説明

窒化物半導体紫外線発光素子

【課題】 窒化物半導体紫外線発光素子において、n型AlGaN系半導体層からなるn型クラッド層とn電極間の寄生抵抗を、n型クラッド層のAlNモル分率に関係なく低抵抗化し、順方向電圧の低電圧化を図る。
【解決手段】 n型クラッド層6上のn型クラッド層6の表面と平行な面内の第1領域に、バンドギャップエネルギが3.4eV以上のAlGaN系半導体層を有する活性層7と、活性層7より上層に位置するp型AlGaN系半導体層からなるp型クラッド層9が形成され、n型クラッド層6上の第1領域以外の第2領域内の少なくとも一部に、n型AlGaN系半導体層からなるn型コンタクト層11が形成され、n型コンタクト層11のAlNモル分率が0%以上60%以下の範囲内にあって、且つ、n型クラッド層6のAlNモル分率より小さく、n型コンタクト層6とオーミック接触するn電極13がn型コンタクト層11上に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード、レーザダイオード等に利用される発光中心波長が約365nm以下の窒化物半導体発光素子に関し、特に、n電極とn型クラッド層間の寄生抵抗の低抵抗化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、GaN系窒化物半導体はGaNや比較的AlNモル分率(AlN混晶比率またはAl組成比とも呼ばれる。)の小さいAlGaN層をベースとして、その上に多層構造から成る発光素子や受光素子が作製されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。図18に、典型的な従来のGaN系発光ダイオードの結晶層構造を示す。図18に示す発光ダイオードは、サファイア基板101上に、AlNからなる下地層102を形成し、周期的な溝構造をフォトリソグラフィと反応性イオンエッチングで形成した後に、ELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)−AlN層103を、テンプレートとして形成し、当該ELO−AlNテンプレート103上に、膜厚2μmのn型AlGaNのn型クラッド層104、AlGaN/GaN多重量子井戸活性層105、AlNモル分率が多重量子井戸活性層105より大きい膜厚が20nmのp型AlGaNの電子ブロック層106、膜厚が50nmのp型AlGaNのp型クラッド層107、膜厚が20nmのp型GaNのコンタクト層108を順番に積層した積層構造を有している。多重量子井戸活性層105は、膜厚2nmのGaN井戸層を膜厚8nmのAlGaNバリア層で挟んだ構造を5層積層した構造を有している。結晶成長後、n型クラッド層104の一部表面が露出するまで、その上の多重量子井戸活性層105、電子ブロック層106、p型クラッド層107、及び、p型コンタクト層108をエッチング除去し、p型コンタクト層108の表面に、例えば、Ni/Auのp電極109が、露出したn型クラッド層104の表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn電極110が夫々形成されている。GaN井戸層をAlGaN井戸層として、AlNモル分率や膜厚を変化させることにより発光波長の短波長化を行い、或いは、Inを添加することで発光波長の長波長化を行い、波長200nmから400nm程度の紫外領域の発光ダイオードが作製できる。半導体レーザについても類似の構成で作製可能である。
【0003】
図18に示す発光ダイオードの場合、n型AlGaNのn型クラッド層104の表面にTi/Al/Ti/Auのn電極110が形成されている。n型AlGaNとオーミック接触するn電極として、Crをベースとしてその上にAlを設けた電極構造が提案されている(下記の特許文献1参照)。当該特許文献1では、Al単体のn電極ではn型AlGaNと完全なオーミック接触が形成されないことが開示されている。更に、特許文献1と同じ出願人から、Al及びInはn型窒化ガリウム系化合物半導体と十分なオーミック接触が得難いことが報告されており、n型窒化ガリウム系化合物半導体と十分なオーミック接触を得る金属材料として、AlにTiを含有させた合金膜または多層膜を使用すること、400℃以上の温度でアニーリング(熱処理)することが提案されている(下記の特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−291621号公報
【特許文献2】特開平07−2783349号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kentaro Nagamatsu,etal.,“High−efficiency AlGaN−based UV light−emitting diode on laterally overgrown AlN”,Journal of Crystal Growth,2008,310,pp.2326−2329
【非特許文献2】Shigeaki Sumiya,etal.,“AlGaN−Based Deep Ultraviolet Light−Emitting Diodes Grown on Epitaxial AlN/Sapphire Templates”,Japanese Journal of Applied Physics,Vol.47, No.1, 2008,pp.43−46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒化物半導体紫外線発光素子は、p型クラッド層とn型クラッド層の間に活性層(発光層)を挟持したダブルヘテロ構造を備え、発光波長は活性層のバンドギャップエネルギ(禁制帯幅)で定まり、各クラッド層を構成するAlGa1−xNのAlNモル分率xは、活性層より大きく設定されている。従って、発光波長の短波長化により、各クラッド層のAlNモル分率は大きくなる。例えば、発光中心波長が280nm付近の場合では、各クラッド層のAlNモル分率は60%程度となり、発光中心波長が250nm付近の場合では、各クラッド層のAlNモル分率は75%程度となる。
【0007】
上記特許文献2では、AlNモル分率0.1のAlGaNのn型クラッド層について、AlにTiを含有させた合金膜または多層膜を450℃でアニーリングしたものを使用することで、n型クラッド層とオーミック接触するn電極が得られることが実施例において開示されているだけで、n型クラッド層のAlNモル分率が更に大きくなった場合においても良好なオーミック接触が可能かどうかの開示はなされていない。更に、特許文献1では、AlGaNのn型クラッド層のAlNモル分率についての言及は一切なされていない。
【0008】
しかし、n型AlGaN系半導体層からなるn型クラッド層とAlを主成分とするn電極との間の接触抵抗は、n型クラッド層のAlNモル分率が大きくなると、増加する傾向にあり、特に60%を超えると顕著となる(例えば、非特許文献2参照)。当該接触抵抗の増加は、p電極とn電極間に印加する順方向電圧の高電圧化を招き、消費電力の増大、更には、ジュール熱による発光素子の発熱量の増加による素子寿命の低下を招く虞がある。
【0009】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、n型AlGaN系半導体層からなるn型クラッド層とn電極間の寄生抵抗を、n型クラッド層のAlNモル分率に関係なく低抵抗化し、順方向電圧の高電圧化を抑制した高信頼度の窒化物半導体紫外線発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明では、n型AlGaN系半導体層からなるn型クラッド層上の前記n型クラッド層の表面と平行な面内の第1領域に、バンドギャップエネルギが3.4eV以上のAlGaN系半導体層を有する活性層と、前記活性層より上層に位置するp型AlGaN系半導体層からなるp型クラッド層が形成され、前記n型クラッド層上の前記第1領域以外の第2領域内の少なくとも一部に、n型AlGaN系半導体層からなるn型コンタクト層が形成され、前記n型コンタクト層のAlNモル分率が0%以上60%以下の範囲内にあって、且つ、前記n型クラッド層のAlNモル分率より小さく、前記n型コンタクト層とオーミック接触するn電極が前記n型コンタクト層上に形成されていることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子が提供される。
【0011】
尚、本発明では、AlGaN系半導体は、一般式AlGa1−xN(xはAlNモル分率、0≦x≦1)で表わされる3元(または2元)加工物を基本とし、そのバンドギャップエネルギがGaN(x=0)のバンドギャップエネルギ(約3.4eV)以上の3族窒化物半導体であり、当該バンドギャップエネルギに関する条件を満たす限りにおいて、微量のInが含有されている場合も含まれる。
【0012】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記n型コンタクト層が、前記第2領域内の少なくとも一部の前記n型クラッド層表面上に再成長して形成されていることが好ましい。
【0013】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記n電極が、前記紫外線を反射する金属を主成分として含有していること、或いは、Alを主成分とする金属多層膜または合金で形成されていることが好ましい。
【0014】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記紫外線を反射する金属を主成分として含有する前記n電極の一部が、前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分に形成されていること、或いは、前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分に、前記n電極と電気的に接続する前記紫外線を反射する金属を主成分とする反射電極が形成されていることが好ましい。
【0015】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記n型コンタクト層がGaNであることが好ましい。
【0016】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記n型クラッド層が、絶縁体層、半導体層、または、絶縁体層と半導体層の積層体からなる前記紫外線を透過するテンプレート上に形成されていることが好ましい。
【0017】
更に上記目的を達成するため、本発明では、所定のテンプレート上に、n型AlGaN系半導体層からなるn型クラッド層を形成する工程と、前記n型クラッド層の上側にバンドギャップエネルギが3.4eV以上のAlGaN系半導体層を有する活性層を形成する工程と、前記活性層の上側にp型AlGaN系半導体層からなるp型クラッド層を形成する工程と、前記n型クラッド層より上層に形成された半導体層の前記n型クラッド層の表面と平行な面内の第1領域以外の第2領域をエッチング除去して、前記n型クラッド層を前記第2領域において露出させる工程と、露出した前記n型クラッド層上の前記第2領域内の少なくとも一部に、AlNモル分率が0%以上60%以下の範囲内にあって、且つ、前記n型クラッド層のAlNモル分率より小さいn型AlGaN系半導体層からなるn型コンタクト層を形成する工程と、前記n型コンタクト層とオーミック接触する金属からなるn電極を前記n型コンタクト層上に形成する工程と、を有することを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法が提供される。
【0018】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記n型コンタクト層を形成する工程において、前記第1領域と前記第2領域を覆う誘電体膜を形成し、前記第2領域内の前記n型コンタクト層を形成する箇所の前記誘電体膜に開口部を形成し、前記開口部を通して露出した前記n型クラッド層上に、前記n型コンタクト層を再成長させることが好ましい。
【0019】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記n型コンタクト層を形成する工程において、前記誘電体膜上に成長したn型AlGaN系半導体の多結晶膜を、リフトオフ法により前記誘電体膜と同時に除去することが好ましい。
【0020】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記n電極が、前記紫外線を反射する金属を主成分として含有していること、或いは、前記n電極を形成する工程において、前記n電極を、Alを主成分とする金属多層膜または合金で形成することが好ましい。
【0021】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記n電極を形成する工程で、前記n電極を前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分にも形成すること、或いは、前記n電極を形成する工程の後に、前記n電極を前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分に、前記n電極と電気的に接続する前記紫外線を反射する金属を主成分とする反射電極を形成する工程を有することが好ましい。
【0022】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記n型コンタクト層がGaNであることが好ましい。
【0023】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記テンプレートが、前記紫外線を透過することが好ましい。
【0024】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記n型コンタクト層のAlNモル分率が25%以下であり、前記n電極を形成する工程において、熱処理温度が600℃以下か、または、熱処理を行わないことが好ましい。
【0025】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法において、前記n電極を形成する工程の前に、前記p型クラッド層の上側に前記p型クラッド層と電気的に接続するp電極を形成する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子または窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法によれば、n型クラッド層とn電極の間に、AlNモル分率が0%以上60%以下の範囲内でn型クラッド層よりAlNモル分率の小さいn型コンタクト層が介在しているため、n電極とn型コンタクト層間が確実にオーミック接触し、その接触抵抗が、n電極とn型クラッド層が直接接触する場合より低下するため、n型クラッド層とn電極間の寄生抵抗を抑制でき、順方向電圧の低電圧化が図れ、結果として、発光素子の低消費電力化並びに長寿命化が図れる。以下、図1を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の基礎となる測定データで、n型AlGa1−xN層上に形成したn電極(Ti/Al/Ti/Au:最下層がTi、最上層がAu)とn型AlGaN層との接触抵抗ρ(単位:Ωcm)と熱処理温度T(単位:℃)の関係を、n型AlGaN層のAlNモル分率xが、0%、25%、40%、60%、75%の5通りについて測定した結果を示す。図1に示す各ポイントは、同じAlNモル分率の同じ熱処理温度で処理した複数のサンプルの接触抵抗の平均値をプロットしたもので、破線で示す曲線は、各ポイントの変化の傾向を便宜的に示すものである。尚、接触抵抗の測定は、公知のTLM(Transmission Line Model)法により行った。熱処理温度は450℃〜1000℃の範囲内に設定し、AlNモル分率xが0%のサンプルは、熱処理を行わない場合も測定対象とした。AlNモル分率xが0%のサンプルは、熱処理なしの場合と、熱処理温度が450℃の場合で接触抵抗は同じであった。また、AlNモル分率xが75%のサンプルについては、熱処理温度が950℃において、AlNモル分率xが60%のサンプルと比較して、接触抵抗が平均で200倍以上高く、良好なオーミック接触が形成されておらず、熱処理温度が900℃以下では、オーミック接触が得られていない。更に、AlNモル分率xが75%のサンプルについては、接触抵抗のバラツキも大きく、更に2桁以上高い接触抵抗も測定されている。
【0028】
図1の測定結果より、各AlNモル分率xにおいて、接触抵抗ρが低下し、最低値またはその近傍値となる熱処理温度Tの範囲があり、AlNモル分率xが小さい程、当該範囲が広く且つ低温域に分布し、大きい程、当該範囲が狭く且つ高温域に移動することが分かる。また、熱処理温度Tが当該温度範囲を超えて上昇すると接触抵抗ρが上昇し、また、熱処理温度Tが当該温度範囲より低下した場合も接触抵抗ρが上昇し、熱処理温度Tが低下し過ぎると、オーミック接触が形成されなくなる。AlNモル分率xが0〜0.6の範囲内では、熱処理温度Tを適正に選択することで、接触抵抗ρを0.01Ωcm以下に調整できることが分かる。図2及び図3に、接触抵抗ρと発光ダイオードの順方向電圧Vfとの関係を複数のサンプルで測定した結果を示す。図2は、順方向電流が20mAの場合、図3は、順方向電流が100mAの場合を夫々示す。図2及び図3より、接触抵抗ρが0.01Ωcm以下であれば、順方向電流が20mAの場合の順方向電圧Vfが約6V以下、順方向電流が100mAの場合の順方向電圧Vfが約10V以下に抑えることができ、実用上問題のないレベルとなる。尚、接触抵抗ρが0.001Ωcm程度から更に低下すると、順方向電圧Vfに占めるn電極の接触抵抗での電圧降下の割合が相対的に低下するため、n電極の接触抵抗以外の寄生抵抗が同じであれば、接触抵抗ρを0.001Ωcmより更に低減しても順方向電圧Vfの低電圧化にはあまり寄与しないと考えられる。
【0029】
以上より、n型クラッド層とn電極の間に、n型クラッド層よりAlNモル分率の小さいn型コンタクト層を介在させることで、n電極の接触抵抗の低下と熱処理温度の低下の両方を同時に図ることができる。特に、n型クラッド層上に直接n電極を形成した場合に、n電極の接触抵抗が極めて大きな値となるn型クラッド層のAlNモル分率が60%を超える場合に、上記効果は顕著となる。
【0030】
更に、活性層からn電極に至る電流経路の寄生抵抗を低下させるために、一般的にn型クラッド層上の活性層の形成されていない第2領域の面積を或る程度大きく確保する必要があるが、当該第2領域の面積の確保は、逆に活性層の形成される第1領域の面積を犠牲にするため、同じ発光量を得るためにはチップサイズが大きくなる。しかし、上記特徴構成によれば、n電極とn型コンタクト層間の接触抵抗が低下することで、活性層からn電極に至る電流経路の寄生抵抗が低下するため、n型クラッド層の第2領域の面積のチップサイズに占める割合を従来のものより低減でき、同じ発光量を得るためのチップサイズを縮小でき、同じチップサイズであれば、発光量の増大と順方向電圧の低電圧化が図れる。
【0031】
更に、活性層及びp型クラッド層を成長させ、それらの一部をエッチング除去して露出したn型クラッド層上に、再成長によりn型コンタクト層を形成することで、予めn型コンタクト層をn型クラッド層の下側に形成する必要がない。ここで、再成長とは、下地のn型クラッド層の結晶成長とn型コンタクト層の結晶成長が連続した一連の成長でないことを意味する。発光ダイオードの場合において、n型クラッド層の下側にAlNモル分率の小さいn型コンタクト層が存在すると、活性層からの発光(紫外線)がn型コンタクト層で吸収されるため、発光を下層側から取り出すことができない。発光を上側から取り出すとすれば、p型クラッド層の上にAlNモル分率の小さいp型コンタクト層を設けることができなくなり、p電極を低抵抗で形成することが困難となり、順方向電圧の低電圧化が阻害される。従って、n型クラッド層の下側にAlNモル分率の小さいn型コンタクト層を設けない構成とすることで、順方向電圧の低電圧化が確実に図れる。尚、n型クラッド層が絶縁体層、半導体層、または、絶縁体層と半導体層の積層体からなるテンプレート上に形成されている場合は、当該テンプレートが紫外線を透過することで、発光を下層側から取り出すことができる。
【0032】
また、n電極が活性層から発光される紫外線を反射する金属、例えば、Alを主成分として含有している場合、発光を下層側から取り出す場合の取り出し効率の向上が図れる。同様に、n電極と接続する紫外線を反射する金属を含有する反射電極をn型コンタクト層の形成されていないn型クラッド層上に形成することで、発光を下層側から取り出す場合の取り出し効率の向上が図れる。上述のように、活性層からn電極に至る電流経路の寄生抵抗を低下させるために、n型クラッド層の第2領域の面積は或る程度必要となるが、発光を下層側から取り出す場合に、例えば下層側の基板表面で反射した光(紫外線)をn型クラッド層上の第2領域のn電極或いは反射電極で再反射させることで、実際に発光素子から取り出せる発光量が増加し、外部量子効率が向上する。
【0033】
ここで、n型コンタクト層のAlNモル分率がn型クラッド層より小さいため、例えば、AlNモル分率が0%のGaNの場合には、反射光がn型コンタクト層で吸収されるため、n型コンタクト層上のn電極は反射光の再反射に寄与しないが、n電極の一部或いは反射電極を、n型クラッド層上の第2領域内のn型コンタクト層が形成されていない部分にも形成することで、実際に発光素子から取り出せる発光量が増加し、外部量子効率が向上する。
【0034】
更に、従来のn型クラッド層上に直接n電極を設ける場合、n型クラッド層のAlNモル分率が20%以上においては、n電極とn型クラッド層間での良好なオーミック接触を得るために、800℃程度以上の高温での熱処理が必要であった。ところが、このような高温での熱処理は、n電極の表面性状を劣化させるため、後工程でのワイヤーボンディングに悪影響を及ぼす。しかし、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法では、n型クラッド層上に直接n電極を設ける必要がないため、n電極を形成する工程における熱処理温度を600℃(Alの融点の660.4℃より更に低温)以下に抑制でき、後工程でのワイヤーボンディングに与える悪影響を軽減できる。
【0035】
更に、従来のn型クラッド層上に直接n電極を設ける場合、高温での熱処理が必要であったため、p電極を形成する工程はn電極を形成する工程の後に設けていたが、n電極を形成する工程において、熱処理温度が600℃以下か、または、熱処理を行わないことで、p電極を形成する工程をn電極を形成する工程より先に行うことが可能となる。p電極をn電極より先に形成することで、p電極の形成に要する熱処理温度に対する制約が緩和されp電極として使用可能な材料の選択肢が増える。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】n型AlGaN層上に形成したn電極とn型AlGaN層との接触抵抗と熱処理温度Tとn型AlGaN層のAlNモル分率との間の関係の測定結果を示す特性図
【図2】接触抵抗ρと発光ダイオードの順方向電圧Vf(@20mA)との関係の測定結果を示す特性図
【図3】接触抵抗ρと発光ダイオードの順方向電圧Vf(@100mA)との関係の測定結果を示す特性図
【図4】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における積層構造を模式的に示す断面図
【図5】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(p型コンタクト層形成後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図6】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(Niマスク被覆後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図7】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(n型クラッド層表面露出後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図8】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(選択成長用マスク形成後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図9】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(n型コンタクト層選択成長後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図10】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(選択成長用マスク除去後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図11】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(n電極形成後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図12】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(反射電極形成後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図13】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施形態における一製造工程(p電極形成後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図14】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の別実施形態における一製造工程(n電極形成後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図15】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の一実施例とn型コンタクト層を備えていない比較例における順方向電圧Vfと順方向電流Ifの電流電圧特性の測定結果を示す特性図
【図16】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の2つの実施例の平面視パターンを模式的に示す平面図
【図17】本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子の別実施形態における一製造工程(反射電極形成後)の積層構造を模式的に示す工程断面図
【図18】従来のAlGaN系発光ダイオードの結晶層構造を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子(以下、適宜「本発明素子」と称する)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。尚、以下の説明で使用する図面では、説明の理解の容易のために、要部を強調して発明内容を模式的に示しているため、各部の寸法比は必ずしも実際の素子と同じ寸法比とはなっていない。以下、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明する。
【0038】
図4に示すように、本発明素子1は、サファイア基板2上にAlN層3とAlGaN層4を成長させた基板をテンプレート5として用い、当該テンプレート5上に、膜厚3.4μmのn型AlGaNからなるn型クラッド層6、活性層7、Alモル分率が活性層7より大きいp型AlGaNの電子ブロック層8、p型AlGaNのp型クラッド層9、p型GaNのp型コンタクト層10を順番に積層した積層構造を有している。n型クラッド層6より上部の活性層7、電子ブロック層8、p型クラッド層9、p型コンタクト層10の一部が、n型クラッド層6の一部表面が露出するまで反応性イオンエッチング等により除去され、n型クラッド層6上の第1領域(R1)に活性層7からp型コンタクト層10までの積層構造が形成されている。n型クラッド層6上の第1領域を除く第2領域(R2)の一部には、n型クラッド層6よりAlモル分率の小さいn型AlGaNからなる膜厚50nmのn型コンタクト層11が形成されている。また、活性層7は、一例として、膜厚10nmのn型AlGaNのバリア層7aと膜厚3.5nmのAlGaNの井戸層7bからなる単層の量子井戸構造となっている。活性層7は、下側層と上側層にAlモル分率の大きいn型及びp型AlGaN層で挟持されるダブルヘテロジャンクション構造であれば良く、また、上記単層の量子井戸構造を多層化した多重量子井戸構造であっても良い。
【0039】
各AlGaN層は、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法、或いは、分子線エピタキシ(MBE)法等の周知のエピタキシャル成長法により形成されており、n型層のドナー不純物として、例えばSi、p型層のアクセプタ不純物として、例えばMgを使用している。尚、導電型を明記していないAlN層及びAlGaN層は、不純物注入されないアンドープ層である。また、n型AlGaN層及び活性層のAlNモル分率は、一例として、AlGaN層4、n型クラッド層6及びバリア層7aが60%、井戸層7bが35%となっている。n型コンタクト層11のAlNモル分率は、0%〜60%の範囲内(好ましくは0%〜40%の範囲内、より好ましくは0%〜25%の範囲内)で、n型クラッド層6のAlNモル分率より小さい値とする。また、n型コンタクト層11とn型クラッド層6のAlNモル分率の差は10%乃至20%以上であるのが好ましく、更に好ましくは、n型コンタクト層11がn型GaN(AlNモル分率が0%)であるのが良い。
【0040】
p型コンタクト層10の表面に、例えば、Ni/Auのp電極12が、n型コンタクト層11の表面に、例えば、Ti/Al/Ti/Auのn電極13が形成され、n型クラッド層6のn型コンタクト層11で被覆されていない露出面の一部に、例えば、Al/Ti/Auの反射電極14が形成されている。尚、図4に示す素子構造は、図18に示す従来の発光ダイオードの素子構造と、n電極13の下地構造及び周辺構造を除き、基本的に同じである。従って、本発明素子1は、n電極13の下地構造及び周辺構造を含むn電極構造に特徴がある。
【0041】
次に、本発明素子1の製造方法について説明する。特に、図4に示すn電極構造部分の製造方法について詳細に説明する。図5〜図14に、主たる製造工程における工程断面図を示す。
【0042】
先ず、図5に示すように、テンプレート5、及び、n型クラッド層6からp型コンタクト層10までの各層は、上述のように周知の成長方法により形成される。p型コンタクト層10の形成後、アクセプタ不純物であるMgの活性化のため、例えば800℃で熱処理を施す。次に、図6に示すように、周知のフォトリソグラフィ技術により、p型コンタクト層10の表面の第1領域を、例えばNiマスク20で被覆する。引き続き、図7に示すように、n型クラッド層6上の全面に堆積された活性層7からp型コンタクト層10までの各層の第2領域に位置する部分を、反応性イオンエッチング等の周知の異方性エッチング法により除去し、n型クラッド層6の表面が露出後に、Niマスク20を除去する。
【0043】
引き続き、図8に示すように、選択成長用のマスクとなる非晶質であるSiO膜21を、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法等の周知の堆積法により基板全面に膜厚200nmで堆積させ、周知のフォトリソグラフィ技術及びエッチング法により、堆積したSiO膜21の第2領域内の一部に開口部22を形成する。
【0044】
引き続き、図9(A)に示すように、開口部22の底部に露出したn型クラッド層6の表面上に、n型コンタクト層11と同様のエピタキシャル成長方法により、n型GaNのn型コンタクト層11を選択成長させる。ここで、n型コンタクト層11としてn型AlGaN(Alモル分率>0)を使用した場合には、図9(B)に示すように、SiO膜21上に多結晶のn型AlGaN23が堆積する。n型コンタクト層11がn型GaNの場合には、SiO膜21が非晶質であり、その表面にはGaN分子を吸着するダングリングボンドが少ないため、n型コンタクト層11の表面(結晶面)と比較して吸着エネルギが極めて小さく、更に、GaN分子はマイグレーションが大きいため、吸着エネルギの大きいn型コンタクト層11の表面に専ら成長して、SiO膜21上には多結晶としても成長しない。これに対して、n型コンタクト層11がn型AlGaNの場合には、AlN分子がGaN分子と比較してマイグレーションが小さく、SiO膜21上への付着性が高いため、SiO膜21の表面にはAlNを含む組成の多結晶が堆積する。
【0045】
引き続き、図10に示すように、フッ酸等を用いたウェットエッチングによりSiO膜21を除去する。このとき、n型コンタクト層11がn型AlGaNの場合には、SiO膜21上に成長した多結晶のn型AlGaN23は、SiO膜21とともに除去される。
【0046】
引き続き、基板全面にn電極13の反転パターンとなるフォトレジスト(図示せず)を形成しておき、その上に、n電極13となるTi/Al/Ti/Auの4層金属膜を、電子ビーム蒸着法等により蒸着し、当該フォトレジストをリフトオフにより除去して、当該フォトレジスト上の4層金属膜を剥離し、必要に応じて、RTA(瞬間熱アニール)等により熱処理を加えて、図11に示すように、n型コンタクト層11上にn電極13を形成する。Ti/Al/Ti/Auの4層金属膜の膜厚は、例えば、記載順に、20nm/100nm/50nm/100nmである。尚、熱処理は、接触抵抗低減の目的で行われる。熱処理温度は、n型コンタクト層11のAlNモル分率に応じて、n電極13とn型コンタクト層11間の接触抵抗が最も低くなるように、図1に示す関係等を考慮して、例えば、450℃〜950℃の範囲内で設定するのが好ましい。また、n型コンタクト層11がn型GaNの場合には、熱処理は必ずしも必要ではない。
【0047】
引き続き、基板全面に反射電極14の反転パターンとなるフォトレジスト(図示せず)を形成しておき、その上に、反射電極14となるAl/Ti/Auの3層金属膜を、電子ビーム蒸着法等により蒸着し、当該フォトレジストをリフトオフにより除去して、当該フォトレジスト上の3層金属膜を剥離し、図12に示すように、n電極13(或いはn電極13の少なくとも一部)を覆うように第2領域の略全面に反射電極14を形成する。Al/Ti/Auの3層金属膜の膜厚は、例えば、記載順に、100nm/100nm/200nmである。n電極13を被覆せず直接n型クラッド層6上に形成された反射電極14は、紫外線を反射するAlを主として含むため、サファイア基板2側から反射され、n型クラッド層6を通過してn型クラッド層6表面の第2領域に到達する発光を、サファイア基板2側に向けて再反射する。尚、反射電極14に対しては熱処理を行わない。この結果、反射電極14内のAl層が熱処理によって溶融しないため、紫外線を反射する機能が良好に保持される。また、反射電極14は、n電極13とオーミック接触するため、チップの周辺においてワイヤーボンディング用の電極パッドとして使用できる。
【0048】
ところで、n型コンタクト層11のAlNモル分率が、活性層7のAlモル分率より小さい場合(通常は該当する)は、活性層7からの発光は、n型コンタクト層11で吸収されるため、n型コンタクト層11上に形成されたn電極13は、反射電極14と同様に紫外線を反射するAlを主として含むものの、反射電極としては殆ど機能しない。
【0049】
引き続き、基板全面にp電極12の反転パターンとなるフォトレジスト(図示せず)を形成しておき、その上に、p電極12となるNi/Auの2層金属膜を、電子ビーム蒸着法等により蒸着し、当該フォトレジストをリフトオフにより除去して、当該フォトレジスト上の2層金属膜を剥離し、RTA(瞬間熱アニール)等により例えば450℃の熱処理を加えて、図13に示すように、p型コンタクト層10上にp電極12を形成する。Ni/Auの2層金属膜の膜厚は、例えば、記載順に、60nm/50nmである。その後、全面に保護絶縁膜(図示せず)を堆積し、ワイヤーボンディング用の開口を形成して、本発明素子1が形成される。
【0050】
以上説明した本発明素子1の製造方法では、n電極13と反射電極14を形成した後に、p電極12を形成する実施形態について説明したが、p電極12を形成した後に、n電極13と反射電極14を形成するようにしても良い。この場合、n型コンタクト層11をn型GaNとすれば、熱処理温度を450℃と低温化でき、或いは、熱処理を省略できるため、先に形成されたp電極12に対する後処理であるn電極13の形成時の熱処理による悪影響を排除できる。このため、p電極として、上述の電極材料以外に、より好適な電極材料(例えば、Rh等)の使用が可能となる。
【0051】
更に、以上説明した本発明素子1の製造方法では、n電極13と反射電極14を個別に形成する実施形態について説明したが、反射電極14を形成するのに代えて、図14に示すように、n電極13を、n型コンタクト層11上だけでなく、n型コンタクト層11に覆われていないn型クラッド層6上にも形成するのも好ましい実施形態である。この場合、n型コンタクト層11のAlNモル分率を25%以下とし、n電極13の形成時の熱処理温度を600℃以下に抑えることが好ましい。更に好ましくは、n型コンタクト層11をn型GaNで形成し、熱処理を省略するのが良い。これにより、n電極13とn型コンタクト層11間の接触抵抗を低く抑えて良好なオーミック接触を形成するとともに、n電極13内のAl層が熱処理によって溶融しないため、n型クラッド層6上のn電極13が、紫外線を反射する機能を良好に発揮できるようになる。
【0052】
更に、反射電極14を形成しない場合において、第2領域の面積が小さい場合には、その大部分に、n型コンタクト層11を形成し、n型コンタクト層11の上だけにn電極13を形成するようにしても良い。後述するように、n型コンタクト層11を設けることで、n電極13の接触抵抗が低減され、それに応じて第2領域の面積を縮小できるため、チップサイズの縮小化が図れる。
【0053】
次に、n型クラッド層6上にn型コンタクト層11を形成し、n型コンタクト層11上にn電極13を形成した本発明素子1の実施例1と、n型コンタクト層11を形成せずに、n型クラッド層6上にn電極13を直接形成した比較例に対して、夫々順方向電圧Vf(単位:V)と順方向電流If(単位:mA)の電流電圧特性を測定した結果を、図15に示す。尚、図15に示す実施例1と比較例では、n型クラッド層6のAlNモル分率を75%とし、実施例1のn型コンタクト層11はn型GaNで形成した。上記以外の部分は、実施例1と比較例の間で同じである。また、実施例1と比較例の平面視パターンは、何れも図16(B)に示す通りである(詳細は後述する)。図15に示される結果より、本発明素子1において、n型コンタクト層11を設けることで、順方向電圧Vfが大幅に改善(低電圧化)されていることが分かる。
【0054】
次に、本発明素子1の上記実施例1と実施例1とはn型コンタクト層11及びその周辺構造の異なる実施例2について、夫々複数のサンプルを作製し、発光出力P(単位:mW)と順方向電圧Vf(単位:V)を測定した結果について説明する。図16に、実施例1と実施例2の平面視パターンを示す。図16(A)は、実施例1と実施例2の両者に共通の平面視パターンを示す。実施例1と実施例2では、第1領域R1(図中クロスハッチ部分)とその周囲の第2領域R2は、夫々同じ平面視パターン、同じ面積である。第1領域R1は3本の縦長の長円を中央で横方向に連接した櫛形状に形成されており、実施例1及び実施例2の何れも、第1領域R1の上面にp電極12が形成されている。実施例1と実施例2のチップは何れも一辺800μmの正方形状(破線で外枠を表示)で、第1領域の面積は約168000μmである。図16(B)は、実施例1の平面視パターンを示す。実施例1では、第2領域R2の大部分に、n型コンタクト層11(図中クロスハッチ部分)が形成され、その上にn電極13が形成されている。実施例1では、反射電極14は設けていない。図16(C)は、実施例2の平面視パターンを示す。実施例2では、第1領域R1の外周に沿ってn型コンタクト層11(図中クロスハッチ部分)が形成され、その上にn電極13が形成されている。そして、n電極13を覆うように反射電極14が設けられており、実施例2の反射電極14と実施例1のn電極13は同じ平面視パターン、同じ面積である。実施例2のn電極13(n型コンタクト層11)の面積は、実施例1のn電極13(n型コンタクト層11)の面積の8分の1である。従って、実施例1と実施例2では、n電極13(n型コンタクト層11)の面積と形状、反射電極14の有無が異なる。
【0055】
実施例1と実施例2の測定結果を比較すると、実施例2の発光出力Pが、実施例1の発光出力Pより平均して20%程度以上向上している。一方、実施例1と実施例2の間で順方向電圧Vfに大差がない。この結果より、n型コンタクト層11は、第1領域R1の外周に沿って形成すれば十分であることが分かる。そして、実施例2において、発光出力Pが実施例1より向上していることから、n型コンタクト層11の面積を抑えて、その代わりに反射電極14を設けることで、発光出力Pが向上すること、つまり、外部量子効率が向上することが分かる。換言すれば、発光出力Pが同じであれば、反射電極14を設けずにn型コンタクト層11の面積を必要最小限に抑えて、チップサイズを縮小できることになる。例えば、図16(C)に示す実施例2において反射電極14を設けないとすれば、チップサイズは約640μm×480μmまで縮小可能であり、第1領域R1はチップ面積の50%以上を占めることが可能となる。
【0056】
以下に、別の実施形態につき説明する。
〈1〉上記実施形態では、本発明素子が発光ダイオードの場合を想定して説明したが、半導体レーザ(レーザダイオード)においても、n電極をn型AlGaNからなるn型クラッド層上に直接形成することでn電極の接触抵抗が高くなる場合には、上記実施形態と同様に、n型クラッド層上に、AlNモル分率の小さいn型コンタクト層を設けることで、n電極の接触抵抗を低下させることができ、同様の電気的特性等の改善が図れる。
【0057】
〈2〉上記実施形態では、本発明素子1を構成するテンプレートとして、図4に示すテンプレート5を一例としたが、当該テンプレート5に限定されるものではなく、例えば、図1に例示したテンプレートを使用しても良く、或いは、AlN層3を図1に示すELO−AlN層としても良く、AlGaN層4を省略して良く、更には、サファイア基板2に代えて他の基板を用いても良い。更に、上記実施形態で例示した本発明素子1を構成するAlGaNまたはGaNの各層の膜厚及びAlNモル分率は、一例であり、素子の仕様に応じて適宜変更可能である。また、上記実施形態では、電子ブロック層8を設ける場合を例示したが、電子ブロック層8は必ずしも設けなくても構わない。
【0058】
〈3〉上記実施形態では、p電極12がNi/Auの場合、n電極13がTi/Al/Ti/Auの場合、反射電極14がAl/Ti/Auの場合を例示したが、各電極の電極材料及び膜厚は、上記のものに限定されるものではない。p電極12とn電極13の電極材料は、夫々の下地層であるp型コンタクト層10、n型コンタクト層11との間でオーミック接触可能な金属材料であれば良く、必ずしも上記した多層構造でなくても良く、更には、熱処理によって層構造が合金化していても良い。n電極13は、特に反射電極14を設けない場合は、上述の如く、紫外線を反射する金属、例えば、Alを主成分として含有しているのが好ましい。n電極13は、n型コンタクト層11との粘着性を高めるための金属材料(粘着層)として、Tiを使用する場合を例示したが、Tiに代えてCrを用いても良く、また、斯かる粘着層を設けなくても良い。反射電極14は、紫外線を反射する金属、例えば、Alを主成分として含有している必要があるが、下地層であるn型クラッド層6との間でオーミック接触する必要はない。
【0059】
〈4〉上記実施形態では、反射電極14を形成する場合に、n電極13を覆うように第2領域の略全面に形成したが、反射電極14を、第1領域に形成された活性層7からp型コンタクト層10まで積層体の側壁面にも形成するのも好ましい実施形態である。この場合、当該積層体の各層が電気的に短絡するのを防止するために、図17に示すように、積層体の側壁面と反射電極14の間に、SiO等により側壁絶縁膜24を形成する必要がある。側壁絶縁膜24は、n電極13を形成した後に、例えば、基板全面にSiO等の絶縁膜を堆積し、異方性エッチングにより堆積した絶縁膜を除去することで、積層体の側壁面にサイドウォール状に残留した絶縁膜を側壁絶縁膜24として形成する。側壁絶縁膜24を形成した後、基板全面に反射電極14の反転パターンとなるフォトレジストを、側壁絶縁膜24を覆わないように形成し、上述の要領で、反射電極14の材料膜の堆積、当該フォトレジストのリフトオフを経て、積層体の側壁面を覆う反射電極14が形成される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る窒化物半導体紫外線発光素子は、発光中心波長が約365nm以下の発光ダイオード、レーザダイオード等に利用可能であり、順方向電圧の低電圧化に有効である。
【符号の説明】
【0061】
1: 窒化物半導体紫外線発光素子
2,101: サファイア基板
3: AlN層
4: AlGaN層
5: テンプレート
6,104: n型クラッド層(n型AlGaN)
7: 活性層
7a: バリア層
7b: 井戸層
8,106: 電子ブロック層(p型AlGaN)
9,107: p型クラッド層(p型AlGaN)
10,108: pコンタクト層(p型GaN)
11: n型コンタクト層(n型GaNまたはn型AlGaN)
12,109: p電極
13,110: n電極
14: 反射電極
20: Niマスク
21: SiO
22: 開口部
23: 多結晶のn型AlGaN
24: 側壁絶縁膜
102: 下地層(AlN)
103: ELO−AlN層
105: 多重量子井戸活性層
R1: 第1領域
R2: 第2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型AlGaN系半導体層からなるn型クラッド層上の前記n型クラッド層の表面と平行な面内の第1領域に、バンドギャップエネルギが3.4eV以上のAlGaN系半導体層を有する活性層と、前記活性層より上層に位置するp型AlGaN系半導体層からなるp型クラッド層が形成され、
前記n型クラッド層上の前記第1領域以外の第2領域内の少なくとも一部に、n型AlGaN系半導体層からなるn型コンタクト層が形成され、
前記n型コンタクト層のAlNモル分率が0%以上60%以下の範囲内にあって、且つ、前記n型クラッド層のAlNモル分率より小さく、
前記n型コンタクト層とオーミック接触するn電極が前記n型コンタクト層上に形成されていることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項2】
前記n型コンタクト層が、前記第2領域内の少なくとも一部の前記n型クラッド層表面上に再成長して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項3】
前記n電極が、紫外線を反射する金属を主成分として含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項4】
前記n電極が、Alを主成分とする金属多層膜または合金で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項5】
前記n電極の一部が、前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分に形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項6】
前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分に、前記n電極と電気的に接続する前記紫外線を反射する金属を主成分とする反射電極が形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項7】
前記n型コンタクト層がGaNであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項8】
前記n型クラッド層が、絶縁体層、半導体層、または、絶縁体層と半導体層の積層体からなる前記紫外線を透過するテンプレート上に形成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項9】
所定のテンプレート上に、n型AlGaN系半導体層からなるn型クラッド層を形成する工程と、
前記n型クラッド層の上側にバンドギャップエネルギが3.4eV以上のAlGaN系半導体層を有する活性層を形成する工程と、
前記活性層の上側にp型AlGaN系半導体層からなるp型クラッド層を形成する工程と、
前記n型クラッド層より上層に形成された半導体層の前記n型クラッド層の表面と平行な面内の第1領域以外の第2領域をエッチング除去して、前記n型クラッド層を前記第2領域において露出させる工程と、
露出した前記n型クラッド層上の前記第2領域内の少なくとも一部に、AlNモル分率が0%以上60%以下の範囲内にあって、且つ、前記n型クラッド層のAlNモル分率より小さいn型AlGaN系半導体層からなるn型コンタクト層を形成する工程と、
前記n型コンタクト層とオーミック接触するn電極を前記n型コンタクト層上に形成する工程と、を有することを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記n型コンタクト層を形成する工程において、前記第1領域と前記第2領域を覆う誘電体膜を形成し、前記第2領域内の前記n型コンタクト層を形成する箇所の前記誘電体膜に開口部を形成し、前記開口部を通して露出した前記n型クラッド層上に、前記n型コンタクト層を再成長させることを特徴とする請求項9に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記n型コンタクト層を形成する工程において、前記誘電体膜上に成長したn型AlGaN系半導体の多結晶膜を、リフトオフ法により前記誘電体膜と同時に除去することを特徴とする請求項10に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記n電極が、前記紫外線を反射する金属を主成分として含有していることを特徴とする請求項9〜11の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記n電極を形成する工程において、前記n電極を、Alを主成分とする金属多層膜または合金で形成することを特徴とする請求項12に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記n電極を形成する工程において、前記n電極を前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分にも形成することを特徴とする請求項9〜13の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記n電極を形成する工程の後に、前記n電極を前記n型クラッド層上の前記第2領域内の前記n型コンタクト層が形成されていない部分に、前記n電極と電気的に接続する前記紫外線を反射する金属を主成分とする反射電極を形成する工程を有することを特徴とする請求項9〜13の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記n型コンタクト層がGaNであることを特徴とする請求項9〜15の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記テンプレートが、前記紫外線を透過することを特徴とする請求項9〜16の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記n型コンタクト層のAlNモル分率が25%以下であり、
前記n電極を形成する工程において、熱処理温度が600℃以下か、または、熱処理を行わないことを特徴とする請求項9〜17の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項19】
前記n電極を形成する工程の前に、前記p型クラッド層の上側に前記p型クラッド層と電気的に接続するp電極を形成する工程を有することを特徴とする請求項9〜18の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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