説明

窒化物半導体発光素子およびその製造方法

【課題】大電流駆動時における窒化物半導体発光素子の電力効率の低下を防止すること。
【解決手段】窒化物半導体発光素子は、第1導電型窒化物半導体層と、第1導電型窒化物半導体層の上に設けられた超格子層と、超格子層の上に設けられた活性層と、活性層の上に設けられた第2導電型窒化物半導体層とを備えている。超格子層の平均キャリア濃度は、活性層の平均キャリア濃度よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光ダイオードなどに利用可能な窒化物半導体発光素子が知られている。このような窒化物半導体発光素子では、電圧が印加されると活性層において電子と正孔とが再結合され、これにより、光が発生する。活性層は、単一量子井戸構造からなっても良いし、たとえば特許文献1〜2のように多重量子井戸構造からなっても良い。
【0003】
特許文献1には、活性層がノンドープInGaN量子井戸層と、n型不純物がドープされたGaN障壁層とが順次積層されてなることが記載されており、またこのn型不純物がドープされたGaN障壁層が上記InGaN量子井戸層と接する界面に拡散防止膜を具備していることが記載されており、この拡散防止膜はGaN障壁層よりも低濃度のn型不純物を含んでいることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、活性層がn型不純物を含んでいることが記載されており、活性層におけるn型不純物濃度がn層側の方がp層側よりも高いことが記載されている。
【0005】
ところで、近年、窒化物半導体発光素子の用途として液晶のバックライトや照明用の電球が検討されており、窒化物半導体発光素子を大電流で駆動する場合が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−109425号公報
【特許文献2】特開2005−057308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または2に記載の技術にしたがって窒化物半導体発光素子を製造し、製造された窒化物半導体発光素子を大電流で駆動すると、動作電圧が上がって消費電力が大きくなることがあり、また発光効率の低下を招くことがある。これらのことから、単位電力当たりの発光効率(電力効率)の低下を招くことがある。
【0008】
一般に、窒化物半導体発光素子に印加される電流密度が比較的小さい場合にその発光効率が低下する理由は、非発光再結合を引き起こす準位(結晶欠陥など)が窒化物半導体層に多数存在するからであると考えられている。そのため、従来における窒化物半導体発光素子の発光効率の向上対策は、主として、窒化物半導体層における結晶欠陥の低減であった。しかし、窒化物半導体発光素子に印加される電流密度が大きくなると、窒化物半導体層における結晶欠陥を低減させるだけでは発光効率の向上を図ることは難しく、電流密度が増加するにつれて窒化物半導体発光素子の発光効率が低下するという不具合を招く。
【0009】
上記不具合が生じる原因として、活性層以外の層における非発光再結合の発生が考えられる。詳細には、電流密度が増加すると、活性層の抵抗成分により生じる熱量が増加し、よって、活性層に接するPN接合での温度が上昇する。すると、電子や正孔などのキャリアが活性層からオーバーフローして、活性層以外の層において非発光再結合が発生する。
【0010】
また、窒化物半導体発光素子に印加される電流密度が大きくなると、電流注入によって生じる、活性層の注入キャリア密度が高くなってしまう。活性層の注入キャリア密度が高くなると、オージェ再結合(キャリア濃度の3乗に比例して再結合確率が増大する非発光再結合)が主流になる。そのため、非発光再結合の発生を防止することは難しい。
【0011】
活性層中のピエゾ電界などが原因で発光再結合寿命が長くなると、発光再結合確率の低下を招き、よって、結晶欠陥を介した非発光再結合確率の上昇、キャリアオーバーフローの発生確率の更なる上昇、およびオージェ再結合確率の更なる上昇を招く。
【0012】
ここで、活性層からのキャリアのオーバーフローは、PN接合での温度が高くなるほど、起こり易くなる。そのため、PN接合での温度は低いほうが望ましい。近年、パッケージ技術の向上により、窒化物半導体発光素子の放熱性が非常に良好になっており、たとえば電極のコンタクト抵抗などが原因である熱をパッケージへ逃がすことができる。しかし、活性層はパッケージから離れているため、活性層の抵抗成分に起因して生じる熱をパッケージへ逃がすことは難しい。窒化物半導体発光素子では、種々の抵抗成分に起因して熱が生じるが、活性層の抵抗成分に起因して熱が生じるという不具合を解決することが最も困難である。
【0013】
また、オージェ再結合は、電流注入により生じる活性層の注入キャリア密度が高くなると、必然的に起こり易くなる。そのため、活性層の注入キャリア密度を低くすることが望ましい。活性層の注入キャリア密度を低くする方法の一つとして、チップサイズを大きくして、発光面積を増大して、単位面積当たりの電流値を下げることにより、実際の単位体積あたりに注入されるキャリア密度を下げるという手法が考えられる。しかし、チップサイズを大きくすると、1枚のウエハから製造できるチップの個数が減少するため、窒化物半導体発光素子の価格の上昇を招く。
【0014】
活性層の注入キャリア密度を低くする別の方法として、多重量子井戸構造における井戸層の層厚を厚くしたり、井戸層の層数を増やすなどの手法が考えられる。しかし、井戸層の層厚を厚くしすぎると、井戸層の結晶品質の低下を招く。また、井戸層の層数を増やしすぎると、窒化物半導体発光素子の動作電圧の上昇を招く。
【0015】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大電流で駆動しても、動作電圧の上昇が防止され、発光効率の低下が防止され、よって、電力効率が良好な窒化物半導体発光素子を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る窒化物半導体発光素子は、第1導電型窒化物半導体層と、第1導電型窒化物半導体層の上に設けられた超格子層と、超格子層の上に設けられた活性層と、活性層の上に設けられた第2導電型窒化物半導体層とを備えている。超格子層の平均キャリア濃度は、活性層の平均キャリア濃度よりも高く、活性層の平均キャリア濃度に対して1.2倍以上であることが好ましい。
【0017】
超格子層が第1導電型不純物を含むドープ層を有し、且つ活性層が障壁層を有するとき、超格子層の1周期当たりの厚みに対するドープ層の1層当たりの厚みの割合は、活性層の1周期当たりの厚みに対する障壁層の1層当たりの厚みの割合以上であることが好ましい。
【0018】
ドープ層における第1導電型不純物の濃度は、障壁層における第1導電型不純物の濃度以上であることが好ましい。
【0019】
超格子層が第1導電型不純物を含まないアンドープ層を有し、且つ活性層が第1導電型不純物を含まない井戸層を有するとき、超格子層の1周期当たりの厚みに対するアンドープ層の1層当たりの厚みの割合は、活性層の1周期当たりの厚みに対する井戸層の1層当たりの厚みの割合以下であることが好ましい。
【0020】
アンドープ層は、活性層の下面に接していることが好ましい。
超格子層は、2層以上のドープ層を有することが好ましい。
【0021】
ドープ層の1層当たりの厚みは、1.5nm以上であることが好ましい。
ドープ層における第1導電型不純物の濃度は1×1017cm-3以上であれば良い。
【0022】
障壁層は第1導電型不純物を含んでいなくても良いし、障壁層における第1導電型不純物の濃度は1×1016cm-3以上8×1017cm-3以下であっても良い。
【0023】
活性層は、2層以上の井戸層を有することが好ましい。
障壁層の厚みは、7nm以下であることが好ましい。
【0024】
第1導電型窒化物半導体層と超格子層との間には、1周期当たりの厚みが超格子層の1周期当たりの厚みよりも薄い短周期超格子層が設けられていることが好ましい。短周期超格子層における第1導電型不純物の濃度は、1×1018cm-3以上5×1019cm-3以下であれば良い。
【0025】
超格子層は、ドープ層とアンドープ層とが積層されて構成されていることが好ましい。ドープ層は、たとえば第1導電型不純物とAlaGabIn(1-a-b)N(0≦a<1、0<b≦1)とを含み、アンドープ層は、たとえばIncGa(1-c)N(0<c≦1)からなる。
【0026】
活性層は、障壁層と井戸層とが積層されて構成されていることが好ましい。障壁層は、たとえば第1導電型不純物とAlxGayIn(1-x-y)N(0≦x<1、0<y≦1)を含み、井戸層は、たとえばInzGa(1-z)N(0<z≦1)からなる。
【0027】
超格子層および活性層がInを含むとき、超格子層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長は、活性層が発する光の波長以下であることが好ましい。
【0028】
本発明に係る窒化物半導体層発光素子の製造方法は、基板の上に第1導電型の窒化物半導体層を成長させる工程と、第1導電型の窒化物半導体層の上に超格子層を成長させる工程と、超格子層の上に活性層を成長させる工程と、活性層の上に第2導電型の窒化物半導体層を設ける工程とを備えている。超格子層の成長速度は活性層の一部である井戸層の成長速度以上であることが好ましく、上述の第1アンドープ層の成長速度は井戸層の成長速度以上であることが好ましい。
【0029】
第1原料ガスと第1キャリアガスとを用いて上述の第1ドープ層を成長させるとき、第1キャリアガスは0.3体積%以上30体積%以下の水素ガスを含むことが好ましい。
【0030】
超格子層の成長温度は、活性層の成長温度と同じであっても良いし、活性層の成長温度よりも高くても良い。
【0031】
井戸層の成長速度は、たとえば、10nm/hour以上150nm/hour以下である。
【0032】
超格子層の平均キャリア濃度を活性層の平均キャリア濃度よりも高くするためには、下記条件1〜4の何れかを満たしていれば良く、好ましくは下記条件1〜4の少なくとも2つの条件を満たしていることである。
【0033】
条件1:超格子層の1周期当たりの厚みに対するドープ層の1層当たりの厚みの割合は、活性層の1周期当たりの厚みに対する障壁層の1層当たりの厚みの割合よりも高い
条件2:ドープ層における第1導電型不純物の濃度は、障壁層における第1導電型不純物の濃度よりも高い
条件3:超格子層の1周期当たりの厚みに対するアンドープ層の1層当たりの厚みの割合は、活性層の1周期当たりの厚みに対する井戸層の1層当たりの厚みの割合よりも低い
条件4:超格子層(好ましくはアンドープ層)の成長速度は井戸層の成長速度よりも速い。
【0034】
上記条件2〜4のうちの少なくとも1つの条件が満たされている場合、上記条件1を「超格子層の1周期当たりの厚みに対するドープ層の1層当たりの厚みの割合は、活性層の1周期当たりの厚みに対する障壁層の1層当たりの厚みの割合以上である」と置き換えることができる。
【0035】
同様に、上記条件1および3〜4のうちの少なくとも1つの条件が満たされている場合、上記条件2を「ドープ層における第1導電型不純物の濃度は、障壁層における第1導電型不純物の濃度以上である」と置き換えることができる。
【0036】
また、上記条件1〜2および4のうちの少なくとも1つの条件が満たされている場合、上記条件3を「超格子層の1周期当たりの厚みに対するアンドープ層の1層当たりの厚みの割合は、活性層の1周期当たりの厚みに対する井戸層の1層当たりの厚みの割合以下である」と置き換えることができる。
【0037】
また、上記条件1〜3のうちの少なくとも1つの条件が満たされている場合、上記条件4を「超格子層(好ましくはアンドープ層)の成長速度は井戸層の成長速度と同じである、または井戸層の成長速度よりも速い」と置き換えることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る窒化物半導体発光素子によれば、大電流で駆動しても、動作電圧の上昇が防止され、発光効率の低下が防止され、よって、電力効率が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子の概略断面図である。
【図2】実施例1および比較例1における駆動電流IFに対する外部量子効率ηexの変化を示すグラフである。
【図3】実施例1および比較例1におけるキャリア濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下では、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
なお、以下では、特許請求の範囲における「第1導電型」および「第2導電型」をそれぞれ「n型」および「p型」としているが、特許請求の範囲における「第1導電型」および「第2導電型」をそれぞれ「p型」および「n型」としても良い。
【0041】
また、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。さらに、本発明の図面において、長さ、幅、および厚さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0042】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る窒化物半導体発光素子1の概略断面図である。本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1では、長周期超格子層13の平均キャリア濃度は活性層15の平均キャリア濃度よりも高い。
【0043】
<窒化物半導体発光素子>
本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1は、基板3の上面上に、バッファ層5と、下地層7と、n型窒化物半導体層9と、短周期超格子層11と、長周期超格子層13と、活性層15と、p型窒化物半導体層17とがこの順に積層されて構成されている。n型窒化物半導体層9の上面の一部分は、短周期超格子層11などから露出しており、その露出部分の上には、n側電極21が設けられている。p型窒化物半導体層17の上には、透明電極23を介してp側電極25が設けられている。
【0044】
<基板>
基板3は、たとえば、サファイヤのような絶縁性基板であっても良いし、GaN、SiC、またはZnOなどのような導電性基板であっても良い。基板3の厚みは、特に限定されず、60μm以上300μm以下であれば良い。基板3の上面は、平坦であっても良いし、凹凸を有していても良い。
【0045】
<バッファ層>
バッファ層5は、たとえばAlsoGatoN(0≦s0≦1、0≦t0≦1、s0+t0≠0)層であれば良く、好ましくはAlN層である。これにより、基板3の成長面の法線方向に伸長するようにバッファ層5が形成されるので、結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなるバッファ層5が得られる。
【0046】
バッファ層5の厚みは、特に限定されないが、5nm以上100nm以下であれば良く、好ましくは10nm以上50nm以下である。
【0047】
<下地層>
下地層7は、たとえばAls1Gat1Inu1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、0≦u1≦1、s1+t1+u1≠0)層であれば良く、好ましくはAls1Gat1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、s1+t1≠0)層であり、より好ましくはGaN層である。これにより、バッファ層5中に存在する結晶欠陥(たとえば転位など)がバッファ層5と下地層7との界面付近でループされ易くなり、よって、その結晶欠陥がバッファ層5から下地層7へ引き継がれることを防止できる。
【0048】
下地層7は、n型不純物を含んでいても良い。しかし、下地層7がn型不純物を含んでいなければ、下地層7の良好な結晶性を維持することができる。よって、下地層7はn型不純物を含んでいないことが好ましい。
【0049】
下地層7の厚みは、特に限定されないが、3μm以上12μm以下であれば良い。
<n型窒化物半導体層>
n型窒化物半導体層9は、たとえばAls2Gat2Inu2N(0≦s2≦1、0≦t2≦1、0≦u2≦1、s2+t2+u2≠0)層にn型不純物がドーピングされた層であれば良く、好ましくはAls2Ga1-s2N(0≦s2≦1、好ましくは0≦s2≦0.5、より好ましくは0≦s2≦0.1)層にn型不純物がドーピングされた層である。
【0050】
n型不純物は、特に限定されないが、Si、P、AsまたはSbなどであれば良く、好ましくはSiである。このことは、後述の短周期超格子層11などにおいても言える。
【0051】
n型窒化物半導体層9におけるn型不純物濃度は、特に限定されないが、1×1018cm-3以上2×1019cm-3以下であれば良い。
【0052】
n型窒化物半導体層9の厚みは、特に限定されないが、0.5μm以上10μm以下であれば良い。
【0053】
なお、n型窒化物半導体層9は、単層であっても良いし、積層構造を有していても良い。たとえば、n型窒化物半導体層9は、n型コンタクト層とn型クラッド層とが積層されて構成されていても良い。n型窒化物半導体層9が積層構造を有する場合、各層は、同一の組成からなっても良いし、異なる組成からなっても良い。また、各層は、同一の膜厚を有していても良いし、異なる膜厚を有していても良い。
【0054】
<短周期超格子層>
超格子層とは、複数の種類の結晶格子の重ね合わせにより、その周期構造が基本単位格子よりも長い結晶格子からなる層を意味する。短周期超格子層11では、第1半導体層11Aと第2半導体層11Bとが交互に積層されて超格子構造を構成しており、その周期構造が第1半導体層11Aを構成する半導体材料の基本単位格子および第2半導体層11Bを構成する半導体材料の基本単位格子よりも長くなっている。なお、短周期超格子層11は、第1半導体層11Aと、第2半導体層11Bと、第1半導体層11Aおよび第2半導体層11Bとは異なる1層以上の半導体層とが順に積層されて超格子構造を構成していても良い。また、短周期超格子層11の1周期当たりの厚みは、後述の長周期超格子層13の1周期当たりの厚みよりも薄く、具体的には1nm以上7nm以下である。
【0055】
各第1半導体層11Aは、たとえばAlGaInN層にn型不純物がドーピングされた層であれば良く、好ましくはGaN層にn型不純物がドーピングされた層である。
【0056】
各第1半導体層11Aにおけるn型不純物濃度は、特に限定されないが、後述の長周期超格子層13におけるn型不純物濃度よりも高くても良いし、後述の長周期超格子層13におけるn型不純物濃度以下であっても良い。各第1半導体層11Aにおけるn型不純物濃度は、たとえば、1×1018cm-3以上5×1019cm-3以下であることが好ましい。これにより得られる効果については、後述の<平均キャリア濃度>で示す。
【0057】
第1半導体層11Aのそれぞれの厚みは、特に限定されないが、0.5nm以上5nm以下であれば良く、好ましくは1nm以上4nm以下である。第1半導体層11Aのそれぞれの厚みが0.5nm未満であれば、第1半導体層11Aのそれぞれの厚みが1原子層の厚みを下回るため、厚みが均一な第1半導体層11Aを形成することが難しく、よって、後述の長周期超格子層13または活性層15の結晶品質の低下を招くことがある。また、n型窒化物半導体層9よりも低い温度で高濃度の第1導電型不純物を第1半導体層11Aにドープするため、第1半導体層11Aのそれぞれの厚みが5nmを超えると、第1半導体層11Aの平坦性の低下を招き、よって、後述の長周期超格子層13の結晶性が低下する。その結果、活性層15の結晶品質も低下して窒化物半導体発光素子1の発光効率が低下することがある。
【0058】
各第2半導体層11Bは、たとえばAlGaInN層であれば良く、好ましくはInGaN層である。第2半導体層11Bがn型不純物を含んでいなければ、短周期超格子層11の平坦性の低下を防止でき、よって、後述の長周期超格子層13の結晶性の低下を防止できる。なお、各第2半導体層11Bは、n型不純物を含んでいても良い。
【0059】
第2半導体層11Bのそれぞれの厚みは、特に限定されないが、0.5nm以上5nm以下であれば良く、好ましくは1nm以上4nm以下である。第2半導体層11Bのそれぞれの厚みが0.5nm未満であれば、第2半導体層11Bのそれぞれの厚みが1原子層の厚みを下回るため、厚みが均一な第2半導体層11Bを形成することが難しく、よって、後述の長周期超格子層13または活性層15の結晶品質の低下を招くことがある。一方、第2半導体層11Bのそれぞれの厚みが5nmを超えると、第2半導体層11Bの成長時間が長くなりすぎて、窒化物半導体発光素子1の生産性が低下することがある。
【0060】
なお、第1半導体層11Aおよび第2半導体層11Bの層数は図1に示す層数に限定されない。
【0061】
<長周期超格子層>
長周期超格子層13は、特許請求の範囲における「超格子層」である。ここで、超格子層の定義は、上記<短周期超格子層>で示したとおりである。長周期超格子層13では、ドープ層13Aとアンドープ層13Bとが交互に積層されて超格子構造を構成しており、その周期構造がドープ層13Aを構成する半導体材料の基本単位格子およびアンドープ層13Bを構成する半導体材料の基本単位格子よりも長くなっている。なお、長周期超格子層13は、短周期超格子層11と同じく、ドープ層13Aと、アンドープ層13Bと、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bとは異なる1層以上の半導体層とが順に積層されて超格子構造を構成していても良い。また、長周期超格子層13の1周期当たりの長さは、前述の短周期超格子層11よりも長く、具体的には4nm以上20nm以下である。
【0062】
長周期超格子層13の平均キャリア濃度は、後述の活性層15の平均キャリア濃度よりも高い。これにより、窒化物半導体発光素子1を大電流で駆動しても、その電力効率の低下を防止できる。このことは、後述の<平均キャリア濃度>で示す。
【0063】
各ドープ層13Aは、たとえばAlaGabIn(1-a-b)N(0≦a<1、0<b≦1)層にn型不純物がドーピングされた層であれば良く、好ましくはGaN層にn型不純物がドーピングされた層である。
【0064】
各ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度は、特に限定されないが、1×1017cm-3以上であれば良く、好ましくは2×1017cm-3以上1×1019cm-3以下である。各ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度が1×1017cm-3未満であれば、窒化物半導体発光素子1の駆動電圧が上昇することがある。
【0065】
各ドープ層13Aの厚みは、特に限定されないが、1.5nm以上であることが好ましく、2nm以上15nm以下であればさらに好ましい。各ドープ層13Aの厚みが1.5nm未満であれば、長周期超格子層13の平坦性の低下を招くことがある。また、各ドープ層13Aの厚みは、後述の障壁層15Aの厚み以上であることが好ましい。これにより、ドープ層13Aをホールブロック層として機能させることができる。
【0066】
各アンドープ層13Bは、たとえばIncGa(1-c)N(0<c≦1)層であれば良く、好ましくはIncGa(1-c)N(0<c≦0.3)層である。各アンドープ層13Bがn型不純物を含んでいなければ、長周期超格子層13の平坦性の低下を防止でき、よって、後述の活性層15の結晶性の低下を防止できる。なぜならば、活性層15の下面にはアンドープ層13Bが接しているからである。なお、各アンドープ層13Bは、n型不純物を含んでいても良い。
【0067】
各アンドープ層13Bの厚みは、特に限定されないが、0.5nm以上5nm以下であることが好ましい。各アンドープ層13Bの厚みがこの範囲外であると、アンドープ層13Bの結晶品質の低下を招き、よって、窒化物半導体発光素子1の発光効率の低下を招くことがある。
【0068】
ところで、ドープ層13Aおよびアンドープ層13BはそれぞれInを含んでいる。そのため、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bのそれぞれがフォトルミネッセンスにより発する光の波長は、後述の活性層15が発する光の波長以下であることが好ましい。
【0069】
一般に、窒化物半導体発光素子では、活性層を構成する井戸層とn型窒化物半導体層とで格子定数などが異なることに起因して歪みが発生することがあり、この歪みの発生を回避するために長周期超格子層が設けられる。よって、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bは、活性層15を構成する井戸層15Bと略同一の半導体材料からなることが好ましい。多くの場合、井戸層15BがInを含むので、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bは上述のようにInを含む。
【0070】
しかし、ドープ層13Aおよびアンドープ層13BのそれぞれにおけるIn組成が高くなりすぎると、活性層15で発生した光が長周期超格子層13で吸収され、窒化物半導体発光素子1から出力される光の強度の低下を招くおそれがある。この強度低下を防止するためには、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bのそれぞれのバンドギャップは井戸層15Bのバンドギャップ以上であることが好ましく、つまりドープ層13Aおよびアンドープ層13Bのそれぞれがフォトルミネッセンスにより発する光の波長は活性層15が発する光の波長以下であることが好ましい。より好ましくは0nm≦(λ2−λ1)≦50nmであり、さらに好ましくは1nm≦(λ2−λ1)≦20nmである。ここで、λ1は、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bのそれぞれがフォトルミネッセンスにより発する光の波長であり、λ2は、活性層15が発する光の波長である。λ1が短すぎると、たとえば(λ2−λ1)>50nmであると、長周期超格子層13を設けているにも関わらず上記歪みが発生することがある。一方、λ2<λ1であれば、活性層15で発生した光が長周期超格子層13で吸収され、その結果、窒化物半導体発光素子1から出力される光の強度の低下を招くおそれがある。
【0071】
<活性層>
活性層15は、単一量子井戸(SQW)構造を有していても良いし、図1に示すように多重量子井戸(MQW)構造を有していても良い。活性層15がMQW構造を有する場合には、活性層15は、障壁層15Aが井戸層15Bを挟むようにして障壁層15Aと井戸層15Bとが積層されて構成されていれば良い。
【0072】
各障壁層15Aは、たとえばAlxGayIn(1-x-y)N(0≦x<1、0<y≦1)層からなる。各障壁層15Aには、n型不純物がドーピングされていなくても良いし、n型不純物がドーピングされていても良い。
【0073】
各障壁層15Aにおけるn型不純物濃度は、特に限定されないが、8×1017cm-3以下であれば良い。障壁層15Aにおけるn型不純物濃度が8×1017cm-3を超えると、n側電極21とp側電極25との間に電圧を印加したときに、正孔が活性層15へ注入され難くなり、よって、窒化物半導体発光素子1の発光効率の低下を招くことがある。好ましくは、各障壁層15Aにおけるn型不純物濃度は、1×1016cm-3以上8×1017cm-3以下である。
【0074】
各障壁層15Aの厚みは、限定されないが、7nm以下であることが好ましく、1.5nm以上6nm以下であればさらに好ましい。各障壁層15Aの厚みが1.5nm未満であれば、障壁層15Aの平坦性の低下によるその結晶品質の悪化を招き、よって、窒化物半導体発光素子1の発光効率が低下することがある。各障壁層15Aの厚みが7nmよりも厚ければ、注入キャリアが活性層15中で十分拡散されず、窒化物半導体発光素子1の駆動電圧の上昇およびその発光効率の低下を招くことがある。
【0075】
各井戸層15Bは、たとえばInzGa(1-z)N(0<z≦1)層であれば良く、好ましくはノンドープInzGa(1-z)N(0<z≦0.5)層である。各井戸層15Bがn型不純物を含んでいなければ、活性層15の平坦性の低下を防止でき、よって、後述のp型窒化物半導体層17の結晶性の低下を防止できる。なお、各井戸層15Bは、n型不純物を含んでいても良い。
【0076】
各井戸層15Bの厚みは、限定されないが、2.5nm以上7nm以下であることが好ましい。各井戸層15Bの厚みがこの範囲外であれば、窒化物半導体発光素子1の発光効率低下およびその駆動電圧の上昇を招くことがある。
【0077】
井戸層15Bの層数は、特に限定されないが、2層以上であることが好ましい。これにより、活性層15の電流密度を低下させることができる。よって、窒化物半導体発光素子1を大電流で駆動しても、活性層15での発熱量の低下を図ることができるので、活性層15からのキャリアのオーバーフローを防止できる。したがって、活性層15以外の層における非発光再結合の発生を防止できる。
【0078】
<p型窒化物半導体層>
p型窒化物半導体層17は、たとえばAls4Gat4Inu4N(0≦s4≦1、0≦t4≦1、0≦u4≦1、s4+t4+u4≠0)層にp型不純物がドーピングされた層であれば良く、好ましくはAls4Ga1-s4N(0<s4≦0.4、好ましくは0.1≦s4≦0.3)層にp型ドーパントをドーピングした層である。
【0079】
p型不純物は、特に限定されないが、たとえばマグネシウムである。
p型窒化物半導体層17におけるp型不純物濃度は、特に限定されないが、1×1018cm-3以上2×1020cm-3以下であれば良い。
【0080】
p型窒化物半導体層17の厚みは、特に限定されないが、10nm以上200nm以下であれば良い。
【0081】
<n側電極、透明電極、p側電極>
n側電極21およびp側電極25は、窒化物半導体発光素子1に駆動電力を供給するための電極であり、たとえばニッケル層、プラチナ層、および金層がこの順序で積層されて構成されていれば良く、合計で300nm以上3000nm以下の厚みを有していれば良い。透明電極23は、たとえば金、パラジウム、ニッケル、ITO(Indium Tin Oxide)またはIZO(Indium Zinc Oxide)からなれば良く、50nm以上500nm以下の厚みを有していれば良い。透明電極23のかわりに、アルミニウムまたは銀などの反射電極を積層しても良いし、この反射電極をフリップチップ実装しても良い。
【0082】
<平均キャリア濃度>
長周期超格子層13の平均キャリア濃度は、活性層15の平均キャリア濃度よりも高く、好ましくは活性層15の平均キャリア濃度の1.1倍以上であり、より好ましくは活性層15の平均キャリア濃度の1.2倍以上100倍以下である。長周期超格子層13の平均キャリア濃度が活性層15の平均キャリア濃度の1.2倍未満であれば、大電流駆動時における発光効率の低下を防止できないことがある。一方、長周期超格子層13の平均キャリア濃度が活性層15の平均キャリア濃度の100倍を超えると、長周期超格子層13の平坦性の低下を招くので、活性層15の結晶品質の低下を招き、よって、窒化物半導体発光素子1の発光効率が低下することがある。
【0083】
キャリア濃度は、電子または正孔の濃度を意味し、ドープされたn型不純物の量またはドープされたp型不純物の量だけで決まらない。つまり、長周期超格子層13のキャリア濃度は長周期超格子層13にドープされたn型不純物の量だけで決まらず、活性層15のキャリア濃度は活性層15にドープされたn型不純物の量だけで決まらない。このようなキャリア濃度は、以下に示すように、窒化物半導体発光素子1の電圧対容量特性(以下では「C−V特性」と記すことがある。C−VはCapacitance-Voltageの略である。)の結果に基づいて算出されるものであり、電流が注入されていない状態のキャリア濃度のことを指しており、イオン化した不純物、ドナー化した結晶欠陥、またはアクセプター化した結晶欠陥から発生したキャリアの合計である。
【0084】
窒化物半導体発光素子1のPN接合付近(具体的には、活性層15とp型窒化物半導体層17との界面付近)には、空乏層が存在している。空乏層は電気的に絶縁されているので、n側電極21とp側電極25との間に直流電圧を印加すると空乏層を誘電体層とする仮想コンデンサが形成される。そのため、n側電極21とp側電極25との間に直流電圧を印加して空乏層容量Cを測定すると、つまり窒化物半導体発光素子1のC−V特性を調べると、下記式1から空乏層の厚みxが算出される。
【0085】
x=ε0εr/C・・・式1
式1において、xは空乏層の厚み(cm)であり、ε0は真空の誘電率(8.9×10-14(F/cm))である。εrは窒化物半導体材料の比誘電率(単位は無次元)であり、本実施形態ではGaNの比誘電率で近似できる。Cは測定された空乏層容量(F/cm2)である。
【0086】
また、窒化物半導体発光素子1に印加される電圧の大きさが変わると、空乏層の厚みが変わり、よって、空乏層容量が変わる。ここで、空乏層の底面(基板3側に位置する空乏層の面)におけるキャリア濃度Nは、下記式2で表わされる。そのため、窒化物半導体発光素子1に印加される電圧Vの大きさを変えて空乏層容量Cを測定すると、下記式2から空乏層の底面におけるキャリア濃度Nが算出される。
【0087】
N=C3/{qε0εr(ΔC/ΔV)}・・・式2
式2において、Nは空乏層の底面におけるキャリア濃度(1/cm3)であり、qは点電荷量(C)であり、ΔCは窒化物半導体発光素子1に印加される電圧Vの大きさを変えたときの空乏層容量の変化量であり、ΔVは窒化物半導体発光素子1に印加される電圧Vの変化量である。式2におけるC、ε0、およびεrはいずれも式1と同様である。
【0088】
以上より、窒化物半導体発光素子1に印加される電圧Vの大きさを変えて空乏層容量Cを測定すれば、空乏層の厚みxと空乏層の底面におけるキャリア濃度Nとの関係が分かる。ここで、窒化物半導体発光素子1では、活性層15の厚みおよび長周期超格子層13の厚みはどちらも既知である。よって、空乏層の厚みが分かれば、空乏層の底面が活性層15および長周期超格子層13のどちらの層内に存在するかが分かる。このように印加電圧を種々に変えてC−V特性を調べれば、活性層15および長周期超格子層13の厚み方向の各点におけるキャリア濃度を算出できる。そして、算出されたキャリア濃度を平均すれば、活性層15の平均キャリア濃度および長周期超格子層13の平均キャリア濃度を得ることができる。
【0089】
長周期超格子層の平均キャリア濃度が本実施形態のように制御されていない窒化物半導体発光素子を大電流で駆動すると、動作電圧が上昇して発光効率が低下することがある。この理由としては、たとえば、活性層を構成する障壁層の層厚が厚いこと、窒化物半導体発光素子においてn型不純物またはp型不純物がドーピングされている総体積が小さいこと、n型不純物またはp型不純物の濃度が低い層が多数設けられていること、または、活性層を構成する複数の障壁層におけるn型不純物またはp型不純物の濃度をそれぞれ略同一としていること、などが考えられる。
【0090】
また、特許文献2などには、活性層におけるn型不純物濃度をn層側で相対的に高くするという技術が提案されている。しかし、n型不純物濃度がn層側で相対的に高くても、キャリア濃度がn層側で相対的に高くなければ、キャリアを活性層へ注入することは難しい。そのため、活性層の直列抵抗成分を十分小さくすることは難しい。
【0091】
一方、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1では、長周期超格子層13の平均キャリア濃度は活性層15の平均キャリア濃度よりも高い。本実施形態では、長周期超格子層13および活性層15はn型不純物を含んでいるため、長周期超格子層13の平均電子濃度は活性層15の平均電子濃度よりも高い。そのため、正孔がp型窒化物半導体層17から長周期超格子層13へ拡散することを抑制できる。よって、長周期超格子層13が多くの結晶欠陥を含んでいる場合であっても、長周期超格子層13内の結晶欠陥における非発光再結合の発生を防止できる。したがって、発光効率の低下を防止できる。
【0092】
また、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1では、活性層15のキャリア濃度が低いため、注入されたホールが活性層15全体に拡散しやすく、よって、局所的なホール濃度上昇が起こりにくい。よって、活性層15におけるオージェ再結合の発生を抑えることができる。この点においても、発光効率の低下を防止できる。
【0093】
さらに、本実施形態では、長周期超格子層13内の結晶欠陥における非発光再結合の発生を防止できるので、長周期超格子層13内において非発光再結合に起因するキャリアの消費を防止できる。そのため、n側電極21とp側電極25とに電圧を印加すると、十分な量の注入キャリア(本実施形態では電子)が長周期超格子層13から活性層15へ供給される。よって、活性層15の直列抵抗成分の低下を図ることができるので、窒化物半導体発光素子1を大電流で駆動させても動作電圧の上昇を防止でき、大電流駆動時における発熱を抑制できる。したがって、PN接合付近の温度の上昇を防止できるので、熱エネルギーの増大によってキャリアが活性層15からオーバーフローすることを防止できる。これにより、活性層15以外の層において非発光再結合が発生することを防止できるので、大電流駆動時における発光効率の低下を防止できる。このように、本実施形態では、大電流駆動時における動作電圧の上昇および発光効率の低下を防止できるので、大電流駆動時における電力効率の悪化を防止できる。
【0094】
長周期超格子層13の平均キャリア濃度を活性層15の平均キャリア濃度よりも高くする方法としては、いくつかの方法が考えられる。たとえば、長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するドープ層13Aの1層当たりの厚みの割合が、活性層15の1周期当たりの厚みに対する障壁層15Aの1層当たりの厚みの割合よりも高ければ良い。これにより、長周期超格子層13の全体積に対するドープ層13Aの合計体積の割合は、活性層15の全体積に対する障壁層15Aの合計体積の割合よりも高くなる。つまり、長周期超格子層13の全体積に対するn型不純物を含む層の合計体積の割合は、活性層15の全体積に対するn型不純物を含む層の合計体積の割合よりも高くなる。したがって、ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度が障壁層15Aにおけるn型不純物濃度と略同一であっても、長周期超格子層13の平均キャリア濃度は活性層15の平均キャリア濃度よりも高くなる。よって、ドープ層13Aの平坦性を維持できるので、活性層15の結晶性の低下を防止でき、したがって、活性層15での発光効率の低下を防止できる。
【0095】
各ドープ層13Aの厚みは、各障壁層15Aの厚み以上であることが好ましい。これにより、ホールが長周期超格子層13中に拡散することを防止できるため、窒化物半導体発光素子1を高温で駆動しても、その発光効率の低下が起こりにくい。したがって、窒化物半導体発光素子1の高温特性が改善される。
【0096】
アンドープ層13Bおよび井戸層15Bがn型不純物を含んでいる場合、長周期超格子層13の平均キャリア濃度が活性層15の平均キャリア濃度よりも高くなるようにドープ量を調整するのが好ましい。
【0097】
長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するドープ層13Aの1層当たりの厚みの割合は、活性層15の1周期当たりの厚みに対する障壁層15Aの1層当たりの厚みの割合に対して、1倍よりも高ければ良く、1.2倍以上5倍以下であれば好ましい。長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するドープ層13Aの1層当たりの厚みの割合が活性層15の1周期当たりの厚みに対する障壁層15Aの1層当たりの厚みの割合に対して1倍以下であれば、長周期超格子層13の平均キャリア濃度を活性層15の平均キャリア濃度よりも高くすることが難しいことがあり、よって、窒化物半導体発光素子1の駆動電圧の上昇を招くことがある。なお、本実施形態に、後述の第1の変形例、第2の変形例、および第2の実施形態のうちの少なくとも1つを組み合わせる場合には、長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するドープ層13Aの1層当たりの厚みの割合は、活性層15の1周期当たりの厚みに対する障壁層15Aの1層当たりの厚みの割合に対して、1倍以上であれば良い。
【0098】
長周期超格子層13は2層以上のドープ層13Aを有していることが好ましい。これにより、各ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度をそれほど高くしなくても、長周期超格子層13を構成する層のうちn型不純物を含む層の合計体積を大きくすることができる。よって、長周期超格子層13の平坦性の低下を招くことなく、長周期超格子層13の平均キャリア濃度を活性層15の平均キャリア濃度よりも高くすることができる。このことから、ドープ層13Aを単層として設けるよりも、ドープ層13Aを積層構造(たとえば超格子構造)の構成要素として設ける方が好ましいと言える。
【0099】
また、上記<短周期超格子層>で述べたように、短周期超格子層11の第1半導体層11Aおよび第2半導体層11Bのそれぞれにおけるn型不純物濃度は、1×1018cm-3以上5×1019cm-3以下であることが好ましい。キャリア濃度が高いほど、空乏層が伸びる量は小さくなる(空乏層の深さは浅くなる)。そのため、短周期超格子層11中では空乏層は伸びにくいと考えられる。よって、逆バイアスの電流が窒化物半導体発光素子1に印加された場合、または正バイアスの過電流が窒化物半導体発光素子1に印加された場合に、空乏層が短周期超格子層11よりも基板3側へ伸びることを防止できる。したがって、印加された逆バイアス電流または印加された正バイアスの過電流が速やかに放電されるため、窒化物半導体発光素子1における静電気破壊の発生を防止できる。
【0100】
なお、本実施形態では、長周期超格子層13は、短周期超格子層11と活性層15との間に設けられる代わりに、活性層15とp型窒化物半導体層17との間に設けられていても良い。このとき、ドープ層13Aはn型不純物ではなくp型不純物を含んでいれば良い。これにより、上述の効果を得ることができる。
【0101】
また、長周期超格子層13は、短周期超格子層11と活性層15との間だけでなく、活性層15とp型窒化物半導体層17との間にも設けられていても良い。活性層15とp型窒化物半導体層17との間に設けられた長周期超格子層では、ドープ層13Aはn型不純物ではなくp型不純物を含んでいれば良い。これにより、大電流駆動時における電力効率の悪化をさらに防止することができる。
【0102】
また、長周期超格子層13の平均キャリア濃度を活性層15の平均キャリア濃度よりも高くする具体的な方法としては、本実施形態における方法に限定されない。たとえば、後述の第1の変形例、後述の第2の変形例、および後述の第2の実施形態でのいずれかの方法にしたがって、長周期超格子層13の平均キャリア濃度を活性層15の平均キャリア濃度よりも高くしても良い。さらには、本実施形態、後述の第1の変形例、後述の第2の変形例、および後述の第2の実施形態を適宜組み合わせても良い。
【0103】
また、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子1は、後述の第3の変形例での製造方法および後述の第4の変形例での製造方法の少なくとも1つの方法にしたがって製造されることが好ましい。これにより、活性層15の結晶性が向上するので、発光効率がさらに向上する。
【0104】
<第1の変形例>
第1の変形例では、アンドープ層13Bおよび井戸層15Bがともにn型不純物を含んでいないとき、長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するアンドープ層13Bの1層当たりの厚みの割合を活性層15の1周期当たりの厚みに対する井戸層15Bの1層当たりの厚みの割合よりも低くする。これにより、長周期超格子層13の全体積に対するアンドープ層13Bの合計体積の割合は、活性層15の全体積に対する井戸層15Bの合計体積の割合よりも低くなる。つまり、長周期超格子層13の全体積に対するn型不純物を含まない層の合計体積の割合は、活性層15の全体積に対するn型不純物を含まない層の合計体積の割合よりも低くなる。その結果、長周期超格子層13の全体積に対するn型不純物を含む層の合計体積の割合は、活性層15の全体積に対するn型不純物を含む層の合計体積の割合よりも高くなる。したがって、ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度が障壁層15Aにおけるn型不純物濃度と略同一であっても、長周期超格子層13の平均キャリア濃度は活性層15の平均キャリア濃度よりも高くなる。よって、上記第1の実施形態と同じく、ドープ層13Aの平坦性を維持できるので、活性層15の結晶性の低下を防止でき、したがって、活性層15での発光効率の低下を防止できる。
【0105】
長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するアンドープ層13Bの1層当たりの厚みの割合は、活性層15の1周期当たりの厚みに対する井戸層15Bの1層当たりの厚みの割合に対して、1倍よりも小さければ良く、好ましくは0.4倍以上0.95倍以下である。長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するアンドープ層13Bの1層当たりの厚みの割合が活性層15の1周期当たりの厚みに対する井戸層15Bの1層当たりの厚みの割合に対して1倍以上であれば、長周期超格子層13の平均キャリア濃度を活性層15の平均キャリア濃度よりも高くすることが難しいことがある。なお、本変形例に、上記第1の実施形態、後述の第2の変形例、および後述の第2の実施形態のうちの少なくとも1つを組み合わせる場合には、長周期超格子層13の1周期当たりの厚みに対するアンドープ層13Bの1層当たりの厚みの割合は、活性層15の1周期当たりの厚みに対する井戸層15Bの1層当たりの厚みの割合に対して、1倍以下であれば良い。
【0106】
<第2の変形例>
第2の変形例では、ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度は、障壁層15Aにおけるn型不純物濃度よりも高い。これにより、イオン化した不純物の割合は、ドープ層13Aの方が障壁層15Aよりも高くなる。よって、長周期超格子層13の平均キャリア濃度は、活性層15の平均キャリア濃度よりも高くなる。
【0107】
ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度は、障壁層15Aにおけるn型不純物濃度に対して、1倍よりも高ければ良い。好ましくは、ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度は、障壁層15Aにおけるn型不純物濃度に対して1.2倍以上1000倍以下である、または2×1019cm-3以下である。ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度が障壁層15Aにおけるn型不純物濃度に対して1倍以下であれば、長周期超格子層13の平均キャリア濃度を活性層15の平均キャリア濃度よりも高くすることが難しいことがある。一方、ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度が障壁層15Aにおけるn型不純物濃度に対して1000倍を超えると、またはドープ層13Aにおけるn型不純物濃度が2×1019cm-3を超えると、ドープ層13Aの平坦性の低下を招き、よって、活性層15の結晶性の低下を引き起こして活性層15での発光効率の低下を招来することがある。なお、本変形例に、上記第1の実施形態、上記第1の変形例、および後述の第2の実施形態のうちの少なくとも1つを組み合わせる場合には、ドープ層13Aにおけるn型不純物濃度は障壁層15Aにおけるn型不純物濃度に対して1倍以上であれば良い。
【0108】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態では、製造条件が長周期超格子層13と活性層15とで異なるので、平均キャリア濃度が長周期超格子層13と活性層15とで異なる。以下では、長周期超格子層13および活性層15の成長方法を主に示す。
【0109】
まず、基板3の上面にバッファ層5、下地層7、n型窒化物半導体層9、および短周期超格子層11を順に結晶成長させる。成膜に用いる材料、成膜温度、および成膜時間などの結晶成長の条件は、成長させる層の材料および厚みなどに応じて適宜設定すれば良い。
【0110】
次に、短周期超格子層11の上面に長周期超格子層13を結晶成長させる。
このとき、ドープ層13Aの成長速度は、10nm/hour以上300nm/hour以下であれば良い。ドープ層13Aの成長速度が10nm/hour未満であれば、ドープ層13Aの成長時間が長時間化し、よって、ドープ層13Aを成長させるために使用する材料の量が増大するために、窒化物半導体発光素子1の生産性が低下することがある。一方、ドープ層13Aの成長速度が300nm/hourを超えれば、ドープ層13Aの結晶品質の低下による窒化物半導体発光素子1の発光効率の低下を招くおそれがある。アンドープ層13Bの成長速度は、10nm/hour以上300nm/hour以下であれば良く、好ましくはドープ層13Aの成長速度と同じである。
【0111】
また、長周期超格子層13の成長温度は、活性層15の成長温度と同じであっても良いし、活性層15の成長温度よりも30℃高い温度であっても良い。長周期超格子層13の成長温度が活性層15の成長温度よりも低いと、活性層15の結晶品質の低下による窒化物半導体発光素子1の発光効率の低下を招くおそれがある。一方、長周期超格子層13の成長温度が高すぎると、アンドープ層13Bのバンドギャップが大きくなりすぎて、長周期超格子層13の本来の機能である歪緩和機能を発揮できないおそれがある。
【0112】
続いて、長周期超格子層13の上面に活性層15を結晶成長させる。
このとき、障壁層15Aの成長速度は、10nm/hour以上300nm/hour以下であれば良く、ドープ層13Aの成長速度と同じであっても良い。障壁層15Aの成長速度が10nm/hour未満であれば、障壁層15Aの成長時間が長時間化し、よって、障壁層15Aを成長させるために使用する材料の量が増大するので、窒化物半導体発光素子1の生産性が低下するおそれがある。一方、障壁層15Aの成長速度が300nm/hourを超えれば、障壁層15Aの結晶品質の低下による窒化物半導体発光素子1の発光効率の低下を招くおそれがある。
【0113】
一方、井戸層15Bの成長速度は、ドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aの各成長速度よりも遅いことが好ましい。たとえば、井戸層15Bの成長速度は、10nm/hour以上150nm/hour以下であれば良く、20nm/hour以上100nm/hour以下であればさらに好ましい。これにより、井戸層15Bは、ドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aよりも結晶性に優れることとなり、よって、発光効率に優れた窒化物半導体発光素子1を提供することができる。
【0114】
また、活性層15の成長温度は、600℃以上1000℃以下であれば良い。活性層15の成長温度が600℃未満であれば、活性層15の結晶性が悪く、窒化物半導体発光素子1の発光効率の低下を招くおそれがある。一方、活性層15の成長温度が1000℃を超えれば、Inが十分に活性層15に取り込まれず、よって、所望の発光波長を得られないおそれがある。
【0115】
続いて、活性層15の上面にp型窒化物半導体層17を結晶成長させる。その後、n型窒化物半導体層9の一部分が露出するように、p型窒化物半導体層17、活性層15、長周期超格子層13、短周期超格子層11、およびn型窒化物半導体層9をエッチングする。このエッチングにより露出したn型窒化物半導体層9の上面上にn側電極21を形成し、p型窒化物半導体層17の上面上に透明電極23を介してp側電極25を形成する。このようにして、窒化物半導体発光素子1が作製される。
【0116】
以上説明したように、本実施形態では、ドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aの各成長速度は、井戸層15Bの成長速度よりも速いことが好ましい。そのため、ドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aには、井戸層15Bよりも多くの結晶欠陥が存在することとなる。これらの結晶欠陥はドナーの役割を果たすことになり、井戸層15Bに効率よくキャリアを注入するために必要である。また、これらの結晶欠陥は、ドープ層13Aとアンドープ層13Bとの両方を含む長周期超格子層13の方が活性層15よりも多数存在する。よって、長周期超格子層13の平均キャリア濃度は活性層15の平均キャリア濃度より高くなる。
【0117】
従来、活性層および長周期超格子層のそれぞれの最適な成長速度は、結晶欠陥が少なくなる速度であると考えられていた。しかし、本発明者らの鋭意検討により、長周期超格子層に関しては、成長速度を速くして結晶欠陥が少し多い方が、キャリアが発生しやすくなることが分かった。また、同様の理由から、結晶欠陥が障壁層15Aに存在していても井戸層15Bに存在していなければ、窒化物半導体発光素子1における非発光再結合の発生を抑制でき、むしろ窒化物半導体発光素子1の駆動電圧が低減されるため、望ましいことが分かった。
【0118】
詳細には、長周期超格子層13を設ける理由は、上記第1の実施形態における<長周期超格子層>で述べたように歪みの発生を回避するためであり、また、電流駆動時に活性層15へキャリアを導入して大電流駆動時における電力効率の悪化を防止するためである。
【0119】
歪みの発生を回避するためには、上記第1の実施形態における<長周期超格子層>で述べたように、活性層15の井戸層15Bと近い組成で長周期超格子層13のアンドープ層13Bを成長させることが好ましい。一方、活性層15へキャリアを導入させるためには、長周期超格子層13が多くのドナー準位を有していることが好ましい。本実施形態では、ドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aの各成長速度は、井戸層15Bの成長速度よりも速い。よって、長周期超格子層13のドナー性の結晶欠陥は、活性層15のドナー性の結晶欠陥より多くなる。ドナー性の結晶欠陥が多くなると、非発光再結合の発生を誘発することとなり、発光効率の低下が懸念される。しかし、上述のように、本実施形態における長周期超格子層13の平均キャリア密度(本実施形態では電子密度)は高い。そのため、正孔が長周期超格子層13まで拡散することを防止できる。よって、長周期超格子層13のドナー性の結晶欠陥は、非発光再結合の中心として作用することは殆どなく、活性層15へドナーを供給するドナー供給源として作用する。
【0120】
また、本実施形態のようにドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aの各成長速度を井戸層15Bの成長速度よりも速くすると、ドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aの成長に要する時間(成長時間)の短縮化を図ることができ、また材料の低減化を図ることができる。よって、窒化物半導体発光素子の製造コスト削減を図ることもできる。この効果は、複数枚の大口径な基板(口径が6インチ以上)に対して同時に成膜処理を施す場合に、特に大きくなる。
【0121】
なお、本実施形態では、ドープ層13A、アンドープ層13B、障壁層15Aおよび井戸層15BがInを含む場合には、TMI(trimethyl indium)ガスの供給量を調整して、ドープ層13A、アンドープ層13B、障壁層15Aおよび井戸層15Bを結晶成長させることが好ましい。これにより、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bのそれぞれがフォトルミネッセンスにより発する光の波長を活性層15が発する光の波長以下とすることができる。
【0122】
また、本実施形態では、長周期超格子層13などの結晶成長の方法は特に限定されない。原料ガスとキャリアガスとを用いて長周期超格子層13などを結晶成長させる場合には、たとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法にしたがって結晶成長させる場合には、後述の第3の変形例に示す方法にしたがって窒化物半導体発光素子を製造することが好ましい。これにより、活性層15の結晶性がさらに向上するので、発光効率がさらに向上する。
【0123】
また、本実施形態に、上記第1の実施形態、上記第1の変形例、および上記第2の変形例のうちの少なくとも1つを組み合わせる場合には、ドープ層13A、アンドープ層13Bおよび障壁層15Aの各成長速度は井戸層15Bの成長速度と同じであっても良い。
【0124】
<第3の変形例>
第3の変形例では、0.3体積%以上30体積%以下の水素ガスを含むキャリアガスを用いて長周期超格子層13のドープ層13Aを成長させる。以下では、上記第2の実施形態とは異なる点を主に示す。
【0125】
上記第2の実施形態に示す方法にしたがって、基板3の上面にバッファ層5、下地層7、n型窒化物半導体層9、および短周期超格子層11を順に結晶成長させる。
【0126】
次に、短周期超格子層11の上面に長周期超格子層13を結晶成長させる。このとき、長周期超格子層13のドープ層13Aを成長させるときには、キャリアガスとして窒素ガスと0.3体積%以上30体積%以下の水素ガスとを用いることが好ましい。一方、長周期超格子層13のアンドープ層13Bを成長させるときには、キャリアガスとして窒素ガスを用いれば良い。なお、原料ガスは、ドープ層13Aおよびアンドープ層13Bの各組成に応じて適宜選択すれば良い。
【0127】
また、0.3体積%以上30体積%以下の水素ガスを含むキャリアガスを用いて長周期超格子層13のドープ層13Aを成長させるので、窒素ガスのみをキャリアガスとして用いてドープ層13Aを成長させる場合に比べて、ドープ層13Aの結晶品質が向上し、より平坦なドープ層13Aが成長しやすい。よって、上記第2の実施形態での製造方法にしたがって窒化物半導体発光素子を作製する場合に比べて、長周期超格子層13の上面の平坦性が向上する。したがって、活性層15の結晶性が向上するので、発光効率がさらに向上する。
【0128】
続いて、長周期超格子層13の上面に活性層15を結晶成長させる。このとき、活性層15の障壁層15Aを成長させるときには、キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスとを用いれば良い。また、活性層15の井戸層15Bを成長させるときには、キャリアガスとして窒素ガスを用いれば良い。なお、原料ガスは、障壁層15Aおよび井戸層15Bの各組成に応じて適宜選択すれば良い。
【0129】
続いて、上記第2の実施形態に示す方法にしたがって、活性層15の上面にp型窒化物半導体層17を結晶成長させ、p型窒化物半導体層17、活性層15、長周期超格子層13、短周期超格子層11、およびn型窒化物半導体層9をエッチングし、エッチングにより露出したn型窒化物半導体層9の上面上にn側電極21を形成し、p型窒化物半導体層17の上面上に透明電極23を介してp側電極25を形成する。
【0130】
<第4の変形例>
第4の変形例では、長周期超格子層13の成長温度を活性層15の成長温度よりも高くして長周期超格子層13を成長させる。以下では、上記第2の実施形態とは異なる点を主に示す。
【0131】
上記第2の実施形態に示す方法にしたがって、基板3の上面にバッファ層5、下地層7、n型窒化物半導体層9、および短周期超格子層11を順に結晶成長させる。その後、短周期超格子層11の上面に長周期超格子層13を結晶成長させる。
【0132】
このとき、長周期超格子層13の成長温度を、後工程で作製する活性層15の成長温度よりも高くする。具体的には、長周期超格子層13の成長温度を活性層15の成長温度よりも3℃以上30℃以下高くすることが好ましい。これにより、アンドープ層13BのIn組成が低くなり、よって、アンドープ層13Bの結晶品質が向上する。よって、上記第2の実施形態での製造方法にしたがって窒化物半導体発光素子を作製する場合に比べて、長周期超格子層13の上面の平坦性が向上する。したがって、活性層15の結晶性が向上するので、発光効率がさらに向上する。
【0133】
次に、上記第2の実施形態に示す方法にしたがって、長周期超格子層13の上面に活性層15およびp型窒化物半導体層17を結晶成長させ、p型窒化物半導体層17、活性層15、長周期超格子層13、短周期超格子層11、およびn型窒化物半導体層9をエッチングし、エッチングにより露出したn型窒化物半導体層9の上面上にn側電極21を形成し、p型窒化物半導体層17の上面上に透明電極23を介してp側電極25を形成する。
【実施例】
【0134】
以下では、本発明の実施例を示す。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されない。
<窒化物半導体発光素子の作製>
<実施例1>
まず、凹凸加工が上面に施されたサファイア基板を準備し、その上面上に、AlNからなるバッファ層と、ノンドープGaNからなる下地層と、n型GaNからなるn型コンタクト層と、n型GaNからなるn型クラッド層とを順に結晶成長させた。このとき、n型クラッド層の厚みは1μmであり、n型クラッド層におけるn型不純物濃度は6×1018cm-3であった。
【0135】
次に、成膜装置の温度を880℃に設定して、短周期超格子層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなる第1半導体層とノンドープInGaNからなる第2半導体層とを交互に20周期、結晶成長させた。
【0136】
原料ガスとしてTMG(trimethyl gallium)ガスとNH3ガスとを用い、キャリアガスとして窒素ガスを用いて、第1半導体層を結晶成長させた。各第1半導体層の厚みは1.75nmであり、各第1半導体層におけるSi濃度は3×1018cm-3であった。
【0137】
原料ガスとしてTMIガスとNH3ガスとを用い、キャリアガスとして窒素ガスを用いて、第2半導体層を結晶成長させた。各第2半導体層の厚みは1.75nmであった。また、第2半導体層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長が375nmとなるようにTMIの流量を調整したため、各第2半導体層ではInの組成が2%であった。キャリアが第1半導体層と第2半導体層とを拡散して平均化され、短周期超格子層の平均キャリア濃度は約1.5×1018cm-3となった。
【0138】
次に、成膜装置の温度を855℃まで下げて長周期超格子層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなるドープ層とノンドープInGaNからなるアンドープ層とを交互に3周期、結晶成長させた。
【0139】
原料ガスとしてTMGガスとNH3ガスとを用い、キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスとを用いて、ドープ層を結晶成長させた。各ドープ層の成長速度を100nm/hourとした。各ドープ層の厚みは5nmであり、各ドープ層におけるSi濃度は3.4×1017cm-3であった。
【0140】
原料ガスとしてTMIガスとNH3ガスとを用い、キャリアガスとして窒素ガスを用いて、アンドープ層を結晶成長させた。各アンドープ層の成長速度を100nm/hourとした。各アンドープ層の厚みは3.5nmであった。また、アンドープ層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長が448nmとなるようにTMIの流量を調整したため、各アンドープ層ではInの組成が22%であった。キャリアがドープ層とアンドープ層とを拡散して平均化され、長周期超格子層の平均キャリア濃度は約2.6×1017cm-3となった。
【0141】
次に、成膜装置の温度を850℃まで下げて活性層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなる障壁層とノンドープInGaNからなる井戸層とを交互に3周期、結晶成長させた。
【0142】
原料ガスとしてTMGガスとNH3ガスとを用い、キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスとを用いて、障壁層を結晶成長させた。各障壁層の成長速度を100nm/hourとした。各障壁層の厚みは5nmであり、各障壁層におけるSi濃度は3.4×1017cm-3であった。
【0143】
原料ガスとしてTMIガスとNH3ガスとを用い、キャリアガスとして窒素ガスを用いて、井戸層を結晶成長させた。各井戸層の成長速度を52nm/hourとした。各井戸層の厚みは3.5nmであった。また、井戸層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長が450nmとなるようにTMIの流量を調整したため、各井戸層ではInの組成が25%であった。キャリアが障壁層と井戸層とを拡散して平均化され、活性層の平均キャリア濃度は約2×1017cm-3となった。
【0144】
次に、井戸層の上面上に、ノンドープGaNからなる最上障壁層を10nm、結晶成長させた。
【0145】
次に、成膜装置の温度を上げて、最上障壁層の上面上に、p型AlGaN層、p型GaN層およびp型ハイドープコンタクト層を結晶成長させた。
【0146】
そして、n型コンタクト層の一部分が露出するように、p型ハイドープコンタクト層、p型GaN層、p型AlGaN層、活性層、長周期超格子層、短周期超格子層、n型クラッド層、およびn型コンタクト層をエッチングした。このエッチングにより露出したn型コンタクト層の上面上にAuからなるn側電極を形成した。また、p型ハイドープコンタクト層の上面上に、ITOからなる透明電極とAuからなるp側電極とを順に形成した。このようにして、実施例1に係る窒化物半導体発光素子を作製した。
【0147】
得られた窒化物半導体発光素子の光出力は、30mAで45mW、2.9Vであった。
<実施例2>
長周期超格子層の1周期当たりの厚みに対するSiドープGaNからなるドープ層の1層当たりの厚みの割合を高くすることを除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、実施例2に係る窒化物半導体発光素子を製造した。以下では、上記実施例1とは異なる点を主に示す。
【0148】
具体的には、上記実施例1と同様の方法にしたがって、サファイア基板の上面上に、バッファ層、下地層、n型コンタクト層、n型クラッド層、および短周期超格子層を結晶成長させた。
【0149】
次に、成膜装置の温度を855℃に設定して長周期超格子層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなるドープ層とノンドープInGaNからなるアンドープ層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、各ドープ層の厚みが6.5nmとなるようにドープ層の成長時間を調整した。キャリアがドープ層とアンドープ層とを拡散して平均化され、長周期超格子層の平均キャリア濃度は約2.9×1017cm-3となった。
【0150】
続いて、上記実施例1と同様の方法にしたがって、長周期超格子層の上面上に、活性層、p型AlGaN層、p型GaN層およびp型ハイドープコンタクト層を順に結晶成長させ、n側電極、透明電極、およびp側電極を作製した。このようにして、実施例2に係る窒化物半導体発光素子を得た。作製された窒化物半導体発光素子の光出力は、30mAで45mW、2.85Vであった。
【0151】
本実施例では、上記実施例1よりも、長周期超格子層の1周期当たりの厚みに対するドープ層の1層当たりの厚みの割合は高い。そのため、本実施例では、ドープ層におけるSi濃度を高くすることなく、長周期超格子層内におけるSiの総量が増加する。よって、長周期超格子層の平均キャリア濃度は上記実施例1よりも高くなる。また、ドープ層の平坦性の低下を招くことなく長周期超格子層の平均キャリア濃度を高めることができるので、活性層の結晶性の悪化を招くことなく活性層へのキャリア供給性を高めることができる。これらのことから、本実施例では、光出力は上記実施例1と同様であるが(45mW)、駆動電圧を上記実施例1よりも下げることができ(2.9Vから2.85Vへ低下)、よって、大電流駆動時における電力効率がさらに改善された。
【0152】
<実施例3>
長周期超格子層の成長温度を低くする、長周期超格子層の1周期当たりの厚みに対するノンドープGaNからなるアンドープ層の1層当たりの厚みの割合を低くする、および活性層の障壁層におけるSi濃度を低くすることを除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、実施例3に係る窒化物半導体発光素子を製造した。以下では、上記実施例1とは異なる点を主に示す。
【0153】
具体的には、上記実施例1と同様の方法にしたがって、サファイア基板の上面上に、バッファ層、下地層、n型コンタクト層、n型クラッド層、および短周期超格子層を結晶成長させた。
【0154】
次に、成膜装置の温度を850℃に設定して長周期超格子層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなるドープ層とノンドープInGaNからなるアンドープ層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、各アンドープ層の厚みが2.5nmとなるように、アンドープ層の成長時間を調整した。キャリアがドープ層とアンドープ層とを拡散して平均化され、長周期超格子層の平均キャリア濃度は約3.0×1017cm-3となった。
【0155】
次に、成膜装置の温度を変更せずに活性層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなる障壁層とノンドープInGaNからなる井戸層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、各障壁層におけるSi濃度が1.0×1017cm-3となるように障壁層に対するSiドープ量を調整した。キャリアが障壁層と井戸層とを拡散して平均化され、活性層の平均キャリア濃度は約6×1016cm-3となった。
【0156】
続いて、上記実施例1と同様の方法にしたがって、活性層の上面上に、p型AlGaN層、p型GaN層およびp型ハイドープコンタクト層を順に結晶成長させ、n側電極、透明電極、およびp側電極を作製した。このようにして、実施例3に係る窒化物半導体発光素子を得た。このようにして作製された窒化物半導体発光素子の光出力は、30mAで45mW、2.82Vとなった。
【0157】
本実施例では、上記実施例1よりも、長周期超格子層の1周期当たりの厚みに対するノンドープGaNからなるアンドープ層の1層当たりの厚みの割合は低い。そのため、本実施例では、上記実施例1よりも、長周期超格子層におけるアンドープ層の体積割合が低いため、長周期超格子層の平均キャリア濃度が高くなる。また、長周期超格子層のInGaN層の1層当たりの厚みを小さくすると、窒化物半導体発光素子の立ち上がり電圧が低くなることが知られている。これらのことから、本実施例では、光出力は上記実施例1と同様であるが(45mW)、駆動電圧を上記実施例2よりもさらに下げることができ(2.85Vから2.82Vへ低下)、よって、大電流駆動時における電力効率がさらに改善された。
【0158】
<実施例4>
キャリアガスの材料を変更して長周期超格子層のドープ層を結晶成長させたことを除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、実施例4に係る窒化物半導体発光素子を製造した。以下では、上記実施例1とは異なる点について主に示す。
【0159】
具体的には、上記実施例1と同様の方法にしたがって、サファイア基板の上面上に、バッファ層、下地層、n型コンタクト層、n型クラッド層、および短周期超格子層を結晶成長させた。
【0160】
次に、成膜装置の温度を855℃に設定して長周期超格子層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなるドープ層とノンドープInGaNからなるアンドープ層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、キャリアガスとして窒素ガスと3体積%の水素ガスとを用いて各ドープ層を成長させた。キャリアがドープ層とアンドープ層とを拡散して平均化され、長周期超格子層の平均キャリア濃度は約3.0×1017cm-3となった。
【0161】
続いて、上記実施例1と同様の方法にしたがって、長周期超格子層の上面上に、活性層、p型AlGaN層、p型GaN層およびp型ハイドープコンタクト層を順に結晶成長させ、n側電極、透明電極、およびp側電極を作製した。このようにして、実施例4に係る窒化物半導体発光素子を得た。作製された窒化物半導体発光素子の光出力は、30mAで46mW、2.85Vであった。
【0162】
本実施例では、3体積%の水素ガスを含むキャリアガスを用いてSiドープGaNからなる長周期超格子層のドープ層を作製している。そのため、SiがGaN膜中に取り込まれやすくなる。よって、855℃という比較低温度でSiドープGaNからなる長周期超格子層のドープ層を成長させた場合であっても、長周期超格子層の平均キャリア濃度が高くなる。また、キャリアガスが水素ガスを含むので、低温成長であっても高品質の結晶が得られやすくなり、長周期超格子層の上面の平坦性が改善され、したがって、活性層の結晶性が改善される。これにより、光出力が改善された(45mWから46mWへ向上)。
【0163】
<実施例5>
成長温度を高くして長周期超格子層を結晶成長させたこと、長周期超格子層の1周期当たりの厚みに対するSiドープGaNからなるドープ層の1層当たりの厚みの割合を高くしたこと、InGaNからなる長周期超格子層のアンドープ層におけるInとGaとの組成比を変更すること、およびSiドープGaNからなる活性層の障壁層の1層当たりの厚みを小さくすることを除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、実施例5に係る窒化物半導体発光素子を製造した。以下では、上記実施例1とは異なる点について主に示す。
【0164】
具体的には、上記実施例1と同様の方法にしたがって、サファイア基板の上面上に、バッファ層、下地層、n型コンタクト層、n型クラッド層、および短周期超格子層を結晶成長させた。
【0165】
次に、成膜装置の温度を860℃に設定して長周期超格子層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなるドープ層とノンドープInGaNからなるアンドープ層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、各ドープ層の厚みが6.5nmとなるようにドープ層の成長時間を調整した。また、アンドープ層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長が445nmとなるようにTMIの流量を調整したため、各アンドープ層ではInの組成が約22%であった。キャリアがドープ層とアンドープ層とを拡散して平均化され、長周期超格子層の平均キャリア濃度は約2.9×1017cm-3となった。
【0166】
次に、成膜装置の温度を850℃まで下げて活性層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなる障壁層とノンドープInGaNからなる井戸層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、各障壁層の厚みが4nmとなるように障壁層の成長時間を調整した。キャリアが障壁層と井戸層とを拡散して平均化され、活性層の平均キャリア濃度は約4.7×1016cm-3となった。
【0167】
続いて、上記実施例1と同様の方法にしたがって、活性層の上面上に、p型AlGaN層、p型GaN層およびp型ハイドープコンタクト層を順に結晶成長させ、n側電極、透明電極、およびp側電極を作製した。このようにして、実施例5に係る窒化物半導体発光素子を得た。作製された窒化物半導体発光素子の光出力は、30mAで48mW、2.8Vであった。
【0168】
本実施例では、長周期超格子層の成長温度が上記実施例1よりも高いので、長周期超格子層の結晶性が向上し、よって、長周期超格子層の上面の平坦性が上記実施例1よりも向上する。したがって、活性層の結晶品質が上記実施例1よりも向上する。また、活性層の障壁層の1層当たりの厚みが上記実施例1よりも小さいため、活性層の平均キャリア濃度が5×1016cm-3以下となる。したがって、電子と正孔とが拡散し易くなる。これにより、光出力が改善され(45mWから48mWへ向上)、駆動電圧が低くなった(2.9Vから2.8Vへ低下)。
【0169】
<実施例6>
活性層の障壁層がn型不純物を含んでいないことを除いては上記実施例1の方法にしたがって、実施例6における窒化物半導体発光素子を作製した。本実施例では、上記実施例1に記載の方法にしたがって短周期超格子層の作製工程まで行なったのち、以下に示す方法にしたがって長周期超格子層および活性層を作製した。
【0170】
成膜装置の温度を860℃に設定して長周期超格子層を結晶成長させた。具体的には、SiドープGaNからなるドープ層とノンドープInGaNからなるアンドープ層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、各ドープ層の厚みが6.5nmであり各アンドープ層の厚みが3.9nmとなるように、ドープ層およびアンドープ層のそれぞれの成長時間を調整した。また、アンドープ層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長が445nmとなるようにTMIの流量を調整したため、各アンドープ層ではInの組成が約22%であった。キャリアがドープ層とアンドープ層とを拡散して平均化され、長周期超格子層の平均キャリア濃度は約2.7×1017cm-3となった。
【0171】
次に、成膜装置の温度を850℃まで下げて活性層を結晶成長させた。具体的には、ノンドープGaNからなる障壁層とノンドープInGaNからなる井戸層とを交互に3周期、結晶成長させた。このとき、各障壁層の厚みが4nmであり各井戸層の厚みが3.9nmとなるように、障壁層および井戸層のそれぞれの成長時間を調整した。活性層の平均キャリア濃度は約2×1016cm-3となった。その後、最上障壁層を10nm結晶成長させた。
【0172】
このように障壁層をノンドープ層とすれば、大電流が活性層に注入された時でも注入キャリアが活性層中で拡散しやすく、局所的な電流密度の増大が起こらないため、高い発光効率が得られた。これにより、光出力が改善され(45mWから50mWへ向上)た。
【0173】
<比較例1>
特許文献1に記載の方法にしたがって、長周期超格子層および短周期超格子層を設けず、且つノンドープInGaN層3nmからなる井戸層とSiが1×1017cm-3ドープされたGaN層18nmからなる障壁層とで構成された活性層を含む窒化物半導体発光素子を作製した。作製された窒化物半導体発光素子の光出力は、30mAで37mW、3.8Vであった。
【0174】
<評価>
実施例1に係る窒化物半導体発光素子および比較例1に係る窒化物半導体発光素子に対して駆動電流を変えて外部量子効率を測定した。具体的には、各駆動電流を流した時の光出力を測定し、光出力から外部量子効率を計算した。すると、図2に示す結果が得られた。ここで、図2は、駆動電流IFに対する外部量子効率ηexの変化を示すグラフである。
【0175】
図2に示すように、駆動電流が1mA以下においては、実施例1と比較例1とでは外部量子効率はそれほど差がなかった。しかし、駆動電流が1mAを超えると外部量子効率は実施例1の方が大きくなり、駆動電流が大きくなるにつれて外部量子効率の差は大きくなった。したがって、実施例1では、大電流駆動時における電力効率の悪化が防止されていると言える。
【0176】
また、実施例1に係る窒化物半導体発光素子および比較例1に係る窒化物半導体発光素子に対してC−V特性を求め、そのC−V特性に基づいてキャリア濃度を算出した。すると、図3に示す結果が得られた。ここで、図3は、活性層の上面からの深さに対するキャリア濃度の変化を示すグラフである。
【0177】
図3に示すように、実施例1では、活性層の平均キャリア濃度が2×1017cm-3であり、長周期超格子層の平均キャリア濃度が2.6×1017cm-3である。このことから、長周期超格子層の平均キャリア濃度は活性層の平均キャリア濃度よりも大きいと考えられる。
【0178】
また、実施例1では、比較例1に比べて、活性層よりも平均キャリア濃度が高い長周期超格子層が設けられている。このことから、実施例1における活性層の平均キャリア濃度は比較例1における活性層の平均キャリア濃度よりも高いと言える。よって、実施例1では、比較例1に比べて、大電流駆動時における電力効率の悪化を防止できると考えられる。
【0179】
なお、比較例1では、実施例1に比べて、活性層の障壁層が厚い。そのため、比較例1における活性層の1層当たりの厚みは、実施例1における活性層の1層当たりの厚みよりも大きくなる。よって、比較例1では、窒化物半導体発光素子の駆動電圧が高くなってしまい、その電力効率が低下すると言える。
【0180】
また、実施例1では、図3に示すように、長周期超格子層よりも基板側(長周期超格子層よりも深い位置)に、平均キャリア濃度が長周期超格子層よりも高い層(短周期超格子層に相当)が設けられている。よって、逆バイアスの電流が実施例1に係る窒化物半導体発光素子に印加された場合、空乏層は短周期超格子層までしか伸びないと考えられる。このため、n型窒化物半導体層に欠陥が存在したとしても、そこまで空乏層がのびないため、欠陥に大きな電界がかかることはない。また、空乏層が狭いことにより、トンネル電流などによるディスチャージが効果的に起こって、一部の欠陥に大電流が集中することはない。よって、逆バイアスの電流が実施例1に係る窒化物半導体発光素子に印加された場合であっても、実施例1に係る窒化物半導体発光素子において静電破壊が起こることを防止できると言える。
【0181】
一方、比較例1では、図3に示すように、活性層よりも基板側には、活性層よりも平均キャリア濃度が高い層は設けられていない。そのため、逆バイアスの電流が比較例1に係る窒化物半導体発光素子に印加されたときに、空乏層がn型窒化物半導体層にまで伸びるおそれがあり、n型窒化物半導体層中に存在する欠陥(転位など)に電流が集中して静電破壊が起こるおそれがあると言える。
【0182】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0183】
1 窒化物半導体発光素子、3 基板、5 バッファ層、7 中間層、9 n型窒化物半導体層、11 短周期超格子層、11A 第1半導体層、11B 第2半導体層、13 長周期超格子層、13A ドープ層、13B アンドープ層、15 活性層、15A 障壁層、15B 井戸層、17 p型窒化物半導体層、21 n側電極、23 透明電極、25 p側電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型窒化物半導体層と、
前記第1導電型窒化物半導体層の上に設けられた超格子層と、
前記超格子層の上に設けられた活性層と、
前記活性層の上に設けられた第2導電型窒化物半導体層とを備え、
前記超格子層の平均キャリア濃度は、前記活性層の平均キャリア濃度よりも高い窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記超格子層の平均キャリア濃度は、前記活性層の平均キャリア濃度に対して1.2倍以上である請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記超格子層は、第1導電型不純物を含むドープ層を有し、
前記活性層は、障壁層を有し、
前記超格子層の1周期当たりの厚みに対する前記ドープ層の1層当たりの厚みの割合は、前記活性層の1周期当たりの厚みに対する前記障壁層の1層当たりの厚みの割合以上である請求項1または2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記ドープ層における第1導電型不純物の濃度は、前記障壁層における第1導電型不純物の濃度以上である請求項1〜3のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記超格子層は、第1導電型不純物を含まないアンドープ層を有し、
前記活性層は、前記第1導電型不純物を含まない井戸層を有し、
前記超格子層の1周期当たりの厚みに対する前記アンドープ層の1層当たりの厚みの割合は、前記活性層の1周期当たりの厚みに対する前記井戸層の1層当たりの厚みの割合以下である請求項1〜4のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記アンドープ層は、前記活性層の下面に接している請求項5に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記超格子層は、2層以上の前記ドープ層を有する請求項3〜6のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記ドープ層の1層当たりの厚みは、1.5nm以上である請求項3〜7のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
前記ドープ層における第1導電型不純物の濃度は、1×1017cm-3以上である請求項3〜8のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
前記障壁層は前記第1導電型不純物を含んでいない、または前記障壁層における第1導電型不純物の濃度は8×1017cm-3以下である請求項3〜9のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
前記活性層は、2層以上の前記井戸層を有する請求項5〜10のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項12】
前記障壁層の1層当たりの厚みは、7nm以下である請求項3〜11のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項13】
前記第1導電型窒化物半導体層と前記超格子層との間には、1周期当たりの厚みが前記超格子層の1周期当たりの厚みよりも薄い短周期超格子層が設けられており、
前記短周期超格子層における第1導電型不純物の濃度は、1×1018cm-3以上5×1019cm-3以下である請求項1〜12のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項14】
前記超格子層は、前記ドープ層と前記アンドープ層とが積層されて構成されており、
前記ドープ層は、前記第1導電型不純物とAlaGabIn(1-a-b)N(0≦a<1、0<b≦1)とを含み、
前記アンドープ層は、IncGa(1-c)N(0<c≦1)からなる請求項5〜13のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項15】
前記活性層は、前記障壁層と前記井戸層とが積層されて構成されており、
前記障壁層は、前記第1導電型不純物とAlxGayIn(1-x-y)N(0≦x<1、0<y≦1)を含み、
前記井戸層は、InzGa(1-z)N(0<z≦1)からなる請求項5〜14のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項16】
前記超格子層および前記活性層は、それぞれ、Inを含み、
前記超格子層がフォトルミネッセンスにより発する光の波長は、前記活性層が発する光の波長以下である請求項1〜15のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
基板の上に、前記第1導電型の窒化物半導体層を成長させる工程と、
前記第1導電型の窒化物半導体層の上に、前記超格子層を成長させる工程と、
前記超格子層の上に、前記活性層を成長させる工程と、
前記活性層の上に、前記第2導電型の窒化物半導体層を設ける工程とを備え、
前記超格子層の成長速度は、前記活性層の一部である井戸層の成長速度以上である窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記超格子層を構成する層のうち第1導電型不純物を含まない層の成長速度は、前記井戸層の成長速度以上である請求項17に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項19】
第1原料ガスと第1キャリアガスとを用いて、前記超格子層を構成する層のうち第1導電型不純物を含む層を成長させ、
前記第1キャリアガスは、0.3体積%以上30体積%以下の水素ガスを含む請求項17または18に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項20】
前記超格子層の成長温度は、前記活性層の成長温度と同じ、または前記活性層の成長温度よりも高い請求項17〜19のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項21】
前記井戸層の成長速度は、10nm/h以上150nm/h以下である請求項17〜20のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−12683(P2013−12683A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145900(P2011−145900)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】