説明

端子付き電線の溶接方法

【課題】超音波溶接時の端子への振動減衰を簡単な構成で効果的に行う。
【解決手段】端子10を備えた対象電線9を超音波溶接機3にセットした後、巻き付け柱8に一周巻き付けて、端子10と溶接側の端部との間に巻回部12を形成する。そして、巻回部12の交差部分13を含む範囲をクランプ5で保持させて、超音波溶接機3で対象電線9と他の電線11との端部同士を接合する。このとき、対象電線9は端子10と溶接側の端部との間に巻回部12が形成されているため、溶接時に発生する振動は巻回部12で効果的に減衰され、端子10には殆ど伝わらない。よって、端子10の破損が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一端にコネクタ等の端子を備えた端子付き電線を他の電線等に超音波溶接するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のワイヤハーネス等、一端にコネクタ等の端子を備えた端子付き電線を、他の電線の端部や中間部等に接続する場合、例えば特許文献1に示すように、接続部位の絶縁被覆を皮剥ぎして、露出させた芯線同士を重ね合わせ、この状態で超音波溶接機により超音波振動を付加して芯線同士を接合する方法がよく用いられている。また、特許文献2には、電線と端子金具とを超音波溶接で接合する形態が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−188018号公報
【特許文献2】特開2005−319497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような超音波溶接を行う場合、溶接時の振動が電線を通って端子にまで伝わり、端子の折り曲げ部分等比較的強度が弱い箇所で破断等を起こすおそれがある。例えば図4に示すように、端子となる雌端子中に固定される雄端子とのコンタクト18が、矩形状を呈する上下一対の接触板18a,18bと、両接触板18a,18bの端縁間に架設されて接触板18a,18b同士を所定間隔を保つように接続する湾曲柱状の接続部18cとからなるような場合、溶接時に接続部18cが破損しやすい。この端子の破損は電線の長さが短いと特に生じやすい。この対策として、ゴム材料等の防振材や治具で電線を保持して振動の減衰を図ることが試みられているが、外側の絶縁被覆を保持するにとどまり、実際に振動を伝えている芯線を直接保持できないため、振動を完全に吸収できず、破損防止効果は十分とは言えない。また、振動減衰効果を得るためにはある程度の保持長さを確保する必要があり、短い電線には適用できない問題もある。また、このような防振材等を用いることでコストアップにも繋がってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、端子への振動減衰を、電線の長さにかかわりなく簡単な構成で効果的に行うことができ、より高い端子の破損防止効果が得られる端子付き電線の溶接方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、端子付き電線における端子と溶接部との間に、電線自身を所定形状に変形させてなる振動減衰部を形成し、その状態で超音波溶接を行うことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、振動減衰部を容易に得るために、振動減衰部は、少なくとも一回巻回させた巻回部としたものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2の目的に加えて、より効果的な振動減衰を得るために、巻回部は、電線同士が接触する多重巻きとしたものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、振動減衰部を容易に得るために、振動減衰部は、折り曲げ角度の合計が180°以上となる少なくとも一カ所の折り曲げ部としたものである。
【0007】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの目的に加えて、より効果的な振動減衰を可能として端子の破損防止効果を高めるために、溶接の際には振動減衰部を他の部材に接触させる構成としたものである。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れかの目的に加えて、振動減衰部による振動減衰効果を確実に発揮させるために、溶接の際には治具を用いて振動減衰部の形状を維持させる構成としたものである。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6の目的に加えて、他の部材や治具による振動減衰効果を高めるために、他の部材及び/又は治具における少なくとも振動減衰部との接触部分を弾性材料によって形成している構成としたものである。
請求項8に記載の発明は、電線に備えた端子は、一対の接触板と、その接触板の端縁間に架設されて接触板同士を所定間隔を保つように接続する接続部とを有する構成としたものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、端子への振動減衰を効果的に行うことができ、端子の破損が好適に防止可能となる。特に、端子付き電線自身で振動減衰部を形成すれば足りるため、端子付き電線の長さにかかわりなく対応できる上、振動減衰に係るコストアップも生じない。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、巻回部を形成する簡単な作業で容易に振動減衰部が得られ、作業性を損なうこともない。
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加えて、多重巻きの電線同士が接触して振動がより効果的に減衰され、端子の破損防止効果が向上する。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、折り曲げ部を形成する簡単な作業で容易に振動減衰部が得られ、作業性を損なうこともない。
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れかの効果に加えて、接触する他の部材によって振動減衰が図られ、端子の破損防止効果が高くなる。
請求項6に記載の発明によれば、請求項1乃至5の何れかの効果に加えて、振動減衰部の形状が維持されて振動減衰効果が確実に発揮される。
請求項7に記載の発明によれば、請求項5又は6の効果に加えて、弾性材料の採用により、他の部材や治具による振動減衰効果が高められる。特に治具に弾性材料を使用すれば、治具による保持の際に電線を傷つけるおそれもなくなる。
請求項8に記載の発明によれば、請求項1乃至7の何れかの効果に加えて、従来溶接時に破損しやすかった接続部を有する端子であっても破損が好適に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の端子付き電線の溶接方法を実施する溶接ユニットの一例を示す説明図で、(A)が平面、(B)が正面を夫々表している。溶接ユニット1は、作業台上に設置された電線支持台2と、その電線支持台2の右側(図1の右側)に設置された超音波溶接機3とを備え、電線支持台2上には、超音波溶接機3側で前後方向へ所定間隔で立設されたステンレス製の柱4,4と、その柱4,4の左側に配置されたクランプ5と、クランプ5の手前側に立設されたウレタン製で横断面円形の巻き付け柱8とから構成される。クランプ5が本発明での治具、巻き付け柱8が本発明での他の部材に相当する。
【0010】
超音波溶接機3は、被溶接物をアンビルに置き、接合面に静圧を加えた状態で図示しない溶接チップから超音波振動を印加することで、被溶接物に急激な塑性流動を生じさせて接合する周知の溶接機である。また、クランプ5も、下方に設置した受台6と、その上方に配置された押圧板7と、押圧板7を上下移動させるネジ送りやエアシリンダ等の図示しない送り機構とを備えて、受台6と押圧板7との間で対象物を保持する周知の構造となっている。
【0011】
以上の如く構成された溶接ユニット1を用いて溶接する手順を、端子付き電線に他の電線を溶接する場合を例にして説明する。
まず、図2(A)に示すように、一端に端子10(例えば図4に示したようなコンタクト18を有する雌端子)を備えた端子付き電線(以下「対象電線」という)9と他の電線11との溶接側の端部を揃えて超音波溶接機3にセットし、対象電線9を柱4,4よりも奥側へ、他の電線11を柱4,4よりも手前側へ夫々引き出す。このように他の電線11を手前に引き出すのは、クランプ5側への巻き込みを防止するためである。
次に、左側へ引き出した対象電線9を、同図(B)に示すように、巻き付け柱8に一回巻き付けて、端子10と溶接側の端部との間に振動減衰部となる巻回部12を形成する。このとき巻回部12は巻き付け柱8に接触状態とする。
【0012】
そして、巻回部12の交差部分13を含む範囲をクランプ5で保持させて、超音波溶接機3で対象電線9と他の電線11との端部同士を接合する。ここで、対象電線9は端子10と溶接側の端部との間に巻回部12が形成されているため、溶接時に発生する振動は巻回部12で効果的に減衰され、端子10には殆ど伝わらない。
接合完了後、クランプ5での保持を解除して対象電線9を巻き付け柱8から取り外し、接合された他の電線11と共に超音波溶接機3から取り出す。
【0013】
このように、上記形態の端子付き電線の溶接方法によれば、対象電線9における端子10と溶接部位との間に、電線自身を所定形状に変形させてなる巻回部12を形成し、その状態で超音波溶接を行うようにしたことで、端子10への振動減衰を効果的に行うことができ、端子10の破損が好適に防止可能となる。特に、対象電線9自身で巻回部12を形成すれば足りるため、対象電線9の長さにかかわりなく対応できる上、振動減衰に係るコストアップも生じない。
また、振動減衰部として巻回部12を採用したことで、対象電線9を一巻きする簡単な作業で容易に振動減衰部が形成可能となり、作業性を損なわない。
さらに、ここでは巻回部12を巻き付け柱8を利用して接触状態で巻回しているから、巻き付け柱8によっても振動減衰が図られ、端子10の破損防止効果が高くなる。
加えて、溶接時にはクランプ5によって巻回部12を保持しているため、巻回部12の形状が維持されて振動減衰効果が確実に発揮される。
【0014】
なお、上記形態の溶接方法では、巻回部を一巻きとしているが、電線同士が接触する二巻き以上の多重巻きとしても差し支えない。このような多重巻きにすると、電線同士の接触によって振動がより効果的に減衰され、端子の破損防止効果が向上する。
また、溶接ユニットにおいて、巻き付け柱はウレタン製に限らず、シリコンゴム等の他の材質でも差し支えない。さらに、クランプにおける対象電線との接触部分(ここでは受台と押圧台との対向面)にもゴムや合成樹脂等の弾性材料を使用するのが望ましい。これにより、クランプにおいても効果的な振動減衰が期待できると共に、保持した対象電線を傷付けるおそれもなくなる。
但し、巻回部のみで十分な振動減衰が可能であれば、巻き付け柱やクランプは省略することもできる。柱の設置も任意である。
【0015】
そして、振動減衰部としては、上記形態の巻回部に限らず、図3(A)に示すU字状の折り曲げ部14や、同図(B)に示す2つの直角の折り曲げ部15,15として、折り曲げ角度の合計を180°以上とすれば、振動減衰効果は得られる。
また、同図(C)に示す折り曲げ部16,16のように、折り曲げ方向が逆になる場合でも、折り曲げ角度の合計が180°以上であればよい。この場合、同図(D)の折り曲げ部17,17のように夫々の角度が異なっても差し支えない。勿論三カ所以上折り曲げ部を設けてもよいし、巻回部と折り曲げ部とを併用してもよい。これらの場合でも、作業性を損なうことなく、折り曲げ部を形成する簡単な作業で容易に振動減衰部が得られる。
【0016】
これらの折り曲げ部も、他の部材として上記形態のような断面円形や角形の柱等を利用して折り曲げ部を接触状態で形成したり、クランプ等の治具を用いて折り曲げ部を保持させたりすれば、振動減衰効果の向上が期待できる。
但し、折り曲げ部は、図3に例示したように角部が明確に形成される必要はなく、電線自体の径や硬さ、さらにはガイドとして利用した他の部材の形状等によっては、円弧状の角部であっても振動減衰効果は変わらない。
【0017】
その他、上記形態では対象電線と他の電線とが一つずつの場合について説明しているが、対象電線が複数の場合は複数まとめて巻回部を形成すればよいし、他の電線が複数であればこれもまとめて手前側へ引き出せばよい。
また、対象電線の端部に他の電線が接合される形態に限らず、対象電線の中間部に他の電線が接合される場合や、対象電線の端部に他の電線の中間部が接合される場合、対象電線と他の電線との中間部同士が接合される場合、さらには対象電線と端子金具とが接合される場合でも同様に本発明は適用可能である。
そして、上記他の部材や治具を用いることなく、作業者が巻回部等の振動減衰部を手で把持した状態で溶接を行うようにしても、振動減衰効果は得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】溶接ユニットの一例を示す説明図で、(A)が平面、(B)が正面を夫々表す。
【図2】(A)(B)は溶接方法の手順を示す説明図である。
【図3】(A)〜(D)は夫々折り曲げ部の例を示す説明図である。
【図4】端子の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1・・溶接ユニット、2・・電線支持台、3・・超音波溶接機、4・・柱、5・・クランプ、8・・巻き付け柱、9・・対象電線、10・・端子、11・・他の電線、12・・巻回部、14〜17・・折り曲げ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一端に端子を備えた端子付き電線を超音波溶接するための端子付き電線の溶接方法であって、
前記端子付き電線における前記端子と溶接部位との間に、電線自身を所定形状に変形させてなる振動減衰部を形成し、その状態で超音波溶接を行うことを特徴とする端子付き電線の溶接方法。
【請求項2】
振動減衰部は、少なくとも一回巻回させた巻回部である請求項1に記載の端子付き電線の溶接方法。
【請求項3】
巻回部は、電線同士が接触する多重巻きである請求項2に記載の端子付き電線の溶接方法。
【請求項4】
振動減衰部は、折り曲げ角度の合計が180°以上となる少なくとも一カ所の折り曲げ部である請求項1に記載の端子付き電線の溶接方法。
【請求項5】
溶接の際には振動減衰部を他の部材に接触させる請求項1乃至4の何れかに記載の端子付き電線の溶接方法。
【請求項6】
溶接の際には治具を用いて振動減衰部の形状を維持させる請求項1乃至5の何れかに記載の端子付き電線の溶接方法。
【請求項7】
他の部材及び/又は治具における少なくとも振動減衰部との接触部分を弾性材料によって形成している請求項5又は6に記載の端子付き電線の溶接方法。
【請求項8】
電線に備えた端子は、一対の接触板と、その接触板の端縁間に架設されて前記接触板同士を所定間隔を保つように接続する接続部とを有する請求項1乃至7の何れかに記載の端子付き電線の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−294154(P2007−294154A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118345(P2006−118345)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
【Fターム(参考)】