磁気抵抗素子を用いた磁気センサ
【課題】連続的な磁界の変化を、高精度なデジタル値として検出し、かつ低コストで提供できる半導体チップを提供する。
【解決手段】磁気センサは、MR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化するMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、MR発振器が出力する矩形波を固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する積分器を備えている。磁気センサのMR発振器と固定発振器と積分器は一つの半導体チップに形成されている。
【解決手段】磁気センサは、MR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化するMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、MR発振器が出力する矩形波を固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する積分器を備えている。磁気センサのMR発振器と固定発振器と積分器は一つの半導体チップに形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気センサに関し、特にMR(Magneto-resistive)素子を利用する発振器を備えていて、検出した磁界強度をデジタル値として出力する磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
車載センサは、物理量を検知するセンサ素子と、該センサ素子を対象とする特定用途用集積回路(Application Specific Integrated Circuit; ASIC)を中心とした部品とから構成されている。自動車の車輪の回転を検出するセンサ素子には、様々な方式が採用されている。レゾルバを用いたもの、磁気抵抗素子を用いたもの、光エンコーダを用いたものなどがある。センサ素子を制御し、出力を検知・変換するセンサASICは、増幅器(計装アンプなど)、帯域制限フィルタ、バッファ、発振器、A/D変換器、コンパレータ等から構成されている。
【0003】
ASICはエンジンの側に配置されることもあり、広い温度範囲と大きな電磁ノイズにさらされる環境下で動作することが求められている。広い温度範囲で動作し、ノイズに強く、検出感度が高いセンサASICに対するニーズは大きい。このようなASICは回路規模が大きく、チップ単価が高くなる傾向にある。
【0004】
特許文献1には、直列に接続されたインバータと、その中の出力端子に接続され、最初のインバータの入力に接続された抵抗Rと、先述の出力と逆相の信号を持つインバータ出力と最初のインバータの入力に接続されたキャパシタから構成される発振器が開示されている。この発振器をIC(Integrated Circuit)の発振器として用いた場合、発振周波数の調整が難しい。発振器の消費電流を低減するには、初段のインバータを構成するトランジスタのW(チャンネル幅)/L(チャンネル長)比を小さくするとよい。
【0005】
抵抗RにCdS(硫化カドミウム)セルや磁気抵抗素子を用いてセンサとすることができる。このような構成では、磁界の変化は周波数で出力されるため、周波数をデジタル信号に変換する後続回路が必要である。発振周波数は磁気抵抗素子のオフセットや感度に著しく影響されるため、磁気センサとして用いるには、様々な補正が必要である。
【0006】
特許文献2に開示されたCR発振回路は補正機能を有している。ここでは、抵抗とスイッチを並行して接続した抵抗アレイを用いて、任意のスイッチをON/OFFすることで発振周波数を可変にしている。
【0007】
特許文献3は、自動車の回転センサを対象にした、磁気センサの回路例を示している。回路は、センサ信号処理装置に用いられ、増幅したセンサ信号の振幅を許容範囲内にする。センサ信号は微弱であるため、2値化等の信号処理を施す前に増幅される。
【0008】
センサ信号処理装置は、増幅器の出力値を予め定めた最大値と比較して、増幅器の出力値が予め定めた最大値より大きいと第1の信号を出力する第1のコンパレータと、増幅器の出力値を予め定めた最小値と比較して、増幅器の出力値が予め定めた最小値より小さいと第2の信号を出力する第2のコンパレータと、増幅器の基準電圧端子に接続されたコンデンサと、第1のコンパレータからの第1の信号にて動作してコンデンサを放電し増幅器での基準電圧を降下させる放電用スイッチング素子と、第2のコンパレータからの第2の信号にて動作してコンデンサを充電し増幅器での基準電圧を上昇させる充電用スイッチング素子を備えている。
【0009】
回転角センサ3は、ギヤ2に対向配置された一対のMR素子4A、4Bを有している。ギヤ2の回転に伴ってMR素子4A、4Bの中点5の電圧が変化し、回転角センサ3から信号が出力される。回転角センサ3からの信号は増幅器8に入力される。増幅器8の出力端子はコンパレータ11及びコンパレータ12にそれぞれ接続され、増幅器8の出力信号はコンパレータ11及びコンパレータ12にて3.8V及び0.2Vと比較される。
【0010】
増幅器8の出力信号が3.8Vあるいは0.2Vから外れると、MOSトランジスタ18あるいは21がオンしてコンデンサ25が充電あるいは放電される。この充放電によるコンデンサ25の電位の変化に伴いオペアンプ27を介して増幅器8の基準電圧が変更される。この方式はギヤ2が通過することに着眼して、磁界変化を2値化しており、連続的な変化の検出には適していない。
【0011】
特許文献4に開示される磁気センサは、磁界センサの出力信号をデジタル信号として出力する。磁気センサ素子を含む発振回路と発振回路に接続されたカウンタ回路で磁気センサを構成し、磁気センサ素子が検出した磁界変化の信号をデジタル変換することにより、磁界センサの出力信号をデジタル信号として出力している。磁気センサは、先ず磁界の変化に対する信号を、アナログ信号として出力する。アナログ信号をデジタル化するためにはA/Dコンバータが必要である。このセンサは、基板にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)インバータICや磁気抵抗素子をそれぞれ備える形を取っており、回路規模が大きくなるため、小型化には向かない。また、磁気抵抗素子と容量により時定数を設定しているため、磁気抵抗素子のばらつきに弱く、オフセット・感度の点で課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−274118号
【特許文献2】特開2006−191262号公報
【特許文献3】特開平7−167876号公報
【特許文献4】特願2001−367134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
センサASICは、増幅器(計装アンプなど)、帯域制限フィルタ、バッファ等を介してA/D変換器やコンパレータに接続される。このようなASICは回路規模が大きく、チップ単価が高くなる傾向がある。車載センサのコスト低減に対する要求は厳しい。このため連続的な磁界の変化を、高精度なデジタル値として検出し、かつ低コストで提供できる半導体チップの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る磁気センサは、MR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化するMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、MR発振器が出力する矩形波を固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する積分器を備えており、MR発振器と固定発振器と積分器は一つの半導体チップに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明に関わる磁気センサは、磁界の変化を、MR素子と検出回路を用いて、デジタル値として出力する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に関わる磁気センサの全体構成を示す図である。
【図2】本発明に関わる磁気センサの使い方を説明するための図である。
【図3】本発明に関わる磁気センサを回転センサとして使用する方法を説明するための図である。
【図4】本発明に関わる磁気センサを回転センサとして使用する別の方法を説明するための図である。
【図5】歯車が正回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図6】歯車が逆回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図7】歯車が正回転から逆回転に転じた場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図8】本発明に関わるMR発振回路の構成を説明するための図である。
【図9】MR発振回路の出力特性を説明するための図である。
【図10】本発明に関わる磁気センサの積算器の一形態を説明するための図である。
【図11】本発明に関わる磁気センサの積算器の別形態を説明するための図である。
【図12】本発明に関わるMR発振回路の別形態を説明するための図である。
【図13】MR発振回路の差動増幅器の一形態を説明するための図である。
【図14】MR発振回路の差動増幅器の別形態を説明するための図である。
【図15】本発明に関わるMR発振回路の別形態を説明するための図である。
【図16】MR発振回路の発振周波数を説明するための図である。
【図17】MR発振回路の電圧特性を説明するための図である。
【図18】本発明に関わる磁気センサの別形態を示す全体構成図である。
【図19】磁気センサを回転センサとして使用する方法を説明するための図である。
【図20】歯車が正回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図21】歯車が逆回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図22】歯車が正回転する場合に磁気センサが出力する波形を2値化した出力を説明するための図である。
【図23】歯車が逆回転する場合に磁気センサが出力する波形を2値化した出力を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
この発明に係る磁気センサの構成を、図1に基づいて説明する。磁気センサ1は、MR発振器2と、固定発振器3と、積分器4から構成されていて、これらの各要素はCMOS−IC(半導体チップ)10に一体的に形成されている。MR素子5を用いたMR発振器2は、MR素子5の周囲における磁気の変化に応じて発振周波数を変化させる。固定発振器3は積分器4のリセットを行うRST信号を出力する。積分器4はMR発振器2の出力信号をそのままカウントし、固定発振器3のRST信号によりカウントをリセットする。
【0018】
MR発振器2を構成するMR素子5はシリコンチップの上層に形成されている。CMOS−IC10の上層に膜状のMR素子5を作成し、このMR素子5をCMOSシリコンチップの内部とスルーホールを用いて接続する。磁気センサを搭載したCMOS−IC10の周囲に配置された磁石11の位置が変化すると、MR素子5に磁界の変化が伝わり、MR素子5の抵抗値が変化する。
【0019】
発振器は繰り返し信号を発生させる回路および装置の総称である。固定発振器3は発振周波数が一定であり、公知の固体振動子発振回路などを用いる。固体振動子発振回路は水晶振動子、セラミック発振子などの電圧を印加することで固有振動を起こす部品(固体振動子)を回路内に接続することにより、発振周波数を決めている。水晶振動子を用いた回路は、発振周波数の精度が非常に高いことが知られている。
【0020】
磁気センサ1の使い方を図2から図7に基づいて説明する。図2には、MR素子5の抵抗値を変化させる方法として、磁石11とMR素子5の間の距離の変化を検出する方法(上段)と、磁石11をMR素子5に平行な方向にスライドさせる方法(下段)が描かれている。MR発振器2を構成するMR素子5はCMOS−IC10の上層(表側)に形成されている。磁石11はCMOS−IC10の表側に配置される場合(左側)と、裏側に配置される場合(右側)がある。どの場合も、磁石11の移動に伴い、MR発振器2の発信周期が変化する。
【0021】
磁気センサ1は回転センサを構成することも出来る。図3は本願に関わる磁気センサを回転センサとして使用する場合の第1の構成を示している。回転センサ23は、CMOS−IC10の他に、車輪などの回転軸に取り付けられる鉄などでできた歯車21と、CMOS−IC10の裏側に取り付けられた磁石11を必要とする。図4は本願に関わる回転センサの第2の形態を示す。回転センサ24は、車輪などの回転軸に取り付けられる鉄などでできた歯車22を必要とする。歯車22は歯先が磁石となっている。
【0022】
歯車21、22の回転が正回転である場合、MR素子5に交互に歯車21、22が近づくため、磁気センサ1の出力は、図5に示すように正弦波状の波形となる。歯車21、22が逆回転した場合は、図6に示すように磁気センサ1の出力の位相が反転する。正回転しているときに逆回転が発生した場合、図7に示すように、正弦波が途中で折り返したような波形となる。このように磁気センサ1は歯車21、22の回転を検出することができる。
【0023】
MR発振器2の回路例を、図8に示す。単相のCR発振器2aは、MR抵抗Rv、固定抵抗Rs、キャパシタCs、第1のインバータ、第2のインバータ、第3のインバータから構成されている。MR抵抗Rvは、リニアな磁界の変化を抵抗値の変化に変換する。ここで、第1のインバータは、PMOSトランジスタMp1とNMOSトランジスタMn1が直列に配列された部分を指している。同様に、第2のインバータは、PMOSトランジスタMp2とNMOSトランジスタMn2から構成されており、第3のインバータはPMOSトランジスタMp3とNMOSトランジスタMn3から構成されている。第4のインバータ(Mp4とMn4)は、バッファである。ノードVfに寄生容量等が付けば、発振周波数が小さくなるので、第4のインバータでノードVfが外側から見えないようにして、内部の発振器の時定数が変更されないようにしている。ノードVoがCR発振器2aの出力端子である。
【0024】
図9を用いて単相のCR発振器2aの動作を説明する。CR発振器2aが動作している時の、ノードVg、ノードVm、ノードVfの電圧変化を示している。ノードVmが"H"状態に変化したとき、ノードVgの振幅は一度"H"状態になり、そこから抵抗(Rs+Rv)からの電流に従って減少していく。やがてノードVgが第1のインバータのスレッシュホールド電圧以下なり、その瞬間にノードVmは"L"となる。このノードVgの第1のインバータの電圧変化より、CR発振器2aの発振周期Tは、T=2.2×Cs×(Rv+Rs)と示される。抵抗RvはMR素子5への磁界により変化させることができるので、発振周波数TはこのCR発振器2aへの磁界の変化に従って変化する。間隔tw1と間隔tw2は等しい。
【0025】
発振周波数を決定する抵抗を可変抵抗だけにすると、発振器が全て安定的に発振できる抵抗値になるかを保証することが出来ない。ここでは、発振周波数を決定する抵抗をMR抵抗Rvと固定抵抗Rsとし、可変幅を制限できるようにした。磁気センサとして用いる場合、MR素子を用いたMR発振器2aの周波数を高くし、積分器4のリセットを行う通常の固定発振器3の周波数を低く設定し、積分器4のバス幅を大きく取ることにより、磁気センサの高分解能化が可能である。
【0026】
積分器4の回路例を図10に示す。デジタルフィルタ6aは、ローパスフィルターに相当し、累積加算器、スイッチ、分周器(カウンタなどより構成)、差分器より構成される。累積加算器は、D-FF(デレイ−フリップフロップ)と加算器から構成されている。差分器もD-FFと減算器から構成されている。ノードDINには、MR素子を用いたMR発振器2の信号が、ノードCKには固定発振器3の信号が接続される。この接続は逆でも良い。デジタルフィルタ6aはノードDINからの信号をカウントし続けるが、スイッチにより有る一定間隔でのみ信号は差分器に伝えられる。差分器で一定間隔の現在の値と前の値とを減算し、現在のセンサ出力のデジタル値を得る。
【0027】
デジタルフィルタの次数を上げて高性能化することもできる。例えば3次のフィルタにする場合、図11に示すように、3つの累積加算器と3つの差分器を設ける。デジタルフィルタ6bは、3段の累積加算器、スイッチ、分周器(カウンタなどより構成)、累積加算器と同じ段数の差分器から構成する。累積加算器は、D−FFと加算器から構成される。差分器もD−FFと減算器から構成される。ノードDINには、MR素子を用いたMR発振器2の信号が、ノードCKには固定発振器3が接続される。この接続は逆でも良い。
【0028】
デジタルフィルタ6bはノードDINからの信号をカウントし続けるが、スイッチにより、ある一定間隔でのみ差分器に伝えられる。差分器で現在の値と前の値とを減算し、現在のセンサ出力のデジタル値を得る。積分器としてのカウンタは1次のローパスフィルタに相当するが、デジタルフィルタ6bは3次のフィルタを実現できるため、高性能な磁気センサを実現できる。また、簡単な構成としては、リセット付きのアップカウンタを用いて実現できる。発振器のクロックをカウントし、固定発振器3のタイミングでリセットすることで、デジタル値を得ることも可能である。
【0029】
実施の形態2.
実施の形態2に係る磁気センサの構成を図12に基づいて説明する。実施の形態2に係る磁気センサは、MR発振器2に差動式CR発振器を用いている。MR素子を用いた差動式CR発振器2bを図12に示す。差動式CR発振器2bはMR抵抗(RvpとRvn)、固定抵抗(RspとRsn)、キャパシタ(CspとCsn)、第1の差動増幅器A1、第2の差動増幅器A2、第3の差動増幅器A3から構成される。差動増幅器A1〜A3は、図13と図14に示すようにNMOSトランジスタ(Mnc1とMn1〜2)、PMOSトランジスタ(Mpc1〜Mpc2)から構成される。
【0030】
MR抵抗(RvpとRvn)を用いた差動式CR発振器2bは、MR素子上の磁気の変化に応じて発振周波数を変化させる。この信号をそのまま積分器4でカウントさせ、固定発振器3により積分器4をリセットする。Rvp=Rv+ΔRv, Rvn=Rv−ΔRvとすると、差動式CR発振器2bの発振周期Tは、T=2.2×Cs×(Rv+2ΔRv+Rs)と示される。ΔRvはMR素子への磁界により変化させることができるので、この発振器への磁界に従って発振周波数は変化する。
【0031】
ここでも発振周波数を決定する抵抗をMR抵抗Rvと固定抵抗Rsとし、可変幅を制限している。実施の形態1の回路と比べて、磁界を検知する発振器の回路構成が差動構成になることにより、電源ノイズに強くなる。また、MR素子の抵抗値が2倍変化するので、信号検出感度も高くなる。
【0032】
実施の形態3.
実施の形態3に係る磁気センサは、実施の形態1に係る磁気センサとMR発振器の構成が異なる。実施の形態3に関わるMR素子を用いた緩和型発振器2cの構成を図15に示す。緩和型発振器2cは、MR素子(RvpとRvn)、固定抵抗(RspとRsn)、キャパシタ(Cs1とCs2)、N型MOSトランジスタ(Mnc1〜3とMn1〜3)、P型MOSトランジスタ(Mp1)から構成される。
【0033】
緩和型発振器2cの発振周波数fは、図16に示す式で表される。ここで、gmはMn1とMn2のトランスコンダクタンス(A/V)、ClはMp1とMn3のゲート容量の合計である。MR素子を用いた緩和発振器2cは、MR素子上の磁気の変化に応じて発振周波数を変化させる。この信号をそのまま積分器4でカウントさせ、固定発振器3により積分器4をリセットする。インバータMp1、Mn3およびMnc1は、内部の発振器の時定数が変更されないようにしているバッファである。
【0034】
図17は緩和型発振器2cを動作させたときの、ノードVon、ノードVop、ノードVcp、ノードVcnの波形を示す。ノードVopが”H”、ノードVonが”L”のとき、Mn1はOFF状態、Mn2はON状態となる。すると、ノードVcnはMn2から供給される電流とMnc3から吸い出される電流で平衡状態となる。一方、ノードVcpは、Mnc2から電流が吸い出されるため電圧が低下していく。ノードVcpが低下すると次にMn1がON状態となり、Mn1の供給される電流とMnc2から吸い出される電流で平衡状態となる。ノードVopの電圧は低下し、Mn2がOFF状態となる。これを繰り返すことで、緩和型発振器2cはノードVopとノードVonから矩形波を出力する。
【0035】
実施の形態3では、実施の形態1の回路に比べると、発振器の構成が全差動構成になることにより、電源ノイズに強くなる。またMR素子の抵抗変化が2倍となるため、信号検出感度も高くなる。さらに実施の形態1、2でのMR素子を用いたCR発振器に比べて、この緩和型発振器は高い周波数で発振できる。よってCR発振器を用いた磁気センサより大きなサンプリング比を実現できることになり、磁気センサの出力の高精度化が可能となる。
【0036】
実施の形態4.
本願に関わる磁気センサの実施の形態4を図18に示す。CMOS-IC10は、2つの隣り合う磁気センサ1(30a)、磁気センサ2(30b)と、それらに接続される位相検知回路25と、固定発振器から構成されている。固定発振器は磁気センサ1(30a)と磁気センサ2(30b)に対し共通化されている。磁気センサ1(30a)の出力と磁気センサ2(30b)の出力は位相検出回路25に入力される。位相検出回路25では磁気センサ1(30a)および磁気センサ2(30b)の出力を2値化する。
【0037】
実施の形態4に関わる磁気センサは図19に示すように、回転センサとして活用できる。回転センサ31は鉄などで出来た歯車21と、CMOS-IC10と、磁石11より構成される。CMOS-IC10には2つの隣り合うMR素子5a、5bが設けられている。MR素子5aは磁気センサ1(30a)のMR発振に含まれている。MR素子5bは磁気センサ2(30b)のMR発振に含まれている。位相検出回路25の出力から歯車の正回転または逆回転の区別を判断できる。
【0038】
歯車21が正回転した場合、磁気センサ1と磁気センサ2が示す出力を図20に表示する。実線が磁気センサ1の波形、破線が磁気センサ2の波形である。図21は、歯車21が逆回転した場合の出力である。図20と同様に、実線が磁気センサ1の波形、破線が磁気センサ2の波形である。磁気センサ1と磁気センサ2は隣接しているため、2つの波形に位相のずれが生じる。この位相の進み/遅れを位相検出回路25で検出することで、回転方向を検出する。
【0039】
図20に示された正回転の場合の波形を2値化した場合に得られる特性を図22に示す。図21に示された逆回転の場合の波形を2値化した場合に得られる特性を図23に示す。回転方向は、例えば磁気センサ2の波形の立ち上がりエッジを基準に磁気センサ1の極性(”H”/”L”)を見ることで、判断できる。歯車21が正回転中である図20の場合、磁気センサ2の立ち上がりエッジでは磁気センサ1の出力は”L”である。また、歯車が逆回転中である図21の場合、磁気センサ2の立ち上がりエッジでの磁気センサ1の出力は”H”である。このように歯車の回転と回転方向を検出することが出来る。
【0040】
実施の形態4でも、図4で示した、歯が磁石で出来た歯車22を用いることが出来る。なお、MR素子として、例えば、GMR(Giant Magneto Resistive)素子やTMR(Tunneling Magneto Resistive)素子を用いることにより、さらに高感度・高精度化することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 磁気センサ、2 MR発振器、3 固定発振器、4 積分器、5 MR素子、6 デジタルフィルタ、10 MOS−IC、11 磁石
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気センサに関し、特にMR(Magneto-resistive)素子を利用する発振器を備えていて、検出した磁界強度をデジタル値として出力する磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
車載センサは、物理量を検知するセンサ素子と、該センサ素子を対象とする特定用途用集積回路(Application Specific Integrated Circuit; ASIC)を中心とした部品とから構成されている。自動車の車輪の回転を検出するセンサ素子には、様々な方式が採用されている。レゾルバを用いたもの、磁気抵抗素子を用いたもの、光エンコーダを用いたものなどがある。センサ素子を制御し、出力を検知・変換するセンサASICは、増幅器(計装アンプなど)、帯域制限フィルタ、バッファ、発振器、A/D変換器、コンパレータ等から構成されている。
【0003】
ASICはエンジンの側に配置されることもあり、広い温度範囲と大きな電磁ノイズにさらされる環境下で動作することが求められている。広い温度範囲で動作し、ノイズに強く、検出感度が高いセンサASICに対するニーズは大きい。このようなASICは回路規模が大きく、チップ単価が高くなる傾向にある。
【0004】
特許文献1には、直列に接続されたインバータと、その中の出力端子に接続され、最初のインバータの入力に接続された抵抗Rと、先述の出力と逆相の信号を持つインバータ出力と最初のインバータの入力に接続されたキャパシタから構成される発振器が開示されている。この発振器をIC(Integrated Circuit)の発振器として用いた場合、発振周波数の調整が難しい。発振器の消費電流を低減するには、初段のインバータを構成するトランジスタのW(チャンネル幅)/L(チャンネル長)比を小さくするとよい。
【0005】
抵抗RにCdS(硫化カドミウム)セルや磁気抵抗素子を用いてセンサとすることができる。このような構成では、磁界の変化は周波数で出力されるため、周波数をデジタル信号に変換する後続回路が必要である。発振周波数は磁気抵抗素子のオフセットや感度に著しく影響されるため、磁気センサとして用いるには、様々な補正が必要である。
【0006】
特許文献2に開示されたCR発振回路は補正機能を有している。ここでは、抵抗とスイッチを並行して接続した抵抗アレイを用いて、任意のスイッチをON/OFFすることで発振周波数を可変にしている。
【0007】
特許文献3は、自動車の回転センサを対象にした、磁気センサの回路例を示している。回路は、センサ信号処理装置に用いられ、増幅したセンサ信号の振幅を許容範囲内にする。センサ信号は微弱であるため、2値化等の信号処理を施す前に増幅される。
【0008】
センサ信号処理装置は、増幅器の出力値を予め定めた最大値と比較して、増幅器の出力値が予め定めた最大値より大きいと第1の信号を出力する第1のコンパレータと、増幅器の出力値を予め定めた最小値と比較して、増幅器の出力値が予め定めた最小値より小さいと第2の信号を出力する第2のコンパレータと、増幅器の基準電圧端子に接続されたコンデンサと、第1のコンパレータからの第1の信号にて動作してコンデンサを放電し増幅器での基準電圧を降下させる放電用スイッチング素子と、第2のコンパレータからの第2の信号にて動作してコンデンサを充電し増幅器での基準電圧を上昇させる充電用スイッチング素子を備えている。
【0009】
回転角センサ3は、ギヤ2に対向配置された一対のMR素子4A、4Bを有している。ギヤ2の回転に伴ってMR素子4A、4Bの中点5の電圧が変化し、回転角センサ3から信号が出力される。回転角センサ3からの信号は増幅器8に入力される。増幅器8の出力端子はコンパレータ11及びコンパレータ12にそれぞれ接続され、増幅器8の出力信号はコンパレータ11及びコンパレータ12にて3.8V及び0.2Vと比較される。
【0010】
増幅器8の出力信号が3.8Vあるいは0.2Vから外れると、MOSトランジスタ18あるいは21がオンしてコンデンサ25が充電あるいは放電される。この充放電によるコンデンサ25の電位の変化に伴いオペアンプ27を介して増幅器8の基準電圧が変更される。この方式はギヤ2が通過することに着眼して、磁界変化を2値化しており、連続的な変化の検出には適していない。
【0011】
特許文献4に開示される磁気センサは、磁界センサの出力信号をデジタル信号として出力する。磁気センサ素子を含む発振回路と発振回路に接続されたカウンタ回路で磁気センサを構成し、磁気センサ素子が検出した磁界変化の信号をデジタル変換することにより、磁界センサの出力信号をデジタル信号として出力している。磁気センサは、先ず磁界の変化に対する信号を、アナログ信号として出力する。アナログ信号をデジタル化するためにはA/Dコンバータが必要である。このセンサは、基板にCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)インバータICや磁気抵抗素子をそれぞれ備える形を取っており、回路規模が大きくなるため、小型化には向かない。また、磁気抵抗素子と容量により時定数を設定しているため、磁気抵抗素子のばらつきに弱く、オフセット・感度の点で課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2−274118号
【特許文献2】特開2006−191262号公報
【特許文献3】特開平7−167876号公報
【特許文献4】特願2001−367134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
センサASICは、増幅器(計装アンプなど)、帯域制限フィルタ、バッファ等を介してA/D変換器やコンパレータに接続される。このようなASICは回路規模が大きく、チップ単価が高くなる傾向がある。車載センサのコスト低減に対する要求は厳しい。このため連続的な磁界の変化を、高精度なデジタル値として検出し、かつ低コストで提供できる半導体チップの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る磁気センサは、MR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化するMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、MR発振器が出力する矩形波を固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する積分器を備えており、MR発振器と固定発振器と積分器は一つの半導体チップに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明に関わる磁気センサは、磁界の変化を、MR素子と検出回路を用いて、デジタル値として出力する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に関わる磁気センサの全体構成を示す図である。
【図2】本発明に関わる磁気センサの使い方を説明するための図である。
【図3】本発明に関わる磁気センサを回転センサとして使用する方法を説明するための図である。
【図4】本発明に関わる磁気センサを回転センサとして使用する別の方法を説明するための図である。
【図5】歯車が正回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図6】歯車が逆回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図7】歯車が正回転から逆回転に転じた場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図8】本発明に関わるMR発振回路の構成を説明するための図である。
【図9】MR発振回路の出力特性を説明するための図である。
【図10】本発明に関わる磁気センサの積算器の一形態を説明するための図である。
【図11】本発明に関わる磁気センサの積算器の別形態を説明するための図である。
【図12】本発明に関わるMR発振回路の別形態を説明するための図である。
【図13】MR発振回路の差動増幅器の一形態を説明するための図である。
【図14】MR発振回路の差動増幅器の別形態を説明するための図である。
【図15】本発明に関わるMR発振回路の別形態を説明するための図である。
【図16】MR発振回路の発振周波数を説明するための図である。
【図17】MR発振回路の電圧特性を説明するための図である。
【図18】本発明に関わる磁気センサの別形態を示す全体構成図である。
【図19】磁気センサを回転センサとして使用する方法を説明するための図である。
【図20】歯車が正回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図21】歯車が逆回転する場合に磁気センサが出力する波形を説明するための図である。
【図22】歯車が正回転する場合に磁気センサが出力する波形を2値化した出力を説明するための図である。
【図23】歯車が逆回転する場合に磁気センサが出力する波形を2値化した出力を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
この発明に係る磁気センサの構成を、図1に基づいて説明する。磁気センサ1は、MR発振器2と、固定発振器3と、積分器4から構成されていて、これらの各要素はCMOS−IC(半導体チップ)10に一体的に形成されている。MR素子5を用いたMR発振器2は、MR素子5の周囲における磁気の変化に応じて発振周波数を変化させる。固定発振器3は積分器4のリセットを行うRST信号を出力する。積分器4はMR発振器2の出力信号をそのままカウントし、固定発振器3のRST信号によりカウントをリセットする。
【0018】
MR発振器2を構成するMR素子5はシリコンチップの上層に形成されている。CMOS−IC10の上層に膜状のMR素子5を作成し、このMR素子5をCMOSシリコンチップの内部とスルーホールを用いて接続する。磁気センサを搭載したCMOS−IC10の周囲に配置された磁石11の位置が変化すると、MR素子5に磁界の変化が伝わり、MR素子5の抵抗値が変化する。
【0019】
発振器は繰り返し信号を発生させる回路および装置の総称である。固定発振器3は発振周波数が一定であり、公知の固体振動子発振回路などを用いる。固体振動子発振回路は水晶振動子、セラミック発振子などの電圧を印加することで固有振動を起こす部品(固体振動子)を回路内に接続することにより、発振周波数を決めている。水晶振動子を用いた回路は、発振周波数の精度が非常に高いことが知られている。
【0020】
磁気センサ1の使い方を図2から図7に基づいて説明する。図2には、MR素子5の抵抗値を変化させる方法として、磁石11とMR素子5の間の距離の変化を検出する方法(上段)と、磁石11をMR素子5に平行な方向にスライドさせる方法(下段)が描かれている。MR発振器2を構成するMR素子5はCMOS−IC10の上層(表側)に形成されている。磁石11はCMOS−IC10の表側に配置される場合(左側)と、裏側に配置される場合(右側)がある。どの場合も、磁石11の移動に伴い、MR発振器2の発信周期が変化する。
【0021】
磁気センサ1は回転センサを構成することも出来る。図3は本願に関わる磁気センサを回転センサとして使用する場合の第1の構成を示している。回転センサ23は、CMOS−IC10の他に、車輪などの回転軸に取り付けられる鉄などでできた歯車21と、CMOS−IC10の裏側に取り付けられた磁石11を必要とする。図4は本願に関わる回転センサの第2の形態を示す。回転センサ24は、車輪などの回転軸に取り付けられる鉄などでできた歯車22を必要とする。歯車22は歯先が磁石となっている。
【0022】
歯車21、22の回転が正回転である場合、MR素子5に交互に歯車21、22が近づくため、磁気センサ1の出力は、図5に示すように正弦波状の波形となる。歯車21、22が逆回転した場合は、図6に示すように磁気センサ1の出力の位相が反転する。正回転しているときに逆回転が発生した場合、図7に示すように、正弦波が途中で折り返したような波形となる。このように磁気センサ1は歯車21、22の回転を検出することができる。
【0023】
MR発振器2の回路例を、図8に示す。単相のCR発振器2aは、MR抵抗Rv、固定抵抗Rs、キャパシタCs、第1のインバータ、第2のインバータ、第3のインバータから構成されている。MR抵抗Rvは、リニアな磁界の変化を抵抗値の変化に変換する。ここで、第1のインバータは、PMOSトランジスタMp1とNMOSトランジスタMn1が直列に配列された部分を指している。同様に、第2のインバータは、PMOSトランジスタMp2とNMOSトランジスタMn2から構成されており、第3のインバータはPMOSトランジスタMp3とNMOSトランジスタMn3から構成されている。第4のインバータ(Mp4とMn4)は、バッファである。ノードVfに寄生容量等が付けば、発振周波数が小さくなるので、第4のインバータでノードVfが外側から見えないようにして、内部の発振器の時定数が変更されないようにしている。ノードVoがCR発振器2aの出力端子である。
【0024】
図9を用いて単相のCR発振器2aの動作を説明する。CR発振器2aが動作している時の、ノードVg、ノードVm、ノードVfの電圧変化を示している。ノードVmが"H"状態に変化したとき、ノードVgの振幅は一度"H"状態になり、そこから抵抗(Rs+Rv)からの電流に従って減少していく。やがてノードVgが第1のインバータのスレッシュホールド電圧以下なり、その瞬間にノードVmは"L"となる。このノードVgの第1のインバータの電圧変化より、CR発振器2aの発振周期Tは、T=2.2×Cs×(Rv+Rs)と示される。抵抗RvはMR素子5への磁界により変化させることができるので、発振周波数TはこのCR発振器2aへの磁界の変化に従って変化する。間隔tw1と間隔tw2は等しい。
【0025】
発振周波数を決定する抵抗を可変抵抗だけにすると、発振器が全て安定的に発振できる抵抗値になるかを保証することが出来ない。ここでは、発振周波数を決定する抵抗をMR抵抗Rvと固定抵抗Rsとし、可変幅を制限できるようにした。磁気センサとして用いる場合、MR素子を用いたMR発振器2aの周波数を高くし、積分器4のリセットを行う通常の固定発振器3の周波数を低く設定し、積分器4のバス幅を大きく取ることにより、磁気センサの高分解能化が可能である。
【0026】
積分器4の回路例を図10に示す。デジタルフィルタ6aは、ローパスフィルターに相当し、累積加算器、スイッチ、分周器(カウンタなどより構成)、差分器より構成される。累積加算器は、D-FF(デレイ−フリップフロップ)と加算器から構成されている。差分器もD-FFと減算器から構成されている。ノードDINには、MR素子を用いたMR発振器2の信号が、ノードCKには固定発振器3の信号が接続される。この接続は逆でも良い。デジタルフィルタ6aはノードDINからの信号をカウントし続けるが、スイッチにより有る一定間隔でのみ信号は差分器に伝えられる。差分器で一定間隔の現在の値と前の値とを減算し、現在のセンサ出力のデジタル値を得る。
【0027】
デジタルフィルタの次数を上げて高性能化することもできる。例えば3次のフィルタにする場合、図11に示すように、3つの累積加算器と3つの差分器を設ける。デジタルフィルタ6bは、3段の累積加算器、スイッチ、分周器(カウンタなどより構成)、累積加算器と同じ段数の差分器から構成する。累積加算器は、D−FFと加算器から構成される。差分器もD−FFと減算器から構成される。ノードDINには、MR素子を用いたMR発振器2の信号が、ノードCKには固定発振器3が接続される。この接続は逆でも良い。
【0028】
デジタルフィルタ6bはノードDINからの信号をカウントし続けるが、スイッチにより、ある一定間隔でのみ差分器に伝えられる。差分器で現在の値と前の値とを減算し、現在のセンサ出力のデジタル値を得る。積分器としてのカウンタは1次のローパスフィルタに相当するが、デジタルフィルタ6bは3次のフィルタを実現できるため、高性能な磁気センサを実現できる。また、簡単な構成としては、リセット付きのアップカウンタを用いて実現できる。発振器のクロックをカウントし、固定発振器3のタイミングでリセットすることで、デジタル値を得ることも可能である。
【0029】
実施の形態2.
実施の形態2に係る磁気センサの構成を図12に基づいて説明する。実施の形態2に係る磁気センサは、MR発振器2に差動式CR発振器を用いている。MR素子を用いた差動式CR発振器2bを図12に示す。差動式CR発振器2bはMR抵抗(RvpとRvn)、固定抵抗(RspとRsn)、キャパシタ(CspとCsn)、第1の差動増幅器A1、第2の差動増幅器A2、第3の差動増幅器A3から構成される。差動増幅器A1〜A3は、図13と図14に示すようにNMOSトランジスタ(Mnc1とMn1〜2)、PMOSトランジスタ(Mpc1〜Mpc2)から構成される。
【0030】
MR抵抗(RvpとRvn)を用いた差動式CR発振器2bは、MR素子上の磁気の変化に応じて発振周波数を変化させる。この信号をそのまま積分器4でカウントさせ、固定発振器3により積分器4をリセットする。Rvp=Rv+ΔRv, Rvn=Rv−ΔRvとすると、差動式CR発振器2bの発振周期Tは、T=2.2×Cs×(Rv+2ΔRv+Rs)と示される。ΔRvはMR素子への磁界により変化させることができるので、この発振器への磁界に従って発振周波数は変化する。
【0031】
ここでも発振周波数を決定する抵抗をMR抵抗Rvと固定抵抗Rsとし、可変幅を制限している。実施の形態1の回路と比べて、磁界を検知する発振器の回路構成が差動構成になることにより、電源ノイズに強くなる。また、MR素子の抵抗値が2倍変化するので、信号検出感度も高くなる。
【0032】
実施の形態3.
実施の形態3に係る磁気センサは、実施の形態1に係る磁気センサとMR発振器の構成が異なる。実施の形態3に関わるMR素子を用いた緩和型発振器2cの構成を図15に示す。緩和型発振器2cは、MR素子(RvpとRvn)、固定抵抗(RspとRsn)、キャパシタ(Cs1とCs2)、N型MOSトランジスタ(Mnc1〜3とMn1〜3)、P型MOSトランジスタ(Mp1)から構成される。
【0033】
緩和型発振器2cの発振周波数fは、図16に示す式で表される。ここで、gmはMn1とMn2のトランスコンダクタンス(A/V)、ClはMp1とMn3のゲート容量の合計である。MR素子を用いた緩和発振器2cは、MR素子上の磁気の変化に応じて発振周波数を変化させる。この信号をそのまま積分器4でカウントさせ、固定発振器3により積分器4をリセットする。インバータMp1、Mn3およびMnc1は、内部の発振器の時定数が変更されないようにしているバッファである。
【0034】
図17は緩和型発振器2cを動作させたときの、ノードVon、ノードVop、ノードVcp、ノードVcnの波形を示す。ノードVopが”H”、ノードVonが”L”のとき、Mn1はOFF状態、Mn2はON状態となる。すると、ノードVcnはMn2から供給される電流とMnc3から吸い出される電流で平衡状態となる。一方、ノードVcpは、Mnc2から電流が吸い出されるため電圧が低下していく。ノードVcpが低下すると次にMn1がON状態となり、Mn1の供給される電流とMnc2から吸い出される電流で平衡状態となる。ノードVopの電圧は低下し、Mn2がOFF状態となる。これを繰り返すことで、緩和型発振器2cはノードVopとノードVonから矩形波を出力する。
【0035】
実施の形態3では、実施の形態1の回路に比べると、発振器の構成が全差動構成になることにより、電源ノイズに強くなる。またMR素子の抵抗変化が2倍となるため、信号検出感度も高くなる。さらに実施の形態1、2でのMR素子を用いたCR発振器に比べて、この緩和型発振器は高い周波数で発振できる。よってCR発振器を用いた磁気センサより大きなサンプリング比を実現できることになり、磁気センサの出力の高精度化が可能となる。
【0036】
実施の形態4.
本願に関わる磁気センサの実施の形態4を図18に示す。CMOS-IC10は、2つの隣り合う磁気センサ1(30a)、磁気センサ2(30b)と、それらに接続される位相検知回路25と、固定発振器から構成されている。固定発振器は磁気センサ1(30a)と磁気センサ2(30b)に対し共通化されている。磁気センサ1(30a)の出力と磁気センサ2(30b)の出力は位相検出回路25に入力される。位相検出回路25では磁気センサ1(30a)および磁気センサ2(30b)の出力を2値化する。
【0037】
実施の形態4に関わる磁気センサは図19に示すように、回転センサとして活用できる。回転センサ31は鉄などで出来た歯車21と、CMOS-IC10と、磁石11より構成される。CMOS-IC10には2つの隣り合うMR素子5a、5bが設けられている。MR素子5aは磁気センサ1(30a)のMR発振に含まれている。MR素子5bは磁気センサ2(30b)のMR発振に含まれている。位相検出回路25の出力から歯車の正回転または逆回転の区別を判断できる。
【0038】
歯車21が正回転した場合、磁気センサ1と磁気センサ2が示す出力を図20に表示する。実線が磁気センサ1の波形、破線が磁気センサ2の波形である。図21は、歯車21が逆回転した場合の出力である。図20と同様に、実線が磁気センサ1の波形、破線が磁気センサ2の波形である。磁気センサ1と磁気センサ2は隣接しているため、2つの波形に位相のずれが生じる。この位相の進み/遅れを位相検出回路25で検出することで、回転方向を検出する。
【0039】
図20に示された正回転の場合の波形を2値化した場合に得られる特性を図22に示す。図21に示された逆回転の場合の波形を2値化した場合に得られる特性を図23に示す。回転方向は、例えば磁気センサ2の波形の立ち上がりエッジを基準に磁気センサ1の極性(”H”/”L”)を見ることで、判断できる。歯車21が正回転中である図20の場合、磁気センサ2の立ち上がりエッジでは磁気センサ1の出力は”L”である。また、歯車が逆回転中である図21の場合、磁気センサ2の立ち上がりエッジでの磁気センサ1の出力は”H”である。このように歯車の回転と回転方向を検出することが出来る。
【0040】
実施の形態4でも、図4で示した、歯が磁石で出来た歯車22を用いることが出来る。なお、MR素子として、例えば、GMR(Giant Magneto Resistive)素子やTMR(Tunneling Magneto Resistive)素子を用いることにより、さらに高感度・高精度化することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 磁気センサ、2 MR発振器、3 固定発振器、4 積分器、5 MR素子、6 デジタルフィルタ、10 MOS−IC、11 磁石
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化するMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、前記MR発振器が出力する矩形波を前記固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する積分器を備えており、前記MR発振器と前記固定発振器と前記積分器は一つの半導体チップに形成されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
第1のMR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化する第1のMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、前記第1のMR発振器が出力する矩形波を前記固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する第1の積分器と、第2のMR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化する第2のMR発振器と、前記第2のMR発振器が出力する矩形波を前記固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する第2の積分器と、前記第1の積分器と前記第2の積分器の出力から、前記第1のMR発振器と前記第1のMR発振器の位相差を検出する位相検出回路を備えており、
前記第1のMR発振器と前記第2のMR発振器と前記固定発振器と前記第1の積分器と前記第2の積分器と前記位相検出回路は一つの半導体チップに形成されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項3】
MR発振器は、単相のCR発振器であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
MR発振器は、差動CR発振器であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項5】
MR発振器は、緩和型発振器であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項1】
MR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化するMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、前記MR発振器が出力する矩形波を前記固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する積分器を備えており、前記MR発振器と前記固定発振器と前記積分器は一つの半導体チップに形成されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
第1のMR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化する第1のMR発振器と、一定の発振周期で発振する固定発振器と、前記第1のMR発振器が出力する矩形波を前記固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する第1の積分器と、第2のMR素子を有し、外部磁界の強度に対応して発振周期が変化する第2のMR発振器と、前記第2のMR発振器が出力する矩形波を前記固定発振器の出力するリセット信号に基づいてカウントしデジタル値として出力する第2の積分器と、前記第1の積分器と前記第2の積分器の出力から、前記第1のMR発振器と前記第1のMR発振器の位相差を検出する位相検出回路を備えており、
前記第1のMR発振器と前記第2のMR発振器と前記固定発振器と前記第1の積分器と前記第2の積分器と前記位相検出回路は一つの半導体チップに形成されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項3】
MR発振器は、単相のCR発振器であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
MR発振器は、差動CR発振器であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ。
【請求項5】
MR発振器は、緩和型発振器であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−107939(P2012−107939A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256026(P2010−256026)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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