説明

積層型電子部品の電極形成方法

【課題】積層型電子部品の両端部の電極形成面に端子電極を形成するにあたって、端子形成面と電極材料の薄膜との接合強度低下、及び電極材料の回り込みを抑制すること。
【解決手段】内部電極と絶縁層とを交互に積層して構成される積層型電子部品の端子電極を形成するにあたり、第1端子形成面の周囲を少なくとも囲んだ状態で、ターゲットの照射面に対して前記第1端子形成面を傾斜させる。そして、この状態で、ターゲットを用いて第1端子形成面に乾式成膜する(ステップS103)。その後、積層型電子部品を反転させる(ステップS105)。そして、第1端子形成面と対向する第2端子形成面をターゲットの照射面に対して傾斜させるとともに、第2端子形成面の周囲を少なくとも囲んだ状態で、ターゲットを用いて第2端子形成面に乾式成膜する(ステップS107)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部電極と絶縁層とを交互に積層して構成される積層型電子部品の端子電極を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、各種の電子部品が実装された基板を備える。このような電子部品の中には、内部電極を有する積層型電子部品と呼ばれるものがある。積層型電子部品は、通常チップ状の部品であり、内部電極と基板のランドとを電気的に接続するための電極が必要である。例えば、特許文献1には、チップ状素体の両端部の対角線が水平となるようにV溝を有する一対のマスク板でチップ状素体を挟持し、一対のターゲットを用いて上下方向からチップ状素体の両端部に薄膜を形成する外部電極形成用マスク治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−204100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、積層型電子部品の両端面へ電極の薄膜を形成しようとする場合、特許文献1に開示された方法では端面がターゲットに対して垂直な方向を向いているので、積層型電子部品の端子形成面と電極材料の薄膜との接合が弱くなるおそれがあった。また、端面をターゲットに正対させると、電極材料が積層型電子部品の側面に回り込んで付着してしまうおそれがあった。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、積層型電子部品の両端部の電極形成面に端子電極を形成するにあたって、端子形成面と電極材料の薄膜との密着強度低下、及び電極材料の回り込みを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、内部電極と絶縁体とを有する積層型電子部品の端子電極を形成するにあたり、前記内部電極が露出した第1端子形成面の周囲を被覆手段で少なくとも囲んだ状態で、前記第1端子形成面を前記端子電極の材料である電極材料で構成されたターゲットに対して露出させるとともに、当該ターゲットの照射面に対して前記第1端子形成面を0度よりも大きく90度よりも小さい傾斜角度で傾斜させて前記積層型電子部品を配置する部品配置工程と、当該部品配置工程が終了した後に、前記ターゲットを用いて前記第1端子形成面に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第1の乾式成膜工程と、当該第1の乾式成膜工程が終了した後に、前記積層型電子部品を反転させ、前記第1端子形成面と対向し、かつ前記内部電極が露出した第2端子形成面を前記照射面に対して前記傾斜角度と同じ角度で傾斜させるとともに、前記第2端子形成面の周囲を被覆手段で少なくとも囲んだ状態で前記第2端子形成面を前記ターゲットに対して露出させる反転工程と、当該反転工程が終了した後に、前記ターゲットを用いて前記第2端子形成面に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第2の乾式成膜工程と、を含むことを特徴とする積層型電子部品の電極形成方法である。
【0006】
本発明は、上述したように、電子部品を反転させることにより、積層型電子部品の両端部の端子形成面に端子電極を形成できる。そして、ターゲットの照射面に対して端子形成面を傾斜させて電極材料の薄膜を形成するので、前記薄膜と端子形成面との密着強度を確保できる。さらに、乾式成膜時には、少なくとも端子形成面の周りを被覆手段で囲むことにより、ターゲットに近い側の被覆手段が庇として機能するとともに、重力によって端子形成面とターゲットから遠い側の被覆手段との隙間が小さくなる。これによって、電極材料が電子部品の側面へ回り込むことが抑制される。このように、本発明では、積層型電子部品の両端部の電極形成面に端子電極を形成するにあたって、端子形成面と電極材料の薄膜との密着強度低下、及び電極材料の回り込みを抑制できる。
【0007】
本発明の望ましい態様としては、前記第1端子形成面と前記第2端子形成面とに、異なる電極材料の薄膜を複数積層させる場合、前記第1の乾式成膜工程においては、前記異なる電極材料に対応したターゲットを用いて、それぞれのターゲットで前記第1端子形成面に乾式成膜することにより、複数の電極材料の薄膜を形成し、前記第2の乾式成膜工程においては、前記異なる電極材料に対応したターゲットを用いて、それぞれのターゲットで前記第2端子形成面に乾式成膜することにより、複数の電極材料の薄膜を形成することが好ましい。これによって、複数の異なる電子材料の薄膜により端子電極を形成できる。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記第1端子形成面と前記第2端子形成面とに、異なる電極材料の薄膜を複数積層させる場合、前記第2の乾式成膜工程の後、前記第2端子形成面を、当該第2端子形成面の周囲を被覆手段で少なくとも囲んだ状態で、当該第2端子形成面の最上層に形成された薄膜とは異なる電極材料で構成されたターゲットに対して露出させて、当該ターゲットを用いて前記最上層に形成された薄膜上に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第3の乾式成膜工程と、当該第3の乾式成膜工程が終了した後に、前記積層型電子部品を反転させ、前記電極材料の薄膜が形成された前記第1端子形成面を前記照射面に対して前記傾斜角度と同じ角度で傾斜させるとともに、前記第1端子形成面の周囲を少なくとも囲んだ状態で、前記第1端子形成面を前記第3の乾式成膜工程で用いたターゲットに対して露出させる再反転工程と、当該再反転工程が終了した後に、前記第3の乾式成膜工程で用いたターゲットを用いて前記第1端子形成面に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第4の乾式成膜工程と、をさらに含むことが好ましい。これによって、複数の異なる電子材料の薄膜により端子電極を形成できる。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記積層形電子部品は、前記第1端子形成面及び前記第2端子形成面が四角形の四角柱形状であり、前記部品配置工程及び前記反転工程においては、前記第1端子形成面及び前記第2端子形成面とつながる前記積層型電子部品の側部の一つの稜線を前記ターゲット側に向けることが好ましい。通常、積層型電子部品は略四角柱形状であり、端子形成面の形状は四角形であるが、その一つの稜線をターゲット側に向けることにより、ターゲットにより近い側の被覆手段によって端子形成面の二つの辺を囲むことができる。これによって、端子電極の二つの辺から同時に電極材料の回り込みを抑制できる。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記傾斜角度は、30度以上60度以下であることが好ましい。これによって、電極材料と端子形成面との密着強度低下をより効果的に抑制でき、かつ電子部品の側面への電極材料の回り込みをより効果的に抑制できる。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、さらに、前記第1端子形成面及び前記第2端子形成面とつながる前記積層型電子部品の側部の前記第1端子形成面側、及び前記第2端子形成面側に、それぞれ側部電極を形成する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、積層型電子部品の両端部の電極形成面に端子電極を形成するにあたって、端子形成面と電極材料の薄膜との接合強度低下、及び電極材料の回り込みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】図1−1は、積層型電子部品の一例であるコンデンサの断面模式図である。
【図1−2】図1−2は、積層型電子部品の斜視図である。
【図2】図2は、積層型電子部品の平面図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る積層型電子部品の電極形成方法によって積層型電子部品の端子形成面に端子電極を形成する状態を示す概念図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る電極形成方法で用いる成膜治具の全体構成図である。
【図5】図5は、成膜治具を構成する部品保持治具の側面図である。
【図6】図6は、部品保持治具の正面図である。
【図7】図7は、部品保持治具の部品保持孔を示す正面図である。
【図8】図8は、部品保持治具に電子部品を保持した状態を示す模式図である。
【図9】図9は、成膜治具を構成するベース治具を示す側面図である。
【図10】図10は、成膜治具を用いて電子部品の端子形成面にスパッタリングをする状態を示す模式図である。
【図11】図11は、本実施形態に係る電極形成方法の手順を示すフローチャートである。
【図12−1】図12−1は、本実施形態に係る電極形成方法の説明図である。
【図12−2】図12−2は、本実施形態に係る電極形成方法の説明図である。
【図12−3】図12−3は、本実施形態に係る電極形成方法の説明図である。
【図12−4】図12−4は、本実施形態に係る電極形成方法の説明図である。
【図12−5】図12−5は、本実施形態に係る電極形成方法の説明図である。
【図13】図13は、第1端子電極及び第2端子電極が形成された電子部品を示す側面図である。
【図14】図14は、本実施形態に係る電極形成方法が適用できる他の電子部品の形状を示す斜視図である。
【図15】図15は、図14に示す電子部品に用いる部品保持治具の正面図である。
【図16】図16は、本実施形態の変形例に係る成膜治具を示す全体構成図である。
【図17】図17は、図16に示す成膜治具の部品保持治具が有する部品保持孔を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
図1−1は、積層型電子部品の一例であるコンデンサの断面模式図である。図1−2は、積層型電子部品の斜視図である。図2は、積層型電子部品の平面図である。図1−1に示すように、積層型電子部品(以下、必要に応じて電子部品という)1は、内部電極8A、8Bと絶縁体としての絶縁層9とを含む。本実施形態において、電子部品1は、内部電極8A、8Bと絶縁体としての絶縁層9とを交互に積層し、内部電極8Aに第1端子電極2Aが接続され、かつ内部電極8Bに第2端子電極2Bが接続されて構成される部品である。電子部品1は、内部電極と絶縁体とを有していれば、本実施形態の構造に限定されるものではない。第1端子形成面5Aには内部電極8Aが露出しており、また、第2端子形成面5Bには内部電極8Bが露出している。そして、第1端子電極2Aは第1端子形成面5Aに形成され、第2端子電極2Bは第2端子形成面5Bに形成される。電子部品1としては、例えば、チップコンデンサの他に、内部電極パターンや材料組成等が異なるチップインダクタ、チップ抵抗、フィルタ、バリスタ等がある。なお、以下において、第1端子電極2Aと第2端子電極2Bとを区別しない場合には単に端子電極といい、第1端子形成面5Aと第2端子形成面5Bとを区別しない場合には単に端子形成面という。
【0016】
図1−2に示すように、本実施形態において、第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bの形状は正方形である。そして、電子部品1の形状は、第1端子形成面5Aと第2端子形成面5Bとを底面とし、これらにつながる4個の側面(側部)4A、4B、4C、4Dを有する四角柱形状である。第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bの辺の長さはLa、Lb(La=Lb)であり、電子部品1の長さはLcである。なお、第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bの形状は正方形に限定されるものではなく、後述するような長方形であってもよい。
【0017】
図1−2、図2に示すように、電子部品1が有するそれぞれの側面4A、4B、4C、4Dの第1端子形成面5A側、及び第2端子形成面5B側には、それぞれ側部電極3A、3Bが形成される。側部電極3Aは第1端子電極2Aと電気的に接続され、また、側部電極3Bは第2端子電極2Bと電気的に接続される。そして、側部電極3A、3Bは、電子部品1が搭載される基板の電極(基板側電極)とハンダによって電気的に接続される。本実施形態において、側部電極3A、3Bは、すべての側面4A、4B、4C、4Dへ一体に形成されるが、全側面4A、4B、4C、4Dのうち少なくとも一つに形成されていればよい。このように、電子部品1は、側面4A、4B、4C、4Dに設けられた側部電極3A、3Bによって基板電極と接合される、いわゆる表面実装型の電子部品である。
【0018】
電子部品1は、平面視が矩形の形状(側面4Aの形状が矩形)であり、長手方向(図2の矢印Aで示す方向)及び短手方向(図2の矢印Bで示す方向)がある。電子部品1は、寸法がいわゆる1005以下である。1005とは、図2に示す電子部品1の長手方向における寸法Lcが1.0±0.05mm、短手方向における寸法Laが0.5±0.05mmであることを意味する。
【0019】
図3は、本実施形態に係る積層型電子部品の電極形成方法によって積層型電子部品の端子形成面に端子電極を形成する状態を示す概念図である。上述した第1端子電極2A、第2端子電極2Bは、乾式成膜によって端子電極が形成される。本実施形態においては、乾式成膜として、PVD(Physical Vapor Deposition:物理気相成長)を用いる。PVDは、物質の表面に薄膜を形成する蒸着法の一つで、気相中で物質の表面に物理的手法により目的とする物質の薄膜を堆積させる方法である。PVDとしては、例えば、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子線エピタキシー法、イオンビームデポジション、抵抗加熱蒸着、イオンプレーティング等があり、本実施形態ではスパッタリングを用いる。
【0020】
本実施形態に係る積層型電子部品の電極形成方法(以下、必要に応じて電極形成方法という)は、図3に示すように、第1端子電極2A及び第2端子電極2Bの成膜に用いるスパッタリングのターゲット30の照射面31に対して、少なくとも、電子部品1の第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bの周囲を被覆手段である覆い部材32によって囲むとともに傾斜させる。これによって、ターゲット30側の覆い部材32が庇として機能することにより、ターゲット30から照射される電極材料(本実施形態では金属であり、例えば、銅やクロム)が電子部品1の側面に回り込むことを抑制できる。そして、端子電極を形成したい部分(例えば、第1端子形成面5A及び第2端子形成面5B)を選択して、当該部分のみに端子電極を形成できる。なお、少なくとも第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bの周囲を被覆手段で囲めばよく、電子部品1の側面を被覆手段で囲んでもよい。
【0021】
このとき、傾斜角度θは、0度よりも大きく90度よりも小さくする。傾斜角度θは、照射面31(図3に示す例では照射面31と平行な仮想照射面VHL)と第1端子形成面5A又は第2端子形成面5Bとのなす角度のうち小さい方の角度である。傾斜角度θを小さくすると、ターゲット30から照射される電極材料は第1端子形成面5A又は第2端子形成面5Bに対してより直角に近い角度で衝突することになるので、成膜時には電子材料の運動エネルギをより有効に利用できる。その結果、電極材料の薄膜と第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bとの密着強度が向上するとともに、得られる電極材料の薄膜は、緻密かつ十分な膜厚となる。しかし、傾斜角度θを小さくし過ぎると、覆い部材32の庇としての機能が低下し、電極材料の回り込みを抑制する効果が少なくなる。
【0022】
一方、傾斜角度θを大きくすると、覆い部材32が庇として有効に機能するようになるので、電極材料の回り込みを抑制する効果も大きくなる。しかし、傾斜角度θを大きくし過ぎると、ターゲット30から照射される電極材料は、第1端子形成面5A又は第2端子形成面5Bに対してより平行に近い角度で衝突することになるので、成膜時には電子材料の運動エネルギを効率的に利用できなくなる。その結果、電極材料と第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bとの密着強度が低下するとともに、電極膜の緻密性への影響も懸念される。
【0023】
電極材料の前記密着強度を向上させ、かつ緻密な電極材料の薄膜を形成するとともに、電子部品1の側面への電極材料の回り込みを抑制する観点から、傾斜角度θは30度以上60度以下が好ましく、40度以上50度以下がさらに好ましい。このようにすることで、電極材料の前記密着強度を向上させるとともに緻密かつ十分な厚さの電極材料の薄膜を形成し、かつ電子部品1の側面への電極材料の回り込みを抑制できる。なお、本実施形態では傾斜角度θを45度としている。
【0024】
本実施形態に係る電極形成方法は、第1端子形成面5A又は第2端子形成面5Bのいずれか一方に端子電極を形成した後、電子部品1を反転させて端子電極を形成していない方に端子電極を形成する。これを実現するため、本実施形態に係る電極形成方法では、次に説明する成膜治具を用いる。
【0025】
図4は、本実施形態に係る電極形成方法で用いる成膜治具の全体構成図である。図4に示すように、成膜治具100は、部品保持治具10とベース治具20とで構成される。部品保持治具10は、第1保持体10Aと第2保持体10Bとで構成される。そして、部品保持治具10は、端子電極の成膜時に、端子電極を形成する対象の電子部品1(図1−2等参照)を第1保持体10Aと第2保持体10Bとの間に挟持して保持する。ベース治具20は、第1ベース治具20Aと第2ベース治具20Bとで構成される。そして、ベース治具20は、端子電極の成膜時に、第1ベース治具20A又は第2ベース治具20Bのいずれか一方に部品保持治具10を載置して、これを保持する。ベース治具20はターゲット30の照射面31に対して傾斜する傾斜面24を有しており、部品保持治具10は、傾斜面24と接するように載置される。
【0026】
この状態で、電子部品1の第1端子形成面5A又は第2端子形成面5Bをターゲット30の照射面31に向けてスパッタリングによって端子電極を成膜する。その後、第1ベース治具20Aと第2ベース治具20Bとの間に部品保持治具10を挟持した状態でベース治具20を反転させる。これによって、第1端子形成面5A又は第2端子形成面5Bのうち、端子電極が形成されていない方をターゲット30の照射面31に向けて、スパッタリングによって端子電極を成膜する。次に、部品保持治具10をより詳細に説明する。
【0027】
図5は、成膜治具を構成する部品保持治具の側面図である。図6は、部品保持治具の正面図である。図6は、図5の矢印A方向から部品保持治具10を見た状態を示している。図7は、部品保持治具の部品保持孔を示す正面図である。図8は、部品保持治具に電子部品を保持した状態を示す模式図である。図9は、成膜治具を構成するベース治具を示す側面図である。図10は、成膜治具を用いて電子部品の端子形成面にスパッタリングをする状態を示す模式図である。
【0028】
図5、図6に示すように、部品保持治具10の第1保持体10Aと第2保持体10Bとは、それぞれの合わせ面13A、13Bで組み合わされる。合わせ面13A、13Bには、それぞれ断面が三角形(本実施形態では直角二等辺三角形)の保持溝11A、11Bが形成されている。図6に示すように、合わせ面13A、13Bを対向させて第1保持体10Aと第2保持体10Bとを組み合わせると、保持溝11A、11Bが対向し、断面が四角形(本実施形態では正方形)の部品保持孔11が形成される。この部品保持孔11に、図1−2に示す電子部品1が挟持され、保持される。なお、断面とは、保持溝11A、11Bが形成される方向、又は部品保持孔11が部品保持治具10を貫通する方向と直交する面である。
【0029】
図7に示すように、第1保持体10Aに形成され、部品保持孔11を構成する保持溝11Aは、互いに直交する保持面14A、14Aを有する。また、第2保持体10Bに形成され、部品保持孔11を構成する保持溝11Bは、互いに直交する保持面14B、14Bを有する。このような構成により、電子部品1が部品保持孔11に保持されると、電子部品1の二つの側面が保持面14A、14A、又は保持面14B、14Bに接触することになる。例えば、本実施形態では、図8に示すように、電子部品1の二つの側面4B、4Cが保持面14B、14Bに接触することになる。
【0030】
図8に示すように、断面形状が正方形の部品保持孔11は、角部の頂部12A又は12B(本実施形態では角部の頂部12A)が、ターゲット30の照射面31に向くように構成される。すなわち、部品保持孔11を構成する保持溝11A、11Bの稜線が照射面31に向くように構成される。また、図7に示す、部品保持孔11の一方の対角線19Aは、合わせ面13A、13Bと平行かつターゲット30の照射面31と平行になるように構成される。これによって、図8に示すように、電子部品1を部品保持孔11に保持すると、四角柱形状の電子部品1の稜線6が照射面31に向くように電子部品1が配置される。なお、電子部品1の稜線は、電子部品1の二つの側面を接続する部分であり、図8に示す例では、電子部品1の二つの側面4A、4Dを接続する部分が電子部品1の稜線6となる。
【0031】
第1保持体10Aの合わせ面13Aの反対側は、図4に示すベース治具20と接する設置端面18Aであり、第2保持体10Bの合わせ面13Bの反対側は、ベース治具20と接する設置端面18Bである。保持溝11Aの一方の開口側における第1保持体10Aの側面16AA、及び保持溝11Bの一方の開口側における第2保持体10Bの側面16BAは、成膜時においてベース治具20と接する。また、保持溝11Aの他方の開口側における第1保持体10Aの側面16AB、及び保持溝11Bの他方の開口側における第2保持体10Bの側面16BBは、成膜時においてベース治具20と接する。
【0032】
図9に示すように、ベース治具20を構成する第1ベース治具20Aと第2ベース治具20Bとは、同じ形状である。第1ベース治具20Aは、載置面21Aと、傾斜面24Aと、ベース治具合わせ面22A、23Aと、部品保持治具係止部25Aと、部品保持治具載置面26Aとを含んで構成される。同様に、第2ベース治具20Bは、載置面21Bと、傾斜面24Bと、ベース治具合わせ面22B、23Bと、部品保持治具係止部25Bと、部品保持治具載置面26Bとを含んで構成される。
【0033】
載置面21A、21Bは、それぞれ乾式成膜装置であるスパッタリング装置のステージFの上に載置される平面である。電子部品1を保持した部品保持治具10を反転させる際に、第1ベース治具20Aと第2ベース治具20Bとで部品保持治具10を挟み込む。このとき、第1ベース治具20Aのベース治具合わせ面22Aと第2ベース治具20Bのベース治具合わせ面23Bとが互いに接触し、第1ベース治具20Aのベース治具合わせ面23Aと第2ベース治具20Bのベース治具合わせ面22Bとが互いに接触する。
【0034】
傾斜面24A、24Bは、ターゲット30の照射面31(図9に示す例では、仮想照射面VHL)に対して傾斜しており、その傾斜角度はθである。傾斜面24A、24Bの一端はベース治具合わせ面22A、22Bとつながっており、他端は部品保持治具載置面26A、26Bとつながっている。部品保持治具載置面26A、26Bは、第1ベース治具20Aあるいは第2ベース治具20Bに、図5に示す部品保持治具10を載置する面であり、部品保持治具10の設置端面18B、18Aと接することになる。
【0035】
部品保持治具係止部25A、25Bは、それぞれ部品保持治具載置面26A、26Bからベース治具合わせ面23A、23B側に向かって突出している。そして、第1ベース治具20A(あるいは第2ベース治具20B)に部品保持治具10が載置されると、部品保持治具10と部品保持治具係止部25A(あるいは部品保持治具係止部25B)とが係り合う。これによって、部品保持治具10と第1ベース治具20A(あるいは第2ベース治具20B)とのずれが防止されるので、第1ベース治具20A(あるいは第2ベース治具20B)は、部品保持治具10を確実に保持できる。
【0036】
図9に示す例では、第1ベース治具20A(あるいは第2ベース治具20B)に部品保持治具10が載置されると、第1保持体10Aの側面16AB及び第2保持体10Bの側面16BBは、第1ベース治具20A(あるいは第2ベース治具20B)の傾斜面24A(あるいは傾斜面24B)と接する。ここで、第1保持体10Aの側面16AB及び第2保持体10Bの側面16BBは、第1保持体10Aの側面16AA及び第2保持体10Bの側面16BAと平行である。このため、第1ベース治具20A(あるいは第2ベース治具20B)に載置された部品保持治具10を構成する第1保持体10Aの側面16AA及び第2保持体10Bの側面16BAは、ターゲット30の照射面31(図9に示す例では、仮想照射面VHL)に対して傾斜した状態(傾斜角度はθ)となる。
【0037】
また、第1保持体10Aの側面16AB及び第2保持体10Bの側面16BBと、第1保持体10Aの側面16AA及び第2保持体10Bの側面16BAとの距離は、第1保持体10Aと第2保持体10Bとで挟持する電子部品1の長手方向における寸法と同一である。
【0038】
図10は、第1ベース治具20Aの傾斜面24Aに、第1保持体10Aの側面16AB、及び第2保持体10Bの側面16BBが接している状態を示す。このように、電子部品1を保持した部品保持治具10を、側面16AA及び側面16BAがベース治具20のいずれかの傾斜面(24A又は24B)と接するようにすると、第1端子形成面5Aが側面16AB及び側面16BBと平行かつ略同一面に配置される。その結果、第1端子形成面5Aは、ターゲット30の照射面31(図10に示す例では、仮想照射面VHL)に対して傾斜角度θだけ傾斜することになる。
【0039】
同様に、電子部品1を保持した部品保持治具10を、側面16AB及び側面16BBがベース治具20のいずれかの傾斜面(24A又は24B)と接するようにすると、第2端子形成面5Bは、側面16AA及び側面16BAと平行かつ略同一面に配置される。その結果、第2端子形成面5Bは、ターゲット30の照射面31に対して傾斜角度θだけ傾斜することになる。
【0040】
このように、ベース治具20は、第1ベース治具20Aの傾斜面24Aと第2ベース治具20Bの傾斜面24Bとをターゲット30の照射面31に対して同じ傾斜角度θで傾斜させる。そして、部品保持治具10は、第1ベース治具20Aと接する面(側面16AB及び側面16BB)と、第2ベース治具20Bと接する面(側面16AA及び側面16BA)とを平行に構成する。これによって、部品保持治具10を、第1ベース治具20Aあるいは第2ベース治具20Bのいずれに載置した場合でも、電子部品1の第1端子形成面5Aと第2端子形成面5Bとを、照射面31に対して同じ傾斜角度θで傾斜させることができる。
【0041】
上述したように、電子部品1を第1保持体10Aと第2保持体10Bとで挟持し、部品保持孔11に保持した状態でベース治具20に載置すると、図10に示すように、電子部品1の稜線6が照射面31に向くようになる。第1保持体10Aの縁部15A及び第2保持体10Bの縁部15Bは、第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)の周囲を囲んでいる。そして、第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)は、縁部15A、15Bと略同一面に配置されるようになる。
【0042】
これによって、第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)と、第1保持体10Aの側面16AA、及び第2保持体10Bの側面16BAとは略同一面に配置されるので、第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)はターゲット30に対して露出することになる。また、図10に示すように、本実施形態では、電子部品1の第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)は、ターゲット30の照射面31に対して傾斜角度θだけ傾斜する。ここで、縁部15Aは、保持溝11Aと第1保持体10Aの側面16AAとの接続部であり、縁部15Bは、保持溝11Bと第2保持体10Bの側面16BAとの接続部である。
【0043】
この状態で、ターゲット30の照射面31から電極材料Sを第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)に照射すると、第1保持体10Aのターゲット30側の縁部15Aが第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)に対する庇となる。すなわち、縁部15A、15Bが図3に示す覆い部材32と同様に機能する。このように、縁部15A、15Bは被覆手段となる。また、図8に示すように、電子部品1の側面4B、4Cは、第2保持体10Bの保持面14Bに支持されるので、重力の作用により電子部品1の第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)と縁部15Bとの隙間が小さくなる。これらの作用によって、ターゲット30から照射される電極材料Sの回り込みが抑制されるので、両端子電極間における短絡のおそれが極めて低い、高品質な電子部品1を製造できる。
【0044】
また、電子部品1の寸法が小さくなると(特に、いわゆる1005の部品寸法以下)、スパッタリング等の乾式成膜においては、成膜したい部分(第1端子形成面5Aあるいは第2端子形成面5B)以外のマスクが困難になる。しかし、本実施形態では、成膜したい部分の周りを囲むことにより庇としての機能を発揮させること、及び重力を利用して部品保持治具10と電子部品1との隙間を低減することによって、電極材料Sの回り込みを抑制する。これによって、本実施形態は、特に、寸法の小さい電子部品1に対して、成膜したい部分を選択して端子電極を形成することに有用である。
【0045】
さらに、第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)は、ターゲット30の照射面31に対して傾斜角度θだけ傾斜しているので、電極材料Sと第1端子形成面5A(あるいは第2端子形成面5B)との密着強度が向上するとともに、緻密かつ十分な膜厚の端子電極を形成できる。次に、本実施形態に係る電極形成方法の手順を説明する。
【0046】
図11は、本実施形態に係る電極形成方法の手順を示すフローチャートである。図12−1〜図12−5は、本実施形態に係る電極形成方法の説明図である。図13は、第1端子電極及び第2端子電極が形成された電子部品を示す側面図である。本実施形態に係る電極形成方法を実行するにあたっては、まず、内部電極が露出し、端子電極が形成されていない状態の電子部品1を、図5、図6に示す部品保持治具10に保持する(ステップS101)。
【0047】
次に、図12−1に示すように、第1保持体10Aと第2保持体10Bとの間に電子部品1を挟持することによって保持した部品保持治具10を、第1ベース治具20Aにセットする(ステップS102)。なお、第1ベース治具20Aは、スパッタリング装置のステージF上であって、ターゲット30と対向する位置に載置される。そして、部品保持治具10に保持された電子部品1の第1端子形成面5Aが、ターゲット30側に露出した状態で配置される。第1端子形成面5Aは、電子部品1の内部電極が露出し、端子電極が形成される面である。
【0048】
ステップS101、ステップS102により、内部電極が露出した第1端子形成面5Aの周囲を少なくとも囲んだ状態で、第1端子形成面5Aをターゲット30に対して露出させるとともに、ターゲット30の照射面31に対して第1端子形成面5Aを0度よりも大きく90度よりも小さい傾斜角度θで傾斜させる部品配置工程が実現される。この状態で、スパッタリングにより第1端子形成面5Aに電極材料の薄膜を成膜して、第1端子電極2Aを形成する(ステップS103)。ステップS103が、第1の乾式成膜工程である。本実施形態では、一種類の電極材料で端子電極を形成するので、第1の乾式成膜工程により第1端子電極2Aが形成される。
【0049】
第1の乾式成膜工程においては、第1保持体10Aの縁部15A及び第2保持体10Bの縁部15Bが、第1端子形成面5Aの周囲を囲む。このとき、縁部15Aがターゲット30側となるので、スパッタリング時には縁部15Aが庇として機能する。また、重力の作用によって縁部15Bと第1端子形成面5Aとの隙間が小さくなる。これらの作用によって、第1端子形成面5Aに端子電極を形成する際には、電極材料Sの回り込みが回避されるので、両端子電極間における短絡のおそれが極めて低い、高品質な電子部品1を製造できる。
【0050】
次に、図12−2に示すように、第1ベース治具20Aに第2ベース治具20Bを取り付け(ステップS104)、両者を組み合わせる。これによって、第1ベース治具20Aと第2ベース治具20Bとで、電子部品1を保持した部品保持治具10が挟持される。そして、図12−3に示すように、第1ベース治具20Aと第2ベース治具20Bとを組み合わせた状態でこれらを反転させる。これによって、部品保持治具10とともに、電子部品1も反転する(ステップS105)。
【0051】
上述した第1の乾式成膜工程では、部品保持治具10の表面にも電極材料の薄膜が成膜される。本実施形態では、端子電極が形成された第1端子形成面5A及び部品保持治具10表面の薄膜を、第2ベース治具20Bで挟持した状態で、電子部品1の姿勢を容易に反転させることができる。これによって、電子部品1を反転させる際に、電極材料の薄膜が剥離して、端子電極が形成されていない端子形成面(第2端子形成面5B)に付着することを回避できる。その結果、端子電極が形成されていない端子形成面が清浄な状態に保たれるので、当該端子形成面に高品質の端子電極を作成できる。また、既に形成された端子電極は、反転時に第2ベース治具20Bで保護されるので、当該端子電極の品質低下が抑制される。
【0052】
第1ベース治具20Aと第2ベース治具20Bとを反転させた後は、図12−4に示すように、第2ベース治具20BがステージFに載置される。この状態で、第1ベース治具20Aを第2ベース治具20Bから取り外す(ステップS106)。すると、図12−5に示すように、第1保持体10Aと第2保持体10Bとの間に電子部品1が挟持された状態で、第1保持体10Aと第2保持体10Bとが第2ベース治具20Bに載置される。そして、端子電極が形成された第1端子形成面5Aは第2ベース治具20Bと対向するとともに、第1端子形成面5Aと対向する第2端子形成面5Bが、ターゲット30側に露出した状態で配置される。
【0053】
ステップS105、ステップS106により、電子部品1を反転させ、第1端子形成面5Aと対向し、かつ内部電極が露出した第2端子形成面5Bを照射面31に対して上述した傾斜角度θと同じ角度で傾斜させるとともに、第2端子形成面5Bの周囲を少なくとも囲んだ状態で第2端子形成面5Bをターゲット30に対して露出させる反転工程が実現される。この状態で、スパッタリングにより第2端子形成面5Bに電極材料の薄膜を成膜(乾式成膜)して、第2端子電極2Bを形成する(ステップS107)。ステップS107が、第2の乾式成膜工程である。本実施形態では、一種類の電極材料で端子電極を形成するので、第2の乾式成膜工程により第2端子電極2Bが形成される。
【0054】
電子部品1を反転させると、図12−5に示すように、第2保持体10Bの縁部15B及び第1保持体10Aの縁部15Aが、第2端子形成面5Bの周囲を囲む。このとき、縁部15Bがターゲット30側となるので、スパッタリング時には縁部15Bが庇として機能する。また、重力の作用によって縁部15Aと第2端子形成面5Bとの隙間が小さくなる。これらの作用によって、第2端子形成面5Bに端子電極を形成する際にも、電極材料Sの回り込みが回避されるので、両端子電極間における短絡のおそれが極めて低い、高品質な電子部品1を製造できる。さらに、本実施形態では、第1端子形成面5Aに端子電極を形成した後、電子部品1を反転させて第1端子形成面5Aと対向する第2端子形成面5Bに端子電極を形成する。これによって、一つのターゲットで、電子部品1の両方の端子形成面に端子電極を形成できる。
【0055】
図13に示すように、電子部品1の第1端子形成面5A及び第2端子形成面5Bにそれぞれ第1端子電極2A、第2端子電極2Bが形成されたら、部品保持治具10を第2ベース治具20Bから取り外すとともに、部品保持治具10から電子部品1を取り外す(ステップS108)。電子部品1の側面であって、第1端子形成面5A側の側部電極形成部BA、及び第2端子形成面5B側の側部電極形成部BBに、それぞれ図1−2に示す側部電極3A、3Bを形成する(ステップS109)。なお、本実施形態においては、ステップS109で側部電極3A、3Bを形成したが、側部電極3A、3Bを形成する時期はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態に係る電極形成方法を実行するよりも前、すなわち、ステップS101よりも前に、予めめっき以外の方法で側部電極3A、3Bを形成しておいてもよい。側部電極3A、3Bが形成されたら、電子部品1が完成する(ステップS110)。完成した電子部品は検査に供され、合格したものが製品として出荷される。
【0056】
側部電極3A、3Bは、例えば、めっきによって形成される。ここで、端子電極を形成する方法には、金属ペーストを電子部品1の端子形成面に塗布し、これを焼き付ける方法がある。しかし、金属ペーストは100%が金属ではないため、前記方法では、端子電極を緻密に形成することが困難で、めっき液が電子部品1の内部に浸入するおそれがある。しかし、本実施形態に係る電極形成方法は、上述したように、スパッタリングに代表される乾式成膜によって緻密かつ十分な膜厚で、第1端子形成面5A、及び第2端子形成面5Bとの密着強度の大きい端子電極が形成できる。これによって、側部電極3A、3Bを形成する際のめっき時にめっき液が端子電極に接触しても、めっき液が端子電極を通過して電子部品1の内部に浸入することを回避できるので、電子部品1の歩留まりを向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態に係る電極形成方法は、乾式成膜によって端子電極を形成するので、金属ペーストを用いる方法と比較して、端子電極の厚さを小さくできるので、電子部品1の寸法増加を抑制できる。これは、特に、電子部品1の寸法が小さくなるほど(特に、いわゆる1005の部品寸法以下)有利である。
【0058】
さらに、本実施形態に係る電極形成方法は、端子電極と電子部品1の電極形成面との密着強度を大きくすることができるので、例えば、電子部品1を直接基板へ実装する(例えば、端子金具等を介さずに実装する)場合において、電子部品と基板との接合強度を確保できる。このため、本実施形態に係る電極形成方法は、特に、携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)等のように、携帯される機会の多い電子機器に搭載される場合に好ましい。
【0059】
上記説明では、端子電極を1層の薄膜で形成したが、端子電極は、異なる電極材料からなる薄膜を複数積層させることにより形成されてもよい。この場合、電極材料毎に両方の端子形成面へ薄膜を形成し、順次電極材料の薄膜を積層して、両方の端子電極を形成してもよい。例えば、第1電極材料(例えば、クロム)からなる薄膜と第2電極材料(例えば、銅)からなる薄膜とを積層させた端子電極を成膜する場合、電子部品1の第1端子形成面5Aに第1電極材料の薄膜を成膜した後、電子部品1を反転させて第2端子形成面5Bに第1電極材料の薄膜を成膜する。次に、第2端子形成面5Bをその最上層に形成された薄膜とは異なる電極材料(第2電極材料)で構成されたターゲットに対して露出させて、第2端子形成面5Bに第2電極材料の薄膜を成膜する(第3の乾式成膜工程)。その後、電子部品1を反転させて、第1端子形成面5Aをその最上層に形成された薄膜とは異なる電極材料(第2電極材料)で構成されたターゲットに対して露出させる(再反転工程)。
【0060】
この状態で、電子部品1の第1端子形成面5Aに第2電極材料の薄膜を成膜する(第4の乾式成膜工程)。このように、反転工程、再反転工程の前後において、ターゲットは同一とする。これによって、第1端子形成面5Aに第1端子電極2Aを形成し、第2端子形成面5Bに第2端子電極2Bを形成する。3層以上の異なる薄膜で端子電極を形成する場合、例えば、3種類の異なる薄膜の層を積層するのであれば、第4の乾式成膜工程の後、第1端子形成面5Aに第3電極材料の薄膜を形成し(第5の乾式成膜工程)、その後、反転工程、第6の乾式成膜工程(第2端子形成面5Bに第3電極材料の薄膜を形成する工程)の順に成膜する。これによって、第1端子形成面5Aに3層以上の異なる薄膜の第1端子電極2Aを形成し、第2端子形成面5Bに3層以上の異なる薄膜の第2端子電極2Bを形成する。
【0061】
また、異なる電極材料からなる薄膜を複数積層させて端子電極を形成する場合、次のようにしてもよい。例えば、電子部品1の第1端子形成面5Aに、異なる電極材料からなる薄膜を順に成膜して第1端子電極2Aを形成する。その後、電子部品1を反転させて第2端子形成面5Bに、異なる電極材料からなる薄膜を順に成膜して第2端子電極2Bを形成する。例えば、第1電極材料からなる薄膜と第2電極材料からなる薄膜とを積層させた端子電極を成膜する場合、まず、電子部品1の第1端子形成面5Aに第1電極材料の薄膜、第2電極材料の薄膜の順に成膜して第1端子電極2Aを形成する。その後、電子部品1を反転させて第2端子形成面5Bに第1電極材料の薄膜、第2電極材料の薄膜の順に成膜して第2端子電極2Bを形成する。
【0062】
このように端子電極を形成する場合、例えば、第1電極材料のターゲットを備えるスパッタリング装置と第2電極材料のターゲットを備えるスパッタリング装置とを用意し、順にそれぞれの電極材料の薄膜を形成してもよい。また、同じスパッタリング装置でターゲットを交換して、それぞれの電極材料の薄膜を形成してもよい。この場合、上述したステップS103(第1の乾式成膜工程)において、複数の電極材料を用いて第1端子形成面5Aへ順に成膜し、第1端子電極2Aを形成する。そして、上述したステップS107(第2の乾式成膜工程)において、複数の電極材料を用いて第2端子形成面5Bへ順に成膜し、第2端子電極2Bを形成する。
【0063】
図14は、本実施形態に係る電極形成方法が適用できる他の電子部品の形状を示す斜視図である。図15は、図14に示す電子部品に用いる部品保持治具の正面図である。図14に示す電子部品1aは、第1端子形成面5Aa、第2端子形成面5Baが長方形であり、これらに形成される第1端子電極2Aa、第2端子電極2Baも長方形である。すなわち、第1端子電極2Aa、第1端子形成面5Aa等の寸法はLb<Laである。
【0064】
図15は、乾式成膜工程において、図14に示すような電子部品1aを保持する部品保持治具10aである。部品保持治具10aの第1保持体10Aaと第2保持体10Baとは、それぞれ断面形状が直角三角形の保持溝11Aa、11Baを有する。保持溝11Aa、11Baは、直角部分の角部の頂部12Aa、12Baが、ターゲットの照射面を向くように構成される。そして第1保持体10Aaと第2保持体10Baとを組み合わせると、断面が長方形の部品保持孔11aが形成される。この部品保持孔11aに図14に示す電子部品1aを保持することにより、本実施形態に係る電極形成方法を実現するにあたって、上述した部品保持治具10と同様に電子部品1aを取り扱うことができる。
【0065】
図16は、本実施形態の変形例に係る成膜治具を示す全体構成図である。図17は、図16に示す成膜治具の部品保持治具が有する部品保持孔を示す拡大図である。この成膜治具100bは、上述した成膜治具100と略同様の構成であるが、部品保持治具10bを構成する第1保持体10Abが有する保持溝11Abの開口部、及び第2保持体10Bbが有する保持溝11Bbの開口部の縁部を取り除き、面取り部17A、17Bを形成した点が異なる。
【0066】
図16に示すように、第1保持体10Abの保持溝11Abの側面16AAb側における開口部には面取り部17Aが形成され、第2保持体10Bbの保持溝11Bbの側面16BBb側における開口部には面取り部17Bが形成される。側面16AAb、16BBbは、いずれも第1あるいは第2の乾式成膜工程において、部品保持治具10bのターゲット30側に配置される側面16AAb、16BAb(あるいは側面16BBb、16ABb)のうち、よりターゲット30側の側面である。
【0067】
図17に示すように、面取り部17Aは、第1保持体10Abの側面16AAbと保持溝11Abとを接続し、面取り部17Bは、第2保持体10Bbの側面16BBbと保持溝11Bbとを接続する。そして、面取り部17A、17Bはそれぞれ平面で構成されている。図16に示すように、面取り部17A、17Bは、部品保持治具10bが第1ベース治具20A(あるいは第2ベース治具20B)に載置された状態で、ターゲット30の照射面31(図16に示す例では、仮想照射面VHL)と略直交(好ましくは直交)するように構成される。これによって、第1及び第2の乾式成膜工程においては、面取り部17A、17Bの面と電極材料Sの照射方向とが略平行になる。
【0068】
図17に示すように、側面16AAb、16BAbから面取り部17Aと保持溝11Abとの接続部(電極形成端面位置)TPまでの、側面16AAb、16BAbと直交する方向における寸法をt1とする。また、側面16BBb、16ABbから面取り部17Bと保持溝11Bbとの接続部(電極形成端面位置)TPまでの、側面16BBb、16ABbと直交する方向における寸法をt2とする。また、側面16AAb、16BAb(あるいは側面16BBb、16ABb)と直交する方向における、両方の電極形成端面位置TP、TP間の距離をt3とする。この場合、部品保持孔11bの深さ、すなわち、側面16AAb、16BAb(あるいは側面16BBb、16ABb)と直交する方向における、部品保持孔11bの寸法は、t1+t2+t3である。そして、t1=t2である。
【0069】
図17に示す部品保持孔11bの保持される電子部品1の第1端子形成面5Aと第2端子形成面5Bとの距離、すなわち、電子部品1の長手方向における寸法は、図16に示すようにLcである。部品保持治具10bの部品保持孔11bの深さt1+t2+t3は、電子部品1の長手方向における寸法Lcよりも小さい。そして、電子部品1の長手方向における寸法Lcは、t3+t2(=t3+t1)に設定される。これによって、部品保持孔11bが電子部品1を保持すると、図17に示す電極形成端面位置TPと、電子部品1の第1端子形成面5Aあるいは第2端子形成面5Bとが一致するようになる。
【0070】
その結果、第1あるいは第2の乾式成膜工程においては、面取り部17Aあるいは面取り部17B側における電極形成端面位置TPが庇として機能し、ターゲット30から照射される電極材料Sが電子部品1の側面に回り込むことを抑制できる。また、面取り部17A、17Bの面と電極材料Sの照射方向とが略平行になるので、電極材料Sの照射経路が滑らかになって、より膜厚が均一で、かつ全体が均質な端子電極を形成できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明に係る積層型電子部品の電極形成方法は、乾式成膜によって積層型電子部品の端面に端子電極を形成することに有用である。
【符号の説明】
【0072】
1、1a 電子部品(積層型電子部品)
2A 第1端子電極
2B 第2端子電極
3A、3B 側部電極
4A、4B、4C、4D 側面
5A、5Aa 第1端子形成面
5B、5Ba 第2端子形成面
6 稜線
8A、8B 内部電極
9 絶縁層
10、10a、10b 部品保持治具
10A、10Aa、10Ab 第1保持体
10B、10Ba、10Bb 第2保持体
11、11a、11b 部品保持孔
11A、11Aa、11Ab、11B、11Ba、11Bb 保持溝
12A、12Aa 頂部
13A、13B 合わせ面
14A、14B 保持面
15A、15B 縁部
16AA、16AB、16BA、16BB 側面
17A、17B 面取り部
18A、18B 設置端面
19A 対角線
20 ベース治具
20A 第1ベース治具
20B 第2ベース治具
21A、21B 載置面
22A、22B、23A、23B ベース治具合わせ面
24、24A、24B 傾斜面
25A、25B 部品保持治具係止部
26A、26B 部品保持治具載置面
30 ターゲット
31 照射面
32 覆い部材
100、100b 成膜治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極と絶縁体とを有する積層型電子部品の端子電極を形成するにあたり、
前記内部電極が露出した第1端子形成面の周囲を被覆手段で少なくとも囲んだ状態で、前記第1端子形成面を前記端子電極の材料である電極材料で構成されたターゲットに対して露出させるとともに、当該ターゲットの照射面に対して前記第1端子形成面を0度よりも大きく90度よりも小さい傾斜角度で傾斜させて前記積層型電子部品を配置する部品配置工程と、
当該部品配置工程が終了した後に、前記ターゲットを用いて前記第1端子形成面に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第1の乾式成膜工程と、
当該第1の乾式成膜工程が終了した後に、前記積層型電子部品を反転させ、前記第1端子形成面と対向し、かつ前記内部電極が露出した第2端子形成面を前記照射面に対して前記傾斜角度と同じ角度で傾斜させるとともに、前記第2端子形成面の周囲を被覆手段で少なくとも囲んだ状態で前記第2端子形成面を前記ターゲットに対して露出させる反転工程と、
当該反転工程が終了した後に、前記ターゲットを用いて前記第2端子形成面に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第2の乾式成膜工程と、
を含むことを特徴とする積層型電子部品の電極形成方法。
【請求項2】
前記第1端子形成面と前記第2端子形成面とに、異なる電極材料の薄膜を複数積層させる場合、
前記第1の乾式成膜工程においては、前記異なる電極材料に対応したターゲットを用いて、それぞれのターゲットで前記第1端子形成面に乾式成膜することにより、複数の電極材料の薄膜を形成し、
前記第2の乾式成膜工程においては、前記異なる電極材料に対応したターゲットを用いて、それぞれのターゲットで前記第2端子形成面に乾式成膜することにより、複数の電極材料の薄膜を形成する請求項1に記載の積層型電子部品の電極形成方法。
【請求項3】
前記第1端子形成面と前記第2端子形成面とに、異なる電極材料の薄膜を複数積層させる場合、
前記第2の乾式成膜工程の後、前記第2端子形成面を、当該第2端子形成面の周囲を被覆手段で少なくとも囲んだ状態で、当該第2端子形成面の最上層に形成された薄膜とは異なる電極材料で構成されたターゲットに対して露出させて、当該ターゲットを用いて前記最上層に形成された薄膜上に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第3の乾式成膜工程と、
当該第3の乾式成膜工程が終了した後に、前記積層型電子部品を反転させ、前記電極材料の薄膜が形成された前記第1端子形成面を前記照射面に対して前記傾斜角度と同じ角度で傾斜させるとともに、前記第1端子形成面の周囲を少なくとも囲んだ状態で、前記第1端子形成面を前記第3の乾式成膜工程で用いたターゲットに対して露出させる再反転工程と、
当該再反転工程が終了した後に、前記第3の乾式成膜工程で用いたターゲットを用いて前記第1端子形成面に乾式成膜することにより、電極材料の薄膜を形成する第4の乾式成膜工程と、
をさらに含む請求項1に記載の積層型電子部品の電極形成方法。
【請求項4】
前記積層形電子部品は、前記第1端子形成面及び前記第2端子形成面が四角形の四角柱形状であり、
前記部品配置工程及び前記反転工程においては、前記第1端子形成面及び前記第2端子形成面とつながる前記積層型電子部品の側部の一つの稜線を前記ターゲット側に向ける請求項1から3のいずれか1項に記載の積層型電子部品の電極形成方法。
【請求項5】
前記傾斜角度は、30度以上60度以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の積層型電子部品の電極形成方法。
【請求項6】
さらに、前記第1端子形成面及び前記第2端子形成面とつながる前記積層型電子部品の側部の前記第1端子形成面側、及び前記第2端子形成面側に、それぞれ側部電極を形成する工程を含む請求項1から5のいずれか1項に記載の積層型電子部品の電極形成方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図12−4】
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【図12−5】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−176123(P2011−176123A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39094(P2010−39094)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】