説明

磁石の製造方法、これにより得られる磁石及び磁石用成形体の製造装置

【課題】材料のロスを抑えながら、薄くても構造不良の生じにくい磁石を製造できる磁石の製造方法、これにより得られる磁石、磁石用成形体の製造装置を提供すること。
【解決手段】磁性粉末及び分散媒を含むスラリーSを成形装置12のキャビティC内に供給する工程、スラリーSに磁場を印加しながらスラリーSを圧縮成形し成形体を得る工程、成形体を焼結して磁石を得る工程を含み、成形装置12が、スラリーSが供給される貫通穴121aを有し、スラリー供給孔121dが内壁面121bに形成される金型121と、貫通穴121aに挿入される金型122と、金型123、122とともにキャビティCを形成する金型123を備え、スラリーSは、金型122が貫通穴121aに挿入されてスラリー供給孔121dを塞いだ時点のキャビティCの容積以下の量となるように供給され、成形体を得る工程で、金型122がスラリー供給孔121dを塞いだ後にスラリーSが圧縮成形される磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石の製造方法、これにより得られる磁石及び磁石用成形体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト磁石は、特性に優れ比較的安価であることから、自動車、家電製品、産業機械等、あらゆる分野で多量に使用されている。
【0003】
フェライト磁石を製造するには、まず原材料を所定の配合比で混合したものを仮焼してフェライト化した仮焼体を得た後、この仮焼体をサブミクロンサイズまで粉砕し、フェライト粒子からなる微粉砕粉末を得る。次いで、微粉砕粉末を磁場中で圧縮成形して成形体を得た後、この成形体を焼結する。こうしてフェライト磁石が得られる。
【0004】
上記の成形の工程には大きく分けて、微粉砕粉末を乾燥させた後に成形を行う乾式成形と、微粉砕粉末をスラリー状にして成形を行う湿式成形とがあり、磁石の配向度を高めるためには、湿式成形が好ましいとされている。
【0005】
このように成形を湿式成形で行う磁石の製造方法としては、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。同文献に記載の磁石の製造方法では、貫通穴を有する臼型と、臼型の貫通穴に挿入される下型と、貫通穴を下型とともに塞ぐことによってキャビティを形成する上型とを備えた成形装置が用いられており、臼型の貫通穴を包囲する内壁面には、スラリーを供給するスラリー供給孔が形成されている。そして、ポンプにより臼型に供給されたスラリーがスラリー供給孔からキャビティ内に供給される。
【0006】
上記磁石の製造方法では、ポンプにより臼型に供給されたスラリーが、スラリー供給孔からキャビティに供給されてキャビティがスラリーで満たされた後、下型が移動され、スラリー供給孔を塞ぎながらスラリーを圧縮成形することによって成形体が得られている。
【特許文献1】特開2006−253526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、フェライト磁石の小型、薄型化が進んでおり、それに伴って成形体の厚みも薄くすることが求められてきている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の磁石の製造方法には、薄い成形体を得ようとすると、以下に示す課題があった。
【0009】
即ち、薄い成形体を得るためには、スラリー供給孔が塞がれてからの下型の加圧ストロークを十分に取る必要がある。ところが、キャビティがスラリーで満たされているため、下型の加圧ストロークを十分に取ることができず、スラリー供給孔が塞がれない状態でスラリーが圧縮成形されてしまう。このため、圧縮により絞り出された分散媒がスラリー供給孔に流れ込み、スラリー供給孔に近づくほど分散媒の濃度が高くなる。言い換えるとスラリー供給孔に近づくほど磁性粉末の濃度が低くなる。その結果、得られる成形体に密度差が生じ、成形体を焼成して得られる磁石にクラック、カケ、割れなどの構造不良が生じ易くなる。また成形体には密度差に起因して収縮率の差が生じ、それによっても、成形体の焼成時に変形が生じ易くなり、得られる磁石に構造不良が生じ易くなる。このように上記特許文献1に記載の磁石の製造方法では、薄くても構造不良の生じにくい磁石を得ることが困難であった。
【0010】
ここで、上記磁石の製造方法により厚みのある成形体を製造し、これを焼結した焼結体を研削加工することによって、薄くても構造不良の生じにくい磁石を製造することは可能である。しかし、この場合、焼結体を多量に研削加工する必要が生じるため材料のロスが大きくなる。
【0011】
また、上記の問題は、フェライト磁石に限らず、希土類磁石等のフェライト磁石以外の磁石を製造する場合にも生じるものである。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、材料のロスを抑えながら、薄くても構造不良の生じにくい磁石を製造できる磁石の製造方法、これにより得られる磁石、磁石用成形体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、磁性粉末及び分散媒を含むスラリーを成形装置のキャビティ内に供給するスラリー供給工程と、前記スラリーに磁場を印加しながら前記スラリーを圧縮成形し成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼結して磁石を得る焼結工程とを含み、前記成形装置が、前記スラリーが供給される貫通穴を有し、前記スラリーを供給するスラリー供給孔が、前記貫通穴を包囲する内壁面に形成されている第1の金型と、前記貫通穴に挿入される第2の金型と、前記貫通穴を前記第2の金型とともに塞ぐことによって前記キャビティを形成する第3の金型とを備えており、前記スラリーは、前記第2の金型が前記第1の金型の前記貫通穴に挿入されて前記スラリー供給孔を塞いだ時点の前記キャビティの容積以下の量となるように供給され、前記成形工程において、前記スラリーが、前記第2の金型が前記スラリー供給孔を塞いだ後に圧縮成形される、磁石の製造方法である。
【0014】
本発明による磁石の製造方法によれば、スラリー供給工程において、スラリーが、第2の金型がスラリー供給孔を塞いだ時点のキャビティの容積以下の量となるように供給されるため、第2の金型がスラリー供給孔を塞いだ後にスラリーを圧縮成形することが可能となる。即ち、スラリーの圧縮成形時に第2の金型がスラリー供給孔を塞いでいるため、スラリーがスラリー供給孔へと逆流することがなく、キャビティ内においてスラリー中の分散媒の濃度がスラリー供給孔に近づくほど高くなることが抑制される。このため、薄い成形体を得る場合であっても、キャビティ内でのスラリーの濃度ムラが抑制され、得られる成形体に密度差が生じにくくなり、その焼結により得られる磁石においてクラック、カケ、割れなどの構造不良が生じ難くなる。また成形体において、密度差に起因した収縮率の差も小さくなり、それによって、成形体の焼成時における変形が生じにくくなり、得られる磁石において構造不良が生じ難くなる。従って、成形体を焼結して得られる焼結体の研削量を少なく抑えることができる。よって、本発明の磁石の製造方法によれば、材料のロスを抑えながら、薄くても構造不良の生じにくい磁石を得ることができる。また、スラリーが逆流することがないため、スラリーがスラリー供給孔に逆流することを防ぐための遮断弁を設ける必要もなくなる。
【0015】
また、第2の金型が第1の金型のスラリー供給孔を塞いだ後にスラリーの圧縮成形が行われるため、スラリー供給孔が第2の金型によって塞がれた後、スラリー供給孔に残されたスラリーが加圧状態とならずに済む。このため、成形体を成形装置から取り出した後、第2の金型を移動させて、第1の金型のスラリー供給孔を開放させても、スラリー供給孔からのスラリーの噴出を抑制することができる。このため、スラリーの噴出による金型の清掃作業が不要となる。従って、複数の磁石を製造する場合に、その製造効率を著しく高めることができる。またスラリーの噴出を抑制するための残圧処理装置などの装置を設ける必要がなくなる。
【0016】
さらに、本発明の磁石の製造方法では、第2の金型がスラリー供給孔を塞いだ後にスラリーを圧縮成形することが可能となるため、スラリー供給孔の開口度を大きくすることが可能となる。このため、スラリーの目詰まり抑制、及びスラリー供給量の変動の抑制が可能になるとともに、スラリー供給時間の短縮化を図ることができる。
【0017】
上記スラリー供給工程において、前記スラリーを前記キャビティ内に一定量供給することが好ましい。この場合、複数個の磁石を作製した場合に、磁石の重さのバラツキを低減することができる。
【0018】
また、本発明は、上記磁石の製造方法によって製造される磁石である。この発明によれば、薄くてもクラック、カケ、割れなどの構造不良が生じ難い磁石が実現される。また、本発明の磁石によれば、上記製造方法により材料のロスが抑えられるため、低コスト化を図ることができる。この発明によれば、例えば、板状体をなし、4mm以下の厚さを有する磁石を実現することが可能となる。
【0019】
また本発明は、キャビティを有する成形装置と、前記キャビティ内にスラリーを供給するスラリー供給装置とを備えており、前記成形装置が、前記スラリーが供給される貫通穴を有し、前記スラリーを供給するスラリー供給孔が、前記貫通穴を包囲する内壁面に形成されている第1の金型と、前記貫通穴に挿入される第2の金型と、前記貫通穴を前記第2の金型とともに塞ぐことによって前記キャビティを形成する第3の金型とを備えており、前記スラリー供給装置が、前記第2の金型が前記第1の金型の前記スラリー供給孔を塞いだ時点の前記キャビティの容積以下の量の前記スラリーを供給するものである、磁石用成形体の製造装置である。
【0020】
この磁石用成形体の製造装置によれば、スラリー供給装置により、スラリーが、第2の金型がスラリー供給孔を塞いだ時点のキャビティの容積以下の量となるように供給されるため、上記磁石の製造方法と同様に、薄い成形体を得る場合であっても、キャビティ内でのスラリーの濃度ムラが抑制され、得られる成形体に密度差が生じにくくなる。また成形体において、密度差に起因した収縮率の差も小さくなり、それによって、焼成時における変形が生じにくい成形体を得ることができる。
【0021】
また、第2の金型が第1の金型のスラリー供給孔を塞いだ後にスラリーの圧縮成形が行われるため、上記磁石の製造方法と同様に、成形体を成形装置から取り出す際、第2の金型を移動させて、第1の金型のスラリー供給孔を開放させても、スラリー供給孔からのスラリーの噴出を抑制することができる。このため、スラリーの噴出による金型の清掃作業が不要となり、複数の磁石を製造する場合に、その製造効率を著しく高めることができる。またスラリーの噴出を抑制するための残圧処理装置などの装置を設ける必要がなくなる。
【0022】
さらに、本発明の磁石用成形体の製造装置では、第2の金型がスラリー供給孔を塞いだ後にスラリーを圧縮成形することが可能となるため、上記磁石の製造方法と同様に、スラリーの目詰まり抑制、及びスラリー供給量の変動の抑制が可能になるとともに、スラリー供給時間の短縮化を図ることができる。
【0023】
上記磁石用成形体の製造装置において、前記スラリー供給装置が、前記スラリーを前記キャビティ内に一定量供給する定量供給手段を備えることが好ましい。この場合、定量供給手段により、スラリーがキャビティ内に一定量供給されるため、複数個の磁石を作製した場合に、磁石の重さのバラツキを低減することができる。
【0024】
なお、本発明において、「前記第2の金型が前記第1の金型の前記貫通穴に挿入されて前記スラリー供給孔を塞いだ時点」とは、前記スラリー供給孔が第2の金型によって完全に塞がれて前記スラリー供給孔と前記キャビティとの間のスラリーの移動が遮断された時点を言うものとする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、材料のロスを抑えながら、薄くても構造不良の生じにくい磁石を得ることができる磁石の製造方法、これにより得られる磁石、磁石用成形体の製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0027】
〔磁石〕
図1は、本発明に係る磁石の製造方法により製造される磁石の一例としてのフェライト焼結磁石を示す斜視図である。図1に示すフェライト焼結磁石10は、断面弧状の板状体をなしており、後述する磁石の製造方法により製造されるものである。なお、フェライト焼結磁石の形状はこれに限定されるものではなく、断面矩形状の板状体であってもよい。フェライト焼結磁石10の厚さは特に制限されないが、例えば4mm以下である。
【0028】
〔磁石の製造方法〕
次に、フェライト焼結磁石10の製造方法について説明する。
【0029】
フェライト焼結磁石10の製造においては、まず、フェライト焼結磁石10を形成するための原料を所定の配合比で混合し、この混合物を仮焼してフェライト化し、仮焼体を得る。上記原料としては、金属酸化物、焼成により酸化物となる化合物、例えば水酸化物や塩(炭酸塩、硝酸塩等)等が挙げられる。
【0030】
上記仮焼は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。また、仮焼温度は例えば1100〜1450℃で行えばよい。
【0031】
上記仮焼体は、そのままでは顆粒状、塊状等を有しており、後述する成形等が困難であるので、この状態の仮焼体を粉砕して所望の粒径の磁性粉末とすることが好ましい。具体的には仮焼後の顆粒状や塊状の仮焼体を、粗粉砕した後、微粉砕することで、好適な粒径を有する磁性粉末が得られるように調整する。こうして微粉砕された磁性粉末が得られる。上記粗粉砕は、例えば振動ミル等の公知の粉砕装置を用いて行うことができる。また微粉砕は、粗粉砕後の仮焼体を、例えば湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等の公知の粉砕装置を用いて行うことができる。
【0032】
次に、上記微粉砕された磁性粉末と分散媒とを混合させて、磁性粉末及び分散媒を含むスラリーを得る。スラリーとしては、当該スラリー中に上記粉末が30〜80質量%程度含まれるものが好ましい。また、分散媒としては水が好ましく、水に加えて、グルコン酸及び/又はグルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤が更に含まれるものであってもよい。なお、分散媒は、水に限定されず、非水系分散媒であってもよい。非水系分散媒としては、例えばトルエン、キシレン等の有機溶媒が挙げられる。非水系分散媒を用いる場合は、オレイン酸等の界面活性剤が分散媒に含まれていることが好ましい。
【0033】
そして、このスラリーを成形装置のキャビティ内に供給する(スラリー供給工程)。
【0034】
そして、スラリーに磁場を印加しながらスラリーを圧縮成形し成形体を得る(成形工程)。このとき、湿式成形における成形圧力は、例えば0.1〜0.5ton/cmであり、印加磁場は、例えば5〜15kOeである。
【0035】
こうして得られた成形体を焼成して焼結体を得る。こうして、焼結体からなるフェライト焼結磁石10が得られる(焼結工程)。焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。
【0036】
好適な磁気特性等を有するフェライト焼結磁石10を得る観点からは、焼成温度は、1100〜1220℃とすることが好ましく、1140〜1200℃とすることがより好ましい。
【0037】
図2〜図4は、本発明に係る磁石用成形体の製造装置の一例を示す概略図であり、図2は、成形装置内にスラリーを供給するスラリー供給工程を示し、図3は、成形装置内に供給されたスラリーを圧縮成形する成形工程を示し、図4は、圧縮成形により得られた成形体を取り出す工程を示すものである。
【0038】
図2〜図4に示すように、磁石用成形体の製造装置100は、キャビティCを有する成形装置12と、成形装置12にスラリーを供給するスラリー供給装置13と、キャビティC内のスラリーSに磁場を印加する磁場印加装置(図示せず)とを備えている。
【0039】
成形装置12は、スラリーSが供給される貫通穴121aを有する臼型(第1の金型)121と、貫通穴121aに挿入される下型(第2の金型)122と、貫通穴121aを下型122とともに塞ぐことによってキャビティCを形成する上型(第3の金型)123とを備えている。
【0040】
臼型121は、貫通穴121aを包囲する内壁面121bと、内壁面121bを包囲する外壁面121cとを有し、内壁面121bには、スラリーSを供給するスラリー供給孔121dが形成されている。スラリー供給孔121dは、内壁面121b及び外壁面121cを貫通するように形成されている。
【0041】
そして、下型122の上型123側の下加圧面122aと、上型123の下型122側の上加圧面123aと、臼型121の内壁面121bとによってキャビティCが構成される。
【0042】
下型122の下加圧面122aには凸部122bが設けられ、上型123の上加圧面123aは凹部123bを構成し、これにより、得られる成形体140の断面形状が弧状とされる。
【0043】
また、上型123と臼型121との間には、スラリーS中の分散媒を抜くための濾布124が挟まれるようになっている。また臼型121の内壁面121bには、下型122との隙間をシールするシール部材121eが設けられている。
【0044】
スラリー供給装置13は、スラリーSが貯留されるスラリー貯留容器131と、スラリーSを成形装置12のキャビティC内に、スラリー供給孔121dを通して一定量供給するための定量ポンプ132とを主として備えている。そして、スラリー貯留容器131と定量ポンプ132とは、第1スラリー供給配管133によって接続され、第1スラリー供給配管133には、スラリー貯留容器131から定量ポンプ132に向かって順次メインポンプ134及びバルブ135が設置されている。また、第1スラリー供給配管133のうちバルブ135と定量ポンプ132との間の箇所からは第2スラリー供給配管136が分岐し、スラリー供給孔121dに接続されている。そして、第2スラリー供給配管136にはバルブ137が設置されている。
【0045】
定量ポンプ132は、第1スラリー供給管133内に連通し、その容積が変更可能なチャンバ21と、このチャンバ21の容積を変更させるための駆動機構22とから構成されている。チャンバ21は、筒状のシリンダ23と、このシリンダ23内で一方向に沿って往復動可能に設けられたピストン24とによって形成されている。そして、シリンダ23は、連通部23aを介し、第1スラリー供給管133内に連通している。
【0046】
駆動機構22は、例えば、空圧や油圧によって作動する伸縮シリンダから構成され、ピストン24は、駆動機構22の動作ロッド22aの先端部に連結されている。空圧や油圧によって駆動機構22を作動させることで動作ロッド22aを進退させ、ピストン24をシリンダ23内で移動させる。ピストン24が移動すると、これによりチャンバ21の容積が変動するようになっている。駆動機構22としては、ピストン24をシリンダ23内で移動させることができるのであれば、伸縮シリンダに限らず、適宜他の機構を採用することが可能である。
【0047】
駆動機構22は、スラリー供給装置13の図示しないコントローラ(制御部)によってその作動が制御される。このコントローラは、具体的には、下型122がスラリー供給孔121dを塞いだ時点でのキャビティCの容積以下の量のスラリーSがスラリー供給孔121dを通してキャビティC内に供給されるように駆動機構22を制御するものである。本実施形態では、駆動機構22は、下型122がスラリー供給孔121dを塞いだ時点でのキャビティCの容積に基づいて、その容積以下の量のスラリーSをスラリー供給孔121dを通してキャビティC内に供給するように動作ロッド22aの移動量を制御する。
【0048】
なお、定量ポンプとしては、本実施形態のようなプランジャー式ポンプに限らず、ギヤポンプ、スクリューポンプ、モーノポンプ等、適宜他のポンプを採用することが可能である。
【0049】
次に、磁石用成形体の製造装置100を用いた成形体の製造方法について説明する。
【0050】
即ちまず、図2において、バルブ137を閉じ、バルブ135を開いた状態で、メインポンプ134を作動し、スラリー貯留容器131から第1スラリー供給配管133を経て定量ポンプ132にスラリーSを供給する。このとき、定量ポンプ132では、駆動機構22によりシリンダ24を退かせ、チャンバ21の容積を大きくしておく。こうしてチャンバ21内にスラリーSが導入される。
【0051】
次に、バルブ135を閉じてバルブ137を開くとともに、臼型121に対して下型122を、スラリー供給孔121dが開放される位置(即ち塞がれない位置)に配置しておく。この状態で、駆動機構22により動作ロッド22aを作動させ、ピストン24によりスラリーSをチャンバ21から追い出し、連通部23a、第1スラリー供給配管133、第2スラリー供給管136及びスラリー供給孔121dを経て成形装置12のキャビティC内にスラリーSを供給する。このとき、駆動機構22は、下型122がスラリー供給孔121dを塞いだ時点でのキャビティCの容積に基づいて、その容積以下の量のスラリーSをスラリー供給孔121dを通してキャビティC内に供給するように動作ロッド22aの移動量を制御する。このため、スラリーSは、下型122がスラリー供給孔121dを塞いだ時点のキャビティCの容積以下の量となるように供給される。従って、この時点で、スラリーSは圧縮されていない。
【0052】
その後、下型122を上型123に向かって移動させ、下型122によってスラリー供給孔121dを塞ぐ(図3)。このとき、スラリーSは、下型122がスラリー供給孔121dを塞いだ時点のキャビティCの容積以下の量となるように供給されている。このため、その後、下型122をさらに上型123に向かって移動させると、スラリーSを圧縮成形することが可能となる。またこのとき、スラリーSには磁場印加装置により磁場を印加する。こうして成形体140が得られる。
【0053】
上記のようにして成形体140が得られた後は、上型123を臼型121から分離し、下型122をさらに上方に移動させ、成形体140を取り出せばよい(図4)。取り出した成形体140は、上述のように焼成して焼結体とされる。こうしてフェライト焼結磁石10が得られる。なお、焼結体に対しては必要に応じ、研削加工等を行ってもよい。この場合は、研削加工された焼結体がフェライト焼結磁石10となる。但し、本実施形態では、薄くても構造不良の生じにくいフェライト焼結磁石が得られるため、上記のように焼結体に対して研削加工を行う場合でも研削量を少なくすることができ、材料のロスを十分に抑えることができる。
【0054】
上記のように、本実施形態では、スラリーSの圧縮成形時に下型122がスラリー供給孔121dを塞いでいるため、キャビティC内においてスラリーS中の分散媒の濃度がスラリー供給孔121dに近づくほど高くなることが抑制されている。このため、薄い成形体を得る場合であっても、キャビティC内でのスラリーSの濃度ムラが抑制され、得られる成形体に密度差が生じにくくなり、その焼結により得られるフェライト焼結磁石10においてクラック、カケ、割れなどの構造不良が生じ難くなる。また成形体において、密度差に起因した収縮率の差も小さくなり、それによって、成形体の焼成時における変形が生じにくくなり、得られるフェライト焼結磁石10において構造不良が生じ難くなる。従って、成形体を焼結して得られる焼結体の研削量を少なく抑えることができる。
【0055】
よって、本実施形態のフェライト焼結磁石10の製造方法によれば、材料のロスを抑えながら、薄くても構造不良の生じにくいフェライト焼結磁石10を得ることができる。
【0056】
また、下型122が臼型121のスラリー供給孔121dを塞いだ後にスラリーSの圧縮成形が行われるため、スラリー供給孔121dが下型122によって塞がれた後、スラリー供給孔121dに残されたスラリーSが加圧状態とならずに済む。このため、成形体を成形装置12から取り出した後、次の成形体を製造するべく下型122を移動させ、臼型121のスラリー供給孔121dを開放させる場合でも、スラリー供給孔121dからのスラリーSの噴出を抑制することができる。このため、スラリーSの噴出による金型の清掃作業が不要となる。従って、複数のフェライト焼結磁石10を製造する場合に、その製造効率を著しく高めることができる。
【0057】
またスラリーSの噴出を抑制するための残圧処理装置などの装置を設ける必要もなくなる。
【0058】
さらに、本実施形態のフェライト焼結磁石10の製造方法では、下型122がスラリー供給孔121dを塞いだ後にスラリーSを圧縮成形することが可能となるため、スラリー供給孔121dの開口度を大きくすることが可能となる。このため、スラリーSの目詰まり抑制、及びスラリー供給量の変動の抑制が可能になるとともに、スラリー供給時間の短縮化を図ることができる。
【0059】
また上記実施形態では、定量ポンプ132により、スラリーSがキャビティC内に一定量供給されるため、複数個のフェライト焼結磁石10を作製した場合に、フェライト焼結磁石10の重さバラツキを低減することができる。
【0060】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、フェライト焼結磁石の製造方法について説明したが、本発明に係る磁石の製造方法は、希土類焼結磁石等のフェライト焼結磁石以外の磁石の製造にも適用可能である。
【0061】
また、上記実施形態では、スラリー貯留容器131からスラリーSをメインポンプ134により一旦定量ポンプ132に導入した後、定量ポンプ132からスラリー供給孔121dを経て成形装置12のキャビティC内に供給しているが、メインポンプ134に代えて公知の定量ポンプを用い、定量ポンプ132を省略してもよい。この場合、磁石用成形体の製造装置100の小型化を図ることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
Sr0.82La0.18Co0.15Fe11.8O19で表される組成のフェライト焼結磁石を下記のようにして形成した。まず、原料であるFe2O3及びSrCO3を混合し、この混合物を、空気中で1200℃で0.5時間仮焼してフェライト化し、仮焼体を得た。
【0064】
次に、仮焼体を、ローラーミルで粗粉砕した後、アトライタで微粉砕して微粉砕された磁性粉末を得た。
【0065】
次に、上記微粉砕された磁性粉末と水とCaCO3、SiO2、La(OH)3、Co3O4を混合させて、磁性粉末及び水を含むスラリーを得た。このとき、磁性粉末の濃度は76質量%となるようにした。
【0066】
そして、上記のようにして得られたスラリーを、図2に示す成形装置12のキャビティC内に供給した。このとき、下型122が臼型121の貫通穴121aに挿入されてスラリー供給孔121dを塞いだ時点のキャビティCの容積は8.8cmであった。またこのとき、コントローラは、上記キャビティCの容積に基づき、キャビティCに供給されるスラリーSの量が上記容積より少ない6.3cmとなるように駆動機構22を制御した。具体的には、コントローラは、駆動機構22を介して動作ロッド22aの移動量を、キャビティCに供給されるスラリーSの量が上記容積より少ない6.3cmとなるように制御した。
【0067】
そして、スラリーに12kOeの磁場を印加しながらスラリーを0.5ton/cmの圧力で圧縮成形し、断面弧状の板状体である成形体を得た。このときの成形体は断面弧状の板状体であり、その厚さは3.91mmであった。
【0068】
こうして得られた成形体を大気中で1200℃で1.0時間焼成して厚さ3.0mmの焼結体を得た。そして、厚さ2.0mmのフェライト焼結磁石を得るために、焼結体の表面をダイヤモンド砥粒砥石を用いて研削代1.0mmで研削加工した。
【0069】
(実施例2)
成形体の厚さを3.0mmとし、キャビティCへのスラリーの供給量を4.8cmとしたこと以外は実施例1と同様にして断面弧状の板状体である焼結体を得た。この焼結体の厚さは2.3mmであった。そして、厚さ2.0mmのフェライト焼結磁石を得るために、焼結体の表面を研削代0.3mmで研削加工した。
【0070】
(比較例1)
キャビティCがスラリーで満たされるまでスラリー供給を行った後、スラリーの圧縮形成を、スラリー供給孔121dを塞ぎながら行ったこと以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。このときキャビティCに供給されたスラリーの量は9.3cmであった。また、この焼結体の厚さは5.0mmであった。そして、厚さ2.0mmのフェライト焼結磁石を得るために、焼結体の表面を研削代3.0mmで研削加工した。
【0071】
実施例1,2及び比較例1で得られたフェライト焼結磁石について、目視検査で、割れやカケ等の構造不良がないかどうか観察した。その結果、実施例1,2及び比較例1で得られたフェライト焼結磁石のいずれにおいても割れやカケなどの構造不良は見られなかった。また、実施例1,2及び比較例1で得られたフェライト焼結磁石について、フェライト焼結磁石の厚さに対する研削代の比率(研削比率)を算出した。結果を表1に示す。
【表1】

【0072】
表1に示す結果より、実施例1及び2のフェライト焼結磁石は、比較例1のフェライト焼結磁石に比べて研削比率が十分に小さく、材料のロスを抑えられることが分かった。
【0073】
以上より、本発明の磁石の製造方法によれば、材料のロスを抑えながら、薄くても構造不良の生じにくい磁石を得ることができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る磁石の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る磁石用成形体の製造装置の一例を用いてスラリーを成形装置のキャビティ内に供給するスラリー供給工程を示す概略図である。
【図3】図2の磁石用成形体の製造装置を用いて成形装置のキャビティ内に供給されたスラリーを圧縮成形する成形工程を示す概略図である。
【図4】図2の磁石用成形体の製造装置を用いて成形装置で得られた成形体を取り出す工程を示す概略図である。
【符号の説明】
【0075】
10…フェライト焼結磁石(磁石)、12…成形装置、13…スラリー供給装置、100…磁石用成形体の製造装置、121a…貫通穴、121b…内壁面、121d…スラリー供給孔、121…臼型(第1の金型)、122…下型(第2の金型)、123…上型(第3の金型)、132…定量ポンプ(定量供給手段)、S…スラリー、C…キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末及び分散媒を含むスラリーを成形装置のキャビティ内に供給するスラリー供給工程と、
前記スラリーに磁場を印加しながら前記スラリーを圧縮成形し成形体を得る成形工程と、
前記成形体を焼結して磁石を得る焼結工程とを含み、
前記成形装置が、前記スラリーが供給される貫通穴を有し、前記スラリーを供給するスラリー供給孔が、前記貫通穴を包囲する内壁面に形成されている第1の金型と、前記貫通穴に挿入される第2の金型と、前記貫通穴を前記第2の金型とともに塞ぐことによって前記キャビティを形成する第3の金型とを備えており、前記スラリーは、前記第2の金型が前記第1の金型の前記貫通穴に挿入されて前記スラリー供給孔を塞いだ時点の前記キャビティの容積以下の量となるように供給され、
前記成形工程において、前記スラリーが、前記第2の金型が前記スラリー供給孔を塞いだ後に圧縮成形される、磁石の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー供給工程において、前記スラリーを前記キャビティ内に一定量供給する、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項3】
キャビティを有する成形装置と、
磁性粉末及び分散媒を含むスラリーを前記キャビティ内に供給するスラリー供給装置とを備えており、
前記成形装置が、
前記スラリーが供給される貫通穴を有し、前記スラリーを供給するスラリー供給孔が、前記貫通穴を包囲する内壁面に形成されている第1の金型と、
前記貫通穴に挿入される第2の金型と、
前記貫通穴を前記第2の金型とともに塞ぐことによって前記キャビティを形成する第3の金型とを備えており、
前記スラリー供給装置が、前記第2の金型が前記第1の金型の前記スラリー供給孔を塞いだ時点の前記キャビティの容積以下の量の前記スラリーを供給するものである、磁石用成形体の製造装置。
【請求項4】
前記スラリー供給装置が、前記スラリーを前記キャビティ内に一定量供給する定量供給手段を備える、請求項3に記載の磁石用成形体の製造装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の磁石の製造方法によって製造される磁石。
【請求項6】
板状体をなし、4mm以下の厚さを有する請求項5に記載の磁石。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−111169(P2009−111169A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282081(P2007−282081)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】