説明

磁気記憶素子

【課題】 素子の微細化に伴う反転磁界の増大を抑制し、かつ記録層の磁化分布を制御することが可能な磁気記憶素子を提供する。
【解決手段】 この強磁性トンネル接合素子7では、記録層22を円形にしたので、素子の微細化に伴う反転磁界の増大を抑制することができる。また、記録層22は順次積層された強磁性層25、非磁性層26、強磁性層27、非磁性層28、および強磁性層29を含み、強磁性層25と27、および強磁性層27と29はそれぞれ反平行結合しているので、記録層22の磁化分布を略一方向に制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記憶素子に関し、特に、磁気抵抗効果によりデータを記憶する磁気記憶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗(MR:magnetoresistive)効果は、磁性体に磁界を加えることにより電気抵抗が変化する現象であり、磁界センサや磁気ヘッドなどに利用されている。近年、従来の巨大磁気抵抗(GMR:giant-magnetoresistance)効果やこれに対して更に大きな抵抗変化率が得られるトンネル磁気抵抗(TMR:tunneling magnetoresistance)効果を用いた不揮発性磁気記憶装置(MRAM:Magnetic Random Access Memory)や磁気ヘッドが検討されている。
【0003】
GMR効果やTMR効果を発現するGMR素子やTMR素子においては、強磁性層/非磁性層/強磁性層/反強磁性層を積層し、強磁性層/反強磁性層を交換結合させて、その強磁性層の磁気モーメントを固定し、他方の強磁性層のスピンのみを外部磁界で容易に反転できるようにした、いわゆるスピンバルブ構造が知られている。この場合、一方の強磁性層においては小さな磁界でスピンを反転させることができるので、高感度の磁気抵抗素子を提供することができ、この磁気抵抗素子は高密度磁気記録用再生ヘッドとして用いられている。GMR素子においては非磁性層として金属膜を用い、TMR素子においては非磁性層としてトンネル絶縁膜を用いる。
【0004】
GMR素子およびTMR素子をMRAMに利用する研究は、たとえば非特許文献1,2に示されている。GMR素子やTMR素子をMRAMへ利用する場合、これらの素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加し、各素子を構成する2つの磁性層を互いに平行または反平行に制御することにより、データ“1”または“0”を記録する。読出はGMR効果やTMR効果を利用して行なわれ、上記磁性層の平行または反平行状態に依存した素子抵抗値の変化を利用する。
【0005】
MRAMにおいては、GMR効果に対しTMR効果を利用した方が低消費電力であるため、主としてTMR素子を用いることが検討されている。TMR素子を利用したMRAMは、室温でMR変化率が20%以上と大きく、かつトンネル接合における抵抗値が大きいので、より大きな出力電圧が得られること、また読出時にスピン反転をする必要がなく、それだけ小さい電流で読出が可能であることなどの特徴があり、高速書込・読出可能な低消費電力型の不揮発性半導体記憶装置として期待されている。
【0006】
上述のように、MRAMにおいてはTMR素子の一方の強磁性層の磁化を反転することでデータ“1”または“0”の記憶を行なう。この記録層となる強磁性層は、結晶構造や形状などにより磁化しやすい方向(エネルギが低い状態)を有する。この方向は磁化容易軸(easy axis)と呼ばれる。記憶が保持されている状態では、強磁性層はこの方向に磁化される。これに対し、磁化しにくい方向は、磁化困難軸(hard axis)と呼ばれる。
【0007】
記録層の磁化容易軸は通常、形状によって決定されており、記録層の長手方向となる。このため記録層の磁化を反転させる際に必要な磁界、すなわち反転磁界は記録層の形状に依存して変化する。この反転磁界は非特許文献3に示されるように、記録層の幅にほぼ反比例し、厚さに比例することが知られている。
【0008】
MRAMでは、高集積化のためにセルの微細化を実施した場合、記録層の幅に依存して、反磁界により反転磁界が増大する。これにより書込時に大きな磁界が必要となり、消費電力も増大する。
【0009】
上記微細化に伴う反転磁界の増大を抑制する方法として、記録層の形状異方性を無くす技術が非特許文献4,5に示されている。この技術における記録層は、磁化容易軸方向および磁化困難軸方向の長さを等しくした形状を有している。この場合、形状による異方性が得られなくなるため、記録層を強磁性/非磁性/強磁性の積層構造とし、2つの強磁性層を反平行結合することで、記録層面内の磁化分布を制御し磁気異方性を付与している。この構成における記録層の反転磁界は、次式(1)で近似される。
【0010】
Hsw=2Ku(t2+t1)/|M2t2−M1t1|
+4πC(k)|M2t2−M1t1|/w …(1)
ここで、Hswは記録層の反転磁界であり、Kuは記録層の異方性エネルギであり、t1,t2はそれぞれ2つの強磁性層の厚さであり、M1,M2はそれぞれ2つの強磁性層の飽和磁化である。kは記録層のアスペクト比でありC(k)はこれに依存した係数、tおよびwはそれぞれ記録層の厚さと幅である。
【0011】
C(k)は無限に長い形状においては1、等方的な形状においては0とそれぞれみなすことができる。数式(1)の右辺第1項は異方性エネルギによる項であり、第2項は形状異方性により発生する反磁界の影響を記述した項である。ここではC(k)=0であり、形状異方性により発生する反磁界の影響を無視できる。これにより記録層の微細化に伴う反転磁界の増大を抑制することができる。
【0012】
上記構成においては、数式(1)からも明らかな通り、2層の強磁性層の飽和磁化と厚さの積に差を与えることで反転磁界を小さくすることが可能である。しかしながら、前記2層の強磁性層の厚さの差が大きくなると、反平行結合の効果が小さくなり、記録層の磁化分布の制御が困難となることが非特許文献5に示されている。
【非特許文献1】S.Tehrani et al.,“High density submicron magnetoresistive random access memory (invited)”, Journal of Applied Physics, vol.85, No.8, 15 April 1999, pp.5822-5827
【非特許文献2】ISSCC 2001 Dig of Tech. Papers, p.122
【非特許文献3】E.Y.Chen et al.,“Submicron spin valve magnetoresitive random access memory cell”, Journal of Applied Physics, vol.81, No.8, 15 April 1997, pp.3992-3994
【非特許文献4】K. Inomata et al., “Size-independent spin switching field using synthetic antiferromagnets”, Applied Physics Letters, vol.82, No.16, 21 April 2003, pp.2667-2669
【非特許文献5】N. Tezuka et al., “Magnetization reversal and domain structure of antiferromagnetically coupled submicron elements”, Journal of Applied Physics, vol.93, No.10, 15 May 2003, pp.7441-7443
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような積層構造を有する記録層では、素子の微細化に伴う反転磁界の増大を抑制し、かつ記録層の磁化分布を制御することは困難であった。
【0014】
それゆえに、この発明の主たる目的は、素子の微細化に伴う反転磁界の増大を抑制し、かつ記録層の磁化分布を制御することが可能な磁気記憶素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る磁気記憶素子は、交差する2本の書込線の間に配置され、2本の書込線に流される電流の方向に応じて磁化方向が変化する記録層を備えた磁気記憶素子において、記録層の磁化困難軸方向の長さと磁化容易軸方向の長さは略等しく、記録層は、順次積層された第1の強磁性層、第1の非磁性層、第2の強磁性層、第2の非磁性層、および第3の強磁性層を含み、第1の強磁性層と第2の強磁性層、および第2の強磁性層と第3の強磁性層はそれぞれ反平行結合していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る磁気記憶素子では、記録層の磁化困難軸方向の長さと磁化容易軸方向の長さが略等しくされているので、素子の微細化に伴う反転磁界の増大を抑制することができる。また、順次積層された第1の強磁性層、第1の非磁性層、第2の強磁性層、第2の非磁性層、および第3の強磁性層で記録層が構成され、第1の強磁性層と第2の強磁性層、および第2の強磁性層と第3の強磁性層はそれぞれ反平行結合しているので、記録層面内の磁化分布を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、この発明の一実施の形態による強磁性トンネル接合素子を用いたMRAMの要部を示す回路図である。図1において、読出ビット線1とライト線2と書込ビット線3とが図中で左右方向に延在しており、これらの配線1〜3が図中上下方向に複数組配列されている。複数組の配線1〜3と交差してワード線4が図中上下方向に延在しており、ワード線4は図中左右方向に複数配列されている。複数の読出ビット線1は、ともにセンスアンプ5の入力ノードに接続されている。
【0018】
配線1〜3の組とワード線4の各交差部にメモリセルMCが設けられ、複数のメモリセルMCがマトリックス状に配置されている。各メモリセルMCは、素子選択用トランジスタ6と、磁気記憶素子である強磁性トンネル接合素子7との直列接続体を含む。より詳細には、強磁性トンネル接合素子7は、ライト線2と書込ビット線3の交差部に配置される。
【0019】
図2は、メモリセルMCの構成を示す概略断面図である。半導体基板10の上面内には素子選択用トランジスタ6が形成され、ワード線4がそのゲート電極として機能し、ワード線4と半導体基板10の間にはゲート絶縁膜6gが設けられている。またワード線4の両側にはサイドウォール6wが設けられている。素子選択用トランジスタ6のドレイン6dは、コンタクトプラグ11および導電層14を介して強磁性トンネル接合素子7に接続される。素子選択用トランジスタ6のソース6sは、コンタクトプラグ15を介して読出ビット線1に接続されている。導電層14と半導体基板10の間には、層間絶縁膜16を介して絶縁されつつライト線2が設けられている。コンタクトプラグ11,15は、たとえば層間絶縁膜16中でいずれも多段に積み上げられている。コンタクトプラグ11,15の各段、読出ビット線1、ライト線2、書込ビット線3は、たとえば銅配線12と、銅配線12を囲むバリアメタル13を含んでいる。
【0020】
強磁性トンネル接合素子7は、固着層20と、トンネル絶縁層21と、記録層22とが半導体基板10側から順に積層された構造を有している。固着層20はコンタクトプラグ11と導通し、記録層22は書込ビット線3と導通している。書込ビット線3は、記録層22との接触のための開口部3aを有している。
【0021】
図3(a)(b)は、強磁性トンネル接合素子7の構成および記憶状態を示す断面図である。図3(a)(b)において、固着層20の磁化は、予め所定の方向、たとえばライト線2の延在方向に固定されている。記録層22は、外部磁界によって磁化方向が変化する。そして図3(a)に示すように、固着層20の磁化方向と、記録層22を構成しトンネル絶縁層21と接する強磁性層25の磁化方向とが一致している状態を、強磁性トンネル接合素子7がデータ“0”を記憶している状態とする。また図3(b)に示すように、固着層20の磁化方向と、記録層22の強磁性層25の磁化方向が逆向きの状態を、強磁性トンネル接合素子7がデータ“1”を記憶している状態とする。
【0022】
固着層20は、たとえば反強磁性層23と強磁性層24との積層構造とすることにより磁化方向を固定されている。つまり、反強磁性層23が強磁性層24のスピンの向きを固定することで、強磁性層24の磁化方向を固定している。この反強磁性層23は強磁性層24の下に(つまり記録層22とは反対側に)設けられている。強磁性層24としてはたとえばCoFeを、反強磁性層23としてはたとえばPtMnを、それぞれ採用することができる。
【0023】
記録層22は、トンネル絶縁層21側から順次積層された強磁性層25、非磁性層26、強磁性層27、非磁性層28、および強磁性層29により構成される。強磁性層25,27,29としてはたとえばCoFe層を採用することができる。非磁性層26,28としては、たとえばRu膜を採用することができる。それぞれの強磁性層はRu膜を介して反平行結合しており、強磁性層25と27、および強磁性層27と29はそれぞれ反平行結合している。ここで、強磁性層25,27,29の厚さをt1,t2,t3とするとt2>t1+t3であり、それぞれのCoFe膜の飽和磁化をMとした場合、記録層22全体の磁化はM・{t2−(t1+t3)}となり、この磁化が外部磁界によるトルクを受けて磁化反転する。
【0024】
ここで、記録層22の磁化容易軸を決定するための磁気異方性の付与であるが、これは強磁性層25,27,29の形成時、および後工程における熱処理で実施する。たとえば、強磁性層25,27,29の形成時に、膜面方向に100Oeの均一磁界を印加する。この方向が磁化容易軸となるようにパターニングを行い、強磁性トンネル接合素子7の形成後にも同様な方向に磁界を印加して熱処理を実施する。この際、固着層20の磁化方向も同時に決定するため、固着層20の強磁性層24および記録層22の磁化が飽和するだけの磁界を印加する。たとえば5kOeを印加して300℃で1時間保持する。
【0025】
図4に示されるように、記録層22の平面形状は円形である。記録層22の半径R1は、たとえば50nmである。トンネル絶縁層21としては、たとえばAlOxを採用することができる。トンネル絶縁層21および固着層20は記録層22と同じ形状か、あるいは記録層22の形状を含んでこれよりも大きい面積を有していてもよい。
【0026】
次に、強磁性トンネル接合素子7への書込動作を説明する。図5は、強磁性トンネル接合素子7の近傍を示す平面図である。書込ビット線3とライト線2とは互いに直交する方向に延びる。強磁性トンネル接合素子7は、ライト線2と書込ビット線3との平面視上の交差箇所に配置される。ただし、図2で示したように、強磁性トンネル接合素子7はライト線2の上方(半導体基板10とは反対側)かつ書込ビット線3の下方(半導体基板10側)に配置される。
【0027】
一般に強磁性体には、結晶構造や形状などにより磁化しやすい方向(エネルギが低い状態)がある。この方向は磁化容易軸(easy axis)と呼ばれる。これに対し、磁化しにくい方向は、磁化困難軸(hard axis)と呼ばれる。記録層22の磁化容易軸および磁化困難軸は、それぞれライト線2が延びる方向と、書込ビット線3が延びる方向とに設定される。
【0028】
書込時においては、書込ビット線3とライト線2とに電流が流される。書込ビット線3には、たとえば矢印31方向に電流が流され、それにより書込ビット線3を取巻く方向に磁界が生じる。この磁界により、書込ビット線3の下方にある記録層22には磁化容易軸方向の磁界33が印加される。一方、ライト線2には、たとえば矢印32方向に電流が流され、それによりライト線2を取巻く方向に磁界が生じる。この磁界により、ライト線2の上方にある記録層22には、磁化困難軸方向の磁界34が印加される。よって書込時においては、記録層22に対して、磁界33,34の合成磁界35が印加される。
【0029】
一方、記録層22磁化の向きを反転させるために必要な磁界の大きさは、曲線36で示されるアステロイド曲線となる。そして磁界35の向きにおいて、曲線36よりも磁界35が大きな値になると、記録層22は磁化容易軸方向の矢印32で示す方向に磁化する。
【0030】
固着層20において磁化が予め磁界33と同じ方向に磁化されている場合、強磁性トンネル接合素子7においては固着層20と記録層22の強磁性層25との各磁化方向は平行となる(図3(a)の状態:“0”を記憶)。この場合には、強磁性トンネル接合素子7の厚さ方向(記録層22と固着層20とが積層される方向)についての抵抗値が小さくなる。
【0031】
固着層20において磁化が予め磁界33と反対方向に磁化されている場合、強磁性トンネル接合素子7の固着層20と記録層22の強磁性層25との磁化方向は互いに反平行となる(図3(b)の状態:“1”を記憶)。この場合には、強磁性トンネル接合素子7の厚さ方向についての抵抗値が大きくなる。かかる状態は、固着層11において磁化が予め図中の磁界33と同じ方向に磁化されており、かつ書込ビット線3に対して矢印31と反対方向に電流を流す場合にも生じる。
【0032】
次に読出動作について説明する。読出時には、所定のワード線4を選択駆動することによりそのワード線4に接続された素子選択用トランジスタ6がオン状態とされる。さらに、所定の書込ビット線3に電流を流すことによってオン状態の素子選択用トランジスタ6に接続された強磁性トンネル接合素子7にトンネル電流が流される。このときの強磁性トンネル接合素子7の抵抗値に基づいて記憶データが判定される。つまり、強磁性トンネル接合素子7は磁化方向が平行の場合は抵抗値が小さく、磁化方向が反平行の場合は抵抗値が大きいという性質を有するため、この性質を利用して選択メモリセルMCの出力信号が参照セル(図示せず)の出力信号より大きいか小さいかがセンスアンプ5によって検出される。以上のようにして、選択メモリセルMCの記憶データが“0”であるか“1”であるかが判定される。
【0033】
図4で示したように、記録層22は形状異方性を有しないため、記録層22が微細化した場合においても反転磁界の増大はない。本構成を用いた場合、最も厚い強磁性層27は上下方向と反平行結合していることから、磁化分布が記録層22の面内で一様になり、安定した磁気特性が得られる。図6(a)(b)に示される従来構造の磁化分布とともに、図6(c)に本構成で得られる記録層22の磁化分布を示す。なお、ここではトンネル絶縁膜21に接する強磁性層25における磁化分布を示している。図6(a)(b)の状態では、磁化が膜面内で閉じており、外部磁界からのトルクを受けにくい構造となっている。これによって反転磁界が増大する。また、図6(a)の状態では、記録層全体の磁化が0であり、磁気抵抗変化率が得られなくなる。本実施の形態1では、図6(c)の磁化分布が得られ、前記の理由による反転磁界の増大がない。
【0034】
なお、この実施の形態では、強磁性層25,27,29がCoFe膜で構成された例を示したが、強磁性層25,27,29はCoFeBのようにCoもしくはFe元素を主成分とする膜であればよい。また、非磁性層26,28は、Ru膜に限られるものではなく、Cu、Ta、その他の金属膜であってもよい。
【0035】
また、記録層22は必ずしも円形である必要はなく、図7に示すように、正方形の角を丸く加工した形状でもよい。図7では、記録層22の輪郭は、4つの直線部22aと4つの円弧22bにより閉曲線を構成している。ここで、たとえば直線部22aの長さは50nmであり、円弧22bの半径R2はたとえば50nmである。なお、記録層22の積層構造は図3で示した通りである。
【0036】
また、図8は、この実施の形態の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図8において、この強磁性トンネル接合素子7では、強磁性層25,27,29の厚さをt1,t2,t3とするとt1+t3>t2であり、それぞれのCoFe膜の飽和磁化をMとした場合、記録層22全体の磁化はM・{(t1+t3)−t2}となり、この磁化が外部磁界によるトルクを受けて磁化反転する。他の構成および効果は、上記実施の形態と同じであるので、その説明は繰り返さない。
【0037】
なお、実施の形態において、磁化反転の手段として、配線電流により発生する磁界を用いたが、トンネル絶縁膜21越しにスピン偏極した電子を記録層22に注入し、そのトルクにより磁化反転を実施する方法を用いる場合でも同様な効果が得られる。
【0038】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の一実施の形態による強磁性トンネル接合素子を用いたMRAMの要部を示す回路図である。
【図2】図1に示したメモリセルの構成を示す断面図である。
【図3】図1に示した強磁性トンネル接合素子の構成および記憶状態を示す断面図である。
【図4】図3に示した記録層の形状を示す平面図である。
【図5】図1に示した強磁性トンネル接合素子の近傍を示す平面図である。
【図6】この実施の形態の効果を説明するための図である。
【図7】この実施の形態の変更例を示す平面図である。
【図8】この実施の形態の他の変更例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 読出ビット線、2 ライト線、3 書込ビット線、3a 開口部、4 ワード線、5 センスアンプ、MC メモリセル、6 素子選択用トランジスタ、6g ゲート絶縁膜、6w サイドウォール、6d ドレイン、6s ソース、7 強磁性トンネル接合素子、10 半導体基板、11,15 コンタクトプラグ、12 銅配線、13 バリアメタル、14 導電層、16 層間絶縁膜、20 固着層、21 トンネル絶縁層、22 記録層、22a 直線部、22b 円弧部、23 反強磁性層、24,25,27,29 強磁性層、26,28 非磁性層、33,34 磁界、35 合成磁界。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差する2本の書込線の間に配置され、前記2本の書込線に流される電流の方向に応じて磁化方向が変化する記録層を備えた磁気記憶素子において、
前記記録層の磁化困難軸方向の長さと磁化容易軸方向の長さは略等しく、
前記記録層は、順次積層された第1の強磁性層、第1の非磁性層、第2の強磁性層、第2の非磁性層、および第3の強磁性層を含み、
前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層、および前記第2の強磁性層と前記第3の強磁性層はそれぞれ反平行結合していることを特徴とする、磁気記憶素子。
【請求項2】
前記第1および第3の強磁性層の飽和磁化と厚さの積の和は、前記第2の強磁性層の飽和磁化と厚さの積と異なることを特徴とする、請求項1に記載の磁気記憶素子。
【請求項3】
前記第1〜第3の強磁性層の主成分はCo元素もしくはFe元素であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の磁気記憶素子。
【請求項4】
前記記録層の磁気異方性は、前記記録層の形成時および熱処理時に磁界を印加することにより付与されていることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の磁気記憶素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−332527(P2006−332527A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157459(P2005−157459)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】