説明

空気入りタイヤ及びその製造方法

【課題】ランフラット走行時のバックリングを抑制し、氷雪路面でのランフラット走行性能を改善することが可能な空気入りタイヤ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】左右のサイドウォール部2にランフラット走行を可能にするランフラット補強層10を設けた空気入りタイヤである。トレッド部1の内面側に熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなるトレッド補強層12が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラット機能を備えた空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
左右のサイドウォール部に硬度が高いゴムからなる断面三日月状の補強層を配置し、タイヤがパンクなどによりランフラット状態になった際に補強層により荷重を支持して連続走行を可能にした空気入りタイヤが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このような補強層によるランフラット機能を備えた空気入りタイヤは、ランフラット走行時にトレッド部でバックリングが発生し易い。特に氷雪路面においてこのようなバックリングが発生すると、氷雪路面との接触面積の低下によりタイヤがスリップし、走行不可能になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−37114号公報
【特許文献2】特開2008−37117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ランフラット走行時のバックリングを抑制し、氷雪路面でのランフラット走行性能を改善することが可能な空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、左右のサイドウォール部にランフラット走行を可能にするランフラット補強層を設けた空気入りタイヤにおいて、トレッド部の内面側に熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなるトレッド補強層を配置したことを特徴とする。
【0007】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、トレッド補強層を備えたグリーンタイヤを成形する際に、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるストリップ材を周方向に巻回して予め成形したトレッド補強層を取り付けてグリーンタイヤを成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述した本発明によれば、ランフラット走行時にバックリングが発生するトレッド部にゴムよりも剛性が高い熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるトレッド補強層を配置したことにより、トレッド部の剛性を増大させてランフラット走行時のバックリングを効果的に抑えることが可能になる。そのため、氷雪路面であってもタイヤの接地面積を確保してランフラット走行を可能にすることができるので、氷雪路面でのランフラット走行性能を改善することができる。
【0009】
また、トレッド部のバックリングの抑制によりランフラット走行距離が延びるので、ランフラット耐久性を向上することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示すタイヤ子午線断面図である。
【図2】ランフラット補強層を成形する工程を示す説明図である。
【図3】トレッド補強層を成形する工程を示す説明図である。
【図4】ランフラット補強層の形状を整える工程の一例を示す説明図である。
【図5】ランフラット補強層の形状を整える工程の他の例を示す説明図である。
【図6】未加硫ゴム層で被覆したランフラット補強層の断面図である。
【図7】トレッド補強層の形状を整える工程の一例を示す説明図である。
【図8】未加硫ゴム層で被覆したトレッド補強層の断面図である。
【図9】剛体中子にトレッド補強層を取り付ける工程を示す説明図である。
【図10】剛体中子に左右のランフラット補強層を取り付ける工程を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。
【0013】
左右のビード部3間にカーカス層4,5が延設され、その両端部がビード部3に埋設したビードコア6の周りにビードフィラー7を挟み込むようにしてタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。トレッド部1のカーカス層5の外周側には、2層のベルト層8が配置され、その外周側にベルトカバー層9が設けられている。
【0014】
左右のサイドウォール部2には、ランフラット走行を可能にする断面三日月状の左右のランフラット補強層10が設けられている。左右のランフラット補強層10は、カーカス層4の内側でタイヤ空洞部11に面するタイヤ内面に環状に配置されている。各ランフラット補強層10は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成されている。
【0015】
トレッド部1の内面側には、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなるトレッド補強層12が左右のショルダー部1A間に跨るように設けられている。トレッド補強層12も、カーカス層4の内側でタイヤ空洞部11に面するタイヤ内面に配置されており、左右のランフラット補強層10に隣接してタイヤ周方向に環状に延在している。トレッド補強層12と左右のランフラット補強層10はタイヤ幅方向で接続され、タイヤ内面全体を被覆するようにしている。このように接続して一体に形成されたトレッド補強層12と左右のランフラット補強層10は、空気透過防止層としての機能も発揮するので、従来配置されるインナーライナー層を廃止している。
【0016】
トレッド面13には、タイヤ周方向に延在する主溝14とタイヤ幅方向に延在する横溝(不図示)によりブロック15が形成されている。各ブロック15には、タイヤ幅方向に延在するサイプ(不図示)が設けられている。
【0017】
上述した本発明によれば、ランフラット走行時にバックリングが発生するトレッド部1にゴムよりも剛性が高い熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるトレッド補強層12を配置したので、トレッド部1の剛性が増大してランフラット走行時のバックリングを効果的に抑制することができ、氷雪路面であっても接地面積を確保してランフラット走行を可能にし、ランフラット走行性能を改善することができる。
【0018】
また、トレッド部1のバックリングを抑制することができるので、ランフラット走行距離を長くすることができ、ランフラット耐久性を向上することも可能になる。
【0019】
本発明において、トレッド補強層12を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率Eaとしては、20〜1000MPaの範囲にするのが好ましい。貯蔵弾性率Eaが20MPaより低いと、剛性不足によりランフラット走行時のバックリングを効果的に抑制することができない。逆に1000MPaを超えると、硬くなりすぎて乗心地性能に問題が生じる。より好ましくは、20〜500MPaがよい。なお、本発明で言う貯蔵弾性率とは、東洋精機製作所製の粘弾性スペクロトメータを用い、静歪み10%、動歪み±2%、周波数20Hz、温度20℃の条件下で測定する貯蔵弾性率である。
【0020】
トレッド補強層12の厚さtとしては、1〜15mmの範囲にするがよい。厚さtが1mmより薄いと、剛性不足によりランフラット走行時のバックリングを効果的に抑制することが難しく、逆に15mmを超えると、硬くなりすぎて乗心地性能に問題が生じる。
【0021】
トレッド補強層12を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率Ea(MPa)とトレッド補強層12の厚さt(mm)の関係としては、その積Ea×tが20〜1500MPa・mmの範囲となるようにするのが、剛性不足及び乗心地性能の点からよい。
【0022】
ランフラット補強層10を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率としては、20〜500MPaの範囲にするのが好ましい。貯蔵弾性率が20MPaより低いと、ランフラット走行時の支持能力が低下し、ランフラット耐久性が低下する。逆に500MPaを超えると、硬くなりすぎて乗り心地性が悪化する。
【0023】
ランフラット補強層10の厚さとしては、最大厚さが3〜30mmの範囲となるようにするのがよい。厚さが3mmより薄いと、ランフラット走行時の支持能力が低下し、ランフラット耐久性が低下する。逆に30mmを超えると、硬くなりすぎて乗り心地性が悪化する。
【0024】
ランフラット補強層10は、上述したように熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物から構成するのがよいが、従来と同様に硬度の高いゴムから構成してもよい。ゴムの場合のランフラット補強層10の厚さ(最大厚さ)としては10〜20mmの範囲するのがよい。ランフラット補強層10をゴムから構成した場合は、空気透過防止層としてインナーライナー層をカーカス層4の内側に配置するようにする。
【0025】
上述したランフラット補強層10及びトレッド補強層12を備えた空気入りタイヤの製造は、以下のように行うのが好ましい。即ち、ランフラット補強層10とトレッド補強層12を備えたグリーンタイヤを成形する際に、図2,3に示すように、予めランフラット補強層10とトレッド補強層12をそれぞれ別工程で成形しておく。
【0026】
図2はランフラット補強層10の成形工程を示し、予め熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなる1本または複数本のストリップ材Sを成形補助具21の成形面21A上に環状に巻回して、ランフラット補強層10を成形するものである。成形補助具21を回転させながら、張力を付与したストリップ材Sを順次巻き付けていく。
【0027】
ランフラット補強層10は、ストリップ材Sをタイヤ径方向に積層した構造となるが、このような積層構造の場合は、ストリップ材Sをタイヤ径方向外側(図2の上側)に位置する部分ほど付与する張力を低減させて巻回する。即ち、ストリップ材Sを巻き付ける際にタイヤ径方向内側に位置する部分ほど巻き付け張力が高く、その張力を次第に減少させタイヤ径方向外側ほど巻き付け張力を漸減させるのである。
【0028】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物を使用したストリップ材Sでランフラット補強層10を成形すると、巻き数が多くなる。そのようなランフラット補強層10の形状を安定化させるためには、巻回するストリップ材Sの張力を制御することが必要となり、上記のようにタイヤ径方向外側ほど巻き付け張力を漸減させる張力制御を行うのである。
【0029】
ストリップ材Sの張力をT(N)、貯蔵弾性率をE(Pa)、断面積をA(m2)とすると、タイヤ断面高さSHの中央の位置からタイヤ径方向内側でT=(0.01〜0.15)×E×A、タイヤ断面高さSHの中央の位置よりタイヤ径方向外側でT=(0.001〜0.01)×E×Aとするのが、ユニフォミティの点からよい。
【0030】
ランフラット補強層10は、好ましくは、図4に示すように、ランフラット補強層10の形状を整えるための成形型22を押し付けて、ランフラット補強層10の形状を整えるのがよい。ストリップ材Sを巻回して成形すると、隣接する部分に段差が発生し、更に積層した部分間にエアが閉じ込められ易くなり、それが加硫工程で障害になることがある。そこで、成形型22を押し付けて形状を整えることにより、段差を修正し、かつ閉じ込められたエアを分散あるいは外部に排出させることができる。より好ましくは、成形型22による成型中ランフラット補強層10を加熱するのが、形状をより安定させる上でよい。成形型22は、好ましくはランフラット補強層10の最終部材形状となるよう型付けできる構成とするのがよい。
【0031】
成形型22に代えて、図5に示すように、回転自在な成形ローラ23を使用し、それを回転させながらランフラット補強層10の一方の面に押し付けて形状を整えるようにしてもよい。
【0032】
形状を整えたランフラット補強層10は、好ましくは図6に示すように、未加硫ゴム層30で被覆するが、隣接する未加硫のカーカス層4との接着性の点からよい。被覆はランフラット補強層10全体を被覆するのが好ましいが、接着に影響する部分を部分的に被覆するようにしてよい。ランフラット補強層10と未加硫ゴム層30との接着は、接着剤を介して行うのがよい。未加硫ゴム層30は、隣接するタイヤ構成部材である未加硫のカーカス層4と同種のゴムであってもよく、またランフラット補強層10の構成材料とカーカス層4のゴムの中間的な物理特性を有するものであってよく、必要に応じて適宜選択することができる。
【0033】
他方、図3はトレッド補強層12の成形工程を示し、予め熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなる1本または複数本のストリップ材Nをドラム状の成形補助具24上環状に巻回してにトレッド補強層12を成形するものである。成形補助具24を回転させながら、張力を付与したストリップ材Nを順次巻き付けていく。
【0034】
トレッド補強層12も、ストリップ材Nをタイヤ径方向に積層した構造となるが、このような積層構造の場合も、ストリップ材Nをタイヤ径方向外側(図3の上側)に位置する部分ほど付与する張力を低減させて巻回するのがよい。即ち、ストリップ材Nを巻き付ける際にタイヤ径方向内側に位置する部分ほど巻き付け張力が高く、その張力を次第に減少させタイヤ径方向外側ほど巻き付け張力を漸減させるのである。
【0035】
トレッド補強層12も、好ましくは、図7に示すように、トレッド補強層12の形状を整えるための成形型25を押し付けて、トレッド補強層12の形状を整えるのが上記と同様の理由でよい。より好ましくは、成形型25による成型中トレッド補強層12を加熱するのが、形状をより安定させる上でよい。成形型25は、好ましくはトレッド補強層12の最終部材形状となるよう型付けできる構成とするのがよい。成形型25に代えて、図5に示す回転自在な成形ローラ23を使用してもよい。
【0036】
形状を整えたトレッド補強層12も、好ましくは図8に示すように、未加硫ゴム層30で全体或いは部分的に被覆するが、隣接する未加硫のカーカス層4との接着性の点からよい。トレッド補強層12と未加硫ゴム層30との接着は、上記と同様に接着剤を介して行うのがよい。未加硫ゴム層30は、隣接するタイヤ構成部材である未加硫のカーカス層4と同種のゴムであってもよく、またトレッド補強層12の構成材料とカーカス層4のゴムの中間的な物理特性を有するものであってよく、必要に応じて適宜選択することができる。
【0037】
このようにして予め成形したランフラット補強層10とトレッド補強層12を使用してグリーンタイヤを成形する。即ち、図9に示すように、タイヤの内面形状を有する分割可能な剛体中子26上にトレッド補強層12を取り付ける。次いで、図10に示すように、左右のランフラット補強層10を取り付ける。以下、従来と同様にして、各タイヤ構成部材を取り付けてグリーンタイヤを剛体中子26上に成形する。成形後、剛体中子26を分解してグリーンタイヤから剛体中子26を取り出す。得られたグリーンタイヤをタイヤ加硫機のモールド内で加圧加熱して加硫し、図1の空気入りタイヤを得る。
【0038】
このようにグリーンタイヤを成形する際に、予め成形したトレッド補強層12とランフラット補強層10を取り付けてグリーンタイヤを成形することにより、剛体中子26上にストリップ材N,Sを直接巻回してトレッド補強層12とランフラット補強層10を成形する場合より、グリーンタイヤの成形時間を短縮し、生産性を向上することができる利点がある。
【0039】
上述したストリップ材N,Sは、断面長方形などの四角形状に形成されるが、熱可塑性樹脂の場合には幅が5〜30mm、厚さが0.1〜0.4mmのものを好ましく用いることができる。また、熱可塑性エラストマー組成物の場合には、幅が5〜30mm、厚さが1.0〜5.0mmのものを好ましく用いることができる。幅と厚さが上記範囲より小さいと、形状の自由度が低下し(所望の形状にするのが困難)、逆に上記範囲を超えると寸法安定性が悪化する。
【0040】
本発明では、ランフラット補強層10及びトレッド補強層12に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物、例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PDVC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0041】
熱可塑性エラストマー組成物は、上述した熱可塑性樹脂の成分にエラストマー成分を混合して構成することができる。使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブラジエンゴム(SBR)、ブラジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ボリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0042】
上記した特定の熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマー成分との界面張力が低下し、その結果、分散層を形成しているゴム粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマー成分の両方又は片方の構造を有する共重合体、或いは熱可塑性樹脂又はエラストマー成分と反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらは混合される熱可塑性樹脂とエラストマー成分の種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定はないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマー成分との合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0043】
熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドする場合の特定の熱可塑性樹脂成分(A)とエラストマー成分(B)との組成比は、特に限定はなく、貯蔵弾性率、ストリップ材の断面積により適宜決めればよいが、好ましい範囲は重量比90/10〜30/70である。
【0044】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物には、上記必須ポリマー成分に加えて、本発明のタイヤ用熱可塑性エラストマー組成物の必要特性を損なわない範囲で前記した相溶化剤ポリマーなどの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマー成分との相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物には、更に一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等を上記貯蔵弾性率の要件を損なわない限り任意に配合することもできる。
【0045】
また、上記エラストマー成分は熱可塑性樹脂との混合の際、動的に加硫することもできる。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、添加するエラストマー成分の組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0046】
加硫剤としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。具体的には、イオウ系加硫剤としては粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等を例示でき、例えば、0.5〜4phr〔phr:ゴム成分(エラストマー)100重量部あたりの重量部〕程度用いることができる。
【0047】
また、有機過酸化物系の加硫剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が例示され、例えば、1〜20phr 程度用いることができる。
【0048】
更に、フェノール樹脂系の加硫剤としては、アルキルフェノール樹脂の臭素化物や、塩化スズ、クロロプレン等のハロゲンドナーとアルキルフェノール樹脂とを含有する混合架橋系等が例示でき、例えば、1〜20phr 程度用いることができる。その他として、亜鉛華(5phr 程度)、酸化マグネシウム(4phr 程度) 、リサージ(10〜20phr 程度) 、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロソベンゼン(2〜10phr 程度) 、メチレンジアニリン(0.2〜10phr 程度) が例示できる。
【0049】
また、必要に応じて、加硫促進剤を添加してもよい。加硫促進剤としては、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオ酸塩系、チオウレア系等の一般的な加硫促進剤を、例えば、0.5〜2phr 程度用いることができる。具体的には、アルデヒド・アンモニア系加硫促進剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等、グアジニン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアジニン等、チアゾール系加硫促進剤としては、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)、2−メルカプトベンゾチアゾール及びそのZn塩、シクロヘキシルアミン塩等、スルフェンアミド系加硫促進剤としては、シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアマイド(CBS)、N−オキシジエチレンベンゾチアジル−2−スルフェンアマイド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアマイド、2−(チモルポリニルジチオ)ベンゾチアゾール等、チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジサルファイド(TMTD)、テトラエチルチウラムジサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラサルファイド等、ジチオ酸塩系加硫促進剤としては、Zn−ジメチルジチオカーバメート、Zn−ジエチルジチオカーバメート、Zn−ジ−n−ブチルジチオカーバメート、Zn−エチルフェニルジチオカーバメート、Te−ジエチルジチオカーバメート、Cu−ジメチルジチオカーバメート、Fe−ジメチルジチオカーバメート、ピペコリンピペコリルジチオカーバメート等、チオウレア系加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア等を挙げることができる。
【0050】
また、加硫促進助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、亜鉛華(5phr 程度)、ステアリン酸やオレイン酸及びこれらのZn塩(2〜4phr 程度)等が使用できる。熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、予め熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相(マトリックス)を形成する熱可塑性樹脂中に分散相(ドメイン)としてエラストマー成分を分散させることによる。エラストマー成分を加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマー成分を動的加硫させてもよい。また、熱可塑性樹脂またはエラストマー成分への各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加してもよいが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマー成分の混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が使用できる。中でも熱可塑性樹脂とエラストマー成分の混練およびエラストマー成分の動的加硫には、2軸混練押出機を使用するのが好ましい。更に、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であればよい。また、混練時の剪断速度は1000〜7500Sec -1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で作製された熱可塑性エラストマー組成物は、射出成形、押出し成形等、通常の熱可塑性樹脂の成形方法によって所望のストリップ形状にすればよい。
【0051】
このようにして得られるストリップ材は、熱可塑性樹脂(A)のマトリクス中にエラストマー成分(B)が不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果により十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマー成分の多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができる。
【0052】
ランフラット補強層10及びトレッド補強層12に隣接するカーカス層4との接着は、通常のゴム系、フェノール樹脂系、アクリル共重合体系、イソシアネート系等のポリマーと架橋剤を溶剤に溶かした接着剤をビードフィラーに塗布し、加硫成形時の熱と圧力により接着させる方法、または、スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBS)、エチレンエチルアクリレート(EEA)、スチレンエチレンブチレンブロック共重合体(SEBS)等の接着用樹脂をストリップ材と共に共押出、或いはラミネートして多層積層体を作製しておき、加硫時に隣接するカーカス層4と接着させる方法がある。溶剤系接着剤としては、例えば、フェノール樹脂系(ケムロック220・ロード社)、塩化ゴム系(ケムロック205、ケムロック234B)、イソシアネート系(ケムロック402)等を例示することができる。
【0053】
本発明の空気入りタイヤは、上記実施形態では、ランフラット補強層10をタイヤ空洞部11に面して配置したが、ランフラット補強層10は、2層のカーカス層4,5との間であってもよく、またインナーライナー層を配置した場合にはインナーライナー層と内側のカーカス層4との間に配置したものであってもよい。
【0054】
本発明は、ブロックにサイプを設けた、ランフラット機能を有する氷雪路用の空気入りタイヤに好ましく用いることができるが、当然のことながらそれに限定されない。
【実施例】
【0055】
タイヤサイズを205×55R15で共通にし、左右のサイドウォール部の内面にゴムからなる断面三日月状のランフラット補強層を配置し、トレッド部の内面に表1に示す熱可塑性エラストマー組成物(貯蔵弾性率60MPa)からなるトレッド補強層を設けた図1の構成の本発明タイヤ1(本実施例1)と、左右のサイドウォール部の内面に表2に示す熱可塑性樹脂(貯蔵弾性率60MPa)からなる断面三日月状のランフラット補強層を配置し、トレッド部の内面にも同様の熱可塑性樹脂からなるトレッド補強層を設けた図1の構成の本発明タイヤ2(本実施例2)、本発明タイヤ1においてトレッド補強層がない従来タイヤ(従来例)、及び本発明タイヤ1においてトレッド補強層をゴム(JIS硬度70)から構成した比較タイヤ(比較例)をそれぞれ試験タイヤとして作製した。
【0056】
各本発明タイヤ及び比較タイヤにおいて、トレッド補強層の厚さは5mmで共通である。また、ランフラット補強層の最大厚さは、本発明タイヤ2で10mm、本発明タイヤ1、従来タイヤ及び比較タイヤで15mmである。
【0057】
これら各試験タイヤをリムサイズ16×6Jのリムに装着し、空気圧を0kPaにして、排気量2000ccの乗用車(4名乗車相当の荷重を負荷)の左側後輪に使用し、以下に示す試験方法により、ランフラット氷上駆動性能、ランフラット氷上制動性能、ランフラット耐久性の評価試験を実施したところ、表3に示す結果を得た。なお、左側後輪以外は、上記と同じサイズのタイヤとリムを使用し、その空気圧を230kPaとした。
ランフラット氷上駆動性能
氷温−2℃の氷路テストコースにおいて、ランフラット氷上駆動性能を○(スリップせずに駆動)、△(スリップを伴いながら駆動)、×(空転して全く駆動せず)の3段階で評価した。
ランフラット氷上制動性能
氷温−2℃の氷路テストコースにおいて、時速40km/hで直進走行時にフル制動を付与し、停止するまでの距離を測定した。その評価結果を従来タイヤを100とする指数値で示す。この値が大きい程、ランフラット氷上制動性能が優れている。
ランフラット耐久性
楕円形の周回ドライ路テストコースを時速80km/hで走行し、テストドライバーが試験タイヤの故障による異常振動を感じ、走行を停止するまでの走行距離を測定した。その評価結果を従来タイヤを100とする指数値で示す。この値が大きい程、ランフラット耐久性が優れている。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
表3から、本発明タイヤは、ランフラット氷上制駆動性能が改善され、氷雪路面でのランフラット走行性能を改善できることがわかる。また、ランフラット耐久性も改善できることがわかる。
【符号の説明】
【0062】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
10 ランフラット補強層
11 タイヤ空洞部
12 トレッド補強層
13 トレッド面
15 ブロック
30 未加硫ゴム層
N,S ストリップ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のサイドウォール部にランフラット走行を可能にするランフラット補強層を設けた空気入りタイヤにおいて、トレッド部の内面側に熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなるトレッド補強層を配置した空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド補強層を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率が20〜1000MPaである請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
トレッド補強層の厚さが1〜15mmである請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
トレッド補強層を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率とトレッド補強層の厚さとの積が20〜1500MPa・mmである請求項1,2または3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
ランフラット補強層が熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
トレッド補強層及びランフラット補強層をタイヤ空洞部に面したタイヤ内面に配置し、これらトレッド補強層及びランフラット補強層を接続してタイヤ内面を被覆するようにした請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
トレッド面に形成したブロックにサイプを設けた請求項1乃至6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
請求項1に記載の空気入りタイヤを製造する方法であって、トレッド補強層を備えたグリーンタイヤを成形する際に、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるストリップ材を周方向に巻回して予め成形したトレッド補強層を取り付けてグリーンタイヤを成形する空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
予め成形したトレッド補強層の取り付け前に、該トレッド補強層の形状を整える請求項8に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
予め成形したトレッド補強層の取り付け前に、該トレッド補強層を未加硫ゴム層で被覆する請求項8または9に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるストリップ材を周方向に巻回して予めランフラット補強層を成形し、該ランフラット補強層を取り付けてグリーンタイヤを成形する請求項8,9または10に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
ランフラット補強層はストリップ材をタイヤ径方向に積層した構造を有し、ストリップ材をタイヤ径方向外側に位置する部分ほど付与する張力を低減させて巻回する請求項11に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
予め成形したランフラット補強層の取り付け前に、該ランフラット補強層の形状を整える請求項11または12に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項14】
予め成形したランフラット補強層の取り付け前に、該ランフラット補強層を未加硫ゴム層で被覆する請求項11,12または13に記載の空気入りタイヤの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−264956(P2010−264956A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120081(P2009−120081)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】