説明

穿孔を有するガラス板およびガラス板の穿設方法

【課題】ガラス板に穿設される貫通孔の内周面に不具合なクラックが発生するのを防止する。
【解決手段】ドリルの側周部の研削面が先端部に向って縮径する円錐周面を有する一対のドリルを使用し、ガラス板の一方の面からドリルを侵入させて内周面がガラス板の板面からガラス板の厚さ方法の中間部に向って縮径する円錐周面の穿孔をあけたあと後退させ、次いでガラス板の他方の面から他のドリルを前記穿孔の対向部に侵入させて、内周面がガラス板の板面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する円錐周面の穿孔をガラス板の厚さのほぼ中間まであけたあと後退させてガラス板に貫通孔を穿設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿孔を有するガラス板およびガラス板の穿孔方法に係り、特にフラットディスプレイパネル用ガラス板に貫通孔を穿設する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELP)などのフラットディスプレイパネル用のガラス基板には、パネルの製造工程においてパネル内の排気およびパネル内へのガス導入を行うために、該ガラス基板のコーナー部分または周縁部分に貫通孔が設けられている。例えば、PDPを製造するには、プラズマ放電を発生させるための電極などを形成した、前面ガラス基板および背面ガラス基板を対向させて配置した状態でその周囲を封着ガラスで封止してパネルを形成し、そのパネル内を背面ガラス板に設けた前記貫通孔から排気した後、パネル内にNe等のガスを封入して貫通孔を封止することにより得られる。
【0003】
上記貫通孔の穿設方法として、下記の特許文献1の方法が知られている。この方法は、図5に示すようにガラス基板1の下面から第1ドリル12aを侵入させた後に該第1ドリルを後退させ、次いでガラス基板の上面から第2ドリル12bを侵入させることによって貫通孔13を形成するものである。この場合、上記ドリルには、通常、径が軸方向に同じである円柱状の電着ダイヤモンドドリルまたは焼結ダイヤモンドドリルが使用されるため、貫通孔の内周面は該ドリルの円筒状の研削面によって研削される。また、上記ドリルは、ガラス基板に対し回転させる駆動部および上下動させる摺動部を有しているため、穿孔時のドリルにはこれら駆動部および摺動部の僅かな間隙に起因する芯ぶれが発生する。
【0004】
このため、この種のドリルを使用してガラス基板に貫通孔を穿設すると、芯ぶれするドリルの円筒状の研削面が貫通孔の内周面に接触することによってクラックが生じる。特に、第2ドリルの後退時に形成されたクラックは、取り除かれることなくそのまま残存してしまう。
【0005】
このように貫通孔の内周面にクラックが生じているガラス基板を使用してフラットディスプレイ装置を製造すると、封着ガラスによる封止などの熱処理工程でガラス基板が500〜600℃程度に加熱されるため、貫通孔の周辺に熱応力が発生し前記クラックに起因してガラス基板が破損することがある。
【0006】
特許文献2には、このようなクラックの発生を防止または抑止する方法が開示されている。すなわち、この方法は上部ドリルをガラス基板の上面から厚み方向中間まで侵入させた後に後退させ、次いでガラス基板の下面から下部ドリルを侵入させて貫通孔を穿設する場合に、該下部ドリルとしてドリル胴部(最大外径部)からドリル先端部に向って縮径する形状のドリルを使用し、該下部ドリルの縮径部分の軸方向長さより小さい厚さのガラスが残るように上部ドリルで孔を形成した後、下面から下部ドリルを侵入させて上部ドリルで形成した前記孔に到達させ、到達後は下部ドリルを該孔に沿って侵入させることによって、下部ドリルの芯ぶれを少なくしクラックを抑止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−117896号公報
【特許文献2】特開2008−137354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の貫通孔の穿設方法では、ドリルの研削面が円筒状であり、かつある程度のドリルの芯ぶれは避けられないために、孔の内周面に発生するクラック(引っ掻き傷を含む)をディスプレイパネルの製造においてガラス基板の破損が生じない程度に抑えることはかなり困難である。特に、図6に例示するように大きなガラス基板1を用いて複数枚分(図6では6個)のディスプレイパネルを並列して一緒に作製したあと、切断して複数枚のパネルを得る場合には、各パネル内の排気およびパネル内へのガス導入を行うための排気孔13が、各パネルに対応して前記ガラス基板1に設けられるため、ディスプレイパネルの製作時における熱処理によって該ガラス基板1が加熱されると反りが生じ、並列の真ん中に位置するパネルの貫通孔周辺に大きな応力が発生する。そのため、この貫通孔の内周面に破損を招くような不具合のクラックがあると、ここを起点にガラス基板1が破損しやすいため、前記クラックの対策が強く求められている。
【0009】
また、特許文献2の穿設方法によれば、クラックの発生はドリルの芯ぶれを少なくすることによってある程度軽減されるが、下部ドリルの後退時にその最大径部が芯ぶれしながら孔の内周面に接触するために、やはり不具合なクラックが発生することがある。
【0010】
さらに、これら従来の方法で穿設される貫通孔の内周面は、いずれもガラス基板の板面に対し直角であるために、貫通孔のエッジ部がシャープとなって強度的に弱くなり、ガラス基板の破損に少なからず悪影響を与える。
【0011】
本発明は、以上に鑑みてなされたもので、特定の形状のドリルで穿設することによって、ドリルの後退時にその研削面が貫通孔の内周面に接触するのを回避させて不具合なクラックの発生を防止できるガラス板の穿設方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ガラス板にドリルで貫通孔を穿設する時のドリルの芯ぶれと貫通孔の許容精度などを考慮して、研削面が先端に向かって縮径する一対のドリルを用いてガラス板の両面から穿孔することによって上記目的を達成することを特徴とする。具体的には、本発明は、ドリルの側周部の研削面が先端部に向って縮径する円錐周面を有する一対のドリルを使用し、ガラス板の一方の面からドリルを侵入させて穿孔したあと後退させ、次いでガラス板の他方の面から他のドリルを前記穿孔の対向部に侵入させてガラス板の厚さ方向のほぼ中間まで研削したあと後退させてガラス板に貫通孔を形成することによって、ドリルに芯ぶれがあってもドリルの後退時にその研削面が貫通孔の内周面に実質的に接触しないようにし、ガラス板の破損を招くおそれがあるクラック、すなわち不具合なクラックの発生を防止するもので、前記貫通孔の内周面が、ガラス板の上面(表面)からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する上円錐台とガラス板の下面(裏面)からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する下円錐台の各円錐周面によって形成されているガラス板を得ることができる。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に示す穿孔を有するガラス板およびガラス板の穿設方法を提供する。
(1)少なくとも一つの貫通孔を有するガラス板であって、前記貫通孔の内周面が、ガラス板の上面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する上円錐台とガラス板の下面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する下円錐台の各円錐周面によって形成されていることを特徴とする穿孔を有するガラス板。
(2)前記上円錐台の円錐周面の貫通孔中心軸に対する傾斜角度をθ1、前記下円錐台の円錐周面の貫通孔中心軸に対する傾斜角度をθ2としたとき、θ1,θ2は2〜5度であり、かつθ1とθ2は実質的に同一である上記(1)に記載のガラス板。
(3)前記下円錐台の高さをH1、前記上円錐台の高さをH2としたとき、H1>H2である上記(1)または(2)に記載のガラス板。
(4)前記ガラス板は、フラットディスプレイパネル用のガラス基板である上記(1)、(2)または(3)に記載のガラス板。
(5)ドリルの側周部の研削面が先端部に向って縮径する円錐周面を有する一対のドリルを使用し、ガラス板の一方の面からドリルを侵入させて内周面がガラス板の板面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する円錐周面の穿孔をあけたあと後退させ、次いでガラス板の他方の面から他のドリルを前記穿孔の対向部に侵入させて内周面がガラス板の板面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する円錐周面の穿孔をガラス板の厚さのほぼ中間まであけたあと後退させてガラス板に貫通孔を穿設することを特徴とするガラス板の穿設方法。
(6)前記ドリルの円錐周面のドリル中心軸に対する傾斜角度θが2〜5度である上記(5)に記載のガラス板の穿設方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドリルの側周部の研削面が先端部に向って縮径する円錐周面を有する一対のドリルを使用してガラス板の両面から貫通孔を穿設するため、後退時のドリルに芯ぶれがあっても、ドリルの研削面が貫通孔の内周面に接触するのを回避できる。これにより、従来のドリルでガラス板に貫通孔をあけるとき、侵入させたドリルを後退させる際に主にドリルの芯ぶれによってドリルが穿設された貫通孔の内周面に接触し発生していたクラックを可及的になくすることが可能となり、内周面にガラス板の破損を招くようなクラックを有しない貫通孔をガラス板に穿設できる。
【0015】
また、貫通孔の内周面が、ガラス板の上面からガラス板の厚さ方向における中心部に向って縮径する上円錐台とガラス板の下面からガラス板の中心部に向って縮径する下円錐台の各円錐周面によって形成されるため、ガラス板面と貫通孔の内周面とが交わる貫通孔のエッジ部が鈍角化されることになり、貫通孔部のガラス板の強度を向上させることができる。
【0016】
また、貫通孔の内周面がガラス板面からガラス板の厚さ方法の中心部に向って縮径する傾斜面になっているため、内周面のクラックの有無や発生状況などを外側からみやすくなり検査が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好ましい実施形態に係るドリルの正面図。
【図2】(A)〜(E)は、本発明の実施形態に係るガラス板の穿設方法における穿孔工程を示す断面説明図。
【図3】本発明によって得られるガラス板の貫通孔部分の断面説明図。
【図4】本発明によって得られる他のガラス板の貫通孔部分の断面説明図。
【図5】従来のガラス板の穿設方法を示す断面説明図。
【図6】ガラス基板を用いてディスプレイパネルを製作する一例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0019】
本発明の穿設方法では一対のドリルを使用してガラス板に穿孔するが、これら一対のドリルはドリルとしての基本構成および動作が同一であり、通常は同一形体のものが使用される。以下、一対のドリルの一方を上部ドリル、他方を下部ドリルとし、代表して上部ドリルについてのみ詳述し、下部ドリルについての図示および説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明において使用される、好ましい実施形態に係る上部ドリルの正面図である。上部ドリル7は、ホルダー11に装着されており、図示されていないが該ホルダー11には上部ドリル7を回転するための駆動部、および上部ドリル7を上下動するための摺動部が備えられている。この上部ドリル7は、全体的に円錐周面で形成される側周部8が先端部9に滑らかに連続して形成されており、前記側周部8が先端部9に向かって縮径する先細形状をしている。本例の先端部9は平坦をなしているが、これに限定されないで例えば凸状であってもよい。
【0021】
上部ドリル7は、従来のドリルと同じように金属製本体の表面にダイヤモンド砥粒を電着またはメタルボンドにて焼結したものが好ましく使用できる。この場合、ダイヤモンド砥粒は通常上部ドリル7の先端部9を含む側周部8の全表面に存在するが、側周部8については少なくとも穿孔に使用される部分に存在していれば足りる。すなわち、上部ドリル7でガラス板に穿孔するとき、上部ドリル7の先端部9をガラス板の上面に当接しさらに侵入させて穿孔の内周面を側周部8で所定の深さまで研削したあと、上部ドリル7はガラス板から後退されるため、上部ドリル7が最も深く侵入されたときガラス板と接触する側周部8とそれより若干上方の領域にダイヤモンド砥粒が存在していればよいのである。
【0022】
本発明において、上部ドリル7は前記したように先端部9に向かって縮径しており、その側周部8は円錐周面によって形成されているために、図1に示すようにドリル軸Yに対して傾斜角度θを有している。当然のことながら上部ドリル7の側周部8の少なくとも穿孔に使用される部分はこのように傾斜しており、従来のドリルのようなドリル径が同じ円柱状の部分を有していない。前記傾斜角度θは、ドリルの芯ぶれの大きさ、ガラス板の厚さ、ガラス板の貫通孔に許容される精度、および貫通孔の口径などによって適宜決められ特定されないが、θとしては2〜5度が好ましく、2.5〜4度がより好ましい。θが2度より小さいと、汎用されているドリルの芯ぶれに対応しきれないため、ドリルの後退時にその側周部が貫通孔の内周面に接触しクラックを付与するおそれが生じる。また、θが5度より大きいと、一般にガラス板の貫通孔に許容される精度を満足することが困難になるとともに、これ以上の傾斜角度を有していなくてもドリルの芯ぶれに十分に対応して本発明の目的が達成できる。
【0023】
本発明において、上部ドリルと下部ドリルとは実質的に同一であることが、ドリル操作のしやすさや穿孔の作業性などの点から好ましい。したがって、一般に下部ドリルの側周部の傾斜角度も上部ドリルの傾斜角度と同じに設計されるが、貫通孔の許容精度の範囲内で穿孔することができれば、下部ドリルの側周部の傾斜角度は上部ドリルの傾斜角度と厳密に一致していなくてもよい。
【0024】
また、上記側周部8には図1に示すようにドリル軸Yと同方向もしくはほぼ同方向に凹溝10を設けることが好ましい。この凹溝10は、上部ドリル7で穿孔する際に切削液をガラス板の切削部に円滑に行き届かせて加熱を抑制し、また切削で生じたガラス屑を排出し、貫通孔を効率よく良好に穿設するのに有効である。側周部8に設ける凹溝10の数としては1〜3本程度が好ましく、その形状および大きさは適宜決められる。
【0025】
次に、図2に基づいて上部ドリル7と下部ドリル7′を使用してガラス板1に貫通孔を穿設する手順方法について説明する。
【0026】
まず、図2(A)に示すように、ガラス板1の上方および下方にそれぞれ同一形状の上部ドリル7および下部ドリル7′をこれらのドリル軸を一致させて配置し、またはドリル軸を一致させて配置されている上部ドリル7および下部ドリル7′の位置に、ガラス板1の貫通孔を穿設する位置を合わせて固定する。次いで、下部ドリル7′を上昇させてガラス板1の下面に当接し、切削液を供給しながらガラス板1に侵入させて穿設し、下部ドリル7′の穿設が所定の深さに達した時点で、下部ドリル7′の上昇を停止し後退させる。(B)は下部ドリル7′の穿設が所定の深さに達した状態を示し、(C)は下部ドリル7′を後退させた状態を示す。この下部ドリル7′の後退によって、ガラス板1には下部ドリル7′と同じ形状の孔2aが得られる。
【0027】
上記において、下部ドリル7′を後退させる際に通常生じる程度の芯ぶれがあっても、孔2aの内周面には下部ドリル7′による不具合なクラックが発生しない。すなわち、下部ドリル7′が前記したように先端部に向かって縮径する先細形状を有し、その側周面がドリル軸に対し傾斜角度θを有しているため、下部ドリル7′を後退させると同時に下部ドリル7′は孔2aの内周面から離隔する状態となる。その結果、下部ドリル7′の研削面と孔2aの内周面との接触が回避され、下部ドリル7′の研削面が孔2aの内周面にクラックを付与するリスクが解消される。
【0028】
次に、(D)に示すように上部ドリル7を下降させてガラス板1の上面から切削液を供給しながら侵入させて穿設し、上部ドリル7の側周面が、下部ドリル7′によって穿設された前記孔2aの内周面と、ガラス板1の厚さ方向のほぼ中間部で交差する時点で、上部ドリル7の下降を停止し後退させる。(E)は上部ドリル7を後退させた状態であり、ガラス板1には貫通孔2が穿設される。そして、該貫通孔2の上部ドリル7で穿設された内周面にも、前記した下部ドリル7′と同様の理由によって不具合なクラックが発生しない。かくして、ガラス板1に上部ドリル7および下部ドリル7′で貫通孔2を穿設することができ、しかも内周面にガラス板1の破損を招くおそれがあるクラックを有しない貫通孔2を穿設することができる。
【0029】
本例では、最初にガラス板1の下面から下部ドリル7′を侵入させて孔2aを穿設し、次いでガラス板1の上面から上部ドリル7を侵入させて貫通孔2を穿設したが、手順を逆にして最初にガラス板1の上面から上部ドリル7を侵入させてガラス板1の上側に孔2aを穿設したあと、ガラス板1の下面から下部ドリル7′を侵入させて貫通孔2を穿設してもよい。
【0030】
また、上部ドリル7および下部ドリル7′(以下、総称してドリルということもある)が先端部に向かって縮径する先細形状であり、その側周部が所定の傾斜角度を有しているため、これらドリルのガラス板1に対する侵入長さによって貫通孔2の口径を変えることができる。具体的には、ドリルをガラス板1に対して長く侵入させるほど貫通孔2の口径が大きくなる。したがって、穿孔時にドリルをガラス板1にどの程度侵入させるかは、ドリルの先端部の直径と側周部の傾斜角度とに基づいて貫通孔2の口径と同じドリル径が得られる位置まで侵入させればよい。また、本例では穿孔時にドリルの先端部分がガラス板1から突出しない状態(非貫通状態)になっているが、ドリルの侵入長さを大きくする場合には、ドリルの先端部分がガラス板1から突出する状態(貫通状態)になることもある。
【0031】
さらに、ガラス板1に複数個の貫通孔を形成する場合には、ドリルを各貫通孔の位置に合わせてそれぞれ配置することによって複数個の貫通孔を同時に形成できる。これにより、フラットディスプレイパネル用の大型ガラス基板に、ディスプレイパネルの製造工程における排気とガス封入のための複数個の排気孔を、採取するディスプレイパネルの個数に合わせて穿設できる(図6参照)。
【0032】
次に、本発明の穿設方法によって得られる貫通孔について説明する。図3は本発明の穿設方法によってガラス板1に形成された貫通孔2を模式的に表した断面図である。同図に示すように、貫通孔2は、内周面がガラス板1の上面からガラス板の厚さ方向の中間部に向かって縮径する上円錐台3とガラス板1の下面からガラス板の厚さ方向の中間部に向かって縮径する下円錐台4の各円錐周面によって形成され、貫通孔2の最小径部が前記上円錐台3と下円錐台4の接合するガラス板1の厚さ方向のほぼ中間部分に位置する中細の形状をしている。言及するまでもなく、貫通孔2の上円錐台3に相当する部分は上部ドリルによって形成されたものであり、下円錐台4に相当する部分は下部ドリルによって形成されたものである。
【0033】
したがって、上円錐台3および下円錐台4のそれぞれの円錐周面は、貫通孔2の中心軸Xに対して傾斜している。ここで、前記上円錐台3の円錐周面5の中心軸Xに対する傾斜角度をθ1、前記下円錐台4の円錐周面6の中心軸Xに対する傾斜角度をθ2としたとき、θ1およびθ2はそれぞれ上部ドリルの側周部の傾斜角度および下部ドリルの側周部の傾斜角度に相当し、好ましくは2〜5度になっており、より好ましくは2.5〜4度になっている。θ1およびθ2がこの範囲であれば、貫通孔に許容される精度範囲内に収めることができる。なお、支障θ1およびθ2は、一対のドリルに同じ形状のものを使用すれば同一となるが、厳密に同一である必要はなく実質的に同一であればよい。
【0034】
また、前記下円錐台4の高さをH1、前記上円錐台3の高さをH2としたとき、H1とH2は同一または異なっていてもよい。フラットパネルディスプレイ用のガラス基板のようにフラットパネルの製造過程においてガラス基板が表面処理等が施される上面側に反る場合には、熱応力がガラス基板の上面側よりも下面側に大きく発生するために、前記下円錐台4と上円錐台3との接合部が熱応力が比較的小さい上面側にあることが好ましい。前記接合部が、大きい熱応力が発生する下面側に位置したりあるいは下面側に近づくことは、破損が生じやすくなるため好ましくない。すなわち、H1>H2であることが好ましい。この場合、H1のH2に対する割合が大きくなりすぎると、貫通孔の最大口径と最小口径の差が許容範囲を超えてしまうため、H1のH2に対する割合は許容範囲内で調整される。このH1とH2の割合の調整は、上部ドリルと下部ドリルの侵入長さの割合を変えることによって行うことができ、侵入長さの大きい側の高さを増大できる。
【0035】
図4は、本発明の穿設方法によって得られる他の貫通孔2を模式的に表した断面図である。この貫通孔2は、前記した図3の貫通孔と、貫通孔2の最小径部がガラス板1の厚さ方向のほぼ中間部に位置する中細形状であるという基本形状は同じであるが、貫通孔2の内周面が貫通孔の中心軸X方向において軸側にわずかに湾曲している点において、内周面が軸側に湾曲していない図3の貫通孔と異なっている。このような貫通孔2は、ドリルの側周面をドリル軸の方向において軸側にわずかに凹状に湾曲させることによって得ることができる。
【0036】
なお、このように貫通孔の内周面が湾曲している場合の傾斜角度θ1およびθ2は、図4に示すように上円錐台3および下円錐台4の湾曲している周面の両端を結ぶ直線と貫通孔2の中心軸Xとの角度として定めることができる。
【0037】
本発明のガラス板は、前記したようにガラス板の穿孔時にドリルに芯ぶれがあっても後退時のドリルが貫通孔の内周面に接触しないため、もしくは接触しても非常に軽微であるため、貫通孔の内周面に不具合なクラックが発生していない。また、貫通孔の内周面がガラス板面と交わる貫通孔のエッジ部が鈍角化するため、エッジ部の強度が増大するばかりでなく、後退時のドリルがエッジ部に触れて損傷することも改善される。
【0038】
したがって、本発明のガラス板は、貫通孔部からの破損が懸念されるフラットディスプレイパネル用のガラス基板として好ましい。本発明のガラス板をフラットディスプレイパネル用のガラス基板として使用した場合、貫通孔の内周面に不具合なクラックを有していないため、ディスプレイパネルを製造する際の熱処理工程において、貫通孔を起点にして発生するガラス基板の破損を防止することができる。しかし、本発明の穿設方法は、フラットディスプレイパネル用のガラス基板以外のガラス板にも適用できる。
【実施例】
【0039】
本発明の穿設方法と図5に示す従来の穿設方法でPDP用ガラス基板(厚さ:1.8mm、縦寸法:150mm、横寸法:150mm)各20枚にそれぞれ貫通孔を穿設し、該貫通孔の内周面のクラックを実体顕微鏡で観察し比較した。
【0040】
本発明の実施例は、図1に示す同じドリルを上部ドリルおよび下部ドリルに使用し、両ドリルの先端部のドリル径を1.8mm、ドリルの側周面の傾斜角度θ1およびθ2を3度、ドリルの回転数を20000rpm、ドリルの侵入速度を0.15mm/sec、として、H1が1.2mm、H2が0.6mmになるように初めにガラス基板の下面から穿孔し、次いでこの孔の対向部を上面から穿孔し、20枚のガラス基板に下面部における口径が2mmでガラス基板の上下面から厚さ方向の中間部に向って縮径する貫通孔を穿設した。
【0041】
一方、従来の穿設方法には、図5に示すドリル径がドリル軸方向において同一である円柱状ドリルを上部ドリルおよび下部ドリルに使用し、両ドリルのドリル径を2mm、ドリルの回転数を20000rpm、ドリルの侵入速度を0.15mm/sec、として、ガラス基板20枚に口径が2mmの貫通孔を穿設した。
【0042】
次いで、各ガラス基板の貫通孔の内周面を実体顕微鏡で観察し、クラックの発生状況について調査した結果、本発明の穿設方法による貫通孔には、深さが2μ未満のクラックは認められたが、ガラス基板の破損を招くおそれがある、深さが40μ以上のクラックは20枚のいずれのガラス基板にも認められなかった。
【0043】
これに対し、従来の穿設方法で穿設した貫通孔には、総じて本発明の実施例における貫通孔のクラックより深いクラックが認められ、ガラス基板の破損を招くおそれがある、深さが40μ以上のクラックが20枚のうちの16枚に認められた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ガラス板にドリルで内周面に不具合なクラックを有しない貫通孔を穿設するのに好適し、特にフラットディスプレイパネル用ガラス基板に排気孔を穿設するのに利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1:ガラス板
2:貫通孔
3:上円錐台
4:下円錐台
5:円錐周面
6:円錐周面
7:ドリル
8:側周部
9:先端部
10:凹溝
11:ホルダー
12a:第1ドリル
12b:第2ドリル
13:排気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの貫通孔を有するガラス板であって、前記貫通孔の内周面が、ガラス板の上面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する上円錐台とガラス板の下面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する下円錐台の各円錐周面によって形成されていることを特徴とするガラス板。
【請求項2】
前記上円錐台の円錐周面の貫通孔中心軸に対する傾斜角度をθ1、前記下円錐台の円錐周面の貫通孔中心軸に対する傾斜角度をθ2としたとき、θ1,θ2が2〜5度であり、かつθ1とθ2が実質的に同一である請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記下円錐台の高さをH1、前記上円錐台の高さをH2としたとき、H1>H2である請求項1または2に記載のガラス板。
【請求項4】
前記ガラス板は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板である請求項1、2または3に記載のガラス板。
【請求項5】
ドリルの側周部の研削面が先端部に向って縮径する円錐周面を有する一対のドリルを使用し、ガラス板の一方の面からドリルを侵入させて内周面がガラス板の板面からガラス板の厚さ方法の中間部に向って縮径する円錐周面の穿孔をあけたあと後退させ、次いでガラス板の他方の面から他のドリルを前記穿孔の対向部に侵入させて内周面がガラス板の板面からガラス板の厚さ方向の中間部に向って縮径する円錐周面の穿孔をガラス板の厚さのほぼ中間まであけたあと後退させてガラス板に貫通孔を穿設することを特徴とするガラス板の穿設方法。
【請求項6】
前記ドリルの円錐周面のドリル中心軸に対する傾斜角度θが2〜5度である請求請5に記載のガラス板の穿設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−63456(P2011−63456A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213515(P2009−213515)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】