説明

空環縫込み装置付きオーバーロックミシン

【課題】空環切断後のミシン側に残った空環の自由端は吸引切断直後に空環吸引管の吸入孔から吸引通路外へこぼれ落ちることなく、吸引通路内に確実に吸引され、空環を確実に吹き返すことができ、安定した空環縫込みを実現できるようにする。
【解決手段】布地Nの後端に形成したシームに連なって作り出された空環Chを、針板2の針落ち部5より後方側に設けられた空環吸引管25の吸入孔26aに吸引して該吸入孔26a内で切断し、ミシン側に残った空環Chの自由端を針落ち部5の手前側の針板2面上に風圧により吹き出し移動させ、この移動してきた空環Chを針落ち部5の手前側で挟持し、この挟持した空環Chを次の布地Nに形成されるシーム中に縫い込むようにした空環縫い込み装置を備えたオーバーロックミシンにおいて、空環吸引管25の内底面25aが正面側からみて右下がりに傾斜した斜面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーバーロックミシンにより布地の後端に形成されたシームに連なって作り出される空環をミシン側に所要長さを残して切断し、そのミシン側に残った空環を次の布地のシーム中に縫い込むようにした空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンは、布地にシームを形成する場合、縫い始め端の縫い目のほつれを防ぐために、シームに連なる空環をそのシームの中に縫い込むことが行なわれる。このような縫い込み作業を自動的に行なうために、先に縫い終わった布地のシームに連なって作り出される空環をミシンの布送り出し側、すなわち、針板の針落ち部より後方側で切断し、この切断によりミシン側に残った空環の自由端を風圧により針落ち部の手前側に吹き出し移動させ、この移動してきた空環を針落ち部の手前側で一旦、保持させ、この空環を次の布地のシーム中に縫い込むようにした空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−28159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなオーバーロックミシンの空環縫い込み装置では、空環切断後のミシン側に残った空環の自由端は切断器(固定刃、可動刃)が交叉しない、吸入孔の前方側を通って吸引通路内に吸引されているが(特公平5−28159号公報第4頁右欄第13〜第22行)、切断後のミシン側に残された空環の長さは非常に短くなっている場合があり、この場合切断直後に吸入孔から吸引通路外へこぼれ落ちやすいため、切断後の空環の吹き出しミス発生の原因になるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、布地の後端に形成したシームに連なって作り出された空環を吸引する空環吸引管の内底形状に工夫を凝らすことにより空環切断後のミシン側に残った空環の自由端は吸引切断直後に空環吸引管の吸入孔から吸引通路外へこぼれ落ちることなく、吸引通路内に確実に吸引停留され、空環吹き出しの確実化を図り得ることができ、安定した空環縫い込みを実現できる空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンは、布地の後端に形成したシームに連なって作り出された空環を、針板の針落ち部より後方側に設けられた空環吸引管の吸入孔に吸引して、この吸入孔内において切断し、ミシン側に残った空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に風圧により吹き出し移動させ、この移動してきた空環を針落ち部の手前側で挟持し、この挟持した空環を次の布地に形成されるシーム中に縫い込むようにした空環縫い込み装置と、押え金と送り歯による布送り機構とを備えたオーバーロックミシンにおいて、前記空環吸引管の内底面が正面側からみて左端側にある前記吸入孔から右端部までの全長に亘ってもしくは前記吸入孔付近のみを右下がりに傾斜した斜面に形成されていることに特徴を有するものである。
これによると、空環吸引管の右下がりに傾斜した内底面の斜面が、空環切断直後のミシン側に残った空環の自由端の吸入孔から吸引通路外への滑落防止作用を働くことになって、空環の自由端を空環吸引管の右下がりに傾斜した内底面の斜面に沿い下って停留させることができるため吸引切断直後の空環が空環吸引管の吸入孔から吸引通路外へこぼれ落ちるのを抑制できて該空環を確実に吹き出すことができる。
【0007】
一つの好適な態様として、本発明による空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンは、ミシン側に残った空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に吹き出し移動させるエアを吹き出すブローパイプを設け、該ブローパイプには吹出口を前記空環吸引管の吸入孔の近傍位置でかつ該吸入孔に向けて設けることができる。
これに対し、前出の特許文献1記載の空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンでは、吸入孔側へエアを圧送するブローパイプが吸引通路途中の吸入孔の位置から離間した箇所に接続され、このブローパイプから吹き出したエアによりミシン側に残され吸入孔の内側にある空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に吹き出すようにしてあるが、これによるとブローパイプから相当に強い風力と大きな風量のエアを吹き出す必要がある。
しかしながら、本発明の上記構成のように吹出口を空環吸引管の吸入孔の近傍位置でかつ該吸入孔に向けて設けておくと、多くの風量を要せずかつ瞬時に空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に吹き出すことができる。
【0008】
また、本発明による空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンは、ミシン側に残った空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に風圧により吹き出し移動させるとき前記送り歯は針板上面より下方に下げるように構成することができる。
これに対し、前出の特許文献1記載の空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンでは、縫い終わり時にミシンの作動を停止して押え金を上げる時、ミシン針および布送り機構を構成する送り歯は上死点付近に位置しているため、送り歯が針板の上面より突出している状態で空環が風圧により針落ち部の手前側に吹き出し移動されるようになされている。これでは、風圧により針落ち部の手前側に吹き出し移動される空環が針板の上面より突出している送り歯に当たり、針落ち部の手前側に設置されている空環挟持装置まで確実に移動されないで、挟持ミスを生じやすいという問題がある。
しかしながら、本発明の上記構成のようにミシン側に残った空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に風圧により吹き出し移動させるとき送り歯は針板上面より下方に下げるように構成してあると、空環の自由端は送り歯に引掛かることなく、針落ち部の手前側に吹き出し移動させられ、そこで所定通りに挟持されることになる。また、次に縫う布地を押え金と送り歯との間に挿入する際も、送り歯が針板上面より下方に位置させられているので、布地の挿入をスムーズに行なうことが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、布地の後端に形成したシームに連なって作り出された空環を吸引する空環吸引管の内底面を正面から見て右下がり斜面に形成するという簡単な手段で、空環切断後のミシン側に残った空環の自由端は吸引切断直後に空環吸引管の吸入孔から吸引通路外へこぼれ落ちるのを抑制でき、吸引通路内に確実に吸引停留させることができるため、空環を確実に吹き出すことができ、安定した空環縫い込みを実現できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例を示す空環縫い込み装置付きオーバーロックミシン全体の一部切り欠き斜視図である。
【図2】同オーバーロックミシンの空環縫い込み装置を第1,2挟持プレートが閉じた状態で示す要部の平面図である。
【図3】同オーバーロックミシンの空環縫い込み装置を第1,2挟持プレートが開いた空環挟持状態で示す要部の平面図である。
【図4】同オーバーロックミシンの空環吸引管の平面図である。
【図5】同オーバーロックミシンの空環吸引管の左側面図である。
【図6】同オーバーロックミシンの空環吸引管を布ガイドを取り付けた状態で示す左側面図である。
【図7】同オーバーロックミシンの空環吸引管の分解斜視図である。
【図8】同オーバーロックミシンの空環吸引管の内部正面図を示しており、(a)は空環切断前の状態図、(b)は空環切断中の状態図、(c)は空環切断後の状態図である。
【図9】(a)は同オーバーロックミシンの空環吹き返し装置の縦断面図、(b)は同空環吹き返し装置の空気弁の動作を説明する要部の縦断面図である。
【図10】同オーバーロックミシンの送り歯昇降機構部の拡大分解斜視図である。
【図11】同オーバーロックミシンの通常の縫い動作中の押え金と送り歯との位置関係を示す要部の一部切り欠き側面図である。
【図12】同オーバーロックミシンの縫い動作終了時の押え金と送り歯との位置関係を示す要部の一部切り欠き側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンの好適な実施形態例を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1〜図3において、1はオーバーロックミシンのクロスプレートであって、このクロスプレート1の作業面1aには、ミシン針に対応する箇所に針板2が嵌め込まれている。この針板2はボルト3によりミシン本体Mに取着されたブラケット4に固定されており、その上面は前記作業面1aの一部を形成している。また、針板2には、作業面1aを上下方向に貫通する針落ち部5が形成されているとともに、この針落ち部5と隣接する部分を起点として後方(図2中矢印B方向)に延びる爪(舌金)6が一体的に形成されている。なお、図2および図3に示す一点鎖線Xは、針落ち部5を通る布送り方向と一致するオーバーロックミシンの縫製軸である。
【0013】
前記縫製軸Xに対して爪6側で、かつ針落ち部5よりも手前(図2中矢印A方向)側の作業面1aには、縫製軸Xと平行な一辺が開放辺とされた凹部7が形成されており、この凹部7には、上面が作業面1aと同一平面にあって、作業面1aの一部を形成する空環挟持部8が嵌入されている。この空環挟持部8は、凹部7の底辺と前方側の一辺に沿い平面視がL字状の第1挟持プレート81と、この第1挟持プレート81のL字状コーナーに嵌り込む第2挟持プレート82とからなり、これら両挟持プレート81,82は常時、縫製軸Xと平行な辺において密着している。
【0014】
上記空環挟持部8の第2挟持プレート82には、クロスプレート1の下方を通ってミシン手前側に延びる腕部82aが一体に形成されており、一方、第1挟持プレート81には、腕部82aのさらに下方を通ってミシン前方側へ延びる腕部81aが腕部82aと摺接する状態で一体に形成されている。これら各腕部82a,81aを貫通するボルト9を介して第2および第1挟持プレート82,81がブラケット4にボルト止めされた補助ブラケット10に回動可能に取り付けられている。また、第2挟持プレート82の下面には円柱状の操作用スタッド82bが突設されており、ブラケット4および縫製軸Xと直交させて配置させたロッド11の一端に固着した係合部材12を操作用スタッド82bに係合させることにより、前記ロッド11を操作して第2挟持プレート82を回動可能としている。
【0015】
前記ロッド11に雄ねじが螺設されており、この雄ねじにはバネ受け13が螺合されている。このバネ受け13と前記ブラケット4との間に圧縮ばね14が介装され、この圧縮ばね14の付勢力によりロッド11に係合された第2挟持プレート82が第1挟持プレート81と密着する方向(図2中矢印C方向)に付勢されている。クロスプレート1の下方には第1エアシリンダ15が配設されており、この第1エアシリンダ15のピストンロッド15aには、このピストンロッド15aが後退している時、前記両挟持プレート82,81が密着している状態における前記ロッド11の先端に当接もしくは近接するロッド押圧部材16が固定されており、前記第1エアシリンダ15によりピストンロッド15aを伸長させることによって、ロッド押圧部材16が圧縮ばね14の付勢力に抗してロッド11を押圧するように構成されている。
【0016】
以上の構成により、第2挟持プレート82はボルト9回りの回動運動により単独で凹部7から脱出可能であり、これによって、図3に示すように、クロスプレート1上に第1挟持プレート81との間に開口する空環自由端の挿入口Hを形成する。
【0017】
一方、第1挟持プレート81は、図1に示すようにクロスプレート1内の下部に装備された第2エアシリンダ17により駆動される。すなわち、この第2エアシリンダ17の上下方向に進退するピストンロッド17aをL字状の揺動アーム18の一端に形成したロッド受け18aに当接させるとともに、前記第1挟持プレート81の腕部81aに揺動アーム18の他端を当接させ、前記ピストンロッド17aを伸長させて前記ロッド受け18aを押し上げることにより、第1挟持プレート81を第2挟持プレート82と同方向に前記ボルト9の周りに回動させるようにしている。
【0018】
図1において、19は針板2との間に布地を挟持する押え金であって、この押え金19は針落ち部5の後方側でミシン本体Mに揺動可能に軸支される押え台20の先端に装着されており、この押え台20をエアシリンダ21を介して上下方向に揺動させることにより、前記押え金19を布押え位置と押え解除位置とに切替え自在としている。図2、図3において、22は針板2に前記縫製軸Xに沿って形成した長孔2Aに対して上下・前後方向に運動する主送り歯、23はこの主送り歯22に近接して平行状に配置され、主送り歯22と同様に運動する差動送り歯であり、これら両送り歯22,23と押え金19とにより布送り機構が構成されている。
【0019】
前記爪6の後方には、図2、図3に示すように、縫製軸Xと所定の間隔をおいて、その縫製軸Xと平行な布ガイド24がクロスプレート1の作業面1aから起立して設けられている。図6〜図8に示すように、この布ガイド24には空環吸引管25が装備されている。この空環吸引管25を構成する吸引通路26には、吸入孔26aを針板2の後端部近傍において布ガイド24に穿設して開口させ、この吸入孔26aの近傍部に可動メス27aと固定メス27bとからなる空環切断器27を設けている。そして、前記吸引通路26は、図示しないエア吸引源にパイプ26c(図1参照)を介して接続されており、このエア吸引源を作動させることにより、図2に示すように、布地Nの後端に形成したシームに連なって作り出された空環Chを吸入孔26aに吸引させて、この吸入孔26a内において空環切断器27により切断するようになっている。
【0020】
図8(a)〜(c)に示すように、空環吸引管25はこれの内底面25aを正面側からみて右下がりに傾斜した斜面に形成している。図示例では、内底面25aが正面側からみて左端側(布ガイド24)に設けてある吸入孔26aから右端部までの全長に亘って右下がり傾斜面に形成しているが、これに限られず、空環切断器27により切断直後に吸入孔26a内に残される空環Chの自由端が吸入孔26aから吸引通路26外の針板2上へこぼれ落ちることなく図8(c)のように空環吸引管25の右下がりに傾斜した内底面25aの斜面に沿い下って停留するように成すという目的を達成するために、空環吸引管25の内底面25aの少なくとも吸入孔26a付近のみを右下がり傾斜面に形成するものであればよい。ちなみに、空環吸引管25の内底面25aは、図5、図7に示すように前後方向において手前側に向かって上り傾斜状に形成している。
【0021】
図2、図3に示すように、ミシン側に残った空環Chの自由端を針落ち部5の手前側の針板2の上面上に吹き出し移動させるエアを吹き出す吹出口28は、空環吸引管25の吸入孔26aの近傍位置でかつ該吸入孔26aに向けて設けている。吹出口28には、吸入孔26a側に向かってエアを圧送するブローパイプ26bが接続されており、このブローパイプ26bを経て圧送されるエアを図3中に矢印Pで示すように吹出口28から吸入孔26aに向けて吹き出すことにより、空環切断器27により切断されて、ミシン側に残って図2の状態にある空環Chの自由端を風圧により爪6を中心として反時計方向に回動させ、主送り歯22,差動送り歯23上を経て図3のように針落ち部5の手前側の針板2上面に吹き出し移動させるようになっている。なお、空環切断器27の可動メス27aの駆動はミシンの駆動に連動するものであっても、また、例えば布地Nの終端が針落ち部5を通過した後の運針数をカウントし、その運針数が設定数に達した時点でミシンを停止させた後、ソレノイド等により駆動させるようにしてもよく、さらに、必要長さの空環Chが作り出されたことを確認した後のペダル操作等により駆動させるようにしてもよい。
【0022】
図2、図3、図9(a)(b)に示すように、前記吸入孔26aの斜め前方で、前記空環挟持部8の斜め後方である縫製軸Xを挟んで爪6とは反対側のクロスプレート1の作業面1aには、空環吹き返し装置Dを装備する。この空環吹き返し装置Dは吹出口28からの風圧により空環吹き返し装置Dの前に吹き出された空環Chを、針落ち部5より手前に設けた空環挟持部8の位置まで吹き返すために設けられている。
この空環吹き返し装置Dは、ミシンの押え金19の側方、正確にはこの押え金19下方にある針落ち部5側方においてクロスプレート1に穿設された円形の開口1bを備えている。
【0023】
図9(a)にも示すように、この開口1bには上面がクロスプレート1の上面と同一面上に配置され且つ下方に空気室29が形成された弁ホルダー30が嵌合されている。この弁ホルダー30の中心部には空気室29に連通する円形の開口30aが穿設されており、この開口30aに下端面が開放である円筒形キャップ状の空気弁31が昇降可能に嵌合されている。
【0024】
この空気弁31の下端は空気室29内に収容されている。また空気弁31下端の外周縁には鍔31aが形成されており、この鍔31aは空気室29内において該空気室29の内壁に摺接する状態で上下動可能である。前記鍔31aには図2、図9(a)にも示すようにさらに径方向へ突出するガイド突起31bが形成されている。図2にも示すように、このガイド突起31bは空気室29の内壁に凹設したガイド溝29aに昇降自在且つ回動可能に嵌合している。
【0025】
前記空気弁31の上部側壁には図2、図9(a)(b)にも示すような横長の噴気孔32が穿設されている。したがって、この噴気孔32は空気弁31が所定量上昇するとクロスプレート1上に露出する。この噴気孔32は、空気弁31がガイド突起31bとガイド溝29aが嵌合した状態で上昇するとクロスプレート1上で空環挟持部8側を向くように、ガイド突起31bに対して製作誤差の範囲内でほぼ所定位置に形成されている。
【0026】
前記弁ホルダー30にはクロスプレート1の下方においてミシンの側方へ延びる取付部30bが一体成形されており、この取付部30bがクロスプレート1にボルト33止めされたブラケット34に取り付けられている。ブラケット34の先端は弁ホルダー30が形成する空気室29の下方に向かって延び、ここで空気室29の下面に閉塞している。したがって、空気弁31はこれの下端つまり鍔31aがブラケット34の上面に当接しており、またこの状態でその上端面が弁ホルダー30の上面と同一面上に位置するよう形成されている。すなわち、常時において、クロスプレート1の上面、弁ホルダー30の上面及び空気弁31の上端面は全て同一面上にある。また、空気弁31の鍔31aがブラケット34の上面に当接している状態において、この空気弁31に形成された噴気孔32は弁ホルダー30の開口30aの内壁により閉塞されている。
【0027】
なお、弁ホルダー30の取付部30bはブラケット34の下方から挿し込まれて取付部30bに螺合される2本のボルト35,35によってブラケット34に取り付けられている。ブラケット34においてボルト35,35が貫通する孔34a,34aは、図2にも示すように、ボルト33と空気弁31を結ぶ線を交叉する方向に延びる長孔である。したがって、孔34a,34aに対するボルト35,35の貫通位置を変えることによって弁ホルダー30のブラケット34に対する取付角度を調整することができる。すなわち、前記噴気孔32の向きを調整することができる。上記の構成により、空気弁31は、噴気孔32が針落ち部5の手前側で且つ空気弁31の右斜め前方にある所定角度方向を向くように位置決めされる。
【0028】
前記ブラケット34に空気導入手段36のブローパイプ36aが連結されている。ブラケット34内にはブローパイプ36aとの連結部においてブローパイプ36a内と連通する給気通路34bが形成されている。この給気通路34bは空気弁31の下方に開口しており、ブローパイプ36a及び給気通路34bを介して圧送されてきた空気は空気弁31内に導入される。したがって、空気弁31を上昇させて噴気孔32をクロスプレート1上に露出させておくと、空気弁31内に導入されて空気は噴気孔32からクロスプレート1の上面に沿って噴出される。ブローパイプ36aの基端部には空気導入手段36の加圧空気源(図示せず)が接続されており、この加圧空気源とブローパイプ36aの先端間すなわちブローパイプ36aの中間部には流量調整弁36b及び電磁開閉弁(図示せず)が介設されている。
【0029】
空気弁31を昇降させる昇降手段37が、空気導入手段36と付勢手段たる圧縮ばね38によって構成されている。圧縮ばね38は空気弁31の鍔31aと空気室29の上壁との間に介入されており、常時空気弁31を下方に付勢している。この圧縮ばね38のばね定数は、ブローパイプ36aを介して空気弁31内に圧送された加圧空気は圧力により、圧縮ばね38が図9(b)に示すように圧縮して噴気孔32がクロスプレート1上に露出される位置まで空気弁31が上昇し得るばね定数に設定されている。このように構成される昇降手段37では、噴気孔32から吹き出される加圧空気を圧送するだけで空気弁31が上昇し、この空気弁31を上昇させた空気が図3、図9(b)に矢印Wで示すように噴気孔32からクロスプレート1の上面に沿って吹き出される。また、加圧空気の圧送を停止すると、それと同時に空気弁31を上昇させる圧力が失われ、空気弁31は圧縮ばね38に付勢されて下降する。
【0030】
既述のように、上記のように構成される空環吹き返し装置Dは、吹出口28からの風圧により空気弁31の噴気孔32の前に吹き出された空環Chを、針落ち部5の手前側で空気弁31の右斜め前方側に配設された空環挟持部8の位置に吹き返す。
【0031】
図1に示すように、ミシン本体Mには、前記第2挟持プレート82が駆動されることによって形成される挿入口H(図3参照)側へエアを吹き付けるためのエア吹き出し用ノズル39aを先端に備えたブローパイプ39が支持されている。また、前記爪6と空環挟持部8との間には、図2に示すように、それぞれ縫製軸Xと平行な刃先を有する固定刃40aと可動刃40bとからなる第2切断器40が配設されている。
【0032】
前記主送り歯22を先端に取り付けた主送り台41及び前記差動送り歯23を先端に取り付けた差動送り台42の中間部にはそれぞれ、図10に示すように、水平方向の二股41A,42Aが形成されており、これら二股41A,42Aに、図示省略したミシンの主軸に固定され、この主軸の回転により偏心運動する第1の角駒43(偏心体)を摺動自在に嵌合させて、前記両送り台41,42に上下動を与えるようにしている。また、両送り台41,42の後端には、それぞれ水平方向に延びる二股41B,42Bが形成されており、これら二股41B,42B間に第2の角駒44を摺動自在に嵌合させることにより、両送り台41,42の後端部を支持させるようにしている。前記第2の角駒44は、ミシン機枠に支持される水平軸45(偏心軸)に設けた偏心ピン46に回動自在に嵌合されている。さらに、前記各送り台41,42にはそれぞれ個別に前後動機構(図示省略)が連結されており、以上の構成により、各送り台41,42および各送り歯22,23に四運動(楕円運動)を行なわせるようにしている。
【0033】
前記水平軸45の一端には、ねじりバネ47を介して時計方向に付勢される回動用レバー48が取り付けられており、この回動用レバー48の自由端部を前記押え金19の上げ動作に連動して作動するアクチュエータであるエアシリンダ49のピストンロッド49aに連結している。なお、前記回動用レバー48の側部には、図10に明示のように、円弧状の長孔50aを有する案内板50が設けられており、回動用レバー48の中間部に取り付けた段付きネジ51を前記長孔50aに嵌合して、この段付きネジ51のつまみ51aを上下動操作することにより、回動用レバー48を手動でも操作可能にしている。また、エアシリンダ49は、押え金19を上下動させる起動部(図示省略)、例えばペダルやスイッチ類の作動に連動させている。なお、図1中、52は針板2上の布地の有無を検出する布検知センサーであり、このセンサー52の布終端検出信号に基づいて、ミシンを停止させて押え金19を上げるようにしている。
【0034】
以上の構成により、縫製中、すなわち、ミシンの作動中には、図11に示すように、各送り台41,42が前記前後動機構により前後に揺動するとともに、第1の角駒43の揺動運動により第2の角駒44を支点として上下に揺動し、これに伴い各送り歯22,23に楕円運動を与え、針板2の上面に対して出没させて押え金19と協働して布送り作用を行ない、また、縫い終りに際して布地Nの終端が通過し空環Chが形成された後にミシンを停止させたとき、ミシン針および各送り台41,42は上死点またはその近傍で停止し、ペダル操作などにより押え金19を上げると、図12に示すように、エアシリンダ49のピストンロッド49aが短縮動作して、回動用レバー48が下動し、水平軸45が回動して第2の角駒44が上がり、これに伴って各送り台41,42が第1の角駒43を支点として回動して各送り歯22,23が針板2の上面より下方に下がるようになされている。
【0035】
次に、上記構成の空環縫い込み装置付きオーバーロックミシンの要部の作動について説明する。
【0036】
ミシンの作動時には、吸引通路26に接続されたエア吸引源が作動されて、吸引通路26内には図2中の矢印aで示すようにエアが吸引されている。したがって、布地Nのシームに連なって作り出される空環Chが図2、図8(a)のように自動的に吸引通路26の吸入孔26aに吸引され、この吸入孔26a内において図8(b)のように空環切断器27の可動メス27aと固定メス27bとにより、ミシン側の吸入孔26aにほぼ一定長さを残して布地Nから切断される。この切断により吸入孔26a内に残される空環Chの自由端は、図8(c)のように、空環吸引管25の右下がりに傾斜した内底面25aの斜面に沿い下って停留するため吸入孔26aから吸引通路26外の針板2上へこぼれ落ちるのを抑制できる。
【0037】
次に、ミシンの作動を停止させると、ミシン針および各送り台41,42がその上死点またはその近傍で停止する。この状態で、ペダル操作などを介して押え金19を上昇させると、図12に示すように、エアシリンダ49のピストンロッド49aが短縮動作して、回動用レバー48が下動し、水平軸45が回動して第2の角駒44が上がり、これに伴って各送り台41,42が第1の角駒43を支点として回動して各送り歯22,23が針板2の上面より下方に下がる。
【0038】
次いで、前記エア吸引源の作動を停止し、ブローパイプ26bからエアを圧送して、そのエアを吹出口28から吸入孔26aに向けて吹き出すことによって、ミシン側の吸入孔26aに残った空環Chは空環吹き返し装置Dの空気弁31の噴気孔32の前に吹き出される。その際、吸引切断直後の空環Chの自由端は空環吸引管25の吸入孔26aから吸引通路26外へこぼれ落ちることなく空環吸引管25の右下がりに傾斜した内底面25aの斜面に沿い下って停留しているため、該空環Chの吹き出しを確実に行うことができる。また、この吹き出しに際しては、吹出口28が吸入孔26aの近傍位置でかつ該吸入孔26aに向けて設けられているので、多くの風量を要せずかつ瞬時に空環Chの自由端を空気弁31の噴気孔32の前に吹き出すことができる。このとき、各送り歯22,23は図12のように、針板2の上面より下方に下がっているので、押え金19と送り歯22,23との間を経て針落ち部5の手前側へ移動される空環Chの自由端が送り歯22,23に引掛かることなく、空気弁31の噴気孔32の前に吹き出されることになる。
次いで、この空気弁31の噴気孔32の前に吹き出された空環Chは、噴気孔32から吹き出される加圧空気により針落ち部5の手前側で空気弁31の右斜め前方側に配設された空環挟持部8の位置に吹き返される。このときも、各送り歯22,23は図12のように、針板2の上面より下方に下がっているので、空環Chの自由端が送り歯22,23に引掛かることなく円滑に空環挟持部8側に移動されることになる。
【0039】
一方、これと同時に、前記ピストンロッド15aの伸長動作に伴って、第2挟持プレート82がボルト9を中心にして回動して、針落ち部5の手前側の第1挟持プレート81との間に開口する空環自由端の挿入口Hを形成することになり、ブローパイプ39のノズル39aから吹き降ろされるエアによって、前記空環Chの自由端が、図3に示すように、前記挿入口Hに吹き込まれる。
【0040】
このようにして、空環Chの自由端が挿入口Hに吹き込まれると、第2挟持プレート82の作動を停止してピストンロッド15aを後退させることにより、圧縮ばね14の力によって前記挿入口Hを閉鎖して第1および第2挟持プレート81,82間に空環Chを挟持する。
【0041】
次に、新たな布地Nの始端を押え金19と送り歯22,23との間に挿入するのであるが、この時も、送り歯22,23は図12のように、針板2の上面より下方に没入したままであり、したがって、重ね布地の下側の布地Nが送り歯22,23に引掛かることがなく、スムーズに挿入できるとともに、上下の布地間にずれを生じることもない。
【0042】
そして、新たな布地Nの挿入が終了した時点で、エアシリンダ49の作動によりそのピストンロッド49aを伸長させて、回動用レバー48を上動させることで、送り歯22,23を図11に示す元の位置に復帰させて、この送り歯22,23と押え金19との間に布地Nを挟み、この状態でミシンを始動させることにより、布地Nの前端にシームを形成し、このシーム中に前記空環Chを縫い込ませるのである。
【符号の説明】
【0043】
N 布地
Ch 空環
2 針板
5 針落ち部
8 空環挟持部
19 押え金
25 空環吸引管
25a 内底面
26 吸引通路
26a 吸入孔
26b ブローパイプ
27 空環切断器
28 吹出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地の後端に形成したシームに連なって作り出された空環を、針板の針落ち部より後方側に設けられた空環吸引管の吸入孔に吸引して、この吸入孔内において切断し、ミシン側に残った空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に風圧により吹き出し移動させ、この移動してきた空環を針落ち部の手前側で挟持し、この挟持した空環を次の布地に形成されるシーム中に縫い込むようにした空環縫い込み装置と、押え金と送り歯による布送り機構とを備えたオーバーロックミシンにおいて、
前記空環吸引管の内底面が正面側からみて左端側にある前記吸入孔から右端部までの全長に亘ってもしくは前記吸入孔付近のみを右下がりに傾斜した斜面に形成されていることを特徴とする、空環縫い込み装置付きオーバーロックミシン。
【請求項2】
ミシン側に残った空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に吹き出し移動させるエアを吹き出すブローパイプが設けられ、該ブローパイプには吹出口が前記吸入孔の近傍位置でかつ該吸入孔に向けて設けられている、請求項1記載の空環縫い込み装置付きオーバーロックミシン。
【請求項3】
ミシン側に残った空環の自由端を針落ち部の手前側の針板面上に風圧により吹き出し移動させるとき前記送り歯を針板上面より下に下げるようにしてある、請求項1又は2記載の空環縫い込み装置付きオーバーロックミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−66640(P2013−66640A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208650(P2011−208650)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000113229)ペガサスミシン製造株式会社 (52)
【Fターム(参考)】