説明

積層成形体の製造方法

【課題】表皮材および基材の全面を均一かつ適切な圧力で加圧して、表皮材および基材を良好に圧着する積層成形体の製造方法および製造装置の提供。
【解決手段】立体形状の基材13と、該基材13の表面に貼着された表皮材14とを有する積層成形体の製造装置として、一対の型22を備え、該型22により基材13と表皮材14とを粘着剤層を介してプレスするプレス手段20を有し、該プレス手段20は、プレス時に表皮材14の外側に配置されるポリウレタンフォームシート30などからなる緩衝材を備える装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に表皮材が貼着された内装材などの積層成形体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピラーやドアライニングなどの自動車の内装材には、樹脂などからなる立体形状の基材の表面に、本皮シート、合成皮革シート、ファブリックなどの表皮材が貼着された積層成形体からなるものが多い。このような積層成形体の製造方法としては、基材と表皮材とを接着剤を介してプレスし、圧着する方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、立体形状の基材に表皮材を貼着するための装置として、上下方向に出没自在なプラグを備えた上型と、プラグよりも水平方向外側に位置する保護プレートを備えた下型とを有する装置が開示され、この装置により、予め接着材が塗布された基材と表皮材とを貼着する方法が記載されている。具体的には、表皮材の基材側の外周縁を保護プレートで保護し、この部分の基材への貼着を防止しつつ、表皮材の中央をプラグにより押圧して、基材中央の凹部に仮接着する。ついで、このような仮接着の後、上型と下型とを型締めしてプレスし、表皮材と基材とを完全に一体化する工程を行う。特許文献1には、このような貼着方法によれば、仮接着において、表皮材を基材中央の凹部から外周縁に向けて徐々に接着できるため、表皮材の皺や破れを防止できる旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−8000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の装置を用いた場合、仮接着後のプレス工程において、表皮材および基材の全面に対して均一な圧力を加えることは難しい。すなわち、型を用いて単にプレスする方法では、型の移動方向(上下方向)に対してほぼ垂直な面には充分な圧力が加わりやすいが、型の移動方向とほぼ平行な面には充分な圧力が加わりにくく、その結果、圧力が不均一になりやすい。
特に、表皮材と基材とを粘着剤で一体化する場合には、プレス時の圧力が大きすぎても小さすぎても充分なタック力が得られないため、表皮材および基材の全面に対して均一に圧力が加わるようにすることだけでなく、その圧力の値も適切な範囲に制御する必要がある。ところが、上述のように一対の型で単にプレスする方法では、表皮材と基材の全面を適切な圧力で、かつ、均一に加圧することは困難である。
【0006】
表皮材と基材とを粘着剤を介して圧着する方法としては、弾性反発力を備え、柔軟で伸度の大きな軟質ウレタンフォームなどからなるプレス台を用い、この上でプレスする方法も考えられる。この場合には、まず、粘着剤が塗布された表皮材を粘着剤が上側になるようにプレス台上に配置し、その上に基材を載せ、基材を上方から押し付けてプレスする。このような方法によれば、プレスにともなって表皮材と基材とがプレス台に沈み込むため、表皮材を基材の形状に充分に追従させることができる。
ところが、柔軟で伸度の大きな材料からなるプレス台上では、プレス時の圧力を大きくしてもその圧力がプレス台に吸収されてしまい、基材および表皮材には充分な圧力が加わりにくく、その結果、充分なタック力が得られにくい。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、表皮材および基材の全面を均一かつ適切な圧力で加圧して、表皮材および基材を良好に圧着する積層成形体の製造方法および製造装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層成形体の製造方法は、立体形状の基材と、該基材の表面に貼着された表皮材とを有する積層成形体の製造方法であって、一対の型により、前記基材と前記表皮材とを粘着剤層を介してプレスするプレス工程を有し、該プレス工程では、前記表皮材の外側に緩衝材を配置してプレスすることを特徴とする。
前記緩衝材は、ポリウレタンフォームシートであることが好ましい。
前記プレス工程の前に、発泡軟質樹脂からなるプレス台上で、前記粘着剤層を介して前記表皮材に前記基材を押し付けて仮圧着する仮圧着工程を有することが好ましい。
本発明の積層成形体の製造装置は、立体形状の基材と、該基材の表面に貼着された表皮材とを有する積層成形体の製造装置であって、一対の型を備え、該型により前記基材と前記表皮材とを粘着剤層を介してプレスするプレス手段を有し、該プレス手段は、プレス時に前記表皮材の外側に配置される緩衝材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法および製造装置によれば、表皮材および基材の全面を均一かつ適切な圧力で加圧でき、表皮材および基材を良好に圧着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明で製造される内装材の一例を示す斜視図である。
【図2】図1の内装材の製造に使用されるプレス手段の一例を示す縦断面図である。
【図3】仮圧着工程を説明する縦断面図である。
【図4】プレス工程を実施するにあたって、下型上に表皮材および基材を配置した状態を示す縦断面図である。
【図5】プレス工程を示す縦断面図である。
【図6】プレス工程後に型開きして内装材を取り出した状態を示す縦断面図である。
【図7】予備検討(1)で得られたデータの一例を示すグラフである。
【図8】予備検討(2)で得られたデータの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法により製造される内装材(積層成形体)の一例を示す斜視図であり、この内装材は、例えば自動車のピラーとして使用される。
この例の内装材10は、一方向に延びる頂壁板11と、この頂壁板11の幅方向の両側端に形成された一対の側壁板12とからなる断面略コ字状の部材であり、立体形状に形成された樹脂製の基材13と、図示略の粘着剤層により基材13の一方の面(外面)に貼着された表皮材14とからなる。
【0012】
図2は、図1の内装材10を製造する製造装置のプレス手段20を示す図であり、このプレス手段20は、嵌合時に図1の内装材10に沿う形状のキャビティが形成される一対の型22を有している。
この例の一対の型22は、上型(雌型)23と下型(雄型)24とからなり、基材13と表皮材14とを粘着剤層を介してプレスすることにより、基材13と表皮材14とを圧着させるものである。
【0013】
そして、このプレス手段20は、プレス時に表皮材14の外側に配置される緩衝材を有している。この例の緩衝材は、弾性反発力を有する厚さ3〜20mmのポリウレタンフォームシート30であり、このポリウレタンフォームシート30は、プレス時には上型23のキャビティ面23aと表皮材14との間の全面に亘って介在するように、撓んだ状態で、その縁部が保持部材40により上型23に取り付けられている。
【0014】
次に、図1の内装材10の製造方法について説明する。
まず、好ましくは、次に説明する仮圧着工程を行う。
仮圧着工程では、例えば図3(a)に示すように、弾性反発力を備え、柔軟で伸度の大きな軟質ウレタンフォームなどの発泡軟質樹脂からなるプレス台50を用意し、このプレス台50上に、図示略の粘着剤層が形成された表皮材14を粘着剤層が上側になるように載置し、その上に基材13を載せる。ついで、図3(b)に示すように、プレス治具51により基材13を表皮材14に押し付ける。このようにして基材13を表皮材14に押し付けることにより、表皮材14と基材13とはプレス台50に沈み込み、これに伴って表皮材14は基材13の形状に追従しつつ、基材13に仮圧着する。よって、このような仮圧着工程を行うことにより、表皮材14を良好に基材13の形状に沿わせつつ、仮圧着することができる。
【0015】
ただし、この仮圧着工程は、発泡軟質樹脂からなるプレス台50上で行うものであるため、基材13を押し付ける圧力を大きくしたとしても、その圧力がプレス台50に吸収されてしまう。その結果、基材13および表皮材14には圧力が加わりにくく、粘着剤層による充分なタック力が得られにくい。そのため、仮圧着工程の後に、図2のプレス手段20によるプレス工程を行う。
【0016】
プレス工程では、図4に示すように、一対の型22を開き、仮圧着された表皮材14と基材13とを下型24のキャビティ面24a上に配置する。ここでは雌型である上型23側に表皮材14が位置し、雄型である下型24側に基材13が位置する。
ついで、図5に示すように、キャビティの厚みtが所定値となるように、ポリウレタンフォームシート30が取り付けられた上型23を下降させ、表皮材14の外側にポリウレタンフォームシート30を配置した状態で上型23と下型24とを嵌合させ、基材13と表皮材14とをプレスし、圧着する。なお、キャビティの厚みtとは、プレス時における上型23のキャビティ面23aと下型24のキャビティ面24aとの距離である。
その後、図6に示すように、上型23および下型24を開き、基材13の外面に表皮材14が貼着された内装材10を取り出す。
【0017】
ここでプレス条件は、プレス時に上型23および下型24により形成されるキャビティの厚みtにより制御する。
キャビティの厚みtは、使用する粘着剤の種類や基材および表皮材の材質などに応じて適宜設定すればよいが、具体的には、次に説明する予備検討(1)および(2)により決定することが好ましい。
【0018】
予備検討(1)では、異なる種々の圧力で、粘着剤層を介して基材と表皮材とをプレスした試験片を製造し、これら試験片に対してクリープ試験などを行い、「プレス時の圧力p」と、その圧力pで得られた試験片における「表皮材と基材の剥がれやすさα」との関係を求める。図7は、圧力pと剥がれやすさαとの関係を示すグラフである。グラフ中、α1は、許容される剥がれやすさの上限値である。剥がれやすさが大きいということは、粘着剤層のタック力が不足していることを意味する。
このグラフから、圧力pが大きすぎても小さすぎても表皮材と基材とは剥がれやすく、プレス時の圧力pをp1≦p≦p2の範囲とすることにより、剥がれやすさαをα1以下に制御できることが理解できる。
このように予備検討(1)では、実際に採用する粘着剤、基材、表皮材を用いて試験片を製造して、圧力pと剥がれやすさαとの関係から、プレス時の適切な圧力範囲(p1≦p≦p2)を求めておく。
【0019】
ついで、予備検討(2)では、図5に示したキャビティの厚みtを種々に変化させてプレスを行い、その際に表皮材14および基材13に加わる圧力pを測定する。図8は、キャビティの厚みtと、表皮材14および基材13に加わる圧力pとの関係を示すグラフである。
このグラフから、プレス時に形成されるキャビティの厚みtをt1≦t≦t2の範囲とすることにより、表皮材14および基材13に適切な範囲の圧力p(p1≦p≦p2)が加わることが理解できる。
このような予備検討(1)〜(2)により、適切なキャビティの厚みt(t1≦t≦t2)を求め、このような厚みtとなるようにプレス工程を行う。キャビティの厚みtは、基材13と表皮材14の合計厚みより大きく、基材13と表皮材14とポリウレタンフォームシート30の合計厚みよりも小さい値となる。
【0020】
このようなプレス工程によれば、表皮材14の外側に弾性反発力を有するポリウレタンフォームシート30が配置され、上型のキャビティ面23aと表皮材14との間にポリウレタンフォームシート30が介在した状態でプレスが行われるため、プレス時に加えられた圧力が表皮材14および基材13の全面に分散して均一化し、表皮材14および基材13の全面を均一かつ適切な圧力で加圧することができる。その結果、型22の移動方向(上下方向)に対してほぼ垂直な頂壁板11と型22の移動方向に対して平行に近い側壁板12とに、同程度の圧力が加わり、粘着剤層によるタック力が充分かつ均一な内装材10を得ることができる。
これに対して、ポリウレタンフォームシートなどの緩衝材を介在させずにプレスした場合には、頂壁板には大きな圧力が加わる反面、側壁板には小さな圧力しか加わらず、全体として圧力が不均一になりやすい。その結果、表皮材と基材とのタック力が不均一となり、得られた内装材は製品価値が劣るものとなる。
【0021】
なお、以上の例では、上型23が雌型、下型24が雄型であり、上型23に緩衝材であるポリウレタンフォームシート30が取り付けられた形態を示したが、反対に、上型23が雄型、下型24が雌型であり、下型24にポリウレタンフォームシート30が取り付けられた形態でもよい。また、ポリウレタンフォームシート30は、型22に取り付けられていなくてもよく、プレス工程時に表皮材14の外側に配置され得る状態であればよい。
また、一対の型22としては、上型23が下方に移動する形態に限定されず、一対の型が互いに近接可能に相対移動して、プレスが可能なものであればよい。
【0022】
また、以上の例では、緩衝材として、ポリウレタンフォームシート30を例示したが、緩衝作用を奏するものであれば、発泡していないポリウレタンシートや、ポリウレタン以外の樹脂シートなどでもよく、制限はない。また、例えば、袋体に水などの流体が充填されたシート状物なども緩衝材として使用可能である。このような場合には、プレス工程において適切な圧力が加わるように、上述のようにキャビティの厚みtを所定値に制御する代わりに、流体が充填されたシート状物内を所定の一定圧力に維持する方法なども採用できる。
【0023】
また、以上の例では、積層成形体としてピラーやドアライニングなどの自動車の内装材10を例示したが、積層成形体の用途には特に制限はなく、自動車以外の車両の内装材、建築物の内装材なども例示できる。
基材の材質にも特に制限はなく、種々の樹脂からなるものを使用できるが、例えば自動車内装材用途の場合には、好適にはポリプロピレンやABSが使用され、その他にも、例えば、ポリエチレン、ポリスチレンなどが用いられる。
表皮材の種類にも特に制限はなく、例えば本皮シート、合成皮革シート、ファブリックなどが挙げられる。
また、粘着剤層を構成する粘着剤としても、特に制限はなく、ゴム系、アクリル系、ビニルエーテル系、ウレタン系等の任意の粘着剤を使用できる。
【符号の説明】
【0024】
10 内装材(積層成形体)
13 基材
14 表皮材
20 型
30 ポリウレタンフォームシート(緩衝材)
50 プレス台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体形状の基材と、該基材の表面に貼着された表皮材とを有する積層成形体の製造方法であって、
一対の型により、前記基材と前記表皮材とを粘着剤層を介してプレスするプレス工程を有し、
該プレス工程では、前記表皮材の外側に緩衝材を配置してプレスすることを特徴とする積層成形体の製造方法。
【請求項2】
前記緩衝材は、ポリウレタンフォームシートであることを特徴とする請求項1に記載の積層成形体の製造方法。
【請求項3】
前記プレス工程の前に、発泡軟質樹脂からなるプレス台上で、前記粘着剤層を介して前記表皮材に前記基材を押し付けて仮圧着する仮圧着工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の積層成形体の製造方法。
【請求項4】
立体形状の基材と、該基材の表面に貼着された表皮材とを有する積層成形体の製造装置であって、
一対の型を備え、該型により前記基材と前記表皮材とを粘着剤層を介してプレスするプレス手段を有し、
該プレス手段は、プレス時に前記表皮材の外側に配置される緩衝材を備えることを特徴とする積層成形体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−200868(P2012−200868A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64306(P2011−64306)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(591270257)クミ化成株式会社 (12)
【Fターム(参考)】