説明

積層型フィルタ

【課題】減衰特性の調整が容易で、かつグランドからのノイズの戻りを防止できる積層型フィルタを提供する。
【解決手段】積層型フィルタ1では、互いに磁気結合する一対のコイル部11,11間に、グランドには接続されないキャパシタ部12,12が接続されている。このような構成により、この積層型フィルタ1では、コイル部11の巻数を変化させることに加え、キャパシタ部12,12の静電容量を変化させることによっても減衰特性を変化させることができる。また、キャパシタ部12,12がグランドに接続されないので、グランドからのノイズの戻りを防止できると共に、グランドを通って信号が漏れてしまうことを防止でき、特定の周波数における減衰特性のピークを急峻なものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型フィルタとして、例えば特許文献1に記載の積層型フィルタがある。この従来の積層型フィルタ(コモンモードフィルタ)は、低透磁率セラミックパターン層と高透磁率セラミックパターン層とで構成された素体内に、コイル部用の導体パターン及び引き出し導体パターンを備えている。また、積層型フィルタとしては、コイル部とキャパシタ部とを組み合わせた共振回路によってノイズを選択的に除去するLCフィルタも存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−129793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような積層型フィルタでは、特定の周波数における急峻な減衰特性が求められる場合がある。しかしながら、従来の積層型フィルタでは、減衰特性を調整するためにコイル部の巻数を変化させる必要があり、調整の困難さが問題となっていた。また、入力端子、出力端子、グランド端子を備える3端子型のLCフィルタでは、グランド端子からの戻りのノイズが生じる場合があり、このようなノイズの侵入を防止することが課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、減衰特性の調整が容易で、かつグランドからのノイズの戻りを防止できる積層型フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る積層型フィルタは、素体の積層方向に対向配置され、互いに磁気結合する一対のコイル部と、コイル部間に接続される一方で、グランドには接続されないキャパシタ部と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
この積層型フィルタでは、互いに磁気結合する一対のコイル部間に、グランドには接続されないキャパシタ部が接続されている。このような構成により、この積層型フィルタでは、コイル部の巻数を変化させることに加え、キャパシタ部の静電容量を変化させることによっても減衰特性を変化させることができる。また、キャパシタ部がグランドに接続されないので、グランドからのノイズの戻りを防止できると共に、グランドを通って信号が漏れてしまうことを防止でき、特定の周波数における減衰特性のピークを急峻なものとすることができる。
【0008】
また、コイル部及びキャパシタ部は、いずれも非磁性フェライト層内に配置されていることが好ましい。この場合、キャパシタ部の静電容量を抑えることが可能となる。キャパシタ部の静電容量を抑えることで、キャパシタ部の電極パターンの面積の変化で調整できる減衰特性の範囲を広げることができ、減衰特性の調整が一層容易なものとなる。また、非磁性フェライト層を用いることにより、フェライト層による磁気結合をなくすことができる。
【0009】
また、コイル部及びキャパシタ部は、いずれも磁性フェライト層内に配置されていることが好ましい。この場合、キャパシタ部の静電容量を抑えることが可能となる。キャパシタ部の静電容量を抑えることで、キャパシタ部の電極パターンの面積の変化で調整できる減衰特性の範囲を広げることができ、減衰特性の調整が一層容易なものとなる。
【0010】
また、コイル部及びキャパシタ部は、いずれも誘電率が30以下の層内に配置されていることが好ましい。この場合、キャパシタ部の静電容量を抑えることが可能となる。キャパシタ部の静電容量を抑えることで、キャパシタ部の電極パターンの面積の変化で調整できる減衰特性の範囲を広げることができ、減衰特性の調整が一層容易なものとなる。
【0011】
キャパシタ部は、素体の積層方向においてコイル部を挟んで対称に配置されていることが好ましい。この場合、素体の積層方向について、積層型フィルタの実装の方向性を打ち消すことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、減衰特性の調整が容易で、かつグランドからのノイズの戻りを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る積層型フィルタの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した積層型フィルタの模式断面図である。
【図3】図1に示した積層型フィルタの層構成を示す分解斜視図である。
【図4】図1に示した積層型フィルタの等価回路を示す図である。
【図5】図1に示した積層型フィルタの減衰特性を示す図である。
【図6】図1に示した積層型フィルタの別の減衰特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る積層型フィルタの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る積層型フィルタの一実施形態を示す斜視図である。また、図2は、図1に示した積層型フィルタの模式断面図であり、図3は、図1に示した積層型フィルタの層構成を示す分解斜視図である。
【0016】
この積層型フィルタ1は、ノイズ除去機能を備えるアレイタイプの積層型複合電子部品である。図1に示すように、積層型フィルタ1は、略直方体形状の素体2と、素体2の表面に設けられた第1の端子電極3〜第4の端子電極6とを備えている。
【0017】
第1の端子電極3と第3の端子電極5とは、素体2において長手方向に伸びる一方の側面に互いに離間した状態で配置されている。また、第2の端子電極4と第4の端子電極6とは、第1の端子電極3と第3の端子電極5とが配置された側面に対向する側面に互いに離間した状態で配置されている。これら第1の端子電極3〜第4の端子電極6は、積層型フィルタ1の入出力端子として機能する。
【0018】
素体2は、例えばCu−Zn系の非磁性フェライト材料によって形成された複数の非磁性層13(13a〜13m)の積層によって構成されている。この非磁性層13のうち、非磁性層13aは、保護層として素体2の最表層に配置されている。各非磁性層13は、焼結によって実際には互いの境界が視認できない程度に一体化されている。素体2の内部には、図2に示すように、中央部分に配置された一対のコイル部11,11と、複数の非磁性層13の積層方向についてコイル部11,11を挟むように対称に配置された一対のキャパシタ部12,12とが形成されている。
【0019】
コイル部11,11は、非磁性層13を介して対向配置され、互いに磁気結合している。一方のコイル部11は、図3に示すように、導体パターン16a〜16dからなる第1のコイル導体14によって構成されている。また、他方のコイル部11は、導体パターン16e〜16hからなる第2のコイル導体15によって構成されている。
【0020】
導体パターン16aは、非磁性層13dに1対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように略1ターンの渦巻き状に形成されている。導体パターン16aの外側端部は、素体2の側面に引き出されて第1の端子電極3に接続され、導体パターン16aの内側端部は、非磁性層13dの中央部分を貫通するビア導体17aによって導体パターン16bに接続されている。
【0021】
導体パターン16bは、非磁性層13eに1対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように略2ターンの渦巻き状に形成されている。導体パターン16bの外側端部は、非磁性層13eの縁寄り部分を貫通するビア導体17bによって導体パターン16cに接続され、導体パターン16bの内側端部は、前述のビア導体17aによって導体パターン16aに接続されている。
【0022】
導体パターン16cは、非磁性層13fに一対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように略2ターンの渦巻き状に形成されている。導体パターン16cの外側端部は、前述のビア導体17bによって導体パターン16bに接続され、導体パターン16cの内側端部は、非磁性層13fの中央部分を貫通するビア導体17cによって導体パターン16dに接続されている。
【0023】
導体パターン16dは、非磁性層13gに一対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように略3ターンの渦巻き状に形成されている。導体パターン16dの外側端部は、素体2の側面に引き出されて第2の端子電極4に接続され、導体パターン16dの内側端部は、前述のビア導体17cによって導体パターン16cに接続されている。
【0024】
導体パターン16eは、非磁性層13hに一対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように導体パターン16dと同様のパターンで渦巻き状に形成されている。導体パターン16eの外側端部は、素体2の側面に引き出されて第4の端子電極6に接続され、導体パターン16eの内側端部は、非磁性層13hの中央部分を貫通するビア導体17dによって導体パターン16fに接続されている。
【0025】
導体パターン16fは、非磁性層13iに一対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように導体パターン16cと同様のパターンで渦巻状に形成されている。導体パターン16fの外側端部は、非磁性層13iの縁寄り部分を貫通するビア導体17eによって導体パターン16gに接続され、導体パターン16fの内側端部は、前述のビア導体17dによって導体パターン16eに接続されている。
【0026】
導体パターン16gは、非磁性層13jに一対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように導体パターン16bと同様のパターンで渦巻状に形成されている。導体パターン16gの外側端部は、前述のビア導体17eによって導体パターン16fに接続され、導体パターン16gの内側端部は、非磁性層13jの中央部分を貫通するビア導体17fによって導体パターン16hに接続されている。
【0027】
導体パターン16hは、非磁性層13kに一対に形成され、中心から縁に向かって互いに逆回りとなるように導体パターン16aと同様のパターンで渦巻状に形成されている。導体パターン16hの外側端部は、素体2の側面に引き出されて第3の端子電極5に接続され、前述のビア導体17fによって導体パターン16gに接続されている。
【0028】
以上のような導体パターン16a〜16hで構成されるコイル部11の結合係数は、最も近接して対向する導体パターン16dと導体パターン16eとの間で0.7〜1.0程度、最も離間して対向する導体パターン16aと導体パターン16hとの間で0.05〜0.5程度、コイル部11,11同士では、0.5〜0.8程度となっている。
【0029】
一方のキャパシタ部12は、電極パターン18a,18bによって構成されている。また、他方のキャパシタ部12は、電極パターン18c,18dによって構成されている。
【0030】
電極パターン18aは、非磁性層13bに一対に形成され、素体2の幅方向に伸びる略矩形の主電極部と、主電極部と一体的に形成された引出部とを有している。電極パターン18aの主電極部は、非磁性層13bを挟んで電極パターン18bの主電極部と対向し、電極パターン18aの引出部は、素体2の側面に引き出され、第2の端子電極4に接続されている。
【0031】
電極パターン18bは、非磁性層13cに一対に形成され、素体2の幅方向に伸びる略矩形の主電極部と、主電極部と一体的に形成された引出部とを有している。電極パターン18bの主電極部は、非磁性層13bを挟んで前述の電極パターン18aの主電極部と対向し、電極パターン18bの引出部は、素体2の側面に引き出され、第4の端子電極6に接続されている。
【0032】
電極パターン18cは、非磁性層13lに一対に形成され、素体2の幅方向に伸びる略矩形の主電極部と、主電極部と一体的に形成された引出部とを有している。電極パターン18cの主電極部は、非磁性層13lを挟んで電極パターン18dの主電極部と対向し、電極パターン18cの引出部は、素体2の側面に引き出され、第1の端子電極3に接続されている。
【0033】
電極パターン18dは、非磁性層13mに一対に形成され、素体2の幅方向に伸びる略矩形の主電極部と、主電極部と一体的に形成された引出部とを有している。電極パターン18dの主電極部は、非磁性層13lを挟んで前述の電極パターン18cの主電極部と対向し、電極パターン18dの引出部は、素体2の側面に引き出され、第3の端子電極5に接続されている。
【0034】
図4は、上述した積層型フィルタ1の等価回路を示す図である。同図に示すように、積層型フィルタ1では、第1の端子電極3と第2の端子電極4との間に第1のコイル導体14による信号ラインL1が形成され、第3の端子電極5と第4の端子電極6との間に第2のコイル導体15による信号ラインL2が形成されている。そして、信号ラインL1,L2間において、第1の端子電極3及び第3の端子電極5側には、キャパシタ部12がグランドに接続されない状態で接続され、第2の端子電極4及び第4の端子電極6側には、キャパシタ部12がグランドに接続されない状態で接続されている。
【0035】
以上説明したように、積層型フィルタ1では、互いに磁気結合する一対のコイル部11,11間に、グランドには接続されないキャパシタ部12,12が接続されている。このような構成により、この積層型フィルタ1では、コイル部11の巻数を変化させることに加え、キャパシタ部12,12の静電容量を変化させることによっても減衰特性を変化させることができる。また、キャパシタ部12,12がグランドに接続されないので、グランドからのノイズの戻りを防止できると共に、グランドを通って信号が漏れてしまうことを防止でき、特定の周波数における減衰特性のピークを急峻なものとすることができる。
【0036】
また、積層型フィルタ1では、コイル部11,11及びキャパシタ部12,12が、いずれも非磁性フェライト材料からなる非磁性層13内に配置されており、キャパシタ部12,12の静電容量が抑えられている。このように、キャパシタ部12,12の静電容量を抑えることで、キャパシタ部12,12の電極パターン18a〜18dの面積の変化で調整できる減衰特性の範囲を広げることができ、減衰特性の調整が一層容易なものとなる。また、非磁性フェライト材料からなる非磁性層13を用いることにより、フェライト層による磁気結合をなくすことができる。なお、キャパシタ部12,12の静電容量は、例えば0.5pF〜5pF、好ましくは0.5pF〜3pFである。
【0037】
さらに、積層型フィルタ1では、キャパシタ部12,12が、素体2の積層方向においてコイル部11,11を挟んで対称に配置されている。これにより、素体2の積層方向について、積層型フィルタ1の実装の方向性を打ち消すことができ、実装が容易となる。
【0038】
図5及び図6は、積層型フィルタ1の減衰特性の一例を示す図である。図5においては、コモンモードノイズに対する減衰特性を示し、図6においては、ノーマルモードノイズに対する減衰特性を示している。同図に示すように、積層型フィルタ1では、コモンモードノイズに対する減衰特性Scc1及びノーマルモードノイズに対する減衰特性Sdd1のいずれについても、例えばキャパシタ部が誘電体層内に配置され、かつグランドに接続されているような従来の積層型フィルタのコモンモードノイズに対する減衰特性Scc2及びノーマルモードノイズに対する減衰特性Sdd2に比べて、特定の周波数において急峻なピークが得られる。
【0039】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、コイル部11,11及びキャパシタ部12,12が非磁性フェライト材料によって形成された複数の非磁性層13内に配置されているが、非磁性フェライト材料に代えて、例えば比透磁率が35〜120のNi−Cu−Zn系フェライトなどの磁性フェライト材料によって形成された複数の非磁性層13内に配置されていてもよい。また、コイル部11,11及びキャパシタ部12,12が配置されている層は、必ずしもフェライト層である必要はなく、誘電率が30以下の層であればよい。このような層としては、例えばホウケイ酸ガラスやフォルステライトガラスなどのガラスセラミック材料等が挙げられる。
【符号の説明】
【0040】
1…積層型フィルタ、2…素体、11…コイル部、12…キャパシタ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素体の積層方向に対向配置され、互いに磁気結合する一対のコイル部と、
前記コイル部間に接続される一方で、グランドには接続されないキャパシタ部と、を備えたことを特徴とする積層型フィルタ。
【請求項2】
前記コイル部及び前記キャパシタ部は、いずれも非磁性フェライト層内に配置されていることを特徴とする請求項1記載の積層型フィルタ。
【請求項3】
前記コイル部及び前記キャパシタ部は、いずれも磁性フェライト層内に配置されていることを特徴とする請求項1記載の積層型フィルタ。
【請求項4】
前記コイル部及び前記キャパシタ部は、いずれも誘電率が30以下の層内に配置されていることを特徴とする請求項1記載の積層型フィルタ。
【請求項5】
前記キャパシタ部は、前記素体の積層方向において前記コイル部を挟んで対称に配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の積層型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−178718(P2012−178718A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40598(P2011−40598)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】