説明

積層塗膜の補修方法

【課題】積層塗膜の補修後に得られる塗膜外観において、補修部分と非補修部分との差が小さいか、ほぼ同等であり十分な連続性および平滑性が得られる、従来よりも簡便な積層塗膜の補修方法の提供。
【解決手段】以下の工程(a)〜(d)を包含する、中塗り塗膜(1)と、前記中塗り塗膜(1)上に形成された、光輝材含有ベース塗膜(2)およびクリア塗膜(3)を含む上塗り塗膜(4)とを含む積層塗膜の補修方法:
(a)前記積層塗膜を研削する工程、
(b)塗膜形成性樹脂を含む、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布する工程、
(c)前記工程(b)で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、メラミン樹脂および有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布する工程、および
(d)補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層塗膜(積層塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成された、光輝材含有ベース塗膜(光輝材含有ベース塗膜とは、光輝材含有水性ベース塗料組成物から形成された塗膜を意味する)およびクリア塗膜を含む上塗り塗膜とを含む)の補修方法、当該方法に使用するぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物および当該方法により補修された積層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の塗膜外観に、ゴミ・ブツ、微小なへこみ、小さなキズ、タレ等の塗膜異常が発生し、補修が必要となった場合、その補修が必要な部分をサンドペーパー等の手段で研削し、補修塗料を用いて塗膜補修を行う。一般に、塗膜補修は熟練者が手吹きスプレー等の塗装機を駆使して行うが、補修された塗膜が、補修部以外の部分と同一の外観を得ることは非常に難しい。
【0003】
自動車車体塗膜に塗膜異常がある場合、補修は、概して、パーツ毎の区切り、あるいは境界部で見切りを付けるブロック補修と呼ばれる補修方法と、部分補修方法(スポット補修)のいずれかにより行われる。
【0004】
スポット補修は、専用の補修用塗料を設け、スプレー塗装等により必要部位にのみ塗装を行い実施されるが、画一化された方法はなく、熟練者をもってしても難しいものである。
【0005】
また、補修塗膜を積層塗膜表面の一部に形成した場合、補修塗膜の中心部から周辺部に移行するに従い補修塗膜の膜厚は薄くなり、やがて塗膜の連続性が途切れ、下地塗膜に塗料が散点的に付着した状態となる。塗膜の連続性が途切れると、その切れ目に下地塗膜の表面が露出するため、塗膜の外観に、浮いたまだら模様や、くすみ等が生じ、補修後の仕上がり外観が悪くなる。当該分野では、このような補修塗膜が破断した部分および塗料が散点的に付着した部分をダスト部と呼び、散点的に付着した塗料を塗料ダストと呼ぶ。
【0006】
塗料ダストは、例えば、補修塗膜を硬化させた後に研磨して除去することができる。しかしながら、下地塗膜に傷を付けないで塗料ダストのみを除去するには熟練を要する作業が必要となるため、補修工程が煩雑となり、補修コストが高くなる。
【0007】
例えば、積層塗膜の補修方法としては以下が挙げられる。
【0008】
特開平3−293060号公報は、メタリック塗膜の補修方法を開示し、この方法は、第1工程で、塗装不良箇所を研削した後、研削箇所の直径の1.5倍から2倍程度の範囲にわたって、塗装に用いられたものと同一の水性メタリックベース塗料から顔料と金属粉を除去した水性クリア塗料を塗布し、第2工程で、該塗装面上にウェットオンウェットで研削箇所を覆う程度の範囲に前記水性メタリックベース塗料を塗布し、第3工程で、フラッシュオフ後溶剤型クリア塗料を塗布する。
【0009】
特開平9−220520号公報は、メタリック塗膜補修方法を開示し、補修用塗料として、水性メタリック塗料組成物からメタリック顔料を除いた着色塗料組成物と、該水性メタリック塗料組成物との混合物を使用する。
【0010】
特開平11−169783号公報は、補修すべき箇所に光輝材含有塗料を塗装する前に、補修すべき箇所に有機アマイドを含有した補修用塗料を塗装することを特徴とする、積層塗膜の形成方法を開示しているが、水性ベース塗料を用いた塗膜補修やダスト部の連続性については十分な検討がなされていなかった。
【0011】
特開2001−58156号公報は、補修対象部分を研ぎ出す工程と、研ぎ出し部に補修塗料を塗装する工程と、得られた補修塗膜を硬化させる工程とを備える、塗膜の部分補修方法を開示している。この方法では、補修塗料を塗装する工程により生じた塗料ダスト部に、界面活性剤を含有する補修用シンナーを塗装することを特徴としている。
【0012】
特開2002−13418号公報は、塗膜表面の補修対象部分を研ぎ出す工程;研ぎ出した補修対象部分に補修塗料を塗布して、補修塗膜およびその周辺に塗料ダストを形成する工程;塗料ダストに補修用シンナーを塗布して塗料ダストを溶解し、平滑化する行程;および補修塗膜を硬化させる工程を包含する、塗膜の部分補修方法を開示している。この方法では、補修塗料は酸エポキシ硬化系塗料であり、かつ、補修用シンナーは、沸点120〜230℃の極性溶媒を30重量%以上の量で含有する有機溶媒100重量部、およびシリコーン系界面活性剤0.0001〜2.0重量部を含む。
【0013】
特開2002−326052号公報は、色差が小さく作業性の良い、カラークリアを用いた上塗り塗膜の補修方法を開示している。
【0014】
光輝材を含んだ積層塗膜の補修は、基本の積層塗膜の光輝感や風合いなどを同一にしなければならず、補修作業の多くは熟練者の技量に頼っている部分が多い。また、当該分野では、熟練者でなくても簡単に光輝材を含んだ積層塗膜の補修方法が常に模索されている。
【0015】
【特許文献1】特開平3−293060号公報
【特許文献2】特開平9−220520号公報
【特許文献3】特開平11−169783号公報
【特許文献4】特開2001−58156号公報
【特許文献5】特開2002−13418号公報
【特許文献6】特開2002−326052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、積層塗膜の補修後に得られる塗膜外観において、補修部分と非補修部分との差が小さいか、ほぼ同等であり、十分な連続性および平滑性が得られる、従来よりも簡便な積層塗膜の補修方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討の結果、積層塗膜(積層塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成された、光輝材含有ベース塗膜およびクリア塗膜を含む上塗り塗膜とを含む)の補修において、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、メラミン樹脂および有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物が非常に有用であることを見出した。従って、本発明は以下を提供する。
【0018】
以下の工程(a)〜(d)を包含する、中塗り塗膜(1)と、前記中塗り塗膜(1)上に形成された、光輝材含有ベース塗膜(2)およびクリア塗膜(3)を含む上塗り塗膜(4)とを含む積層塗膜の補修方法:
(a)前記積層塗膜を研削する工程であって、
クリア塗膜(3)、光輝材含有ベース塗膜(2)および中塗り塗膜(1)の一部を研削して中塗り塗膜(1)を研ぎ出すか、あるいは、クリア塗膜(3)および光輝材含有ベース塗膜(2)の一部を研削して光輝材含有ベース塗膜(2)を研ぎ出す工程、
(b)塗膜形成性樹脂を含む、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布する工程、
(c)前記工程(b)で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、メラミン樹脂および有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布する工程であって、前記ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物中の有機アマイドの含有量が、塗膜形成性樹脂およびメラミン樹脂の総固形分質量に対して、0.5〜1.8質量%である工程、および
(d)補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程。
【0019】
上記補修方法により補修された積層塗膜。
【0020】
以下の工程(a)〜(d)を包含する、中塗り塗膜(1)と、前記中塗り塗膜(1)上に形成された、光輝材含有ベース塗膜(2)およびクリア塗膜(3)を含む上塗り塗膜(4)とを含む積層塗膜の補修方法:
(a)前記積層塗膜を研削する工程、
(b)塗膜形成性樹脂を含む、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布する工程、
(c)前記工程(b)で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、メラミン樹脂および有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布する工程、および
(d)補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程、
において使用する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物であって、
前記ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物中の有機アマイドの含有量が、塗膜形成性樹脂およびメラミン樹脂の総固形分質量に対して、0.5〜1.8質量%である、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明の積層塗膜の補修方法によれば、積層塗膜(積層塗膜は、中塗り塗膜と、前記中塗り塗膜上に形成された、光輝材含有ベース塗膜およびクリア塗膜を含む上塗り塗膜とを含む)の補修が、簡便かつ容易に行われるだけでなく、補修後に得られる塗膜の仕上がり外観において、補修部分と非補修部分との差が小さいか、ほぼ同等であり、十分な連続性および平滑性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の積層塗膜の補修方法を図面を用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明の補修方法を行う前の積層塗膜の断面を模式的に表す図であって、工程(a)で研削される補修対象部分を含む図である。
【0024】
図2は、図1の積層塗膜を研削して研ぎ出した後の積層塗膜の断面を模式的に表す図である。
【0025】
図3は、本発明の補修方法を行う前の積層塗膜の断面を模式的に表す図であって、図1とは異なる補修対象部分を含む図である。
【0026】
図4は、図3の積層塗膜を研削して研ぎ出した後の積層塗膜の断面を模式的に表す図である。
【0027】
図5は、図2の研削した積層塗膜上に本発明による補修方法を実施した塗膜の状態を示す模式的断面図である。
【0028】
図6は、図2の研削した積層塗膜上に本発明による補修方法の別の態様を実施した塗膜の状態を示す模式的断面図である。
【0029】
図7は、図4の研削した積層塗膜上に本発明による補修方法を実施した塗膜の状態を示す模式的断面図である。
【0030】
図8は、図4の研削した積層塗膜上に本発明による補修方法の別の態様を実施した塗膜の状態を示す模式的断面図である。
【0031】
図中の番号は、全てに共通しており、1は中塗り塗膜を表し、2は光輝材含有ベース塗膜を表し、3はクリア塗膜を表す。積層塗膜5(塗膜1、2および3を含む)は、全体として本発明により補修を受ける塗膜を表す。図1および図3には、補修対象部分6が明示されており、補修対象部分6内には塗膜異常8が存在している。図2および図4では、工程(a)を経て補修対象部分6が研削された研削部分7が表示されている。
【0032】
図5および6は、図2の研削部分7を有する塗膜を補修した後の塗膜を示し、101は補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物から形成された塗膜を示し、102は工程(c)で形成されるぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物から形成された塗膜を示す。102’は、101の塗膜形成前に形成される別のぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物の塗布により形成された塗膜であり、103は、補修の最終工程で形成されるクリア塗膜である。
【0033】
図7および8は、図4の塗膜を補修した後の塗膜を示し、101〜103は図5および6と同じものを示す。
【0034】
本発明の積層塗膜の補修方法は、図1および図3に示す通り、積層塗膜(5)に塗膜異常(8)(ゴミ・ブツ、微小なへこみ、小さなキズ等)がある場合、塗膜異常部をサンドペーパーなどの手段によって研削(工程(a))し、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布(工程(b))し、生じたダスト部を含めて、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布(工程(c))し、さらにその上に補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程(工程(d))を包含する。なお、本発明は、添付の図面を参照しながら、積層塗膜(5)の形成と比較して説明すると理解しやすいので、積層塗膜(5)の形成方法をまず説明し、次に本発明の積層塗膜(5)の補修方法を具体的に説明する。また、積層塗膜および補修塗膜の形成に関しては、まず、各塗膜を形成する塗料組成物を説明し、その後に塗装方法および補修方法を詳細に説明する。
【0035】
被塗物
本発明で使用する被塗物は、特に限定されず、例えば、金属製品ならびにプラスチック製品およびその発泡体等が挙げられる。
【0036】
金属製品の材料としては、例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などの金属およびこれらの金属を含む合金などが挙げられる。金属製品として、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および自動車車体用の部品などが挙げられる。これらの金属製品としては、予めリン酸塩、クロム酸塩等の化成処理されたものが特に好ましい。
また、被塗物としては、下塗り塗装として電着塗装が可能であることから、金属製品(特に、金属表面を有する金属製品および鋳造物)が特に好ましい。下塗り塗膜として形成されていてもよい電着塗膜の電着塗料としては、特に限定はなく、カチオン型およびアニオン型の電着塗料が挙げられるが、防食性に優れた塗膜を与えるという観点から、カチオン型電着塗料が好ましい。
プラスチック製品の材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。プラスチック製品としては、具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブ等の自動車部品などが挙げられる。さらに、これらのプラスチック製品は、純水および/または中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0037】
中塗り塗料組成物
上記被塗物上には、中塗り塗膜が形成されている。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料組成物が用いられる。この中塗り塗料組成物には、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系や無機系の各種着色顔料および体質顔料等の顔料が含有される。
【0038】
上記中塗り塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂は、特に限定されるものではなく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の塗膜形成性樹脂が利用でき、これらは、後述の光輝材含有水性ベース塗料組成物のところで挙げた硬化剤と組み合わせて用いられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からアミノ樹脂および/または(ブロック)イソシアネート樹脂が一般的に用いられる。
【0039】
上記中塗り塗料組成物に含まれる顔料としては、後述する光輝材含有水性ベース塗料組成物の記載で挙げたものを同様に用いることができる。標準的には、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系中塗り塗料組成物や上塗りとの明度を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗り塗料組成物を用いることができる。さらに、アルミニウム粉、マイカ粉等の扁平顔料が添加されていてもよい。
【0040】
これらの中塗り塗料組成物中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0041】
光輝材含有水性ベース塗料組成物
光輝材含有ベース塗膜を形成するための光輝材含有水性ベース塗料組成物は、アクリルエマルション樹脂、水溶性アクリル樹脂、硬化剤および光輝材を含有する塗料組成物であり、本明細書中、単に水性ベース塗料組成物と略記する場合もある。また、本明細書では、便宜上、上記アクリルエマルション樹脂、水溶性アクリル樹脂および硬化剤を総称して、水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂と呼ぶ場合もある。
【0042】
水性ベース塗料組成物に含まれるアクリルエマルション樹脂は、例えば、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルを65質量%以上含むα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物(酸価3〜50mgKOH/g)を乳化重合して得られるエマルション樹脂が挙げられるが、これに限定されない。
【0043】
上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物に含まれる、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルの量が65質量%未満であると、得られる塗膜の外観が低下する。上記エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが挙げられる。尚、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの両方を意味するものとする。
【0044】
また、このα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は酸価が3〜50mgKOH/gであり、好ましくは7〜40mgKOH/gである。酸価が3mgKOH/g未満では、作業性を向上させることができないおそれがあり、50mgKOH/gを上回ると、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。一方、上記水性ベース塗料組成物が硬化性を有する必要がある場合には、このα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は水酸基価が10〜150mgKOH/gであり、好ましくは20〜100mgKOH/gである。10mgKOH/g未満では、充分な硬化性が得られないおそれがあり、150mgKOH/gを上回ると、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。また、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を重合して得られるエマルション樹脂のガラス転移温度は、−20〜80℃の間であることが、塗膜物性の点から好ましい。
【0045】
上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は、酸基または水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーをその中に含むことにより、上記酸価および水酸基価を有することができる。
【0046】
また、酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α−ハイドロ−ω−((1−オキソ−2−プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸等を挙げることができる。これらの中で好ましいものは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体である。
【0047】
一方、水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物を挙げることができる。これらの中で好ましいものは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物である。
【0048】
さらに、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物はさらにその他のα,β−エチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては、エステル部の炭素数3以上の(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等)、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミド 2,4−ジヒドロキシ−4'−ビニルベンゾフェノン、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)を挙げることができる。これらは目的により選択することができるが、親水性を容易に付与する場合には(メタ)アクリルアミドを用いることが好ましい。
【0049】
尚、これらのエステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステル以外の上記α,β−エチレン性不飽和モノマーは、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物中の含有量が35質量%未満に設定するのが好ましい。
【0050】
水性ベース塗料組成物に含まれるアクリルエマルション樹脂は、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合して得られるものである。ここで行われる乳化重合は、通常よく知られている方法を用いて行うことができる。具体的には、水、または必要に応じてアルコールなどの有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物および重合開始剤を滴下することにより行うことができる。乳化剤と水とを用いて予め乳化したα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を同様に滴下してもよい。
【0051】
上記乳化重合は二段階で行うことができる。すなわち、まず上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物のうちの一部(α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物1)を乳化重合し、ここに上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物の残り(α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物2)をさらに加えて乳化重合を行うものである。
【0052】
高外観な塗膜を形成する為に、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物1はアミド基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを含有していることが好ましい。またこの時、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物2は、アミド基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを含有していないことがさらに好ましい。尚、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物1および2を一緒にしたものが、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物であるため、先に示した上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物の要件は、α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物1および2を一緒にしたものが満たすことになる。
【0053】
このようにして得られる上記アクリルエマルション樹脂の粒子径は0.01〜1.0μmの範囲であることが好ましい。粒子径が0.01μm未満であると作業性の改善の効果が小さく、1.0μmを上回ると得られる塗膜の外観が悪化する恐れがある。この粒子径の調節は、例えば、モノマー組成や乳化重合条件を調整することにより可能である。なお、本明細書内での上記アクリルエマルション樹脂の粒子系は、レーザー光散乱法により測定し、体積平均粒径を用いた。
【0054】
上記アクリルエマルション樹脂は、必要に応じて塩基で中和することにより、pH=5〜10で用いることができる。これは、このpH領域における安定性が高いからである。この中和は、乳化重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンやトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことが好ましい。
【0055】
なお、水性ベース塗料組成物は、塗料樹脂固形分100質量部当たり、上記アクリルエマルション樹脂を20〜70質量部含有していることが好ましい。上記アクリルエマルション樹脂の含有割合が20質量部未満の場合は、塗装作業性および塗膜外観が低下するおそれがあり、70質量部を超える場合は、塗膜物性が低下するおそれがある。特に好ましくは30〜60質量部である。
【0056】
また、水性ベース塗料組成物に含まれる水溶性アクリル樹脂は、数平均分子量3000〜50000、好ましくは6000〜30000である。3000より小さいと塗装作業性および硬化性が充分でなく、50000を超えると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって塗装作業性が悪くなるおそれがある。なお、本明細書内での数平均分子量の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)による測定値をポリスチレン標準により換算したものである。
【0057】
上記水溶性アクリル樹脂は10〜100mgKOH/g、さらに20〜80mgKOH/gの酸価を有することが好ましく、100mgKOH/gを超えると塗膜の耐水性が低下し、10mgKOH/gを下回ると樹脂の水分散性が低下する。また、20〜180mgKOH/g、さらに30〜160mgKOH/gの水酸基価を有することが好ましく、180mgKOH/gを超えると塗膜の耐水性が低下し、20mgKOH/gを下回ると塗膜の硬化性が低下するおそれがある。
【0058】
この水溶性アクリル樹脂は、先のα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物のところで述べた酸基または水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを必須成分とし、それ以外のα,β−エチレン性不飽和モノマーとともに溶液重合を行うことにより得ることができる。ここで、この水溶性アクリル樹脂を得るのに用いられる成分が、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルを65重量%以上含んでいることが、得られる塗膜の外観の点から好ましい。
【0059】
さらに上記水溶性アクリル樹脂は、必要に応じてジメチルエタノールやトリエチルアミンのような3級アミン等の塩基によって中和され、水に溶解または分散されていてもよい。
【0060】
水性ベース塗料組成物は、さらに硬化剤を含む。硬化剤としては、塗料一般に用いられているものを使用することができ、このようなものとしては、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート等が挙げられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からアミノ樹脂および/またはブロックイソシアネートが一般的に用いられる。
【0061】
上記アミノ樹脂は、特に限定されるものではなく、水溶性メラミン樹脂あるいは非水溶性メラミン樹脂を用いることができる。なかでも、メチル/ブチル混合アルキルエーテル化メラミンが効果的に用いられる。該メラミン成分が低縮合度であり、反応開始速度が遅いため、加熱時のフロー度合いが大きく、表面平滑性が高く、塗膜性能的に優れている。
【0062】
また、上記ブロックイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のポリイソシアネートに活性水素を有するブロック剤を付加させることによって得ることができるものであって、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記樹脂成分中の官能基と反応し硬化するものが挙げられる。
【0063】
上記硬化剤が含まれる場合、その含有量は水性ベース塗料組成物中の樹脂固形分100質量部あたり、15〜50質量部であることが好ましく、15〜35質量部であることがさらに好ましい。15質量部未満の場合は硬化性等が低下し、50質量部を超える場合は付着性、耐温水性等が低下するおそれがある。
【0064】
水性ベース塗料組成物に含まれる光輝材としては、特に限定されず、また、顔料で着色されていてもよく、例えば、平均粒径(D50)が2〜50μmであり、かつ、厚さが0.1〜5μmであるものが好ましい。また、平均粒径が10〜35μmの範囲のものが光輝感に優れ、さらに好適に用いられる。具体的には、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属または合金等の無着色あるいは着色された金属製光輝材およびその混合物が挙げられる。この他に干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料、ガラスフレーク顔料なども含むことができる。なお、本明細書内での光輝材の平均粒径(D50)はレーザー光散乱法による測定値である。
【0065】
上記光輝材の顔料濃度(PWC)としては、18.0%以下であることが好ましい。18.0%を超えると塗膜外観が低下する。さらに好ましくは0.01〜15.0%であり、特に好ましくは0.01〜13.0%である。なお、上記光輝材の顔料濃度は、後述のその他の顔料も併せた計算式、(全光輝材の合計質量)/(全光輝材、全顔料および全樹脂成分の合計質量)×100(%)から算出されるものである。
【0066】
また、水性ベース塗料組成物は、さらに顔料を含むことができる。顔料としては、特に限定されず、着色顔料および体質顔料等を挙げることができる。上記着色顔料としては、例えば有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、無機系では黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。また、上記体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等を挙げることができる。
【0067】
このときの水性ベース塗料組成物中の全顔料濃度(PWC)としては、0.1〜50%であることが好ましい。さらに好ましくは0.5〜40%であり、特に好ましくは1.0〜30%である。50%を超えると塗膜外観が低下するおそれがある。なお、上記全顔料濃度は、(全顔料および全光輝材の合計質量)/(全光輝材、全顔料および全樹脂成分の合計質量)×100(%)で表される。
【0068】
またさらに、水性ベース塗料組成物には、積層塗膜とのなじみ防止、塗装作業性を確保するために、さらに粘性制御剤を添加することができる。粘性制御剤としては、一般にチクソトロピー性を示すものを使用でき、例えば、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドの燐酸塩等のポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体等のポリエチレン系等のもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイト等の有機ベントナイト系のもの、ケイ酸アルミ、硫酸バリウム等の無機顔料、顔料の形状により粘性が発現する偏平顔料等を粘性制御剤として挙げることができる。
【0069】
水性ベース塗料組成物中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤等を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0070】
水性ベース塗料組成物の製造方法としては、特に限定されず、塗膜形成性樹脂および光輝材等の配合物をニーダーまたはロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の全ての方法が挙げられ得る。
【0071】
クリア塗料組成物
クリア塗膜を形成するためのクリア塗料組成物は、光輝材含有ベース塗膜の凹凸、チカチカ等を平滑にするため、また、ベース塗膜を保護し、外観を向上させるために、ベース塗膜上に塗膜形成され得る。
【0072】
上記クリア塗料組成物としては、特に限定されず、例えば、塗膜形成性樹脂、必要に応じて硬化剤およびその他の添加剤を含む塗料組成物を挙げることができる。
【0073】
上記塗膜形成性樹脂としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0074】
透明性又は耐酸エッチング性等の点から、上記塗膜形成樹脂としてアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂と、硬化剤としてアミノ樹脂及び/又はポリイソシアネート樹脂との組み合わせ、あるいは、カルボン酸・エポキシ基硬化系を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0075】
塗膜層間のなじみや反転、又は、タレ等の防止のため、粘性制御剤を添加剤として含有することが好ましい。上記粘性制御剤の添加量は、クリア塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して、0.01質量部〜10質量部であり、好ましくは、0.02質量部〜8質量部、より好ましくは、0.03質量部〜6質量部である。添加量が10質量部を超えると、得られた塗膜の外観が低下し、0.01質量部未満であると、粘性制御効果が得られず、塗膜形成時にタレ等の不具合を起こす原因となる。
【0076】
上記クリア塗料組成物の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を用いることができる。
【0077】
なお、上記水性型クリア塗料組成物の例としては、上記クリア塗料組成物の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものも挙げることができる。この中和は重合の前又は後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0078】
クリア塗料組成物の製造方法としては、特に限定されず、当業者に周知の全ての方法が挙げられ得る。
【0079】
補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物
本発明で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物は、上記で説明した、被補修積層塗膜を形成する光輝材含有水性ベース塗料組成物と本質的に同一である。従って、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物は、光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂および光輝材などを含む。
【0080】
従って、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる各成分は、上記で説明した光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる各成分の使用範囲内で適宜選択して使用することができる。
【0081】
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物
本発明で使用するぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物は、(i)塗膜形成性樹脂、(ii)メラミン樹脂および(iii)有機アマイドを含有する。
【0082】
(i)塗膜形成性樹脂
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂は、上記補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型塗膜形成性樹脂であれば特に限定はない。すなわち、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂が、上記補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の少なくとも一種と同種であり、且つ、その水性化前の溶剤型樹脂であればよい。例えば、上記補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に水性の塗膜形成性樹脂が含まれる場合、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物の塗膜形成性樹脂としては、該水性の塗膜形成性樹脂を中和して水性化し、光輝材含有水性ベース塗料組成物に配合する前の溶剤型樹脂の状態(水への転相前樹脂)で溶剤型塗膜形成性樹脂として用いることが好ましい。この特徴によって、塗料ダストの溶解性が高くなる、補修塗膜性能が類推できる、下地塗膜と塗膜物性が同じであるなどの利点を有する。
【0083】
なお、上記補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂は、上記光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂と同じ種類のものを使用することができるので、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂については、上記光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂を参照すればよい。
【0084】
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂は、例えば、上記水溶性アクリル樹脂の水性化前の溶剤型樹脂を用いることができ、アクリル樹脂を合成後、アミン等の塩基を用いて水溶化する前の段階(溶剤系)で抽出したアクリル樹脂が好適に用いられる。なぜなら、エマルション樹脂は均一に分散しにくく、貯蔵安定性が劣るからである。
【0085】
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の使用量は、メラミン樹脂との質量比で、すなわち、塗膜形成性樹脂/メラミン樹脂の比で、80/20〜60/40、好ましくは75/25〜65/35である。
【0086】
塗膜形成性樹脂の使用量が60/40未満であると、形成された塗膜が硬く、もろくなり、また、塗膜形成性樹脂の使用量が80/20を超過すると、形成された塗膜の硬化性が低下する。
【0087】
(ii)メラミン樹脂
本発明で使用するメラミン樹脂は、特に限定されず、なかでも、メチル/ブチル混合アルキルエーテル化メラミンが効果的に用いられる。その理由は、該硬化剤成分が低縮合度であり、反応開始速度が遅いため、加熱時のフロー度合いが大きくなり、表面平滑性を高めると同時に、塗膜性能的に優れていることによる。しかし、上記メチル/ブチル混合アルキルエーテル化メラミンのみでは十分な塗膜性能を得られないことがある。その場合には、ブチルエーテル化メラミンを併用して用いることができる。メラミン樹脂としては、例えば、サイメル204(三井サイテック社製メチル/ブチル混合アルキル化型メラミン樹脂、不揮発分100%)等が挙げられる。
【0088】
(iii)有機アマイド
有機アマイドは、チクソトロピー性を付与するための粘性制御剤として公知の化合物である。このような有機アマイドは、当該分野では一般に、貯蔵時に沈降し易いアルミフレークなどの鱗片状光輝材を含むメタリック塗料に添加されており、鱗片状光輝材が沈降してハードな層を形成するのを防止している。しかし、本発明では、このような有機アマイドをぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に使用する。
【0089】
有機アマイドをぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に添加することによって、補修箇所において所望の塗膜外観を有する塗膜を形成することができる。すなわち、補修部分と非補修部分との差が小さいか、ほぼ同等になり、十分な連続性および平滑性が得られる。また、塗布された塗粒が動いて、弾いた状態になるのを防ぎ、不連続膜になるのを防止する効果がある。
【0090】
本発明において用いる有機アマイドとしては、特に限定はなく、鱗片状光輝材を含むメタリック塗料に添加されるものであればよく、例えば、脂肪酸アマイドなどが挙げられる。市販品として入手可能な脂肪酸アマイドとしては、粉末状態のものやペースト状態のものが知られている。ペースト状態のものは、一般にキシレンやアルコールなどの溶剤によって希釈されている。
【0091】
脂肪酸アマイドの例としては、下記の式に示すような一般構造を有するジアマイドが挙げられる。
【0092】
【化1】

【0093】
上記のジアマイドは、ジアミンに水酸基含有脂肪酸を反応させることにより得られる化合物である。上記式において、R1 は、それぞれ独立して、水酸基含有脂肪酸から水酸基及びカルボキシル基を除いた残基を示しており、R2 はジアミンからアミノ基を除いた残基を示している。
【0094】
なお、上記ジアマイドにおいて、両端のR1 のいずれか一方にOH基が結合していないような脂肪酸アマイドも粘性制御剤として知られており、本発明において用いることができる。
【0095】
また、脂肪酸アマイドの他の例として、下記の式に示す一般構造を有するポリアマイドが挙げられる。
【0096】
【化2】

【0097】
上記のポリアマイドは、多塩基カルボン酸とジアミンと水酸基含有脂肪酸を反応させて得られる化合物である。上記式において、R1 は、それぞれ独立して、水酸基含有脂肪酸から水酸基及びカルボキシル基を除いた残基を示しており、R2 はジアミンからアミノ基を除いた残基を示している。R3 は多塩基カルボン酸からカルボキシル基を除いた残基を示している。平均重合度nは、3〜5程度が一般的である。また、数平均分子量(Mn)は、1000〜2000程度のものが一般的である。
【0098】
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物に含まれる脂肪酸アマイドとしては、上記のジアマイド及びポリアマイドの単体及び混合物が挙げられ、具体的には、共栄社化学社製の「フローノンHR−2(ジアマイド及びポリアマイドの混合物)」、楠本化成社製の「デイスパロン6900−20X(ジアマイド)」および「デイスパロン6840G(ポリアマイド)」等が挙げられる。
【0099】
塗料製造時に分散性がよく、ブツになりにくいことから、デイスパロン6840Gが好ましい。
【0100】
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物において、有機アマイドの含有量は、塗膜形成性樹脂およびメラミン樹脂の総固形分質量に対して、0.5〜1.8質量%、好ましくは0.8〜1.6質量%である。
【0101】
有機アマイドの使用量が0.5質量%未満であると、ベース塗料のダスト部のハジキ性が低下する。また、有機アマイドの使用量が1.8質量%を超過すると、塗膜外観が低下する。
【0102】
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤等を配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0103】
ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物の製造方法としては、特に限定されず、上記成分と有機溶剤をニーダーまたはロール等を用いて混練、分散する等の当業者に周知の全ての方法が挙げられ得る。
【0104】
補修塗装用のクリア塗料組成物
本発明で使用する補修塗装用のクリア塗料組成物は、上記で説明した、被補修積層塗膜を形成するクリア塗料組成物と本質的に同一である。
【0105】
補修塗装用のクリア塗料組成物に含まれる各成分は、上記で説明したクリア塗料組成物に含まれる各成分の使用範囲内で適宜選択して使用することができる。しかし、当業者は、補修の程度、範囲および条件に応じて、補修塗装用のクリア塗料組成物に含まれる各成分が、上記の範囲を逸脱して使用され得ることを容易に理解する。
【0106】
積層塗膜の形成方法
本発明の補修方法の対象となる積層塗膜(被補修積層塗膜)とは、上記中塗り塗料組成物から形成される中塗り塗膜(1)と、この中塗り塗膜(1)上に形成された、上記光輝材含有水性ベース塗料組成物から形成される光輝材含有ベース塗膜(2)および上記クリア塗料組成物から形成されるクリア塗膜(3)を含む上塗り塗膜(4)とを含む積層塗膜(5)を意味する(図1および図3参照)。
【0107】
例えば、積層塗膜(5)は、以下の工程(I)〜(III)を包含する方法によって、製造することができる。
工程(I):例えば、電着塗膜などの下塗り塗膜を有していてもよい被塗物(例えば、リン酸塩処理などの化成処理が施されていてもよい鋼板など)上に、中塗り塗料組成物を塗布して中塗り塗膜(1)を形成する工程、
工程(II):中塗り塗膜(1)上に光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布して光輝材含有ベース塗膜(2)を形成する工程、および
工程(III):光輝材含有ベース塗膜(2)上にクリア塗料組成物を塗布してクリア塗膜(3)を形成する工程。
【0108】
また、本発明で使用する積層塗膜は、さらに、下層にプライマー、上層にオーバーコートクリアなどの塗膜を含んでいてもよい。
【0109】
塗料組成物の塗布は、一般に、静電塗装によって行われ、例えば、エアー霧化型塗装機(オートREA)、回転遠心霧化型塗装機(ベル、マイクロベル、マイクロマイクロベル、カートリッジベル)等を利用することができる。
【0110】
上記方法は、各塗装工程(例えば、工程(I)および(II))の後、必要に応じて、プレヒート工程を包含していてもよい。なお、プレヒートとは、形成された塗膜を硬化させない程度に乾燥させることを意味し、通常、形成された塗膜を40〜80℃で5〜10分間加熱する。
【0111】
また、上記各塗装工程(例えば、工程(I)および(III))の後、それぞれ、焼き付け乾燥工程(例えば、120〜160℃で10〜40分)を経て塗膜を硬化してもよい。
【0112】
硬化後の膜厚は、中塗り塗膜(1)において10〜50μmが好ましく、光輝材含有ベース塗膜(2)において10〜35μmが好ましく、クリア塗膜(3)において20〜80μmが好ましい。
【0113】
積層塗膜の補修方法
本発明の補修方法は、積層塗膜に塗膜異常(ゴミ・ブツ、微小なへこみ、小さなキズ、タレ等)がある場合(図1および図3参照)、特に好ましくは、部分補修方法(スポット補修)として、適用される。
【0114】
本発明の積層塗膜の補修方法は、以下の工程(a)〜(d)を包含する:
(a)積層塗膜を研削する工程、
(b)塗膜形成性樹脂を含む、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布する工程、
(c)前記工程(b)で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、メラミン樹脂および有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布する工程、および
(d)補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程。
【0115】
添付の図面を参照しながら、各工程を詳細に説明する。
【0116】
工程(a):積層塗膜を研削する工程
例えば、本発明の補修方法では、まず、積層塗膜(5)の補修対象部分(6)を研削する(図1〜図4参照)。研削は、#600〜1200番程度のサンドペーパー等の研削手段を用いて行うことができる。より好ましくは、研削は、いわゆる水研ぎによって行う。
【0117】
図1は、少なくとも中塗り塗膜(1)に異常を伴う積層塗膜(5)の概略図であり、このような場合、図2に示すように、上塗り塗膜(4)(すなわち、クリア塗膜(3)および光輝材含有ベース塗膜(2))および中塗り塗膜(1)の一部を研削、より好ましくは水研ぎし、中塗り塗膜(1)を研ぎ出すことが好ましい。
【0118】
図3は、少なくとも光輝材含有ベース塗膜(2)に異常を伴う積層塗膜(5)の概略図であり、このような場合、図4に示すように、クリア塗膜(3)および光輝材含有ベース塗膜(2)の一部を研削、より好ましくは水研ぎし、光輝材含有ベース塗膜(2)を研ぎ出すことが好ましい。
【0119】
研削は、緩やかに勾配をつけて行うことが望ましい。
【0120】
工程(b):補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布する工程
工程(b)において、エアーガンなどのスプレー手段を用いて、研削部分(7)を中心として、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布し、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物の塗膜(101)を形成する(図5および図7参照)。
【0121】
塗布膜厚は、特に限定されないが、通常0.01〜30μm、好ましくは0.02〜20μmである。
【0122】
工程(b)の後、続く工程(c)に進む前に、インターバルと呼ばれる時間的間隔を空ける操作を行うことができる。
【0123】
このインターバルによって、形成塗膜に含まれる有機溶剤/水を十分に揮発させることができ、塗膜の外観が向上する。インターバルは、例えば、30秒〜15分間である。
【0124】
また、上記インターバルの間にプレヒートと呼ばれる加熱操作を行ってもよい。このプレヒートによって、形成塗膜に含まれる有機溶剤/水の揮発を短時間で効率的に行うことができる。この加熱操作は、形成塗膜を積極的に硬化させるものではなく、上記加熱条件としては、例えば、40〜80℃で1〜15分間である。上記プレヒートは、例えば、温風ヒータや赤外線ヒータを用いて行うことができる。
【0125】
工程(b)を行うと、通常、形成された光輝材含有水性ベース塗料組成物からなる塗膜(101)の周辺部には、ダスト部(104)が発生する。ダスト部とは、補修塗膜が破断した部分および塗料が散点的に付着した部分を意味する。また、本明細書中、散点的に付着た塗料を塗料ダストと呼ぶ場合もある。
【0126】
一般に、ダスト部を解消するためには、ダスト部に水性ぼかしクリア塗料を塗布して塗料ダストを溶解していたが、水性ぼかしクリア塗料はダスト部の表面で撥水され、水玉となり易いので、塗料ダストが容易に溶解せず、異常が生じ、仕上がり外観が低下する。また、水性ぼかしクリア塗料は延びない(平滑にならない)ので、水性ぼかしクリア塗料のダストが残り、仕上がり外観が極度に低下することもある。さらに、ダスト部とクリア塗料の色調を合わせるのも困難である。従って、従来では熟練工がダスト部の補修を行っていた。しかも、作業者による補修の程度の差は非常に大きかった。
【0127】
しかし、本発明では、次工程において、ダスト部を含む補修対象部分の周囲にぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布することによって、ダスト部における問題を解消している。以下に詳細を記載する。
【0128】
工程(c):ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布する工程
工程(c)において、工程(b)で形成された補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物からなる塗膜(101)上に、エアーガンなどのスプレー手段を用いて、ダスト部(104)を含む補修部分にぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布し、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物からなる塗膜(102)を形成する(図5および図7参照)。
【0129】
工程(c)は、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物からなる塗膜(101)およびダスト部(104)上に、溶剤型のぼかし塗装用クリア塗料組成物を塗布することを特徴とする。溶剤型のぼかし塗装用クリア塗料組成物を塗布することによって、ダスト部の水性塗料ダストを容易に溶解することができ、得られる塗膜の仕上がり外観が従来よりも飛躍的に向上する。また、ダスト部を含む補修部分全体に溶剤型のぼかし塗装用クリア塗料組成物を塗布するだけで良好な仕上がり塗膜外観が得られるので、作業に熟練度は必要なく、当業者であれば十分な仕上がり塗膜の連続性および平滑性を得ることが可能となる。
【0130】
塗布膜厚は、特に限定されないが、通常0.01〜10μm、好ましくは0.01〜2μmである。
【0131】
工程(c)の後、インターバルと呼ばれる時間的間隔を空ける操作を行うことができる。
【0132】
このインターバルによって、形成塗膜に含まれる有機溶剤を十分に揮発させることができ、塗膜の外観が向上する。インターバルは、例えば、30秒〜15分間である。
【0133】
また、上記インターバルの間にプレヒートと呼ばれる加熱操作を行ってもよい。
【0134】
また、本発明において、工程(b)および(c)は、十分な塗膜外観が得られるまで、それぞれ繰り返し(例えば、1〜4回、好ましくは3または4回)行ってもよい。
【0135】
さらに、当該方法は、工程(a)と(b)との間に、研削部分(7)を中心として、(i)工程(b)で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、(ii)メラミン樹脂および(iii)有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布し、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物からなる塗膜(102’)を形成する工程(c’)をさらに包含していてもよい(図6および図8参照)。塗膜(102’)を設けることは、塗料ダスト部が発生しにくく、リング状の変色部分ができにくいなどの利点がある。
【0136】
工程(c’)は、工程(c)と同様の操作で行うことができる。
【0137】
工程(c’)で使用するぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物は、工程(c)で使用するぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物と同じであっても、異なっていてもよい。
【0138】
塗布膜厚は、特に限定されないが、通常0.01〜10μm、好ましくは0.01〜5μmである。
【0139】
工程(c’)の後、インターバルと呼ばれる時間的間隔を空ける操作を行うことができる。
【0140】
このインターバルによって、形成塗膜に含まれる有機溶剤を十分に揮発させることができ、塗膜の外観が向上する。インターバルは、例えば、30秒〜15分間である。
【0141】
また、上記インターバルの間にプレヒートと呼ばれる加熱操作を行ってもよい。
【0142】
さらに、当該方法は、工程(c)の後、補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程(d)を包含する。
【0143】
工程(d)では、工程(c)おいて形成された、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物からなる塗膜(102)上に、エアーガンなどのスプレー手段を用いて、研削部分(7)を中心として、補修部分全体に補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布し、補修塗装用のクリア塗料組成物からなる塗膜(103)を形成することができる。
【0144】
塗布膜厚は、特に限定されないが、通常0.01〜60μm、好ましくは0.01〜40μmである。
【0145】
工程(d)の後、インターバルと呼ばれる時間的間隔を空ける操作を行うことができる。
【0146】
このインターバルによって、形成塗膜に含まれる有機溶剤を十分に揮発させることができ、塗膜の外観が向上する。インターバルは、例えば、5分〜20分間である。
【0147】
また、上記インターバルの間にプレヒートと呼ばれる加熱操作を行ってもよい。
【0148】
上記工程(a)〜工程(d)の後、それぞれ、焼き付け乾燥(例えば、120〜160℃で10〜30分)を行い、塗膜を硬化させることができる。
【0149】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例中、「部」は、特に断りのない限り、「質量部」を意味する。
【実施例】
【0150】
製造例1:中塗り塗料組成物の調製
中塗り塗料組成物として、「スーパーラックOP−2グレー(日本ペイント社製)」ポリエステル・メラミン硬化系塗料をNo.4フォードカップ(20℃、22秒)に希釈して使用した。
【0151】
製造例2:光輝材含有水性ベース塗料組成物の調製
日本ペイント社製アクリルエマルション(平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/g)を236部、
ジメチルエタノールアミン10質量%水溶液を10部、
日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂(合成時に有機溶媒を水に置換したものであり、不揮発分は30.0%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/gである)を28.3部、
プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量400、水酸基価278mgKOH/g、一級/二級水酸基価比=63/37、不揮発分100%)を8.6部、
サイメル204(三井サイテック社製メチル/ブチル混合アルキル化型メラミン樹脂、不揮発分100%)を21.5部、
ネオレッツR−9603(アビシア製ポリカーポネート系ウレタンエマルション樹脂、不揮発分33%)を26部、そして、
ラウリルアシッドフォスフェート0.2部、
アルペースト91−0562(東洋アルミニウム社製アルミニウム製光輝材)を10.0部、
デグサカーボンFW−200P(デグサジャパン株式会社製カーボン黒顔料)を0.5部
添加し、均一分散することにより光輝材含有水性ベース塗料組成物を得た。
【0152】
製造例3:クリア塗料組成物
クリア塗料組成物として、「マックフローO−1820クリア(日本ペイント社製)」の酸・エポキシ硬化系クリアを用意した。
【0153】
製造例4:補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物の調製
補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物として、製造例2の光輝材含有水性ベース塗料組成物と同じものを用意した。
【0154】
製造例5:ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物の調製
表1に示す組成のぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を調製した。
【表1】


デイスパロン6900−20X:楠本化成社製の有機アマイド
デイスパロン 6840G:楠本化成社製の有機アマイド
アクリル樹脂:日本ペイント社製アクリル樹脂(製造例2の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる水溶性アクリル樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、不揮発分は30.0%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g)
サイメル204:三井サイテック社製メチル/ブチル混合アルキル化型メラミン樹脂(不揮発分100%)
プライムポールPX−1000:三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量400、水酸基価278mgKOH/g、一級/二級水酸基価比=63/37、不揮発分100%
phr: per hundred resin
表1の数値は固形分基準である。
【0155】
製造例6:補修塗装用のクリア塗料組成物
補修塗装用のクリア塗料組成物として、被補修塗膜の形成で用いた「マックフローO−1820クリア(日本ペイント社製)」の酸・エポキシ硬化系クリアを用意した。
【0156】
製造例7:積層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8cm、20cm×30cmのSPCC−SD鋼板(ダル鋼板)に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。次に、得られた電着塗膜上に、製造例1の中塗り塗料組成物を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で20分間焼き付けて、中塗り塗膜が形成された被塗物を作成した。
【0157】
得られた中塗り塗膜上に、製造例2の光輝材含有水性ベース塗料組成物を、乾燥膜厚が15μmとなるように、カートリッジベル(ABB社製回転霧化塗装機)により塗装した。80℃で3分間プレヒートした後、更にウェットオンウェットで、製造例3のクリア塗料組成物を、乾燥膜厚が30μmとなるように、μμベルにより回転霧化型静電塗装した。7分間のセッテイングの後、140℃で30分間焼き付けて、積層塗膜を得た。
【0158】
実施例1
補修塗膜の作成
製造例7で作成した積層塗膜の補修対象部分を、#800番のサンドペーパーを用いて、水研ぎにより、中塗り塗膜が研ぎ出されるまで、緩やかに勾配がつくように研ぎ出し、研削部分を形成した(図1および図2参照)。すなわち、補修対象部分のクリア塗膜、光輝材含有ベース塗膜および中塗り塗膜の一部を研削して除去した。
【0159】
次に、研ぎ出し部を含む塗板をワイピングして研ぎかすを除去し、3分間放置した後、研削部分を中心として、研削部分よりも広い目に、製造例4の補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を手吹きスプレー塗装機により塗布し、補修ベース塗膜(101)を形成した(図5参照)。
【0160】
次に、補修塗装用光輝材含有水性ベース塗料塗装部の周辺領域に発生した補修塗料に起因するダスト部を覆うように、補修部分を中心として、製造例5のぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aを塗布し、ぼかし塗膜(102)を形成した(図5参照)。
【0161】
更に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗装した範囲より広い範囲に、補修部分を中心として、製造例6の補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布し、補修クリア塗膜(103)を形成した(図5参照)。次に、10分間のインターバルの後、140℃で30分間焼き付け、積層塗膜の補修を完了した。
【0162】
実施例2
実施例1と同様に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aの代わりにぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Bを使用して、積層塗膜を補修した。
【0163】
実施例3
実施例1と同様に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aの代わりにぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Cを使用して、積層塗膜を補修した。
【0164】
実施例4
実施例1と同様に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aの代わりにぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Dを使用して、積層塗膜を補修した。
【0165】
比較例1
実施例1と同様に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aの代わりにぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Eを使用して、積層塗膜を補修した。
【0166】
比較例2
実施例1と同様に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aの代わりにぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Fを使用して、積層塗膜を補修した。
【0167】
比較例3
実施例1と同様に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aの代わりにぼかし塗装用の水性型クリア塗料組成物Gを使用して、積層塗膜を補修した。
【0168】
比較例4
実施例1と同様に、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Aの代わりにぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物Hを使用して、積層塗膜を補修した。
【0169】
実施例および比較例で得られた各補修塗膜を表2に示す判断基準で評価した。
【表2】

【0170】
評価結果を表3および4に示す。
【表3】


【表4】

【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の積層塗膜の補修方法によれば、積層塗膜の補修が、簡便かつ容易に行われるだけでなく、補修後に得られる塗膜の外観において、補修部分と非補修部分との差が小さいか、ほぼ同等であり十分な連続性および平滑性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】図1は、本発明の補修方法を行う前の積層塗膜(被補修積層塗膜)の断面を模式的に表した図であり、塗膜異常は、各塗膜に存在していても、存在していなくてもよい。
【図2】図2は、本発明の積層塗膜の補修方法の工程(a)後の積層塗膜の断面を模式的に表した図である。
【図3】図3は、本発明の補修方法を行う前の積層塗膜(被補修積層塗膜)の断面を模式的に表した図であり、塗膜異常は、各塗膜に存在していても、存在していなくてもよい。
【図4】図4は、本発明の積層塗膜の補修方法の工程(a)後の積層塗膜の断面を模式的に表した図である。
【図5】図5は、本発明の積層塗膜の補修方法によって補修された積層塗膜の1つの好ましい態様の断面を模式的に表した図である。
【図6】図6は、本発明の積層塗膜の補修方法によって補修された積層塗膜の1つの好ましい態様の断面を模式的に表した図である。
【図7】図7は、本発明の積層塗膜の補修方法によって補修された積層塗膜の1つの好ましい態様の断面を模式的に表した図である。
【図8】図8は、本発明の積層塗膜の補修方法によって補修された積層塗膜の1つの好ましい態様の断面を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0173】
1 :中塗り塗膜
2 :光輝材含有ベース塗膜
3 :クリア塗膜
4 :上塗り塗膜
5 :積層塗膜
6 :補修対象部分
7 :研削部分
8 :塗膜異常
101 :補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物の塗膜
102 :ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物の塗膜
102’:ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物の塗膜
103 :補修塗装用のクリア塗料組成物の塗膜
104 :ダスト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)〜(d)を包含する、中塗り塗膜(1)と、前記中塗り塗膜(1)上に形成された、光輝材含有ベース塗膜(2)およびクリア塗膜(3)を含む上塗り塗膜(4)とを含む積層塗膜の補修方法:
(a)前記積層塗膜を研削する工程であって、
クリア塗膜(3)、光輝材含有ベース塗膜(2)および中塗り塗膜(1)の一部を研削して中塗り塗膜(1)を研ぎ出すか、あるいは、クリア塗膜(3)および光輝材含有ベース塗膜(2)の一部を研削して光輝材含有ベース塗膜(2)を研ぎ出す工程、
(b)塗膜形成性樹脂を含む、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布する工程、
(c)前記工程(b)で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、メラミン樹脂および有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布する工程であって、前記ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物中の有機アマイドの含有量が、塗膜形成性樹脂およびメラミン樹脂の総固形分質量に対して、0.5〜1.8質量%である工程、および
(d)補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程。
【請求項2】
請求項1に記載の補修方法により補修された積層塗膜。
【請求項3】
以下の工程(a)〜(d)を包含する、中塗り塗膜(1)と、前記中塗り塗膜(1)上に形成された、光輝材含有ベース塗膜(2)およびクリア塗膜(3)を含む上塗り塗膜(4)とを含む積層塗膜の補修方法:
(a)前記積層塗膜を研削する工程、
(b)塗膜形成性樹脂を含む、補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物を塗布する工程、
(c)前記工程(b)で使用する補修塗装用の光輝材含有水性ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成性樹脂の水性化前の溶剤型樹脂、メラミン樹脂および有機アマイドを含有する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物を塗布する工程、および
(d)補修塗装用のクリア塗料組成物を塗布する工程、
において使用する、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物であって、
前記ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物中の有機アマイドの含有量が、塗膜形成性樹脂およびメラミン樹脂の総固形分質量に対して、0.5〜1.8質量%である、ぼかし塗装用の溶剤型クリア塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−86958(P2008−86958A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272935(P2006−272935)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】