説明

神経細胞をターゲッティングするための担体

本発明は、ボツリヌス菌によって形成される神経毒の重鎖を改変することによって得ることができる輸送タンパク質に関し、(i)本タンパク質は天然神経毒よりも高いまたは低い親和性で神経細胞と特異的に結合し、(ii)本タンパク質は天然神経毒と比較して増大または減少した神経毒性を有し、神経毒性は半横隔膜アッセイで調べられることが好ましく、かつ/または(iii)本タンパク質は、中和抗体に対して天然神経毒と比較してより低い親和性を含む。本発明はまた、輸送タンパク質の製造方法および化粧料組成物および薬剤組成物におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボツリヌス菌によって形成される神経毒よりも高いまたは低い親和性でニューロンと結合する輸送タンパク質に関する。本輸送タンパク質は、受容体媒介性エンドサイトーシスによって吸収されることが好ましい。このタンパク質は、生理学的には原形質膜を通って神経細胞のサイトゾル中に透過できないその他の化学物質(例えば、プロテアーゼ)を、酸性エンドソームコンパートメントからニューロンのサイトゾル中に輸送するための輸送手段として用いられる。本発明は、詳しくは、神経伝達物質の放出の阻害剤の導入のための輸送タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞はエキソサイトーシスによって伝達物質を放出する。細胞内小胞の膜の、原形質膜との融合がエキソサイトーシスと呼ばれる。このプロセスの過程で、シナプス間隙に小胞の内容物が同時に放出される。2種の膜の融合は、タンパク質シナプトタグミンと反応するカルシウムによって制御されている。シナプトタグミンは、その他の補助因子とともに、3種のいわゆる融合タンパク質、SNAP−25、シナプトブレビン2およびシンタキシン1Aの状態を制御する。シンタキシン1Aおよびシナプトブレビン2が原形質膜および/または小胞膜に組み込まれているのに対し、SNAP−25は原形質膜と軽く結合しているだけである。細胞内カルシウム濃度が上昇する限り、3種のタンパク質は互いに結合し、両方の膜が互いに接近し、続いて、一緒になって融合する。コリン作動性ニューロンの場合には、アセチルコリンが放出され、筋収縮、発汗およびその他のコリン作動性誘発反応を引き起こす。
【0003】
上記の融合タンパク質が、細菌ボツリヌス菌(C. botulinum)、C.ブチリカム(C. butyricum)、C.バラティ(C. baratii)およびC.テタニ(C. tetani)によって形成されるクロストリジウム神経毒の軽鎖(LC)の標的分子(基質)である。
【0004】
嫌気性グラム陽性菌ボツリヌス菌は、7種の異なる血清型のクロストリジウム神経毒を産生する。後者はボツリヌス神経毒(BoNT/A〜BoNT/G)と呼ばれる。これらの中でも、特に、BoNT/AおよびBoNT/Bが、ヒトおよび動物においてボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害を引き起こす。ボツリヌス菌の胞子は、土壌中に見られるが、誤って滅菌され、密閉された自家製貯蔵食品中で発育する場合もあり、これが、ボツリヌス中毒の多くの場合の原因である。
【0005】
BoNT/Aは、全ての既知の生物学的物質のうちで最も活性である。5〜6pgほどの少量の精製BonT/Aが、MLD(半数致死量)に相当する。BoNT/Aの1ユニット(英語:Unit、U)は、腹腔内注射後に、各々体重18〜20g雌のスイスウェブスターマウスの半数を死滅させるMLDとして定義される。7種の免疫学的に異なるBoNTが特性決定された。それらはBoNT/A、B、C1、D、E、FおよびGと表され、血清型特異的抗体での中和によって区別できる。BoNTの種々の血清型は、引き起こされる麻痺の重篤度および期間に関して、感染した動物種で異なる。したがって、麻痺に関して、例えば、ラットではBoNT/AはBoNT/Bより500倍より強力である。さらに、BoNT/Bは、霊長類では、480U/体重1Kgの投与量では毒性ではないことが証明されている。同量のBoNT/Aは、霊長類におけるこの物質の致死量(LD)の12倍に相当する。他方、マウスにおけるBoNT/A注射後の麻痺期間は、BoNT/Eの注射後よりも10倍長い。
【0006】
BoNTは、病的に過敏性の末梢神経によって引き起こされる骨格筋の運動亢進を特徴とする神経筋障害を治療するために使用されている。BoNT/Aは、眼瞼痙攣、斜視、多汗症、しわおよび片側顔面痙攣を治療するために米国食品医薬品局によって承認されている。BoNT/Aと比較して、残りのBoNT血清型は明らかにあまり有効でなく、短期間の効力しか示さない。末梢−筋内投与されたBoNT/Aの臨床効果は、通常、1週間以内に気付かれる。BoNT/Aの1回の単一筋内注射による症状抑制期間は、通常、約3〜6ヶ月である。
【0007】
クロストリジウム神経毒は、融合装置の種々のタンパク質を特異的に加水分解する。BoNT/A、C1およびEはSNAP−25を破壊するのに対し、BoNT/B、D、F、Gならびに破傷風神経毒(TeNT)は、小胞結合膜タンパク質(VAMP)2(シナプトブレビン2とも呼ばれる)を攻撃し、BoNT/C1はさらに、シンタキシン1Aを破壊する。
【0008】
クロストリジウム細菌は、神経毒を、各々1251〜1315アミノ酸を有する一本鎖ポリペプチドとして放出する。その後、内在性プロテアーゼがこれらのタンパク質の各々を規定の位置で、各々2つの鎖に開裂する(「ニッキング」)が、2つの鎖はジスルフィド架橋によってまだ連結されている。これらの二重鎖タンパク質がホロ毒素と呼ばれる(ショーン(Shone)ら、(1985)、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(European Journal of Biochemistry)151、75〜82頁を参照のこと)。この2つの鎖は異なる機能を有する。小さい断片、軽鎖(light chain=LC)がZn2+依存性エンドプロテアーゼに相当し、大きいユニット(heavy chain=HC)が軽鎖の輸送手段に相当する。HCをエンドペプチダーゼで処理することによって、2つの50kDaの断片が得られた(ヒメネス(Gimenez)ら、(1993)、ジャーナル・オブ・プロテイン・ケミストリー(Journal of Protein Chemistry)12、351〜363頁を参照のこと)。アミノ末端側の半分(H−断片)は、低pH値で膜に組み込まれ、LCが神経細胞のサイトゾルに移動する。カルボキシ末端側の半分(H−断片)は、もっぱら、神経細胞膜に生じる複合体ポリシアロガングリオシドと、および今日まで部分的にしか同定されていないタンパク質受容体と結合する(ハルパーン(Halpern)ら、(1993)、カレント・トピックス・イン・マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Current Topics in Microbialogy and Immunology)195、221〜241頁)。後者は、クロストリジウム神経毒の高い神経選択性を説明している。結晶構造により、BoNT/Aは3つのドメインを配置していることが確認され、これは3ステップの作用機序と一致し得る(レイシー(Lacy)ら(1998)ネイチャー・ストラクチュラル・バイオロジー(Nature Structural Biology)5、898〜902頁を参照のこと)。さらに、これらのデータは、H−断片内に、各25kDaの2つの自律的サブユニット(サブドメイン)が存在するという結論につながる。2つの機能的サブドメインの存在についての第1の証拠は、TeNTのH−断片のアミノ末端側の半分(HCN)およびカルボキシ末端側の半分(HCC)によってもたらされ、これらは組換え型で発現され、HCCドメインはニューロンと結合するがHCNドメインは結合しないということを示した(エレロス(Herreros)ら(2000)、バイオケミカル・ジャーナル(Biochemical Journal)347、199〜204頁を参照のこと)。後者の段階では、BoNT/AおよびBのHCCドメイン内の単一のガングリオシド結合部位の場所が特定され、特性決定された(ルンメル(Rummel)ら(2004)、モレキュラー・ミクロバイオロジー(Molecular Microbiology)、51、631〜643頁)。BoNT/BおよびGのタンパク質受容体として同定されるシナプトタグミンIおよびIIの結合部位は、同様に、BoNT/BおよびGのHCC−ドメインの領域内に制限され得る(ルンメル(Rummel)ら、(2004)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)279、30865〜70頁を参照のこと)。しかし、この文書は、BoNT/BおよびGの結合ポケットと関係するアミノ酸は開示していない。
【0009】
断片を含むHCは、生理学的条件下では、ニューロンのガングリオシドと結合し、受容体媒介性エンドサイトーシスによって細胞の内側に吸収され、エンドソームコンパートメントを介して天然の小胞の循環に到達する。初期エンドソームの酸性媒質では、H断片は小胞膜中に貫通し、孔を形成する。ジスルフィド架橋を介してHCと結合している各物質(X)は、細胞内レドックスシステムによってHCから開裂されて離れ、ジスルフィド架橋に近づき、これを還元する。Xは最終的にはサイトゾル中に現れる。
【0010】
クロストリジウム神経毒の場合には、HCはLCの担体であり、最終ステップでサイトゾルにおいてその特異的基質を開裂する。融合タンパク質の複合体の形成および解離のサイクルが妨げられ、その結果、アセチルコリンの放出が阻害される。その結果として、横紋筋が麻痺し、汗腺がその分泌を停止する。個々のBoNT血清型の活性期間は、サイトゾル中の無傷のLCの存在に応じて変わる。すべてのニューロンがクロストリジウム神経毒の受容体を有するので、影響を受け得るのはアセチルコリンの放出だけではなく、サブスタンスPの、ノルアドレナリンの、GABA、グリシン、エンドルフィンおよびその他の伝達物質およびホルモンの放出も可能性がある。
【0011】
コリン作動性伝達が選択的に遮断されることは、末梢においてHCがニューロンに入るという事実によって説明できる。中枢シナプスは、タンパク質では克服できない血液−脳関門によって保護されている。
【0012】
リガンド−受容体研究では、タンパク質受容体の結合ポケットを同定および特性決定するため、ひいては、タンパク質受容体に対する親和性を改変するために、BoNT/BおよびGのHCC−ドメイン内で特定のアミノ酸残基を置換した。突然変異させたBoNT/BおよびGのH断片の親和性は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)プルダウン実験においてシナプトタグミンによって調べた。続いて、同じ突然変異を示すHCを、それぞれ、LC−BまたはLC−Gと結合させた。これらの構築物の効力を、マウスの単離した神経−筋−調製物によって分析した(半横隔膜アッセイ=HDA)。この調製物では、コリン作動性運動ニューロンからなり、クロストリジウム神経毒の最も重要な生理学的対象に相当する横隔神経が見られるはずである。続いて、抑制におけるBoNT/AのHCC−ドメインにおいて、BoNT/BおよびGにおけるタンパク質−受容体−結合ポケットの部位と同様に局在する個々のアミノ酸を置換した。続いて、全長BoNT/A単一突然変異体を、改変された効力に関してHDAによって同様に分析し、これにより、改変されたリガンド−タンパク質−受容体−相互作用についての指標が得られた。
【0013】
より最近では、BoNT/A複合体はまた前駆体毒素Aとも呼ばれ、ジストニア運動を治療するために、ならびに過度の交感神経活性を減弱するために(ベネケ(Benecke)ら(1995)、エーケーティー・ニューロロジー(Akt Neurology)22、209ff参照のこと)、また疼痛および片頭痛を軽減するために(シチャ(Sycha)ら(2004)ジャーナル・オブ・ニューロロジー(Journal of Neurology)251、19〜30頁を参照のこと)用いられている。この複合体は、神経毒、種々の赤血球凝集素および非毒性の赤血球凝集性でないタンパク質からなる。この複合体は、生理学的pHで数分内に解離する。結果として生じる神経毒が、治療上関連があり、症状の軽減をもたらす、複合体の唯一の成分である。根本にある精神疾患は治療されないので、複合体は3〜4ヶ月間隔で再度注射される必要がある。注射される外来タンパク質の量に応じて、患者の中には、特異的BoNT/A抗体を作るものもある。これらの患者は神経毒に対して耐性となる。一度、抗原感受性細胞が神経毒を認識し、抗体が形成されると、関連する記憶細胞は数年にわたって保存される。このために、できる限り少ない投与量で、できる限り高い活性の調製物を用いて患者を治療することが重要である。さらに、調製物は、細菌起源のいかなるさらなるタンパク質も含んではならないが、これはこれらが免疫アジュバントとして作用する可能性があるからである。このような物質は、マクロファージを誘引し、マクロファージは免疫アジュバントと神経毒の両方を認識し、それらをリンパ球に提示し、その結果、リンパ球が免疫グロブリンを形成することによって対応する。したがって、外来タンパク質を全く含まない極めて純粋な生成物のみが治療に用いられるべきである。分子レベルで見られる神経毒に対する患者の耐性は、主に、中和抗体の存在に基づいている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下では、本発明は、今日までに知られている方法の上記の問題を克服できる輸送タンパク質(Trapo)を提案する。
【0015】
この主題は、ボツリヌス菌によって形成される神経毒の重鎖を改変することによって得られる新規輸送タンパク質によって得られ、
ここで、
(i)このタンパク質は、天然神経毒よりも高いまたは低い親和性で神経細胞と結合し、
(ii)このタンパク質は、天然神経毒と比較して、増大または減少した神経毒性を有し、神経毒性は半横隔膜アッセイで調べられることが好ましく、および/または、
(iii)このタンパク質は、天然神経毒と比較した場合に、中和抗体に関してより低い親和性を示す。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、ボツリヌス菌によって形成される天然神経毒よりも高いまたは低い親和性で神経細胞と結合する輸送タンパク質を提供する。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、ボツリヌス菌によって形成される神経毒のHCを改変することによって得られ、天然神経毒よりも高いまたは低い親和性で神経細胞と特異的に結合する輸送タンパク質を提供する。輸送タンパク質はエンドサイトーシスによってこれらの細胞によって吸収されることが好ましい。
【0018】
さらに、さらなる好ましい実施形態によれば、ボツリヌス菌によって形成される神経毒のHCを改変することによって得られる輸送タンパク質を提供し、特に、もはや利用できない中和抗体の結合のガングリオシド−およびタンパク質−受容体結合ポケット上の表面に露出されたアミノ酸を置換することによるタンパク質を提供する。
【0019】
以下では、本願との関連で理解されなければならない用語を定義する。
【0020】
「天然神経毒よりも高いまたは低い親和性での神経細胞との結合」。この場合において天然神経毒とは、ボツリヌス菌の天然神経毒である。この関連では、天然神経毒は、ボツリヌス菌由来のボツリヌス神経毒Aおよび/またはボツリヌス神経毒Bおよび/またはボツリヌス神経毒Gであることが好ましい。大腸菌由来の組換え型で調製されたボツリヌス神経毒、とりわけ、天然ボツリヌス神経毒と同一のアミノ酸配列を含むものは、薬理学的に、天然のボツリヌス神経毒と同一の方法で作用し、組換えボツリヌス神経毒野生型と呼ばれる。この場合に記載される神経細胞とは、コリン作動性運動ニューロンである。輸送タンパク質は、原形質膜結合分子、膜貫通タンパク質、シナプス小胞タンパク質、シナプトタグミンファミリーのタンパク質またはシナプス小胞糖タンパク質2(SV2)、好ましくは、シナプトタグミンIおよび/またはシナプトタグミンIIおよび/またはSV2A、SV2BまたはSV2C、特に好ましくは、ヒトシナプトタグミンIおよび/またはヒトシナプトタグミンIIおよび/またはヒトSV2A、SV2BまたはSV2Cと特異的に結合することが好ましい。結合は、in vitroで測定されることが好ましい。測定は、実施例において詳細に説明されるGSTプルダウンアッセイを用いて実施することが特に好ましい。
【0021】
「タンパク質が、天然神経毒と比較して増大または減少した神経毒性を有する」。この場合には、天然神経毒とは、ボツリヌス菌の天然神経毒である。この場合には、天然神経毒は、ボツリヌス菌由来のボツリヌス神経毒Aおよび/またはボツリヌス神経毒Bおよび/またはボツリヌス神経毒Gであることが好ましい。大腸菌由来の組換え型で調製されたボツリヌス神経毒、とりわけ、天然ボツリヌス神経毒と同一のアミノ酸配列を含むものは、天然のボツリヌス神経毒と薬理学的に同一の方法で作用し、組換えボツリヌス神経毒野生型と呼ばれる。この場合に記載される神経細胞とは、コリン作動性運動ニューロンである。神経毒性は、当技術分野で公知の半横隔膜アッセイ(HDA)を用いて測定されることが好ましい。突然変異体の神経毒性は、ハーバーマン(Habermann)ら、ナウニン・シュミーデベルグス・アーカイブ・オブ・ファルマコロジー(Naunyn Schmiedeberg's Archives of Pharmacology)311(1980)、33〜40頁によって記載されるように測定できることが好ましい。
【0022】
「中和抗体」。ボツリヌス神経毒を対象とする中和抗体は公知である(ゴッシェル(Goeschel)H、ウォールファース(wohlfarth)K、フレバート(Frevert)J、デングラー(Dengler)R、ビガルケ(Bigalke)H、ボツリナム・エー・トキシン・セラピー:ニュートラライジング・アンド・ノンニュートラライジング・アンチボディーズ−−セラピューティック・コンシークエンセズ(Botulinum A toxin therapy:neutralizing and nonneutralizing antibodies-- therapeutic consequences)、エクスペリメンタル・ニューロロジー(Experimental Neurology)1997年9月、147(1)、96〜102頁)。神経毒を中和する抗体は、詳しくは、活性中心、例えば、神経毒のHCC−ドメイン内のガングリオシド−およびタンパク質−受容体結合ポケットとなどと相互作用することがわかった。神経毒において結合ポケットの周囲の表面が、その機能を負に損なうことなくアミノ酸置換によって改変されている場合には、中和抗体はその結合部位を失い、突然変異された神経毒はもはや中和されない。
【0023】
用語「ボツリヌス菌によって形成される神経毒の重鎖の改変」。ボツリヌス菌によって形成される神経毒の重鎖(HC)のアミノ酸配列および/または核酸配列は、通常、既知血清型A〜Gの各々について公的にアクセス可能なデータベースから入手可能である(また、表1を参照のこと)。これに関連して改変としては、少なくとも1個のアミノ酸がアミノ酸配列に欠失、付加、挿入されていること、または天然神経毒の少なくとも1個のアミノ酸が別の天然に存在する、もしくは天然に存在しないアミノ酸によって置換されていること、および/または所与のアミノ酸配列中の1個のアミノ酸が翻訳後修飾されていることが挙げられる。これに関連して翻訳後修飾としては、グリコシル化、アセチル化、アシル化、脱アミノ化、リン酸化(phosphorylisation)、イソプレニル化(isoprenylisation)、グリコシルホスファチジルイノシトリゼーション(inositolisation)および当業者に公知のさらなる改変が挙げられる。
【0024】
ボツリヌス菌によって形成される神経毒のHCは、3つのサブドメイン、すなわち、アミノ末端の50kDaの大きさの輸送ドメインH、それに続く25kDaのHCN−ドメインとカルボキシル末端に位置する25kDaのHCC−ドメインを含む。HCN−およびHCC−ドメインは一緒に、H−断片として示される。個々の血清型およびその変形のそれぞれのサブドメインの対応するアミノ酸部分は表1から明らかである。
【0025】
「ガングリオシド受容体」
ボツリヌス神経毒のHCは、末梢神経細胞に対して高親和性を示し、これは複合体ポリシアロガングリオシド(これらは2以上のシアル酸からなる糖脂質である)との相互作用によって大部分が媒介される(ハルパーン(Halpern)ら、(1995)、カレント・トピックス・イン・マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Current Topics in Microbiology and Immunology)195、221〜241頁;WO2006/02707)。それらと結合しているLCは、結果として、この細胞種のみに到達し、これらの細胞においてのみ活性となる。BoNT/AおよびBは、1分子のガングリオシドGT1bとのみ結合する。
【0026】
BoNT/BおよびBoNT/Gの場合には、タンパク質受容体はシナプトタグミンIおよびシナプロタグミンIIである。BoNT/Aの場合には、タンパク質受容体は、シナプス小胞糖タンパク質2(SV2)、好ましくは、SV2A、SV2BおよびSV2Cである。
【0027】
現在、シナプトタグミンのファミリーに関係する13種のアイソフォームが知られている。すべては、2つのカルボキシル末端Ca2+結合C2ドメインと、シナプロタグミンをシナプス小胞膜に固定する中央の膜貫通ドメイン(TMD)と、種々の長さを有するアミノ末端とを特徴とする。Ca2+流入後、シナプス小胞の原形質膜との融合が開始され、するとすぐに、シナプトタグミンの内腔アミノ末端が細胞外に示され、BoNT/BおよびGの受容体アンカーとして利用可能である。それと同様に、SV2アイソフォームの第4の管腔ドメインが、エキソサイトーシス後に、BoNT/Aとの相互作用に細胞外で利用可能である。
【0028】
結合ポケットの個々のアミノ酸の特徴を、特異的突然変異誘発によって、タンパク質受容体の結合がより困難になるか、阻害されるよう改変した。この目的のために、BoNT/BおよびBoNT/GのH−断片を大腸菌で発現させ、野生型として、あるいは個々のアミノ酸が置換した(突然変異/置換)組換え型で、推定結合ポケットにおいて単離する。GSTプルダウンアッセイについては、BoNT/BおよびBoNT/Gの間、ならびにシナプロタグミンIおよびシナプトタグミンIIの間のin vitroにおける相互作用を調べるために、それぞれのGST−シナプトタグミン融合タンパク質を、種々の量のそれぞれBoNT/BまたはBoNT/GのそれぞれのH−断片とともにインキュベートし、相分離を実施した。遊離H−断片は分離した上清中に残ったのに対し、結合しているBoNT H−断片は、GST−シナプトタグミン融合タンパク質と一緒に固体相では検出できた。GSTプルダウンアッセイにおける全長BoNT/BおよびBoNT/GによるそれぞれのH−断片の置換は同様の結果を示した。
【0029】
これに関連して、BoNT/B野生型は複雑なガングリオシドおよびシナプトタグミンIの存在下で、膜貫通ドメインを用いてのみ結合するが、シナプトタグミンIIは、膜貫通ドメインを用いてまたは用いずに、ならびに複雑なガングリオシドの存在下または不在下の双方で結合するということがわかった。BoNT/Bのタンパク質受容体結合部位内のアミノ酸を特異的に置換することによって、両シナプトタグミン分子間の相互作用を大幅に増大させることまたは減少させることが可能となった(図1)。
【0030】
さらに、BoNT/G野生型については、シナプトタグミンIおよびシナプトタグミンIIとの結合は、膜貫通ドメインを用いるか、または用いない各場合において、複雑なガングリオシドの存在下ならびに不在下の双方で起こるということが示された。BoNT/Gのタンパク質受容体結合部位内のBoNT/Bと相同のアミノ酸を特異的に置換することによって、両シナプトタグミン分子間の相互作用を大幅に増大させることまたは減少させることが可能となった(図2)。
【0031】
BoNT/A、BおよびG野生型の全長型の効力は、用量−作用グラフによってHDAにおいて測定した(図3および6)。続いて、BoNT/A、BおよびG単一突然変異体の種々の全長型の効力を、HDAにおいて測定し(図6)、応用効力関数によってBoNT/BおよびG野生型の効力に対してプロットした(図4および5)。例えば、BoNT/Bにおけるアミノ酸バリン1118のアスパラギン酸による置換またはリジン1192のグルタミン酸による置換は、<2%への効力の著しい減少をもたらす。それと対照的に、チロシン1183のそれぞれロイシンまたはアルギニンでの突然変異は、BoNT/Bの効力の大幅な増大を引き起こす(図4)。BoNT/Gにおいてチロシン1256をフェニルアラニンに改変することは、同様に効力の増大をもたらすが、グルタミン酸、リジンまたはチロシンでのグルタミン1200の突然変異は、BoNT/Gの効力の相当な減少を引き起こす(図5)。BoNT/Aの場合には、セリン1207をアルギニンまたはチロシンに改変することによって、効力の増大が起こるが、リジン1260のグルタミン酸への突然変異は、BoNT/Aの著しい効力の減少を引き起こす(図6)。
【0032】
好ましい実施形態によれば、輸送タンパク質は、天然神経毒よりも少なくとも15%高いかまたは少なくとも15%低い親和性を示す。輸送タンパク質は、天然神経毒よりも、少なくとも50%高いまたは低い、特に好ましくは、少なくとも80%高いかまたは低い、特に、少なくとも90%高いまたは低い親和性を示すことが好ましい。
【0033】
好ましい具体例によれば、HCの改変は、所与の神経毒のH−断片の領域において起こる。改変が置換、欠失、挿入または付加を含む場合には、後者は、例えば、特異的突然変異誘発、この関連では、当業者に公知の方法によって実施できる。天然神経毒中に存在するアミノ酸は、この関連では、天然に存在するアミノ酸または天然に存在しないアミノ酸のいずれかで改変される。原則として、アミノ酸は種々の物理化学的群に分けられる。アスパラギン酸およびグルタミン酸は、負に荷電したアミノ酸に属する。ヒスチジン、アルギニンおよびリジンは、正に荷電したアミノ酸に属する。アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システインおよびチロシンは極性アミノ酸に属する。グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニンおよびトリプトファンは、非極性アミノ酸に属する。芳香族側鎖基は、アミノ酸の中でもヒスチジン、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンの中に見い出される。一般に、アミノ酸を、別の物理化学的群に属する異なるアミノ酸で置換することが好ましい。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、輸送タンパク質はボツリヌス神経毒血清型A〜Gである。天然神経毒のアミノ酸配列は、この関連では、以下の公的にアクセス可能なデータベースから入手できる。
【0035】
【表1】

【表2】

【0036】
これらのボツリヌス神経毒のH−断片に関しては、
ボツリヌス菌神経毒血清型Aの867〜1296、
ボツリヌス菌神経毒血清型Bの866〜1291、
ボツリヌス菌神経毒血清型C1の864〜それぞれ1291または1280、
ボツリヌス菌神経毒血清型Dの860〜それぞれ1276または1285、
ボツリヌス菌またはC.ブチリカム(butyricum)神経毒血清型Eの843〜それぞれ1251または1252、
それぞれボツリヌス菌またはC.バラティ(baratii)神経毒血清型Fの861〜1274、862〜それぞれ1280または1278および854〜1268、
ボツリヌス菌神経毒血清型Gの861〜1297
のアミノ酸位置におけるアミノ酸が改変にとって好ましい。
【0037】
したがって、前記の位置にある少なくとも1個のアミノ酸を、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換することがすることが好ましい。
【0038】
好ましい実施形態によれば、神経毒はボツリヌス神経毒血清型Aである。この場合には、ボツリヌス神経毒血清型Aタンパク質配列の位置トレオニン1195、アスパラギン1196、グルタミン1199、リジン1204、イソロイシン1205、ロイシン1206、セリン1207、ロイシン1209、アスパラギン酸1213、ロイシン1217、フェニルアラニン1255、アスパラギン1256、イソロイシン1258および/またはリジン1260にある少なくとも1個のアミノ酸を、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換することが好ましい。ボツリヌス神経毒血清型Aタンパク質配列の位置アスパラギン1196、グルタミン1199、セリン1207、フェニルアラニン1255、イソロイシン1258および/またはリジン1260が特に好ましい。特に、位置、アルギニンまたはチロシンによって置換されたセリン1207、グルタミン酸によって置換されたリジン1260が好ましい。
【0039】
好ましい具体例によれば、神経毒はボツリヌス神経毒血清型Bである。この場合には、ボツリヌス神経毒血清型Bタンパク質配列の位置リジン1113、アスパラギン酸1114、セリン1116、プロリン1117、バリン1118、トレオニン1182、チロシン1183、フェニルアラミン1186、リジン1188、グルタミン酸1191、リジン1192、ロイシン1193、フェニルアラニン1194、フェニルアラミン1204、フェニルアラニン1243、グルタミン酸1245、リジン1254、アスパラギン酸1255およびチロシン1256にある少なくとも1個のアミノ酸を、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換することが好ましい。ボツリヌス神経毒血清型Bタンパク質配列の位置バリン1118、チロシン1183、グルタミン酸1191、リジン1192、グルタミン酸1245およびチロシン1256が特に好ましい。特に、ロイシンによって置換されたチロシン1183およびグルタミン酸1191の位置が好ましい。
【0040】
さらなる好ましい実施形態によれば、神経毒はボツリヌス神経毒血清型Gである。この場合には、ボツリヌス神経毒血清型Gタンパク質配列の位置フェニルアラニン1121、リジン1123、アラニン1124、セリン1125、メチオニン1126、バリン1190、ロイシンl191、セリン1194、グルタミン酸1196、トレオニン1199、グルタミン1200、ロイシン1201、フェニルアラニン1202、フェニルアラニン1212、フェニルアラニン1248、リジン1250、アスパラギン酸1251およびチロシン1262にある少なくとも1個のアミノ酸を、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換することが好ましい。ボツリヌス神経毒血清型Gタンパク質配列の位置メチオニン1126、ロイシン1191、トレオニン1199、グルタミン1200、リジン1250およびチロシン1262が特に好ましい。特に、位置、フェニルアラニンによって置換されたチロシン1262が好ましい。
【0041】
本発明において提供される輸送タンパク質は、特に、シナプトタグミンのファミリーまたはシナプス小胞糖タンパク質2に関する分子に対する、そのタンパク質結合ドメインの増大または減少した特異的親和性を示す。
【0042】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の輸送タンパク質と、少なくとも1種の介在分子(X)とを含む組成物に関する。介在分子は、ペプチド結合、エステル結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合または炭素−炭素結合によって輸送タンパク質と共有結合していることが好ましい、小さい有機分子、ペプチドまたはタンパク質であり得る。
【0043】
さらに、介在分子は、すべての既知の治療上活性な物質を含む。この関連では、細菌増殖抑制剤、抗生物質、ウイルス増殖抑制剤、さらに免疫グロブリンも好ましい。
【0044】
好ましい実施形態では、本タンパク質は、ボツリヌス菌神経毒、特に、血清型A、B、C1、D、E、FおよびGのLC、あるいは、天然のプロテアーゼのタンパク質分解活性の少なくとも0.01%、好ましくは、少なくとも5%、特に好ましくは、少なくとも50%、特には、少なくとも90%を示す、ボツリヌス菌神経毒、特に、血清型A、B、C1、D、E、FおよびGの神経毒のLCのタンパク質分解活性を有する断片からなる神経毒の群から選択される、神経伝達物質の放出装置の1種または複数のタンパク質を開裂するプロテアーゼである。輸送タンパク質およびプロテアーゼは、同一のボツリヌス菌神経毒血清型由来であることが好ましく、輸送タンパク質のH−ドメインおよびプロテアーゼがボツリヌス菌神経毒血清型A由来であることが特に好ましい。プロテアーゼの配列は、通常、データベースでアクセス可能であり、データベース番号は表1から明らかである。プロテアーゼのタンパク質分解活性は、基質分離動力学によって求める(ビン(Binz)ら(2002)、バイオケミストリー(Biochemistry)41(6)、1717〜23頁)。
【0045】
本発明のさらなる実施形態によれば、輸送タンパク質の製造方法を提供する。この場合には、第1のステップでは、輸送タンパク質をコードする核酸を提供する。これに関連してコーディング核酸とは、RNA、DNAまたはそれらの混合物を表す。核酸は、例えば、ホスホロチオエート(phosphorthioate)結合を挿入することによって、そのヌクレアーゼ耐性に関してさらに改変することができる。核酸は出発核酸から作製でき、後者は、例えば、ゲノムまたはcDNAデータベースからクローニングすることによってアクセス可能である。さらに、核酸は固相合成によって直接製造できる。適した方法は当業者には公知である。出発核酸を用いて開始する場合には、例えば、位置特異的突然変異誘発による特異的改変を引き起こし、その結果、アミノ酸レベルでの少なくとも1つの付加、挿入、欠失および/または置換をもたらすことができる。次いで、核酸を適したプロモーターと機能しうる形で連結する。公知の発現系における発現に適したプロモーターは、当業者には公知である。この場合には、プロモーターの選択は、発現に用いる発現系に応じて変わる。一般に、構成的プロモーターが好ましいが、誘導性プロモーターも同様に使用できる。このようにして製造される構築物は、例えば、λ−誘導体、アデノウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、SV−40ウイルスおよびレトロウイルスから選択されるベクターの少なくとも1つの部分、特に、調節エレメントを含む。ベクターは、所与の宿主において核酸を発現できることが好ましい。
【0046】
本発明は、ベクターを含み、ベクターを発現するのに適した宿主細胞をさらに提供する。最先端では、多数の原核生物の発現系および真核生物の発現系が知られており、宿主細胞は、例えば、大腸菌または巨大菌などの原核細胞から、S.セレビシエ(S.cerevisiae)およびP.パストリス(P.pastoris)などの真核細胞から選択される。昆虫細胞または哺乳類細胞などの高等真核細胞も同様に使用できるが、それでも、宿主細胞はボツリヌス菌同様、グリコシル化装置を有さないものが好ましい。
【0047】
好ましい実施形態によれば、核酸はボツリヌス菌神経毒のH−断片をコードする。この核酸は、H−断片をコードする核酸をフランキングするエンドヌクレアーゼインターフェースを含み、アミノ酸配列の類似性が保たれながら、輸送タンパク質をコードする遺伝子における容易なモジュラー置換を可能にするよう、エンドヌクレアーゼ部位はボツリヌス菌神経毒のその他のH−断片のものと適合する。
【0048】
本発明の組成物が提供される場合には、輸送システムとは別に、少なくとも1種の介在分子をさらに含み、この介在分子は、カルボキシ末端システインまたはメルカプト基のいずれかで官能基化したペプチドまたはタンパク質であり、そこで、このペプチドおよび/またはタンパク質は、上記と類似の方法で、例えば、バイナリーベクターまたは種々の宿主細胞を用いることによって組換えにより製造できる。輸送タンパク質とペプチドまたはタンパク質の両方の発現に同一宿主細胞を用いる場合には、分子間ジスルフィド結合がin situで形成されることが好ましい。同一宿主細胞におけるより効率的な製造には、一本鎖ポリペプチドが製造されるよう、ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸を輸送タンパク質のものと同一のリーディングフレーム内で翻訳させることもできる。この場合には、分子内ジスルフィド結合がin situで形成されることが好ましい。輸送タンパク質とペプチドおよび/またはタンパク質の間を架橋する同様に存在するペプチドの簡単な加水分解のためには、輸送タンパク質のアミノ末端に、プロテアーゼトロンビンによって、または宿主細胞の特異的エンドプロテアーゼによって特異的に認識され、分離されるアミノ酸配列を挿入する。
【0049】
驚くべきことに、挿入配列CXXXZKTKSLVPRGSKBXXC(配列番号1)(Xはいずれかの所望のアミノ酸を示し、ZおよびBは互いに独立に、アラニン、バリン、セリン、トレオニンおよびグリシンから選択される)は、細菌宿主、好ましくは、大腸菌の内在性プロテアーゼによってin vivoで効率的に開裂されるということがわかった。したがって、挿入配列の、輸送タンパク質のアミノ酸配列と、さらなるペプチドまたはタンパク質の間への挿入が、後の段階で、例えば、トロンビンによる後処理が不要であるという利点を提供する。大腸菌株大腸菌k12は特に好ましい。
【0050】
挿入配列が、好ましくは、1820個のアミノ酸を含むループの一部を形成することが好ましい。
【0051】
これが不可能である場合は、輸送タンパク質およびタンパク質の分離精製の後に、続いて、当業者に公知の酸化プロセスによって適当な分子間ジスルフィド結合を引き起こしてもよい。ペプチドまたはタンパク質はまた、合成または断片縮合によって直接得ることができる。適当な方法は当業者には公知である。
【0052】
輸送タンパク質およびペプチドまたはタンパク質はそれぞれ、続いて精製する。この目的のために、当業者に公知の方法、例えば、クロマトグラフィー法または電気泳動などを用いる。
【0053】
本発明のさらなる実施形態は、輸送タンパク質または組成物と、場合により、製薬上許容される賦形剤、希釈剤および/または添加剤とを含む薬剤組成物に関する。
【0054】
薬剤組成物は、経口、静脈内、皮下、筋内および局所投与に適している。これに関連して、筋内投与が好ましい。薬剤組成物の投薬単位は、およそ0.1pg〜1mgの本発明の輸送タンパク質および/または組成物を含む。
【0055】
薬剤組成物は、神経伝達物質放出の障害および片側顔面痙攣、痙性斜頸、眼瞼痙攣、痙縮、ジストニア、片頭痛、疼痛、頚部および腰椎柱の障害、斜視、流涎過多、創傷治癒、いびきおよび鬱病などの障害を治療するのに適している。
【0056】
本発明のさらなる実施形態は、輸送タンパク質と、化粧品上許容される賦形剤、希釈剤および/または添加剤とを含む化粧料組成物を含む。化粧料組成物は、多汗症および顔面のしわを治療するのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
詳細には、本発明は、ボツリヌス菌によって産生される神経毒のHCを改変することによって形成され、好ましくは、ニューロンと特異的に結合し、好ましくは、受容体媒介性エンドサイトーシスによって細胞内に吸収され、酸性エンドソームコンパートメントからニューロンのサイトゾル中に輸送される、輸送タンパク質(Trapo)に関する。このタンパク質は、生理学的には原形質膜中に貫通して神経細胞のサイトゾルに到達できない、前記輸送手段と結合している細胞プロテアーゼおよびその他の物質を細胞内に導入するための輸送手段として用いられる。プロテアーゼの基質は、伝達物質放出に関与している細胞内に局在しているタンパク質およびペプチドである。基質を分離した後、ニューロンの特定の機能がブロックされる。細胞自身は損傷を受けない。これらの機能のうちの1種は、神経伝達物質放出を引き起こすエキソサイトーシスである。伝達物質の放出が阻害される場合には、細胞から細胞へのシグナルの伝達がブロックされる。例えば、神経筋接触点でアセチルコリンの放出が阻害されると横紋筋が麻痺する。輸送タンパク質を痙攣性筋肉または筋緊張性筋肉の神経末端に適用すれば、この作用を治療的に使用できる。その他の活性物質としては、例えば、抗ウイルス作用を示す物質がある。輸送タンパク質と結合すれば、それらは神経系のウイルス感染を治療するのに役に立つ。本発明はまた、神経伝達物質の放出を阻害するための輸送タンパク質の使用に関する。
【0058】
輸送タンパク質は相対的に低い親和性で神経細胞と結合するが、それらによって取り込まれる。したがって、これらの輸送タンパク質は、神経細胞の表面への特異的輸送手段として働くのに適している。
【0059】
患者をボツリヌス菌由来の前駆体毒素AおよびBで治療する場合には、これらの非ヒトタンパク質の注射は、低投与量であっても、抗体の形成を引き起こし、その結果、療法は効果を示さず、ゆえに、アナフィラキシーショックを防ぐために停止しなければならない。酵素活性のより高い輸送効率を有する同様の活性な機序を有する物質を適用することによって、投与量を著しく低下することができ、抗体の形成も起こらない。これらの特徴は、本明細書に記載される輸送タンパク質によって起こる。
【0060】
適用のための実施例を示すが、通常、適した適用様式および投与量は治療している医師によって個々に決定される。このような決定は、関連する特定の分野に十分に精通した各医師によって日常的に行われる。したがって、神経毒の適用様式および投与量は、例えば、選択された神経毒の可溶性または治療される疼痛の強度などの基準に基づいて、本明細書に記載される本発明にしたがって選択できる。
【0061】
ボツリヌス菌由来の天然の前駆体毒素AおよびBの治療間隔は、現在、平均して3〜4ヶ月である。この間隔を延長することによって、抗体が形成される危険が減少し、BoNTを用いる、より長期間の治療が可能となる。サイトゾル中のLCの増加は、その分解を遅らせ、したがって、作用期間も延長される。本明細書に記載される輸送タンパク質は、天然のHCよりもより高い親和性および吸収速度を示す。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は単に説明に役立つものであって、制限するように理解されてはならない。
【0063】
材料および方法
プラスミド構築および組換えタンパク質の調製
親和性精製のためのカルボキシル末端Strepタグを含む、BoNT/BおよびBoNT/Gの組換えH−断片ならびにBoNT/A、BおよびGの全長型の大腸菌発現のためのプラスミドを、適したプライマー、BoNT/Aをコードする染色体DNA(AAA23262)BoNT/Bをコードする染色体DNA(AAA23211)およびBoNT/Gをコードする染色体DNA(CAA52275)および出発ベクターとして働く発現ベクターpQe3(Quiagen AG)を用い、PCR法によって得た。ラットシナプトタグミンI(syt I)の短縮変形(アミノ酸1〜53、アミノ酸1〜82)およびラットシナプトタグミンII(syt II)の短縮変形(アミノ酸1〜61、アミノ酸1〜90)を、GSTコードベクターpGEX−2T(Amersham Biosciences AB)にクローニングした。すべてのプラスミドの核酸配列をDNA配列決定によって確認した。組換えH−断片およびBoNTの全長型のものを、10時間の誘導の間に大腸菌株M15[pRep4](Qiagen)において室温で調製し、製造業者の使用説明書にしたがってStrepTactin−マトリックス(IBA GmbH)で精製した。大腸菌BL21から得られたGST融合タンパク質を、セファロースマイクロビーズ上に固定されたグルタチオンによって単離した。所望のタンパク質を含有する画分を合わせ、Tris−NaCl−トライトンバッファー(20mM Tris−HCl、150mM NaCl、0.5%Triton X−100、pH7.2)に対して透析した。
【0064】
GSTプルダウンアッセイ
10μlのGTセファロースマイクロビーズ上に固定しておいたGST融合タンパク質(各0.12nmol)を、総容積180μlのTris−NaCl−トライトンバッファー中、ウシ脳ガングリオシド混合物(18%のGM1、55%のGD1a、10%のGT1b、2%のその他のガングリオシド;Calbiochem;各20μg)の不在下または存在下で、H−断片(0.1nmol)とともに4℃で2時間インキュベートした。遠心分離によってマイクロビーズを集め、上清を除去し、各場合において分離したマイクロビーズを400μlの同バッファーで3回すすいだ。すすいだペレット画分をSDSサンプルバッファー中で煮沸し、SDS−PAGEおよびクマシーブルー染色によって上清画分とともに調べた。
【0065】
BoNT/B野生型は、複雑なガングリオシドおよびシナプトタグミンIの存在下でのみ膜貫通ドメインを用いて結合するが、シナプトタグミンIIは膜貫通ドメインを用いてまたは用いずに、ならびに複雑なガングリオシドの存在下または不在下で結合する。BoNT/Bのタンパク質受容体結合部位内のアミノ酸を特異的に置換することによって、シナプトタグミン分子間の相互作用を大幅に増大させること(E1191L、Y1183L)または減少させること(V1118D、K1192E)が可能であった(図1)。
【0066】
BoNT/G野生型については、シナプトタグミンIおよびシナプトタグミンIIとの結合は、膜貫通ドメインを用いるか、または用いない各場合において、複雑なガングリオシドの存在下ならびに不在下の双方で起こるということが示された。BoNT/Gのタンパク質受容体結合部位内のBoNT/Bと相同のアミノ酸を特異的に置換することによって、両シナプトタグミン分子間の相互作用を大幅に増大させること(Y1262F)または減少させること(Q1200E)が可能であった(図2)。
【0067】
BoNT/BおよびGの組換えH−断片の、単離され、固定されたガングリオシドとの結合を検出することによって、syt結合ポケット中に導入された突然変異による隣接するガングリオシド結合ポケットの機能に対する損傷を排除することおよびH−断片の無傷の三次構造に対する適当な結論に達することが可能であった。これらの結果は、BoNT/BおよびGの突然変異されたH−断片の無傷の三次構造を同様に示す、CD分光学的研究によって、ならびに熱変性実験によって支持された。
【0068】
マウス半横隔膜アッセイ(HDA)
BoNT/A、BおよびG突然変異体の神経毒を、ハーバーマン(Habermann)ら、ナウニン・シュミーデベルグス・アーカイブ・オブ・ファルマコロジー(Naunyn Schmiedeberg's Archives of Pharmacology)311(1980)、33〜40頁に記載されるように調べた。
【0069】
BoNT/A、BおよびG野生型の全長型の効力を、HDAにおいて用量作用グラフによって調べた(図3および6)。続いて、BoNT/A、BおよびG単一突然変異体の種々の全長型の効力を、HDAにおいて測定し(図6)、応用効力関数によってBoNT/BおよびG野生型の効力に対してプロットした(図4および5)。このようにして、BoNT/Bにおけるアミノ酸バリン1118のアスパラギン酸による置換またはリジン1192のグルタミン酸による置換は、<2%への効力の著しい減少をもたらす。それと対照的に、チロシン1183の、それぞれロイシンまたはアルギニンでの突然変異は、BoNT/Bの効力の大幅な増大を引き起こす(図4)。BoNT/Gにおいてチロシン1256をフェニルアラニンに改変することは、同様に効力の増大をもたらすが、グルタミン酸、リジンまたはチロシンでのグルタミン1200の突然変異は、BoNT/Gの効力の相当な減少を引き起こす(図5)。BoNT/Aの場合には、セリン1207をアルギニンまたはチロシンに改変することによって、効力の増大が起こるが、リジン1260のグルタミン酸への突然変異は、BoNT/Aの著しい効力の減少を引き起こす(図6)。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】GSTプルダウンアッセイによる、複雑なガングリオシドの存在下または不在下での、野生型および突然変異BoNT/B H−断片の、短縮したGST−sytIおよびGST−sytII融合タンパク質とのin vitro結合についての研究を示す図である。
【図2】GSTプルダウンアッセイによる、複雑なガングリオシドの存在下または不在下での、野生型および突然変異BoNT/G H−断片の、短縮したGST−sytIおよびGST−sytII融合タンパク質とのin vitro結合についての研究を示す図である。
【図3】HDAにおけるBoBNT/BおよびG野生型の用量作用グラフである。応用効力関数によって、単一突然変異体の麻痺時間の、関連野生型のものとの相対比較が可能となる。
【図4】HDAにおける、野生型と比較した、BoBNT/B単一突然変異体の神経毒性の増大および減少を示す図である。
【図5】HDAにおける、野生型と比較した、BoBNT/G単一突然変異体の神経毒性の増大および減少を示す図である。
【図6】HDAにおけるBoBNT/A野生型およびBoBNT/A単一突然変異体の用量作用グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス菌によって形成される神経毒の重鎖を改変することによって得ることができる輸送タンパク質であって、
(i)天然神経毒よりも高いまたは低い親和性で神経細胞と結合するタンパク質、
(ii)天然神経毒と比較して増大または減少した神経毒性を有するタンパク質であって、神経毒性が半横隔膜アッセイで調べられることが好ましいタンパク質、および/または
(iii)天然神経毒と比較して、中和抗体に関して低い親和性を示すタンパク質。
【請求項2】
中和抗体が天然神経毒の、タンパク質受容体またはガングリオシド受容体との結合を阻害するか、かつ/または神経細胞における神経毒の吸収を阻害する、請求項1に記載の輸送タンパク質。
【請求項3】
エンドサイトーシスによって細胞によって吸収される、請求項1または2に記載の輸送タンパク質。
【請求項4】
原形質膜結合分子、膜貫通タンパク質、シナプス小胞タンパク質、シナプトタグミンファミリーのタンパク質またはシナプス小胞糖タンパク質2(SV2)および/またはシナプトタグミンIおよび/またはシナプトタグミンII(コリン作動性運動ニューロン)および/またはSV2A、SV2BまたはSV2Cと、好ましくは、ヒトシナプトタグミンIおよび/またはヒトシナプトタグミンIIおよび/またはヒトSV2A、SV2BまたはSV2Cと特異的に結合する、請求項1から3のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項5】
天然神経毒よりも少なくとも15%高いかまたは少なくとも15%低い、好ましくは、少なくとも50%、特に好ましくは、少なくとも80%、特に、少なくとも90%である親和性を示す、請求項1から4のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項6】
輸送タンパク質のH−断片が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかの、少なくとも1つの置換および/または欠失および/または挿入および/または付加および/または翻訳後修飾を含み、これが天然神経毒に対して親和性を増大させるかまたは減少させる、請求項1から5のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項7】
神経毒がボツリヌス神経毒血清型A〜Gである、請求項1から6のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項8】
アミノ酸位置
ボツリヌス菌神経毒血清型Aの867〜1296、
ボツリヌス菌神経毒血清型Bの866〜1291、
ボツリヌス菌神経毒血清型C1の864〜それぞれ1291または1280、
ボツリヌス菌神経毒血清型Dの860〜それぞれ1276または1285、
ボツリヌス菌またはクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)神経毒血清型Eの843〜それぞれ1251または1252、
それぞれボツリヌス菌またはクロストリジウム・バラティ(Clostridium baratii)神経毒血清型Fの861〜1274、862〜それぞれ1280または1278および854〜1268、
ボツリヌス菌神経毒血清型Gの861〜1297
にある少なくとも1個のアミノ酸が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換されている、請求項7に記載の輸送タンパク質。
【請求項9】
天然神経毒が神経毒血清型Aであり、かつ、輸送タンパク質が好ましくは、シナプス小胞糖タンパク質2(SV2)と、特に好ましくは、SV2A、SV2BまたはSV2Cと結合する、請求項1から8のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項10】
ボツリヌス神経毒血清型Aタンパク質配列の位置トレオニン1195、アスパラギン1196、グルタミン1199、リジン1204、イソロイシン1205、ロイシン1206、セリン1207、ロイシン1209、アスパラギン酸1213、ロイシン1217、フェニルアラニン1255、アスパラギン1256、イソロイシン1258および/またはリジン1260にある少なくとも1個のアミノ酸が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換されている、請求項9に記載の輸送タンパク質。
【請求項11】
位置アスパラギン1196、グルタミン1199、セリン1207、フェニルアラニン1255、イソロイシン1258および/またはリジン1260にある少なくとも1個のアミノ酸が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換されている、請求項10に記載の輸送タンパク質。
【請求項12】
位置1207においてアミノ酸セリンがアルギニンまたはチロシンによって置換されている、請求項10または11のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項13】
位置1260においてアミノ酸リジンがグルタミン酸によって置換されている、請求項10または11のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項14】
神経毒がボツリヌス神経毒血清型Bであり、好ましくは、シナプトタグミンIまたはIIと結合する、請求項1から8のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項15】
ボツリヌス神経毒血清型Bタンパク質配列の位置リジン1113、アスパラギン酸1114、セリン1116、プロリン1117、バリン1118、トレオニン1182、チロシン1183、フェニルアラミン1186、リジン1188、グルタミン酸1191、リジン1192、ロイシン1193、フェニルアラニン1194、フェニルアラミン1204、フェニルアラニン1243、グルタミン酸1245、リジン1254、アスパラギン酸1255およびチロシン1256にある少なくとも1個のアミノ酸が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換されている、請求項14に記載の輸送タンパク質。
【請求項16】
ボツリヌス神経毒血清型Bタンパク質配列の位置バリン1118、チロシン1183、グルタミン酸1191、リジン1192、グルタミン酸1245および/またはチロシン1256にある少なくとも1個のアミノ酸が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換されている、請求項15に記載の輸送タンパク質。
【請求項17】
位置1183でアミノ酸チロシンがロイシンによって置換されている、請求項16に記載の輸送タンパク質。
【請求項18】
位置1191でアミノ酸グルタミンがロイシンによって置換されている、請求項16に記載の輸送タンパク質。
【請求項19】
神経毒がボツリヌス神経毒血清型Gである、請求項1から8のいずれか一項に記載の輸送タンパク質。
【請求項20】
ボツリヌス神経毒血清型Gタンパク質配列の位置フェニルアラニン1121、リジン1123、アラニン1124、セリン1125、メチオニン1126、バリン1190、ロイシンl191、セリン1194、グルタミン酸1196、トレオニン1199、グルタミン1200、ロイシン1201、フェニルアラニン1202、フェニルアラニン1212、フェニルアラニン1248、リジン1250、アスパラギン酸1251およびチロシン1262にある少なくとも1個のアミノ酸が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換されている、請求項19に記載の輸送タンパク質。
【請求項21】
ボツリヌス神経毒血清型Gタンパク質配列の位置メチオニン1126、ロイシン1191、トレオニン1199、グルタミン1200、リジン1250およびチロシン1262にある少なくとも1個のアミノ酸が、天然に存在するか、または天然に存在しないアミノ酸のいずれかによって、翻訳後修飾および/または付加および/または欠失および/または挿入および/または置換されている、請求項20に記載の輸送タンパク質。
【請求項22】
位置1262においてアミノ酸チロシンがフェニルアラニンによって置換されている、請求項21に記載の輸送タンパク質。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の輸送タンパク質と、少なくとも1種の介在分子とを含む組成物。
【請求項24】
介在分子が、ペプチド結合、エステル結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合または炭素−炭素結合によって輸送タンパク質と共有結合している、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
介在分子が小さい有機分子、ペプチドまたはタンパク質のいずれかである、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項26】
小さい有機分子がウイルス増殖抑制剤、細菌増殖抑制剤、抗生物質または免疫グロブリンである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
タンパク質がプロテアーゼである、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
プロテアーゼが、ボツリヌス菌神経毒の血清型A、B、C1、D、E、Fおよび/またはGのうち1種または複数の軽鎖(LC)を含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
プロテアーゼが、ボツリヌス菌神経毒の血清型A、B、C1、D、E、FおよびGの軽鎖(LC)に由来し、天然プロテアーゼのタンパク質分解活性の少なくとも0.01%、好ましくは少なくとも50%を示すことを特徴とするタンパク質分解活性断片を含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
プロテアーゼが、コリン作動性運動ニューロン内の規定の基質を特異的に開裂する、請求項28および29に記載の組成物。
【請求項31】
基質が、神経細胞における神経伝達物質の放出に関与しているタンパク質から、および神経細胞内で反応を触媒できるタンパク質から選択される、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
プロテアーゼおよび輸送タンパク質が、エンドペプチダーゼによって特異的に認識され、開裂されるアミノ酸配列によって共有結合している、請求項28および29に記載の組成物。
【請求項33】
アミノ酸配列が配列CXXXZKTKSLVPRGSKBXXC(Xはいずれかの所望のアミノ酸であり、ZおよびBは互いに独立に、アラニン、バリン、セリン、トレオニンおよびグリシンから選択される)を含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
エンドペプチダーゼによる開裂後、ジスルフィド架橋がプロテアーゼと輸送タンパク質を連結し、これが次いで、活性なホロ毒素の形成をもたらす、請求項32に記載の組成物。
【請求項35】
請求項1から22のいずれか一項に記載の輸送タンパク質または請求項23から34のいずれか一項に記載の組成物と、場合によって、製薬上許容される賦形剤、希釈剤および/もしくは添加物とを含有する薬剤組成物。
【請求項36】
ボツリヌス神経毒を用いる療法が指示される障害および疾患を治療するための、請求項35に記載の薬剤組成物の使用。
【請求項37】
障害または疾患が以下:片側顔面痙攣、痙性斜頸、眼瞼痙攣、痙縮、ジストニア、片頭痛、疼痛、頚部および腰椎柱の障害、斜視、流涎過多、いびき、創傷治癒および鬱病性疾患のうち1種である、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
請求項1から22のいずれか一項に記載の輸送タンパク質または請求項23から34のいずれか一項に記載の組成物と、場合によって、化粧品上許容される賦形剤、希釈剤および/もしくは添加物とを含有する化粧料組成物。
【請求項39】
化粧料の適応症、多汗症および顔のしわを治療するための、請求項38に記載の化粧料組成物の使用。
【請求項40】
公知の方法による組換えによる、請求項1から22に記載の輸送タンパク質または請求項23から34に記載の組成物の製造方法。
【請求項41】
−断片の遺伝子を、制限エンドヌクレアーゼのインターフェースを含む2種の核酸によってフランキングし、制限エンドヌクレアーゼのインターフェースがボツリヌス菌神経毒のその他のH−断片のものと適合しており、アミノ酸配列の類似性を保ちながら、それらの容易なモジュラー置換を可能にする、請求項40に記載の輸送タンパク質の製造方法。
【請求項42】
プロテアーゼの遺伝子を、制限エンドヌクレアーゼのインターフェースを含む2種の核酸によってフランキングし、制限エンドヌクレアーゼのインターフェースがボツリヌス菌神経毒のその他のプロテアーゼドメインのものと適合しており、アミノ酸配列の類似性を保ちながら、それらの容易なモジュラー置換を可能にする、請求項40に記載の組成物の製造方法。
【請求項43】
請求項1から22に記載の輸送タンパク質または請求項23から34に記載の組成物をコードする組換え発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項44】
宿主細胞が大腸菌(Escherichia coli)、特に、大腸菌K12、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)または巨大菌(Bacillus megaterium)の細胞であり得る、請求項43に記載の宿主細胞。
【請求項45】
請求項1から22のいずれか一項に記載の輸送タンパク質または請求項23から34のいずれか一項に記載の組成物をコードする核酸を含む発現ベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−538902(P2008−538902A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508152(P2008−508152)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003896
【国際公開番号】WO2006/114308
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(507073088)トキソゲン ゲーエムベーハー (3)
【出願人】(507354219)メルツ ファルマ ゲーエムベーハー アンド カンパニー カーゲーアーアー (1)
【Fターム(参考)】