説明

積層体形成用エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムの製造方法

【課題】積層体の形成に用いられるエチレン−不飽和エステル共重合体フィルムの製造方法であって、フィルム保管時のブロッキング防止等のために有効なエンボスが付与され、且つ、積層工程における位置決めに必要な良好なタックを有するフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】エチレン−不飽和エステル共重合体を含む組成物からなるフィルム30を、微細な凹凸形状パターンを有するエンボスロール21と当該エンボスロールに対向配置されたゴム製押圧ロール22との間で圧延することにより、前記フィルム30の一方の面にのみエンボスを転写する工程を含む、積層体形成用フィルム40の製造方法において、
前記エンボスロール21のプレス圧が0.1〜0.5MPaであることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜等の、積層体形成用エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムの製造方法に関し、特に、フィルム保管時のブロッキング防止等のために有効なエンボスが付与され、且つ積層工程における位置決めに必要な良好なタック(軽い力で短時間に被接着体に粘着する力)を有するフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エチレン酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略す)等のエチレン−不飽和エステル共重合体を含む組成物からなるフィルム(以下、エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムと略す)は合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜のような形で積層体の形成に利用されている。エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムは、合わせガラス用中間膜とした場合は、ガラス板の間に挟持され、耐貫通性や破損したガラスの飛散防止等の機能を発揮し、太陽電池用封止膜とした場合は、太陽電池用セルの表面及び裏面に配置され、絶縁性の確保や機械的耐久性の確保等の機能を発揮する。
【0003】
合わせガラスを製造する場合には、例えば、図2に示すように中間膜5を2枚のガラス板7A及び7Bの間に配設して得られた積層体を減圧下で予備圧着し、各層に残存する空気を脱気した後、加熱加圧により本圧着して、積層体を接着一体化させる。
【0004】
また、太陽電池を製造する場合には、一般に、図3に示すように、ガラス板などからなる表面側透明保護部材11、表面側封止膜13A、シリコン発電素子などの太陽電池用セル14、裏面側封止膜13B、及び裏面側保護部材(バックカバー)12をこの順で形成した積層体を減圧下で予備圧着し、各層に残存する空気を脱気した後、加熱加圧して表面側封止膜13A及び裏面側封止膜13Bを架橋硬化させて接着一体化させる。
【0005】
このようなエチレン−不飽和エステル共重合体フィルムは、保管時にフィルム同士が付着し塊状となる現象(ブロッキングと言う)が生じないこと、合わせガラスや太陽電池等の積層体を製造する際の積層工程の作業性が良好であること、及び予備圧着工程における脱気性が良好であること等が要求される。脱気が不十分である場合は、得られた合わせガラスの透明性の低化や太陽電池の発電効率の劣化が生じたり、耐久性が不十分になり、長期間の使用において気泡が発生したりする恐れがある。
【0006】
これらの要求を満たすエチレン−不飽和エステル共重合体フィルムとして、微細な凹凸形状パターン(エンボスと言う)をフィルムの片面又は両面に形成された合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜が開発されている(特許文献1、2)。また、例えば、両面にエンボスを付与したフィルムを製造する方法として一対のエンボスロール(前記フィルムにエンボスを付与するためのロールを言う)の、一方の面と他方の面とのロールの表面粗さ、ロール温度及びプレス圧の関係を規定した製造方法(特許文献3)等が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−130931号公報
【特許文献2】特開2000−185027号公報
【特許文献3】特開平7−178812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらのエンボスを付与したエチレン−不飽和エステル共重合体フィルムは、保管時のブロッキングの防止や、製造時の積層体の脱気性向上については有効であるが、積層工程の作業性については必ずしも良好とは言えない。即ち、積層工程の作業性を良好とするためには、前記フィルムをガラス板等の上に精確に位置決めして積層できる程度のタック(軽い力で短時間に被接着体に粘着する力)が必要であるが、エンボスによりタックが低下するため、積層時に滑り易くなり、精確な位置決めが困難になる。
【0009】
この対策として、片面のみにエンボスを付与したフィルムを用いて、エンボスを付与した面の反対面(以下、非エンボス面と略す)において積層工程の位置決めを行うことが考えられるが、本発明者らの検討によると、単に片面にのみエンボスを付与したフィルムを製造しても、良好なタックを有する非エンボス面は得られないことが分かった。
【0010】
従って、本発明の目的は、積層体の形成に用いられるエチレン−不飽和エステル共重合体フィルムの製造方法であって、フィルム保管時のブロッキング防止等のために有効なエンボスが付与され、且つ、積層工程における位置決めに必要な良好なタックを有するフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、エチレン−不飽和エステル共重合体を含む組成物からなるフィルムを、微細な凹凸形状パターンを有するエンボスロールと当該エンボスロールに対向配置されたゴム製押圧ロールとの間で圧延することにより、前記フィルムの一方の面にのみエンボスを転写する工程を含む、積層体形成用フィルムの製造方法において、前記エンボスロールのプレス圧が0.1〜0.5MPaであることを特徴とする製造方法によって達成される。
【0012】
一般に、樹脂フィルムの片面にのみエンボスを付与する場合、エンボスを転写するエンボスロールと、そのエンボスロールに対向配置された押圧ロールとの間で圧延する方法が採用されている。通常、押圧ロールはエンボスロールの凹凸形状パターンを樹脂フィルムに十分に転写するために所定の弾性を有するゴム製のものが使用される。これまで、特許文献3のように両面にエンボスを付与する場合の方法を含めて、エンボスが付与される面(以下、エンボス面と略す)の表面状態を調節する方法については種々検討されてきた。しかしながら、片面にのみエンボスを付与する際に、結果的に生じる非エンボス面の表面状態についてはほとんど検討されていなかった。
【0013】
通常、ゴム製押圧ロールはその材料の性質からロール表面は金属表面のような平滑性はなく、微細な凹凸が存在するため、非エンボス面の表面にその微細な凹凸が転写される場合がある。本発明者らは、エンボスを転写する際のエンボスロールのプレス圧を上記の範囲で行うことで、エンボス面に対して十分にエンボスを転写するとともに、良好なタックを有する非エンボス面を得ることができることを見出した。
【0014】
本発明に係る積層体形成用フィルムの製造方法の好ましい態様は以下の通りである。
(1)前記積層体形成用フィルムのエンボスが転写された面の反対面に微細な凹凸が形成されており、当該凹凸の平均間隔Smが600〜1600μmである。
(2)前記積層体形成用フィルムの、エンボスが転写された面の反対面の表面の算術平均粗さRaが1.5〜2.2μmである。
【0015】
上述の通り、本発明の製造方法により得られる積層体形成用フィルムの非エンボス面には、ゴム製押圧ロールにより、結果的に微細な凹凸が形成されている場合がある。その凹凸の平均間隔Sm、及び/又は表面の算術平均粗さRaが上記の範囲とすれば、より良好なタックを有する非エンボス面とすることができる。
(3)前記エチレン-不飽和エステル共重合体がエチレン−酢酸ビニル共重合体である。
(4)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、20〜35質量部である。
(5)前記積層体形成用フィルムが、合わせガラス用中間膜又は太陽電池用封止膜である。本発明により得られる積層体形成用フィルムは、非エンボス面が良好なタックを有しているので、積層時に精確な位置決めが必要とされる合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜として特に有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の積層体形成用エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムの製造方法によれば、保管時のブロッキング防止及び積層体の製造時における脱気性の向上に有効なエンボスが付与され、且つ積層工程における位置決めに必要な良好なタックを有する積層体形成用フィルムを製造することができるので、密着性に優れると共に製造時の作業性に優れた合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る積層体形成用エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムの製造方法の代表的な一例を示し、(A)が全体を示す概略断面図であり、(B)がロールとフィルムとの接触部分(図1(A)の破線部分)を拡大した概略断面図である。
【図2】一般的な合わせガラスを説明するための概略断面図である。
【図3】一般的な太陽電池を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の積層体形成用エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムの製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1(A)は本発明の製造方法の代表的な一例を示す概略断面図であり、図1(B)はロールとフィルムとの接触部分を拡大した概略断面図である。
【0019】
図1(A)に示した通り、まず、エチレン−不飽和エステル共重合体を含む組成物からなるフィルム30を、微細な凹凸形状パターンを有するステンレス鋼等の金属製のエンボスロール21と、それに対向配置されたシリコーンゴムやクロロプレンゴム等のゴム製押圧ロール22との間に挿入する。次いでフィルム30を矢印方向に搬送しながら、エンボスロール21とゴム製押圧ロール22との間で加熱加圧、圧延する。この際、エンボスロール21の微細な凹凸形状パターンがフィルム30に転写される。エンボスロール21の温度は、フィルム30の組成物の配合によっても異なるが、例えば、20〜40℃、特に20〜30℃とするのが好ましい。続いて、フィルム30は、第1ガイドロール23aを経て、第2ガイドロール23b及び第3ガイドロール23cにより、所定の張力を掛けられた状態で搬送されながら冷却され、積層体形成用フィルム40が得られる。通常、得られた積層体形成用フィルム40はロール状に巻き取られ(図示していない)、使用時まで保管される。
【0020】
フィルム30は、例えば、エチレン−不飽和エステル共重合体及び架橋剤等を含む組成物を、ミキシングロール等に投入して溶融混練した後に、フィルム状に成形することで得られる。成形方法としては、従来公知の成形方法が使用できる。例えば、カレンダ成形法、押出成形法、射出成形法、又は加熱プレス法などが用いることができる。均一な厚さを有するフィルムを高速で生産できることから、カレンダ成形法が特に有用である。カレンダ成形法は、組成物を溶融混練等で混合した後、加熱ロールに投入して圧延することによりフィルム状に成形する方法である。組成物の混合温度は、配合によって異なるが、例えば、40〜90℃、特に60〜80℃の温度で加熱混練することにより行うのが好ましい。また、加熱ロールの温度については、架橋剤を含む場合は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、40〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。フィルム30の成形は、フィルム成形及びエンボス付与工程を連続的に行うような装置で行っても良いし、フィルム30のみを予め成形する装置で行っても良い。
【0021】
エンボスロール21による圧延工程部分をより詳細に説明すると、図1(B)に示すように、フィルム30のエンボス面31に、エンボスロール21の凹凸形状パターン24が押し付けられ、ゴム製押圧ロール22の弾性により凹凸形状パターン24がエンボス面31に十分に転写される。この際、フィルム30の非エンボス面32は、ゴム製押圧ロール22のロール表面25に押し付けられることになる。ゴム製押圧ロール22は、その素材がゴム製であるため、一般に、ロール表面25は金属表面のような平滑性はなく、微細な凹凸が存在する。従って、フィルム30の非エンボス面32は、結果的にゴム製押圧ロール22のロール表面25の微細な凹凸を部分的に転写し、その転写された微細な凹凸によって、非エンボス面32が良好なタックを得られない場合がある。
【0022】
本発明においては、エンボスロール21のプレス圧を0.1〜0.5MPa、好ましくは0.1〜0.3MPaで行うことにより、フィルム30のエンボス面31に対するエンボスの付与を十分に行い、且つ、非エンボス面32に対するゴム製押圧ロール22のロール表面25の微細な凹凸の転写を抑制することができる。これにより、良好なタックを有する非エンボス面32を得ることができる。0.1MPaより低いプレス圧ではエンボス面31に対するエンボスの付与が不十分になり、0.5MPaより高いプレス圧では非エンボス面32のタックが低下する。なお、本発明において「良好なタック」は、ガラス板に非エンボス面を接触させ、500gの荷重を90秒かけた後、300mm/分の速度で剥がしたときの密着力(タックメータ(MODEL:DPX−SOT(イマダ社製))にて測定)が0.4N以上あることが好ましい。
【0023】
本発明において、エンボスロール21のプレス圧の制御により、フィルム30の非エンボス面32の良好なタックが得られるので、ゴム製押圧ロール22のロール表面25の微細な凹凸の状態については特に制限はない。一般に、ロール表面25は、表面の算術平均粗さRaが0.1〜15μmである。より良好なタックを有する非エンボス面とするためには、ゴム製押圧ロール22のロール表面25の算術平均粗さRaは0.5〜2.5μmが好ましい。ロール表面25の算術平均粗さRaが0.5μmより小さい場合は、フィルム30の
非エンボス面31のタックが高くなり過ぎ、フィルム30の積層時の位置の修正が困難になる場合がある。
【0024】
なお、本発明において、ゴム製押圧ロール表面の算術平均粗さRaは、JIS−B0601(1994)に準拠した方法により測定した値である。即ち、粗さ曲線から、その平均線の方向に、所定の長さを抜き取り、その抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0025】
本発明により得られる積層体形成用フィルム40は、上述の通り、非エンボス面にゴム製押圧ロール22のロール表面25によって、結果的に微細な凹凸が形成される場合がある。積層体形成用フィルム40の非エンボス面の表面状態は、エンボスロール21のプレス圧の他に、上記のゴム製押圧ロール22のロール表面25の状態や、搬送時にフィルム30にかかる張力等によっても影響を受ける。より良好なタックを有する非エンボス面とするには、その凹凸の平均間隔Smが600μm以上であることが好ましく、特に600〜1600μmであることが好ましい。また、非エンボス面の表面の算術平均粗さRaは2.2μm以下であることが好ましく、特に1.5〜2.2μmであることが好ましい。
【0026】
なお、本発明において、非エンボス面の表面の算術平均粗さRaは、上記のゴム製押圧ロール表面の場合と同様に、JIS−B0601(1994)に準拠した方法により測定した値である。また、凹凸の平均間隔Smとは、JIS−B0601(1994)に準拠した方法により測定した値である。即ち、粗さ曲線から、その平均線の方向に、所定の長さを抜き取り、その抜き取り部分の1個の山及びこれに隣り合う1個の谷に対応する平均線の長さの和を求め、平均した値である。
【0027】
本発明において、エンボスロール21の微細な凹凸形状パターン24は、積層体形成用フィルム40のエンボス面に、保管時のブロッキングを防止し、製造時の脱気性の向上ができるエンボスを付与できれば特に制限はない。例えば、凹凸形状における凸部を、円形状、半円形状、多角形状として所要間隔を空けて設け、又は凸部をストライプ状、メッシュ状として設けることができる。特に、製造が容易であることから、凸部がストライプ状に設けられた凹凸形状であるのが好ましい。また、エンボスロールの表面の算術平均粗さRaは、通常3〜50μmである。
【0028】
積層体形成用フィルム40の平均厚さは、用途によっても異なるが、一般に、50μm〜2mm、特に100μm〜1.5mmとするのが好ましい。
【0029】
本発明に用いられるエチレン−不飽和エステル共重合体は、特に制限はなく、用途に応じて使用できる。例えば、エチレン−不飽和エステル共重合体の不飽和エステル単量体として、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル等、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
【0030】
エチレン−不飽和エステル共重合体としては、具体的にはエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のエチレン−ビニルエステル共重合体や、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体等のエチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体が挙げられる。これらの中でも、密着性、透明性に優れる積層体形成用フィルムを製造できる点で、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0031】
エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル繰り返し単位含有量は、特に制限はなく、用途に応じて選択することができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、20〜35質量部が好ましく、さらに20〜30質量部が好ましく、特に24〜28質量部が好ましい。EVAの酢酸ビニル単位の含有量が低い程、EVA組成物が硬くなる傾向がある。一方、酢酸ビニルの含有量が20質量部未満ではEVA組成物の透明性が低下する場合がある。また、35質量部を超えるとEVA組成物により樹脂層を形成した場合に、硬さが不十分となる場合がある。
【0032】
本発明において、フィルムを構成する組成物は、エチレン−不飽和エステル共重合体に、必要に応じて、架橋剤、架橋助剤、接着向上剤、可塑剤等を添加して調製することができる。
【0033】
架橋剤としては、好ましくは100℃以上の温度で分解してラジカルを発生する有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。前記有機過酸化物としては、樹脂の加工温度・貯蔵安定性の観点から、例えば、
1,4−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,5−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、1,6−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、2,2−ジメチル−1,3−ビス(t−ブチルペルオキシカルボニルオキシ)プロパン等の2官能のペルオキシモノカーボネートの構造を有する化合物、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート等のベンゾイルパーオキサイド系硬化剤、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ヘキシルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、スクシニックアシドパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイル+ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサネート、2,2−ビス(4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシマレイックアシド、tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。これらの架橋剤は1種でも2種以上を組み合わせて使用しても良い。架橋剤の使用量は、エチレン−不飽和エステル共重合体100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部、特に0.5〜2.5質量部である。
【0034】
架橋助剤は、エチレン−不飽和エステル共重合体のゲル分率を向上させ、積層体形成用フィルムの接着性及び耐久性を向上させることができる。架橋助剤(官能基としてラジカル重合性基を有する化合物)としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の3官能の架橋助剤の他、(メタ)アクリルエステル(例、NKエステル等)の単官能又は2官能の架橋助剤等を挙げることができる。なかでも、トリアリルシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートが好ましく、特にトリアリルイソシアヌレートが好ましい。これらの架橋助剤は、エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、一般に10質量部以下、好ましくは0.1〜5質量部で使用される。
【0035】
接着向上剤としては、シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また前記接着向上剤の含有量は、エチレン−不飽和エステル共重合体100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0036】
可塑剤としては、トリスイソデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等のホスファイトやリン酸エステル等のリン含有化合物、アジピン酸エーテルエステル、トリメリテートn−オクチル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジヘキシル、セバシン酸ジブチル等の多塩基酸のエステル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジソブチレート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、トリエチレングリコールジペラルゴネート等の多価アルコールのエステル、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等が使用できる。
【0037】
また、本発明における組成物は、積層体形成用フィルムの用途により、上記の材料の他の添加剤を使用しても良い。例えば、合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜として使用する場合、種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整のため、必要に応じて、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、エポキシ基含有化合物、紫外線吸収剤、光安定剤、及び/又は老化防止剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0038】
本発明により得られる積層体形成用フィルムは、一方の面にエンボスが付与され、保管時の耐ブロッキング性、製造時の脱気性が確保されており、且つ非エンボス面が良好なタックを有しているので、積層時に精確な位置決めが必要とされる合わせガラス用中間膜又は太陽電池用封止膜として好ましく使用することができる。
【0039】
合わせガラス用中間膜として使用する場合は、通常、本発明により製造された積層体形成用フィルム(中間膜)を2枚の透明基板の間に介在させて、接合一体化させて合わせガラスを製造する。前記透明基板は、例えば珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板などのガラス板の他、プラスチックフィルムを用いてもよい。前記プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンアフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルムを挙げることができ、PETフィルムが好ましい。透明基板の厚さは、0.05〜20mm程度が一般的である。
【0040】
合わせガラスの製造は、通常、中間膜を2枚の透明基板で挟持して積層し、その積層体を減圧下で脱気し、加熱下に押圧することにより(高温ラミネート工程)、中間膜に含まれるエチレン−不飽和エステル共重合体を架橋硬化して、各層を接合一体化することにより行われる。架橋硬化する場合は、前記積層体を、一般に100〜150℃、特に130℃付近で、10分〜120分、好ましくは10分〜60分、加熱処理することにより行われる。前記架橋硬化は、例えば80〜120℃の温度で予備圧着した後に行われてもよい。前記加熱処理は、例えば130℃で10〜30分間(雰囲気温度)が特に好ましい。また、前記加熱処理は0〜800KPaのプレス圧力を積層体に加えながら行うのが好ましい。架橋後の積層体の冷却は一般に室温で行われるが、特に冷却は速いほど好ましい。
【0041】
また、太陽電池用封止膜に使用する場合は、通常、表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に、本発明により製造された積層体形成用フィルム(封止膜)を介在させて架橋一体化させることにより太陽電池用セルを封止させて太陽電池を製造する。太陽電池用セルを十分に封止するには、表面側透明保護部材、表面側封止膜、太陽電池用セル、裏面側封止膜及び裏面側保護部材をその順で積層し、積層体を減圧下で予備圧着し、各層の残存する空気を脱気した後、加熱加圧して封止膜を架橋硬化させればよい。
【0042】
ここで、太陽電池セルの光が照射される側(受光面側)を「表面側」と称し、太陽電池セルの受光面とは反対面側を「裏面側」と称する。
【0043】
太陽電池に使用される表面側透明保護部材は、通常、珪酸塩ガラスなどのガラス基板が好ましい。ガラス基板の厚さは、0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板は、一般に、化学的に、或いは熱的に強化させたものであってもよい。また、裏面側保護部材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチックフィルムであるが、耐熱性、耐湿熱性を考慮してフッ化ポリエチレンフィルム、特にフッ化ポリエチレンフィルム/Al/フッ化ポリエチレンフィルムをこの順で積層させたフィルムが好ましい。
【0044】
前記加熱加圧は、例えば、前記積層体を、真空ラミネーターで温度135〜180℃、さらに140〜180℃、特に155〜180℃、脱気時間0.1〜5分、プレス圧力0.1〜1.5kg/cm2、プレス時間5〜15分で加熱圧着すればよい。この加熱加圧時に、表面側封止膜および裏面側封止膜に含まれるEVAを架橋させることにより、表面側封止膜および裏面側封止膜を介して、表面側透明保護部材、裏面側透明部材及び太陽電池用セルを一体化させて、太陽電池用セルを封止することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により説明する。
(積層体形成用フィルムの作製)
(実施例1〜3、比較例1及び2)
下記配合:
EVA(EVA100質量部に対する酢酸ビニルの含有量;26質量部);100質量部
架橋剤(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン);1質量部
架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート);2質量部
添加剤(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン);0.5質量部
をロールミルに供給し、70℃で、混練してEVA組成物を調製し、70℃で、カレンダ成形し、フィルムを得た。続いて、そのフィルムのエンボス面に対して、凸部がストライプ状の微細な凹凸形状パターン(表面の算術平均粗さRa;10μm)のエンボスロールと表面の算術平均粗さRaが2.3μmのゴム製押圧ロールを用いて、表1に示したエンボスロールのプレス圧、ロール温度30℃でエンボスを付与した。その後、フィルムをガイドロールによって搬送しながら冷却し、ロール状に巻き取り、積層体形成用フィルム(厚さ0.6mm)を得た。
【0046】
(評価方法)
(1) タックの測定
上記で作製した各積層体形成用フィルムの非エンボス面をガラス板に接触させ、500gの荷重を90秒かけた後、300mm/分の速度で剥がしたときの密着力をタックメータ(MODEL:DPX−SOT(イマダ社製))にて測定した。密着力が0.4N以上で合格とした。
(2)エンボス転写性
上記で作製した各積層体形成用フィルムのエンボス面の状態を目視観察し、エンボスが明瞭に形成されている場合を○、不明瞭な部分が僅かにある場合を△、不明瞭な部分が目立つ場合を×として評価した。
(3) 表面の算術平均粗さRa及び凹凸の平均間隔Smの測定
表面粗さ計(サートロニック3+(ランクテーラーホブソン社製))を用いて、JIS−B0601(1994)に準拠した方法により測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
(評価結果)
上記各評価の結果を表1に示す。実施例1〜3において、ゴム製押圧ロールの表面の算術平均粗さRaを2.3μm、エンボスロールのプレス圧を0.1〜0.5MPaで行ったところ、得られた積層体形成用フィルムの非エンボス面のタックは0.4〜0.8Nで、合格であった。また、エンボス面のエンボス転写性も良好であった。この場合のフィルムの非エンボス面の凹凸の平均間隔Smは600〜1600μmであり、表面の算術平均粗さRaは1.5〜2.2μmであった。これに対し、エンボスロールのプレス圧を0.6MPaで行った場合は、エンボス面のエンボス転写性は良好であったが、得られたフィルムの非エンボス面のタックが0.3Nで、不合格であった。またプレス圧が0.0MPaの場合はエンボス転写性が不合格であった。
【0049】
以上により、積層体形成用フィルムのエンボスの付与を行う際に、エンボスロールのプレス圧を0.1〜0.5MPaとすることで、フィルムのエンボス面に十分にエンボス転写を行うとともに、良好なタックを有する非エンボス面を得ることができることが認められた。
【0050】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の製造方法により得られた積層体形成用エチレン−不飽和エステル共重合体フィルムを、合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜として用いることで、歩留り良く、高性能の合わせガラスや太陽電池を製造することができる。
【符号の説明】
【0052】
5 合わせガラス用中間膜
7A、7B ガラス板
11 表面側透明保護部材
12 裏面側保護部材
13A 表面側封止膜
13B 裏面側封止膜
14 太陽電池セル
21 エンボスロール
22 ゴム製押圧ロール
23a 第1ガイドロール
23b 第2ガイドロール
23c 第3ガイドロール
24 凹凸形状パターン
25 ロール表面
30 フィルム
31 エンボス面
32 非エンボス面
40 積層体形成用フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−不飽和エステル共重合体を含む組成物からなるフィルムを、微細な凹凸形状パターンを有するエンボスロールと当該エンボスロールに対向配置されたゴム製押圧ロールとの間で圧延することにより、前記フィルムの一方の面にのみエンボスを転写する工程を含む、積層体形成用フィルムの製造方法において、
前記エンボスロールのプレス圧が0.1〜0.5MPaであることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記積層体形成用フィルムのエンボスが転写された面の反対面に微細な凹凸が形成されており、当該凹凸の平均間隔Smが600〜1600μmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記積層体形成用フィルムの、エンボスが転写された面の反対面の表面の算術平均粗さRaが1.5〜2.2μmである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン-不飽和エステル共重合体がエチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル繰り返し単位の含有量が、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、20〜35質量部である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記積層体形成用フィルムが、合わせガラス用中間膜又は太陽電池用封止膜である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−269506(P2010−269506A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122734(P2009−122734)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】