説明

移動体用レーダ及び平面アンテナ

【課題】従来の車載用レーダでは、超分解能法に必要な位相差特性に折り返しが発生し、誤検知の増加、もしくは、極端に方位角検知範囲が狭くなるという問題があった。
【解決手段】送信アレイアンテナ5、受信アレイアンテナ1、2、3はそれぞれアンテナ素子5a〜5d、1a〜1d、2a、3a〜3dから構成され、水平方向に並んで配置され、受信アレイアンテナ1のアンテナ素子1a、1b、1c、1dの受信感度の重み付けはA1、A2、A3、A4でA1≧A2≧A3≧A4と内側から外側へ単調減少となっており、一方、受信アレイアンテナ3は、受信アレイアンテナ2を軸に受信アレイアンテナ1と対称になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体用レーダ及び平面アンテナに係り、特に、車両等の移動体に搭載され、障害物の方位、移動体との相対距離、相対速度等を検出するのに適した移動体用レーダ及び該レーダ用の平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される移動体用レーダに関し、特許文献1には、複数目標の検出を可能にするFM−CWレーダが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、自車の車速が閾値以下の場合に、空間平均検出処理を実行し、受信アンテナが受信したレーダ波の反射波発生元の各ターゲットに関して、ターゲットの方位角を検出する、方位角検出装置が開示されている。
【0004】
さらに、非特許文献1や特許文献3には、複数の受信アンテナを用い、各受信アンテナの振幅/位相の重み付け制御後に指向性合成したアンテナ放射パターンを利用して障害物の方位を検知する、超分解能法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平09−101361号公報
【特許文献2】特開2007−240313号公報
【特許文献3】特開2003−270316号公報
【非特許文献1】科学技術出版、菊間信良著「アレーアンテナによる適応信号処理」、1998年、第174頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ミリ波レーダは雨、霧、雪などの気象条件や、埃、騒音の影響を受け難い全天候型レーダであり、車間距離制御システム(daptive ruise ontrol:ACC)等に最適な車載レーダとして国内外メーカで開発されてきた。近年、各レーダメーカでは、ACCシステムや渋滞追従システム(Stop&Go)に適用する遠距離レーダに加え、近距離レーダの開発が活発に行われている。近距離レーダを応用した車載アプリケーションには、前記に加え、衝突を事前に検知して運転者を保護するためにブレーキとエアバッグを起動させるプリクラッシュシステム、駐車支援システム(Parking Aid)、後側方障害物警報システム(Lane Change DecisionAid Systems:LCDAS)などがあり、今後、大きな市場が期待されている。このようなアプリケーションの多様化と共に車載レーダの高性能化、低コスト化、小型化の要求が高まってきており、特に、障害物の方位角検知の高精度化は大きな課題の一つとなっている。
【0007】
障害物の方位角検知方式は、モノパルス方式、メカスキャン方式、電子ビーム走査方式等が一般的であり、特許文献1に関連する技術が開示されている。しかし、最近では、市場のレーダ性能への要求が高まってきており、障害物の分離分解能に優れた、MUSIC、ESPRITに代表される超分解能法が注目されてきている。この超分解能法に関しては、特許文献3及び非特許文献1に関連する技術が開示されている。
【0008】
ここで、超分解能法の原理について、図16を用いて簡単に説明する。超分解能法では、複数(M個)の受信アンテナ61、62、・・・、6Mを用い、送信アンテナから送信された電波が障害物に反射され各受信アンテナで受信信号Rxとして受信する。各受信アンテナからの受信波Rxに対しては、重み付け部71、72、・・・、7Mで振幅/位相の重み付け制御を行い、さらに、合成部8で指向性合成してアンテナ放射パターンを生成し、このアンテナ放射パターンを利用して障害物の方位を検知する。指向性合成を行なうことで、独立にスキャンできるヌルを(M−1)個生成できる。
【0009】
図17は、3個の受信アンテナを用いた場合の、超分解能法で得られるアンテナ放射パターンの一例である。θ1、θ2にそれぞれアンテナ利得が小さくなる方位角方向(以下ヌル点)ができている。このヌルをスキャンし、障害物の方位角に向けた時に受信信号レベルはゼロになることを利用し、障害物の方位を特定する。ビームに比べ、ヌルは方位角に対し、急峻な特性であるため、高い方位分解能が得られる。すなわち、2つの障害物がθ1、θ2方向にあれば、受信信号レベルはゼロになる。逆にそれ以外ではゼロにならないので、障害物の方位が特定できる。以上のようにこの超分解能法によれば、M個の受信アンテナで、(M−1)個の障害物を分離して方位検知できる。
【0010】
ところで、車両の走行状態によっては、自車の前方等に、同一相対速度の複数の車両が存在する場合が発生する。2つの受信アンテナの受信信号の位相差から障害物方位を特定するモノパルス方式を用いたレーダでは、このような走行状態において、複数の車両を正確に検知できない場合が発生する。
【0011】
図18により、モノパルス方式を用いたレーダで正確な検知が難しいケースを説明する。車両の距離と速度を計測するために、レーダ変調方式は2周波CW方式を用いている。(なお、類似のケースについて特許文献2でも論じられている。)自車両33はレーダ34を搭載して走行しており、前方の2つの車両35、36は自車両33に対する相対速度が同一である。車両35、36で反射して戻ってくる受信信号のドップラーシフト周波数は同じ値となるため、周波数スペクトルを観測した場合、両者の周波数ピークは重なる。この場合、検出される受信信号は車両35による反射波と車両36による反射波の合成波となるため、モノパルス方式では原理的に両者の中心付近39の位置に計測値が出力される。
【0012】
一方、超分解能法を用いたレーダでは、同一相対速度の複数車両が存在する場合であっても複数のヌルを利用して位置37、38と分離して検知できる。
【0013】
なお、超分解能法によれば、同一相対速度の複数の車両が存在する場合に限らず、ETCゲート等の左右障害物があるケース、トンネル内など複数マルチパスが存在するケース等でも、正確なターゲットの検知が可能である。
【0014】
ただし、この超分解能法は位相情報を利用する為、以下に説明する位相の折り返しという問題がある。ここでは、図16の受信アンテナ61、62間の位相差(Δφ)に焦点を当てて説明する。
【0015】
図16において、アンテナ面の法線方向に対してθの角度に存在する障害物からの反射波を2つの受信アンテナ61、62で受信した時に、それぞれの受信信号間には位相差(Δφ)が生じ、下式(1)で表される。ここでDは受信アンテナ間距離、λは自由空間波長を表す。
【0016】
【数1】

図19に、信号の到来方位角θと位相差Δφの関係を示す。ここで、−θs≦θ≦+θsの方位角範囲において、障害物からの反射波を受信信号として認識可能なレベルのSN比が取れているとする。レーダ搭載位置が車体前面であることからθs≦90[度]とおけるが、厳密には送信アンテナ、受信アンテナのそれぞれのビーム幅や、送信出力、受信機の利得、ノイズレベル、障害物の散乱断面積等によって決まる。位相差Δφは±180度を超えると折り返しが生じるが、−θd≦θ≦+θdの範囲であれば一義的に信号の到来方位角が特定できる。この時、受信アンテナ間距離Dを小さくすることで折り返しの出始める方位角をθsに近づけることができ、方位角検知範囲を容易に広げられる。もしくは、配列された複数の受信アンテナの中から、複数個を一つの受信アンテナグループとして、グループの一部が重なるように選択していけば、等価的に受信アンテナグループ間距離は小さくできる。
【0017】
ところが、高利得かつ狭いビーム幅が要求される遠距離レーダの場合は、受信アンテナ面積増大に伴う受信アンテナ間距離D増加により、図20のように折り返しが発生する。折り返しが発生すると、1つの位相差の値Δφに対し複数の方位の値θが対応してしまい、誤検知の増加、もしくは、極端に方位角検知範囲が狭くなるという問題があった。また、この問題は上述したアンテナグループ化により解決するが、必然的に受信アンテナ数は増え、受信回路素子数の増加による高コスト化が避けられない。
【0018】
本発明は、上記のような従来のモノパルス方式7超分解能法における問題点を解消するためになされたものである。
【0019】
本発明の目的は、少ない部品点数で、ビームを狭角化しつつ広角な方位角検知範囲を実現し、正確かつ高分解能の方位検知性能を持つ移動体用レーダ及び該レーダ用の平面アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明の移動体用レーダは、平面アンテナと送受信ユニットとを備え、前記平面アンテナは、少なくとも一つの送信アレイアンテナと3つ以上の受信アレイアンテナを備えて成り、前記3つ以上の受信アレイアンテナは水平方向に並んで配置され、前記受信アレイアンテナは、両端に位置する前記受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数が、他の前記受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多く、前記両端に位置する受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けは、最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方が小さく、前記送信アレイアンテナから送信された電波が少なくとも一つの障害物に反射され前記各受信アレイアンテナで受信された各受信信号に対し、送受信ユニットにおいて、前記振幅/位相の重み付けをして指向性合成し、ヌル又は低感度となる方位角をスキャンすることで前記少なくとも一つの障害物の方位を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ビーム狭角化の為にアンテナ素子が増えても受信アンテナ間距離を小さく維持でき、受信信号の位相差の折り返しを低減できる。また、最内のアンテナ素子と、最外のアンテナ素子の位相特性が反転することから、さらに位相差の折り返しを抑制できる。結果、少ない部品点数で、ビームを狭角化しつつ広角な方位角検知範囲を実現し、正確かつ高分解能の方位検知が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の代表的な実施例の移動体用レーダによれば、車両等の移動体に搭載され、少なくとも一つの送信アレイアンテナと3つ以上の受信アレイアンテナを備え、前記送信アレイアンテナから送信された電波が少なくとも一つの障害物に反射され前記受信アレイアンテナで受信信号として受信され、前記受信アレイアンテナを振幅/位相の重み付けをして指向性合成し、ヌル又は低感度となる方位角をスキャンすることで少なくとも一つの障害物の方位を特定する。そして、前記受信アレイアンテナは水平方向に並んで配置され、両端の受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数が他の受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多く、前記両端の受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けが最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方を小さくなるよう構成している。
【0023】
これにより、ビーム狭角化の為にアンテナ素子が増えても受信アンテナ間距離を小さく維持でき、受信信号の位相差の折り返しを低減できる。また、最内のアンテナ素子と、最外のアンテナ素子の位相特性が反転することから、さらに位相差の折り返しを抑制できる。結果、少ない部品点数で、ビームを狭角化しつつ広角な方位角検知範囲を実現し、正確かつ高分解能の方位検知が可能となる。
【0024】
また、他の実施例の移動体用レーダによれば、受信アレイアンテナは水平方向に並んで配置され、両端の受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けが最内のアンテナ素子から、最外のアンテナ素子まで単調減少となるよう構成している。これにより、効果的に位相差の折り返しを抑制することができる。
【0025】
また、他の実施例の移動体用レーダによれば、受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記受信アレイアンテナと同一の誘電体基板上の伝送線路で構成された電力分配器で行っている。これにより、プリント基板の技術で加工できるので、さらに低コスト化できる。
【0026】
以下、本発明の移動体用レーダの実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
まず、本発明の第1の実施形態を、図1〜図6を用いて説明する。図1の(A)は第1の実施形態になる移動体用レーダの構成の概念図である。(B)は(A)に示した移動体用レーダのアンテナ素子座標と相対受信感度の関係を示す図である。
【0028】
図1の(A)において、車載用レーダは、一つの送信アレイアンテナ5と3つ受信アレイアンテナ1、2、3を有する平面アンテナと、送受信ユニット15とを備えている。送信アレイアンテナから送信された電波は、少なくとも一つの障害物に反射され受信アレイアンテナ1、2、3で受信信号として受信される。平面アンテナの受信アレイアンテナ1、2、3は水平方向に並んで配置されている。なお、θは方位角を表す。
【0029】
送受信ユニット15の発振器10で生成されたミリ波信号は、2周波CW方式あるいはFMCW方式等により周波数変調された送信信号となり、電力増幅器9を経て平面アンテナの送信アレイアンテナ5に加えられる。この送信信号は、送信アレイアンテナ5から放射され、先行車両等の障害物で反射され、受信アレイアンテナ1〜3で受信される。送受信ユニット15において、受信信号S1〜S3はそれぞれミキサ11a〜11cに加えられ発振器10の出力信号と混合され、中間周波信号に変換される。さらに、この中間周波信号が低雑音増幅器12a〜12cで増幅され、AD変換器13a〜13cを介して信号処理回路(DTM)14に入力される。この信号処理回路14において、各受信アレイアンテナの振幅/位相の重み付け制御後に指向性合成したアンテナ放射パターンを生成し、独立に2つのヌルをスキャンし、障害物の方位を検出する。なお、信号処理回路14は、CPUやメモリ及びプログラムを保持するデータプロセッサにより構成され、高速フーリエ変換(FFT)処理、ピークサーチ処理、ターゲット位置算出、物体追跡処理等の機能を備えている。この信号処理回路の各機能は、各種プログラムに基づく演算処理をCPUで実行することにより得られる。すなわち、信号処理回路14は、送信アレイアンテナから送信された電波が少なくとも一つの障害物に反射され3つの受信アレイアンテナで受信信号として受信され、各受信信号に対して振幅/位相の重み付けをして指向性合成し、ヌル又は低感度となる方位角をスキャンすることで、少なくとも一つの障害物の方位を特定する。なお、本実施例の信号処理回路14では、超分解能法等により指向性合成したアンテナ放射パターンを利用して、障害物の方位を検知する処理がなされるものとして説明する。
【0030】
送信アレイアンテナ5、受信アレイアンテナ1、2、3はそれぞれアンテナ素子5a〜5d、1a〜1d、2a、3a〜3dから構成され、水平方向に並んで配置される。
【0031】
図1の(B)に示すように、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子(1a〜1d,3a〜3d)の数は、中央の受信アレイアンテナ2のアンテナ素子(2a)の数よりも多い。また、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向の受信感度の重み付け(A1〜A4)は、最内のアンテナ素子(1a,3a)よりも、最外のアンテナ素子(1d,3d)の方が小さい。
【0032】
すなわち、受信アレイアンテナ1のアンテナ素子1a、1b、1c、1dの受信感度の重み付けはA1、A2、A3、A4でA1≧A2≧A3≧A4と内側から外側へ単調減少となっており、受信アレイアンテナ2からの距離はd1、d2、d3、d4となっている。一方、受信アレイアンテナ3の受信感度の重み付けと距離は、受信アレイアンテナ2を軸(素子座標=0)に受信アレイアンテナ1と対称の関係になっている。また、本実施例では、受信アレイアンテナ2の素子2aの受信感度は、受信アレイアンテナ1のアンテナ素子1a及び受信アレイアンテナ3のd1の受信感度A1に等しい。ただ、受信アレイアンテナ2の素子2aの受信感度は、受信アレイアンテナ1のアンテナ素子1aや受信アレイアンテナ3のd1の受信感度と同じである必要はなく、用途に応じて、大きくしたり小さくしても良い。但し、少なくとも、最外のアンテナ素子(1d,3d)の受信感度よりは大きい事が必要である。(以下の実施例でも同様)。
【0033】
本実施例において、送受信ユニット15で、受信信号S1〜S3から障害物の方位を検出する信号処理の一例を、図2(図2A、図2B)を用いて簡単に説明する。
【0034】
信号処理回路では、3つの受信アンテナでの受信信号S1〜S3の合成によりできるヌル点を、各信号の位相操作によりスキャンし、合成受信電力が最小となる点を検索することで、ターゲット位置を決定する。まず、図2Aに破線で示すターゲットAの方向にヌルを向けるような、2つの受信アンテナによる方位角特性パターン(ビームパターン)X12,X23を作る。これは、式(2),(3)で表される。
【0035】
【数2】

このときX12,X23は、ターゲットBからの反射波だけを受信している状態を示している。
【0036】
次に、次式(4)を用いて、上記2つのビームパターンでヌル点を作る処理、換言すると、θをスキャンしたときにYが最小となるθ0を求める処理を行う。
【0037】
【数3】

これらの処理により、図2Bに破線で示す方向にヌル点が2つできる。ヌル点が各ターゲットを向いている時(θA,θB)は、ターゲットA,Bの反射波を受信していない状態である。
【0038】
なお、実際の処理ではアンテナゲインの校正などの処理が追加される。
この超分解能法による信号処理の詳細に関しては、非特許文献1や特許文献3の記載を援用する。
【0039】
本発明によれば、以下に述べる通り、アンテナ素子数が増えても、受信アレイアンテナ1、2及び2、3の等価的な受信アンテナ間距離を小さく維持でき、受信信号の位相差の折り返しを低減できる。また、最内のアンテナ素子1aと、それ以外のアンテナ素子1b〜1dの位相特性が反転することから、さらに受信アレイアンテナ1、2間の位相差の折り返しを抑制できる。受信アレイアンテナ2、3間についても同様である。
【0040】
なお、送信アレイアンテナ5のアンテナ素子5a〜5dについても、中央側の素子5b、5cに比べ外側の素子5a、5dの重み付けを小さくすることで、水平方向のサイドローブを低減したアンテナ放射パターンを得ることができる。
【0041】
もちろん、所望の方位角検知範囲で十分なSN比がとれるアンテナ放射パターンにできる範囲内でパラメータは可変であるし、アンテナ素子数を増減させることも問題ない。
【0042】
以下、本発明により受信信号の位相差の折り返しを低減できる理由について、説明する。
【0043】
まず、図1に示すパラメータを用い、受信アレイアンテナ1、2の位相差Δφ21(=φ−φ)を計算すると以下の式(5),(6)のようになる。
【0044】
【数4】

【0045】
【数5】

アンテナ素子間の相互結合は無視しており、各アンテナ素子は同位相とする。
【0046】
図3は、上式を用いた位相差特性の計算結果であり、
位相差曲線16は、受信感度の重み付けが単調減少の場合(A=1.0、A=0.9、A=0.4、A=0.1、d=0.69/λ、d=1.38/λ、d=2.07/λ、d=2.76/λ)、
位相差曲線17は、4素子が全て同感度の場合(A=A=A=A=1.0、d=0.69/λ、d=1.38/λ、d=2.07/λ、d=2.76/λ)、
位相差曲線18は、1素子のみの場合(A=1.0、A=A=A=0、d1=0.5/λ)を、各々示している。
【0047】
位相差曲線17は、−90度〜+90度の範囲で複数回(6回)の折り返しが発生し、1つの位相差の値Δφ21に対し複数の方位の値θが対応し、必要な方位角検知範囲が得られない。また、位相差曲線18は−90度〜+90度の範囲内で折り返しが無く理想的に見えるが、曲線の傾きが小さい為、高い方位分解能が得られない。
【0048】
これらに対し、位相差曲線16は、−45度〜+45度の範囲で折り返しが無く、少なくとも−25度〜+25度の範囲で方位角検知が可能である。さらに曲線の傾きが大きい為、高い方位分解能が得られる。
【0049】
また、受信アレイアンテナ2、3の位相差Δφ23(=φ−φ)についても、
Δφ23=−Δφ21の関係となるので、同様に議論できる。
【0050】
ここで、折り返し低減の原理について説明する。図3においてθa<θ<90[度]の範囲で折り返しが無い為には、Δφ21≒−180[度]である必要があり、これを式(5)に代入し、展開すると以下の式(7)が得られる。
【0051】
【数6】

つまり、θa<θ<90[度]の範囲でf(θ)→0となるようにA〜A
〜dを選べば、折り返しは低減できることになる。
【0052】
図4は、図3中の位相差特性16の場合の、各アンテナ素子のf(θ)への影響を示しており、特性曲線20〜23はそれぞれ式(7)の第1項〜第4項の関数であり、即ち、アンテナ素子1a〜1dに相当する。θa<θ<90[度]の範囲で、特性曲線20と22の和と、特性曲線21と23の和が反転する様に働いており、結果、θa<θ<90[度]の範囲でf(θ)を表す特性曲線19がゼロに近い値になっていることが分かる。このようにして、θa<θ<90[度]の範囲で折り返しは低減される。方位角θが負の範囲についても、同様である。
【0053】
上述した3例についてのアンテナ放射パターンの計算結果を、図5に示す。受信感度の重み付けが単調減少の場合のθ=0のアンテナゲインを0dBとして規格化している。なお、計算には下式(8)を用いている。
【0054】
【数7】

ここで、e(θ)は素子指向性で、計算には標準的なマイクロストリップパッチアンテナを用いている。アンテナ素子間の相互結合は無視しており、各アンテナ素子は同位相とする。
【0055】
4素子が全て同感度の場合のゲイン曲線25は正面方向のアンテナゲインは最大となるが、サイドローブが高い。また、1素子のみの場合のゲイン曲線26はアンテナゲインが低く、ビーム幅が広い。これらに対し、本願発明により得られるゲイン曲線、すなわち、受信感度の重み付けが単調減少の場合のゲイン曲線24は、ゲイン曲線25よりもわずかにアンテナゲインが低いが、上述したように位相の折り返しが低減できるので有効である。
【0056】
次に、第1の実施形態における平面アンテナのより具体的な構成例について、図6(6A,6B)で説明する。図6Aは、第1の実施形態に用いているマイクロストリップパッチアンテナ(1〜5)の平面図である。図6Bは、図6Aの受信アレイアンテナの一部拡大縦断面を示す図である。図6Aのx軸が水平方向、z軸が天地方向を示している。
【0057】
平面アンテナは、共通の誘電体基板31上に、送信アレイアンテナ5、受信アレイアンテナ1、2、3の各アンテナ素子が天地方向にアレー化されている。すなわち、送信アレイアンテナ5、受信アレイアンテナ1、2、3は、天地方向に列を成すアンテナ素子列5a〜5d、1a〜1d、2a、3a〜3dによって構成されている。なお、受信アレイアンテナに関し、図5までは、アンテナ素子列ではなくアンテナ素子として説明していたが、車載用レーダ用途で求められる仰角方向の狭ビーム化や低サイドローブ化に対しては、天地方向にアレー化することが一般的であるため、図6以下ではアンテナ素子列として説明する。
【0058】
各アンテナ素子列1〜5は、複数のパッチ素子27に接続されたマイクロストリップ線路28、29により同位相で直列給電される。給電点30a〜30dは、送受信ユニット15の回路素子側とのインターフェースである。誘電体基板31は、数百ミクロンの薄い基板なので、アンテナプレート100で保持している。
【0059】
誘電体基板29の裏面には、接地導体101が積層されている。アンテナプレート100には、その裏面の送受信ユニットから各給電点30a〜30d及びマイクロストリップ線路28、29を経て各アンテナ素子へ直列給電するための同軸線路102、103、104が設けられている。
【0060】
平面アンテナの受信感度の重み付けは、水平方向に伸びているマイクロストリップ線路29から見たアンテナ素子列1a〜1dの入力インピーダンスの比率で決まるので、マイクロストリップ線路29の幅を適宜変えるだけで容易にこれを実現できる。
【0061】
上述した受信感度の重み付けは、水平方向に伸びているマイクロストリップ線路29から見たアンテナ素子列3a〜3dの入力インピーダンスの比率で決まるので、マイクロストリップ線路29の幅を適宜変えるだけで容易にできる。もちろん、アンテナ素子自身のサイズを変えて実現してもよい。
【0062】
図7Aは、受信感度の重み付けのために、マイクロストリップ線路29の幅を変えたパターンの一例を概念的に示す図である。図7Aにおいて、Zi1、A1はアンテナ素子列1a〜1cとストリップ線路29を合成した入力インピーダンスと給電電力、Zai、Aaiはアンテナ素子列1aの入力インピーダンス及び給電電力、Zi2、Ai2はアンテナ素子列1b〜1cとストリップ線路29を合成した入力インピーダンスと給電電力、Zbi、Abiはアンテナ素子列1bの入力インピーダンス及び感度、Zi3、Ai3はアンテナ素子列1cとストリップ線路29を合成した入力インピーダンス及び感度、Zci、Aciはアンテナ素子列1cの入力インピーダンス及び感度を示す。さらに、Zi4、Ai4はアンテナ素子列1dとストリップ線路29を合成した入力インピーダンス及び感度、Zdi、Adiはアンテナ素子列1cの入力インピーダンス及び感度を示す。各線路幅を変え、各インピーダンス間のマッチングをとることで、所定の重み付けが得られる。
【0063】
なお、平面アンテナの受信感度の重み付けを、アンテナ素子(パッチ素子27)自身の平面サイズを変えて実現してもよい。図7Bに示した矩形のアンテナ素子27で、水平方向の幅を変えると周波数fが変わり、天地方向の高さを変えるとインピーダンスmが変わる。
【0064】
アンテナの素子例えば、受信感度の重み付けが単調減少の場合、それに対応させて各アンテナ素子の平面パターンのサイズを順次減少させればよい。また、アンテナ素子として、円形など他のパターンの素子を用いても良いことは言うまでもない。
【0065】
上述したとおり、本アンテナはプリント基板の技術で加工でき、回路素子や信号処理部に関しても一般的な構成であるので、小型軽量かつ低コストで、部品点数やデータ更新周期を増やさずに狭角ビームを持つ正確な方位角検知が可能な車載用レーダを得ることができる。
【0066】
また、本実施例では受信アレイアンテナ1、3は4素子で説明したが、3つ以上であれば同様の効果が得られ、素子数が多いほど、折り返し低減の効果は大きい。なお、受信アレイアンテナがn素子の場合の位相差Δφ21(=−Δφ23)とアンテナ放射パターンf(θ)は下式(9),(10)で表される。
【0067】
【数8】

【0068】
【数9】

もちろん、受信アレイアンテナ2の素子数も増やしても良いが、受信アレイアンテナ間距離が必然的に広がる為、位相の折り返しが出ない程度という制約条件が付く。
【0069】
なお、本発明の構成を用いれば、通常の位相比較モノパルス方式の角度検知も可能であり、1つの障害物を検知すべき時に適用できる。
【実施例2】
【0070】
本発明の第1の実施形態では、1つの受信アレイアンテナを中心として複数の受信アレイアンテナを左右2つのグループに分けたが、2つの受信アレイアンテナ間に境界線を設けて複数の受信アレイアンテナを左右2つのグループに分けても良い。
【0071】
図8は本発明による移動体用レーダの第2の実施形態を表す構成図である。図8の(A)は第2の実施形態になる移動体用レーダの構成の概念図であり、(B)は(A)に示した移動体用レーダのアンテナ素子座標と相対受信感度の関係を示す図である。発振器10で生成されたミリ波信号は電力増幅器9を経て送信アレイアンテナ5に加えられる。送信アレイアンテナ5から放射された送信信号は、障害物で反射され、受信アレイアンテナ1〜4で受信される。受信信号S1〜S4はそれぞれミキサ11a〜11dに加えられ発振器10の出力信号と混合され、中間周波信号に変換され、低雑音増幅器12a〜12dで増幅され、AD変換器13a〜13dを介して信号処理回路14に入力される。この信号処理回路14において、各受信アレイアンテナの振幅/位相の重み付け制御後に指向性合成したアンテナ放射パターンを生成し、独立に3つのヌルをスキャンし、障害物の方位を検出する。
【0072】
送信アレイアンテナ5、受信アレイアンテナ1、2、4、3は、それぞれアンテナ素子5a〜5d、1a〜1d、2a、4a、3a〜3dから構成され、水平方向に並んで配置されている。この実施例でも、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子数(実施例では4個)が、中央側の受信アレイアンテナ2、4の水平方向に配列されたアンテナ素子数(実施例では各1個)よりも多い。また、受信アレイアンテナ1のアンテナ素子1a、1b、1c、1dの受信感度の重み付けは、A1、A2、A3、A4でA1≧A2≧A3≧A4と内側から外側へ単調減少となっており、受信アレイアンテナ2、4の中間点からの距離はd1、d2、d3、d4となっている。また、受信アレイアンテナ2、4の中間点(0)から受信アレイアンテナ2までの距離はdcとなっている。
【0073】
一方、受信アレイアンテナ3、4の受信感度の重み付けと距離は、受信アレイアンテナ2、4の中間点を軸に受信アレイアンテナ2、1と対称の関係になっている。
【0074】
換言すると、4つの受信アレイアンテナが水平方向に並んで配置され、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子数が中央側の受信アレイアンテナ2、4の水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多く、中央側の2つの受信アレイアンテナ2、4間に境界線を設けて受信アレイアンテナを2つのグループ(1と2,3と4)に分けた時に、両端の受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けが最内のアンテナ素子(1a,3a)よりも、最外のアンテナ素子(1d,3d)の方が小さい。また、中央側のアンテナ素子(1a,2,3a,4a)の受信感度の重み付けは等しい。
【0075】
以上の構成により、等価的な受信アンテナ間距離を小さく維持できることと、アンテナ素子間の位相の打ち消しにより、受信アレイアンテナ1、2間と受信アレイアンテナ3、4間の位相差特性の折り返しを低減できる。
【0076】
本実施例は4つの受信アレイアンテナを備えており、最大3つの等速障害物を分離検知できる。なお、本実施例では受信アレイアンテナ1〜4は4素子で説明したが、4素子以上であれば同様の効果が得られ、素子数が多いほど、折り返し低減の効果は大きい。
【0077】
2つの等速障害物を分離検知したい場合は、4つの受信アレイアンテナから3つを選択して実施例1と同様の処理を行っても良い。もちろん、1つの障害物を検知したい場合には、通常の位相比較モノパルス方式の角度検知を適用することもできる。
【実施例3】
【0078】
本発明は、4つ以上の等速障害物を分離して検知したい場合、即ち、5つ以上の受信アレイアンテナが必要な場合にも適用できる。
【0079】
図9は本発明による移動体用レーダの第3の実施形態を表す構成図である。図9の(A)は第3の実施形態になる移動体用レーダの構成の概念図であり、(B)は(A)に示した移動体用レーダのアンテナ素子座標と相対受信感度の関係を示す図である。送信アレイアンテナ5、受信アレイアンテナ1、2、6、4、3は、それぞれアンテナ素子5a〜5d、1a〜1d、2a、6a、4a、3a〜3dから構成され、水平方向に並んで配置されている。この実施例でも、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子数(実施例では4個)が、中央側の受信アレイアンテナ2、6、4の水平方向に配列されたアンテナ素子数(実施例では各1個)よりも多い。また、受信アレイアンテナ1のアンテナ素子1a、1b、1c、1dの受信感度の重み付けは、A1、A2、A3、A4でA1≧A2≧A3≧A4と内側から外側へ単調減少となっており、受信アレイアンテナ2からの距離はd1、d2、d3、d4となっている。また、受信アレイアンテナ2、6の中間点(0)から受信アレイアンテナ2までの距離はdcとなっている。
【0080】
一方、受信アレイアンテナ3、4の受信感度の重み付けと距離は、受信アレイアンテナ2、6の中間点(0)を軸に受信アレイアンテナ2、1と対称の関係になっている。
【0081】
送信アレイアンテナ5から放射された送信信号は、障害物で反射され、受信アレイアンテナ1〜4で受信される。受信信号S1〜S4,S6はそれぞれミキサ11a〜11eに加えられ発振器10の出力信号と混合され、中間周波信号に変換され、低雑音増幅器12a〜12eで増幅され、AD変換器13a〜13eを介して信号処理回路14に入力される。この信号処理回路14において、各受信アレイアンテナの振幅/位相の重み付け制御後に指向性合成したアンテナ放射パターンを生成し、ヌルをスキャンし、障害物の方位を検出する。
【0082】
以上の構成により、等価的な受信アンテナ間距離を小さく維持できることと、アンテナ素子間の位相の打ち消しにより、受信アレイアンテナ1、2間と受信アレイアンテナ3、4間の位相差特性の折り返しを低減できる。
【0083】
本実施例では、図10に示すように、信号処理回路(DTM)14が、指向性合成回路141備えており、1個の受信アレイアンテナ素子1a〜1d、2a、6a、4a、3a〜3dの各信号の指向性合成処理を行う。
【0084】
例えば、(a)のように、受信アレイアンテナ素子の信号の選択を、[4,1,1,1,4]の5グループとすることで、合計5つの受信アレイアンテナ信号から4つの等速障害物を分離検知できる。一方、(b)のように、受信アレイアンテナ素子の信号の選択を、指向性合成することで[5(素子1a〜1d、2a),1(6a),5(4a、3a〜3d)]の3グループとすることにより、2つの等速障害物を分離検知できる。もちろん、1つの障害物を検知したい場合には、通常の位相比較モノパルス方式の角度検知を適用することもできる。
【実施例4】
【0085】
本発明の第1の実施例として直列給電の例を説明したが、並列給電でも同様に、マイクロストリップ線路の幅を変えて受信感度の重み付けができる。図11(10A,10B)に、本発明の第4の実施例として並列給電に適用した実施例の概念図を示す。図11Aは、第4の実施例におけるアンテナの平面図、図11Bは、図11Aの受信アレイアンテナの一部の拡大縦断面を示す図である。
【0086】
アンテナユニットの平面アンテナは、上記第1実施例と同様、マトリクス状に複数のパッチを含むアンテナ素子が配置された上層誘電体基板、下層誘電体基板、及び給電端子30b、30cから全てのアンテナ素子27までの線路長が等しくなるように設定された並列給電線路32が積層して設けられている。各アンテナ素子27には同一位置に給電点が設定されこれらの給電点と並列給電線路32とは、夫々、両誘電体基板を貫通するビアホールで接続されている。そして、上、下層の誘電体基板間には、アンテナ素子27と並列給電線路32及び接地導体との間でマイクロストリップ線路が形成されている。
【0087】
この実施例では、3つの受信アレイアンテナが水平方向に並んで配置され、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子数が中央の受信アレイアンテナ2の水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多い。また、図7Aに示したように、マイクロストリップ線路の幅を変えることで、受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを行うことができる。
【0088】
本実施例によれば、アンテナユニットのアンテナ面積(水平方向のアンテナ長)が増えても受信アンテナ間距離を小さく維持でき、受信信号の位相差の折り返しを低減できる。そのため、部品点数を増やすことなく、狭角ビームを持ち正確な方位角検知を可能とする移動体用レーダ及びレーダ用アンテナを提供することができる。
【0089】
また、ここでは単層誘電体基板のマイクロストリップパッチアンテナを例に挙げたが、放射素子と給電線路が別層に構成される多層マイクロストリップパッチアンテナや、トリプレートアンテナ、スロットアンテナのような平面アンテナであれば、同様の効果が得られる。
【実施例5】
【0090】
本発明において、受信感度の重み付けは必ずしも単調減少でなくても良い。図12、図13に、受信感度の重み付けが単調減少ではない場合の実施例を示す。
【0091】
図12は本発明による移動体用レーダの第5の実施形態を表す構成図であり、(A)は第3の実施形態になる移動体用レーダの構成の概念図であり、(B)は(A)に示した移動体用レーダのアンテナ素子座標と相対受信感度の関係を示す図である。
【0092】
この実施例でも、3つの受信アレイアンテナが水平方向に並んで配置され、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子数が中央の受信アレイアンテナ2の水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多い。
【0093】
図12の(B)に示すように、受信アレイアンテナ1のアンテナ素子1a、1b、1c、1dの受信感度の重み付けは、A2,A1,A3,A4となっている。受信アレイアンテナ2からの距離はd1、d2、d3、d4となっている。この例では、内側から外側へ単調減少とはなっていない。この実施例で大事な事は、最内側と最外側のアンテナ素子1a、1dが、A2>A4の関係にあることである。一方、受信アレイアンテナ3の受信感度の重み付けと距離は、受信アレイアンテナ2を軸に受信アレイアンテナ1と対称の関係になっている。
【0094】
図13は、実施例5における、上式(5)に基づく位相差特性を示すものである。この例では、受信感度の重み付けが単調減少でないため、図4の場合とは異なり式(7)の第1項、第2項、第3項の関数が、θa<θ<90[度]の範囲で、特性曲線20と22の和と、特性曲線21と23の和が反転する様に働きfT(θ)を表す特性曲線17がゼロに漸近しているものの、折り返しの低減は十分ではない。そのため、受信アレイアンテナの受信信号S1、S3のデータ取得の対象を折り返しの無い位相差Δφbcの範囲内に制限する、あるいは−θdc≦θ≦+θdbの範囲内に制限する。これにより、例えば−20度〜+20度の範囲で正確な方位角検知が可能であり、かつこの範囲では曲線の傾きも大きい為、高い方位分解能が得られる。この実施例によれば、実施例1よりも角度範囲は狭くなるが、実施例1に準じた効果が得られる。
【実施例6】
【0095】
本発明の実施例として、アンテナに素子数の少ない平面アンテナを用いる場合は、誘電体レンズやレドームと平面アンテナを組み合わせて使用するのが望ましい。図14に、実施形態6としてアンテナに天地方向の素子数が1つの場合の具体的な構成例を示す。この実施例でも、3つの受信アレイアンテナが水平方向に並んで配置され、両端の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子数が中央の受信アレイアンテナ2の水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多い。
【0096】
図14Aは、本実施例の車載レーダの構成概念を示す縦断図であり、図14Bは、その平面アンテナの構成概念を示す平面図である。車載レーダは、発振器や混合器等の送受信ユニット(能動回路)と平面アンテナとが同一の接地板37の同じ側に一体形成されてMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)チップに構成されている。各アンテナには同一平面内の能動回路の素子からマイクロストリップ線路等の電力分配器を通じて給電する。そして、このMMICチップを樹脂パッケージ35で封止すると共に、受信アンテナの上方に誘電体レンズ36を装着し、レンズと樹脂パッケージとを一体形成する。受信感度の重み付けはマイクロストリップ線路等の電力分配器で行なう。特に、このアンテナをMMIC上に構成する場合などは、MMICの面積がコストに比例するため、素子数の少ないアンテナを利用するのがコスト面では有利である。
【実施例7】
【0097】
本発明の受信アンテナは、左右各々複数対のアレイアンテナで構成されていても良い。図15は本発明による移動体用レーダの第7の実施形態を表す構成図である。発振器10で生成されたミリ波信号は電力増幅器9を経て送信アレイアンテナ5に加えられる。送信アレイアンテナ5から放射された送信信号は、標的で反射され、受信アレイアンテナ1〜3,7,8で受信される。受信信号S1〜S3,S7,S8はそれぞれミキサ11a〜11eに加えられ発振器10の出力信号と混合され、中間周波信号に変換され、低雑音増幅器12a〜12eで増幅され、AD変換器13a〜113eを介して信号処理回路14に入力される。
【0098】
5つの送信アレイアンテナ5、5つの受信アレイアンテナ1〜3,7,8は平面アンテナでそれぞれアンテナ素子5a〜5f、1a〜1c、2a〜2c、3a〜3c、7a〜7c、8a〜8cから構成され、接地板101上に水平方向に並んで配置される。両端の受信アレイアンテナ7、8の水平方向に配列されたアンテナ素子数は、中央の受信アレイアンテナ2の水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多い。また、中間の受信アレイアンテナ1、3の水平方向に配列されたアンテナ素子数も、中央の受信アレイアンテナ2の水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多い。
【0099】
受信アレイアンテナ1、7のアンテナ素子及び受信アレイアンテナ3,8のアンテナ素子の受信感度の重み付けは、内側から外側へ単調減少となっており、受信アレイアンテナ2からの距離はd1、d2、d3、d4、d5、d6となっている。なお、受信アレイアンテナ内の素子間の重み付けは実施例1と同様に入力インピーダンスの比率により行うが、受信アレイアンテナ間、例えば受信アレイアンテナ1と受信アレイアンテナ3間の受信感度の重み付けは信号処理回路内でデジタル的に行ってもよい。
【0100】
上記のようなデジタル制御は、受信アレイアンテナ間の干渉除去や、周囲環境からの不要波除去の為のキャリブレーション手段としても用いることができる。
【0101】
従って、等価的な受信アンテナ間距離を小さく維持できることと、アンテナ素子間の位相の打ち消しにより、複数の受信アレイアンテナの合成によって得られる位相差特性の折り返しを低減できる。また、これらの位相差特性の連立方程式を解くことにより、方位角精度を向上させることができる。受信アレイアンテナ1と受信アレイアンテナ7による位相差特性は折り返しが生ずるので個々の連立方程式は誤差を含むが、上記連立方程式の個数を増やすことで精度が高まり、方位角精度向上に貢献できる。
【0102】
また、本実施例では受信アレイアンテナ1〜3,7,8は各々3素子で説明したが、複数であれば同様の効果が得られ、素子数が多いほど、折り返し低減の効果は大きい。また、受信アレイアンテナ1、3と受信アレイアンテナ7、8の素子数を異ならせることで多様な位相差特性が得られる。例えば、受信アレイアンテナ7、8よりも受信アレイアンテナ1、3の素子数を減らせば、受信アレイアンテナ1、3で広範囲の方位角検知、受信アレイアンテナ1と7の合成と受信アレイアンテナ3と8の合成により高精度の方位角検知が可能になる。
【0103】
なお、アンテナ素子群のアンテナの受信感度の重み付けは必ずしも内側から外側へと単調減少になっている必要は無い。少なくとも最内側と最外側のアンテナ素子がA1>A6の関係にあり、式(7)によるfT(θ)を表す特性曲線が全体としてゼロもしくはゼロ付近に漸近するものであれば、アンテナ素子群の一部に、受信感度の重み付けが上記と逆の関係にあるものが存在しも差し支えない。
【0104】
複数の受信アレイアンテナを備えた本実施例によれば、一対の受信アレイアンテナで広い方位角検知範囲が得られ、前記以外の一対の受信アレイアンテナでより高精度な方位検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明による移動体用レーダの第1の実施形態の概念を表す構成図。
【図2A】本実施例において、受信信号S1〜S3から、障害物の方位を検出する信号処理の一例を説明する図。
【図2B】本実施例において、受信信号S1〜S3から、障害物の方位を検出する信号処理の一例を説明する図。
【図3】第1の実施形態の位相差特性に対する効果を表すグラフ。
【図4】第1の実施形態の位相差特性の折り返し低減を示すグラフ。
【図5】第1の実施形態のアンテナ放射パターンに対する効果を表すグラフ。
【図6A】本発明の第1の実施形態に用いるアンテナの上方図。
【図6B】図6Aの受信アレイアンテナの一部拡大縦断面を示す図。
【図7A】受信感度の重み付けのために、マイクロストリップ線路の幅を変えたパターンの一例を概念的に示す図。
【図7B】平面アンテナの受信感度の重み付けを、矩形のアンテナ素子の形状で変える例を説明する図。
【図8】本発明による移動体用レーダの第2の実施形態を表す構成図。
【図9】本発明による移動体用レーダの第3の実施形態を表す構成図。
【図10】本発明の第3の実施形態における信号処理回路の動作を説明する図。
【図11A】本発明の第4の実施例におけるアンテナの平面図。
【図11B】図11Aの受信アレイアンテナの一部の拡大縦断面を示す図。
【図12】本発明による移動体用レーダの第5の実施形態を表す構成図。
【図13】実施例5における、上式(5)に基づく位相差特性を示す図。
【図14A】本発明による移動体用レーダの第6の実施形態の構成概念を示す縦断図。
【図14B】実施例5における平面アンテナの構成概念を示す平面図。
【図15】は本発明による移動体用レーダの第7の実施形態を表す構成図。
【図16】従来例の超分解能法の説明図。
【図17】従来例において、3個の受信アンテナを用いた場合のアンテナ放射パターンの一例。
【図18】従来例において、レーダを搭載した車両と検知すべき車両の配置図。
【図19】従来例において得られる位相差と方位角の関係のグラフ。
【図20】従来例における、受信アンテナ間距離増加に伴う折り返しの説明図。
【符号の説明】
【0106】
1 受信アレイアンテナ
1a〜1c アンテナ素子
2 受信アレイアンテナ
2a〜2c アンテナ素子
3 受信アレイアンテナ
3a〜3c アンテナ素子
4 受信アレイアンテナ
4a〜4c アンテナ素子
5 送信アレイアンテナ
5a〜5f アンテナ素子
61〜6M 受信アンテナ
71〜7M 重み付け部
8 合成部
14 信号処理回路
27 パッチ素子
28 マイクロストリップ線路
29 水平方向に伸びているマイクロストリップ線路
30a〜30c 給電点
31 誘電体基板
33 自車両
34 レーダ
35、36 車両
40 ハイブリッド回路
141 指向性合成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面アンテナと送受信ユニットとを備え、
前記平面アンテナは、少なくとも一つの送信アレイアンテナと3つ以上の受信アレイアンテナを備えて成り、
前記3つ以上の受信アレイアンテナは水平方向に並んで配置され、
前記受信アレイアンテナは、両端に位置する前記受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数が、他の前記受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多く、
前記両端に位置する受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けは、最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方が小さく、
前記送信アレイアンテナから送信された電波が少なくとも一つの障害物に反射され前記各受信アレイアンテナで受信された各受信信号に対し、送受信ユニットにおいて、前記振幅/位相の重み付けをして指向性合成し、ヌル又は低感度となる方位角をスキャンすることで前記少なくとも一つの障害物の方位を特定する
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項2】
請求項1において、
前記両端の受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けは、最内のアンテナ素子から、最外のアンテナ素子まで単調減少となっている
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項3】
請求項1において、
前記受信アレイアンテナは水平方向に奇数個並んで配置され、
中央に位置する受信アレイアンテナを境に前記受信アレイアンテナを左右2つのグループに分けた時に、前記両端に位置する受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けは、最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方が小さい
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項4】
請求項1において、
前記受信アレイアンテナは水平方向に偶数個並んで配置され、
中央側に位置する2つの受信アレイアンテナ間に境界線を設けて前記受信アレイアンテナを左右2つのグループに分けた時に、前記各グループにおける水平方向の受信感度の重み付けが、最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方が小さい
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項5】
請求項4において
前記各グループにおける水平方向の受信感度の重み付けが最内のアンテナ素子から、最外のアンテナ素子まで単調減少となっている
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項6】
請求項1において、
前記受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記受信アレイアンテナと同一の誘電体基板上の伝送線路で構成された電力分配器で行う
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項7】
請求項6において、
前記アンテナ素子は、誘電体基板上に形成された複数のパッチ素子と、前記各パッチ素子に接続された給電用のマイクロストリップ線路とを備えて成り、
前記受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記各パッチ素子に対応する前記マイクロストリップ線路の幅の差によって行う
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項8】
請求項1において、
前記各アンテナ素子は、共通の誘電体基板上においてアンテナ素子が天地方向にアレー化された素子列として構成されている
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項9】
請求項1において、
前記受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記アンテナ素子の平面サイズの差によって行う
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項10】
請求項1において、
送受信ユニットで、前記複数の受信アレイアンテナからの受信信号を指向性合成によりグループ化するアンテナ素子の数が選択可能であり、
前記グループ化されたアンテナ素子の数は、両端に位置する受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子を含むグループの素子数が、他の受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子を含むグループの素子数よりも多い、
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項11】
共通の接地板に設けられた平面アンテナと送受信ユニットとを備え、
前記平面アンテナは、少なくとも一つの送信アレイアンテナと複数の受信アレイアンテナを有して成り、
前記各受信アレイアンテナは、水平方向に配列された3個以上のアンテナ素子を有して成り、
前記受信アレイアンテナは、前記両端に位置する受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数が、他の受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多く、
少なくとも一対の前記受信アレイアンテナは、前記水平方向における受信感度の重み付けが、最内の前記アンテナ素子よりも最外のアンテナ素子の方が小さい、
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項12】
請求項11において、
前記接地板の一方の面に前記平面アンテナ、他方の面に前記送受信ユニットを設け、
前記受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記受信アレイアンテナと同一の誘電体基板上の伝送線路で構成された電力分配器で行う
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項13】
請求項11において、
前記接地板の同じ側の面において前記平面アンテナと前記送受信ユニットを同一の基板上に一体形成して、単一または複数のMMICチップに構成し、
前記受信感度の重み付けを、電力分配用のマイクロストリップ線路で行なう
ことを特徴とする移動体用レーダ。
【請求項14】
少なくとも一つの送信アレイアンテナと3つ以上の受信アレイアンテナを備えて成り、
前記受信アレイアンテナは共通の誘電体基板上に水平方向に並んで配置され、
前記受信アレイアンテナは、各々、複数のアンテナ素子が天地方向にアレー化された素子列として構成されており、
両端の前記受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数が他の前記受信アレイアンテナの水平方向に配列されたアンテナ素子数よりも多く、
該両端の受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けは、最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方が小さい
ことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項15】
請求項14において、
前記両端の受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けが、最内のアンテナ素子から最外のアンテナ素子まで単調減少となっている
ことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項16】
請求項14において、
前記信アレイアンテナは水平方向に奇数個並んで配置され、
両端の前記受信アレイアンテナの水平方向の受信感度の重み付けが最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方が小さい
ことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項17】
請求項14において、
前記受信アレイアンテナは水平方向に偶数個並んで配置され、
中央側に位置する2つの受信アレイアンテナ間に境界線を設けて前記受信アレイアンテナを左右2つのグループに分けた時に、前記各グループにおける水平方向の受信感度の重み付けが、最内のアンテナ素子よりも、最外のアンテナ素子の方が小さい
ことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項18】
請求項14において、
前記受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記受信アレイアンテナと同一の誘電体基板上の伝送線路で構成された電力分配器で行う
ことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項19】
請求項14において、
前記アンテナ素子は、誘電体基板上に形成された複数のパッチ素子と、前記各パッチ素子に接続された給電用のマイクロストリップ線路とを備えて成り、
前記受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記各パッチ素子に対応する前記マイクロストリップ線路の幅の差によって行う
ことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項20】
請求項14において、
前記受信アレイアンテナの受信感度の重み付けを、前記アンテナ素子の平面サイズの差によって行う
ことを特徴とする平面アンテナ。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2009−265007(P2009−265007A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117019(P2008−117019)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】