説明

等速自在継手の外側継手部材の溶接方法および外側継手部材

【課題】溶接部の品質の向上、追加工程や後加工の省略あるいは削減による製造コスト削減、かつ溶接部の確実な検査による安定した品質を有するロングステムタイプの等速自在継手に好適な外側継手部材の溶接方法および外側継手部材を提供することにある。
【解決手段】トルク伝達要素19が係合するトラック溝30を内周に形成したカップ部12と、カップ部12の底部に形成された軸部13とを2つ以上の別部材で構成し、カップ部12を形成するカップ部材12aと軸部13を形成する軸部材13bとを接合してなる等速自在継手10の外側継手部材11の溶接方法において、カップ部材12aと軸部材13bは、その端部72、73、74、75を突合せたとき密閉された中空空洞部47が形成される形状を備えており、中空空洞部47が大気圧以下の状態で、カップ部材12aと軸部材13bの突合せた端部72、73、74、75を溶融溶接することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、等速自在継手の外側継手部材の溶接方法および外側継手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械の動力伝達系を構成する等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸をトルク伝達可能に連結すると共に、前記二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達することができる。等速自在継手は、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位の両方を許容する摺動式等速自在継手とに大別され、例えば、自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトにおいては、デフ側(インボード側)に摺動式等速自在継手が使用され、駆動車輪側(アウトボード側)には固定式等速自在継手が使用される。
【0003】
摺動式又は固定式を問わず、等速自在継手は主要な構成部材として、内周面にトルク伝達要素が係合するトラック溝を形成したカップ部と、このカップ部の底部から軸方向に延びた軸部とを有する外側継手部材を備えている。この外側継手部材は、中実の棒状素材を鍛造加工やしごき加工等の冷間塑性加工、切削、研削加工等の機械加工を施すことによって、カップ部と軸部とを一体成形する場合が多い。
【0004】
ところで、外側継手部材として、長寸の軸部(ロングステム)を有するものを用いる場合がある。左右のドライブシャフトの長さを等しくするために、片側のドライブシャフトのインボード側外側継手部材をロングステムにし、このロングステムが転がり軸受によって回転支持される。ロングステム部の長さは、車種により異なるが、概ね300〜400mm程度である。この外側継手部材では、軸部が長寸であるために、カップ部と軸部を精度良く一体成形することが困難である。そのため、カップ部を形成するカップ部材と軸部を形成する軸部材を別部材で構成し、両部材を摩擦圧接にて接合するものがある。このような摩擦圧接で接合した継手部材が、例えば、特許文献1に記載されている。
【0005】
特許文献1の図5に示された等速自在継手の外側継手部材を図11および図12に基づいて説明する。外側継手部材51の中間製品51’は、カップ部材としての部品52、パイプ部材としての部品53およびスタブ部材としての部品54からなり、摩擦圧接によって接合されている。図11に示すように、接合部55、56は、圧接に伴って内外径にバリが生じる。外側継手部材51の中間製品51’の軸部に転がり軸受(図1参照)を装着するために、接合部55、56の外径側のバリ55a、56aを旋削等の加工により取り除く必要がある。図示は省略するが、中間製品51’はスプラインや止め輪溝等を機械加工して外側継手部材51の完成品となる。したがって、外側継手部材51と中間製品51’との間に細部の形状に異なるところがあるが、ここでは、説明を簡略化するため細部の形状の相違点は省略して、完成品としての外側継手部材51と中間製品51’を同じ部分に符号を付している。以降の説明においても同様とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−64060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した摩擦圧接によって生じた接合部55、56のバリ55a、56aは、摩擦熱によって焼入れされて高い硬度を有すると共に、径方向と軸方向とに広がる歪んだ形状をしている。したがって、図12に示すように、外径側のバリ55a、56aを旋削加工で除去する際、高い硬度によって旋削チップの摩耗が激しく、また、歪んだ形状によって旋削チップに欠けが生じやすい。そのため、旋削速度を上げることが難しく、旋削チップの1つのパス当たりの切削量が少なくパス数が増大するので、サイクルタイムが長く製造コストが上がるという問題がある。
【0008】
また、外側継手部材51の接合部55、56の接合状態を検査するために、高速探傷が可能な超音波探傷を行おうとしても、接合部55、56の内径側に残るバリ55a、56aによって超音波が散乱するため接合状態を確認できない。したがって、超音波探傷による全数検査ができないという問題がある。
【0009】
上記の問題に対して、接合にレーザ溶接あるいは電子ビーム溶接を行うことによって、摩擦圧接のような接合部表面の盛り上がりを抑えることができるが、図13に示すようなカップ部材としての部品52が中実で、パイプ部材としての部品53が中空で、およびスタブ部材としての部品54が中実という形状であるので、これらの部品を突き合わせて溶接した場合、溶接中の加工熱により、パイプ部材の中空空洞部53a内の気体圧力が上昇し、溶接終了後は圧力の減少が生じる。この中空空洞部53aの内圧の変化により、溶融物の吹き上がりや内径側への引き込みが発生し、溶接部の内外径の表面に凹凸、溶接深さ不良や溶接内部に気泡が生じて溶接状態が悪化する。その結果、溶接部の強度が安定せず、品質に悪影響を及ぼすことになる。この対策として、中空空洞部53aに連通する通気穴を設けることが考えられるが、通気穴を設ける工程が追加されるので、製造コストが上がる問題や、通気穴を設ける部位・孔径などによっては製品強度への影響が懸念される。
【0010】
本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、溶接部の品質の向上、追加工程や後加工の省略あるいは削減による製造コスト削減、かつ溶接部の確実な検査による安定した品質を有するロングステムタイプの等速自在継手に好適な外側継手部材の溶接方法および外側継手部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するため種々検討した結果、接合部表面の盛り上がりを抑えることができる溶融溶接を採用すると共に、カップ部材と軸部材の両端部を突合せたとき形成される中空空洞部を大気圧以下の状態にして溶接するという新たな着想に至った。
【0012】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、トルク伝達要素が係合するトラック溝を内周に形成したカップ部と、このカップ部の底部に形成された軸部とを2つ以上の別部材で構成し、前記カップ部を形成するカップ部材と前記軸部を形成する軸部材とを接合してなる等速自在継手の外側継手部材の溶接方法において、前記カップ部材と前記軸部材は、その端部を突合せたとき密閉された中空空洞部が形成される形状を備えており、前記中空空洞部が大気圧以下の状態で、前記カップ部材と前記軸部材の突合せた端部を溶融溶接することを特徴とする。このような構成により、溶接部の品質の向上、追加工程や後加工の省略あるいは削減による製造コスト削減、かつ溶接部の確実な検査による安定した品質を実現することができる。
【0013】
具体的には、上記中空空洞部を大気圧以下の状態にする方法として、カップ部材と軸部材の全体を密閉空間内に収容し、この密閉空間を大気圧以下に減圧することにより実現することができる。この場合は、大気圧以下に減圧する密閉空間の構成を簡素化することができる。また、別の方法として、カップ部材と軸部材の端部近傍のみを密閉空間内に収容し、この密閉空間を大気圧以下に減圧することにより実現することができる。この場合は、密閉空間の容積を減少できるので、真空ポンプのポンプ容量を下げることができ、溶接装置のコンパクト化と共に減圧作業を軽減することができる。
【0014】
上記の密封空間を大気圧以下に減圧する際、カップ部材と軸部材の端部間に隙間を設けておくことが望ましい。これにより、カップ部材と軸部材とにより形成される中空空洞部の減圧が確実に行える。また、ワークとしてのカップ部材と軸部材の搬入・設置、減圧、溶接の一連の工程を自動化するのに好適である。
【0015】
上記の溶融溶接をレーザ溶接あるいは電子ビーム溶接とすることが望ましい。これにより、接合部にバリが生じることがない。接合部の後加工の省略あるいは削減による製造コスト削減、さらには、接合部の超音波探傷による全数検査が確実に実施できる。
【0016】
上記の溶接前に、カップ部材と軸部材の端部を300℃〜650℃に予熱することが望ましい。これにより、溶接後の冷却速度を遅くすることで焼き割れを防止することができ、溶接した部位の硬度を調整し、良好な溶接状態を得ることができる。
【0017】
上記の溶接した部位の硬度はHv200〜500の範囲が好ましい。Hv200未満では製品機能上必要な強度の確保が困難であり望ましくない。一方、Hv500を超えると割れが発生する恐れが生じるため、望ましくない。
【0018】
本発明に係る外側継手部材は、溶接部の品質の向上、追加工程や後加工の省略あるいは削減による製造コスト削減、かつ溶接部の確実な検査による安定した品質を実現することができ、ロングステム部を有する外側継手部材として好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の溶接方法および外側継手部材は、溶接部の品質の向上、追加加工や後加工の省略あるいは削減による製造コスト削減、かつ溶接部の確実な検査による安定した品質を実現することができる。また、本発明に係る外側継手部材は、ロングステム部を有する外側継手部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る外側継手部材についての第1の実施形態を適用したドライブシャフトの全体構造を示す図である。
【図2】外側継手部材を拡大した部分縦断面図である。
【図3】溶接した外側継手部材を示す縦断面図である。
【図4】本発明に係る溶接方法についての第1の実施形態を実施する溶接装置を示す概要図である。
【図5】本発明に係る溶接方法についての第1の実施形態を実施する溶接装置を示す概要図である。
【図6】本発明に係る溶接方法についての第2の実施形態を実施する溶接装置を示す概要図である。
【図7】本発明に係る溶接方法についての第2の実施形態を実施する溶接装置を示す概要図である。
【図8】本発明に係る外側継手部材についての第2の実施形態を使用した等速自在継手を示す部分縦断面図である。
【図9】上記の外側継手部材を示す縦断面図である。
【図10】本発明に係る外側継手部材についての第3の実施形態を示す縦断面図である。
【図11】従来技術の外側継手部材を示す縦断面図である。
【図12】従来技術の外側継手部材を示す縦断面図である。
【図13】従来技術の外側継手部材を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の溶接方法についての第1の実施形態を図4および図5に示し、本発明に係る外側継手部材についての第1の実施形態を図1〜図3に示す。はじめに、外側継手部材についての第1の実施形態を図1〜3に基づいて説明し、続いて、外側継手部材の溶接方法についての第1の実施形態を図4および図5に基づいて説明する。
【0023】
図1は、第1の実施形態の外側継手部材11が使用されたドライブシャフト1の全体構造を示す図である。ドライブシャフト1は、デフ側(図中右側:以下、インボード側ともいう)に配置される摺動式等速自在継手10と、駆動車輪側(図中左側:以下、アウトボード側ともいう)に配置される固定式等速自在継手20と、両等速自在継手10、20をトルク伝達可能に連結する中間シャフト2とを主要な構成とする。
【0024】
図1に示す摺動式等速自在継手10は、いわゆるトリポード型等速自在継手(TJ)であり、カップ部12とカップ部12の底部から軸方向に延びた長寸軸部(ロングステム部)13とを有する外側継手部材11と、外側継手部材11のカップ部12の内周に収容された内側継手部材16と、外側継手部材11と内側継手部材16との間に配置されたトルク伝達要素としてのローラ19とを備える。内側継手部材16は、ローラ19を回転自在に外嵌した3本の脚軸18が円周方向等間隔に設けられたトリポード部材17で構成される。
【0025】
ロングステム部13の外周面にはサポートベアリング6の内輪が固定されており、このサポートベアリング6の外輪は、図示しないブラケットを介してトランスミッションケースに固定されている。外側継手部材11は、サポートベアリング6によって回転自在に支持され、このようなサポートベアリング6を設けておくことにより、運転時等における外側継手部材11の振れが可及的に防止される。
【0026】
図1に示す固定式等速自在継手20は、いわゆるツェッパ型等速自在継手であり、有底筒状のカップ部21aとカップ部21aの底部から軸方向に延びた軸部21bとを有する外側継手部材21と、外側継手部材21のカップ部21aの内周に収容された内側継手部材22と、外側継手部材21のカップ部21aと内側継手部材22との間に配置されたトルク伝達要素としてのボール23と、外側継手部材21のカップ部21aの内周面と内側継手部材22の外周面との間に配され、ボール23を円周方向等間隔に保持する保持器24とを備える。なお、固定式等速自在継手20として、アンダーカットフリー型等速自在継手が用いられる場合もある。
【0027】
中間シャフト2は、その両端部外径にトルク伝達用のスプライン(セレーションを含む。以下、同じ)3を有する。そして、インボード側のスプライン3を摺動式等速自在継手10のトリポード部材17の孔部とスプライン嵌合させることにより、中間シャフト2と摺動式等速自在継手10のトリポード部材17とがトルク伝達可能に連結される。また、アウトボード側のスプライン3を固定式等速自在継手20の内側継手部材22の孔部とスプライン嵌合させることにより、中間シャフト2と固定式等速自在継手20の内側継手部材22とがトルク伝達可能に連結される。この中間シャフト2として、中実タイプを示したが、中空タイプを用いることもできる。
【0028】
両等速自在継手10、20の内部には潤滑剤としてのグリースが封入されている。グリースの外部漏洩や継手外部からの異物侵入を防止するため、摺動式等速自在継手10の外側継手部材11と中間シャフト2との間、および固定式等速自在継手20の外側継手部材21と中間シャフト2との間には、蛇腹状のブーツ4、5がそれぞれ装着されている。
【0029】
図2に基づき、第1の実施形態の外側継手部材を説明する。図2は、本実施形態の外側継手部材11を拡大して示したもので、図2(a)は部分縦断面図で、図2(b)はカップ部の横断面図である。外側継手部材11は、一端が開口し、内周面の円周方向三等分位置にローラ19(図1参照)が転動するトラック溝30が形成された有底筒状のカップ部12と、カップ部12の底部から軸方向に延び、カップ部12と反対側(インボード側)の端部外径にトルク伝達用連結部としてのスプラインSpが設けられたロングステム部13とからなる。本実施形態では、外側継手部材11が、カップ部材としての部品12a、パイプ部材としての部品13aおよびスタブ部材としての部品13bの3つの部品が接合されたものであって、カップ部材としての部品12a、パイプ部材としての部品13aとが破線Aの位置で接合され、パイプ部材としての部品13aとスタブ部材としての部品13bとが破線Bの位置で接合されている。ここで、パイプ部材としての部品13aとスタブ部材としての部品13bとが軸部材を構成する。カップ部材としての部品12a、パイプ部材としての部品13aおよびスタブ部材としての部品13bは、以降の説明ではカップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bと簡略化して表現する。
【0030】
図3に溶接した状態の外側継手部材11の中間製品11’の縦断面図を示す。図示は省略するが、中間製品11’はスプラインや止め輪溝等を機械加工して外側継手部材11の完成品となる。したがって、外側継手部材11と中間製品11’との間に細部の形状に異なるところがあるが、ここでは、説明を簡略化するため細部の形状の相違点は省略して、完成品としての外側継手部材11と中間製品11’を同じ部分に符号を付している。以降の説明においても同様とする。前述したように外側継手部材11の中間製品11’は、カップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bの3つの部品が破線Aと破線Bの位置で接合されている。図示のように、カップ部品12aおよびスタブ部品13bの突合せ端部は、パイプ部品13aの内径とほぼ同じ径の凹部27、28が形成されている。ここで、パイプ13aの内径、凹部27、28から形成された空間を密閉された中空空洞部47という。この接合には溶融溶接の中でも、特にレーザ溶接あるいは電子ビーム溶接を適用することが好ましい。この実施形態ではレーザ溶接を適用したが、軸方向に圧力を掛けずに接合できるため、その接合部25、26は摩擦圧接のような接合部表面の盛り上がり(図11参照)を抑えることができる。その結果、中間製品11’の軸部にサポートベアリングを装着するために必要であった接合部25、26の外径面の旋削工程の低減もしくは省略が可能となり、製造コストを削減することができる。
【0031】
本実施形態では、中空空洞部47への通気孔を有しない構造として接合部25、26で溶接されているが、後述する溶接方法により、中空空洞部47の内圧の変化を抑えられるので、溶融物の吹き上がりや内径側への引き込みや溶接不良を防止することができ、良好な溶接状態を得ることができる。かつ、接合部表面の盛り上がりが抑えられ、接合部の超音波探傷による全数検査が確実に実施できるので、安定した品質を実現することができる。
【0032】
次に、本発明に係る外側継手部材の溶接方法についての第1の実施形態を図4および図5に基づいて説明する。図4および図5は本実施形態の溶接方法を実施する溶接装置を示す概要図である。図4は溶接前の状態を示し、図5は溶接している状態を示す。図4に示すように溶接装置60は、溶接ヘッド61、回転装置62、チャック63、センター穴ガイド64、テールストック65、ワーク受け台66、芯出し治具67、ケース68および真空ポンプ69を主な構成とする。
【0033】
溶接装置60内のワーク受け台66には、ワークであるカップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bが載置される。溶接装置60の一端にあるチャック63および芯出し治具67は回転装置62に連結されており、芯出し治具67によりカップ部品12aをセンタリングした状態でチャック63によりカップ部品12aを掴み、回転運動を与える。装置60の他端にあるテールストック65にセンター穴ガイド64が一体に取り付けられ、両者は軸方向(図4の左右方向)に進退可能に構成されている。センター穴ガイド64にはスタブ部品13bのセンター穴がセットされ、センタリングされる。溶接装置60のケース68には真空ポンプ69が接続されている。本明細書において、密閉空間とは、ケース68により形成される空間71を意味する。本実施形態では、カップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bの全体が密閉空間71に収容されている。カップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bの端部72、73、74、75に対応する位置に溶接ヘッド61が設けられている。溶接ヘッド61はワークに対して所定位置まで接近可能に構成されている。
【0034】
次に、上記のように構成された溶接装置60の作動と共に本実施形態の溶接方法を説明する。ワークであるカップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bは、溶接装置60と別の場所にストックされている。各ワークを、例えば、ロボットにより取り出し、図4に示す大気に開放された溶接装置60のケース68内に搬送し、ワーク受け台66の所定位置にセットする。この時点では、センター穴ガイド64およびテールストック65は、図の右側に後退しており、カップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bの端部72、73、74、75の間には隙間が設けられている。その後、ケース68の扉(図示省略)が閉まり、真空ポンプ69を起動してケース68内に形成される密閉空間71を減圧する。
【0035】
密閉空間70が所定の圧力に減圧されたら、図5に示すように、センター穴ガイド64およびテールストック65が左側に前進し、カップ部品12a、パイプ部品13a、スタブ部品13bの各端部72、73、74、75の隙間がなくなる。これにより、カップ部品12aは芯出し治具67によりセンタリングされてチャック63で固定され、スタブ部品13bはセンター穴ガイド64により支持され、また、カップ部品12a、スタブ部品13b間に挟まれたパイプ部品13aはセンタリング状態で固定される。この後、ワーク受け台66がワークから離れる。このときのワーク受け台66とワークとの間隔は微小なものでよいので、図5では、上記間隔は図示を省略する。もちろん、ワーク受け台66を下方に大きく退避する構造にすることも可能である。
【0036】
その後、図示は省略するが、溶接ヘッド61が所定位置までワークに接近し、ワークを回転させて、予熱を開始する。予熱条件は、溶接条件とは異なり、溶接ヘッド61をワークに接近させてスポット径を大きくすることにより、溶接温度よりも低い温度とする。予熱することにより、溶接後の冷却速度を遅くすることで焼き割れを防止することができる。所定の予熱時間に達したら、溶接ヘッド61が所定の位置に後退し、溶接が開始される。溶接が終了すると、溶接ヘッド61が退避し、ワークの回転が停止する。この溶接が終了した状態の外側継手部材11の中間製品11’が図3に示すものである。
【0037】
その後、図示は省略するが、ケース68の扉を開き大気に開放する。そして、ワーク受け台66が上昇し、ワークを支持した状態で、センター穴ガイド64およびテールストック65が右側に後退し、チャック63を開放する。その後、例えば、ロボットがワークを掴み、溶接装置60から外し、冷却ストッカに整列させる。その後、外側継手部材11の中間製品11’は、超音波探傷を行い、後工程としての旋削工程へと進む。本実施形態では、カップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bの全体が密閉空間71に収容されている形態であるので、ケース68内の密閉空間71の構成を簡素化することができる。
【0038】
具体的には、炭素量が0.4〜0.6%のカップ部品12a、炭素量が0.1〜0.5%のパイプ部品13aおよび炭素量が0.4〜0.6%のスタブ部品13bを用いて、前述した溶接装置60で、ケース68内の密閉空間71の圧力を6.7Paに設定して溶接した。溶接後の急冷を防止し溶接部硬度の高硬度化を抑制するために、カップ部品12a、パイプ部品13a、スタブ部品13bの各端部が300〜650℃になるよう予熱により均熱化した後、出力5kWのファイバレーザを用いて溶接を行った。この結果、図3に示す中間製品11’の軸部へのベアリング6の組込みに影響のない溶接表面の盛り上がり高さHが0.5mm以下の溶接部が得られた。また、予熱による均熱化よって溶接完了後の溶接部硬度をHv200〜500の範囲内に抑えることができ、溶接強度が高く、かつ安定した溶接状態、品質を得ることができた。さらに、通気孔を有しない密閉された中空空洞部47の構造で接合部25、26が溶接されているが、溶接装置60の密閉空間71を大気圧以下にして溶接することにより、溶接中の中空空洞部47内の圧力変化を抑えることができ、溶融物の吹き上がりや内径側への引き込みを防ぐことができた。
【0039】
本発明に係る外側継手部材の溶接方法についての第2の実施形態を図6および図7に基づいて説明する。第2の実施形態の溶接方法は、第1の実施形態の溶接方法に対して、カップ部品12a、パイプ部品13a、スタブ部品13bの端部72、73、74、75の近傍のみを密閉空間71内に収容した構成が異なる。第1の実施形態の溶接方法を実施する溶接装置と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して、重複説明を省略する。
【0040】
第1の実施形態の溶接方法を実施する溶接装置と同様に、図6は溶接前の状態を示し、図7は溶接している状態を示す。第2の実施形態の溶接方法を実施する溶接装置60では、カップ部品12a、パイプ部品13a、スタブ部品13bの全体をケース68内の密閉空間71に収容するのではなく、カップ部品12a、パイプ部品13a、スタブ部品13bの端部72、73、74、75の近傍のみを密閉空間71内に収容したものである。実際の設計では、図示のように、ケース68は、カップ部品12aの外周面の途中部位からスタブ部品13bの外周面の途中部位までを覆うように構成されている。図示は省略するが、ケース68は、上側ケース68aと下側ケース68bの分割構造になっており、上側ケース68aは上方に移動可能となっている。上側ケース68aを上方に移動させ、下側ケース68bと上側ケース68aとの開口部からワークであるカップ部品12a、パイプ部品13a、スタブ部品13bを搬入・搬出することができる。下側ケース68bにはワーク受け台66が嵌合する開口およびカップ部品12a、スタブ部品13bの各外周面が嵌合する凹部が設けられており、それぞれの嵌合部分がシール装置70により密封される。上側ケース68aにはカップ部品12a、スタブ部品13bの各外周面が嵌合する凹部が設けられており、同様に嵌合部分がシール装置70により密封される。したがって、カップ部品12a、パイプ部品13a、スタブ部品13bをワーク受け台66にセットした後、上側ケース68aを下降させて下側ケース68bに合わせると、上下のケース68a、68b内に密閉空間71が形成される。
【0041】
上記の構成のため、本実施形態の溶接方法を実施する溶接装置60では、真空ポンプ69のポンプ容量を下げることができ、かつ減圧作業が軽減される。本実施形態の溶接方法および溶接装置60の動作については、前述した第1の実施形態の溶接方法および溶接装置と同様であるので、説明を省略する。
【0042】
次に、本発明に係る外側継手部材についての第2の実施形態を図8および図9に基づいて説明する。本実施形態では、外側継手部材についての第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して、重複説明を省略する。
【0043】
図8に示す摺動式等速自在継手10は、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)である。この等速自在継手10は、カップ部12とカップ部12の底部から軸方向に延びたロングステム部13とを有する外側継手部材11と、外側継手部材11のカップ部12の内周に収容された内側継手部材16と、外側継手部材11と内側継手部材16のトラック溝30、40との間に配置されたトルク伝達要素としてのボール41と、外側継手部材11の筒状内周面42と内側継手部材16の球状外周面43とに、それぞれ嵌合する球状外周面45、球状内周面46を有し、ボール41を保持する保持器44とを備える。保持器44の球状外周面45の曲率中心O1と球状内周面46の曲率中心O2は、継手中心Oに対して、軸方向に反対側にオフセットされている。
【0044】
外側継手部材についての第1の実施形態と同様に、ロングステム部13の外周面にはサポートベアリング6の内輪が固定され、このサポートベアリング6の外輪は、図示しないブラケットを介してトランスミッションケースに固定されている。外側継手部材11は、サポートベアリング6によって回転自在に支持され、運転時等における外側継手部材11の振れが可及的に防止される。
【0045】
図9に、外側継手部材11の部分縦断面を示す。図示したように、外側継手部材11は、一端が開口し、内周面42にボール41(図8参照)が配置される6本、又は8本のトラック溝30が形成された有底筒状のカップ部12と、カップ部12の底部から軸方向に延び、カップ部12と反対側(インボード側)の端部外径にトルク伝達用連結部としてのスプラインSpが設けられたロングステム部13とからなる。第1の実施形態と同様に、外側継手部材11は、カップ部品12a、パイプ部品13aおよびスタブ部品13bの3つの部品が溶接されたものであって、カップ部品12a、パイプ部品13aとが破線Aの位置で溶接され、パイプ部品13aとスタブ部品13bとが破線Bの位置で溶接されている。図示は省略するが、本実施形態でも通気孔を有しない密閉された中空空洞部が形成されている。外側継手部材についての第1の実施形態における溶接方法に関する内容は、本実施形態でも同じであるので、重複説明を省略する。
【0046】
本発明に係る外側継手部材についての第3の実施形態を図10に基づいて説明する。本実施形態においても、外側継手部材についての第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して、重複説明を省略する。
【0047】
本実施形態の外側継手部材11の中間製品11’は、第1の実施形態の外側継手部材11の中間製品11’に対して、カップ部品12aと、パイプ部13aを一体に有するスタブ部品13bの2つの部品で構成された点が異なる。本実施形態ではスタブ部品13bが軸部材を構成する。本実施形態も、通気孔を有しない密閉された中空空洞部47が形成された構造となっている。スタブ部品13bは、例えば、鍛造加工によりパイプ部13aと一体で形成される。溶接部25が1箇所であるので溶接工程が軽減される。本実施形態の外側継手部材11の場合は、前述した溶接装置60の溶接ヘッド61が1つになり、また、ワーク受け台66の個数も削減されるので、装置のコスト低減にもなる。その他の構成は、第1の実施形態の外側継手部材と同様である。また、第1の実施形態における溶接方法に関する内容は、本実施形態でも同様であるので、重複説明を省略する。
【0048】
以上の実施形態では、溶融溶接としてレーザ溶接を適用したものを示したが、電子ビーム溶接でも同様に適用することができる。要は、溶接方法として、軸方向に圧力を掛けずに接合できるもので、摩擦圧接のような接合部表面の盛り上がりを抑えることができるものであれば良い。その結果、サポートベアリングを装着するために必要であった接合部の外径面の旋削工程の低減もしくは省略が可能となり、製造コストを削減することができる。かつ、接合部表面の盛り上がりが抑えられ、接合部の超音波探傷による全数検査が確実に実施できるので、安定した品質を実現することができる。
【0049】
また、本発明に係る溶接方法を実施する溶接装置60のケース68は、密封空間71を形成でき、大気圧以下に減圧できる構造であればよく、ケース68の分割構造やシール装置も含めて適宜の形態とすることができる。
【0050】
以上の外側継手部材についての実施形態では、摺動式等速自在継手10としてのトリポード型等速自在継手、ダブルオフセット型等速自在継手に適用した場合について説明したが、本発明は、クロスグルーブ型等速自在継手等、他の摺動式等速自在継手の外側継手部材、さらには固定式等速自在継手の外側継手部材にも適用することができる。また、以上では、ドライブシャフトを構成する等速自在継手の外側継手部材に本発明を適用しているが、本発明は、プロペラシャフトを構成する等速自在継手の外側継手部材にも適用することができる。
【0051】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0052】
1 ドライブシャフト
2 中間シャフト
3 スプライン
4 ブーツ
5 ブーツ
6 サポートベアリング
10 摺動式等速自在継手
11 外側継手部材
12 カップ部
12a カップ部品
13 長寸軸部
13a パイプ部品
13b スタブ部品
16 内側継手部材
17 トリポード部材
19 トルク伝達要素(ローラ)
20 固定式等速自在継手
21 外側継手部材
22 内側継手部材
23 トルク伝達要素(ボール)
24 保持器
25 接合部
26 接合部
30 トラック溝
40 トラック溝
41 トルク伝達要素(ボール)
47 中空空洞部
60 溶接装置
71 密閉空間
72 端部
73 端部
74 端部
75 端部
A 接合面
B 接合面
O 継手中心
O1 曲率中心
O2 曲率中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク伝達要素が係合するトラック溝を内周に形成したカップ部と、このカップ部の底部に形成された軸部とを2つ以上の別部材で構成し、前記カップ部を形成するカップ部材と前記軸部を形成する軸部材とを接合してなる等速自在継手の外側継手部材の溶接方法において、
前記カップ部材と前記軸部材は、その端部を突合せたとき密閉された中空空洞部が形成される形状を備えており、前記中空空洞部が大気圧以下の状態で、前記カップ部材と前記軸部材の突合せた端部を溶融溶接することを特徴とする等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項2】
前記中空空洞部の大気圧以下の状態が、前記カップ部材と前記軸部材の全体を密閉空間内に収容し、この密閉空間を大気圧以下に減圧することにより得られることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項3】
前記中空空洞部の大気圧以下の状態が、前記カップ部材と前記軸部材の端部近傍のみを密閉空間内に収容し、この密閉空間を大気圧以下に減圧することにより得られることを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項4】
前記密閉空間を大気圧以下に減圧する際、前記カップ部材と前記軸部材の端部間に隙間が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項5】
前記溶融溶接がレーザ溶接であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項6】
前記溶融溶接が電子ビーム溶接であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項7】
前記カップ部材と前記軸部材の端部を溶接前に300℃〜650℃に予熱することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項8】
前記溶融溶接した部位の硬度がHv200〜500であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の等速自在継手の外側継手部材の溶接方法。
【請求項9】
トルク伝達要素が係合するトラック溝を内周に形成したカップ部と、該カップ部の底部に形成された軸部とを2つ以上の別部材で構成し、前記カップ部を形成するカップ部材と前記軸部を形成する軸部材とを溶接してなる等速自在継手の外側継手部材において、
前記カップ部材と前記軸部材は、その端部を突合せたとき密閉された中空空洞部が形成される形状を備えており、突合せた前記端部が溶融溶接されていることを特徴とする等速自在継手の外側継手部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−100859(P2013−100859A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244508(P2011−244508)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】