す偏光面を回転させると、回転角に応じて、観測される信号が変化する。つまり、カー効果を示すと仮定した角度φが第1直線偏光板4における偏光面の角度φに依存するので、このときの磁気光学効果とは、縦カー効果もしくは線二色性に起因するものであると考えられる。
【0073】
ところで、図6(b)に示す状態から、第1直線偏光板4における偏光面の角度を90°変化させると、実質的に図6(c)に示す状態と等価になる。したがって、図6(b)に示す状態から偏光面の角度を90°変化させた状態で観測される信号は、縦カー効果に起因するものではない。つまり、観測信号において、カー効果を示すと仮定した角度φが、第1直線偏光板4における偏光面の角度φに依存するときに、さらに図6(c)に示す状態で測定を行った場合にも依然として角度φが偏光面の角度φに依存するときには、このときの磁気光学効果とは、線二色性に起因するものであると考えられる。
【0074】
<起源探索モードの動作の流れ>
図5のフローチャートは、前記した判定原理にしたがって構築されている。磁気光学効果の起源探索モードの動作の流れについて図5を参照(適宜図1、図3、図4および図6参照)して説明する。この起源探索モードでは、まず、ステップS11において、磁気光学スペクトル分光装置1は、第1測定制御手段31によって、磁場の印加方向を面内A方向に設定する。
【0075】
そして、ステップS12において、磁気光学スペクトル分光装置1は、第1測定制御手段31によって、デジタルボルトメータ9で電圧値Vを測定し、第1算出手段51によってカー回転角を算出する。ここでは、第1測定制御手段31は、予め定めた磁場の大きさの範囲内で磁場の大きさを変えて測定を実行する。磁場の大きさの範囲は、縦カー効果が現れる程度の大きさとして定められる。
【0076】
そして、ステップS13において、前記ステップS4と同様にして、磁気光学スペクトル分光装置1は、演算手段50の相関判別手段52によって、得られたカー回転角と入射光偏光面の角度との相関があるか否かを判別する。相関がある場合(ステップS13:Yes)、相関判別手段52は磁気光学効果が縦カー効果もしくは線二色性に起因すると判定し、簡易的な探索処理を終了する(ステップS14)。このとき、相関判別手段52は、磁気光学効果が縦カー効果もしくは線二色性に起因する旨を示すメッセージを図示しない出力手段に出力する。一方、ステップS13において相関がない場合(ステップS13:No)、相関判別手段52はエラー処理を実行する(ステップS19)。このとき、相関判別手段52は、磁気光学効果の起源が不明である旨を示すメッセージを図示しない出力手段に出力するようにしてもよい。
【0077】
そして、簡易的な探索処理のステップS14に続くオプションとして、磁気光学効果の起源をより詳細に探索したい場合には、ステップS15において、磁気光学スペクトル分光装置1は、第1測定制御手段31によって、磁場の印加方向を面内B方向に設定する。そして、ステップS16において、磁気光学スペクトル分光装置1は、第1測定制御手段31によって、デジタルボルトメータ9で電圧値Vを測定し、第1算出手段51によってカー回転角を算出する。
【0078】
そして、ステップS17において、前記ステップS13と同様にして、磁気光学スペクトル分光装置1は、演算手段50の相関判別手段52によって、得られたカー回転角と入射光偏光面の角度との相関があるか否かを判別する。相関がある場合(ステップS17:Yes)、相関判別手段52は、磁気光学効果が線二色性に起因すると判定する(ステップS18)。このとき、相関判別手段52は、磁気光学効果が線二色性に起因する旨を示すメッセージを図示しない出力手段に出力するようにしてもよい。
【0079】
一方、ステップS17において相関がない場合(ステップS17:No)、相関判別手段52はエラー処理を実行する(ステップS19)。このとき、相関判別手段52は、磁気光学効果の起源が不明である旨を示すメッセージを図示しない出力手段に出力するようにしてもよい。これは、詳細な探索においては、ステップS17においてNoの場合、磁気光学効果の原因が、極カー効果、縦カー効果、線二色性のうちの単独の原因ではないかもしれない可能性を否定できないからである。また、ステップS17にてNoの場合に、相関判別手段52は、エラー処理をせずに、ステップS14の判定結果を再び図示しない出力手段に出力するようにしてもよい。これは、簡易的な探索においては、ステップS17においてNoの場合、縦カー効果もしくは線二色性に起因するとのステップS14の判定結果に矛盾しないからである。なお、簡易的な探索で終了するか、詳細な探索まで行うかは、要求される測定時間や測定精度に応じて適宜設計変更可能である。
【0080】
[6.MO信号の観測例]
図1に示す磁気光学スペクトル分光装置1を用いて、具体的にGdFe薄膜を試料としてMO信号を観測した結果について説明する。試料であるGdFe薄膜は面直磁化膜であり、その面直方向に外部磁場Hextを印加すると磁化反転する。本実施形態の磁気光学スペクトル測定方法を用いて観測するMO信号をθと表記する。ここで、Kはカー回転角を示す添字である。このθは、磁気光学効果による回転角度を表し、理論的には、前記した式(1)においてカー効果を示すと仮定した角度φに対応する。
【0081】
<MO信号の測定原理>
MO信号θは、試料の磁気的特性に起因する信号成分(これをΔθ(M)と表記する)と、試料の非磁性的な信号成分(これをΔθNMと表記する)との重ね合わせである。ここで、Mは試料の磁気的特性、NMは非磁気的特性を示す。つまり、試料の磁気的特性を考慮した場合、例えば磁化反転したときに印加されていた外部磁場の向きをMとしたときにMO信号θ(M)は、式(2)で表すことができる。
【0082】
θ(M)=Δθ(M)+ΔθNM … 式(2)
【0083】
測定で得たい情報は、試料の磁気的特性に起因する信号成分Δθ(M)であり、以下の関係等を用いて決定することができる。ここで、試料が磁化反転する前に印加されていた外部磁場の向きを−Mと表記すると、試料が磁化反転する前の状態では、試料が磁化反転した後の状態とは反対向きに磁化が回転するので、式(2)の右辺第1項Δθ(M)には式(3)の関係がある。
【0084】
Δθ(M)=−Δθ(−M) … 式(3)
【0085】
試料に印加する外部磁場の向きを磁化反転前の状態(−M)としたときには、式(2)と同様にして、式(4)の関係が得られる。また、式(3)の関係を用いると、式(4)は式(5)に書き換えられる。さらに式(2)から式(5)の辺々を差し引くと式(6)が得られる。これを整理すると、測定で得たい情報である、MO信号θ中の磁気的特性に起因する信号成分Δθ(M)は、式(7a)で表される。
【0086】
θ(−M)=Δθ(−M)+ΔθNM … 式(4)
θ(−M)=−Δθ(M)+ΔθNM … 式(5)
θ(M)−θ(−M)=2Δθ(M) … 式(6)
Δθ(M)=(θ(M)−θ(−M))/2 … 式(7a)
【0087】
そこで、試料が磁化反転したときに印加している外部磁場の向きをMとしたときに式(3)の左辺θ(M)をMO信号として観測し、試料が磁化反転する前に印加していた外部磁場の向きを−Mとしたときに式(3)の右辺θ(−M)をMO信号として観測した。なお、以下では、観測信号であるMO信号についてはKを省略して単にθ(M)あるいはθ(−M)と表記し、求めたい情報についてはMを省略して単にΔθと表記する。つまり、式(7a)を式(7b)のように書き換える。
【0088】
Δθ=(θ(M)−θ(−M))/2 … 式(7b)
【0089】
<回転偏光子法を用いたMO信号の観測>
≪電圧信号のφ依存性≫
GdFe薄膜を試料として回転偏光子法を用いたMO信号の観測例を図7に示す。図7のグラフにおいて、横軸は第2直線偏光板7における偏光面の角度φを示し、縦軸はデジタルボルトメータ9で観測した電圧信号(電圧値V)を任意単位(arbitrary units:a.u.)で示したものである。
【0090】
このグラフにおいて無数の丸印は、電圧値V(φ,φ)の実験結果であって、角度φ別のMO信号θ(M)あるいはθ(−M)を示している。また、コサイン関数状の実線は、解析結果であって、第1算出手段51が実験結果を前記式(1)に基づいてフィッティングにより得た結果である。図7に示すように、観測されたV(φ、φ)は、前記式(1)を用いて非常によく再現され、カー効果を示すと仮定した角度φの値が直接決定できた。ここでは、前記式(2)以降のMO信号の測定原理に則って角度φのことを回転角θと表記する。ここでは、あえてMの表記を省略する。回転角θは、算出されたカー回転角絶対値に対応する。
【0091】
≪θの外部磁場依存性≫
GdFe薄膜を試料として回転偏光子法を用いたMO信号から算出された回転角の一例を図8に示す。図8のグラフにおいて、横軸は磁場印加手段6Aで試料に印加した外部磁場を示す。なお、磁場の単位については、1[Oe]=79.577[A/m]で換算可能である。また、図8のグラフの縦軸は第1算出手段51で算出した回転角θを°(degree:deg.)で示す。なお、縦軸に示す回転角は、正しく校正された値である。
【0092】
この実験では、分光器3で分光した光の波長を500〜700nmの範囲で50nmのピッチで変化させて回転偏光子法を適用した。図8のグラフにおいては、このうち、光の波長を500nmとして観測した回転角θの磁場依存性を丸印で示すと共に、光の波長を700nmとして観測した回転角θの磁場依存性を四角印で示す。また、磁場印加手段6Aは、試料に対して、負の磁場から正の磁場へと増加させて印加した。図8のグラフに示すように、0kOeから0.5kOeへ向けて、磁化反転に伴って、回転角θの顕著な変化が見られた。
【0093】
そこで、次に、前記式(7b)の表式に則って回転角θにおいてあえて省略していたMの表記を付加して、図8のグラフにおいて、試料が磁化反転する前の状態に対応する、−2.0kOeから0.0kOeまでの信号をθ(−M)と表記すると共に、試料が磁化反転した後の状態に対応する、0.5kOeから2.0kOeまでの信号をθ(M)と表記することとした。
【0094】
≪θ(M)とθ(−M)の波長依存性≫
そして、図8のグラフにおいて光の波長を500nm,700nmとして、観測した回転角θの磁場依存性のそれぞれを線形関数でフィッティングした後、その切片をそれぞれθ(−M)、θ(M)とした結果を図9に示す。図9のグラフにおいて、横軸は分光器3で分光した光の波長を示し、縦軸は図8のグラフと同様な回転角θ(−M)、θ(M)を示す。図9のグラフにおいて、回転角θ(−M)を四角印で示し、回転角θ(M)を丸印で示す。これらの結果は、前記式(7b)の右辺に示すMO信号θ(−M),θ(M)に対応する。また、これらの結果は、各直線偏光板4,7の角度を適宜変えて求めた結果である。そして、図9のグラフに示す実験結果を、式(7b)に代入して決定した結果であるΔθを図10に示す。
【0095】
≪Δθの波長依存性≫
図10のグラフにおいて、横軸は図9と同様に光の波長を示し、縦軸は、求めたい情報であって、MO信号のうち試料の磁気的特性に起因する回転角Δθを示す。図10のグラフにおいて、回転角Δθをドットで示し、ドットの上下の線は誤差の標準偏差の範囲を示す。このように、回転偏光子法を用いることで、Δθの波長依存性が決定された。回転偏光子法の測定は時間がかかるが、MO信号の絶対値すなわちΔθの絶対値を正確に決定できるメリットがある。グラフの波長別のドットで表された回転角Δθの値が、第1算出手段51の演算結果であるカー回転角絶対値43に対応する。
【0096】
≪Δθのφ依存性≫
図10のグラフにおいて、波長を500nmとして観測した回転角Δθの測定結果と、そのときの第1直線偏光板4における偏光面の角度φとの関係を図11に示す。図11において、横軸は第1直線偏光板4における偏光面の角度φを示し、縦軸は回転角Δθを示す。図11のグラフにおいて、回転角Δθをドットで示し、ドットの上下の線は誤差の標準偏差の範囲を示す。図11に見られるように、回転角Δθは、第1直線偏光板4における偏光面の角度φに依存しない。このことは、この試料で観測されるMO信号が極カー効果に支配されていることを示唆し、また、試料が面直磁化膜であることと矛盾しない。したがって、本実施形態の測定方法では、演算手段50の相関判別手段52が、観測されたMO信号が極カー効果に起因するものであると判定してから、偏光変調法を用いた測定を行う。
【0097】
なお、図11のグラフのようにMO信号が極カー効果に支配されている場合には、角度φ毎の回転角Δθを繋げると、ほぼ横軸に平行な直線が得られる。一方、MO信号が縦カー効果や線二色性に支配されている場合に、同様なグラフを作成すると、回転角がφ1に依存するグラフとなる。したがって、MO信号が極カー効果に支配されているか否かは、観測されたカー回転角と第1直線偏光板4における偏光面の角度φとの関係をグラフ化すると一目瞭然となる。
【0098】
<偏光変調法を用いたMOスペクトルの観測>
≪Δθの波長依存性≫
次に、回転偏光子法で観測したGdFe薄膜を用いて、同条件で偏光変調法を用いることで、MOスペクトルを観測した。ここでは、試料の磁化の向きを揃えるため、磁場印加手段6Aで試料に1kOeの外部磁場を印加して測定を行った。測定結果を、図12に示す。図12のグラフは、図10のグラフと同様なグラフであって、横軸は光の波長を示し、縦軸は回転角Δθを示す。ただし、図12のグラフにおいて、回転角Δθの値は校正されたものではないので任意単位(a.u.)で示す。偏光変調法では、MOスペクトルが効率的に測定できるので多くの波長での信号が取得できるが、MO信号の絶対値を決定することが難しい。
【0099】
本実施形態の測定方法では、MO信号の絶対値を規格化するために、演算手段50の第3算出手段54が、図10のグラフに対応して記憶手段40に記憶されたカー回転角絶対値43を、図12のグラフに対応して記憶手段40に記憶されたカー回転角スペクトル44に適合させる換算値を求める。カー回転角スペクトル44を校正した結果をMOスペクトルとして図13に示す。
【0100】
図13のグラフにおいて、実線は偏光変調法で観測したΔθの波長依存性を示し、四角印は回転偏光子法で観測したΔθの波長依存性を示す。本実施形態の測定方法によれば、回転偏光子法で決定したMO信号を用いて、MO信号の絶対値を規格化し、絶対値が校正されたMOスペクトルが取得できた。また、MO信号が極カー効果に支配されていることが、直接決定できた。
【0101】
本実施形態の磁気光学スペクトル分光装置1によれば、回転偏光子法を用いる測定系と、偏光変調法を用いる測定系とを切り替え可能に構成され、回転偏光子法を用いた少なくとも1つの所定波長でのMO信号観測と、偏光変調法によるMOスペクトル測定とを全自動で実現することができるので、磁気光学効果として観測される信号の測定時間を低減することができる。
【0102】
また、本実施形態の磁気光学スペクトル分光装置1および測定方法によれば、偏光変調法により得たMOスペクトルを、回転偏光子法で決定したMO信号で校正することで、MOスペクトルを精度よく簡単に取得することができる。
【0103】
また、本実施形態の磁気光学スペクトル分光装置1および測定方法によれば、回転偏光子法で決定したMO信号が極カー効果に起因することを確かめてから、偏光変調法により得たMOスペクトルを解析するので、従来とは異なって、2つの測定法を用いて校正されたMOスペクトルは、縦カー効果および線二色性ではなく極カー効果によるカー回転角を表すことが確認できる。また、たとえ、回転偏光子法で決定したMO信号が極カー効果に起因することを確かめられなくても、縦カー効果または線二色性によるものか起源を探索することもできる。
【0104】
また、本実施形態の磁気光学スペクトル分光装置1および測定方法によれば、MOディスクのような情報ストレージ、安定的な光通信に必要不可欠なファラデー素子、さらには、ホログラムを用いた3次元ディスプレイなど、磁気光学効果が使用されているさまざまな応用技術において磁性材料のMO効果を正しく効率的に詳しく調べることで、それらの研究開発の促進が期待できる。
【0105】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態では、試料Fで反射した反射光を第2直線偏光板7に通して光検出手段8で観測するものとしたが、試料Fを透過した透過光を第2直線偏光板7に通して光検出手段8で観測するものとしても同様の効果を奏することができる。
【0106】
また、本実施形態では、面直磁化膜の試料を想定し、ステップS1にて、磁場印加手段6Aによって、試料Fの面直方向に所定の大きさの磁場を印加することとしたが、面内磁化膜の試料を用いてもよいし、ステップS1にて印加する磁場の向きは、面内磁場でも同様に測定できる。
【0107】
また、本実施形態の測定方法では、回転偏光子法による測定、カー回転角の算出、およびカー回転角と入射光偏光面の角度との相関の判定を終えてから偏光変調法を用いる測定を行うこととしたが、回転偏光子法による測定と、偏光変調法を用いる測定とを終えてから、演算処理および判定処理を行うようにしてもよい。
【0108】
また、例えば、磁気光学スペクトル分光装置の制御装置は、一般的なコンピュータを、前記した制御手段30および演算手段50として機能させるプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、DVDやCD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、MOディスクのような情報ストレージ、安定的な光通信に必要不可欠なファラデー素子、さらには、ホログラムを用いた3次元ディスプレイなど、磁気光学効果が使用されているさまざまな応用技術に利用できる。
【符号の説明】
【0110】
1 磁気光学スペクトル分光装置
2 光源
3 分光器
4 第1直線偏光板
5 光弾性変調器
6 磁場印加手段
7 第2直線偏光板
8 光検出手段
9 デジタルボルトメータ
10 ロックインアンプ
20 情報処理装置
30 制御手段
31 第1測定制御手段
32 第2測定制御手段
40 記憶手段
41 回転偏光子法測定値(回転偏光子法を用いた測定値)
42 偏光変調法測定値(偏光変調法を用いた測定値)
43 カー回転角絶対値(カー回転角の絶対値)
44 カー回転角スペクトル(カー回転角のスペクトル)
45 MOスペクトル(スペクトルの絶対値)
50 演算手段
51 第1算出手段
52 相関判別手段
53 第2算出手段
54 第3算出手段
F 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の磁気光学特性のスペクトルを測定する偏光変調法を用いる測定系として配置された光源と、分光器と、第1直線偏光板と、光弾性変調器と、磁場印加手段と、第2直線偏光板と、光検出手段と、ボルトメータと、ロックインアンプと、前記分光器で分光される所定波長の光における波長の切り替えを含む動作を予め設定されたタイミングで制御する制御手段と、前記ボルトメータおよび前記ロックインアンプでそれぞれ測定された電圧値を記憶する記憶手段と、前記記憶された電圧値に基づいて前記試料の磁気光学特性としてカー回転角を算出する演算手段とを備えた磁気光学スペクトル分光装置において、
前記各直線偏光板は、回転により偏光面の角度が所定値になるように調整可能な回転機構付き直線偏光板であり、
前記制御手段は、
前記光弾性変調器の偏光変調機能をオフの状態にして前記各直線偏光板において偏光面の角度をそれぞれ変化させる回転偏光子法を用いて前記ボルトメータにより検出される電圧値を測定するための制御を行い前記偏光面の角度別のそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する第1測定制御手段と、
前記光弾性変調器の偏光変調機能をオンの状態、かつ、前記各直線偏光板を所定角度に固定し、前記分光器で分光される光の波長を変化させる偏光変調法を用いて前記ボルトメータおよび前記ロックインアンプによりそれぞれ検出される電圧値を測定するための制御を行いそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する第2測定制御手段と、を備え、
前記演算手段は、
前記記憶手段に記憶された前記回転偏光子法を用いた前記各直線偏光板における偏光面の角度別のそれぞれの測定値に基づいて前記所定波長におけるカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する第1算出手段と、
前記所定波長におけるカー回転角の絶対値と、前記第1直線偏光板における偏光面である入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する相関判別手段と、
前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関が無いと判定された場合、前記記憶手段に記憶された前記偏光変調法を用いた測定値に基づいて前記試料のカー回転角のスペクトルを算出する第2算出手段と、
前記第2算出手段で算出されたスペクトルにおけるカー回転角の値を、前記第1算出手段によって算出されたカー回転角の絶対値に適合させる換算値を求め、前記スペクトルにおけるカー回転角の値に対して前記換算値をそれぞれ乗算することで、校正されたカー回転角のスペクトルを当該試料の磁気光学特性のスペクトルとして算出する第3算出手段と、
を備えることを特徴とする磁気光学スペクトル分光装置。
【請求項2】
前記磁場印加手段は、
前記試料の面直方向に磁場を印加する面直磁場印加手段と、
前記試料の面内方向に磁場を印加する面内磁場印加手段とを備え、
前記演算手段の前記相関判別手段は、
前記試料の面直方向に磁場が印加されたときの前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関がある場合には、前記試料の面内方向であって光の入射面に平行に磁場が印加されたときの測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無をさらに判別し、これらの間に相関がある場合、前記試料の磁気光学効果には縦カー効果もしくは線二色性の寄与が含まれていると判定することを特徴とする請求項1に記載の磁気光学スペクトル分光装置。
【請求項3】
前記演算手段の前記相関判別手段は、
前記試料の面内方向であって光の入射面に平行に磁場が印加されたときの測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関がある場合には、前記試料の面内方向であって光の入射面の法線方向に磁場が印加されたときの測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無をさらに判別し、これらの間に相関がある場合、前記縦カー効果の寄与が含まれているとの判定を覆し前記試料の磁気光学効果には線二色性の寄与が含まれていると判定することを特徴とする請求項2に記載の磁気光学スペクトル分光装置。
【請求項4】
試料の磁気光学特性のスペクトルを測定する偏光変調法を用いる測定系として配置された光源と、分光器と、第1直線偏光板と、光弾性変調器と、磁場印加手段と、第2直線偏光板と、光検出手段と、ボルトメータと、ロックインアンプと、制御手段と、記憶手段と、演算手段とを備えた磁気光学スペクトル分光装置における磁気光学スペクトル測定方法であって、
前記各直線偏光板は、回転により偏光面の角度が所定値になるように調整可能な回転機構付き直線偏光板であり、
前記制御手段によって、
前記光弾性変調器の偏光変調機能をオフの状態にして、前記各直線偏光板において偏光面の角度をそれぞれ変化させる回転偏光子法を用いて前記ボルトメータにより検出される電圧値を測定するための制御を行い前記偏光面の角度別のそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する第1測定制御ステップと、
前記演算手段によって、
前記記憶手段に記憶された前記回転偏光子法を用いた前記各直線偏光板における偏光面の角度別のそれぞれの測定値に基づいて前記所定波長におけるカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する第1算出ステップと、
前記所定波長におけるカー回転角の絶対値と、前記第1直線偏光板における偏光面である入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する相関判別ステップと、
前記制御手段によって、
前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関が無いと判定された場合、前記光弾性変調器の偏光変調機能をオンの状態、かつ、前記各直線偏光板を所定角度に固定し、前記分光器で分光される光の波長を変化させる偏光変調法を用いて前記ボルトメータおよび前記ロックインアンプによりそれぞれ検出される電圧値を測定するための制御を行いそれぞれの測定値を前記記憶手段に記録する第2測定制御ステップと、
前記演算手段によって、
前記記憶手段に記憶された前記偏光変調法を用いた測定値に基づいて前記試料のカー回転角のスペクトルを算出する第2算出ステップと、
前記第2算出ステップで算出されたスペクトルにおけるカー回転角の値を、前記第1算出ステップにて算出されたカー回転角の絶対値に適合させる換算値を求め、前記スペクトルにおけるカー回転角の値に対して前記換算値をそれぞれ乗算することで、校正されたカー回転角のスペクトルを当該試料の磁気光学特性のスペクトルとして算出する第3算出ステップと、
を含んで実行することを特徴とする磁気光学スペクトル測定方法。
【請求項5】
前記相関判別ステップにて、前記試料の面直方向に磁場が印加されたときの前記カー回転角の絶対値と前記入射光偏光面の角度との相関があると判定された場合、前記制御手段によって、
回転偏光子法を用いた測定において、前記試料に印加する磁場の方向を当該試料の面内であって光の入射面に平行な方向に設定して前記ボルトメータにより電圧値を測定する第3測定ステップを実行すると共に、
前記演算手段によって、
前記第3測定ステップにて測定された測定値からカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する第4算出ステップと、
前記第3測定ステップにて測定された測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する第2相関判別ステップと、
この第2相関判別ステップにて相関があると判別された場合、前記試料の磁気光学効果には縦カー効果もしくは線二色性の寄与が含まれていると判定する起源判定ステップと、
を含んで実行することを特徴とする請求項4に記載の磁気光学スペクトル測定方法。
【請求項6】
前記起源判定ステップに続いて、さらに、前記制御手段によって、
回転偏光子法を用いた測定において、前記試料に印加する磁場の方向を当該試料の面内であって光の入射面の法線方向に設定して前記ボルトメータにより電圧値をそれぞれ測定する第4測定ステップを実行すると共に、
前記演算手段によって、
前記第4測定ステップにて測定された測定値からカー回転角の絶対値をそれぞれ算出する第5算出ステップと、
前記第4測定ステップにて測定された測定値を用いて算出されたカー回転角の絶対値と、前記入射光偏光面の角度との相関の有無を判別する第3相関判別ステップと、
この第3相関判別ステップにて相関があると判別された場合、前記縦カー効果の寄与が含まれているとの判定を覆し前記試料の磁気光学効果には線二色性の寄与が含まれていると判定する第2起源判定ステップと、
を含んで実行することを特徴とする請求項5に記載の磁気光学スペクトル測定方法。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれか一項に記載の磁気光学スペクトル測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−122835(P2012−122835A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273552(P2010−273552)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】