説明

管体の残留応力改善方法

【課題】施工条件の管理範囲を規定して、管体の設置状態、構成状態に依らず、確実に残留応力を改善できる管体の残留応力改善方法及び装置を提供する。
【解決手段】円筒状の配管2の溶接部分Cの外周面に局所的にレーザ光5aを照射し、照射領域Sを周方向に移動することにより、配管2の残留応力を改善する際、施工対象の配管2に複数の熱電対9を設置し、レーザ光5aの照射による配管2の外面の温度履歴を測定して、温度履歴を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等の管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、大型プラント等において、大型の配管等の管体を設置する場合、溶接した際に配管に残留する引張応力が問題となる。溶接が行われると配管内面には引張残留応力が発生し、その引張残留応力によって配管の寿命が短くなるおそれがあるため、溶接によって発生した残留応力は、圧縮応力まで改善することが望ましい。
【0003】
配管に残留する引張応力の改善方法として、高周波加熱残留応力改善法(Induction Heating Stress Improvement Process;以降、IHSI法と呼ぶ。)が提案されている。このIHSI法は、配管の応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking;以降、SCCと呼ぶ。)条件を満たしている部分近傍の厚み方向に温度勾配ができるように、管内面を流水により強制冷却しながら外面側から高周波誘導加熱コイルを利用して誘導加熱で昇温した後、加熱を停止し、配管の厚み方向が略均一な温度となるまで内面に水を流すことで冷却し続け、結果として、溶接部近傍の引張状態の残留応力を低減又は圧縮状態にするものである(特許文献1〜3)。
【0004】
又、配管に残留する引張応力の改善方法として、レーザ照射を用いて、ステンレス鋼等の配管の表面を溶体化温度加熱あるいは溶融することにより、裏面の残留応力を低減する方法や、レーザを回転移動しながら配管外面に線状に照射し、加熱することにより、残留応力を低減する方法も提案されている(特許文献4〜8)。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−70095号公報
【特許文献2】特開2001−150178号公報
【特許文献3】特開平10−272586号公報
【特許文献4】特開2003−004890号公報
【特許文献5】特開平8−5773号公報
【特許文献6】特開2000−2547763号公報
【特許文献7】特開2004−130314号公報
【特許文献8】特開2005−232586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
IHSI法においては、加熱終了時に管外周面と管内周面との間には一定以上の温度差が必要である。このため、既に据え付けられ、内部を水流による冷却が可能な配管に対しては実施しやすいが、管内部に流水状態を確保できない管体に対しては実施が困難である。又、IHSI法は、管の厚み方向に温度勾配をつけるために高周波誘導加熱を行うものであるが、高周波誘導コイルによる加熱の場合、管体の材質(誘電率)によって、熱が伝わる深さ及び範囲が異なり、その加熱範囲の限定が難しい。又、装置も大掛かりでエネルギー消費量も大きく、更に、異材継手等、誘電率が異なる部材が混じっている場合には、厚み方向に一定の温度勾配をつけるのが難しい。
【0007】
又、レーザ照射を用いて、ステンレス鋼等の配管の表面を溶体化温度加熱あるいは溶融することにより、裏面の残留応力を低減する方法おいては、加熱しすぎたり、加熱が不足したりする可能性がある。加熱しすぎた場合、加熱領域の近傍に鋭敏化温度に晒される領域が発生し、材料自体に悪影響を与える。又、加熱面に酸化スケールが形成され、スケールを除去する必要が生じ、原子力発電所内での施工では、被ばくが増加するおそれがある。又、加熱不足の場合には、残留応力を十分改善することができず、SCCを確実に防止できないおそれもある。加えて、ステンレス鋼と低合金鋼のように異種材料が存在する場合には、ステンレス鋼の材質改善(脱鋭敏化温度:1050℃以上)では低合金鋼の材質に悪影響(焼入れによる硬化、靭性低下)が発生するため、異材継手には適用できないという問題点がある。
【0008】
又、レーザ照射を用い、回転移動しながらレーザを配管外面に線状に照射して加熱することにより、残留応力を低減する方法においては、加熱領域を制限するため、軸方向加熱幅に制限を設けている。しかしながら、確実に圧縮残留応力を得るためには、軸方向加熱幅だけではなく、周方向加熱幅、移動速度にも制限を設ける必要があり、加えて、周方向加熱幅等をどのように設定するか明確に規定しないと、施工する際に、どのような施工条件を用いて施工するか管理できないという問題点があった。特に、施工対象の径、板厚、材質等が異なる場合には、施工条件を変更する必要があり、所望の応力改善効果を得るために、施工条件を最適な範囲に管理する必要があった。又、ステンレス鋼と低合金鋼のように異種材料が存在する場合の施工については、その施工条件について、全く決められていなかった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、施工条件の管理範囲を規定して、管体の設置状態、構成状態に依らず、確実に残留応力を改善できる管体の残留応力改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第1の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
円筒状の管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射し、照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
施工対象の管体に複数の温度計を設置し、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、温度履歴を管理することを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第2の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
円筒状の管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射し、照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
施工対象の管体に複数の温度計を設置し、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を管理することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第3の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
円筒状の管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射し、照射領域を周方向に回転することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
予め、施工対象の管体と同一条件の管体に複数の温度計を設置し、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を求めておき、
施工対象の管体にレーザ光を照射する際、施工条件として、前記最高到達温度、前記昇温時間、前記軸方向加熱幅及び前記周方向加熱幅を管理することを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第4の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第1〜第3の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記昇温時間をτ、管体の熱拡散率をk、管体の板厚をhとして、無次元化時間F=(τ×k)/h2を求め、
前記昇温時間として、前記無次元化時間Fを管理することを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第5の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第4の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記無次元化時間Fを、上限と下限で管理することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第6の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第1〜第5の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記周方向加熱幅をW、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、周方向の無次元化距離G=W/√(rh)を求め、
前記周方向加熱幅として、前記無次元化距離Gを管理することを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第7の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第6の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第8の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第1〜第7の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記軸方向加熱幅をL、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、軸方向の無次元化距離J=L/√(rh)を求め、
前記軸方向加熱幅として、前記無次元化距離Jを管理することを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第9の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第8の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記無次元化距離Jを、3.0以上に管理することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第10の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第1〜第9の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記最高到達温度を、
オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
ニッケルクロム鉄合金の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
低合金鋼あるいは炭素鋼の場合は、500℃以上、且つ、595℃未満に管理することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第11の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第1〜第10の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記レーザ光の周方向の移動速度をv、管体の板厚をhとして、
積(v×h)を、70mm2/秒以上に管理することを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第12の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第4の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化時間Fの下限を管理することを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決する第13の発明に係る管体の残留応力改善方法は、
上記第6の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決する第14の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
円筒状の管体の外周を周回移動すると共に周方向移動速度を制御可能な回転駆動手段と、
前記回転駆動手段に保持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射すると共に照射領域を調整可能な光学ヘッドと、
前記回転移動手段及び前記光学ヘッドを制御する制御手段とを有し、
前記レーザ光の照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善装置において、
施工対象の管体に複数の温度計が設置され、
前記制御手段は、
レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を前記複数の温度計により測定して、温度履歴を管理することを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決する第15の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
円筒状の管体の外周を周回移動すると共に周方向移動速度を制御可能な回転駆動手段と、
前記回転駆動手段に保持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射すると共に照射領域を調整可能な光学ヘッドと、
前記回転移動手段及び前記光学ヘッドを制御する制御手段とを有し、
前記レーザ光の照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善装置において、
施工対象の管体に複数の温度計が設置され、
前記制御手段は、
レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を前記複数の温度計により測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を管理することを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決する第16の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
円筒状の管体の外周を周回移動すると共に周方向移動速度を制御可能な回転駆動手段と、
前記回転駆動手段に保持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射すると共に照射領域を調整可能な光学ヘッドと、
前記回転移動手段及び前記光学ヘッドを制御する制御手段とを有し、
前記レーザ光の照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
予め、施工対象の管体と同一条件の管体に設置した複数の温度計から、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を求めておき、
施工対象の管体にレーザ光を照射する際、施工条件として、前記最高到達温度、前記昇温時間、前記軸方向加熱幅及び前記周方向加熱幅を管理することを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決する第17の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第14〜第16の発明に係る管体の残留応力改善方法において、
前記制御手段は、
前記昇温時間をτ、管体の熱拡散率をk、管体の板厚をhとして、無次元化時間F=(τ×k)/h2を求め、
前記昇温時間として、前記無次元化時間Fを管理することを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決する第18の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第17の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記無次元化時間Fを、上限と下限で管理することを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決する第19の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第14〜第18の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記周方向加熱幅をW、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、周方向の無次元化距離G=W/√(rh)を求め、
前記周方向加熱幅として、前記無次元化距離Gを管理することを特徴とする。
【0029】
上記課題を解決する第20の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第19の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする。
【0030】
上記課題を解決する第21の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第14〜第20の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記軸方向加熱幅をL、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、軸方向の無次元化距離J=L/√(rh)を求め、
前記軸方向加熱幅として、前記無次元化距離Jを管理することを特徴とする。
【0031】
上記課題を解決する第22の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第21の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記無次元化距離Jを、3.0以上に管理することを特徴とする。
【0032】
上記課題を解決する第23の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第14〜第22の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記最高到達温度を、
オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
ニッケルクロム鉄合金の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
低合金鋼あるいは炭素鋼の場合は、500℃以上、且つ、595℃未満に管理することを特徴とする。
【0033】
上記課題を解決する第24の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第14〜第23の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記レーザ光の周方向の移動速度をv、管体の板厚をhとして、
積(v×h)を、70mm2/秒以上に管理することを特徴とする。
【0034】
上記課題を解決する第25の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第17の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化時間Fの下限を管理することを特徴とする。
【0035】
上記課題を解決する第26の発明に係る管体の残留応力改善装置は、
上記第19の発明に係る管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、管体外面に設置した温度計の温度履歴により、施工の品質を確保できるため、用いたレーザ光の入熱密度分布を計測する必要がなく、現場で簡単に施工管理ができる。又、温度を直接計測して管理することができるので、応力改善効果の品質を確保できる。
【0037】
又、管体内面を強制冷却しながらレーザ加熱を行う場合には、昇温時間、周方向加熱幅等の管理範囲が広くなり、より簡単に施工管理ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明に係る管体の残留応力改善方法及び残留応力改善装置を、図1〜図18を用いて、詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
<装置構成>
図1(a)は、本発明に係る管体の残留応力改善装置を示す模式図である。
図1(a)に示すように、残留応力改善装置1は、円筒状の管体である配管2の外周を周回移動可能に配置され、周方向の移動速度vを制御可能な回転駆動装置3(回転駆動手段)と、回転駆動装置3に支持されると共に配管2の軸方向に延設され、配管2の周囲を配管2と同軸に周回可能なアーム部4と、アーム部4に保持され、配管2の外周面の所定領域にレーザ光5aを照射する光学ヘッド5と、光ファイバ6により光学ヘッド5と接続され、光ファイバ6を介してレーザ光を光学ヘッド5に供給するレーザ発振器7と、回転駆動装置3、レーザ発振器7等を制御する制御装置8とを有するものである。なお、加熱範囲により、複数のレーザ発振器と光学ヘッドを回転駆動装置のアームに設置する場合もある。
【0040】
回転駆動装置3は、配管2の外周に脱着可能なものであり、残留応力を改善したい箇所例えば、溶接部C等の周囲に自由に設置可能である。なお、回転駆動装置3は、その内周側が配管2を保持し、アーム部4を支持する外周側が周回可能であればどのような構成でもよく、例えば、内周側において、配管2を保持する固定側となる固定部と、外周側において、アーム部4を支持すると共に配管2の周囲を配管2と同軸に周回する周回側となる周回部とを有するような構成でもよい。
【0041】
光学ヘッド5、光ファイバ6、レーザ発振器7は、加熱光学系を構成しており、アーム部4に取り付けられた光学ヘッド5により、レーザ光5aを配管2の外周面の所定領域に照射し、所定領域を均一に加熱するようにしている。光学ヘッド5においては、光学ヘッド5自体、若しくは、光学ヘッド5を構成するレンズ、ミラー等を、例えば、それらの位置を変更可能なスライド機構に取り付け、それらの位置変更を行うことで、軸方向照射幅L、周方向照射幅Wを調整して、加熱する照射領域Sを調整している(図1(b)参照)。又、軸方向照射幅Lを拡げたい場合には、配管2の軸方向に沿って複数の光学ヘッド5をアーム部4に取り付け、レーザ発振器7から複数の光ファイバ6を接続して、レーザ光を供給するようにしてもよい。
【0042】
そして、施工の際には、本発明に係る残留応力改善装置1において、予め、光学ヘッド5の調整により加熱領域を調整し、制御装置8により、レーザ発振器7の出力を制御すると共に回転駆動装置3を所定の移動速度に制御して周回移動させることで、光学ヘッド5から照射されるレーザ光5aが、配管2の外周を周回移動しながら配管2の外周面の所定領域に照射され、配管2の外周面の所定領域が加熱されることになる。このとき、加熱時に発生する配管2の内外面温度差を利用し、内面を引張降伏させることにより、冷却後の内面の残留応力を低減若しくは圧縮応力に改善している。周回数としては、1回の周回でもよいが、複数の周回としてもよく、複数の周回の場合は、始終端の位置を変更するようにしてもよい。又、加熱温度としては、固溶化温度未満とすることが好ましい。なお、本実施例及び後述する実施例2は、空冷モード、即ち、内面が気相あるいは施工前に水が内面に充満している場合を前提としているが、後述する実施例3は、水冷モード、即ち、水が内面に常に充満している場合を前提としている。
【0043】
<施工条件>
施工条件について説明する前に、まず、本発明に係る管体の残留応力改善方法の原理を簡単に説明する。
【0044】
配管2の溶接部C近傍の所定領域の残留応力を改善する場合、本発明においては、配管2の外周面をレーザ光で加熱して、配管2の外面と内面との間に所定の温度差が生じるように加熱する。このような加熱を行うと、外面は圧縮応力状態、内面は引張応力状態、更には、内面は引張降伏状態になる。加熱後、上記所定領域の内面及び外面の温度差が無くなり、常温付近まで温度が低下すると、外面が引張応力状態になり、内面が圧縮応力状態になり、降伏応力により内面の残留応力を引張応力状態から圧縮応力状態に改善することが可能となる。このとき、加熱時に発生させる応力の大きさ(ひずみ量)は、少なくとも降伏応力相当以上のひずみ量となるように、レーザ加熱時の条件を設定することが望ましい。このようにして、配管2の内面に生じている残留応力を引張状態から圧縮状態に改善することができ、その結果、管体内面の応力腐食割れを防ぐことが可能となる。
【0045】
このように、配管2の外周面(溶接部C近傍)をレーザ加熱して、所望のひずみ量を得るためには、軸方向照射幅L、周方向照射幅W等を適切な範囲に制御する必要がある。そして、これらの条件は、配管2の形状(具体的には、配管2の径、板厚)、更には、配管2の材料、設置環境等に左右されるため、個々の状態に応じて、これらの施工条件を変更する必要がある。ところが、従来は、軸方向照射幅L、周方向照射幅W等について、明確な規定が無く、所望のひずみ量を得るための施工条件の管理も容易でなかった。
【0046】
そこで、本発明者等は、配管2の形状等に左右されること無く、最適な施工条件を管理することができないか検討してみた。
具体的には、以下に示す4種類の配管形状(材料はSUS304で同一)を対象に弾塑性解析を実施し、施工後の残留応力を比較することにより、応力改善効果に対する配管の径、板厚の影響を評価してみた。配管形状としては、配管外径D、配管板厚h、平均半径rが各々以下の表1のように異なるものを用いた(図1(b)参照)。なお、異なる配管形状では溶接による残留応力が異なるので、ここでは、配管の径、板厚の影響を明確にするため、配管の初期応力のない素管を対象とした。又、表1中の14B管−Aは、板厚の影響を把握するために評価したものである。
【0047】
【表1】

【0048】
又、各配管形状に対する施工条件としては、各条件を無次元化して管理できることを目標に、以下のように設定した。なお、以下の施工条件において、配管2の外面の温度が100℃を越え、最高到達温度Tmaxに到達するまでの昇温時間をτo(秒)とし、配管2の熱拡散率をk(mm2/秒)とし、レーザ光源の移動速度をv(mm/秒)と規定している。
【0049】
(a)昇温時間は、以下の式(1)により規定される昇温時間パラメータFoで整理できると仮定し、昇温時間パラメータFoを0.08とした。
Fo=τo×k/h2 式(1)
(b)周方向加熱幅Wは、√(rh)で整理できると仮定し、1.7√(rh)とした。なお、周方向加熱幅Wは、最高到達温度まで加熱するのに有効な幅であり、他のパラメータとは、以下の式(2)に示す関係を有する。
W=τo×v 式(2)
(c)軸方向加熱幅Lも、√(rh)で整理できると仮定し、3.0√(rh)とした。なお、軸方向加熱幅は、外面が所定温度に加熱されている領域の軸方向長さである(図7(b)参照)。
(d)移動速度vは、式(1)、式(2)から求められる式(3)から求めた。
v=(W×k)/(Fo×h2) 式(3)
式(3)において、周方向加熱幅Wは1.7√(rh)で定数、熱拡散率kも定数、昇温時間パラメータFoは0.08、板厚hも定数なので、速度vが定まる。
そして、上記条件を用い、1周目は0°を始終端とし、360°まで、2周目は180°を始終端とする2周施工を行った。なお、各配管形状に対する施工条件を整理したものが表2である。
【0050】
上記施工条件において、昇温時間パラメータFoは、無次元時間を示すものであり、この無次元時間は、熱伝導による温度の非定常状態での時間的拡散を示す無次元量である。本発明においては、板厚内に適正な温度分布を得ることが必要であり、そのためには、非定常状態での板厚内の温度分布(時間的拡散)が重要である。従って、このような観点から、昇温時間として、昇温時間パラメータFoを用いてみた。
【0051】
又、周方向加熱幅Wを√(rh)で整理したパラメータ、即ち、後述する周方向加熱幅パラメータG=W/√(rh)は、無次元化距離を示すものである。本発明においては、レーザ光による局部加熱により発生する熱変形の影響を考慮する必要がある。つまり、レーザ光による局部加熱を行った場合、加熱部は熱膨張により外面凸の曲げ変形(外径が大きくなるような変形)が生じ、常温部が変形を拘束している状態が生じる。この状態を局部的に内圧pが負荷されている管と置き換えれば、境界部には曲げモーメントMとせん断力Qが発生しており、rを平均半径、hを板厚、Eをヤング率、νをポアソン比、xを境界からの距離とすると、管のたわみ量δは以下の式(4)で示される。
【0052】
【数1】

【0053】
式(4)からわかるように、たわみ量δは[β×x]の関数となる。又、[β×x]は以下の式(5)のように、√(rh)で表現できるので、熱膨張による変形を√(rh)で相似的に表現することが可能である。従って、このような観点から、周方向幅を無次元化するため、周方向加熱幅Wを√(rh)で整理した周方向加熱幅パラメータGを用いてみた。
β×x≒1.3x/√(rh) 式(5)
但し、ν=0.3とする。
【0054】
【表2】

【0055】
上記施工条件における伝熱解析結果として、施工1周目の180度位置での外面温度が最大となる時点の板厚方向の温度分布を、管形状毎に求めて比較したものを図2に示す。なお、横軸は板厚を内面からの距離で除して無次元化した「無次元化距離」であり、縦軸は180度位置での温度である。図2から明らかなように、4種類の配管の板厚方向温度分布は良く一致している。
【0056】
又、上記施工条件における伝熱解析結果として、施工1周目の180度位置での内面及び外面温度の時間履歴を図3(a)、(b)に示す。横軸は時間に定数を乗じて板厚の2乗で除して無次元化した「無次元化時間」であり、縦軸は180度位置の温度履歴である。又、最高到達温度を無次元時間の原点とした。図3(a)、(b)から明らかなように、4種類の配管の温度履歴は、ほぼ一致している
【0057】
又、図4(a)、(b)に、板厚方向距離を板厚で除した無次元化距離で整理した90°位置での周方向応力と軸方向方応力の分布を示す。図4(a)、(b)からわかるように、4種類の配管の板厚方向応力分布は、ほぼ一致している。これは、他の位置、例えば、0°、180°、270°位置での周方向応力と軸方向方応力の分布でも同じ傾向であった。
【0058】
又、図5(a)、(b)及び図6(a)、(b)に、中央(対称面)からの軸方向距離を√(rh)で除した無次元化距離で整理した内外面の周方向応力と軸方向応力の分布を示す。図5(a)、(b)及び図6(a)、(b)からは、無次元化距離に対して、4種類の配管の軸方向及び周方向の内外面の応力分布が、ほぼ一致することがわかる。
【0059】
以上の結果から、「無次元化時間」と「無次元化距離」を用いて外面の温度分布を整理すると、4種類の配管形状の温度分布はほぼ等しいことがわかった。又、「無次元化距離」を用いて応力分布を整理すると、4種類の配管形状の応力分布も、ほぼ等しいことがわかった。つまり、「無次元化時間」及び「無次元化距離」を用いて施工条件を設定することにより、配管形状が異なった場合においても相似則が成り立ち、昇温時間、周方向加熱幅、軸方向加熱幅を、上述したような無次元化した時間と長さで管理すれば、最適な施工条件をより容易に管理可能であり、配管形状によらず同等の残留応力改善効果が得られることがわかる。
【0060】
そして、上記施工条件は、管外面に設置した温度計の温度履歴を用いることにより求めることができる。つまり、管外面に設置した温度計の温度履歴を管理すれば、上記施工条件を管理できることになる。
【0061】
具体的には、配管の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射し、照射領域を周方向に回転する際、配管外面に設置した温度計により、昇温時間τo、最高到達温度Tmax及び軸方向加熱幅Lを、温度履歴として実測しておけばよい。そこで、昇温時間τo、最高到達温度Tmax及び軸方向加熱幅Lを実測する手順を説明する。
【0062】
施工対象の配管の外面において、照射領域Sが通過する範囲に複数の熱電対9を設置する。又は、予め、施工対象の配管と同じ条件(同一径、同一板厚、同一材料)の配管を用意しておき、この配管の外面において、照射領域Sが通過する範囲に複数の熱電対9を設置しておくようにしてもよい。設置する熱電対9は、照射領域の中心が通過する位置に1つと、その位置と同一の軸方向上であり、照射領域の両端部の位置に2つと、少なくとも合計3つ以上必要であり、望ましくは、これらの3つ以上の熱電対を1セットとして、配管2の周方向に複数セット配置する(図1(b)参照)。そして、配管2の溶接部C近傍の外周面に局所的にレーザ光を照射すると共に、照射領域Sを周方向に回転して、配管2の外面に設置した熱電対9の温度変化を計測し、その計測履歴を用いることにより、昇温時間τo及び最高到達温度Tmaxを求めている。
【0063】
より詳しくは、図7(a)に示すように、配管2の外面に設置した熱電対9の温度が到達した最高の温度を、最高到達温度Tmaxとして測定すると共に、熱電対9の温度が100℃を越えた時点から最高到達温度Tmaxに到達するまでの時点を、昇温時間τoとして測定している。又、図7(b)に示すように、配管2の外面の軸方向に複数設置した熱電対9の最高到達温度Tmaxが所定の温度範囲となる領域を、軸方向加熱幅Lとしている。更に、周方向加熱幅Wは、昇温時間τoと光学ヘッド5の移動速度vの積(τo×v)により求められる。なお、最高到達温度Tmaxは、後述するように、配管2の材料により、適切な温度範囲が規定され、又、この温度範囲が、軸方向加熱幅Lを規定する際の温度範囲として用いられる。例えば、SUS304の場合、550℃≦Tmax<650℃が望ましい。
【0064】
このようにして求めた昇温時間τo、最高到達温度Tmax、軸方向加熱幅L及び周方向加熱幅Wを用いることにより、配管2の径、板厚に左右されず、上述した施工条件が管理できることになる。
【0065】
このように、配管外面に設置した温度計の温度履歴により、昇温時間τ0及び最高到達温度Tmax、軸方向加熱幅Lを実測するので、施工の品質を確保でき、用いたレーザ光の入熱密度分布を計測する必要はなく、現場で簡単に施工管理を行うことができる。又、温度を直接計測することができるので、応力改善効果の品質を確保できる。
【0066】
又、例えば、実際の施工前に、上記温度履歴を確認することにより、所望の応力改善を確実に実施することができ、施工管理としては非常に有効である。特に、加熱温度が低くなってしまった場合には、再度やり直すことが可能であるが、加熱温度が高くなってしまった場合には、加熱領域が鋭敏化温度に晒されてしまい、材料自体に悪影響を与えてしまう。これに対して、本発明の応力改善方法では、温度履歴を確認して、上記施工条件を管理することにより、いずれの場合も防止することができ、所望の応力改善を確実に実施することができる。
【0067】
<管理範囲>
更に、本発明者等は、上述した各施工条件において、残留応力を改善するために望ましい管理範囲を規定してみた。ここでは、4B管は外径114.3×板厚13.5mm、2B管は外径60.5×板厚8.7mm、14B管は外径355.6×板厚35.7mmである。
【0068】
(1)昇温時間パラメータFo
昇温時間τoを管理する無次元数(昇温時間パラメータFo)の最適な範囲を求めるため、表1に示した異なる配管形状に対して、昇温時間パラメータFoとレーザ照射により内面に発生する熱応力との関係を熱弾性解析により検証してみた(図8参照)。外面の温度が100℃を越え、最高到達温度Tmaxに到達するまでの昇温時間をτo(秒)とした。
【0069】
ここでは、図1に示した装置を用い、昇温時間パラメータFo以外のパラメータ(最高到達温度Tmax=555℃、軸方向加熱幅L=3×√(rh)、周方向加熱幅W=2×√(rh))は同一条件として、昇温時間パラメータFoと内面に発生する熱応力の関係を求めている。
【0070】
図8に示す結果からは、昇温時間パラメータFoが同じ(最高到達温度Tmax、軸方向加熱幅L、周方向加熱幅Wも同じ)であれば、管形状が異なっても、内面に発生する熱応力が一致することがわかる。このことは、残留応力改善効果も同じであることを示している。
【0071】
従って、昇温時間τoを無次元化数である昇温時間パラメータFoで管理することにより、板厚や材質が異なった対象物に対しても同じFoの範囲で管理することができる。例えば、昇温時間パラメータFoは、軸方向の熱応力がステンレス鋼の降伏応力の2倍(500MPa)以上となる0.04以上、0.08以下が望ましい。
【0072】
なお、Foが小さい場合(昇温時間が短い場合)、外面のみが加熱され、外面に大きな圧縮応力と内面に小さな引張応力が発生する。一方、Foが大きい場合(昇温時間が長い場合)、板厚内に大きな温度差が生じないため、内面に大きな引張応力が発生しない。故に、Foには適正な範囲(上限と下限)が必要である。
【0073】
(2)周方向加熱幅W
又、周方向加熱幅Wを管理する無次元数(周方向加熱幅パラメータG=W/√(rh))の最適な範囲を求めるため、表1に示した異なる配管形状に対して、周方向加熱幅パラメータG=W/√(rh)とレーザ照射により内面に発生する熱応力の熱弾性解析結果との関係を調べてみた(図9参照)。
【0074】
ここでも、図1に示した装置を用い、周方向加熱幅パラメータG以外のパラメータ(昇温時間パラメータFo=0.06、最高到達温度Tmax=555℃、軸方向加熱幅L=3×√(rh))は同一条件として、周方向加熱幅パラメータGと熱応力の関係を求めている。
【0075】
図9に示す結果からは、周方向加熱幅パラメータGが同じ(昇温時間パラメータFo、最高到達温度Tmax、軸方向加熱幅Lも同じ)であれば、管形状が異なっても、内面に発生する熱応力が一致することがわかる。このことは、残留応力改善効果も同じであることを示している。
【0076】
従って、周方向加熱幅Wを√(rh)で無次元化した周方向加熱幅パラメータGで管理することにより、異なった形状の管に対しても同じパラメータの範囲で管理することができる。図9に示すように周方向加熱幅パラメータGが大きくなれば、熱応力が増加するので、周方向加熱幅パラメータGの下限を管理すればよい。例えば、周方向加熱幅パラメータGは、軸方向の熱応力が500Mpa以上となる1.7以上が望ましい。
【0077】
(3)軸方向加熱幅L
又、軸方向加熱幅Lを管理する無次元数(軸方向加熱幅パラメータJ=L/√(rh))の最適な範囲を求めるため、表1に示した異なる配管形状に対して、軸方向加熱幅パラメータJ=L/√(rh)とレーザ照射により内面に発生する熱応力の熱弾性解析結果との関係を調べてみた(図10参照)。
【0078】
ここでも、図1に示した装置を用い、軸方向加熱幅パラメータJ以外のパラメータ(昇温時間パラメータFo=0.06、最高到達温度Tmax=555℃、周方向加熱幅W=2×√(rh))は同一条件として、軸方向加熱幅パラメータJと熱応力の関係を求めている。
【0079】
図10に示す結果からは、軸方向加熱幅パラメータJが同じ(昇温時間パラメータFo、最高到達温度Tmax、周方向加熱幅Wも同じ)であれば、管形状が異なっても、内面に発生する熱応力が一致することがわかる。このことは、本発明で規定する管理条件が同じであれば、残留応力改善効果も同じであることを示している。
【0080】
従って、軸方向加熱幅Lを√(rh)で無次元化した軸方向加熱幅パラメータJで管理することにより、異なった形状の管に対しても同じパラメータの範囲で管理することができる。図10に示すように軸方向加熱幅パラメータJが大きくなれば、熱応力が増加するので、軸方向加熱幅パラメータJの下限を管理すればよい。例えば、軸方向加熱幅パラメータJは、軸方向の熱応力が500Mpa以上となる3.0以上が望ましい。
【0081】
(4)最高到達温度Tmax
又、最高到達温度Tmaxについては、その管理範囲を規定するため、表1に示した配管形状(4B管)において、レーザ照射により内面に発生する熱応力の熱弾性解析結果を最高到達温度Tmaxとの関係から調べてみた(図11参照)。
【0082】
ここでも、図1に示した装置を用い、最高到達温度Tmax以外のパラメータ(昇温時間パラメータFo=0.06、周方向加熱幅W=2×√(rh)、軸方向加熱幅パラメータL=3×√(rh))は同一条件として、最高到達温度Tmaxと熱応力の関係を求めている。
【0083】
図11に示す結果からは、昇温時間パラメータFo、最高到達温度Tmax、周方向加熱幅W、軸方向加熱幅Lが同じであれば、最高到達温度Tmaxが高いほど、内面に発生する熱応力が増加する。このことは、本発明で規定する管理条件が同じであれば、残留応力改善効果も同じであることを示している。
【0084】
従って、最高到達温度Tmaxを管理することにより、異なった形状の管に対しても同じパラメータの範囲で管理することができる。図11に示すようにTmaxが大きくなれば、熱応力が増加するので、Tmaxの下限を管理すればよい。しかしながら、Tmaxが高くなれば前述したように材質に悪影響を与える可能性があるため、Tmaxには上限が存在する。例えば、最高到達温度Tmaxは、オーステナイト系ステンレス鋼の場合、軸方向の熱応力が500Mpa以上となる550℃≦Tmax<650℃が望ましい。
【0085】
他の材料、例えば、ニッケルクロム鉄合金、低合金鋼、炭素鋼についても同様に調べた結果、ニッケルクロム鉄合金の場合は、550℃≦Tmax<650℃、低合金鋼あるいは炭素鋼の場合は、500℃≦Tmax<595℃が望ましい範囲であった。
【0086】
これは、最高到達温度Tmaxの上限を規定することにより、材料への悪影響(ステンレス鋼では鋭敏化、低合金鋼では焼入れによる硬化や靭性低下)を防止するためであり、又、最高到達温度Tmaxの下限を決めることにより、内外面の温度差を確実に付けるためである。
【0087】
このように、最高到達温度Tmaxの上限及び下限を材質毎に規定することにより、材料への悪影響を防止すると共に、内外面の温度差を確実に付けることができ、残留応力改善効果を確実に得ることができる。
【0088】
なお、詳細は実施例2において説明を行うが、最高到達温度が異なる異材継手でも残留応力改善できることを確認している。
【0089】
(5)移動速度v
又、移動速度vについては、その管理範囲を規定するため、表1に示した配管形状(4B管)において、レーザ照射により発生する内面と外面の温度差ΔTを移動速度vと板厚hの積(v×h)との関係から調べてみた(図12参照)。
【0090】
ここでも、図1に示した装置を用い、v×h以外のパラメータ(昇温時間パラメータFo=0.08、周方向加熱幅W=2×√(rh)、軸方向加熱幅パラメータL=3×√(rh)、最高到達温度Tmax=555℃)は同一条件として、v×hと温度差ΔTの関係を求めている。
【0091】
図12に示す結果からは、昇温時間パラメータFo、最高到達温度Tmax、周方向加熱幅W、軸方向加熱幅Lが同じであれば、v×hが大きい場合には、つまり、移動速度vが早い場合には、所望の温度差ΔTを得ることができるが、v×hが低い場合には、つまり、移動速度vが遅い場合には、内面と外面の温度差ΔTが低下することがわかる。
【0092】
従って、移動速度vについては、v×hを管理することにより、異なった形状の管に対しても同じパラメータの範囲で管理することができる。又、v×hは、内面と外面の温度差ΔTが飽和する70mm2/s以上が望ましい。
【0093】
これは、Foが一定でも、速度vが極端に遅い場合、熱源から進行方向前方に熱が伝わるため、板厚内の温度差が小さくなる。このため、vhには下限が存在する。
【0094】
このように、v×hの下限を規定することにより、内外面の温度差ΔTを確実に得ることができ、残留応力改善効果を確実に得ることができる。
【実施例2】
【0095】
次に、異材材料の溶接に対して、上記施工条件による残留応力改善効果を検証した。
具体的には、ステンンレス鋼(SUS316)と低合金鋼の異材継手(溶接金属はニッケルクロム鉄合金)において、上記施工条件における残留応力分布について検証した。
【0096】
対象は外径133mm×板厚22mmの配管とした(図13(a)参照)。この配管で要求される残留応力改善領域を図13(b)に示す。これは、ニッケルクロム鉄合金溶接金属とステンレス鋼の熱影響部(HAZ)である。なお、ここでも、異材の影響を明確にするため、配管の初期応力のない素管を対象とした。
【0097】
本実施例では、残留応力改善対象であるニッケルクロム鉄合金溶接金属を対象に、表3の施工条件を設定した。本発明では、レーザ熱源が同じ速度で移動するため、物性値の異なる異材継手ではすべての場所で同じ温度分布(昇温時間パラメータFo)を得ることができない。そこで、残留応力改善対象であるニッケルクロム鉄合金で上記規定の施工条件の範囲を満たすように施工条件を決めた。なお、表3の施工条件において、昇温時間パラメータFoと周方向加熱幅Wは溶接金属中央で評価した。
【0098】
ステンンレス鋼は、ニッケルクロム鉄合金と物性値の差が10%程度と小さいが、ニッケルクロム鉄合金と同じ熱源形状を与えた。
【0099】
又、低合金鋼は、最高温度を規定し、入熱量をニッケルクロム鉄合金とほぼ同じになるように、熱源形状を設定した。低合金鋼では熱拡散率k(≒11mm2/s)が大きいため、熱源の周方向照射幅Wを狭くする必要があり、周方向加熱幅Wはニッケルクロム鉄合金の約0.65倍、昇温時間パラメータFoは約1.8倍となった。なお、低合金鋼側は応力改善範囲でないため、局部加熱による変形を防止する観点で加熱すれば良く、昇温時間パラメータFo及び周方向加熱幅Wを規定範囲にする必要はない。
【0100】
【表3】

【0101】
上記施工条件においては、外面が最高温度に達した時点では、内面の温度は低く、板厚内に温度差が生じており、外面に圧縮応力が、内面に引張応力が発生しており、ステンレス鋼管と同じ応力分布となることを確認している。
【0102】
図14(a)、(b)に、施工後(2周終了後)の残留応力分布を示す。図14(a)、(b)に示すように、ニッケルクロム鉄合金溶接金属及びステンレス鋼(SUS316)の内面は全周で圧縮応力となっていることがわかる。
【実施例3】
【0103】
上記実施例1、2は、空冷モード(内面が気相の場合、あるいは、施工前に水が内面に充満している場合)における残留応力改善効果について検証してきたが、次に、水冷モード(常に水が内面に充満している場合)における残留応力改善効果について検証した。
【0104】
図15に示すように、水冷モードにおいては、Foが大きくなっても、内面の温度は水の沸点(100℃)以上に上昇しないため、レーザをゆっくり移動させても、内面と外面に大きな温度差を得ることができることがわかる。
【0105】
ここで、水冷モードにおいて、熱応力と昇温時間パラメータFo及び周方向加熱幅Wとの関係を熱弾性解析で調べてみた。
【0106】
図16(a)に示すグラフは、図1に示した装置を用い、昇温時間パラメータFo以外のパラメータ(最高到達温度Tmax=555℃、軸方向加熱幅L=3×√(rh)、周方向加熱幅W=2×√(rh))は同一条件として、昇温時間パラメータFoと熱応力の関係を求めたものである。又、図16(b)に示すグラフは、図1に示した装置を用い、周方向加熱幅パラメータW/√(rh)以外のパラメータ(昇温時間パラメータFo=0.20、最高到達温度Tmax=555℃、軸方向加熱幅L=3×√(rh))は同一条件として、周方向加熱幅Wと熱応力の関係を求めたものである。なお、比較のため、空冷モードの結果も併記している。
【0107】
図16(a)、(b)に示す結果からは、水冷モードでは、空冷モードと同等の熱応力を得ることができる昇温時間パラメータFo及びW/√(rh)の範囲が広いことがわかる。このことは、空冷モードと同等の残留応力改善効果を得ることができる施工条件範囲を、水冷モードでは広くすることができることを意味する。
【0108】
熱弾塑性解析の結果、同じ施工条件(Tmax、Fo、W、L)でも内面に発生する熱応力が水冷モードの方が大きいことがわかった。そこで、代表例として、4Bステンレス鋼管(表4参照)を対象に、昇温時間パラメータFoの影響の小さい下限条件での空冷モードと水冷モードの残留応力改善効果の違いを検討した。なお、空冷モードの周方向加熱幅Wの下限は1.7√(rh)であるが、比較参照のため、1.0√(rh)の解析を実施した。
【0109】
【表4】

【0110】
施工時における板厚方向温度分布は、同一施工条件下では、空冷モードと水冷モードは全く同一であり、図17に示すような分布が得られた。これは、空冷モード・水冷モードともに、昇温時間パラメータFoが0.04と同じであり、内面まで熱が伝わらない時間で外面が最高温度に達していることから、内面の境界条件の影響はなく、両者の板厚内の温度分布には差がない。このことから、空冷モードと水冷モードの応力改善効果の差は、外面がレーザ照射を受け高温になることで発生する板厚内温度分布によるものではないと考えられる。
【0111】
施工後における空冷モードと水冷モードの残留応力の比較を図18(a)、(b)に示す。
図18(a)、(b)からわかるように、空冷モードと水冷モードでは、水冷モードの方が残留応力改善効果は大きい。例えば、同じ周方向加熱幅では水冷モードの方の残留応力改善効果が大きく、又、軸方向応力で空冷モードと同程度の残留応力改善効果を得るためには、水冷モードでは周方向加熱幅を1.7√(rh)から1.0√(rh)に減少させても良いことがわかる。
【0112】
水冷モードと空冷モードの最も大きな違いは、内面の最高到達温度にある。つまり、水冷モードでは、内面の最高到達温度が低いため、温度低下時の逆降伏(圧縮降伏)が起こりにくいと考えられる。例えば、空冷モードでは、板厚内に温度が生じて、引張塑性ひずみを生じた後、板厚内に温度差が無くなった時点(内面の温度が約200℃、降伏応力:198MPa)で圧縮降伏する。これに対して、水冷モードでは、板厚内に温度が生じて、引張塑性ひずみを生じた後、板厚内に温度差が無くなった時点(内面の温度が約100℃、降伏応力:245MPa)では圧縮降伏を起こしていないと考えられる。このことが水冷モードにおいて応力改善効果が大きい理由であると考えられる。
【0113】
以上のことから、水冷モードにおける施工条件の管理範囲は、昇温時間パラメータFoの下限を管理すればよい。その範囲は、0.04以上が望ましい。周方向加熱幅Wは、下限で管理すればよく、1.0×√(rh)以上とすることが望ましい。つまり、空冷モードに対して、水冷モードにおいては、レーザ照射時に配管内面に水が存在(流水や溜水等)しており、常に配管全周を水冷(沸点以下の温度にキープ)できるため、管理範囲を緩和できることになる。
【0114】
上記実施例1、2、3における施工条件の管理範囲を整理すると、表5に示すものとなる。
【0115】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明においては、実施の一例として、円筒状配管を残留応力改善の対象としているが、円筒状配管に限らず、溶接された湾曲部材であれば、どのようなものでも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】(a)は、本発明に係る管体の残留応力改善装置の模式図であり、(b)は、配管の形状と加熱幅、移動速度等について説明する図である。
【図2】温度と板厚の無次元化位置との関係を示すグラフである。
【図3】温度と無次元化時間との関係を示すグラフであり、(a)は、内面の温度、(b)は、外面の温度を示す。
【図4】応力と板厚の無次元化位置との関係を示すグラフであり、(a)は、周方向応力、(b)は、軸方向応力を示す。
【図5】応力と軸方向位置との関係を示すグラフであり、(a)は、内面の周方向応力、(b)は、内面の軸方向応力を示す。
【図6】応力と軸方向位置との関係を示すグラフであり、(a)は、外面の周方向応力、(b)は、外面の軸方向応力を示す。
【図7】(a)は、本発明における昇温時間を説明する図であり、(b)は、本発明における軸方向加熱幅を説明する図である。
【図8】本発明において、昇温時間パラメータと熱応力との関係を示すグラフである。
【図9】本発明において、周方向加熱幅と熱応力との関係を示すグラフである。
【図10】本発明において、軸方向加熱幅と熱応力との関係を示すグラフである。
【図11】本発明において、加熱温度と熱応力との関係を示すグラフである。
【図12】本発明において、外面と内面の温度差と移動速度との関係を示すグラフである。
【図13】(a)は、異材材料を溶接した配管を説明する図であり、(b)は、残留応力改善領域を説明する図である。
【図14】本発明を、異材材料を溶接した配管に適用した場合の軸方向位置の応力のグラフであり、(a)は、周方向応力、(b)は、軸方向応力を示す。
【図15】本発明を、水冷モードで用いた場合において、外面からの距離に対する異なるFoにおける温度分布を示すグラフである。
【図16】(a)は。水冷モードにおける昇温時間パラメータと熱応力との関係を示すグラフであり、(b)は、水冷モードにおける周方向加熱幅と熱応力との関係を示すグラフである。
【図17】空冷モードと水冷モードにおいて、外面からの距離に対する温度分布を比較するグラフである。
【図18】水冷モードにおける応力と軸方向位置との関係を示すグラフであり、(a)は、軸方向応力、(b)は、周方向応力を示す。
【符号の説明】
【0118】
1 残留応力改善装置
2 配管
3 回転駆動装置
4 アーム部
5 光学ヘッド
6 光ファイバ
7 レーザ発振器
8 制御装置
9 熱電対
C 溶接部
D 配管の外径
h 配管の板厚
L 軸方向加熱幅
r 配管の平均半径
S 加熱領域
v 周方向移動速度
W 周方向加熱幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射し、照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
施工対象の管体に複数の温度計を設置し、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、温度履歴を管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項2】
円筒状の管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射し、照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
施工対象の管体に複数の温度計を設置し、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項3】
円筒状の管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射し、照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善方法において、
予め、施工対象の管体と同一条件の管体に複数の温度計を設置し、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を求めておき、
施工対象の管体にレーザ光を照射する際、施工条件として、前記最高到達温度、前記昇温時間、前記軸方向加熱幅及び前記周方向加熱幅を管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の管体の残留応力改善方法において、
前記昇温時間をτ、管体の熱拡散率をk、管体の板厚をhとして、無次元化時間F=(τ×k)/h2を求め、
前記昇温時間として、前記無次元化時間Fを管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項5】
請求項4に記載の管体の残留応力改善方法において、
前記無次元化時間Fを、上限と下限で管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の管体の残留応力改善方法において、
前記周方向加熱幅をW、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、周方向の無次元化距離G=W/√(rh)を求め、
前記周方向加熱幅として、前記無次元化距離Gを管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項7】
請求項6に記載の管体の残留応力改善方法において、
前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の管体の残留応力改善方法において、
前記軸方向加熱幅をL、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、軸方向の無次元化距離J=L/√(rh)を求め、
前記軸方向加熱幅として、前記無次元化距離Jを管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項9】
請求項8に記載の管体の残留応力改善方法において、
前記無次元化距離Jを、3.0以上に管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の管体の残留応力改善方法において、
前記最高到達温度を、
オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
ニッケルクロム鉄合金の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
低合金鋼あるいは炭素鋼の場合は、500℃以上、且つ、595℃未満に管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の管体の残留応力改善方法において、
前記レーザ光の周方向の移動速度をv、管体の板厚をhとして、
積(v×h)を、70mm2/秒以上に管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項12】
請求項4に記載の管体の残留応力改善方法において、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化時間Fの下限を管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項13】
請求項6に記載の管体の残留応力改善方法において、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする管体の残留応力改善方法。
【請求項14】
円筒状の管体の外周を周回移動すると共に周方向移動速度を制御可能な回転駆動手段と、
前記回転駆動手段に保持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射すると共に照射領域を調整可能な光学ヘッドと、
前記回転移動手段及び前記光学ヘッドを制御する制御手段とを有し、
前記レーザ光の照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善装置において、
施工対象の管体に複数の温度計が設置され、
前記制御手段は、
レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を前記複数の温度計により測定して、温度履歴を管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項15】
円筒状の管体の外周を周回移動すると共に周方向移動速度を制御可能な回転駆動手段と、
前記回転駆動手段に保持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射すると共に照射領域を調整可能な光学ヘッドと、
前記回転移動手段及び前記光学ヘッドを制御する制御手段とを有し、
前記レーザ光の照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善装置において、
施工対象の管体に複数の温度計が設置され、
前記制御手段は、
レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を前記複数の温度計により測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項16】
円筒状の管体の外周を周回移動すると共に周方向移動速度を制御可能な回転駆動手段と、
前記回転駆動手段に保持され、前記管体の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射すると共に照射領域を調整可能な光学ヘッドと、
前記回転移動手段及び前記光学ヘッドを制御する制御手段とを有し、
前記レーザ光の照射領域を周方向に移動することにより、管体の残留応力を改善する管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
予め、施工対象の管体と同一条件の管体に設置した複数の温度計から、レーザ光の照射による管体外面の温度履歴を測定して、最高到達温度、前記最高到達温度までの昇温時間、前記最高到達温度に対して所定の温度範囲内となる軸方向加熱幅を求めると共に、前記昇温時間と前記レーザ光の周方向の移動速度の積から周方向加熱幅を求めておき、
施工対象の管体にレーザ光を照射する際、施工条件として、前記最高到達温度、前記昇温時間、前記軸方向加熱幅及び前記周方向加熱幅を管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項17】
請求項14乃至請求項16のいずれかに記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記昇温時間をτ、管体の熱拡散率をk、管体の板厚をhとして、無次元化時間F=(τ×k)/h2を求め、
前記昇温時間として、前記無次元化時間Fを管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項18】
請求項17に記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記無次元化時間Fを、上限と下限で管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項19】
請求項14乃至請求項18のいずれかに記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記周方向加熱幅をW、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、周方向の無次元化距離G=W/√(rh)を求め、
前記周方向加熱幅として、前記無次元化距離Gを管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項20】
請求項19に記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項21】
請求項14乃至請求項20のいずれかに記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記軸方向加熱幅をL、管体の平均半径をr、管体の板厚をhとして、軸方向の無次元化距離J=L/√(rh)を求め、
前記軸方向加熱幅として、前記無次元化距離Jを管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項22】
請求項21に記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記無次元化距離Jを、3.0以上に管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項23】
請求項14乃至請求項22のいずれかに記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記最高到達温度を、
オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
ニッケルクロム鉄合金の場合は、550℃以上、且つ、650℃未満に、
低合金鋼あるいは炭素鋼の場合は、500℃以上、且つ、595℃未満に管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項24】
請求項14乃至請求項23のいずれかに記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記レーザ光の周方向の移動速度をv、管体の板厚をhとして、
積(v×h)を、70mm2/秒以上に管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項25】
請求項17に記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化時間Fの下限を管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。
【請求項26】
請求項19に記載の管体の残留応力改善装置において、
前記制御手段は、
前記管体の内面が水冷される場合には、前記無次元化距離Gの下限を管理することを特徴とする管体の残留応力改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−169444(P2008−169444A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4476(P2007−4476)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(000241957)北海道電力株式会社 (78)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】