説明

磁気記録媒体の製造方法および製造装置

【課題】CVD法により基板にカーボン保護膜を成膜する際に、基板を保持するキャリアに堆積するカーボン膜を効果的に低減し、堆積膜の剥離に伴うパーティクルの発生を抑制し、かつ、キャリア表面のカーボン堆積膜を発生源とするアウトガスの放出を抑制する。
【解決手段】成膜用基板をキャリアに装着して、接続された複数のチャンバ内に順次搬送し、前記チャンバ内で、前記成膜用基板上に、少なくとも磁性膜とカーボン保護膜とを成膜することによって、磁気記録媒体を製造する方法において、前記キャリアから成膜後の磁気記録媒体を取り外す工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程を設ける。また、キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、キャリア表面に金属膜を成膜する工程を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体の製造方法および製造装置に関し、さらに詳しくは、基板保持キャリアの表面に堆積するカーボン膜をアッシング除去し、装置内でのダストの発生やガスの発生を減少させる磁気記録媒体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体、とりわけ磁気ディスクの分野においては記録密度の向上が著しく、特に最近では、記録密度が10年間で100倍程度と、驚異的な速度で伸び続けている。このような記録密度の向上を支える技術は多岐にわたるが、キーテクノロジーの一つとして、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間における摺動特性の制御技術を挙げることができる。
【0003】
一般に、ウインテェスター様式と呼ばれる、磁気ヘッド−磁気記録媒体間における接触摺動〜ヘッド浮上〜接触摺動を基本動作とするCSS(接触起動停止)方式がハードディスクドライブの主流となって以来、記録媒体上でのヘッドの摺動は避けることのできないものとなり、磁気ヘッド−磁気記録媒体間のトライボロジーに関する問題は、宿命的な技術課題となって現在に至っている。このため、媒体表面の耐摩耗性、耐摺動性は、磁気記録媒体の信頼性の大きな柱となり、磁性膜上に積層される保護膜、潤滑膜などの開発、改善の努力が営々と続けられている。
【0004】
磁気記録媒体の保護膜としては、様々な材質からなるものが提案されているが、成膜性、耐久性等の総合的な見地から、主にカーボン膜が採用されている。カーボン膜は、通常、スパッタリング法によって形成されており、この成膜の際の条件は、カーボン膜の耐コロージョン性、あるいはCSS特性に如実に反映されるため、非常に重要である。
【0005】
また、記録密度の向上を図るためには、磁気ヘッドの飛行高さ(フライングハイト)の低減、媒体回転数の増加等を行うことが好ましいため、磁気記録媒体にはより高い摺動耐久性が要求されるようになってきている。
【0006】
その一方、スペーシングロスを低減して記録密度を高めるため、保護膜の厚さを出来るだけ薄く、例えば100Å以下の膜厚にすることが要求されるようになってきており、平滑性は勿論のこと、薄く且つ強靭な保護膜が強く求められている。
【0007】
しかしながら、従来のスパッタリング成膜法によって形成されたカーボン保護膜では、この膜を出来るだけ薄く、例えば100Å以下の膜厚とした場合、その耐久性が不十分となることがある。
【0008】
このため、スパッタリング法に比べて高強度のカーボン保護膜を形成することができる方法として、スパッタ法やプラズマCVD法を採用した方法が主流となっている。
【0009】
しかしながら、スパッタ法やプラズマCVD法を用いてカーボン保護膜を形成する方法では、成膜装置において、基板の表面のみならず、基板を保持するキャリア表面等にもカーボンが堆積する。このような、露出面におけるカーボンの堆積量が多くなると、堆積したカーボンからなる膜が内部応力等によって露出面から剥離する。このような剥離によって生じたカーボンの微粒子(パーティクル)が基板表面に付着した場合、カーボン保護膜の表面に突起が形成されて局所的な膜厚異常となり、製品不良の原因となるという問題がある。特に、プラズマCVD法を用いてカーボン保護膜を成膜する場合、従来のスパッタ法を用いてカーボン保護膜を形成する場合に比べ、カーボンからなる膜の硬度が高く、また、膜の内部応力も高いため、カーボンのパーティクルの発生が多く、上述のような膜厚異常等を生じるという問題があった。
【0010】
上述のようなパーティクルの発生を防止するため、基板保持キャリア表面に堆積したカーボン膜を、酸素プラズマによってアッシング除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2の記載。)。また、基板保持キャリアにおいて、表面に堆積した膜の剥離を防止するため、キャリアの表面を粗面化することにより、電極上の堆積物の剥離を抑制する処理が行なわれている(例えば、特許文献3の記載。)。
【0011】
しかしながら、近年、磁気記録媒体の記録密度をさらに向上させるため、磁気記録媒体の表面の清浄度をより一層向上させることが求められているが、上記の手法のみでは、キャリアの端部のように、プラズマの集まりやすい部分が積極的にアッシングされる一方、キャリアの平面部などプラズマの集まりにくい部分は充分アッシングが行われない結果、パーティクルの発生を低減することができず、磁気記録媒体におけるカーボン保護膜のパーティクル起因の欠陥を減らす事が困難な状況を迎えている。
【0012】
以上のように、カーボン保護膜起因のパーティクル発生原因の一つとして、基板を保持しているキャリア自体の清浄度を高めることが困難であるという問題があり、改善するための方法が求められていた。
【0013】
また、本発明者の研究によると、キャリア表面に堆積したカーボン膜は、上記のアッシング処理後においても、主にキャリア平面部においては完全に除去することが出来ずに残渣として残り、この残渣はキャリアと共に他の成膜チャンバに運ばれた後に真空チャンバ内においてアウトガスとして放出される事も確認された。磁気記録媒体の記録密度をさらに向上させ、安定した品質を得る事を実現する上で、意図して用いるプロセスガス以外の成分が真空チャンバ内で放出されることは避けなければならず、併せて改善が求められていた。
【特許文献1】特開平11−229150号公報
【特許文献2】特開2002−025047号公報
【特許文献3】特開2006−173343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、CVD法により基板にカーボン保護膜を成膜する際に、基板を保持するキャリアに堆積するカーボン膜を効果的に低減し、堆積膜の剥離に伴うパーティクルの発生を抑制し、かつ、キャリア表面のカーボン堆積膜を発生源とするアウトガスの放出をも抑制する事で、高い記録密度を有し、且つ記録再生特性に優れた、安定した品質の磁気記録媒体を製造することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意努力研究したところ、基板上にカーボン保護膜を形成する際に基板保持キャリアに堆積する残留カーボン膜は、キャリアから成膜後の磁気記録媒体を取り外す工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、酸素プラズマによるアッシング工程を設けることで効率的に除去が可能であること、また、酸素プラズマに磁界によるプラズマ収束を付与すること、とりわけキャリアのカーボン堆積の多い領域の近傍にて回転磁界を形成することにより、アッシング効率が大幅に改善できる事を見出した。また、アッシング後のキャリア表面にマグネトロンスパッタリング法により金属膜を成膜して残留堆積カーボン膜を被覆する事で、さらにキャリアからのアウトガスの放出を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下に関する。
(1)成膜用基板をキャリアに装着して、接続された複数のチャンバ内に順次搬送し、前記チャンバ内で、前記成膜用基板上に、少なくとも磁性膜とカーボン保護膜とを成膜することによって、磁気記録媒体を製造する方法であって、前記キャリアから成膜後の磁気記録媒体を取り外す工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(2)キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、キャリア表面に金属膜を成膜する工程を有することを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(3)キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程と、キャリア表面に金属膜を成膜する工程とを同一のチャンバ内で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(4)キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜のアッシング除去を、酸素を含有するプラズマを用いて行うことを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(5)酸素を含有するプラズマに外部から磁界を付与し、アッシングに作用するプラズマをキャリア表面に集中させることを特徴とする(4)に記載の記録媒体の製造方法。
(6)アッシング工程においてプラズマに加える磁界が、螺旋軌道を描く回転磁界であることを特徴とする(5)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(7)キャリア表面に金属膜を成膜する工程を、回転磁界によるアシストを用いたマグネトロン放電によるスパッタ法で行うことを特徴とする(2)〜(6)の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(8)キャリア表面に成膜する金属膜が、酸化反応性の低い金属材料であることを特徴とする(2)〜(7)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(9)酸化反応性の低い金属材料が、Ru、Au、Pd、Ptからなる群から選ばれる何れか1種を含むことを特徴とする(8)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(10)接続された複数のチャンバを有し、各チャンバ内に成膜用基板をキャリアを用いて順次搬送し、成膜用基板上に、薄膜を形成することによって、複数の薄膜を積層形成する磁気記録媒体の製造装置であって、製造装置は、キャリアから成膜後の磁気記録媒体を取り外すチャンバと、基板を取り外したキャリアに成膜用基板を装着するチャンバを有し、かつ、この2つのチャンバの間に、キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去するチャンバを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
(11)キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去するチャンバと、成膜用基板をキャリアに装着するチャンバとの間に、該キャリア表面に金属膜を成膜するチャンバを有することを特徴とする(10)に記載の磁気記録媒体の製造装置。
(12)キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去するチャンバと、キャリア表面に金属膜を成膜するチャンバが同一のチャンバであることを特徴とする(10)または(11)に記載の磁気記録媒体の製造装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の、基板保持キャリアの堆積カーボン膜アッシング、並びに金属膜被覆による清浄度維持を用いた磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録媒体基板の両面にカーボン保護膜を形成する際、キャリア表面に堆積するカーボン膜を効果的にアッシング除去する事で、膜が剥離してパーティクルとなり基板自体に付着することを抑制することができる。
また、アッシング後もキャリア表面に残留する残渣膜を金属膜で被覆することにより、キャリアからのアウトガスを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係るキャリアの堆積カーボン膜アッシング、並びに金属膜被覆によるキャリア清浄度改善の実施形態について説明する。
【0018】
まず、本発明の磁気記録媒体の製造方法によって製造される薄膜積層体の一例である磁気記録媒体について説明する。
【0019】
図1は、本発明の製造方法によって製造される磁気記録媒体(薄膜積層体)の一例を示す模式的な縦断面図である。
【0020】
図1に示すように、この磁気記録媒体は、例えば、非磁性基板80と、非磁性基板80の両面あるいは片面上に順次積層されたシード層81、下地膜82、磁気記録膜83、保護膜84および潤滑剤層85から構成されている。
【0021】
非磁性基板80としては、磁気記録媒体用基板として一般的に用いられているNiPメッキ膜が形成されたAl合金基板(以下、NiPメッキAl基板)の他、ガラス基板、セラミックス基板、可曉性樹脂基板、さらに、これら非磁性基板にNiPをメッキあるいはスパッタ法により被着せしめた基板などを用いることができる。
【0022】
また、非磁性基板80には、より良好な電磁変換特性を得る、面内磁気異方性を付与して熱揺らぎ特性を良くする、また、研磨痕を消す等の目的でテクスチャー処理が施されているものでもよい。
【0023】
非磁性基板80上に形成されるシード層(下部下地層)81は、直上の膜の結晶配向性を制御する。このシード層81の構成材料としては、例えばTi,TiCr,Hf,Pt,Pd,NiFe,NiFeMo,NiFeCr,NiAl、NiTaおよびNiNbを直上の膜に合わせて適宜使用することができる。
【0024】
また、シード層81は一層のみから構成される場合のみならず、必要に応じて同一組成の膜、もしくは異なる組成の膜を複数積層させた多層構造としても良い。
【0025】
下地膜82としては、従来公知の非磁性下地膜、例えば、Cr、Ti、Si、Ta、W等の単一組成膜、または、それらの結晶性を損なわない範囲で他の元素を含有する合金を使用できるが、後述する磁気記録膜83との関係では、Cr単一組成、または、CrにMo、W、V、Tiのうちの1種または2種以上の元素を含有させた合金からなる下地膜82であることが望ましい。とくに、非磁性基板80の種類によっては、下地膜82としてNiAlを積層させると格段のSNRの向上が達成され、好ましい場合がある。
【0026】
下地膜82の厚さは、所望の保磁力が得られる範囲であれば制限されるものではないが、5nm〜40nmが好ましい範囲であり、10nm〜30nmにするとさらに好ましい。下地膜82の膜厚が薄くなりすぎると、下地膜82上の磁気記録膜83、または、必要に応じて、下地膜82と磁気記録膜83の間に設ける非磁性中間膜の結晶配向性が悪くなって、SNRが低くなるので好ましくない。逆に、下地膜82の膜厚が厚すぎると、下地膜82の粒子径が大きくなり、下地膜82上の磁気記録膜83、または非磁性中間膜の粒子径が下地膜82の粒子径の増加に伴って大きくなって、SNRが低くなるので好ましくない。
【0027】
また、下地膜82は一層のみから構成される場合のみならず、必要に応じて同一組成の膜、もしくは異なる組成の膜を複数積層させた多層構造としても良い。
【0028】
磁気記録膜83は、所望の保磁力が得られる磁性膜であれば特に制限されるものではないが、CoaCrbPtcTadZreCufNig(但し、a、b、c、d、e、f、gは組成比を示し、それぞれ、b:16〜25at%、c:0〜10at%、d:1〜7at%、e:0〜4at%、f:0〜3at%、g:0〜10at%、a:残部である)で表されるCo合金層とすることで磁気異方性を高め、より保磁力を向上させることができる。
【0029】
本実施形態の磁気記録媒体においては、ヘッドと媒体表面の接触による損傷を防ぐために、磁気記録膜83上に保護膜84が形成される、保護膜84を構成する物質としては、従来公知のもので良く、例えば、C、SiO2、ZrO2等の単一成分またはそれぞれを主成分とし、これに添加元素を含有させた膜を使用することができる。
【0030】
保護膜84は、スパッタリング法、イオンビーム法、プラズマCVD法等を用いて成膜することができる。
【0031】
保護膜84厚さは、通常2〜20nmとされる。さらに、保護膜84の厚さを、2〜9nmとすると、スペーシングロスを少なくできるため好ましい。
【0032】
保護膜84の表面には、潤滑剤層85が形成される。潤滑剤としては、パーフルオロエーテル(PFPE)等の弗化系液体潤滑剤、脂肪酸等の固体潤滑剤が使用される。潤滑剤の塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法など従来公知の方法を使用すればよい。
【0033】
次に、本発明の薄膜積層体の1例である磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0034】
まず、本発明の磁気記録媒体の製造方法で用いる磁気記録媒体製造装置について説明する。
【0035】
図2は、本発明の磁気記録媒体製造装置の一例を示す模式図、図3は、本発明の磁気記録媒体製造装置のスパッタチャンバを示す模式図、図4は、本発明の磁気記録媒体製造装置が備えるキャリアを示す側面図である。なお、図3において、実線で示すキャリアは、第1成膜位置に停止した状態を示し、破線で示すキャリアは、第2成膜位置に停止した状態を示す。すなわち、本例で示したスパッタチャンバは、チャンバ内に、基板に対向した2枚のターゲットがあるため、第1成膜位置に停止した状態でキャリアの左側の基板に成膜を行い、その後、キャリアが破線で示す位置に移動し、第2成膜位置に停止した状態で、キャリアの右側の基板に成膜を行う。なお、チャンバ内に、基板に対向して4枚のターゲットがある場合は、このようなキャリアの移動は不要となり、キャリアの右側および左側に保持された基板に同時に成膜を行うことができる。
【0036】
図2に示すように、この磁気記録媒体製造装置は、基板カセット移載ロボット台1、基板カセット移載ロボット3、基板供給ロボット室2、基板供給ロボット34、基板取り付け室52、キャリアを回転させるコーナー室4、7、14、17、スパッタチャンバおよび基板加熱チャンバ5、6、8〜13、15、16、保護膜形成室18〜20、基板取り外し室54、基板取り外しロボット室22、基板取り外しロボット49、キャリアのアッシング室3A、キャリアへの金属膜の成膜室3Bと、複数の成膜用基板(非磁性基板)23、24が装着される複数のキャリア25を有している。なお、本装置では、キャリアのアッシング室3A、キャリアへの成膜室3Bは同一のチャンバを用いている。
【0037】
これら各室2、52、4〜20、54、3A、3Bには、それぞれ真空ポンプが接続されており、これらの真空ポンプの動作によって減圧状態となされた各室内に、キャリア25を順次搬送し、各形成室内において、装着された成膜用基板23、24の両面に薄膜(例えば、シード層81、下地層82、磁気記録膜83および保護膜84)を形成することによって薄膜積層体の一例としての磁気記録媒体が得られるように構成されている。
【0038】
例えば、この形態の磁気記録媒体製造装置は、インライン式の成膜装置として構成されている。なお、この形態の磁気記録媒体製造装置では、シード層81、下地層82、磁気記録膜83および保護膜84を、それぞれ、2層構成、2層構成、4層構成および2層構成で形成することができる。
【0039】
図4に示すように、キャリア25は、支持台26と、支持台26の上面に設けられた複数の基板装着部27(本実施形態では2基搭載)とを有している。
【0040】
基板装着部27は、成膜用基板(非磁性基板)23、24の厚さとほぼ等しい厚さを有する板体28に、成膜用基板23、24の外周より若干大径となされた円形状の貫通穴29が形成されて構成され、貫通穴29の周囲には、該貫通穴29の内側に向かって突出する複数の支持部材30が設けられている。この基板装着部27には、貫通穴29の内部に成膜用基板23、24が嵌め込まれ、その縁部に支持部材30が係合することによって、成膜用基板23、24が保持される。この基板装着部27は、装着された2枚の成膜用基板23、24の主面が支持台26の上面に対して略直交し、且つ、略同一面上となるように、支持台26の上面に並列して設けられている。以下、これら基板装着部27に装着される2枚の成膜用基板23、24を、それぞれ、第1成膜用基板23および第2成膜用基
板24と称する。
【0041】
基板カセット移載ロボット3は、成膜用基板23、24が収納されたカセットから、基板取り付け室2に基板を供給するとともに、基板取り外し室22で取り外された磁気ディスク(各薄膜81〜84が形成された成膜用基板23、24)を取り出す。この基板取り付け・取り外し室2、22の一側壁には、外部に開放された開口と、この開口を開閉する51、55が設けられている。
【0042】
また、各室2、52、4〜20、54、3A、3Bは隣接する2つの壁部にそれぞれ接続されており、これら各室の接続部には、ゲートバルブが設けられており、これらゲートバルブが閉状態のとき、各室内は、それぞれ独立の密閉空間となる。
【0043】
コーナー室4、7、14、17は、キャリア25の移動方向を変更する室であり、その内部に、図示しない、キャリアを回転させて次のチャンバに移動させる機構が設けられている。
【0044】
保護膜形成室18〜20は、第1成膜用基板23および第2成膜用基板24に形成された最上層の表面に、CVD法等によって、保護膜を形成する室である。保護膜形成室には、図示しない反応性ガス供給管および真空ポンプが接続されている。
【0045】
反応性ガス供給管には、図示しない制御機構によって開閉が制御されるバルブが設けられ、真空ポンプと保護膜形成室の間には、図示しない制御手段によって開閉が制御されるポンプ用ゲートバルブが設けられている。これらバルブおよびポンプ用ゲートバルブを開閉操作することにより、スパッタガス供給管からのガスの供給、保護膜形成室内の圧力およびガスの排出が制御される。
【0046】
保護膜形成室では、CVD法による成膜では、室内に反応性ガスが供給され、電極と成膜用基板との間に高周波電圧が印加されると、これらの間に放電が生じ、この放電によって室内に導入された反応性ガスがプラズマ状態となる。このプラズマ中で生じた活性ラジカルやイオンの反応物が成膜用基板23に形成された最上層の表面に被着することによって保護膜が形成される。
【0047】
基板取り外しチャンバ54の内部では、キャリア25に装着された第1成膜用基板23および第2成膜用基板24をロボット49を用いて取り外される。その後、キャリア25は、キャリアのアッシング室3A、キャリアへの成膜室3Bに搬入される。なお、本装置では、キャリアのアッシング室3A、キャリアへの成膜室3Bは同一のチャンバを用いている。
【0048】
まず本実施形態のキャリアの堆積カーボン膜アッシングは、磁性膜や保護膜が成膜された基板を真空内で基板保持キャリアから取り除いた後、基板と共にカーボン膜が堆積したキャリアのみをチャンバ内に設置し、当該キャリアの任意の部分に高周波電力を印加する。同時にチャンバの任意の箇所から酸素ガスを導入すると、キャリア自体を電極として、酸素ガスが分解される結果、酸素プラズマを生成する。生成した酸素プラズマは、キャリア表面のカーボン堆積膜に接触すると、カーボンをCOやCO2ガスとして分解除去する方法である。
ここでカーボン膜のアッシングを行なう際、生成したプラズマはその性質上、尖部や高周波電力の導入部付近に集まりやすい事が知られている。これによりキャリアはその端部や高周波電力の導入部付近が積極的にアッシングされる一方、平面部を含めたキャリア全体を均一にアッシングすることが困難となる。
【0049】
この問題点を解決するために、本発明では、プラズマをキャリアの基板設置部付近に均一に収束させることを目的として、磁界によるプラズマの流れ制御を行う。磁界を形成する手法としては、チャンバの内側もしくは外側に固定式の永久磁石や電磁石の設置が考えられ、図に示した様な磁界の構成が考えられる。ただし前記固定式の磁石を用いた場合はプラズマの収束範囲が狭くなるため、キャリア全体を広範囲に渡ってアッシングすることは困難となる。
【0050】
また、上記の問題点を解決するためには、プラズマに回転磁界を形成することが好ましい。この回転磁界によりアッシングに寄与するプラズマは運動エネルギーが付与され、キャリアに対して螺旋軌道を描きながら斜方向から入射する。
【0051】
キャリア表面のカーボンと接触した酸素プラズマは、当該カーボンと反応を起こし、COやCO2に変化し、チャンバ内に放出される形でキャリア表面からカーボンを除去する作用に寄与するが、この時、反応に寄与しなかった酸素プラズマは、再度、螺旋磁界軌道に戻り、次のタイミングでキャリアとの接触によりアッシングに寄与することになる。この事から、回転磁界を用いることにより、酸素プラズマとキャリア表面のカーボンの接触する機会は飛躍的に向上する結果、単位時間当たりのキャリア表面のカーボン除去率も向上することとなる。
【0052】
本発明では、上記の回転磁界を形成するための回転磁石は、アッシングチャンバ内部および外部のいずれにも配置する事は可能であるが、真空環境内に回転体を配置することや、チャンバ外から回転動力を導入することは、真空度および清浄度維持の点から困難かつ好ましくないため、チャンバ外に配置することが望ましい。また回転磁界を形成するための磁石の回転数は60〜800回/分の範囲で、300〜600回/分が好ましい。
【0053】
また、カーボン膜はキャリアの両面に堆積することから、上述の回転磁石はキャリアを挟む形で離間対向した位置に設置する必要がある。さらに対向した磁界の同極同士が同期した同位相の状態では、磁界の反発によりプラズマの流れが不均一となるため、同極同士が同期しない逆位相の状態であることが好ましい。
【0054】
本発明では、上記の処理を行なうに際して、基本的には純酸素ガスを用いるが、アルゴン(Ar)ガスと酸素ガスの混合されたガスを処理ガスとして用いることも可能である。次に処理時のチャンバ内圧であるが、1.0〜10Paの範囲で処理が可能だが、圧力が低過ぎると酸素プラズマの放電が不安定になり、高過ぎると放電終了後にチャンバ内の残留酸素ガスを排出するために時間を要するため、2〜5Paの範囲であることが好ましい。処理ガスの流量については上記の圧力を満足する範囲で、100〜500sccmの範囲とする事が好ましい。圧力の調整はチャンバに設置された図示しない形式による排気量調整バルブを用いて対応する。
【0055】
本発明では、上記のアッシング処理を行なうに際して、キャリア自体に高周波電力を印加し、チャンバ内に導入されキャリア周辺に存在する酸素を含む処理ガスを分解する事で酸素プラズマを発生させるが、この時に印加する高周波電力は、13.56〜60MHzの範囲の周波数の高周波電力であり、取り扱い性や設備に要求する仕様も考慮すると13.56MHzの周波数であることが好ましい。また、キャリアに導入する高周波電力は100〜500Wの範囲であることが好ましい。さらに上記高周波電力の印加に伴いキャリア自体の加熱を伴うため、一回のアッシング処理当り10秒以内の処理時間が望ましく、生産性も考慮すれば、3秒以内が好ましい。
【0056】
次に本実施形態のキャリア表面への金属膜被覆について述べる。本発明に記載した方法によって、キャリアに堆積したカーボンのアッシングを行なっても、キャリア表面には粗面加工が施されている事と、磁気記録媒体の量産性を考慮した処理時間の範囲内では、堆積膜を完全に除去することが困難な場合がある。よって、アッシングで除去されきれなかったカーボンは、酸素プラズマにより活性な状態に変化した残渣としてキャリア上に残り、キャリアと共に他の成膜チャンバへ移動した後にCOやCO2のアウトガスとしてチャンバ内に放出されることが確認された。
【0057】
インライン式の成膜装置では、アッシング工程の終了したキャリアは、新たに成膜前の基板が供給され、以降の他のチャンバにおいて磁気記録媒体を構成する上で必要な材料が順次成膜されるか、もしくは基板を加熱する処理が施される。この際、前者においては必要な材料をマグネトロン放電で成膜を行なう際に、チャンバ内に放出されたアウトガスは放電に必要なプロセスガス(通常は純Arを用いる。)の純度を悪化させるため、成膜される膜自体の品質の悪化を引き起こす。また後者の基板加熱時においてはキャリア自体も基板と共に加熱に晒されるため、キャリア表面からのCOやCO2のアウトガス放出は促進する事となる。キャリアから放出されたアウトガスは成膜前の基板表面に吸着する事で磁気記録媒体の静磁気特性や電磁変換特性の悪化を引き起こす。
【0058】
本発明ではこの問題を解決するため、キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、キャリア表面に金属膜を成膜する工程を設けるのが好ましい。このような工程を設けることにより、キャリアからのアウトガス放出が低減される事が確認された。
【0059】
本発明で、キャリアの被覆に用いる金属材料はアウトガスを遮蔽する目的としては磁性材料、非磁性材料いずれも使用可能であるが、磁性材料を成膜するとキャリア自体が磁性を持つため、非磁性材料を用いる事が好ましい。また材料自体は単一金属元素でも複数元素から構成される合金金属でもいずれも使用可能であるが、金属酸化物を含む合金組成については、当該酸化物からのガス放出を招くために好ましくない。さらに酸化反応性の高い金属材料についても使用は好ましくない。
【0060】
本発明で、金属材料をキャリア表面に成膜する際、膜が薄すぎるとアウトガスの抑制効果は低く、厚すぎると、キャリアに堆積する金属膜の総量が増加する事から、キャリアからの膜剥がれをまねき、キャリア自体の交換頻度が増すために好ましくない。この事から、膜厚は30〜200Å(3〜15nm)の範囲とすることが好ましく、50〜100Å(5〜10nm)の範囲とする事がより好ましい。さらに、通常は成膜領域を制限することを目的として装着されるようなシールド類は装着せずに、キャリア全体が成膜できる事が好ましい。
【0061】
本発明では、キャリアに付着したカーボンのアッシング処理、および、キャリア表面への金属膜の被覆処理について、各々を異なるチャンバで処理する事も、同一のチャンバ内で連続した一連のプロセスとして処理することも可能である。ただし処理効果を得るために、アッシングと金属膜の被覆を、この順で、同一のチャンバ内で処理することが好ましい。
さらに同一チャンバ内で処理を行なう場合、先行するアッシング処理中に、被覆用の金属材料のターゲット材表面が酸素プラズマに晒されるため、酸化反応性の高い材料を用いると、ターゲット材自体が酸化されてしまう事に注意を要する。ターゲット材表面の酸化が進むと、アッシング後のキャリア表面の被覆処理時に放電の開始が不安定になる他、単位時間当りの成膜レートが大幅に低下して所定の被覆膜厚が得られず、キャリアからのアウトガスの抑制効果が十分に得られない。さらには酸化した材料自体がキャリア表面に成膜されてしまう事で、当該酸化物からの酸素が放出される悪影響を引き起こす。
【0062】
図5に示す装置501は、本発明に係るキャリアのアッシングおよびキャリアへの金属膜被覆を行なう装置の一例である。この装置501はキャリアのアッシングおよびキャリア表面への金属膜を被覆するためのものであり、チャンバ502は真空を保った状態で基板保持用キャリア503を納めている。この時、キャリア503には基板は設置されていない。チャンバ外側には回転磁界形成用の磁石504が設置されており、駆動装置510で任意の回転数で回転する。チャンバ内には、キャリアへの金属膜被覆に用いる材料となる、金属ターゲット材505が装着されており、磁石504からの磁界511がチャンバ502を貫き、ターゲット材505の表面に形成される。チャンバ502には排気口が設けられ、排気ポンプでチャンバ502内の気体は吸引除去されるが、図示しない制御装置により制御された排気量調整バルブ506により、排気量は任意に設定可能である。チャンバ502内のキャリア503には、高周波電源508から高周波電力が印加される。ターゲット材505には直流電源507から直流電流が印加される。チャンバ502にはガス導入管509が設置されており、処理ガスがチャンバ502内に導入される。
【0063】
電源508は、本実施形態のキャリアアッシングにおいて、酸素を含むガス中でキャリア503を電極としてプラズマを発生させるための電力を供給するものである。電源508としては、高周波電源、マイクロ波電源を用いることができる。また電源508の容量としては、アッシング放電時にホルダに50〜1000Wの電力を供給することができるものを用いることが好ましい。
【0064】
電源507は、本実施形態のキャリア表面の被覆において、アルゴンを主とするガス中で金属ターゲット505を放電させるための電力を供給するものである。電源7としては、DC電源又はパルスDC電源を用いるのが好ましい。また、電源507の容量としては、50〜1500Wの電力を供給できるものを用いることが好ましい。
【0065】
チャンバに導入されるガス509は、アッシング処理時は主に酸素を主成分とするガスであることが好ましい。ここでアルゴンと酸素が混合されたガスを用いることも用いることも可能であるが、アルゴンガスはカーボン堆積膜をCOやCO2の形で分解除去するアッシングには寄与しないため、純酸素ガスを用いることが好ましい。また、アルゴンや酸素以外のガス、例えば窒素ガス等については、キャリアに吸着してチャンバの真空度を低下させるため好ましくない。この事から、アッシングに用いる酸素ガスは、純度99.9%以上の高純度酸素ガスであることが好ましい。
【0066】
次に、キャリア被覆処理時に導入されるガス509については、主にアルゴンを主成分である事が好ましい。アルゴンに酸素や窒素が混合されたガスも使用可能であるが、これらのガスを用いると、キャリアへのガス吸着による真空度の低下を招くため好ましくない。またここでは被覆用の金属ターゲットを放電させる上で、単位時間当たりの成膜量を最大限に確保する必要がある事から、基本的には純度99.9%以上のアルゴンガスを用いることが好ましい。
【0067】
本願発明を図5に示した装置によって実現する場合、アッシング用のガスと金属膜被覆用のガスを、同一の管からチャンバ内に導入しても良いし、別々の管から導入しても構わない。
【0068】
本実施形態のアッシング処理とは、基板の設置されていない状態のキャリア503を、少なくとも1×10−4Pa以下の真空状態の保たれたチャンバ502の中に収納した後に、チャンバのゲートバルブを閉鎖する事から開始する。その後にガス導入管509から酸素ガスを導入し、さらに排気量調整バルブ506により排気量を適宜調整しチャンバ内の圧力を2〜5Paの範囲内に保った後に、電源508からキャリア503に対し高周波電力を印加する。印加する高周波電力は、実用性を考慮して13.56MHzの周波数が好ましく、100〜1000Wの範囲、単位時間当りのアッシング量および高周波電力印加によるキャリア自体の温度上昇を考慮すると、300〜500Wの範囲で、さらに実用的な工業生産に対応するためには、2〜5秒程度の時間内に処理が完了することが好ましい。チャンバ内に導入された酸素ガスは、キャリア503に印加された高周波電力により電離されて酸素プラズマに分解される。この時、プラズマは主には高周波電力導入部や、キャリアの尖部などにプラズマが集中し、キャリアの平面部分のアッシングが不十分になることから、プラズマを収束させる目的で磁石504を用いる。さらに単位時間当たりのアッシング量を増やすためには、磁石504を回転動力510により回転させる事で回転磁界を形成することが好ましい。この回転磁界によりアッシングに寄与するプラズマは運動エネルギーが付与され、ホルダに対して螺旋曲線を描きながら斜方向から入射する。キャリア表面のカーボンと接触した酸素プラズマは、当該カーボンと反応を起こし、COやCO2変化、チャンバ内に放出される形でホルダ表面からカーボンを除去する作用に寄与するが、この時、反応に寄与しなかった酸素プラズマは、再度、螺旋軌道に戻り、次のタイミングでホルダとの接触によりアッシングに寄与することになる。この事から、回転磁界を用いることにより、酸素プラズマとホルダ表面のカーボンの接触する機会は飛躍的に向上する結果、単位時間当たりのホルダ表面のカーボン除去率も向上することとなる。
【0069】
なお、回転磁石はキャリアを挟む形で離間対向した状態に位置するが、対向した磁界の同極同士が同期した同位相の状態では、磁界の反発によりプラズマの流れが不均一となるため、同極同士が同期しない逆位相の状態であることが好ましい。また、回転磁界を形成するための回転磁石は、アッシングチャンバ内部および外部のいずれにも配置する事は可能であるが、真空環境内に回転体を配置することや、チャンバ外から回転動力を導入することは、真空度および清浄度維持の点から困難かつ好ましくないため、チャンバ外に配置することが望ましい。また回転磁界を形成するための磁石の回転数は60〜800回/分の範囲で、300〜600回/分が好ましい。
【0070】
発生した酸素プラズマはキャリア表面のカーボン堆積膜を反応し、COやCO2に変化する。完全にガス化したCOやCO2は排気ポンプ512によりチャンバ外に排出される事でキャリア表面のカーボンは除去される事となる。ここでアッシング処理が終了した段階で、ガス導入管509からの酸素ガス供給は停止し、残留酸素ガスも併せて排気ポンプ512によりチャンバ外に排出され、その後、チャンバに設けられたゲートバルブが開放され、キャリアはチャンバ502から移動を開始するが、この時にチャンバ502内でアッシング処理により生成したCOやCO2ガス、さらには酸素ガスが十分に排気される前にゲートバルブが開放すると、前記ガスは次のチャンバへ流出するため好ましくない。そのためアッシング処理が完了した段階で即座に排気量調整バルブ506が作動し、最大排気速度に達する事が望ましい。スパッタリング装置全体の生産速度にも依存するが、排気量調整バルブは1.5秒以下、理想的には0.5秒以下で動作完了し、チャンバ内の残留ガスの排出に寄与することが好ましい。また、チャンバサイズにも依るが、排気ポンプ512は少なくとも毎秒1000リットル以上、望ましくは2000リットル以上の排気速度を有する事が望ましい。
【0071】
なお、本発明で説明するアッシングとは、電極511に堆積した炭素膜をプラズマによってガス化して除去することを言う。この際に発生させるプラズマとしては、酸素プラズマ、水素プラズマ、ハロゲンガスプラズマ等が挙げられる。酸素プラズマは前記の通り炭素膜をCOガスやCO2ガスとして分解し、水素プラズマは炭素膜を例えばCH4ガスとして分解し、また、ハロゲンガスプラズマは炭素膜を炭素のハロゲン化物ガスとして分解するものと考えられる。この中で、特に、酸素ガスプラズマを用いるのが、その除去速度の観点から好ましい。
【0072】
本実施形態のキャリアへの金属膜被覆は、図5に示すように、基板の設置されていない状態のキャリア503を、少なくとも1×10−4Pa以上の真空状態の保たれたチャンバ502の中に収納した後に、ガス導入管509からアルゴンを主とするガスを導入し、排気量調整バルブ506により排気量を適宜調整しチャンバ内の圧力を0.5〜1.0Paの範囲内に保った後に、電源507から金属ターゲット材505に対し直流電力を印加する。ここで直流パルス電力でも高周波電力でも使用可能であるが、単位時間当りの成膜レートを考慮すると直流電力の使用が好ましく、100〜1500Wの範囲で放電を行なうこととする。処理時間については実用的な工業生産に対応するためには、1〜5秒程度の時間内に処理が完了することが好ましい。
【0073】
ターゲット材に印加された電力により、チャンバ内に導入されたアルゴンガスは電離してアルゴンプラズマに変化する。発生したアルゴンプラズマは、プラズマを収束させる目的でチャンバ外側に設置された回転磁石504により運動エネルギーが付与され、ターゲット材対して螺旋曲線を描きながら斜方向から入射する。ターゲット材の表面に衝突したアルゴンプラズマは、ターゲット材の金属原子を弾き飛ばす事によりスパッタリングが行なわれるが、この時、上記のスパッタリングに寄与しなかったアルゴンプラズマは、再度、螺旋軌道に戻り、次のタイミングでターゲット材との衝突によりスパッタリングに寄与することになる。この事から、回転磁界を用いることにより、アルゴンプラズマとターゲット材の衝突する機会は飛躍的に向上する結果、単位時間当たりのキャリア表面への被覆率も向上することとなる。なお、回転磁石はターゲット材料およびキャリアを挟む形で離間対向した状態に位置するが、対向した磁界の同極同士が同期した同位相の状態では、磁界の反発によりプラズマの流れが不均一となるため、同極同士が同期しない逆位相の状態であることが好ましい。また、回転磁界を形成するための回転磁石の回転数は60〜800回/分の範囲で、300〜600回/分が好ましい。
【0074】
次に、ホルダの被覆に用いる金属材料はアウトガスを遮蔽する目的としては磁性材料、非磁性材料いずれも使用可能であるが、磁性材料を成膜するとホルダ自体が磁性を持つため、非磁性材料を用いる事が好ましい。また材料自体は単一金属元素でも複数元素から構成される合金金属でもいずれも使用可能であるが、金属酸化物を含む合金組成については、当該酸化物からのガス放出を招くために好ましくない。さらに酸化反応性の高い金属材料についても使用は好ましくない。
【0075】
また、キャリア表面に成膜する際、薄すぎるとアウトガスの抑制効果は低く、厚すぎると、ホルダに堆積する金属膜の総量が増加する事から、ホルダからの膜剥がれを招くため、ホルダ自体の交換頻度が増すために好ましくない。この事から、30〜200Å(3〜15nm)の範囲とすることが好ましく、50〜100Å(5〜10nm)の範囲とする事がより好ましい。さらに、通常は成膜領域を制限することを目的として装着されるようなシールド類は装着せずに、ホルダ全体が広範囲に成膜できる事が好ましい。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明に係るキャリアアッシングおよびキャリアへの金属膜被覆の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1〜15)
NiPメッキアルミニウム基板からなる非磁性基板を、スパッタ成膜装置のチャンバ内に、基板搬送機を用いて基板を供給後、チャンバ内の排気を行った。排気完了後、チャンバの真空環境内で基板搬送機を用いて基板をA5052アルミ合金製のキャリアへ装着した。キャリアの表面には#20〜30のSiC粒によりサンドブラスト処理を施したものを用いた。キャリアに装着された基板は、スパッタチャンバ内において、磁気記録媒体を構成するに必要な、Crからなる下地層、Coからなる磁気記録層を成膜後、CVDチャンバ内においてプラズマCVDにより50Åのカーボン保護膜を成膜した。この時、基板近傍のキャリア表面にもカーボンは堆積した。
【0077】
その後、基板はチャンバ内において、基板搬送機によりキャリアから取り外した。基板の取り外されたキャリアは次のチャンバに搬送した。以降の処理を、図5を用いて説明を行なう。図5に示すガス導入管509から酸素ガスを供給し、排気量調整バルブを適宜操作の上、1.5〜5.5Paの範囲にチャンバ内圧を調整した。その後キャリア503に300〜500Wの範囲で13.56MHzの高周波バイアス電力を印加した。この時、回転磁石504は600回/分の回転数で回転を行うか、または、取り外した。酸素プラズマでの処理時間は、1.6〜2.8秒間とした。表1に処理条件、および、堆積カーボン膜の除去率を示す。なお、堆積カーボン膜の除去率はアッシング前後でのカーボン膜厚を測定する事で評価した。
【0078】
表1に示す様に、回転磁界を導入してアッシングを行なった場合は、堆積カーボン膜の除去率が大幅に向上し、且つ、キャリアの表裏の除去率の差が少なくなる事が確認された。
【0079】
さらに、より少ないガス量およびより低いチャンバ圧力においても、アッシング能力が確保される事が確認された。
【0080】
回転磁界を導入しない場合に、キャリアの表裏間で除去率に差が出る現象については、キャリアへの高周波電力の印加がキャリア表面側から成されている結果、この電力導入部を中心に酸素プラズマが集中し、表面側の除去率が向上したものと推定される。回転磁界の導入により酸素プラズマはキャリア近傍に均一に引き寄せられた結果、アッシングの均一化が実現したと考えられる。
【0081】
さらに螺旋軌道の磁界により酸素ガスのイオン化効率が向上した結果、低圧下においても放電が継続し、アッシング能力が確保されるに至ったと考えられる。
(実施例16)
NiPメッキアルミニウム基板からなる非磁性基板を、実施例1と同様にスパッタ成膜装置のチャンバ内に、基板搬送機を用いて基板を供給後、チャンバ内の排気を行った。排気完了後、チャンバの真空環境内で基板搬送機を用いて基板をA5052アルミ合金製のキャリアへ装着した。キャリアの表面には#20〜30のSiC粒によりサンドブラスト処理を施したものを用いた。キャリアに装着された基板は、スパッタチャンバにおいて、磁気記録媒体を構成するに必要な、Crからなる下地層、Coからなる磁気記録層を成膜後、CVDチャンバにおいてプラズマCVDにより50Åのカーボン保護膜を成膜した。この時、基板近傍のキャリア表面にもカーボンは堆積した。その後、基板はチャンバ内において、基板搬送機によりキャリアから取り外した。基板の取り外されたキャリアは次のチャンバに搬送した。以降のプロセスを、図5を用いて説明を行なう。図5に示すガス導入管509から酸素ガスを供給し、排気量調整バルブを適宜操作の上、5.5Paの範囲にチャンバ内圧を調整した。その後キャリア503に300Wの範囲で13.56MHzの高周波バイアス電力を印加した。この時、回転磁石504は600回転/分の回転数で回転を行なった。
【0082】
3.0秒間、酸素プラズマ放電下に暴露してアッシング処理を行なった後、ガス導入からの509からの酸素ガス供給を停止した後、排気量調整バルブを操作の上、チャンバ内の残留ガスをチャンバ内から排出した。次いで、キャリアは次のチャンバへ移動した後、100%アルゴンガスをチャンバ内に供給し、チャンバ内圧を0.8Paに保ち、CrTi合金ターゲット材505に電源507から1000Wの直流電流を1秒間印加する事で、CrTi合金ターゲット材505は、回転磁石504によりマグネトロンスパッタリングされ、キャリア表面にCrTi合金ターゲット材505の材料を約50Åスパッタリング成膜した。なお、今回の検討では1つのチャンバ内にターゲットを4個設置し、キャリアに載置した2枚の基板に、同時に成膜を行なった。また、この時、より広範囲にキャリアを被覆することを目的として、ターゲット材からキャリア表面までの距離は75mmに設定の上、放電領域を制限するためのシールド類は装着せずに処理を行なった。
【0083】
ここで金属膜被覆によるキャリアからのアウトガス抑制効果の確認のため、チャンバ506にガスディテクターを装着し、キャリアが当該チャンバ内で放出するガス成分を評価した。評価結果を表2に示す。
(実施例17〜22)
実施例16と同様にキャリアへのアッシング処理と金属膜の被覆処理を行った。処理条件と評価結果を表2に示す。なお、実施例21、22ではキャリアへのアッシング処理と金属膜の被覆処理を同一のチャンバ内で行った。
【0084】
表2に示す様に、CVD成膜後に酸素ガスによるアッシングを施すと、イオン電流計測型のガスディテクター装置において、COやCO2のイオン電流値が増大する結果となった。この現象は、回転磁界を用いるアッシングにおいても、磁界を用いないアッシングにおいても同様の傾向として観察された。一方で、金属膜をキャリア表面に成膜すると、前記ガス成分のイオン電流値は低下することが確認された。CrTiを、アッシングを行ったチャンバと同一チャンバにおいて成膜するとイオン電流は低下しなかった。一方、Ruは、アッシングを行ったチャンバと同一チャンバにおいて成膜すると、イオン電流は低下した。これは、酸素アッシングと同一チャンバ内に設置されたCrTiターゲットが酸化された結果、金属膜被覆時の成膜レートが著しく低下したことによるものである。この事は、CrTiターゲットによるスパッタ放電時に、ターゲットに印加される電圧値が15%程度高まった事に加え、実際に基板に成膜された膜厚が酸化しない場合の10%程度にまで低下した事から確認できた。一方で、酸素アッシングと同一チャンバではあるが、Ruのように酸化反応性の低いターゲット材料の場合は、アッシング時においてもターゲット材料は酸化されず、成膜レートが低下せず、キャリアからのガス放出を抑制することが可能となった。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法によって製造される磁気記録媒体の一例を示す模式的な縦断面図である。
【図2】本願発明の磁気記録媒体製造装置を示す模式図である。
【図3】本願発明の磁気記録媒体製造装置が備えるスパッタチャンバを示す模式図である。
【図4】本願発明の磁気記録媒体製造装置が備えるキャリアを示す側面図である。
【図5】本願発明のアッシング処理装置および金属膜被覆装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0088】
1 基板カセット移載ロボット台
2 基板供給ロボット室
3 基板カセット移載ロボット
3A キャリアのアッシング室
3B キャリアへの金属膜の成膜室
4、7、14、17 キャリアを回転させるコーナー室
5、6、8〜13、15、16 スパッタチャンバおよび基板加熱チャンバ
18〜20 保護膜形成室
22 基板取り外しロボット室
23、24 成膜用基板(非磁性基板)
25 キャリア
26 支持台
27 基板装着部
28 板体
29 円形状の貫通穴
30 支持部材
34 基板供給ロボット
49 基板取り外しロボット
52 基板取り付け室
54 基板取り外し室
80 非磁性基板
81 シード層
82 下地膜
83 磁気記録膜
84 保護膜
85 潤滑剤層
501 アッシング装置、金属膜被覆装置
502 チャンバ
503 基板保持用キャリア
504 磁石
505 ターゲット材
506 排気量調整バルブ
507 直流電源
508 高周波電源
509 ガス導入管
510 駆動装置
511 磁界


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用基板をキャリアに装着して、接続された複数のチャンバ内に順次搬送し、前記チャンバ内で、前記成膜用基板上に、少なくとも磁性膜とカーボン保護膜とを成膜することによって、磁気記録媒体を製造する方法であって、前記キャリアから成膜後の磁気記録媒体を取り外す工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程の後、キャリアに成膜用基板を装着する工程の前に、キャリア表面に金属膜を成膜する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去する工程と、キャリア表面に金属膜を成膜する工程とを同一のチャンバ内で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜のアッシング除去を、酸素を含有するプラズマを用いて行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
酸素を含有するプラズマに外部から磁界を付与し、アッシングに作用するプラズマをキャリア表面に集中させることを特徴とする請求項4に記載の記録媒体の製造方法。
【請求項6】
アッシング工程においてプラズマに加える磁界が、螺旋軌道を描く回転磁界であることを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
キャリア表面に金属膜を成膜する工程を、回転磁界によるアシストを用いたマグネトロン放電によるスパッタ法で行うことを特徴とする請求項2〜6の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
キャリア表面に成膜する金属膜が、酸化反応性の低い金属材料であることを特徴とする請求項2〜7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
酸化反応性の低い金属材料が、Ru、Au、Pd、Ptからなる群から選ばれる何れか1種を含むことを特徴とする請求項8に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
接続された複数のチャンバを有し、各チャンバ内に成膜用基板をキャリアを用いて順次搬送し、成膜用基板上に、薄膜を形成することによって、複数の薄膜を積層形成する磁気記録媒体の製造装置であって、製造装置は、キャリアから成膜後の磁気記録媒体を取り外すチャンバと、基板を取り外したキャリアに成膜用基板を装着するチャンバを有し、かつ、この2つのチャンバの間に、キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去するチャンバを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【請求項11】
キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去するチャンバと、成膜用基板をキャリアに装着するチャンバとの間に、該キャリア表面に金属膜を成膜するチャンバを有することを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体の製造装置。
【請求項12】
キャリア表面に堆積付着したカーボン保護膜をアッシング除去するチャンバと、キャリア表面に金属膜を成膜するチャンバが同一のチャンバであることを特徴とする請求項10または11に記載の磁気記録媒体の製造装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−20950(P2009−20950A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182528(P2007−182528)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】