説明

積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法

導電体材料濃度を所望のように制御しつつ、導電性材料が、高い分散性をもって、分散された導電体ペーストを製造することができる積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法を提供する。 導電体粉末と、バインダと、溶剤とを、粘土状に混練する混練工程と、前記混練工程によって得られた混合物に、混練工程で用いた溶剤と同一の溶剤を添加して、粘度を低下させ、前記混合物をスラリー化するスラリー化工程を含むことを特徴とする積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法に関するものであり、さらに詳細には、導電体材料濃度を所望のように制御しつつ、導電性材料が、高い分散性をもって、分散された導電体ペーストを製造することができる積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の小型化にともなって、電子機器に実装される電子部品の小型化および高性能化が要求されるようになっており、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品においても、積層数の増加、積層単位の薄層化が強く要求されている。
【0003】
積層セラミックコンデンサによって代表される積層セラミック電子部品を製造するには、まず、セラミック粉末と、アクリル樹脂、ブチラール樹脂などのバインダと、フタル酸エステル類、グリコール類、アジピン酸、燐酸エステル類などの可塑剤と、トルエン、メチルエチルケトン、アセトンなどの有機溶媒とを混合分散して、誘電体ペーストを調製する。
【0004】
次いで、誘電体ペーストを、エクストルージョンコーターやグラビアコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)などによって形成された支持シート上に、塗布し、加熱して、塗膜を乾燥させ、セラミックグリーンシートを作製する。
【0005】
さらに、セラミックグリーンシート上に、ニッケルなどの電極ペーストを、スクリーン印刷機などによって、所定のパターンで、印刷し、乾燥させて、電極層を形成する。
【0006】
電極層が形成されると、電極層が形成されたセラミックグリーンシートを支持シートから剥離して、セラミックグリーンシートと電極層を含む積層体ユニットを形成し、所望の数の積層体ユニットを積層して、加圧し、得られた積層体を、チップ状に切断して、グリーンチップを作製する。
【0007】
最後に、グリーンチップからバインダを除去して、グリーンチップを焼成し、外部電極を形成することによって、積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品が製造される。
【0008】
電子部品の小型化および高性能化の要請によって、現在では、積層セラミックコンデンサの層間厚さを決定するセラミックグリーンシートの厚さを3μmあるいは2μm以下にすることが要求され、300以上のセラミックグリーンシートと電極層を含む積層体ユニットを積層することが要求されている。
【0009】
その結果として、きわめて薄い電極層、たとえば、2μm以下の厚さの電極層を形成することが要求されており、かかる要求を満たすためには、導電体ペースト中の導電体材料の分散性を向上させることが必要である。
【0010】
すなわち、導電体ペースト中の導電体材料の分散性が低いと、導電体ペーストを印刷して形成した電極層の乾燥後の導電体材料の密度が低くなり、燒結時に、電極層が大きく収縮するため、印刷によって、薄層の電極層を形成した場合には、燒結後に、電極層が不連続になって、コンデンサの電極の重なり面積が低くなり、取得容量が低くなるという問題が生じる。
【0011】
したがって、きわめて薄い電極層を、連続して、形成するためには、電極層を形成するための導電体ペースト中の導電体材料濃度を、高い精度で、制御するとともに、導電体ペースト中の導電性材料の分散性を向上させて、導電体ペーストを印刷して形成された電極層中の乾燥後の導電体材料の密度を向上させることが必要になる。
【0012】
また、導電性ペースト中には、焼結を抑制するために、焼結抑制材が添加され、積層セラミックコンデンサの場合には、誘電体の組成と同一またはほぼ同じ誘電体組成物を、焼結抑制材として、導電体粉末に混合しているが、焼結抑制材を効果的に用いるためには、焼結抑制材と導電体粉末との分散性を均一にすることが必要である。
【0013】
従来の導電体ペーストは、導電体粉末と、焼結抑制材と、メチルエチルケトンやアセトンなどの低沸点溶剤とを、ボールミルを用いて、混合して、分散し、さらに、こうして得られた分散物に、ターピオネールなどの高沸点溶剤と、エチルセルロースなどの有機バインダを添加し、混合して、スラリーを生成し、あるいは、導電体粉末と、焼結抑制材と、メチルエチルケトンやアセトンなどの低沸点溶剤と、ターピオネールなどの高沸点溶剤とを、ボールミルを用いて、混合して、分散し、さらに、こうして得られた分散物に、ターピオネールなどの高沸点溶剤と、エチルセルロースなどの有機バインダを添加し、混合して、スラリーを生成し、エバポレータを用いて、低沸点溶剤を蒸発させて、スラリーから除去して、導電体ペーストを調製し、粘度を調整するために、得られた導電体ペーストに、さらに、ターピオネールなどの高沸点溶剤を添加して、自動乳鉢や3本ロールなどを用いて、分散し、調製されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、かかる方法によって、導電体ペーストを調製する場合には、蒸発させた低沸点溶剤の残留量および低沸点溶剤を蒸発させて、除去する際の高沸点溶剤の蒸発量を、精度よく、制御することが困難であり、したがって、所望の導電体材料濃度を有する導電体ペーストを調製することがきわめて難しいため、導電体ペーストを印刷することによって、所望の乾燥厚さを有する内部電極層を形成することがきわめて困難であり、また、低沸点溶剤を蒸発させて、導電体ペーストを調製した後に、ターピオネールなどの高沸点溶剤を、導電体ペーストに添加して、粘度を調整する場合には、いわゆるソルベント・ショックが生じ、すなわち、導電体粉末に対する親和性が異なる溶剤種の混合および固形分濃度の急激な変化によって、導電体粉末が凝集し、導電体材料が、高い分散性をもって、分散された導電体ペーストを得ることができない場合があるという問題があった。
【0015】
したがって、本発明は、導電体材料濃度を所望のように制御しつつ、導電性材料が、高い分散性をもって、分散された導電体ペーストを製造することができる積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のかかる目的は、導電体粉末と、バインダと、溶剤とを、粘土状に混練する混練工程と、前記混練工程によって得られた混合物に、混練工程で用いた溶剤と同一の溶剤を添加して、粘度を低下させ、前記混合物をスラリー化するスラリー化工程を含むことを特徴とする積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法によって達成される。
【0017】
本発明によれば、導電体ペーストの導電体材料濃度は、混合物に添加される溶剤の量によって決定されるから、所望の導電体材料濃度を有する導電体ペーストを調製することが可能になる。
【0018】
また、本発明によれば、導電体ペーストの粘度を調製するために、混練工程で用いた溶剤と同一の溶剤が添加されるから、いわゆるソルベント・ショックが発生することを確実に防止することができ、したがって、導電体材料の分散性に優れた導電体ペーストを調製することが可能になる。
【0019】
本発明の好ましい実施態様においては、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、これらの混合物が湿潤点に達するまで、混練される。
【0020】
本発明の好ましい実施態様においては、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、これらの混合物の固形分濃度が84ないし94%になるまで、混練される。
【0021】
本発明の好ましい実施態様においては、高速剪断ミキサー、遊星方式の混練機およびニーダーよりなる群から選ばれるミキサーを用いて、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが混練される。
【0022】
本発明の好ましい実施態様においては、さらに、スラリー工程によって得られたスラリーを、閉鎖型乳化器を用いて、連続的に分散させ、導電体ペーストが調製される。
【0023】
本発明の好ましい実施態様によれば、スラリーが、閉鎖型乳化器を用いて、分散され、導電体ペーストが調製されるから、導電体ペースト中の導電体材料の分散性をさらに向上させることが可能になるとともに、導電体ペーストの導電体材料濃度を、所望のように制御することが可能になる。
【0024】
また、本発明の好ましい実施態様によれば、スラリーが、閉鎖型乳化器を用いて、連続的に分散され、導電体ペーストが調製されるから、三本ロールを用いて、スラリーを分散し、導電体ペーストを調製する場合に比して、分散工程における固形分濃度の変化を抑制するとともに、製造効率を大幅に増大させることが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、導電体材料濃度を所望のように制御しつつ、導電性材料が、高い分散性をもって、分散された導電体ペースト導電体ペーストを製造することができる積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明において、好ましくは、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、混合物がボールポイントに達するまで、混練され、さらに好ましくは、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、混合物の固形分濃度が84ないし94%になるまで、混練される。
【0027】
本発明において、好ましくは、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、高速攪拌型ミキサーを用いて、混練される。
【0028】
本発明において、さらに好ましくは、高速剪断ミキサー、遊星方式の混練機およびニーダーよりなる群から選ばれるミキサーを用いて、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが混練される。
【0029】
本発明において、高速剪断ミキサーとしては、三井鉱山株式会社製「ヘンシェルミキサー」(商品名)や、日本アイリッヒ株式会社製「アイリッヒミキサー」などが、好ましく用いられ、高速剪断ミキサーを用いて、導電体粉末と、バインダと、溶剤と混練する場合には、回転速度が、通常、500rpm、3000rpmに設定される。
【0030】
本発明において、遊星方式の混練機としては、2軸以上の遊星方式の混合・混練機であるプラネタリーミキサーが、好ましく用いられ、プラネタリーミキサーを用いて、導電体粉末と、バインダと、溶剤と混練する場合には、100rpm以下の低速で回転されて、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが混練される。
【0031】
本発明において、ニーダーを用いて、導電体粉末と、バインダと、溶剤と混練する場合には、100rpm以下の低速で回転されて、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが混練される。
【0032】
本発明において、好ましくは、100重量部の導電体粉末に、0.25ないし1.7重量部のバインダと、3.0ないし15.0重量部の溶剤が加えられ、固形分濃度が84ないし94%になるまで、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、混練され、さらに好ましくは、100重量部の導電体粉末に、0.5ないし1.0重量部のバインダと、2.0ないし10.0重量部の溶剤が加えられ、固形分濃度が85ないし92%になるまで、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、混練される。
【0033】
本発明において、好ましくは、バインダを、溶剤に溶解させて、有機ビヒクルが調製され、3ないし15重量%の有機ビヒクル溶液が、導電体粉末に加えられて、導電体粉末と、バインダと、溶剤とが、混練される。
【0034】
本発明において、好ましくは、混練工程によって得られた混合物に、分散剤が添加されて、混合物がスラリー化される。
【0035】
本発明において、さらに好ましくは、混練工程によって得られた混合物に、導電体粉末100重量部に対して、0.25ないし2.0重量部の分散剤が添加されて、混合物の粘度を低下させられた後に、溶剤が添加されて、混合物がスラリー化される。
【0036】
本発明において、好ましくは、混練工程によって得られた混合物に、分散剤が添加されて、混合物の固形分濃度が40ないし50%、粘度が数パスカルないし数十パスカルになるまで、混合物がスラリー化される。
【0037】
本発明において、好ましくは、さらに、スラリー工程によって得られたスラリーが、閉鎖型乳化器を用いて、連続的に分散されて、導電体ペーストが調製される。
【0038】
本発明において、さらに好ましくは、スラリー工程によって得られたスラリーが、ホモジナイザーまたはコロイドミルを用いて、連続的に分散されて、導電体ペーストが調製される。
【0039】
本発明において用いられるバインダは、格別限定されるものではないが、好ましくは、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂およびこれらの混合物よりなる群から選ばれたバインダが用いられる。
【0040】
本発明において用いられる溶剤は、格別限定されるものではないが、好ましくは、ターピオネール、ジヒドロターピオネール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ターピオネールアセテート、ジヒドロターピオネールアセテート、ケロシンおよびこれらの混合物よりなる群から選ばれた溶剤が用いられる。
【0041】
本発明において用いられる分散剤は、格別限定されるものではなく、高分子型分散剤、ノニオン系分散剤、アニオン系分散剤、カチオン系分散剤、両面界面活性剤などの分散剤を用いることができるが、これらの中では、ノニオン系分散剤が好ましく、とくに、HLBが5ないし7のポリエチレングリコール系分散剤が、好ましく用いられる。
【0042】
本発明にしたがって調製された導電体ペーストは、スクリーン印刷機などを用いて、セラミックグリーンシートの表面に、所定のパターンで印刷されて、電極層が形成される。
【0043】
次いで、誘電体ペーストが、スクリーン印刷機などを用いて、セラミックグリーンシートの表面に印刷された電極層と相補的なパターンで、セラミックグリーンシートの表面に、印刷されて、スペーサ層が形成され、セラミックグリーンシートから、支持シートが剥離されて、セラミックグリーンシート、電極層およびスペーサ層を備えた積層体ユニットが作製される。
【0044】
誘電体ペーストを、スクリーン印刷機などを用いて、セラミックグリーンシートの表面に、電極層と相補的なパターンで印刷して、スペーサ層を形成し、スペーサ層の乾燥後に、スクリーン印刷機などを用いて、本発明にしたがって導電体ペーストを、セラミックグリーンシートの表面に印刷して、電極層を形成してもよい。
【0045】
さらに、第一の支持シートの表面に、セラミックグリーンシートを形成するとともに、第二の支持シートの表面に、本発明にしたがって調製された導電体ペーストを印刷して、電極層を形成し、さらに、第二の支持シートの表面に、電極層と相補的なパターンで、誘電体ペーストを印刷して、スペーサ層を形成し、第三の支持シート上に形成された接着層を、セラミックグリーンシートあるいは電極層およびスペーサ層の表面に転写し、接着層を介して、セラミックグリーンシートと、電極層およびスペーサ層を接着して、積層体ユニットを作製することもできる。
【0046】
こうして作製された所望の数の積層体ユニットが積層され、加圧されて、積層体が形成され、得られた積層体が、チップ状に裁断されて、グリーンチップが作製される。
【0047】
さらに、バインダが除去された後に、グリーンチップが焼成され、外部電極が形成されて、積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品が製造される。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の効果をより明瞭なものとするため、実施例および比較例を掲げる。
【0049】
実施例
導電体ペースト中の導電体材料濃度が、47重量%になるように、以下のようにして、導電体ペーストを調製した。
【0050】
1.48重量部の(BaCa)SiOと、1.01重量部のYと、0.72重量部のMgCOと、0.13重量部のMnOと、0.045重量部のVを混合して、添加物粉末を調製した。
【0051】
こうして調製した添加物粉末100重量部に対して、150重量部のアセトンと、104.3重量部のターピオネールと、1.5重量部のポリエチレングリコール系分散剤を混合して、スラリーを調製し、アシザワ・ファインテック株式会社製粉砕機「LMZ0.6」(商品名)を用いて、スラリー中の添加物を粉砕した。
【0052】
スラリー中の添加物の粉砕にあたっては、ZrOビーズ(直径0.1mm)を、ベッセル内に、ベッセル容量に対して、80%になるように充填し、周速14m/分で、ローターを回転させ、スラリーを、全スラリーがベッセルに滞留する時間が5分になるまで、ベッセルとスラリータンクとの間を循環させて、スラリー中の添加物を粉砕した。
【0053】
粉砕後の添加物のメディアン径は0.1μmであった。
【0054】
次いで、エバポレータを用いて、アセトンを蒸発させて、スラリーから除去し、添加物がターピオネールに分散された添加物ペーストを調製した。添加物ペースト中の導電体材料濃度は49.3重量%であった。
【0055】
さらに、0.2μmの粒径を有する川鉄工業株式会社製のニッケル粉末100重量部に対して、19.14重量部の0.05μmの粒径を有する堺化学工業株式会社製のBaTiO粉末と、1.17重量部の添加物ペーストを加え、プラネタリーミキサーを用いて、5分間にわたって、混練した。回転数は50rpmとした。
【0056】
次いで、8重量部のポリビニルブチラール(重合度2400、ブチラール化度69%、残留アセチル基量12%)を、70℃で、92重量部のターピオネールに溶解して、調製した有機ビヒクルの8%溶液を、ニッケル粉末、BaTiO粉末および添加物ペーストの混合物が粘土状になり、一旦、きわめて高くなった混練機の負荷電流値が低下して、一定値に安定するまで、混合物に徐々に添加して、混練した。
【0057】
その結果、30時間にわたって、混合物を混練し、17.14重量部の有機ビヒクル溶液を添加したところ、混練機の負荷電流値が一定値で安定した。
【0058】
次いで、粘土状になった混合物に、1.19重量部のポリエチレングリコール系分散剤を添加して、粘土状混合物の粘度を低下させて、クリーム状にした。
【0059】
さらに、帯電助剤として、可塑剤として、2.25重量部のフタル酸ジオクチル、残った39.11重量部の有機ビヒクルおよび32.2重量部のターピネオールを徐々に添加して、粘土状混合物の粘度を徐々に低下させた。
【0060】
次いで、こうして得られた粘土状混合物を、コロイドミルを用いて、3回にわたって、分散処理し、導電体ペーストを調製した。分散条件は、Gap:40μm、回転数:1800rpmとした。
【0061】
こうして調製した導電体ペーストの粘度を、HAAKE株式会社製円錐円盤粘度計を用いて、25℃、剪断速度8sec−1で、測定した。
【0062】
さらに、こうして調製した導電体ペースト1グラムを秤量して、るつぼに入れ、600℃で、焙焼し、焙焼後の重量を秤量して、導電体ペーストに含まれた導電体材料濃度を測定した。
【0063】
導電体ペーストの粘度および導電体材料濃度を測定した結果は、表1に示されている。
【0064】
さらに、粒ゲージを用いて、導電体ペーストに含まれている粗粒および未溶解樹脂成分の有無を測定した。
【0065】
測定結果は、表1に示されている。
【0066】
次いで、導電体ペーストを、スクリーン印刷法によって、ポリエチレンテレフタレートフイルム上に印刷し、80℃で、5分間にわたって、乾燥させ、得られた電極層の表面粗さ(Ra)、光沢度および塗膜密度を測定した。
【0067】
ここに、電極層の表面粗さ(Ra)は、株式会社小阪研究所製「サーフコーダー(SE−30D)」(商品名)を用いて測定し、電極層の光沢度は、日本電飾工業株式会社製の光沢度計を用いて測定した。
【0068】
また、電極層の塗膜密度は、乾燥した電極層を、φ12mmに打ち抜き、その重量を精密天秤で測定し、その厚さをマイクロメーターで測定して、算出した。
【0069】
測定結果は、表1に示されている。
【0070】
比較例
導電体ペースト中の導電体材料濃度が、47重量%になるように、以下のようにして、導電体ペーストを調製した。
【0071】
まず、実施例と同様にして、添加物ペーストを調製した。
【0072】
次いで、以下の組成を有するスラリーを、ボールミルを用いて、16時間わたって、分散した。
【0073】
分散条件は、ミル中のZrO(直径2.0mm)の充填量を30容積%、ミル中のスラリー量を60容積%とし、ボールミルの周速は45m/分とした。
【0074】
ニッケル粉末(粒径0.2μm) 100重量部
添加物ペースト 1.77重量部
BaTiO粉末(堺化学工業株式会社製:粒径0.05μm) 19.14重量部
ポリビニルブチラール 4.5重量部
ポリエチレングリコール系分散剤 1.19重量部
フタル酸ジオクチル 2.25重量部
ターピオネール 83.96重量部
アセトン 56重量部
ここに、ポリビニルブチラールの重合度は、2400、ブチラール化度は69%、残留アセチル基量は12%であった。
【0075】
分散処理後、エバポレータおよび加熱機構を備えた攪拌装置によって、アセトンを蒸発させて、除去し、導電体ペーストを得た。
【0076】
こうして調製した導電体ペーストの粘度を、HAAKE株式会社製円錐円盤粘度計を用いて、25℃、剪断速度8sec−1で、測定した。
【0077】
さらに、こうして調製した導電体ペースト1グラムを秤量して、るつぼに入れ、600℃で、焙焼し、焙焼後の重量を秤量して、導電体ペーストに含まれた導電体材料濃度を測定した。
【0078】
導電体ペーストの粘度および導電体材料濃度を測定した結果は、表1に示されている。
【0079】
さらに、粒ゲージを用いて、導電体ペーストに含まれている粗粒および未溶解樹脂成分の有無を測定した。
【0080】
測定結果は、表1に示されている。
【0081】
次いで、導電体ペーストを、スクリーン印刷法によって、ポリエチレンテレフタレートフイルム上に印刷し、80℃で、5分間にわたって、乾燥させ、実施例と同様にして、得られた電極層の表面粗さ(Ra)、光沢度および塗膜密度を測定した。
【0082】
測定結果は、表1に示されている。
【0083】
【表1】

表1に示されるように、比較例にしたがって調整された導電体ペーストの粘度が14.3Paであったのに対して、実施例にしたがって調製された導電体ペーストの粘度は6.3Paであり、実施例にしたがって調製された導電体ペーストにおいては、導電体材料の分散性が十分に高いことが認められた。
【0084】
また、表1に示されるように、比較例にしたがって調製した導電体ペースト中の導電体材料濃度が49.5%で、目標とする導電体材料濃度である47重量%と大きく異なっていたのに対し、実施例にしたがって調製した導電体ペースト中の導電体材料濃度は、47.2重量%で、目標とする導電体材料濃度である47重量%とほぼ一致した。
【0085】
したがって、本発明によれば、導電体ペースト中の導電体材料濃度を所望のように制御し得ることがわかった。
【0086】
さらに、実施例にしたがって調製した導電体ペーストからは、粗粒も未溶解樹脂成分も検出されなかったのに対し、比較例にしたがって調製した導電体ペーストからは、16μmの粗粒が検出された。これは、実施例にしたがって調製した導電体ペーストにおいては、導電体材料の分散性が向上したためと考えられる。
【0087】
また、表1に示されるように、比較例にしたがって作製した電極層は、実施例にしたがって作製した電極層に比して、表面粗さRaが大きく、平滑性に劣ることがわかった。これは、実施例にしたがって調製した導電体ペーストに比して、比較例にしたがって調製した導電体ペーストには、16μmの粗粒が含まれており、導電体材料の分散性も低かったためと推測される。
【0088】
さらに、表1に示されるように、実施例にしたがって作製した電極層は、比較例にしたがって作製した電極層に比して、光沢度および密度のいずれもが高いことが認められた。これは、比較例にしたがって調製した導電体ペーストに比して、実施例にしたがって調製した導電体ペーストにおいては、導電体材料の分散性が向上したためと推測される。
【0089】
以上のとおり、実施例および比較例によれば、本発明にしたがって調製された導電体ペーストは、導電体材料が、高い分散性をもって、分散されており、本発明によれば、導電体材料が、高い分散性をもって、分散された導電体ペーストを製造し得ることがわかった。
【0090】
また、実施例および比較例によれば、本発明にしたがって調製された導電体ペースト中の導電体材料濃度は、目標とする導電体材料濃度とほぼ一致しており、本発明によれば、導電体ペースト中の導電体材料濃度を所望のように制御し得ることがわかった。
【0091】
本発明は、以上の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0092】
たとえば、前記実施例においては、コロイドミルを用いて、粘土状混合物を分散させているが、コロイドミルを用いて、粘土状混合物を分散させることは必ずしも必要でなく、コロイドミルに代えて、ホモジナイザーを用いて、粘土状混合物を分散させるようにしてもよい。
【0093】
また、前記実施例においては、ニッケル粉末、誘電体粉末および添加物ペーストを、プラネタリーミキサーを用いて、混練しているが、ニッケル粉末、誘電体粉末および添加物ペーストを、プラネタリーミキサーを用いて、混練することは必ずしも必要でなく、プラネタリーミキサーに代えて、ニーダーあるいは三井鉱山株式会社製「ヘンシェルミキサー」(商品名)や、日本アイリッヒ株式会社製「アイリッヒミキサー」などの高速剪断ミキサーを用いて、ニッケル粉末、誘電体粉末および添加物ペーストを混練するようにしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体粉末と、バインダと、溶剤とを、粘土状に混練する混練工程と、前記混練工程によって得られた混合物に、混練工程で用いた溶剤と同一の溶剤を添加して、粘度を低下させ、前記混合物をスラリー化するスラリー化工程を含むことを特徴とする積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項2】
導電体粉末と、バインダと、溶剤とを、混合物が湿潤点に達するまで、混練することを特徴とする請求項1に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項3】
導電体粉末と、バインダと、溶剤とを、混合物の固形分濃度が84ないし94%になるまで、混練することを特徴とする請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項4】
高速剪断ミキサー、遊星方式の混練機およびニーダーよりなる群から選ばれるミキサーを用いて、導電体粉末と、バインダと、溶剤とを混練することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項5】
100重量部のニッケル粉末に、0.25ないし1.7重量部のバインダと、3.0ないし15.0重量部の溶剤を加え、固形分濃度が84ないし94%になるように、混練することを特徴とする請求項3または4に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項6】
100重量部のニッケル粉末に、0.5ないし1.0重量部のバインダと、2.0ないし10.0重量部の溶剤を加え、固形分濃度が85ないし92%になるように、混練することを特徴とする請求項5に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記バインダを、前記溶剤に溶解させて、有機ビヒクルを調製し、3ないし15重量%の有機ビヒクル溶液を、導電体粉末に加えて、混練することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項8】
前記混練工程によって得られた前記混合物に、分散剤を添加して、前記混合物をスラリー化することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項9】
前記混練工程によって得られた前記混合物に、導電体粉末100重量部に対して、0.25ないし2.0重量部の分散剤を添加して、前記混合物の粘度を低下させ、次いで、溶剤を添加することを特徴とする請求項8に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項10】
さらに、前記スラリー工程によって得られたスラリーを、閉鎖型乳化器を用いて、連続的に分散させることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項11】
前記スラリー工程によって得られたスラリーを、ホモジナイザーを用いて、連続的に分散させることを特徴とする請求項10に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項12】
前記スラリー工程によって得られたスラリーを、コロイドミルを用いて、連続的に分散させることを特徴とする請求項10に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項13】
前記バインダとして、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂およびこれらの混合物よりなる群から選ばれたバインダを用いることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項14】
前記溶剤として、ターピオネール、ジヒドロターピオネール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ターピオネールアセテート、ジヒドロターピオネールアセテート、ケロシンおよびこれらの混合物よりなる群から選ばれた溶剤を用いることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項15】
前記分散剤として、ノニオン系分散剤を用いることを特徴とする請求項7ないし14のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。
【請求項16】
前記分散剤として、HLBが5ないし7のポリエチレングリコール系分散剤を用いることを特徴とする請求項15に記載の積層セラミック電子部品の内部電極用の導電体ペーストの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/043568
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515099(P2005−515099)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014161
【国際出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】