説明

移動体無線受信装置

【課題】 複数の基地局から同一周波数で同一信号を受信する列車無線システム等の移動局受信装置は、基地局間のほぼ中央に位置した場合、各基地局の送信信号がほぼ同一タイミング、同一振幅で受信することになり、ビート干渉を発生して通信品質が劣化してしまう。
【解決手段】 受信電界強度検出部3と速度検出手段5を有し、制御部4は移動体の速度が一定以下で、一定期間内の受信電界レベル変動が一定値以上の場合にビート干渉が発生しているものと判断し、位置変更手段を用いてアンテナ1の位置を変更する。アンテナ1の位置を変更することで、一定期間内の受信電界レベル変動が一定値以下となり、ビート干渉を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の基地局から同一周波数で同一信号を受信する列車無線移動局等の移動体無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
列車無線システムにおいては、周波数を有効利用するため、複数の基地局にて同一の周波数で同一の信号を同時に送信する複局同時送信方式を採用することが多々ある。
【0003】
この複局同時送信方式を採用した場合、移動局が基地局境界において停止しているにも関わらず受信電界が変動する現象(以下、ビート干渉と称す。)が発生し、伝送品質の劣化が問題となる。
【0004】
図1はビート干渉発生の仕組みを説明するためのシステム構成図、図2はビート干渉発生の仕組みを説明するための概念図、図3はビート干渉時の受信レベル変動を示した図であり、以下、図1〜図3を参照してビート干渉が発生する原理について説明する。
【0005】
図1において、基地局101では、ネットワークからの送信情報401が、ベースバンド変調器(以下、BB変調器と称す。)102に入力され、ベースバンド信号に変換される。BB変調器102により変換されたベースバンド信号は、直接高周波回路(以下、RF回路と称す。)103に入力され、該RF回路103でベースバンド信号を無線周波数の信号に変換し、基地局用アンテナ104から無線送信する。
【0006】
基地局201においても同様に、ネットワークからの送信情報401をBB変調器202にてベースバンド信号に変換し、RF回路203にてベースバンド信号を無線周波数信号に変換し、基地局用アンテナ204から無線送信する。
【0007】
なお、2つの基地局101、201は、複局同時送信方式であるため、同一周波数帯で、同時に同一信号を送信するものとする。
【0008】
移動局301が、基地局101、201のほぼ中間に位置した場合、移動局アンテナ302に、基地局用アンテナ104、204からの送信信号がほぼ同一タイミング、同一振幅で受信されることになる。
【0009】
基地局用アンテナ104から移動局アンテナ302に受信される信号と、基地局用アンテナ204から移動局アンテナ302に受信される信号との位相関係は、基地局101、201と移動局301との間の電波伝搬経路を含む位置関係により決定される。
【0010】
図2(a)は、基地局101と基地局201からの信号が同相の関係で受信した場合を示している。この場合、2つの基地局101、201からの受信信号が合成されるため、合成信号が最大となる。
【0011】
一方、図2(b)は、基地局101と基地局201からの受信信号を逆相の関係で受信した場合を示している。この場合、2つの基地局101、201からの信号が打ち消し合うため、合成信号は消滅してしまう。
【0012】
基地局101のRF回路103で変換する無線周波数と、基地局201のRF回路203で変換する無線周波数の間には、同一周波数と言えども周波数差が存在する。そのため、基地局101、201のほぼ中間に移動局301が位置した場合、基地局101と基地局201の周波数差により、両基地局101、201から到来する信号の位相差が変動し、その結果、図2(a)、(b)の状態が交互に繰り返され、受信信号に図3のように停止しているにも関わらずレベル変動が発生する。これが、ビート干渉と呼ばれる現象である。
【0013】
ビート干渉が発生した場合、大幅な電力変動が生じ、受信レベルが低下する時間割合が大きくなり、結果的に伝送品質が大幅に劣化する。ビート干渉の変動周期は、基地局間の周波数差に依存するため、従来の対策としては、特許文献1に記載されているように、基地局に高価なOCXO(恒温槽付水晶発信器)を搭載し、物理的に周波数差を抑える対策を実施していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭63−26129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の移動体無線受信装置は、基地局にOCXOを搭載し、基地局間の周波数差を抑えることによりビート干渉を抑制するものとしているので、高価であり、また、完全に周波数差をなくすことが困難であった。
【0016】
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でビート干渉を防止することができる移動体無線受信装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明における移動体無線受信装置は、複数の基地局から同一周波数で同一信号を受信する移動体無線受信装置であって、上記基地局から送信される信号を受信するアンテナ、このアンテナの位置を変更する位置変更手段、移動体の速度を検出する速度検出手段、上記アンテナを介して受信する信号の受信電界レベルの変動を検出する受信電界強度検出部、上記速度検出手段の検出する速度が一定値以下で、かつ、上記受信電界強度検出部の検出する一定期間内の受信電界レベルの変動が一定値以上のとき、上記位置変更手段によって上記アンテナの位置を変更する制御部から構成したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、速度検出手段の検出する速度が一定値以下で、かつ、受信電界強度検出部の検出する一定期間内の受信電界レベルの変動が一定値以上のとき、ビート干渉が発生しているものと判断し、位置変更手段によってアンテナの位置を変更するようにしたので、安価な構成でビート干渉を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ビート干渉発生の仕組みを説明するためのシステム構成図である。
【図2】ビート干渉発生の仕組みを説明するための概念図である。
【図3】ビート干渉時の受信レベル変動を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る移動体無線受信装置を示したシステム構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1における動作手順を示したフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態1におけるアンテナの位置変更を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る移動体無線受信装置を示したシステム構成図である。
【図8】本発明の実施の形態2における動作手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態を詳述する。図4は本発明の実施の形態1に係る移動体無線受信装置を示したシステム構成図であり、1は移動体の走行路に沿って複数配置された基地局(図示せず。)から送信された無線信号を受信するアンテナ、2はこのアンテナ1が受信した信号を入力し、ベースバンド信号に変換して復調処理する復調部、3はこの復調部2が復調した信号から受信電界強度を検出する受信電界強度検出部、4はアンテナ1の位置を制御する制御部、5は移動体の移動速度を検出する速度検出手段である。
【0021】
次に、図5のフローチャートに基づいて図4に示した移動体無線受信装置の動作について説明する。即ち、動作が開始すると(S11)、制御部4は速度検出手段5から移動体の速度情報を入力し、移動体が停止又は速度が一定以下かどうかを判断する(S12)。ステップS12の判断で、移動体が一定速度以上で走行していた場合、ステップ16に進んで処理を終了する。ステップS12の判断で、移動体が停止又は速度が一定以下で走行していた場合、制御部4は受信電界強度検出部3から入力する受信電界強度のレベル変動が一定期間内に一定値以上であるかどうかを判断する(S13)。ステップS13の判断で、レベル変動が一定値以下であった場合、ステップ16に進んで処理を終了する。ステップS13の判断で、レベル変動が一定値以上であった場合、制御部4はビート干渉が発生していると判断する。即ち、制御部4は移動体の速度が一定以下で、一定期間内の受信電界レベル変動が一定値以上の場合にビート干渉が発生しているものと判断する。
【0022】
ビート干渉が発生していると判断すると、制御部4は図示しない位置変更手段を用いてアンテナ1の位置を変更する。アンテナ1の位置は図6に示すように前後左右に変更する。また、位置変更する長さは基地局から受信する信号の1波長程度の長さである。
【0023】
そして、ステップS14で左右前後の位置変更が1周終了したかを判断する。ステップS14の判断で、位置変更が1周していた場合、ステップS16に進んで処理を終了する。ステップS14の判断で、1周していなければ、位置変更手段でアンテナ1の位置を変更し、ステップS12へ戻る。このように、アンテナ1の位置を変更することで、一定期間内の受信電界レベル変動が一定値以下となり、ビート干渉を防止することができる。
実施の形態2.
図7は本発明の実施の形態2に係る移動体無線受信装置を示したシステム構成図であり、6は復調部2が復調した信号から同期語を検出する同期語検出部である。なお、その他の構成は図4に示した構成と同様であるから同一符号を付して説明を省略する。
【0024】
次に、図8のフローチャートに基づいて図7に示した移動体無線受信装置の動作について説明する。即ち、動作が開始すると(S21)、制御部4は速度検出手段5から移動体の速度情報を入力し、移動体が停止又は速度が一定以下かどうかを判断する(S22)。ステップS22の判断で、移動体が一定速度以上で走行していた場合、ステップ27に進んで処理を終了する。ステップS22の判断で、移動体が停止又は速度が一定以下で走行していた場合、制御部4は受信電界強度検出部3から入力する受信電界強度のレベル変動が一定期間内に一定値以上であるかどうかを判断する(S23)。ステップS23の判断で、レベル変動が一定値以下であった場合、ステップS27に進んで処理を終了する。
【0025】
ステップS23の判断で、レベル変動が一定値以上であった場合、制御部4は同期語検出部6が同期語を安定して検出しているかを判断する(S24)。ステップS24の判断で、同期語を安定して検出している場合、ステップ27に進んで処理を終了する。ステップS24の判断で、同期語を安定して検出していない場合、制御部4はビート干渉が発生していると判断する。即ち、実施の形態2係る制御部4は移動体の速度が一定以下で、一定期間内の受信電界レベル変動が一定値以上で、かつ、同期語が安定して検出されていない場合にビート干渉が発生しているものと判断する。
【0026】
ビート干渉が発生していると判断すると、制御部4は図示しない位置変更手段を用いてアンテナ1の位置を変更する。アンテナ1の位置は実施の形態1と同様に図6に示すように前後左右に変更する。
【0027】
そして、ステップS25で左右前後の位置変更が1周終了したかを判断する。ステップS25の判断で、位置変更が1周していた場合、ステップS27に進んで処理を終了する。ステップS14の判断で、1周していなければ、位置変更手段でアンテナ1位置を変更し、ステップS22へ戻る。このように、アンテナ1の位置を変更することで、一定期間内の受信電界レベル変動が一定値以下となり、ビート干渉を防止することができる。また、この実施の形態2によれば、同期語を安定して検出しているか、否かを判断することにより、ビート干渉は存在するが、受信レベルが高く安定して受信できている際にアンテナ1の位置を変更することを回避することができる効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、列車無線システム等、複局同時送信方式を採用したシステムの移動体無線受信装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 アンテナ 2 復調部 3 受信電界強度検出部 4 制御部 5 速度検出手段 6 同期語検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局から同一周波数で同一信号を受信する移動体無線受信装置であって、上記基地局から送信される信号を受信するアンテナ、このアンテナの位置を変更する位置変更手段、移動体の速度を検出する速度検出手段、上記アンテナを介して受信する信号の受信電界レベルの変動を検出する受信電界強度検出部、上記速度検出手段の検出する速度が一定値以下で、かつ、上記受信電界強度検出部の検出する一定期間内の受信電界レベルの変動が一定値以上のとき、上記位置変更手段によって上記アンテナの位置を変更する制御部を備えたことを特徴とする移動体無線受信装置。
【請求項2】
複数の基地局から同一周波数で同一信号を受信する移動体無線受信装置であって、上記基地局から送信される信号を受信するアンテナ、このアンテナの位置を変更する位置変更手段、移動体の速度を検出する速度検出手段、上記アンテナを介して受信する信号の受信電界レベルの変動を検出する受信電界強度検出部、上記アンテナを介して受信する信号に含まれる同期語を検出する同期語検出部、上記速度検出手段の検出する速度が一定値以下で、上記受信電界強度検出部の検出する一定期間内の受信電界レベルの変動が一定値以上で、かつ、上記同期語検出部の検出する同期語が安定して検出されないとき、上記位置変更手段によって上記アンテナの位置を変更する制御部を備えたことを特徴とする移動体無線受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−183422(P2010−183422A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26119(P2009−26119)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】