説明

積層塗膜、積層塗膜用塗料、塗装方法及び塗装物品

【課題】省エネルギー且つ作業の効率化が十分であり、外観品質も良好である積層塗膜、積層塗膜用塗料、塗装方法及び塗装物品を提供すること。
【解決手段】塗膜を2層以上積層して成り、最上層以外の塗膜の少なくとも1層が、溶剤蒸発硬化型樹脂を含んでいる積層塗膜である。
上記積層塗膜において、最上層以外の塗膜を形成する積層塗膜用塗料であり、ヒドラジド基を有する化合物が、塗料固形分に対して0.05〜30%の割合で含まれる積層塗膜用塗料である。
上記積層塗膜用塗料を用いて塗装を行うにあたり、溶剤蒸発硬化型樹脂を含む塗料を塗装後、焼き付けることなく、次の層の塗料を塗装する工程を含む塗装方法である。
上記積層塗膜を有する塗装物品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層塗膜、積層塗膜用塗料、塗装方法及び塗装物品に係り、更に詳細には、焼き付け工程を省略しても外観品質が良好となりうる積層塗膜、積層塗膜用塗料、塗装方法及び塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層塗膜を形成するにあたっては、第一の塗料を塗装し焼付け後、第二の塗料を塗装し焼き付けるのが一般的である。
例えば、自動車塗装は、基本的には電着塗膜、中塗り塗膜、及びベース塗膜とクリヤー塗膜とから成る上塗り塗膜を、被塗物である鋼板の上に順次積層して行われる。従来は、これらの塗膜は、それぞれ塗膜の機能に応じて構成が調整された塗料組成物を塗布し、中塗り塗膜の形成後とクリヤートップ塗膜形成後の双方において焼付け硬化工程を行うことにより形成されていた。
【0003】
また、作業効率を上げ、特に近年要請が強い省エネルギーを実現するために、焼付け工程を省略し、従来の2回の焼付け硬化工程を1回とする服装塗膜形成方法が次第に望まれるようになってきた。
自動車塗装の場合は、電着塗膜以外の中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜をウェットオンウェットで塗り重ね、3層を焼き付け硬化させる3コート1ベーク復層塗膜形成方法が採用されている。
【0004】
このように、焼付け工程を省略することにより、大きな省エネルギーが実現できると共に塗装工程時間が短縮され、コストダウン効果が得られる。
【0005】
但し、従来の塗装は、焼き付けによって硬化させることで、第一の塗料と第二の塗料の混層や硬化速度の違い等による外観不良が生じないようにしているが、焼き付け回数が減少すると、塗膜外観の低下が生じるので、塗り重ね合わせる2種類の塗料の硬化速度や溶解性パラメーター等の調整を行う必要がある。
【0006】
一方、近年では、地球環境問題や省資源の観点から、塗料中に使用されている有機溶剤の一部又は全部を水に置き換えた環境対応型の水系塗料が、自動車塗料等の工業塗装用塗料や建築・建材塗料分野で広く応用されるようになってきた。
【0007】
例えば、被塗物の上に電着塗膜を形成した後に、水性下塗り塗料、水性上塗り塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層の塗膜を同時に硬化させる3コート1ベーク復層塗膜形成方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平4−284881号公報
【0008】
しかし、この方法では、電着塗膜の上に、従来の逐次焼き付け用水性塗料を3層塗り重ねているため、下層のウェット塗膜に上層の塗料を塗装すると上層の塗料が吸い込まれる等による外観低下が生じることがある。
【0009】
また、被塗物の上に電着塗膜及び中塗り塗膜を形成した後に、ベース塗料、光輝材含有ベース塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層を焼き付け硬化させる3コート1ベーク複層塗膜形成方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2000−170559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この方法では、中塗り塗膜はベース塗料等を塗り重ねる前に一旦焼き付け硬化されており、省エネルギーや作業の効率化が十分ではなかった。
また、2層以上の塗膜を積層する塗装においては、1層目と2層目のような層間で焼き付け硬化させずに塗り重ねると、鮮映性やメタリックむら等の外観異常が生じることがあった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、省エネルギー且つ作業の効率化が十分であり、外観品質も良好である積層塗膜、積層塗膜用塗料、塗装方法及び塗装物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、積層塗膜の最上層以外の塗膜に溶媒蒸発硬化型樹脂を含めることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の積層塗膜は、塗膜を2層以上積層して成る積層塗膜であって、
最上層以外の塗膜の少なくとも1層が、塗料中の溶媒が蒸発することで硬化した樹脂を含んでいることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の積層塗膜用塗料は、上記積層塗膜において、最上層以外の塗膜を形成する積層塗膜用塗料であって、
ヒドラジド基を有する化合物が、塗料固形分に対して0.05〜30%の割合で含まれることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の塗装方法は、積層塗膜用塗料を用いて塗装を行うにあたり、
溶剤蒸発硬化型樹脂を含む塗料を塗装後、焼き付けることなく、次の層の塗料を塗装する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
更にまた、本発明の塗装物品は、上記積層塗膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、積層塗膜の最上層以外の塗膜に溶媒蒸発硬化型樹脂を含めることとしたため、省エネルギー且つ作業の効率化が十分であり、外観品質も良好である積層塗膜、積層塗膜用塗料、積層方法及び積層物品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の積層塗膜について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0019】
上述の如く、本発明の積層塗膜は、塗膜を2層以上積層して成り、最上層以外の塗膜の少なくとも1層が、塗料中の溶媒が蒸発することで硬化した樹脂(溶剤蒸発硬化型樹脂)を含んでいる。
これにより、最上層以外の塗膜の焼き付け工程を省略しても外観が良好な積層塗膜が得られる。
【0020】
ここで、上記溶剤蒸発硬化型樹脂は、ヒドラジド基を有する化合物と、ヒドラジド基と反応する基を有する樹脂との反応により形成されたことが好適である。
代表的には、塗り重ねたときの下層になる下塗り塗料に、ヒドラジド基を有する化合物と、ケトン基を有する樹脂、ポリエステル樹脂、イソシアネート基を有する樹脂とを含めることができ、これらが反応して形成された溶剤蒸発硬化型樹脂を含めることができる。
【0021】
また、上記ヒドラジド基と反応する基を有する樹脂としては、例えば、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、イソシアネート基、エポキシ基又はアミド基、及びこれらの任意の組合せに係る基を有する樹脂を挙げることができる。
なお、ここで使用される樹脂は、特には制限されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリオール、ヒドロキシアクリレート又はヒドロキシメタクリレート、エポキシ系樹脂などが挙げられ、これらの側鎖又は末端基にヒドラジドと反応する官能基を保有していれば良い。
【0022】
上記アクリル系樹脂としては、分子内にアルデヒド基、ケトン基のいずれか一方又は双方を1個以上有するカルボニル基を有し、ラジカル重合性不飽和結合を有するアクリル系モノマーと、該アクリル系モノマーと共重合可能なラジカル重合性不飽和モノマーとを共重合させたものが挙げられる。
これにより、塗膜形成が良好となり、耐水性などの性能も良好となりやすい。
【0023】
具体的には、アクリル系モノマーとしては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート等が挙げられ、アクリル系モノマーと共重合させるモノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリルアミド、N−アルキロールアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリルアミド、N−アルキロールメタクリルアミド、メタクリロニトリル、イタコン酸、マレイン酸、2−メチレングルタル酸、ハロゲン化ビニル等が挙げられる。
【0024】
上記ウレタン系樹脂としては、ポリイソシアネート、ポリオール及びヒドロキシアクリレート又はヒドロキシメタクリレートの反応によって得られる化合物が挙げられる。
上記ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、芳香族イソシアネートを水素添加して得られるジイソシアネート(例えば水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチレントリフェニルトリイソシアネート等のジ−及びトリ−イソシアネート、当該ジ−及びトリ−イソシアネートを多量化させて得られるポリイソシアネート等が挙げられる。
【0025】
上記ポリオールとしては、例えば、脂肪酸、脂環式及び芳香族のポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。
脂肪族及び脂環式ポリオール並びにポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールヘプタン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリン、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、例えば、カプロラクトン変性ジオール等が挙げられる。
芳香族のポリオールとしては、例えば、エトキシ化ビスフェノールA、エトキシ化ビスフェノールS等が挙げられる。
【0026】
上記ヒドロキシアクリレート又はヒドロキシメタクリレートとしては、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸グリセロール、ジアクリル酸グリセロール、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸グリセロール、ジメタクリル酸グリセロール、トリメタクリル酸ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0027】
上記エポキシ系樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水素添加ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、DPPノボラック型、3官能型、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニルエタン型等を挙げることができる。
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸エステル型、フタル酸エステル型等を挙げることができる。
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、ヒダントイン型、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン型、アミノフェノール型、アニリン型、トルイジン型等を挙げることができる。
【0028】
一方、上記ヒドラジド基を有する化合物としては、代表的には、分子内に2個以上のヒドラジド基をすることが好適である。このときは、1個のときに比べてより強固なと膜を形成することができる。
ここで、上記ヒドラジド基は、セミカルバジド基やカルボヒドラジド基のような一部にヒドラジド基と含む構造でも構わない。例えば、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、ヘキサデカンジオヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6−ピリジンジヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’−ヘキサメチレンビスセミカルバジド、イタコン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジドなどが挙げられる。
【0029】
また、ヒドラジド基を有する化合物は、ヒドラジド基を有する樹脂であることが好ましい。ヒドラジド基を有する樹脂中のヒドラジド基の数は、一分子中に2個以上であれば良いが、より良好な物性を得るためには、複数のヒドラジド基を含有するのが好ましい。ヒドラジド基が多く含まれるほど架橋点が多くなり、膜の形成がある程度強固にできるためである。
【0030】
更に、上記ヒドラジド基を有する樹脂は、特には制限されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などで、これらの樹脂の側鎖や末端基にヒドラジド基を有するものが挙げられる。
【0031】
具体的には、ヒドラジド基を有するモノマーの単独重合物、ヒドラジド基を有するモノマーを含んだ共重合物、ヒドラジド化が可能な置換基を有するモノマーの単独重合物にヒドラジンを反応させて得られるヒドラジド基含有ポリマー、ヒドラジド化可能な置換基を有するモノマーを一種類以上有する共重合物にヒドラジンを反応させて得られるヒドラジド基含有ポリマーなどが挙げられる。
ヒドラジド基を有するモノマーの単独重合物、ヒドラジド基を有するモノマーを含んだ共重合物としては、アクリル酸ヒドラジドやメタクリル酸ヒドラジドなどをモノマーとした重合物、及び、共重合物が挙げられる。具体的には、アクリル酸ヒドラジドとアクリルアミドの共重合物、アクリル酸ヒドラジドとアクリル酸との共重合物、アクリル酸ヒドラジドとアクリル酸メチルとの共重合物、アクリル酸ヒドラジドスチレンとの共重合物などが挙げられる。また、ヒドラジド基を有するモノマーを一種類以上有する複数モノマーの共重合物でも良く、例えば、アクリル酸ヒドラジド、アクリルアミド、アクリル酸の共重合物や、アクリル酸ヒドラジド、アクリルアミド、アクリル酸メチルの共重合物、更に、アクリル酸ヒドラジド、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸メチルの共重合物が挙げられる。
ヒドラジド化が可能な置換基を有するモノマーの単独重合物にヒドラジンを反応させて得られるヒドラジド基含有ポリマー、ヒドラジド化可能な置換基を有するモノマーを一種類以上有する共重合物にヒドラジンを反応させて得られるヒドラジド基含有ポリマーの具体例としては、ポリアクリルアミドのヒドラジド化物、アクリルアミドとアクリル酸との共重合物のヒドラジド化物、アクリルアミドとアクリル酸エステル類とアクリル酸との共重合物のヒドラジド化物、ポリアクリル酸エステル類のヒドラジド化物、アクリル酸エステル類の共重合物のヒドラジド化物、アクリルアミドとアクリル酸エステル類との共重合物のヒドラジド化物、アクリルアミドとスチレンとの共重合物のヒドラジド化物、アクリル酸エステル類とスチレンとの共重合物のヒドラジド化物、アクリルアミドとアクリル酸エステル類とスチレンとの共重合物のヒドラジド化物等が挙げられる。また、ポリマー末端、ポリマーの側鎖にヒドラジド化可能な置換基を有するポリマーのヒドラジド化物でもよく、例えば、ポリエステル側鎖にヒドラジド化可能な置換基を有するポリマーのヒドラジド化物、ポリエステルの末端をヒドラジド化したポリマー、ポリウレタン側鎖にヒドラジド化可能な置換基を有するポリマーのヒドラジド化物、ポリウレタン末端をヒドラジド化したポリマー、エポキシ樹脂側鎖にヒドラジド可能な置換基を有するポリマーのヒドラジド化物、エポキシ樹脂末端をヒドラジド化したポリマーなどが挙げられる。ここで言う、ヒドラジド化が可能な置換基としては、アミド基、エステル基、カルボン酸、酸無水物などの置換基が挙げられるが、ヒドラジンと反応することでヒドラジド基を生成する置換基であれば特に制限はされない。
これらのヒドラジド基を有する樹脂で好ましくは、ポリアクリルアミドのヒドラジド化物、アクリルアミドとアクリル酸との共重合物のヒドラジド化物、アクリルアミドとアクリル酸エステル類との共重合物のヒドラジド化物、アクリルアミドとスチレンとの共重合物のヒドラジド化物等のアクリル樹脂であり、特に好ましくは、ポリアクリルアミドのヒドラジド化物であり、例えば特開2005−163031号公報記載のポリアクリル酸ヒドラジドを好適に使用することができる。
【0032】
更にまた、上記ヒドラジド基を有する樹脂のヒドラジド化度は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜0.9であり、より好ましくは0.4〜0.9であり、特に好ましくは0.6〜0.9であることが良い。
ヒドラジド化度が0.1未満では塗膜形成が十分でなく、上層の溶媒が通過し易く、0.9を超えると塗膜の架橋密度が高くなり、焼成時に下層の水分が蒸発できなくなるため、膨れが発生することがある。
【0033】
また、上記ヒドラジド基を有する樹脂の分子量は、特に制限されないが、好ましくは10,000〜100,000であり、より好ましくは20,000〜90,000であり、特に好ましくは20,000〜50,000であることが良い。
【0034】
次に、本発明の積層塗膜用塗料について詳細に説明する。
本発明の積層塗膜用塗料は、積層塗膜において、最上層以外の塗膜を形成する塗料であって、第1層の塗膜を形成するための塗料(第1層用塗料)と第2層或いはそれ以上の上層塗膜を形成するための塗料(上層用塗料)からなる。これらの塗料の少なくとも1種にはヒドラジド基を有する化合物と該ヒドラジド基と反応する基を有する樹脂とが含まれている。
ここで、上記ヒドラジド基を有する化合物の含有量は、積層塗膜用塗料の塗料固形分に対して0.05〜30%であるが、好ましくは0.2〜20%であり、より好ましくは0.2〜10%、特に好ましくは0.2〜5%であることが良い。
0.05%より少ないと良好な外観が得られないことがあり、30%より多くなるとヒドラジド基に係る反応が速くなって塗膜が形成され、上層との馴染みが低下するために上層との付着性が低下することがある。
なお、第1層用塗料と上層用塗料は、異種の化合物で構成されていてもよいし、同種の化合物で構成されていてもよい。
【0035】
また、溶媒としては、水、又は水とアルコール系、エステル系、ケトン系又は芳香族系、及びこれらの任意の組合せに係る有機溶剤との混合溶媒を含んでいることが好ましい。より好ましくはヒドラジド化合物と溶解性の高い水であることが良い。
このときは積層塗膜用塗料が水系塗料となるので環境にも優しくなる。なお、有機溶剤のみを用いるときは、硬化反応が急激に進み、塗料の安定性が低下することがある。
【0036】
更に、本発明の積層塗膜用塗料は、メラミン硬化型塗料、2液ウレタン塗料、酸/エポキシ硬化型塗料等の焼付け又は常温により硬化するものであれば特に限定されるものではない。
【0037】
更にまた、本発明の積層塗膜用塗料は、ベースコート用塗料、透明クリヤー塗料、濁りクリヤー塗料又はエナメル塗料に用いることができる。
このとき、ベースコート用塗料として用いるときは、アルミ顔料の配向及び金属感を向上させる観点から、顔料、光輝剤のいずれか一方又は双方を含んでいることが好適である。また、濁りクリヤー塗料、エナメル塗料のいずれか一方又は双方として用いるときは、表面の平滑性を向上させる観点から、顔料を含んでいることが好適である。
【0038】
次に、本発明の塗装方法について詳細に説明する。
本発明の塗装方法では、上述の積層塗膜用塗料を用いて塗装を行うにあたり、溶剤蒸発硬化型樹脂を含む塗料を塗装後、焼き付けることなく、次の層の塗料を塗装する工程を行う。
これにより、2層以上の積層塗膜において、最上層を除く少なくとも1層は溶媒が蒸発することで硬化する樹脂(溶媒蒸発硬化型樹脂)を用いて形成されるので、当該塗料を塗装した後、その上層の塗料を塗装する前に、焼き付け工程を行うことなく塗膜を形成できる。
【0039】
具体的には、被塗物の上に、積層塗膜用塗料である下塗り塗料(第1層用塗料)及び上塗り塗料(上層用塗料)の2種類をウェットオンウェットで塗り重ね、最上層となる塗料を塗布してから、最上層の焼付け工程を行うだけで、これら3層を硬化させて塗膜を形成することができる。
このときは、塗り重ねたときに上層に被覆される下塗り塗料及び上塗り塗料には、水又は水と有機溶剤の混合溶媒が含まれ、これら溶剤が蒸発するに従って、ヒドラジド基を有する化合物とヒドラジド基と反応する樹脂を含む塗料は硬化するので、焼付けをすることなく塗装でき、更には鮮度映性やメタリックむらも改善することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
図1に示すように、リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板(a)に、カチオン電着塗料(b)(商品名「パワートップU600M」、日本ペイント(株)製 カチオン型電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた(f)。
【0042】
その後、ケトン基を有する樹脂(モノマー組成:BA(アクリル酸ブチル)/MMA(メタクリル酸メチル)/MAA(メタクリル酸)/DAAM(ダイアセトンアクリルアミド)=43.3/52.9/1.5/2.3%、乳化剤=0.3%、理論Tg=0℃、固形分=40%、pH=9.0、粘度=60mPa・s、粒子径=1.0μm)と、ヒドラジド基を有する樹脂(ヒドラジド化度:0.8、分子量:20000、大塚化学(株)製 APA−P280)とが当量比になるように混合したものを規定量添加したBASFコーティングス(株)製のグレーの中塗り(c)(商品名:アクアGX)を30μm塗装した。
次いで、BASFコーティングス(株)製のアクアBC3メタリック塗色(d)を10μm塗装した。
更に、ウェットオンウェットでBASFコーティングス(株)製のクリヤー(e)(ベルコートNo6200)を30μm塗装し、140℃で30分間焼き付け(g)、本例の積層塗膜を得た。
【0043】
(実施例2〜5)
表1に示すように、ヒドラジド基を有する樹脂のPWCを変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、各例の積層塗膜を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
(比較例1)
図2に示すように、従来品の一例として、以下のような工程で積層塗膜を形成した。
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板(a)に、カチオン電着塗料(b)(商品名「パワートップU600M」、日本ペイント(株)製カチオン型電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた(f)。
【0046】
その後、BASFコーティングス(株)製のグレーの中塗り(c)(商品名:アクアGX)を30μm塗装し、140℃で30分間焼き付けた(g)。
次いで、BASFコーティングス(株)製のアクアBC3メタリック塗色(d)を10μm塗装した。
更に、ウェットオンウェットでBASFコーティングス(株)製のクリヤー(e)(ベルコートNo6200)を30μm塗装し、140℃で30分間焼き付け(h)、本例の積層塗膜を得た。
【0047】
(性能評価)
(1)鮮映性
塗膜に蛍光灯を反映し、蛍光灯の歪み程度を以下の基準で目視判定した。この結果を表1に示す。
◎:歪みがない。
○:殆ど歪みがない。
△:少しの歪みがある。
×:かなりの歪みがある。
【0048】
(2)付着性
100個の基盤目をカッターナイフで作製し、粘着テープで剥離した時の塗膜の残存数を測定した。この結果を表1に示す。
【0049】
表1に示すように、本発明の一実施形態である実施例1〜5の積層塗膜は、2層以上の積層塗膜において、最上層以外の少なくとも1層に溶媒が蒸発することで硬化する樹脂(溶媒蒸発硬化型樹脂)を含む塗料を用いているため、第一層目の塗料を塗装し、第二層目の塗料を塗装する際に、焼き付けなくても、従来の焼き付けを行った時と同等以上の塗膜外観を得ることができ、塗装工程の短縮が可能になることがわかる。
また、メタリック塗装後のクリヤー塗装を行う際に生じるアルミ光輝材の配向が乱れないため、メタリックむらの改善にも適用できる。
【0050】
以上、本発明を好適実施例により詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
例えば、各層の厚さ、溶媒種などを適宜変更することで、上記積層数以上であっても、焼き付け工程を省略して、所望の積層塗膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1で得られた積層塗膜を示す概略図である。
【図2】従来から自動車に適用されている一般的な積層塗膜構成(比較例1)の概略図である。
【符号の説明】
【0052】
a 鋼板
b 電着層
c 中塗り層
d ベースコート
e クリヤー層
f,g,h 焼付け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を2層以上積層して成る積層塗膜であって、
最上層以外の塗膜の少なくとも1層が、塗料中の溶媒が蒸発することで硬化した樹脂を含んでいることを特徴とする積層塗膜。
【請求項2】
上記溶剤蒸発硬化型樹脂が、ヒドラジド基を有する化合物とヒドラジド基と反応する基を有する樹脂の反応により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の積層塗膜。
【請求項3】
上記ヒドラジド基と反応する基を有する樹脂が、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、イソシアネート基、エポキシ基及びアミド基から成る群より選ばれた少なくとも1種のものを有する樹脂であることを特徴とする請求項第1に記載の積層塗膜。
【請求項4】
上記ケトン基を有する樹脂が、ケトン基を有するアクリル樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の積層塗膜。
【請求項5】
上記ヒドラジド基を有する化合物が、ヒドラジド基を有する樹脂であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つの項に記載の積層塗膜。
【請求項6】
上記ヒドラジド基を有する樹脂が、アクリル酸ヒドラジドユニットを有するアクリル樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の積層塗膜。
【請求項7】
上記ヒドラジド基を有する樹脂のヒドラジド化度が0.1〜0.9であることを特徴とする請求項5又は6に記載の積層塗膜。
【請求項8】
上記ヒドラジド基を有する樹脂の分子量が10,000〜100,000であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つの項に記載の積層塗膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の積層塗膜において、最上層以外の塗膜を形成する積層塗膜用塗料であって、
ヒドラジド基を有する化合物が、塗料固形分に対して0.05〜30%の割合で含まれることを特徴とする積層塗膜用塗料。
【請求項10】
水、又は水とアルコール系、エステル系、ケトン系及び芳香族系から成る群より選ばれた少なくとも1種の有機溶剤との混合溶媒を含んでいることを特徴とする請求項9に記載の積層塗膜用塗料。
【請求項11】
ベースコート用塗料、透明クリヤー塗料、濁りクリヤー塗料又はエナメル塗料であることを特徴とする請求項9又は10に記載の積層塗膜用塗料。
【請求項12】
上記ベースコート用塗料が、顔料及び/又は光輝剤を含んでいることを特徴とする請求項10に記載の積層塗膜用塗料。
【請求項13】
上記濁りクリヤー塗料及び/又はエナメル塗料が、顔料を含んでいることを特徴とする請求項11に記載の積層塗膜用塗料。
【請求項14】
水系塗料であることを特徴とする請求項9〜13のいずれか1つの項に記載の積層塗膜用塗料。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれか1つの項に記載の積層塗膜用塗料を用いて塗装を行うにあたり、
溶剤蒸発硬化型樹脂を含む塗料を塗装後、焼き付けることなく、次の層の塗料を塗装する工程を含むことを特徴とする塗装方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の積層塗膜を有することを特徴とする塗装物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−62407(P2008−62407A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239742(P2006−239742)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】