説明

移動無線通信装置及び携帯電話機

【課題】高い送受信性能を備えることができる移動無線通信装置を提供する。
【解決手段】所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第一アンテナ30と、前記無線信号に基づいてITSのための情報処理を実行する装置制御部32とを有している。前記所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第二アンテナ10を有している移動端末が着脱可能に接続される接続部34と、第一アンテナ30が受信した無線信号に基づいて装置制御部32が情報処理を実行する第一モードと、第一アンテナ30が受信した無線信号の他に第二アンテナ10が受信した無線信号も利用可能として装置制御部32が情報処理を実行する第二モードとの内のいずれか一方のモードに切り替える切り替え部32bとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)に用いられる移動無線通信装置及び携帯電話機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全の促進や交通事故の防止を目的として、道路に設置されたインフラ装置からの情報を受信し、この情報を活用することで車両の安全性を向上させる高度道路交通システムが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
かかる高度道路交通システムは、主として、インフラ側の無線通信装置である複数の路側通信装置と、各車両に搭載される無線通信装置である複数の車載通信装置(移動無線通信装置)とによって構成される。
【0003】
この場合、各通信主体間で行う通信の組み合わせには、路側通信装置同士が行う路路間通信と、路側通信装置と車載通信装置とが行う路車(又は車路)間通信と、車載通信装置同士が行う車車間通信とが含まれる。
このような車車間通信や路車間通信でやり取りされる情報には、例えば交差点に向かう車両にとって安全に役立つ情報が多く含まれており、このような情報は、車両の運転者にとって非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記交通システムにおいて想定されている通信サービスエリアでは、周囲の建物や他の車両が存在していてマルチパスフェージングが生じたり、また、車両が移動しながらの通信であるためにドップラーフェージングが生じたりすることから、厳しい通信環境であると言える。
このような通信環境であっても、前記のような安全に役立つ情報の送受信が車載通信装置において確実に行われるために、車載通信装置は高い送受信性能を備えていることが求められている。
【0006】
そこで、本発明は、高い送受信性能を備えることができる移動無線通信装置、及び、この移動無線通信装置の性能を発揮させることができる装置としての携帯電話機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)前記目的を達成するために、本発明は、所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第一アンテナと、前記無線信号に基づいて情報処理を実行する装置制御部とを有している移動無線通信装置であって、前記所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第二アンテナを有している移動端末が着脱可能に接続される接続部と、前記第一アンテナが受信した無線信号に基づいて前記装置制御部が情報処理を実行する第一モードと、前記第一アンテナが受信した無線信号の他に前記第二アンテナが受信した無線信号も利用可能として前記装置制御部が情報処理を実行する第二モードとの内のいずれか一方のモードに切り替える切り替え部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、第二アンテナを有している移動端末を、第一アンテナを有している移動無線通信装置の接続部に接続すると、当該移動無線通信装置の切り替え部は、第一アンテナが受信した無線信号の他に第二アンテナが受信した無線信号も利用可能として装置制御部が情報処理を実行する第二モードに切り替えることができるので、この場合、第一アンテナと第二アンテナとによるマルチアンテナシステムを構成することができ、移動無線通信装置は高い送受信性能を備えることが可能となる。
【0009】
(2)また、本発明の前記移動無線通信装置は、車両に搭載可能な車載通信装置からなり、前記移動端末は、携帯電話機からなり、前記装置制御部が実行する情報処理を、高度道路交通システムのための処理とすることができる。
この場合、携帯電話機を携帯している使用者が車両に乗り、当該車両に搭載されている車載通信装置からなる本発明の移動通信機に、前記携帯電話機を接続することにより、前記マルチアンテナシステムが構成され、高度道路交通システムのための機能を有する車載通信装置は、高い送受信性能を備えることが可能となる。
【0010】
(3)また、前記移動無線通信装置が備えている前記接続部は、前記移動端末が接続されたことを検出する検出部を有し、前記切り替え部は、前記検出部による検出結果に基づいてモードの切り替えを行うのが好ましい。
この場合、移動端末が接続部に接続されると、切り替え部がモードの切り替えを自動的に行う構成とすることができる。
【0011】
(4)また、前記移動無線通信装置に接続される前記移動端末は、前記第二アンテナが受信した無線信号に基づいて前記装置制御部による処理内容と同種の情報処理を実行する機能と、当該移動端末が前記接続部に接続されると前記情報処理の実行を休止又は前記情報処理により得た情報を送る処理を休止する機能とを有しているのが好ましい。
この場合、移動端末は、第二アンテナが受信した無線信号に基づいて、移動無線通信装置の装置制御部による処理内容と同種の情報処理を、独自で実行することができる。
しかし、この移動端末が接続部に接続され、前記マルチアンテナシステムを構成するためには、移動端末の前記情報処理による情報が、接続部を介して移動無線通信装置側の装置制御部へ送られないようにするのが好ましく、このために、移動端末が接続部に接続されると、移動端末は、前記情報処理の実行を休止又は前記情報処理により得た情報を送る処理を休止する。
【0012】
(5)また、本発明は、所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第一アンテナと、前記無線信号に基づいて高度道路交通システムのための情報処理を実行する装置制御部とを有している車載通信装置に接続可能な携帯電話機であって、無線通信を利用した通話機能を有する通話機能部と、前記所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第二アンテナと、前記無線信号に基づいて高度道路交通システムのための情報処理を実行する情報処理部と、前記車載通信装置に接続されると前記情報処理部による情報処理の実行を休止又は前記情報処理部が得た情報を送る処理を休止する休止制御部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、携帯電話機は、無線通信を利用した通話機能を有すると共に、第二アンテナが受信した無線信号に基づいて、独自で高度道路交通システムのための情報処理を実行することができる。
しかし、携帯電話機が車載通信装置に接続され、前記のような第一アンテナと第二アンテナとによるマルチアンテナシステムを構成するためには、携帯電話機の情報処理部による高度道路交通システムのための情報が、車載通信装置側の装置制御部へ送られないようにするのが好ましく、このために、携帯電話機が車載通信装置に接続されると、携帯電話機は、前記高度道路交通システムのための情報処理の実行を休止又は前記高度道路交通システムのための情報処理により得た情報を送る処理を休止する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の移動無線通信装置によれば、移動端末を接続することでマルチアンテナシステムを構成することができ、移動無線通信装置は高い送受信性能を備えることが可能となり、有用な情報の送受信をより確実に行うことができる。
また、本発明の携帯電話機によれば、車載通信装置に接続すると、当該携帯電話機による高度道路交通システムのための情報が車載通信装置側の装置制御部へ送られず、前記マルチアンテナシステムを構成することができる車載通信装置の性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】高度道路交通システムの全体構成を示す概略斜視図である。
【図2】高度道路交通システムの管轄エリアの一部を示す道路平面図である。
【図3】路側通信装置と車載通信装置と携帯電話機との内部構成を示すブロック図である。
【図4】他の実施形態に係る車載通信装置を含む場合のブロック図である。
【図5】他の実施形態に係る車載通信装置及び携帯電話機を含む場合のブロック図である。
【図6】外部出入力部を説明するモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、高度道路交通システム(Intelligent Transport System:以下、ITSという)の全体構成を示す概略斜視図である。図2は、このITSの管轄エリアの一部を示す道路平面図である。本実施形態のITSには、交通信号機1、路側通信装置2、車両5に搭載されている移動無線通信装置としての車載通信装置3(図2参照)、中央装置4及び使用者(運転者)が携帯する携帯電話機9(図3参照)等が含まれる。図3は、路側通信装置2と車載通信装置3と携帯電話機9との内部構成を示すブロック図である。
【0017】
図1において、交通信号機1と路側通信装置2は、複数の交差点Ci(図例では、i=1〜12)のそれぞれに設置されており、電話回線等の通信回線7を介してルータ8に接続されている。このルータ8は交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
後にも説明するが、路側通信装置2及び車載通信装置3は、ITSのための無線通信及びITS情報の処理を実行することができ、さらに、携帯電話機9は、通常の通話機能の他に、車載通信装置3と同様のITS通信機能を有していて、ITSのための無線通信及びITS情報の処理を実行することができる。
【0018】
〔無線送信の方式等〕
図2において、このITSは、車載通信装置3又はITS用として機能する携帯電話機9との間で無線通信が可能な複数の路側通信装置2と、キャリアセンス方式で他の通信装置2,3と無線通信を行う無線送受信機の一種である車載通信装置3と、路側通信装置2及び車載通信装置3との間で無線通信してITS用として機能する携帯電話機9とを備えている。
各路側通信装置2は、特定の方路に広がる通信エリアAを有し、自身の通信エリアAを走行する車両5の車載通信装置3及び歩行者が携帯しITS用として機能する携帯電話機9との無線通信が可能である。また、各路側通信装置2は、隣の交差点に設定されている他の路側通信装置2とも無線通信(路路間通信)が可能である。
【0019】
各路側通信装置2には、自身が無線送信するためのタイムスロットが路側通信装置2の親機によってTDMA方式で割り当てられており、この路側用時間帯以外の時間帯には無線送信を行わない。そして、路側用時間帯以外の時間帯は、車載通信装置3及びITS用として機能する携帯電話機9のためのCSMA方式による送信時間として開放されている。
【0020】
〔路側通信装置〕
図3において、路側通信装置2は、無線通信のためのアンテナ20に接続されたRF(Radio Frequency)部等を有する無線通信部21と、中央装置4と双方向通信する送受信回路等を有する有線通信部(図示せず)と、これらの通信制御を行うCPU等よりなる制御部23と、制御部23に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部(図示せず)とを備えている。記憶部は、制御部23が実行する通信制御のためのコンピュータプログラム、各通信機2,3及び携帯電話機9の通信機ID等を記憶している。
【0021】
〔車載通信装置〕
車載通信装置3は、路側通信装置2及び他の車載通信装置3と無線通信可能であり、例えば、車載通信装置3は、自己の位置についての位置情報及び走行速度等の車両情報を送信する。なお、車載通信装置3が取得する情報の内の、自己の位置や走行速度は、GPSや車速センサ等の車両5側のセンサ類が自律的に測定することで取得することができる。
車載通信装置3は、キャリアセンス方式による無線通信を実行することができる。このために、車載通信装置3は、所定の搬送波周波数の受信レベルを常時感知しており、その値がある閾値以上である場合は無線送信を行わず、当該閾値未満になった場合にのみ無線送信を行うようになっている。
【0022】
ITS用の搬送波周波数(通信帯域)として、700MHz帯で概ね10MHz幅とする規格が設定されていて、図3において、車載通信装置3は、この周波数帯の無線信号を受信可能なアンテナ(第一アンテナ)30と、このアンテナ30に接続されたITS用のRF(Radio Frequency)部31と、前記アンテナ30を用いた無線通信制御及び当該アンテナ30によって受信した無線信号に基づいてITSのための情報処理の制御を実行するプロセッサ等よりなる装置制御部32とを有している。
【0023】
さらに、車載通信装置3は、装置制御部32に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部33を備えていて、この記憶部33は、装置制御部32が実行する通信制御のためのコンピュータプログラム等を記憶している。
このようにして構成された車載通信装置3は、独自で(単独で)ITSのための情報処理及び他の通信装置2,3とのITS通信が可能となっている。
【0024】
前記装置制御部32は、上記コンピュータプログラムを実行することで達成される機能部として情報処理部32aと、切り替え部32bとを有している。
切り替え部32bは、車載通信装置3におけるITS通信のためのモードを切り替える機能を有している。なお、この切り替え機能については後に説明する。
情報処理部32aは、車両5(車載通信装置3)が取得した自己の位置や走行速度等の車両情報を取得可能であり、また、他の車載通信装置3や路側通信装置2から送信されアンテナ30が受信した無線信号に基づく各種情報を取得可能であり、さらに、これらの情報に基づいて、ITS通信のための情報処理を行う機能を有している。
【0025】
なお、このITS通信のための情報処理には、例えば、車両情報をアンテナ30から送信させる処理や、車両5の運転者に有用となる情報を報知するための処理があり、具体的に説明すると、有用となる情報としては、他の車両5の位置や走行速度についての情報等があり、そして、この情報を報知するための処理としては、当該情報を、車載のモニタ(図示せず)に文字や映像として表示する処理や、車載のスピーカ(図示せず)から音声として発する処理等がある。
このように構成された車載通信装置3によれば、位置や速度等を含む車両情報を、他の車両5との間で送受信することによって、例えば、右直衝突や出合い頭衝突等を回避するための安全運転支援制御を行うことができる。
【0026】
さらに、車載通信装置3は、前記携帯電話機9が接続され相互間で信号の送受信が行われるインターフェースとしての外部出入力部(接続部)34を備えている。そして、携帯電話機9側にも、外部出入力部34が接続される外部出入力部14を備えている。
そして、この外部出入力部34は、携帯電話機9が接続されたことを検出する検出部35を有している。検出部35は、例えば回路部からなり、携帯電話機9のRF部11から受信信号に関する情報(例えば、受信信号強度:RSSI)を取得する。そして、検出部35は、所得した受信信号に関する情報のレベル値が所定の閾値を超えている場合に、当該検出部35は携帯電話機9が外部入力部34に接続されたことを認識する。さらに、携帯電話機9の外部出入力部14は、車載通信装置3に接続されたことを検出する検出部15を有していてもよい。
【0027】
〔携帯電話機〕
携帯電話機9は、基本機能である無線通信を利用した通話機能を有している。すなわち、図3において、携帯電話機9は、通話機能部16として、電話用の通信帯域として設定されている周波数帯(例えば、800MHz帯や2GHz帯)の無線信号を受信可能なアンテナ(第三アンテナ)17と、このアンテナ17に接続された通話用のRF部18と、通話に関する処理を行うプロセッサ等よりなる通話用のベースバンド部19とを有している。
そして、携帯電話機9はこの通話機能の他に、ITS通信を行う機能も有している。
【0028】
すなわち、携帯電話機9は、ITS通信機能部として、ITS用の通信帯域として規定されている前記周波数帯の無線信号を受信可能なアンテナ(第二アンテナ)10と、このアンテナ10に接続されたITS用のRF部11と、前記アンテナ10を用いたITS無線通信制御及び当該アンテナ10によって受信した無線信号に基づいてITSのための情報処理の制御を実行するプロセッサ等よりなる端末制御部12とを有している。
【0029】
さらに、携帯電話機9は、端末制御部12に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部13を備えていて、この記憶部13は、端末制御部32が実行する通信制御のためのコンピュータプログラム等を記憶している。
そして、前記端末制御部12は、上記コンピュータプログラムを実行することで達成される機能部として情報処理部12aと、休止制御部12bとを有している。
【0030】
前記情報処理部32aは、携帯電話機9が取得した自己の位置等の各種情報を取得可能であり、また、他の通信装置2,3から無線通信でアンテナ10が受信した無線信号に基づく各種情報を取得可能であり、さらに、これらの情報に基づいて、車載通信装置3(装置制御部32)による処理内容と同種であるITS通信のための情報処理を行う機能を有している。このITS通信のための情報処理には、例えば、前記各種情報をアンテナ10から送信させる処理や、使用者に有用となる情報を報知するための処理がある。なお、携帯電話機9が取得する自己の位置は、当該携帯電話機9が有しているGPS等のセンサ類が自律的に測定することで取得することができる。
前記休止制御部12bは、後にも説明するが、携帯電話機9が車載通信装置3に接続されると情報処理部32aによるITS通信のための情報処理の実行を休止、又は、情報処理部32aが得た情報を外部へ送る処理を休止する機能を有している。
以上のように構成された携帯電話機9は、独自で(単独で)ITSのための情報処理及び他の通信装置2,3とのITS通信が可能となる。
【0031】
しかし、以下の説明では、この携帯電話機9を車載通信装置3に接続することで、車載通信装置3の装置制御部32が、当該携帯電話機9の機能の一部を用いてITSのための処理を行い、当該車載通信装置3を搭載している車両の安全走行に役立てる場合を説明する。
【0032】
〔携帯電話機を接続した車載通信装置によるITS通信〕
図3において、携帯電話機9と車載通信装置3とは相互が接続可能な構成であり、このために、携帯電話機9と車載通信装置3とは、外部出入力部14,34を備えている。
そこで、ITS通信機能を備えた前記携帯電話機9を携帯している使用者(運転者)が車両5(図2参照)に乗り、当該車両5に搭載されている車載通信装置3の外部出入力部34に、携帯電話機9の外部出入力部14を接続する。このように、携帯電話機9が車載通信装置3に接続されることで、両者間でITS信号の送受信が可能な状態となる。
【0033】
携帯電話機9が車載通信装置3に接続され、前記検出部35が接続完了を検出すると、その情報を車載通信装置3の機能部である前記切り替え部32bに送る。
そして、切り替え部32bは、検出部35によるこの検出結果に基づいて、車載通信装置3(情報処理部32a)におけるITS通信のためのモードの切り替えを行う。すなわち、切り替え部32bは、検出結果を受けると、装置制御部32が行うITS通信のためのモードの切り替えが自動的に行われる。
【0034】
具体的に説明すると、切り替え部32bは、第一モードと第二モードとの内のいずれか一方のモードに切り替えることができ、本実施形態では、携帯電話機9が車載通信装置3に接続されると、第一モードから第二モードへと切り替わる。なお、「第一モード」は、車載通信装置3の第一アンテナ30が受信した無線信号のみに基づいて装置制御部32(情報処理部32a)が情報処理を実行する通信方法であり、「第二モード」は、車載通信装置3の第一アンテナ30が受信した無線信号の他に、携帯電話機9の第二アンテナ10が受信した無線信号も利用可能として、装置制御部32(情報処理部32a)が情報処理を実行する通信方法である。
【0035】
すなわち、携帯電話機9が車載通信装置3に接続される前は、当該車載通信装置3は、第一アンテナ30が受信した信号のみを利用できるが(第一モード)、携帯電話機9が接続されることで、車載通信装置3はその信号を取得することが可能となる。そこで、携帯電話機9の第二アンテナ10が受信した信号を利用できるように、切り替え部32bは通信モードを第一モードから第二モードに切り替える。なお、モードの切り替えは、切り替え部32bによって、情報処理部21aが実行する処理プログラムのロジックを変更させることで実現される。
【0036】
<第二モード(その1)>
第二モードに切り替えられることで、車載通信装置3は、2系統のアンテナ10,30を利用可能となり、情報処理部32aは、これらアンテナ10,30を用いて、マルチアンテナシステムとして、最大比合成方式のダイバーシティ制御を行う。なお、この場合、装置制御部32は2系統のAD変換部を有していて、このAD変換部から2系統の信号を取り込んで、情報処理部(FPGA)32aは互いの位相のズレを補正し合成する(位相を揃えて合成する)ことで、ゲインを得て高いSN比の信号を得ることができる。なお、この処理は物理層で行うことができる。
【0037】
また、携帯電話機9は、前記のとおり、アンテナ10が受信した無線信号に基づいて、ITSのための情報処理を実行することができるが、この携帯電話機9が車載通信装置3に接続されると、前記マルチアンテナシステムを構成するためには、携帯電話機9の情報処理による情報が、外部出入力部14,34を介して車載通信装置3側の装置制御部32へ送られないようにするのが好ましい。そこで、携帯電話機9が外部出入力部34に接続されると、携帯電話機9の端末制御部12が備えている機能部としての前記休止制御部12bは、ITSのための情報処理の実行を休止させる。
【0038】
又は、携帯電話機9の端末制御部12においてITSのための情報が生成されていても、携帯電話機9が外部出入力部34に接続されると、休止制御部12bは、情報処理により得た当該ITSのための情報を送る処理を休止する機能を有している。
これにより、携帯電話機9の端末制御部12で生成されたITSのための情報が車載通信装置3の装置制御部32側に送信されるのを防ぎ、車載通信装置3においてエラーが生じるのを防止することができる。なお、休止制御部12bが機能している状態であっても、アンテナ10が受信したITS信号の取得は行っていてもよい。
【0039】
なお、この休止制御部12bを機能させるためには、接続を検出した前記検出部35の検出結果に基づいて車載通信装置3が端末制御部12へ指令信号を送信し、休止制御部12bを機能させる場合と、携帯電話機9が車載通信装置3に接続されたことを携帯電話機9自身が検出し、その検出結果に基づいて休止制御部12bを機能させる場合とがある。
後者の場合、図6の外部出入力部14,34を説明するモデル図に示しているように、携帯電話機9が、車載通信装置3の取り付け部3aに取り付けられると、外部出入力部14,34間で信号の送受信可能な状態となると共に、携帯電話機9が備えている検出部15は接続完了を検出することができる。すなわち、この検出部15は、例えば電流計15a及び電源15bを含む回路からなり、携帯電話機9と車載通信装置3とが接続されるとこの回路が通電され、当該接続を検出することができる。そして、この検出部15の検出結果を指令信号として端末制御部12へ送信し、休止制御部12bを機能させる。なお、電流計15aを用いず、端子電圧がHighかLowかによって検出を判別するようにしてもよい。
【0040】
以上のように車載通信装置3及び携帯電話機9を構成することにより、ITSの通信サービスエリアにおいて、マルチパスフェージングやドップラーフェージングが生じる通信環境であっても、車載通信装置3は、携帯電話機9のアンテナ10も用いてマルチアンテナシステムを構成することにより、高い送受信性能を備えることが可能となる。この結果、車載通信装置3は、運転支援のための有用な情報の送受信をより確実に行うことができる。
そして、携帯電話機9が車載通信装置3から取り外されると、検出部35によって接続解除が検出され、検出部35が、その旨の情報を車載通信装置3の前記切り替え部32b(図3参照)に送り、切り替え部32bは、第二モードから第一モードへと切り替える。
【0041】
<第二モード(その2)>
図4は、他の実施形態に係る車載通信装置3を含む場合のブロック図である。この車載通信装置3の装置制御部32は、アンテナ10,30を用いて、マルチアンテナシステムとして、アンテナ選択式のダイバーシティ制御を行う。このために、車載通信装置3はスイッチ部37を更に備えている。
前記のとおり、携帯電話機9が車載通信装置3に接続されることで、切り替え部32bによって、車載通信装置3の第一アンテナ30が受信した無線信号の他に、携帯電話機9の第二アンテナ10が受信した無線信号も利用可能となる第二モードに切り替えられる。
【0042】
そして、スイッチ部37の制御回路は、RF部11及びRF部31から受信信号に関する情報(例えば、受信信号強度:RSSI)を取得する。スイッチ部37の制御回路は、この情報に基づいてスイッチを切り替えることにより、最適なアンテナを選択する。すなわち、スイッチ部37は、最も受信信号強度の高いアンテナを選択して、当該アンテナが受信した信号に基づいて情報処理部32aによってITSのための情報処理を行わせる。また、この際、前記休止制御部12bも機能させる。なお、スイッチ部37に制御回路を設けてスイッチを切り替えるのではなく、装置制御部32がスイッチの切り替え制御をするようにしてもよい。この場合、受信信号に関する情報は装置制御部32に入力する。
これにより、受信感度のよいアンテナが選択されて装置制御部32は機能することができ、車載通信装置3は高い送受信性能を備えることが可能となり、運転支援のための有用な情報の送受信をより確実に行うことができる。
【0043】
<第二モード(その3)>
図5は、他の実施形態に係る車載通信装置3及び携帯電話機9を含む場合のブロック図である。この場合も、第二モード(その2)と同様に、車載通信装置3の装置制御部32は、アンテナ10,30を用いて、マルチアンテナシステムとして、アンテナ選択式のダイバーシティ制御を行うことができるが、この実施形態では、外部出入力部14,34及びスイッチ部37の配置が異なる。
【0044】
図5の実施形態のスイッチ37は、RF部31における受信信号強度がある値を下回ると、自動的にアンテナを切り替えるように動作する。例えば、車載通信装置3のアンテナ30が受信した信号に基づいて、装置制御部32がITS情報の処理を実行している間に、当該アンテナ30の受信信号強度が低下すると、スイッチ37は切り替わり、携帯電話機9のアンテナ10の受信信号に基づいて装置制御部32がITS情報の処理を実行する。そして、アンテナ10の受信信号強度が低下すると、使用するアンテナをアンテナ30に切り替える。この構成によれば、アンテナの受信品質を確保することができる。
【0045】
以上本発明の前記各実施形態によれば、携帯電話機9を携帯している使用者(運転者)が車両5に乗り、この車両5に搭載されている車載通信装置3に携帯電話機9を接続すれば、マルチアンテナシステムが構成される。この結果、車載通信装置3は、高い送受信性能を備えることが可能となり、運転支援のための有用な情報の送受信をより確実に行うことができる。
【0046】
また、本発明の構成は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。
例えば、図5の実施形態の場合、携帯電話機9は、通話機能部16の他に、少なくともアンテナ10と外部出入力部14とを備えていればよく、ITS用のRF部11及び端末制御部12を備えていなくてもよい。つまり、この場合の携帯電話機9は、通話機能を備えているが、自身のみでITSのための無線通信及びITS情報の処理を実行する機能を備えておらず、車載通信装置3にマルチアンテナシステムを構成させるための機能を備えているのみである。
また、図3と図4との実施形態の場合では、携帯電話機9は、通話機能部16の他に、少なくともアンテナ10とITS用のRF部11と外部出入力部14とを備えていればよく、ITS用の端末制御部12を備えていなくてもよい。
【0047】
また、前記実施形態では、本発明の移動無線通信装置が、車両5に搭載可能な車載通信装置3であり、移動端末が、使用者が携帯する携帯電話機9である場合を説明したが、反対であってもよく、又は、移動無線通信装置と移動端末との内の一方又は双方は、これら以外の無線送受信機であってもよい。
また、前記実施形態では、マルチアンテナシステムとして、最大比合成方式とアンテナ選択式とのダイバーシティを行う場合を説明したが、これ以外として、第一アンテナと第二アンテナとを用いて、MIMOによる無線通信を行ってもよい。なお、第一アンテナと第二アンテナとは複数本のアンテナから構成されていてもよい。
また、携帯電話機9は、通話用のアンテナ17と、ITS用のアンテナ10とを別として有しているが、一方が他方を兼用していてもよい。
【符号の説明】
【0048】
3:車載通信装置(移動無線通信装置)、 5:車両、 9:携帯電話機(移動端末)、 10:アンテナ(第二アンテナ)、 12a:情報処理部、 12b:休止制御部、 16:通話機能部、 30:アンテナ(第一アンテナ)、 32:装置制御部、 32b:切り替え部、 34:外部出入力部(接続部)、 35:検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第一アンテナと、前記無線信号に基づいて情報処理を実行する装置制御部と、を有している移動無線通信装置であって、
前記所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第二アンテナを有している移動端末が着脱可能に接続される接続部と、
前記第一アンテナが受信した無線信号に基づいて前記装置制御部が情報処理を実行する第一モードと、前記第一アンテナが受信した無線信号の他に前記第二アンテナが受信した無線信号も利用可能として前記装置制御部が情報処理を実行する第二モードとの内のいずれか一方のモードに切り替える切り替え部と、
を備えていることを特徴とする移動無線通信装置。
【請求項2】
車両に搭載可能な車載通信装置からなる移動無線通信装置であって、
前記移動端末は、携帯電話機からなり、
前記装置制御部が実行する情報処理は、高度道路交通システムのための処理である請求項1に記載の移動無線通信装置。
【請求項3】
前記接続部は、前記移動端末が接続されたことを検出する検出部を有し、
前記切り替え部は、前記検出部による検出結果に基づいてモードの切り替えを行う請求項1又は2に記載の移動無線通信装置。
【請求項4】
前記移動端末は、前記第二アンテナが受信した無線信号に基づいて前記装置制御部による処理内容と同種の情報処理を実行する機能と、当該移動端末が前記接続部に接続されると前記情報処理の実行を休止又は前記情報処理により得た情報を送る処理を休止する機能と、を有している請求項1〜3のいずれか一項に記載の移動無線通信装置。
【請求項5】
所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第一アンテナと、前記無線信号に基づいて高度道路交通システムのための情報処理を実行する装置制御部とを有している車載通信装置に接続可能な携帯電話機であって、
無線通信を利用した通話機能を有する通話機能部と、
前記所定の周波数帯の無線信号を受信可能な第二アンテナと、
前記無線信号に基づいて高度道路交通システムのための情報処理を実行する情報処理部と、
前記車載通信装置に接続されると前記情報処理部による情報処理の実行を休止又は前記情報処理部が得た情報を送る処理を休止する休止制御部と、
を備えたことを特徴とする携帯電話機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−71723(P2011−71723A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220732(P2009−220732)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】