説明

移動体用測位装置

【課題】疑似距離の異常に関する判定をより正確に行なうこと。
【解決手段】複数の衛星から送信される衛星電波を用いて該複数の衛星と移動体との疑似距離を算出することにより、該移動体の位置を算出する位置演算手段と、前記衛星電波から把握される衛星の位置と、前記位置演算手段又は他の手段により算出された前記移動体の位置と、を結ぶ視線ベクトルを算出する視線ベクトル算出手段と、道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、を備え、前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記リンクのうち移動体が存すると推定されるリンクと、のなす角度が所定角度を超える衛星について、前記地図データを用いたマップマッチングにより把握される前記移動体の位置を用いて、前記位置演算手段が算出する疑似距離の異常に関する判定を行なうことを特徴とする、移動体用測位装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星からの信号に基づいて移動体の位置等を測位する移動体位置測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛星からの信号に基づいて移動体の位置を測位する装置が広く用いられている。このような装置及び衛星からなるシステムは、GNSS(Global Navigation Satellite System)と称されており、GPS(Global Positioning System)、Galileo、Glonass等がこれに含まれる。
【0003】
こうしたシステムにおける問題の一つに、マルチパスと称されるものがある。これは、建物等によって反射された信号を受信することによって、衛星信号を解析することにより得られる衛星と受信機との距離(疑似距離)が現実の距離からズレを生じ、結果として装置の現在位置を誤認識するというものである。
【0004】
GNSSにおいて算出される疑似距離ρは、GPSの場合、衛星と受信機との間のC/Aコードのビット数に光速を乗じることにより算出される。また、搬送波周波数の変化量(ドップラー周波数変化量)が疑似距離の変化率(dρ/dt)、すなわち相対速度ベクトルとなる。
【0005】
ここで、衛星の位置をxs、速度をvs、移動体の位置をx、速度をvとすると、疑似距離ρ及び疑似距離ρの変化率(dρ/dt)は次式(1)、(2)で表される。これらの式より、疑似距離ρ=|xs−x|の異常に関する判定を行なうことにより、移動体の位置や速度に関する誤差を判定することができることが判る。
【0006】
【数1】

これに関連し、測定された疑似距離を所定の期待範囲と比較し、期待範囲外であるとされた場合に、当該疑似距離が異常値であるとみなし、当該疑似距離に係るGPS衛星に代わる他のGPS衛星を選択するGPS受信機についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この装置における期待範囲は、前回の測位結果、受信機から見た衛星の仰角、受信機の移動速度、測位間隔等に基づいて決定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−63838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の装置では、前回の測位結果を用いて疑似距離の異常に関する判定を行なっているため、マルチパス等の問題が継続して発生している場合に対応することができない。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、疑似距離の異常に関する判定をより正確に行なうことが可能な移動体用測位装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、
複数の衛星から送信される衛星電波を用いて該複数の衛星と移動体との疑似距離を算出することにより、該移動体の位置を算出する位置演算手段と、
前記衛星電波から把握される衛星の位置と、前記位置演算手段又は他の手段により算出された前記移動体の位置と、を結ぶ視線ベクトルを算出する視線ベクトル算出手段と、
道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、を備え、
前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記リンクのうち移動体が存すると推定されるリンクと、のなす角度が所定角度を超える衛星について、前記地図データを用いたマップマッチングにより把握される前記移動体の位置を用いて、前記位置演算手段が算出する疑似距離の異常に関する判定を行なうことを特徴とする、
移動体用測位装置である。
【0011】
なお、疑似距離の異常に関する判定を行なった結果、異常であると判定された衛星については、移動体の位置の算出から除外するものとしてもよいし、補正値を用いるものとしてもよい。
【0012】
この本発明の第1の態様によれば、疑似距離の異常に関する判定をより正確に行なうことができる。
【0013】
本発明の第1の態様において、
前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記リンクのうち移動体が存すると推定されるリンクと、のなす角度が所定角度未満である衛星については、前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記地図データを用いたマップマッチングにより把握される位置誤差ベクトルと、の内積が所定値を超える場合に、当該衛星に関して前記位置演算手段により演算される疑似距離が異常であると判定することを特徴とするものとしてもよい。
【0014】
本発明の第2の態様は、複数の衛星から送信される衛星電波を用いて該複数の衛星と移動体との疑似距離を算出することにより、該移動体の位置を算出する位置演算手段と、
前記衛星電波から把握される衛星の位置と、前記位置演算手段又は他の手段により算出された前記移動体の位置と、を結ぶ視線ベクトルを算出する視線ベクトル算出手段と、
道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、を備え、
前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記地図データを用いたマップマッチングにより把握される位置誤差ベクトルと、の内積が所定値を超える衛星について、前記位置演算手段により演算される疑似距離が異常であると判定することを特徴とする、
移動体用測位装置である。
【0015】
なお、疑似距離の異常に関する判定を行なった結果、異常であると判定された衛星については、移動体の位置の算出から除外するものとしてもよいし、補正値を用いるものとしてもよい。
【0016】
この本発明の第2の態様によれば、疑似距離の異常に関する判定をより正確に行なうことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、疑似距離の異常に関する判定をより正確に行なうことが可能な移動体用測位装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1のシステム構成例である。
【図2】観測データ評価部26による異常判定が効果的であることを示す図である。
【図3】第1実施例の移動体用測位装置1により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】第2実施例の移動体用測位装置2により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の移動体用測位装置により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートの他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0020】
<第1実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1について説明する
移動体用測位装置1は、GNSSに適用される装置である。GNSSは、衛星からの信号を用いて移動体に搭載された測位装置が移動体の位置を測位する測位システムであり、GPS(Global Positioning System)、Galileo、Glonass等の衛星を用いた測位システムを含む。以下の説明ではGPSを基本構成として説明するが、本発明は、GPSに限らずあらゆるGNSSに広く適用可能である。移動体は、車両、自動二輪車、鉄道、船舶、航空機、ホークリフト、ロボットや、人の移動に伴い移動する携帯電話等の情報端末等がありうる。
【0021】
なお、以下ではGNSSの一例として、GPSに適用されるものとして説明する。また、移動体が車両であるものとする。
【0022】
GPS衛星は、航法メッセージ(衛星信号)を地球に向けて常時放送している。航法メッセージには、対応するGPS衛星に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナク)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれている。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散されL1波(周波数:1575.42MHz)に乗せられて、地球に向けて常時放送されている。なお、L1波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波の合成波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1が不規則に周期的に並ぶ符号列である。
【0023】
図1は、本発明の第1実施例に係る移動体用測位装置1のシステム構成例である。移動体用測位装置1は、主要な構成として、GPSアンテナ10と、図示しないマイクロコンピュータがプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである(但し、回路構成であっても構わない)、GNSS測位信号受信部20、GNSS測位演算部22、視線ベクトル算出部24、観測データ評価部26、観測データ補正部28、マップマッチング部30と、図示しない記憶装置に記憶された地図データベース(図では地図DBと表記した)32と、慣性航法部40と、を有する。
【0024】
GNSS測位信号受信部20は、GPSアンテナ10が受信した信号について、内部で発生させたレプリカC/Aコードを用いてC/Aコード同期を行ない、航法メッセージを取り出す。C/Aコード同期の方法は、多種多様であり、任意の適切な方法が採用されてよい。例えば、DLL(Delay―Locked Loop)を用いて、受信したC/Aコードに対するレプリカC/Aコードの相関値がピークとなるコード位相を追尾する方法であってよい。
【0025】
測位信号受信部20は、GPS衛星と車両(正確には移動体用測位装置1)との間の擬似距離ρを算出する。擬似距離ρは、時計誤差(クロックバイアス)や電波伝搬速度変化による誤差を含んでいる。擬似距離ρは、例えば次式(3)により算出される。式中、Nは、GPS衛星と車両との間のC/Aコードのビット数に相当し、レプリカC/Aコードの位相及び移動体位置測位装置1内部の受信機時計に基づいて算出される。なお、数値300は、C/Aコードが、1ビットの長さが1μsであり、1ビットに相当する長さが約300m(1μs×光速)であることに由来する。
【0026】
ρ=N×300 …(3)
【0027】
また、測位信号受信部20は、衛星信号の搬送波位相を測定する機能を備え、内部で発生させたレプリカキャリアを用いて、ドップラーシフトした受信搬送波のドップラー周波数変化量Δfを測定する。ドップラー周波数変化量Δfは、レプリカキャリアの周波数frと既知の搬送波周波数fc(1575.42MHz)の差分(=fr−fc)として測定される。係る機能は、レプリカキャリアを用いてキャリア相関値を演算して受信キャリアを追尾するPLL(Phase-Locked Loop)により実現されてよい。
【0028】
測位信号受信部20は、これらの観測データ(疑似距離ρ、及びドップラー周波数変化量Δf)をGNSS測位演算部22、及び観測データ補正部28に出力する。
【0029】
GNSS測位演算部22は、まず、GPS衛星の位置(以下、「衛星位置」という)を算出する。具体的には、航法メッセージの衛星軌道情報及び現在の時間に基づいて、GPS衛星iの、ワールド座標系における現在位置(Xi、Yi、Zi)を算出する(符号iは、複数の衛星についてこのような演算を行なう中で、i番目の衛星であることを示す)。GPS衛星は、その運動が地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定され、その軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であるため、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで軌道面におけるGPS衛星の位置が計算できる。そして、ワールド座標系におけるGPS衛星iの位置(Xi、Yi、Zi)は、GPS衛星iの軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面におけるGPS衛星iの位置を3次元的に回転座標変換することで得られる。
【0030】
そして、複数のGPS衛星の位置と、対応する観測擬似距離ρに基づいて、車両の位置(Xu,Yu,Zu)を測位する。車両の位置は、3つのGPS衛星に対して得られる位置及び観測擬似距離ρに基づいて、三角測量の原理で導出される。観測擬似距離ρは、前述のように時計誤差を含んでいるため、4つ目のGPS衛星に対して得られる観測擬似距離ρ及び衛星位置を用いて、時計誤差成分を除去する。
【0031】
なお、位置演算部22の演算機能はこのような単独測位に限られず、干渉測位(既知の点に設置された固定局での受信データを併用する方式)であってもよい。干渉測位の場合、上述の如く固定局及び車両にてそれぞれ得られる観測擬似距離ρの一重位相差や2重位相差等を用いて車両の位置が測位される。
【0032】
ところが、疑似距離ρは、前述したマルチパス等の影響により、誤差を含んでいる場合がある。そこで、本実施例では、以下の構成によって疑似距離の補正等を行なっている。
【0033】
視線ベクトル算出部24は、各衛星について、車両から見た衛星の向きを示す単位ベクトルである、視線ベクトルeiを算出して観測データ評価部26に出力する。視線ベクトルeiは、例えば次式(4)により表される。ここで、車両の位置(Xu,Yu,Zu)は、GNSS測位演算部22の出力を用いてもよいし、他の手段(後述するマップマッチングや慣性航法等)により算出されてもよい。
【0034】
ei=(Xu−Xi,Yu−Yi,Zu−Zi)/√{(Xu−Xi)+(Yu−Yi)+(Zu−Zi)} …(4)
【0035】
観測データ評価部26は、視線ベクトル算出部24により算出された視線ベクトルeiと、地図データベース32において移動体が存すると推定されるリンクと、のなす角度θが所定角度α以上である衛星を抽出し、抽出された各衛星について、マップマッチング部30によるマップマッチングにおいて把握される移動体の位置を用いて、疑似距離ρの異常に関する判定を行なう。
【0036】
ここで、地図データベース32は、ノードとリンクで道路が表現されており、マップマッチング部30では、各種センサ(GPS、INS用センサ、車輪速センサ、舵角センサ等)の情報から、地図データベース32上のどの位置を走行しているかを特定している。従って、「地図データベース32において移動体が存すると推定されるリンク」についての情報(特にリンクの方位に関する情報)は、マップマッチング部30から観測データ評価部26に提供される。
【0037】
具体的には、不等式(5)が成立する場合に、疑似距離ρが異常であると判定する。式中、Rは、位置演算部22が算出した衛星位置(Xi、Yi、Zi)と、マップマッチング部30によるマップマッチングにおいて把握される移動体の位置(Xum,Yum,Zum)との距離である。また、Δtは疑似距離ρに含まれる時計誤差であり、最小自乗法等の既存技術によって推定可能である。また、βは閾値である。
【0038】
ρ―R−cΔt>β …(5)
【0039】
図2は、係る異常判定が効果的であることを示す図である。マップマッチング部30によるマップマッチングにおいて把握される移動体の位置(Xum,Yum,Zum)は、リンク方向に比較的大きい誤差が生じるという特性を有する。ところが、図2に示すように、ノードN1とN2を結ぶリンクLと、視線ベクトルeiとのなす角度θが比較的大きい場合には、移動体の位置(Xum,Yum,Zum)がリンク方向に多少ずれたとしても、距離Rに与える影響が小さい。すなわち、角度θが比較的大きい場合には、距離Rの信頼性が高いのである。従って、距離Rの信頼性が高い場合に限り距離Rを用いて疑似距離ρの異常に関する判定を行なうことにより、信頼性の高い判定を行なうことができる。また、マルチパス等の問題が継続して発生している場合にも対応することができる。
【0040】
観測データ補正部28は、観測データ評価部26により疑似距離ρが異常であると判定された衛星について、(1)当該衛星を除外させるための信号をGNSS測位演算部22に出力する、(2)疑似距離ρに代えてR−cΔtを用いることを指示する信号、及び当該R−cΔtを示す信号をGNSS測位演算部22に出力する、等によって、GNSS測位演算部22の演算を補正させる。前者の場合、GNSS測位演算部22は、観測データ評価部26により疑似距離ρが異常であると判定された衛星を除外して車両位置の算出等を行なう。後者の場合、観測データ評価部26により疑似距離ρが異常であると判定された衛星についてはR−cΔtを疑似距離とみなして車両位置の算出等を行なう。
【0041】
なお、観測データ評価部26が疑似距離ρの異常に関する判定を行なわなかった衛星については、疑似距離ρをそのまま用いるものとしてもよいし、上記とは異なる手法により疑似距離ρの異常に関する判定を行なうものとしてもよい。
【0042】
慣性航法部40は、慣性航法により車両の位置を算出する。慣性航法による車両位置の測位方法は、多種多様であり、如何なる方法であってもよい。例えば車両位置は、加速度センサの出力値に、姿勢変換、重力補正、コリオリ力補正を行って2回積分し、当該2回積分により得られる移動距離を、車両位置の前回値に加算することで導出されてよい。
【0043】
図3は、本実施例の移動体用測位装置1により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、マップマッチング部30において、あるリンクにマッチングされており、且つマップマッチング後の車両の位置(Xum,Yum,Zum)が得られていることを条件に実行される。
【0044】
本フローでは、以下の処理を各衛星(i=1〜n)について行なう。
【0045】
まず、視線ベクトルeiを算出する(S100)。
【0046】
次に、視線ベクトルeiとリンクのなす角度θを算出する(S102)。角度θは、象限を考慮せず、0度〜90度の間で算出する。
【0047】
そして、角度θが所定角度αを超えるか否かを判定する(S104)。角度θが所定角度α以下である場合は、何も処理を行なわない。
【0048】
一方、角度θが所定角度αを超える場合は、前述の不等号(5)を満たすか否かを判定し(S106)、疑似距離評価を行なう。その結果、異常であると判定された場合は、当該衛星について、GNSS測位演算部22の演算を補正させる(異常処理;S108)。
【0049】
以上説明した本実施例の移動体用測位装置1によれば、疑似距離の異常に関する判定をより正確に行なうことができる。
【0050】
<第2実施例>
以下、図面を参照し、本発明の第2実施例に係る移動体用測位装置2について説明する
移動体用測位装置2は、第1実施例の移動体用測位装置1と同様、GNSSに適用される装置である。本実施例においても、GNSSの一例として、GPSに適用されるものとして説明する。また、移動体が車両であるものとする。
【0051】
また、移動体用測位装置2は、主要な構成において第1実施例と共通するため、構成例については図1を参照することとし、同一の符号により説明する。
【0052】
第2実施例に係る観測データ評価部26は、各衛星について、視線ベクトル算出部24により算出された視線ベクトルeiと、マップマッチング部30によるマップマッチングにおいて把握される位置誤差ベクトルV=(εE、εN、εU)の内積ei・Vを計算し、その内積ei・Vが所定値γを超える場合に、当該衛星に関して疑似距離ρが異常であると判定する。
【0053】
ここで、位置誤差ベクトルV=(εE、εN、εU)において、εEは東西方向の誤差、εNは南北方向の誤差であり、マップマッチングにおけるリンク方向の誤差と、リンクに直交する方向の誤差を分解することにより算出可能である。
【0054】
リンク方向の誤差は、マップマッチングロジックの出力として得られてもよいし、固定値(例えば、数十[m]程度)を設定してもよい。また、リンクに直交する方向の誤差は、地図データベース32の属性として得られてもよいし、固有値(例えば、数[m]程度)を設定してもよい。
【0055】
また、εNは高さ方向の誤差であり、地図データベース32から得られない場合は値ゼロとしてもよい。
【0056】
内積ei・Vは、ベクトルVの絶対値が大きい程大きくなり、また視線ベクトルeiとベクトルVの方向が一致している程大きくなる(ei・V=|ei||V|cosφ:φはeiとVのなす角度)。従って、ベクトルVが大きく且つ視線ベクトルeiの方向に近い場合に大きい値となる。また、ベクトルVが視線ベクトルeiの方向と乖離している(直交に近い方向となっている)場合でも、ベクトルVが極めて大きい場合には、大きい値となる。これらにより、内積ei・Vが所定値を超える場合には、車両と衛星の距離に関して誤差が生じやすいといえる。
【0057】
観測データ補正部28は、観測データ評価部26により疑似距離ρが異常であると判定された衛星について、第1実施例と同様の処理を行なう。
【0058】
図4は、本実施例の移動体用測位装置2により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、マップマッチング部30において、あるリンクにマッチングされており、且つマップマッチング後の車両の位置(Xum,Yum,Zum)が得られていることを条件に実行される。
【0059】
本フローでは、以下の処理を各衛星(i=1〜n)について行なう。
【0060】
まず、視線ベクトルeiを算出する(S200)。
【0061】
次に、視線ベクトルeiと位置誤差ベクトルVの内積ei・Vを計算する(S202)。
【0062】
そして、内積ei・Vが所定値γを超えるか否かを判定する(S204)。内積ei・Vが所定値γ以下である場合は、何も処理を行なわない。
【0063】
一方、内積ei・Vが所定値γを超える場合は、当該衛星について、GNSS測位演算部22の演算を補正させる(異常処理;S206)。
【0064】
以上説明した本実施例の移動体用測位装置2によれば、疑似距離の異常に関する判定をより正確に行なうことができる。
【0065】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0066】
例えば、第1実施例において、角度θが所定角度α以下である衛星について、第2実施例で示した手法により疑似距離ρの異常に関する判定を行なってもよい。図5は、係る場合のフローチャートである。以下、これについて説明する。なお、第2実施例は、第1実施例に比して演算負荷が大きいが、判定精度が高いものであり、図5のような組み合わせにより、演算負荷の増大を抑制しつつ、判定精度を第1実施例に比して向上させることができる。
【0067】
まず、視線ベクトルeiを算出する(S300)。
【0068】
次に、視線ベクトルeiとリンクのなす角度θを算出する(S302)。角度θは、象限を考慮せず、0度〜90度の間で算出する。
【0069】
そして、角度θが所定角度αを超えるか否かを判定する(S304)。
【0070】
角度θが所定角度α以下である場合は、視線ベクトルeiと位置誤差ベクトルVの内積ei・Vを計算する(S306)。
【0071】
そして、内積ei・Vが所定値γを超えるか否かを判定する(S308)。内積ei・Vが所定値γ以下である場合は、何も処理を行なわない。
【0072】
内積ei・Vが所定値γを超える場合は、当該衛星について、GNSS測位演算部22の演算を補正させる(異常処理;S310)。
【0073】
一方、角度θが所定角度αを超える場合は、前述の不等号(5)を満たすか否かを判定し(S312)、疑似距離評価を行なう。その結果、異常であると判定された場合は、当該衛星について、GNSS測位演算部22の演算を補正させる(異常処理;S314)。
【0074】
なお。S310における異常処理と、S314における異常処理は同じであってもよいし、異なってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1、2 移動体用測位装置
10 GPSアンテナ
20 GNSS測位信号受信部
22 GNSS測位演算部
24 視線ベクトル算出部
26 観測データ評価部
28 観測データ補正部
30 マップマッチング部
32 地図データベース
40 慣性航法部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星から送信される衛星電波を用いて該複数の衛星と移動体との疑似距離を算出することにより、該移動体の位置を算出する位置演算手段と、
前記衛星電波から把握される衛星の位置と、前記位置演算手段又は他の手段により算出された前記移動体の位置と、を結ぶ視線ベクトルを算出する視線ベクトル算出手段と、
道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、を備え、
前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記リンクのうち移動体が存すると推定されるリンクと、のなす角度が所定角度を超える衛星について、前記地図データを用いたマップマッチングにより把握される前記移動体の位置を用いて、前記位置演算手段が算出する疑似距離の異常に関する判定を行なうことを特徴とする、
移動体用測位装置。
【請求項2】
前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記リンクのうち移動体が存すると推定されるリンクと、のなす角度が所定角度未満である衛星については、前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記地図データを用いたマップマッチングにより把握される位置誤差ベクトルと、の内積が所定値を超える場合に、当該衛星に関して前記位置演算手段により演算される疑似距離が異常であると判定することを特徴とする、
請求項1に記載の移動体用測位装置。
【請求項3】
複数の衛星から送信される衛星電波を用いて該複数の衛星と移動体との疑似距離を算出することにより、該移動体の位置を算出する位置演算手段と、
前記衛星電波から把握される衛星の位置と、前記位置演算手段又は他の手段により算出された前記移動体の位置と、を結ぶ視線ベクトルを算出する視線ベクトル算出手段と、
道路が複数のリンクで表現された地図データを記憶した記憶手段と、を備え、
前記視線ベクトル算出手段により算出された視線ベクトルと、前記地図データを用いたマップマッチングにより把握される位置誤差ベクトルと、の内積が所定値を超える衛星について、前記位置演算手段により演算される疑似距離が異常であると判定することを特徴とする、
移動体用測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−243217(P2010−243217A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89601(P2009−89601)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】