説明

磁石装置、マグネトロンスパッタ装置

【課題】ターゲット表面が均一にスパッタリングされる磁石装置を提供する。
【解決手段】外側磁石31をターゲットに対して静止させておき、内側磁石35を外側磁石31の内側で移動させる。ターゲット表面の磁界が変化し、ターゲット表面が均一にスパッタされる。特に、内側磁石35の直径dを外側磁石31の内周半径Rよりも小さくし、外側磁石31の中心軸線37を中心として回転させると、強くスパッタリングされる領域がターゲットの全表面上を通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタ装置に係り、特に、マグネトロンスパッタ装置の磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マグネトロンスパッタ装置は薄膜形成の分野に広く用いられており、ターゲットの裏面に配置される磁石装置には、様々な提案がなされている。
【0003】
図5の符号101は、リング状で大径の外側磁石105の内側に、小径の内側磁石106が配置された磁石装置であり、外側磁石105と内側磁石106の間の領域だけが強くスパッタリングされる。
その結果、ターゲットは、外側磁石105と内側磁石106の間の領域だけが深く掘れ、その部分で寿命が決まってしまうため、ターゲットの使用効率は低い。
【0004】
そこで従来技術でも解決が図られており、例えば大口径の基板表面に薄膜を形成する際には、図6の符号111に示すような磁石装置が用いられている。
この磁石装置111も、リング状の外側磁石115の内側に内側磁石116が配置されているが、ターゲット112よりも小径であり、ターゲット112に対して平行な状態を維持しながら、ターゲット112の裏面位置で回転移動するように構成されており、強くスパッタリングされる領域がターゲット112の表面上を移動するため、上記磁石装置111よりも、ターゲット112の表面が均一に掘れる。
【0005】
しかし、この磁石装置111では、ターゲット112は、回転移動の中心を中心とし、外側磁石115と内側磁石116の中間位置と回転中心との最小距離と最大距離をそれぞれ半径とする二重円周状に掘れてしまい、ターゲット112の使用効率は高いとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−18435号公報
【特許文献2】特開平7−166346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり、ターゲットの使用効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、ターゲットの裏面に配置され、前記ターゲットの表面に磁力線を漏洩させる磁石装置であって、前記ターゲットと平行に配置され、前記ターゲットに一の磁極が向けられるリング状の外側磁石と、前記外側磁石の内側に配置され、前記外側磁石とは逆極性の磁極が前記ターゲットに向けられる内側磁石とを有し、前記外側磁石は前記ターゲットに対して静止され、前記内側磁石は、前記ターゲットに対して移動可能に構成され、前記内側磁石が前記外側磁石に対して移動すると、前記ターゲット表面の磁界分布が変化するように構成された磁石装置である。
また、本発明は、ターゲットの裏面に配置され、前記ターゲットの表面に磁力線を漏洩させる磁石装置であって、前記ターゲットと平行に配置され、前記ターゲットに一の磁極が向けられるリング状の外側磁石と、前記外側磁石の内側に配置され、前記外側磁石とは逆極性の磁極が前記ターゲットに向けられる内側磁石とを有し、前記外側磁石と前記内側磁石は、前記外側磁石の中心軸線を中心に前記ターゲットに対して移動可能に構成され、前記内側磁石が前記外側磁石に対して移動すると、前記ターゲット表面の磁界分布が変化するように構成された磁石装置である。
また、本発明は、前記外側磁石と前記内側磁石はそれぞれ円形リング状であり、前記内側磁石の外周直径は、前記外側磁石の内周半径よりも小さくされた磁石装置である。
また、本発明は、上記いずれかの磁石装置と、前記ターゲットが配置される真空槽と、少なくとも前記内側磁石を移動させる内側磁石移動装置を有するマグネトロンスパッタ装置である。
【発明の効果】
【0009】
外側磁石と内側磁石の間の距離が一定ではなく、広い部分と狭い部分を有している。幅が連続的に変化するドーム状の磁力線がターゲット表面を移動するので、ターゲット表面が均一に掘られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のマグネトロンスパッタ装置を説明するための図面
【図2】本発明の第一例の磁石装置を説明するための図面
【図3】その変形例を説明するための図面
【図4】(a)、(b):本発明の第二例の磁石装置を説明するための図面
【図5】従来技術の磁石装置(1)
【図6】従来技術の磁石装置(2)
【図7】(a):本発明の磁石装置を用いた場合のターゲットの掘れ量の分布、(b):図5の磁石装置を用いた場合のターゲットの掘れ量の分布、(c):図6の磁石装置を用いた場合のターゲットの掘れ量の分布
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1の符号10は、本発明のマグネトロンスパッタ装置を示している。
このマグネトロンスパッタ装置10は真空槽11を有しており、その内部には、薄膜材料の全部又は一部で構成されたターゲット12が配置されている。
ターゲット12は板状であり、ターゲット表面30と向かい合う位置には基板ホルダ13が配置されており、基板ホルダ13には、ターゲット12と面するように、ガラス基板等の成膜対象物14が配置されている。
【0012】
ターゲット12の裏面位置には本発明の第一例の磁石装置15が配置されている。
この磁石装置15は、リング状の外側磁石31と、外側磁石31よりも小さい内側磁石35と、透磁性を有し、板状の固定ヨーク板23と移動ヨーク板26とを有している。
【0013】
ここでは内側磁石35もリング状であり、内側磁石35は外側磁石31の内側に配置されており、外側磁石31と内側磁石35は、その中心軸線37、40が、それぞれターゲット表面30に対して垂直になるように配置されており、従って、外側磁石31と内側磁石35はターゲット表面30に対して平行に配置されている。外側及び内側磁石31、35は、ターゲット表面30から等距離の位置に配置されている。
外側磁石31と内側磁石35は、ターゲット12に面する面とは反対側の面が、固定ヨーク板23と移動ヨーク板26にそれぞれ固定されている。
【0014】
ターゲット12は真空槽11に対して静止しており、固定ヨーク板23は真空槽11に固定され、ターゲット12に対して静止されており、従って、外側磁石31はターゲット12に対して静止されている。
移動ヨーク板26は、ターゲット12に対して移動可能に構成されており、従って、移動ヨーク板26を移動させると、内側磁石35はターゲット12に対して移動する。
【0015】
図2は、磁石装置15をターゲット12側から見た平面図である。
この磁石装置15では、外側磁石31と内側磁石35は円形リング状であり、内側磁石35の外径(外周直径)dは、外側磁石31の内周半径Rよりも小さく形成されている(d<R)。
【0016】
内側磁石35は、外側磁石31の中心軸線37が内側磁石35の外側に位置するように配置されている。
固定ヨーク板23には、外側磁石31の中心軸線37を中心とする円形の軌道28が設けられており、内側磁石35は、この軌道28に沿って移動するように構成されている。
【0017】
外側磁石31と内側磁石35と固定ヨーク板23と移動ヨーク板26はターゲット表面30と平行であり、内側磁石35は、外側磁石31の中心軸線37を中心として、ターゲット表面30と平行な面内でターゲット12に対して回転移動する。
【0018】
外側磁石31と内側磁石35は、ターゲット12側の面と固定ヨーク板23又は移動ヨーク板26に取り付けられた面に磁極が配置され、且つ、外側磁石31と内側磁石35は、異なる極性の磁極がターゲット12に向けられており、外側磁石31と内側磁石35のターゲット12に向けられた面間は磁力線で結ばれるようになっている。
外側磁石31と内側磁石35を結ぶ磁力線は、中央部分がターゲット表面30上に漏洩し、外側磁石31と内側磁石35とが近い部分で幅狭で、遠い部分で幅広のドーム状のトンネルを形成する。
【0019】
磁界の鉛直成分がゼロの下方位置(トンネルの頂点の下方位置)が強くスパッタリングされるが、内側磁石35はターゲット12に対して移動するため、ターゲット12が深く掘られる部分も移動し、ターゲット表面30が均一に掘られるようになる。
【0020】
ターゲット12が強くスパッタリングされる領域は、内側磁石35の外側に位置する領域であり、本発明では外側磁石31の中心軸線37が内側磁石35の外側に位置しているため、内側磁石35が一回転する間に、ターゲット表面30のどの位置も、強くスパッタされる領域が通過するようになっている。
【0021】
真空槽11には、真空排気系51とガス導入系52が接続されており、真空槽11の内部を真空排気し、所定圧力に到達した後、ガス導入系52によって、真空排気しながらスパッタガスを導入する。
【0022】
固定ヨーク板23及び外側磁石31はターゲット12に対して静止しており、移動ヨーク板26を移動させ、内側磁石35をターゲット12に対して移動させると、ターゲット表面30上の磁界分布が変化する。
【0023】
スパッタ電源53を起動し、ターゲット12の裏面に密着配置されたバッキングプレート19に電圧を印加し、ターゲット12の表面にプラズマを形成し、ターゲット12のスパッタリングを開始すると、ターゲット表面30上の強くスパッタリングされる領域が内側磁石35の移動に伴って移動し、ターゲット12が均一にスパッタされる。
スパッタリング粒子が成膜対象物14の表面に到達すると、その表面に薄膜が成長する。スパッタガスに反応性ガスを添加して反応性スパッタリングを行なってもよい。
【0024】
図7(b)は図5の磁石装置101を用いた場合、図7(c)は図6の磁石装置111を用いた場合のターゲットの表面位置とターゲットの掘れ量の関係を示すグラフである。
図5の磁石装置101ではターゲットの外周ばかりが掘れてしまい、図6の磁石装置111では、二重円周状に掘れて、中央位置での掘れ量が少ない。
【0025】
図7(a)は、本発明の磁石装置15を用いた場合の、ターゲット12表面位置とターゲット12の掘れ量の関係を示すグラフであり、本発明の磁石装置15では、ターゲット12が均一に掘れている。
【0026】
なお、上記磁石装置15では内側磁石35がリング状であったが、本発明ではそれに限定されるものではなく、板状等、リング形状でなくてもよい。
また、上記磁石装置15では外側磁石31が円形リング状であったが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0027】
図3の磁石装置16では、外側磁石32が正方形又は長方形の四角リング状であり、その内側に、外側磁石32よりも小さな内側磁石36が移動ヨーク27に固定されて配置されている。ここでは内側磁石36も正方形又は長方形の四角リング形状である。
外側磁石32が固定された固定ヨーク24には、正方形又は長方形の四角リング状の軌道29が設けられている。
【0028】
外側磁石32、内側磁石36、軌道29の各辺は、互いに平行であるか又は直角であり、また、外側磁石32の中心軸線38が内側磁石36の外側に位置した状態で、内側磁石36が軌道29上を移動するようにされている。ターゲット12には、異なる磁極が向けられ、磁力線がターゲット12表面に漏洩し、強くスパッタリングされる領域がターゲット12表面を移動するようになっている。
また、上記磁石装置15、16では、外側磁石31、32がターゲット12に対して静止していたが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0029】
図4(a)、(b)の符号17は、本発明の第二例の磁石装置を示している。
この磁石装置17は、リング状の外側磁石33と、外側磁石33よりも小さい内側磁石37と、板状の移動ヨーク板25とを有している。
内側磁石37は外側磁石33の内側に配置され、外側磁石33と内側磁石37は移動ヨーク板25の片面に固定されている。
【0030】
外側磁石33と内側磁石37は、その中心軸線39、42が、それぞれターゲット表面30に対して垂直になるように配置されており、従って、外側磁石33と内側磁石37はターゲット表面30に対して平行に配置されている。
移動ヨーク板25は、外側磁石33と内側磁石37のターゲット12側の面とは反対側の面に位置している。
【0031】
この磁石装置17でも、外側磁石33と内側磁石37は円形リング状であり、内側磁石37の外径(外周直径)dは、外側磁石33の内周半径Rよりも小さく形成され(d<R)、外側磁石33の中心Oが内側磁石37の外側に位置するようにされている。
【0032】
第一例の磁石装置15と同様に、外側磁石33と内側磁石37は、ターゲット12側の面と移動ヨーク板25側の面にそれぞれ磁極が配置されており、且つ、外側磁石33と内側磁石37は、異なる極性の磁極がターゲット12に向けら、ターゲット表面30上に磁力線が漏洩するようにされている。
【0033】
外側磁石33と内側磁石37と移動ヨーク板25はターゲット表面30と平行であり、移動ヨーク板25が、ターゲット表面30と平行な状態を維持しながら外側磁石33の中心軸線39を中心として回転すると、内側磁石37は、外側磁石33の中心軸線39を中心として、ターゲット表面30と平行な平面内でターゲット12に対して回転移動する。
【0034】
外側磁石33もその中心軸線39を中心にターゲット12に対して回転するが、外側磁石33の磁力強度は、リング状の面内で均一であるから、回転してもターゲット12に対して静止していた場合と変わりが無い。この場合も、第一例の磁石装置15と同様に、強くスパッタリングされる領域が内側磁石37の移動に伴ってターゲット表面30上の磁力線分布が移動する。内側磁石37が外側磁石33の中心軸線39を中心に回転移動すると、強くスパッタリングされる領域も中心軸線39を中心として回転移動し、ターゲット12は均一にスパッタリングされる。
【0035】
なお、本発明の磁石装置15〜17は、外側磁石31〜33と同心に他のリング状の磁石を設けてもよいし、また、内側磁石35〜37の外側又は内側に、内側磁石と一緒に移動する磁石を設けてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10……マグネトロンスパッタ装置
12……ターゲット
15〜17……磁石装置
31〜33……外側磁石
35〜37……内側磁石


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの裏面に配置され、前記ターゲットの表面に磁力線を漏洩させる磁石装置であって、
前記ターゲットと平行に配置され、前記ターゲットに一の磁極が向けられるリング状の外側磁石と、
前記外側磁石の内側に配置され、前記外側磁石とは逆極性の磁極が前記ターゲットに向けられる内側磁石とを有し、
前記外側磁石は前記ターゲットに対して静止され、
前記内側磁石は、前記ターゲットに対して移動可能に構成され、
前記内側磁石が前記外側磁石に対して移動すると、前記ターゲット表面の磁界分布が変化するように構成された磁石装置。
【請求項2】
ターゲットの裏面に配置され、前記ターゲットの表面に磁力線を漏洩させる磁石装置であって、
前記ターゲットと平行に配置され、前記ターゲットに一の磁極が向けられるリング状の外側磁石と、
前記外側磁石の内側に配置され、前記外側磁石とは逆極性の磁極が前記ターゲットに向けられる内側磁石とを有し、
前記外側磁石と前記内側磁石は、前記外側磁石の中心軸線を中心に前記ターゲットに対して移動可能に構成され、
前記内側磁石が前記外側磁石に対して移動すると、前記ターゲット表面の磁界分布が変化するように構成された磁石装置。
【請求項3】
前記外側磁石と前記内側磁石はそれぞれ円形リング状であり、前記内側磁石の外周直径は、前記外側磁石の内周半径よりも小さくされた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の磁石装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の磁石装置と、
前記ターゲットが配置される真空槽と、
少なくとも前記内側磁石を移動させる内側磁石移動装置を有するマグネトロンスパッタ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−136780(P2012−136780A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28073(P2012−28073)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2007−327224(P2007−327224)の分割
【原出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】