説明

積層型バラントランス及び高周波部品

【課題】小型化を図った積層型バラントランスおよび高周波部品を提供する。
【解決手段】第1の伝送線路と、前記第1の伝送線路と電磁結合する第2の伝送線路および第3の伝送線路を備え、前記第1の伝送線路は一端が不平衡端子に接続され他端が開放端となり、前記第2の伝送線路は一端が接地され他端が第1の平衡端子に接続され、前記第3の伝送線路は一端が接地され他端が第2の平衡端子に接続された積層型バラントランスであって、前記第1の伝送線路は、積層方向を軸方向とする螺旋状に巻回されて形成されており、前記第2の伝送線路または前記第3の伝送線路と電磁結合する、第1の結合部と第2の結合部を有し、前記第1の結合部と前記第2の結合部は異なる誘電体層に形成され、前記第2の伝送線路は、前記第1の伝送線路の、積層方向第1の結合部側に、前記第3の伝送線路は、前記第1の伝送線路の、積層方向第2の結合部側に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話などの移動体通信機器や電子電気機器間における無線伝送を行う無線LANなどの無線通信装置等に使用され、平衡回路と不平衡回路との接続を行い、インピーダンス変換にも用いられる積層型バラントランス及びそれを用いた高周波部品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、IEEE802.11規格に代表される無線LANによるデータ通信が広く一般化している。例えばパーソナルコンピュータ(PC)、プリンタやハードディスク、ブロードバンドルーターなどのPCの周辺機器、FAX、冷蔵庫、標準テレビ(SDTV)、高品位テレビ(HDTV)、カメラ、ビデオ、携帯電話等々の電子機器、自動車内や航空機内での有線通信に代わる信号伝達手段として採用され、それぞれの電子電器機器間において無線データ伝送が行われている。
【0003】
このような無線LANを用いたマルチバンド通信装置に用いられる高周波回路は、通信周波数帯が異なる二つの通信システム(IEEE802.11aとIEEE802.11bおよび/またはIEEE802.11g)で送受信が可能な1個のアンテナと、送信側回路、受信側回路との接続を切り替える高周波スイッチを備える。かかる高周波スイッチによって、二つの通信システムの送信側回路、受信側回路の切り替えを行う。無線装置の小型化・高機能化に伴い、前記高周波回路を具現した高周波部品にも、多くの機能部品を一体化しつつ、小型化を図ろうとする要求が強く、個々の機能部品の小型化も必須となっている。
【0004】
前記機能部品のうち、平衡−不平衡変換素子であるバラントランスは、例えば第1の伝送線路に不平衡端子を備え、第2、第3の伝送線路に二つの平衡端子を備えているものであり、不平衡端子に不平衡伝送線路を接続し、二つの平衡端子にそれぞれ平衡伝送線路の2つの信号線を接続して使用される。そして、第1の伝送線路の不平衡端子から入力された不平衡信号を変換して、第2、第3の伝送線路の二つの平衡端子から出力して、その位相差により平衡信号を出力したり、逆に平衡端子からの平衡信号を不平衡信号に変換して、不平衡端子から出力することを行う。例えば、特許文献1にはその図2に示すように、バランとして、誘電体基板の一方主面に第1のストリップライン、他方面に第2のストリップラインおよび第3のストリップラインを形成した構成のチップ型トランスが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−191016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す例では、効率よくノイズの相殺を図ることができるとされているものの、前記第1、第2、第3のストリップラインは同一の誘電体基板の主面に形成され、しかも第2、第3の伝送線路は誘電体層に並設されているので、バラントランスが占める実装面積が大きくなり、バラントランス、さらにはそれを用いた高周波部品の小型化の要求を満足するものとは言えなかった。
【0007】
そこで、本発明では、小型化が可能な積層型バラントランス及びそれを用いた高周波部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層型バラントランスは、導体パターンが形成された複数の誘電体層を積層してなる積層体に、第1の伝送線路と、前記第1の伝送線路と電磁結合する第2の伝送線路および第3の伝送線路を備え、前記第1の伝送線路は一端が不平衡端子に接続され他端が開放端となり、前記第2の伝送線路は一端が接地され他端が第1の平衡端子に接続され、前記第3の伝送線路は一端が接地され他端が第2の平衡端子に接続された積層型バラントランスであって、前記第1の伝送線路は、積層方向を軸方向とする螺旋状に巻回されて形成されているとともに、前記第2の伝送線路と電磁結合する第1の結合部と、前記第3の伝送線路と電磁結合する第2の結合部を有し、前記第1の結合部と前記第2の結合部は異なる誘電体層に形成され、前記第2の伝送線路は、前記第1の伝送線路の、積層方向第1の結合部側に形成され、前記第3の伝送線路は、前記第1の伝送線路の、積層方向第2の結合部側に形成されていることを特徴とする。かかる構成では、積層型バラントランスを構成する第1の伝送線路、第2の伝送線路および第3の伝送線路が、第2の伝送線路、第1の伝送線路、第3の伝送線路の順に積層されるため、積層型バラントランスの積層方向に投影した面積を大幅に低減することができるため、積層型バラントランスの小型化に大きく寄与する。
【0009】
また、前記積層型バラントランスにおいて、前記第2の伝送線路、前記第1の結合部、前記第2の結合部および前記第3の伝送線路は、平面視で重なるように形成されていることが好ましい。該構成は、積層型バラントランスの面積を最小化し、さらに最適なバランス特性を実現するうえで、好適な構成である。
【0010】
さらに、前記積層型バラントランスにおいて、前記第1の結合部と前記第2の結合部の、前記第1の伝送線路の一端からの巻回方向は、互いに平面視で逆方向であることが好ましい。かかる構成によれば、バラントランスに発生する高周波電流起因の磁界の影響を相殺して相互の干渉を防ぐことができるため、最適なバランス特性を得る事が可能となる。
【0011】
さらに、前記積層型バラントランスにおいて、前記第2の伝送線路の一端が接地されるグランド電極は、積層方向前記第1の伝送線路とは反対側に配置され、前記第3の伝送線路の一端が接地されるグランド電極は、積層方向前記第1の伝送線路とは反対側に配置されていることが好ましい。かかる構成によれば、接地用のグランド電極を前記第1の結合部および前記第2の結合部との間に配置する必要がないため、積層型バラントランスの伝送線路に係る部分の高さの増加を抑えることが可能である。また、バラントランスからの漏れ信号あるいは外部からのノイズが前記グランド電極によりシールドできるため、耐ノイズ性能を向上できる。
【0012】
さらに、前記積層型バラントランスにおいて、前記第2の伝送線路の一端と、前記第3の伝送線路の一端は容量を介して接地する事も可能である。該容量によってバランス特性の調整を行うことができる。
【0013】
さらに、前記第2の伝送線路の一端が接続された容量電極と、前記第3の伝送線路の一端が接続される容量電極は、積層方向に対向したグランド電極に挟まれていることが好ましい。かかる構成は、容量を形成するための電極面積を低減でき、小型化に有利である。また、接地容量と第1の伝送線路、第2の伝送線路および第3の伝送線路との干渉の低減が可能になり、最適なバランス特性の実現が容易になる。
【0014】
本発明の高周波部品は、アンテナと接続する少なくとも一つのアンテナ端子と、送信信号が入力される少なくとも一つの送信端子と、受信信号が出力される少なくとも一つの受信端子と、前記アンテナ端子と、前記送信端子又は前記受信端子との接続を切り替える少なくとも一つのスイッチ回路とを有する高周波部品であって、前記受信端子および送信端子のうち少なくとも一つには前記積層型バラントランスが接続されていることを特徴とする。積層型バラントランスとして、前記本発明に係る構成を用いることによって、それを用いる高周波部品の小型化に寄与する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型の、特に積層方向から見て面積の小さい積層型バラントランス、およびそれを用いることによって小型化された高周波部品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態について、以下図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。図4は本発明の一実施形態係る積層型バラントランスの各層の電極パターンを示した図であり、図1は図4で示された積層型バラントランスの電極配置を立体的に示すための分解斜視図である。該積層型バラントランスの等価回路を図2に示す。なお、等価回路図で示された回路素子の符号は、そのまま該回路素子の電極パターンの符号としても用いている。図2に示すバラントランスは、第1の伝送線路(L1a+L1b)と、前記第1の伝送線路と電磁結合する第2の伝送線路L2および第3の伝送線路L3を備え、前記第1の伝送線路は一端が不平衡端子INに接続され他端が開放端となり、前記第2の伝送線路L2は一端が接地され他端が第1の平衡端子Out1に接続され、前記第3の伝送線路L3は一端が接地され他端が第2の平衡端子Out2に接続された構成である。図2では、第2の伝送線路L2の一端と、第3の伝送線路L3の一端がそれぞれ容量C1、C2を介して接地されている構成を示してあるが、該容量を介さずに接地してもよい。容量を介する場合は、容量C1、容量C2を違う容量値に設定する事によりバランス特性を調整できる点で好ましい。
【0017】
図1に示したように、第1の伝送線路は、2つ以上の誘電体層にわたって形成され、積層方向を軸方向とする螺旋状に巻回されて形成されており、第2の伝送線路L2と電磁結合する第1の結合部L1aと、前記第3の伝送線路L3と電磁結合する第2の結合部L1bを有する。第1の伝送線路は、第1の結合部と第2の結合部を合わせて螺旋状に巻回していればよく、第1の結合部および第2の結合部は、それぞれ別の一層の誘電体層に形成してもよい。不平衡端子INに接続されている第1の伝送線路は、隣接する2層にわたって積層方向一方側(図の上側)に巻回してコイル状の第1の結合部L1aを形成している。この第1の結合部での、不平衡端子INに接続される第1の伝送線路の一端からの巻回方向は、積層方向一方側(図の上側)からの平面視で、反時計回りになっている。第1の伝送線路は、積層方向を軸として巻回する途中で巻回方向を逆転して巻回してコイル状の第2の結合部L1bを形成している。すなわち、第1の伝送線路は、この巻回方向が逆転する、積層方向に隣接する伝送線路部分を巻回方向反転部分として有する。第1の結合部L1aと第2の結合部L1bの、第1の伝送線路の一端からの巻回方向は、互いに平面視で逆方向になっているため、各結合部に発生する磁界は逆方向となり、磁界の影響を相殺して相互の干渉を防ぐことができる。また、第2の伝送線路L2の第1の平衡端子Out1からの巻回方向と、第3の伝送線路L3の第2の平衡端子Out12からの巻回方向とは、平面視で互いに逆方向になっている。本発明にかかる積層型バラントランスでは、巻回軸方向を積層方向とした第1の結合部L1aと第2の結合部L1bとが異なる層に形成され、積層方向に隣接し、好ましくは重なる構成となるため、結合部の相互干渉を起こしやすい。したがって、巻回方向を逆にする前記構成は、本発明に好適な構成となる。
【0018】
第1の結合部L1aと第2の結合部L1bは、上述のように異なる誘電体層に形成されている。第2の伝送線路L2は、第1の伝送線路の、積層方向第1の結合部L1a側(図1においてL1aの下側)に形成され、前記第3の伝送線路L3は、前記第1の伝送線路の、積層方向第2の結合部側(図1においてL1bの上側)に形成されている。すなわち第1の伝送線路の積層方向の片側に第2の伝送線路が、もう一方の片側に第3の伝送線路が配置され、第2、第3の伝送線路が第1の伝送線路を挟むように配置されている。第2の伝送線路L2および第3の伝送線路L3は2層にわたって巻回してコイル状をなしている。第2の伝送線路L2は、誘電体層を介して第1の結合部L1aに対向しており、該結合部との間で電磁結合する。一方、第3の伝送線路L3は誘電体層を介して第2の結合部L1bに対向しており、該結合部との間で電磁結合する。
【0019】
上述のように、第2の伝送線路L2、前記第1の結合部L1a、前記第2の結合部L1bおよび前記第3の伝送線路L3の順に積層方向に配置することによって、積層方向からバラントランスを投影した面積を顕著に低減し、積層型バラントランスを大幅に小型化することが可能である。特に、図1に示すように、第2の伝送線路L2、前記第1の結合部L1a、前記第2の結合部L1bおよび前記第3の伝送線路L3は、平面視で重なるように形成されていることが好ましい。この場合、電磁結合に実質的に関与する、第2の伝送線路L2、第1の結合部L1a、第2の結合部L1bおよび第3の伝送線路L3の外形が平面視で重なるようになっていればよく、該外形よりも内側に位置する小さい電極パターンを形成した層があってもよい。かかる構成によれば第2の伝送線路および第3の伝送線路を積層方向に垂直な平面方向に並べて配置した場合に比べて、占有面積を実質的に1/2にすることも可能である。
【0020】
第2の伝送線路L2の一端は、積層方向、第1の伝送線路とは反対側に形成された容量C1の容量電極に接続されており、容量C1を介して接地されている。グランド電極は、容量電極の積層方向両側に設けられており、容量電極は積層方向に対向したグランド電極に挟まれている構成となっている。グランド電極の一方は、積層型バラントランスの第1の端面に形成されている。第2の伝送線路L2の他端は、スルーホールを通じて第1の端面に形成された第1の平衡端子Out1に接続されている。同様に、第3の伝送線路L3の一端は、積層方向、第1の伝送線路とは反対側に形成された容量C2の容量電極に接続されており、容量C2を介して接地されている。グランド電極は、容量電極の積層方向両側に設けられており、容量電極は積層方向に対向したグランド電極に挟まれている構成となっている。グランド電極の一方は、積層型バラントランスの第2の端面に形成されている。第3の伝送線路L3の他端は、スルーホールを通じて第1の端面に形成された第2の平衡端子Out2に接続されている。上記構成では、第2の伝送線路L2の一端が接地されるグランド電極は、積層方向において第2の伝送線路L2から見て第1の伝送線路とは反対側に配置され、第3の伝送線路L3の一端が接地されるグランド電極は、積層方向において第3の伝送線路L3から見て前記第1の伝送線路とは反対側に配置されているため、接地用のグランド電極を結合部を構成する伝送線路L1aと伝送線路L1bの間に配置する必要がない。また同時にバラントランスからの漏れ信号あるいは外部からのノイズが前記グランド電極によりシールドできるため、耐ノイズ性能を向上できる。上述のように第1の平衡端子Out1および第2の平衡端子Out2は同じ端面に形成されている。この場合、第2の平衡端子Out2と第3の伝送線路の他端の距離は、第1の平衡端子Out1と第2の伝送線路の他端との距離に比べて大きくなるため、第1の平衡端子Out1に近い側の伝送線路L2の引き出し配線を長くする事により調整してある。すなわち、第2の伝送線路L2のうち誘電体層面に形成された分の配線長の合計は、第3の伝送線路L3のうち、誘電体層面に形成された分の配線長の合計よりも大きくしてある。
【0021】
図1に示す構成では、複数層にわたって形成された第1の結合部L1aを構成するコイル状の伝送線路パターンにおいて、第2の伝送線路L2に対向する伝送線路パターンによって囲まれる面積よりも、第2の結合部L1bに隣接する伝送線路パターンによって囲まれる面積の方が小さくなるようにしてある。同様に、複数層にわたって形成された第2の結合部L1bを構成するコイル状の伝送線路パターンにおいて、第3の伝送線路L3に対向する伝送線路パターンによって囲まれる面積よりも、第1の結合部L1aに隣接する伝送線路パターンによって囲まれる面積の方が小さくなるようにしてある。すなわち、第1の伝送線路のコイル状のパターンのうち、第2の伝送線路および第3の伝送線路に対向するコイル状パターンよりも、第1の結合部L1aと第2の結合部L1bが隣接する巻回方向反転部分のコイル状パターンの方が小さくなっている。これにより伝送線路間の寄生容量の低減が可能であり、バラントランスのインピーダンス変換比を大きくする事が可能となる。
【0022】
図4には、積層型バラントランスを構成した積層体の具体的なパターンを示してある。
本実施例では14層の誘電体シート上に電極パターンを形成し、バラントランスを構成した。ここで第1の伝送線路を構成するL1b1、L1a1、L1b2、L1a2は6〜9層目の4層にわたって形成されており、L1b1とL1a1およびL1b2とL1a2は平面的にはほぼ同じパターンで形成した。第2の伝送線路を構成するL2a、L2bは10、11層目の2層にわたって形成され、第3の伝送線路を構成するL3a、L3bは4、5層目の2層にわたって形成されている。ここで、L2aとL3aおよびL2bとL3bは平面的にはほぼ同じパターンで形成した。なお、第1、第2および第3の各伝送線路の略矩形の巻回パターンの巻回中心軸は、第1、第2および第3の他の伝送線路の略矩形の巻回パターンの内側に位置するように配置することが好ましい。図4の構成では、第1の伝送線路の少なくとも一部、第2の伝送線路の少なくとも一部および第3の伝送線路の少なくとも一部は、積層方向に対して略同一の軸を軸として螺旋状に巻回されて形成されている。第1の伝送線路はL1b2とL1a2の部分で巻回方向が逆転し、該部分が巻回方向反転部分を構成している。第1、第2および第3の伝送線路の略矩形の巻回パターン部分は、前記巻回方向反転部分の中心面に対して対称になるように形成されている。さらに、第1の伝送線路を構成するL1b1、L1a1、L1b2、L1a2と第2の伝送線路を構成するL2a、L2bおよび第3の伝送線路を構成するL3a、L3bは、平面視で、略矩形のL1b1およびL1a1のパターンが構成する領域内に構成され、平面視で重なるように形成されている。すなわち、第2の伝送線路、第1の結合部、第2の結合部および第3の伝送線路は、平面視で重なるように形成されている。この構成により、積層型バラントランスの面積を最小化にし、さらに最適なバランス特性を実現可能となる。
【0023】
本発明に係る積層型バラントランスは、バラントランス単体として構成してもよいが、平衡・不平衡の信号変換が必要な高周波部品の中に他の回路素子と一体化して形成してもよい。高周波部品としては、例えば、無線LANなどの無線通信の送受信を切り替えるアンテナスイッチモジュールやアンテナスイッチモジュールと高周波増幅器モジュールを一体化した複合モジュールなどが挙げられる。かかる高周波部品の代表的な構成は、アンテナと接続する少なくとも一つのアンテナ端子と、送信信号が入力される少なくとも一つの送信端子と、受信信号が出力される少なくとも一つの受信端子と、前記アンテナ端子と、前記送信端子又は前記受信端子との接続を切り替える少なくとも一つのスイッチ回路とを有する高周波部品である。積層型バラントランスは、例えば記受信端子の少なくとも一つに接続して用いる。前記無線通信は、一つの通信システムを扱うシングルバンド通信でもよいし、二つ以上の通信システムを扱うマルチバンド通信でもよく、無線通信の種類や必要とされる特性に応じて、アンテナ端子、受信端子、送信端子およびスイッチ回路、さらには必要とされるフィルタ回路等の回路素子の数や接続構成を変えればよい。積層型バラントランスを接続して一体化した高周波部品の例として、無線LAN用のデュアルバンドのフロントエンドモジュールの回路ブロックを図3に示す。図3の構成では、アンテナと接続するアンテナ端子Antと、第1、第2の周波数帯域の送信信号が入力される送信端子Tx1、Tx2と、第1、第2の周波数帯域の受信信号が出力される受信端子Rx1、Rx2と、前記アンテナ端子Antと、前記送信端子Tx又は前記受信端子Rxとの接続を切り替えるスイッチ回路SWとを有する。スイッチ回路の送信端子側には、検波回路DETを介して、第1の周波数帯域と第2の周波数帯域の信号経路を分岐する第1の分波器Dip1が接続され、該第1の分波器Dip1の第1の周波数帯域側には第1の送信端子Tx1が接続されている。該第1の分波器Dip1と第1の送信端子Tx1との間に経路には、第1の送信端子Tx1に入力される信号を増幅する第1の増幅回路PA1と、該増幅回路PA1の入力側に設けられた第1のバンドパスフィルタ回路BPF1と、該増幅回路PA1の出力側に設けられた第1のローパスフィルタ回路LPF1を備える。同様に、該第1の分波器Dip1と第2の送信端子Tx2との間に経路には、第2の送信端子Tx2に入力される信号を増幅する第2の増幅回路PA2と、該増幅回路PA2の入力側に設けられた第2のバンドパスフィルタ回路BPF2と、該増幅回路PA2の出力側に設けられた第2のローパスフィルタ回路LPF2を備える。一方、スイッチ回路の受信端子側には、低雑音増幅器回路LNA1を介して、第1の周波数帯域と第2の周波数帯域の信号経路を分岐する第2の分波器Dip2が接続され、該第2の分波器Dip2の第1の周波数帯域側には第3のバンドパスフィルタ回路BPF3を介して第1の受信端子Rx1が接続されている。同様に、該第2の分波器Dip2の第2の周波数帯域側には第4のバンドパスフィルタ回路BPF4を介して第2の受信端子Rx2が接続されている。バラントランスBAL1は第1の送信端子Tx1に接続されて、平衡端子Tx1+とTx1−に入力される平衡信号を不平衡信号に変換してTx1に出力する。同様にバラントランスBAL2は第2の送信端子Tx2に接続されて、平衡端子Tx2+とTx2−に入力される平衡信号を不平衡信号に変換してTx2に出力する。なお、高周波部品の回路構成は図3のものに限定するものではない。
【0024】
次に、本発明に係る積層型バラントランスおよび高周波部品を積層体部品(セラミック積層基板を用いた部品)として構成する例を説明する。各誘電体層に図4のようなパターンを有する積層型バラントランスを構成したセラミック積層基板は、例えば1000℃以下で低温焼結が可能なセラミック誘電体材料LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)からなり、厚さが10μm〜200μmのグリーンシートに、低抵抗率のAgやCu等の導電ペーストを印刷して所定の電極パターンを形成し、複数のグリーンシートを適宜一体的に積層し、焼結することにより製造することが出来る。前記誘電体材料としては、例えばAl、Si、Srを主成分として、Ti、Bi、Cu、Mn、Na、Kを副成分とする材料や、Al、Si、Srを主成分としてCa、Pb、Na、Kを複成分とする材料や、Al、Mg、Si、Gdを含む材料や、Al、Si、Zr、Mgを含む材料が用いられ、誘電率は5〜15程度の材料を用いる。なお、セラミック誘電体材料の他に、樹脂積層基板や樹脂とセラミック誘電体粉末を混合してなる複合材料を用いてなる積層基板を用いることも可能である。また、前記セラミック基板をHTCC(高温同時焼成セラミック)技術を用いて、誘電体材料をAlを主体とするものとし、伝送線路等をタングステンやモリブデン等の高温で焼結可能な金属導体として構成しても良い。
【0025】
このセラミック積層基板でアンテナスイッチモジュールなどの高周波部品を構成する場合は、各層には、インダクタンス素子用、容量素子用、配線ライン用、及びグランド電極用のパターン電極が適宜構成されて、層間にはビアホール電極が形成されて、所望の回路が構成される。主に、LC回路で構成可能な回路部分が構成される。分波回路、バンドパスフィルタ回路、ローパスフィルタ回路、ハイパスフィルタ回路を主にセラミック多層基板の内部に構成する。又、各回路の一部の素子は、セラミック多層基板の上面に搭載したチップ素子を用いてもよい。
【0026】
また、セラミック積層基板には、単極双投型のSPDTスイッチやダイオードスイッチ、送信側の増幅回路用、受信側の低雑音増幅器回路LNA用の半導体素子などを搭載する。そして、ワイヤボンダ、LGA、BGA等でセラミック積層基板に接続し、本発明の高周波回路を小型の高周波部品として構成することができる。もちろん、セラミック積層基板の搭載部品及びセラミック積層基板の内蔵素子とは所定回路になるように接続され、高周波回路が構成される。なお、セラミック積層基板上には、上記した半導体素子以外に、チップコンデンサ、チップ抵抗、チップインダクタ等の素子を適宜搭載する。これらの搭載素子は、セラミック積層基板に内蔵する素子との関係から適宜選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る積層型バラントランスの電極配置を立体的に示すための分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る積層型バラントランスの等価回路図である。
【図3】本発明の実施形態に係る高周波部品の回路ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る積層型バラントランスの各層の電極パターンを示す図である
【符号の説明】
【0028】
IN:不平衡端子
OUT1:第1の平衡端子、OUT2:第2の平衡端子
L1a、L1a1、L1a2:第1の結合部
L1b、L1b1、L1b2:第2の結合部
L2、L2a、L2b:第2の伝送線路
L3、L3a、L3b:第3の伝送線路
C1、C2:容量
GND:グランド電極
Ant:アンテナ端子
Tx1、Tx2:送信端子
Rx1、Rx2:受信端子
Tx1+、Tx1−、Tx2+、Tx2−:平衡受信端子
DET:検波回路
Dip1、Dip2:分波回路
BPF1〜4:バンドパスフィルタ回路
LPF1、LPF2:ローパスフィルタ回路
PA1、PA2:増幅回路
LNA1:低雑音増幅器回路
BAL1、BAL2:バラントランス
SW:スイッチ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体パターンが形成された複数の誘電体層を積層してなる積層体に、
第1の伝送線路と、前記第1の伝送線路と電磁結合する第2の伝送線路および第3の伝送線路を備え、前記第1の伝送線路は一端が不平衡端子に接続され他端が開放端となり、前記第2の伝送線路は一端が接地され他端が第1の平衡端子に接続され、前記第3の伝送線路は一端が接地され他端が第2の平衡端子に接続された積層型バラントランスであって、
前記第1の伝送線路は、積層方向を軸方向とする螺旋状に巻回されて形成されているとともに、前記第2の伝送線路と電磁結合する第1の結合部と、前記第3の伝送線路と電磁結合する第2の結合部を有し、
前記第1の結合部と前記第2の結合部は異なる誘電体層に形成され、
前記第2の伝送線路は、前記第1の伝送線路の、積層方向第1の結合部側に形成され、
前記第3の伝送線路は、前記第1の伝送線路の、積層方向第2の結合部側に形成されていることを特徴とする積層型バラントランス。
【請求項2】
前記第2の伝送線路、前記第1の結合部、前記第2の結合部および前記第3の伝送線路は、平面視で重なるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層型バラントランス。
【請求項3】
前記第1の結合部と前記第2の結合部の、前記第1の伝送線路の一端からの巻回方向は、互いに平面視で逆方向であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層型バラントランス。
【請求項4】
前記第2の伝送線路の一端が接地されるグランド電極は、積層方向前記第1の伝送線路とは反対側に配置され、
前記第3の伝送線路の一端が接地されるグランド電極は、積層方向前記第1の伝送線路とは反対側に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層型バラントランス。
【請求項5】
前記第2の伝送線路の一端と、前記第3の伝送線路の一端は容量を介して接地されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層型バラントランス。
【請求項6】
前記第2の伝送線路の一端が接続される容量電極と、前記第3の伝送線路の一端が接続された容量電極は、積層方向に対向したグランド電極に挟まれていることを特徴とする請求項5に記載の積層型バラントランス。
【請求項7】
アンテナと接続する少なくとも一つのアンテナ端子と、送信信号が入力される少なくとも一つの送信端子と、受信信号が出力される少なくとも一つの受信端子と、
前記アンテナ端子と、前記送信端子又は前記受信端子との接続を切り替える少なくとも一つのスイッチ回路とを有する高周波部品であって、
前記受信端子および送信端子のうち少なくとも一つには請求項1〜6のいずれかに記載の積層型バラントランスが接続されていることを特徴とする高周波部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−167105(P2008−167105A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353756(P2006−353756)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】